士狼(銀)[獣化] 2005年10月23日8時17分から2008年7月7日0時07分まで ---------------------------- ?а?????????????????????????? ?? ---------------------------- [自由詩]解した眼球に湊でるピアニシモ/士狼(銀)[2005年10月23日8時17分] 豚の目を解(バラ)した 肉付きの眼球が二十個 並んで此方をみている 父にもらった手術用の手袋を嵌めて 一つ 掌に置く 冷たかった どこまでも 質感は在った メスによく似た鋏を 突き立てる 『視神経は残しておくように』 生物教師の声が 無情にも 響く 誰も 静寂に不満は無いのだ ガラス体の感触 盲斑から流れていた血脈 色素体にまみれた 中指の腹 水晶体 一度 触れてみたかった細胞郡(パーツ) 意味が無いことは分かっていた けれど その美しい球体を持ち帰った 水に浸して 腐敗を早めた 三日目の深夜 気付けば崩れ去っていた 潰すと 黄色がかった液体になった つまらなくなって ごみ箱へ フリースローを決めてみた 思い出している 合掌して捨てた左目を バラバラになって 異臭を放つ目を 嬉々として解剖した 十一人と僕 を 瞳はとても綺麗だった 僕は とても醜かった 原形を失った眼球が 夢に出てくるのだ もう二年も 夢なんか覚えていないのに ---------------------------- [自由詩]雀の子/士狼(銀)[2005年11月4日15時41分] 窓には柵が無いので 宵月の真ん中 を見ようとすると バランスが取れなくて 危うい 落ちるまで手を伸ばそうが 届かないから安心 幾夜に渡って一途に見つめても 月は降りてくれないから 代わりに浅い夢を摑む 最近の夕闇を歩いて 空より雲のほう が暗いのだと 気付き始めて一番星は 明るい 電線に引っ掛かってみても 絡まないから不安 雀のように優しくは無い爪先で 星の代わりに深い夜を 食べて   ---------------------------- [自由詩]有刺鉄線の鴉/士狼(銀)[2005年11月5日20時57分] 幼い頃 僕の左手は よく包帯に抱かれていた 今よりもっと 周りよりずっと 何にも関心が無かった ±ゼロの絶対零度 凍った心に響くのは 痛みだけ 立ち入り禁止の野原の前で 有刺鉄線に 左手で吊られた 温かい夕日が眩しすぎて 紫の雲に 誘拐されたかった 滲んだ血と痛み それだけが 生きている証だった 医者である父に何度 諭されても 僕は 有刺鉄線に吊られた  きらきらと輝いて どこまでも赤かった 灯火 傷痕すら残らなかった 淡い証明 ---------------------------- [自由詩]石榴の宵/士狼(銀)[2005年12月11日11時29分] 石榴は血の味 密の味 月の無い夜に 女を食べた、あの木製の詩人は 熟れた石榴を 銜えさせて 美味いだろうと、夜風に訊いた 共犯だぁね 、 硬花の指先はわたしの唇に触れ 睦言のように 秘密、 と水面に囁いた 桐の箪笥には 石榴がひとつ、 落ちている 血の飛沫の如き紅い実が、零れ 喰われたのは 石榴か月か 、 それとも わたしだったか ---------------------------- [自由詩]硝子皿の上/士狼(銀)[2005年12月16日21時26分] 月の咲く頃、青鷺が溺れた 川辺の彼岸花のように 恋に焦がれた ひらがなの響きで、わたしを呼ぶ あの人 辛辣な言葉を並べるくせに どうして時々 柔らかく、呼ぶ の 青い紙で鶴を折って、 『深夜2時に羽を開く青鷺だ』 と わたしの掌に 乗せて、笑った あの人がくれた真黒黒助(マックロクロスケ)の傍で ハートの硝子皿の 上 青鷺は、今宵も羽を折りたたむ 秘密、 きっと宵闇しか知らないでしょう 夜毎わたしの指先で 青鷺が何度も 