鉄鎖の言葉、生者の眼差し/ひだかたけし
診断の後の朝
くもり空の下に
駅へと足早に歩む
ひとひとひと
吹き付ける寒風、
在る者の輪郭を
もはや形造らず
一群れの隊列を
容赦なく凍らせ
吹き抜けていく
改札を潜れば
挿入される鋼鉄
生ぬるい澱みへ
反復スル鉄の響
レールが歯軋りし
肉の押しくら饅頭
揉みくちゃ最中、
目前にする死を
黙然とした眼窩
落ち窪みながら
ギョロリ見渡す
無名の眼光だけ
あの寒風の咆吼
携え包んだ芳香
味わい解き放ち
人生の鉄鎖足枷
ガチャガチャ鳴らし切断し、
思い出も記念も祈念も
風の記憶の奥処へ燃やし尽くす
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