刃物/リリー
 
 冬の石畳みの
 陽だまりを愛しながら
 時計の針で刻めない
 とおい未来から届く昨日を
 思い起こしてみる

 追いもしない記憶に追われもせず
 そこに立ち止まって
 年齢を重ねる自分と真向かえば
 この肉塊に臓腑が腐敗していくほどの
 悔恨を宿していても
 それは誤ちでなく
 背に負う荷の重さでもなく
 ただ 沈黙で、
 伏せる目元の黒い睫毛

 人ごみで肩をすぼめ人間的な素ぶりしながら
 いじ汚く生きている
 ココロに絡まり錆びてきた細い鎖は
 魂の握るサバイバルナイフで断ち切って
 立ちさわぐ寒風になり
 空を渡ろう

 ナイフは研ぎすませるわけでもなく
 次第に悪くなっていく切れ味で、
 ちょうどよいのだ


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