何度も、生まれ変わることを 掌に、 閉じ込めておきたいの そうでもしないと 月の咲く頃、飛び立ってしまいそうで ---------------------------- [自由詩]赫い意図に絡まる鯨と、/士狼(銀)[2005年12月24日21時38分] ロゼ色の粉雪が 空の綻びから滑り落ちて 西の空が焼ける 煤が誘(いざな)き、招いた夜の帳が ふと 頬にかかり 謎を銜えた豹の吐息が 、右目を掠める 指先で散る、線香花火 黒い海を前に 冬の鯨が吠える声、声 泪 千切れていく蒼い雲は 幾度も絡まり、風に攫われる 恋人の爪先のように 器用な悪戯 影を落とす淡雪 冷えた掌で崩れ落ちた、色 薄く開いた唇に注ぐ 甘く儚い 、苺ワイン 繕うための糸は 切り落とした赤い、紅い糸で いかが 2005/12/24 eve. ---------------------------- [自由詩]創り直そうとした話/士狼(銀)[2006年4月3日11時53分] 人間を創り直そうと思いまして 街中にごろごろ落っこちている部品を 拾い集めて廻ったのデス 殻は組み立て終わりましたのに 人間を模した其れは、いつまで待っても まったく動かないのデス (皮膚の色も鼓動も正常だというのに) (裏町の黒猫は硝子の眼で生きるのに) そうして明け方気が付きまして 街中にごろごろ堕っこちている感情を 拾い集めて廻ったのデス ところが幾つ詰めてみましても 人間を模した其れは、いつまで待っても まったく動かないのデス ありったけ詰めました 拾った分だけ詰めました 欲望 嫉妬 罪悪感 嫌悪 好意 恋心 愛されたい心も愛したい心も たくさんたくさん、詰めました そうして明け方気が付きまして 誰かが落とした心を殻に詰めてみても 洞は満たされないのデス それから其れを壊す時になって 人間の複雑さというのか、感情の多さに 少し辟易したものデシタ (此処は僕が生きるのに、少し難しい) ---------------------------- [自由詩]剥製の眼/士狼(銀)[2006年6月18日14時54分] 冷凍室に閉じ込めて そっと 耳を寄せたりはしない 腹を裂き眼球を抉り 死なない形を創り上げて 寂しさを 裏側に貼り付ける 夜中の静けさが 硝子玉した眼に暗い光を燈すと 怯えた幼児の声が きっと 埋められた意識に響いていく 一点を ただ一点を見つめる雉の殻を 裏庭で空に返したのは 内に隠した 悲しみに 触れてしまったからです ---------------------------- [自由詩]林檎と無神論者/士狼(銀)[2006年6月24日19時04分] 《お気に入り》 っていうのは、 一体どういう位置関係なのだろうか」と 一昨日の三限目から ずぅっと、 悩んでいます 曖昧さが愛しくて 不完全さが憂鬱で もどかしさは 白鷺の歩みのよう。 《お気に入り》 っていうのは、 何だかとっても、宙ぶらりんだねぇ」と らいおんパペットは 同(おんな)じ顔で、 悩んでいます 機械染みているよ、全く」 冷蔵庫内果物室、の林檎が そう言って露骨にエチレン(ためいき)を吐き出すので キリスト寄り無神論者、の左手で そっと摑んで齧ってやりました 《お気に入り》 っていうのは、 甘酸っぱい林檎みたいなものかしら」と まるで斜陽のように ぽつりと、 置いてみたのです 黒猫の悲哀にも似た 楚々とした苦味を添えて 『斜陽』太宰治 「不良とは、優しさの事ではないかしら。 ---------------------------- [自由詩]後るれば、月で逢ふ約を違はず、/士狼(銀)[2006年7月27日0時43分] 「太陽は暴力だ。 冷房の効き過ぎた教室で あたしはカーディガンの袖を食みながら 前方伸身2回宙半ひねり を、決めた燕の 誇らしげな嘴を 遠く眺めていた あの、三つ子の巣立ちは 母の墜落を見届けることはなく 「太陽は暴力だ。 空になった巣は崩れ始め 太陽に晒された思い出の上で 家を守るかのように腕を広げて 死、を選んだ燕 干乾びた母親はきっと 愛するものと 月の影で再会を果たすのだろう ---------------------------- [携帯写真+詩]喋ったら多分、こんな感じ。/士狼(銀)[2006年8月16日2時29分] やぁやぁ、 きみのかわいい トッティーだよ おはよう、 じつに いいよるだ おべんきょ、がんばってる? やっぱアレだよね ほらほら、 はなび なんて やるもんじゃないってはなし かぎや だか、たまや だか知らないけど しんぞうのあたりが きゅぅってさ、 きゅうくつになっちゃうじゃない? ところでいーちゃん、 ボクのひまわり しらない? ほおぶくろに入れといた はずなんだ から はもってるんだけどさ、 み がないんだよね おかしいなぁ ---------------------------- [自由詩]『鈴香』/士狼(銀)[2006年8月26日9時34分] 僕には、 鈴香(すずか)、京香(きょうか)、由香(ゆか)の三姉妹がいました 次郎(じろう)君は彼女たちと一緒に暮らしていました 彼女たちにはそれぞれ次郎君の子供がいて 鈴香は三回、京香は二回、由香は四回生みました 鈴香は一回、京香は一回、由香は二回の流産を経験しました 生きて生まれた子は、どの子も五つ子でした 皆幸せでした 子供たちがやっと親の五分の一程度に成長した日 次郎君が死にました 悲しみに暮れた京香と由香も死にました 五の子供が死にました 僕はその度に泣きました 鈴香だけが二十の子供に囲まれて 生き続けました 子供は次々に死にました 皆、次郎君が恋しくて死にました 残ったのは八の子供でしたが 鈴香の子なのか京香の子なのか、由香の子なのか 見分けがつかないくらいそっくりでした ある日僕が鈴香の元にやってくると 三の子供しかいなくて 鈴香の腹は、ぱんぱんに膨れていました 床には幾つか肉片が残っていて 鈴香が五の子供を食べたのがよく分かりました それから僕は三の子供を隔離して 鈴香はひとりぼっちになりました それでも鈴香はお腹が空いたら生みました 次郎君の子供であることを祈りながら 何度も何度も生みましたが どの子も生きては生まれませんでした 鈴香は食べて食べて、また腹をぱんぱんにして それでも次郎君を忘れられないようでした その頃、残った三の子供は鈴香の二分の一にまで成長して 僕は一姫(いちひめ)と二太郎(にたろう)、それから三四郎(さんしろう)と名前をつけました 一姫は四の子供を産みましたが 二太郎の子なのか三四郎の子なのかが分かりません 二太郎と三四郎は喧嘩をしますが、すぐに仲直りをします 良い子たちです 一姫は体が大きく、赤い線が非常に美しい子です ひとりぼっちの鈴香も生みました 生まれない子を生み続けました 僕はあまりにも鈴香が可哀相で、 それは、確かに子供を食べてしまったけれど 長女として子供たちを守るために 次郎君の後を追えなかった鈴香が可哀相で、 だから 週末に五藤(ごとう)君と六海(ろくうみ)君を連れてくるつもりです 水草に未受精卵を産み付けては食べてしまう鈴香も きっと寂しくなくなると思います その頃には、一姫の卵も十程孵化することでしょう 第三世代の世話が忙しくなってきて 僕は受験勉強どころではなかったりするのです ---------------------------- [自由詩]赤い首輪が外れなくって/士狼(銀)[2006年10月9日12時32分] 僕は犬です、わんわん しがない犬です 一度主人を失いました 僕はもう仔犬ではなかったから 僕は犬です、わんわん しがない犬です 先日野良の一員になり 金属に怯えるようになりました 僕は犬です、わんわん しがない犬です ただ愛して欲しかっただけ 小さな公園で小さな女の子が 小さく手を振ってくれたから 抱いて欲しくて寄っただけ 撫でて欲しくて舐めただけ 冷たい金網の中で 大人しく順番を待つ 刻一刻と迫る死刑執行に 檻の中で暴れて叫ぶ友 僕らが何をしたの 僕らが何を傷つけたの 生きているだけで問題なの 先に裏切ったのは 僕らじゃない 仲間の遠吠えが哀しくて 隅に寄って 頭を垂れて、目を瞑り、耳を塞いで それでも赤い首輪は外れなくて 外れなくって ---------------------------- [自由詩]終着点は、未だ遠く/士狼(銀)[2006年11月3日16時47分] 猫の眼を通って 新しい時空を覗き見る 混沌と静寂のメゾピアノ 僕の着地点が 其処に、在った 色々、ありました とてつもなく 大きな罪を犯しました あるいは 一番星みたく 輝く願いを叶えました 生涯を蝕むほど 辛い罰を背負いました もしくは 深海を裂くほど 清い祈りを捧げました あの子の耳はもう聞こえません あの子の目は見えなくなります あの子の心臓は、 もうすぐ 動かなく、なります 消えない罪と 穢れない願い 薄れない罰と 霞まない祈り 一言の重みを、痛感した この非力さを、嫌悪した そして 黒猫が嘲った 色々、ありました 犬の神様たちは 忠実な願いを聞き入れ ケルベロスと契約を交し 魂を半分ほど 容赦なく、奪う 罪深き祈りの 終着点は、未だ遠く ---------------------------- [携帯写真+詩]愛しき日々に−手紙−/士狼(銀)[2006年11月10日23時20分] 走れるさ 雪の重みに挫いても 蕗の塔の芽を食べて 君の影は 今宵も 心の奥深くに染みを創る けれど 足元に絡む挫折や 喉元で唸る鳴咽も 蹴散らして、いける あぁ 夜が明けたら白銀の海が 沈む 今年の冬を越えられないかもしれない愛犬へ 愛してるから、 お願いだから、 一日でも長生きして下さい 間に合わなかった泣き虫より 1/23 心不全を克服し、なんとか元気(というよりとても元気 皆様目を通してくださって、 また応援してくださってありがとうございます ---------------------------- [自由詩]睡眠バンク/士狼(銀)[2006年11月13日19時24分] 357番の札をお持ちのお客様ー はい、睡眠口座の開設ですね 定期預かりにしますか 普通預かりにしますか はい、普通預かりですね いつでも定期に変えられますから 定期の方は一定期間の貯蓄が条件ですが 利率はいいんです 満期になれば、7日分の眠りが利子となります それでは此方の方に、氏名年齢性別、 それからご住所お電話番号の記入をお願いします はい、ありがとうございます さて 私どもが責任を持って お客様の眠りを預かるわけですが、 いかが致しますか お客様の眠りを この獏が食べるわけですけれども どういう形で引き出しになられますか 清涼飲料水にしますか アルコールにしますか キャンディにしますか それとも え、あ、キャンディにしますか おまけでドロップ缶がつきますので はい、どうぞお使いくださいませ 眠りを貯蓄したい時には この獏の名前をお呼びくださいませ お客様専用の名前ですので お客様の口座に眠りが振り込まれます あ、そうでした、ところで、 ご注意事項がございます お客様がお忙しい時、 お眠りになられない時、 今はまだ頑張らなくちゃと思う時、 眠りたい「気持ち」を預かるわけです 一度にたくさんの眠りをお引き出しになられますと 目覚めなくなる恐れがございますので 上限はキャンディ10粒分までとなっております ご了承くださいませ この獏の名前がお客様と睡眠口座を繋いでおります どうかお忘れになりませぬよう、 お願い致します それでは ご利用ありがとうございました 362番の札をお持ちのお客様ー ---------------------------- [自由詩]海月の密度/士狼(銀)[2006年11月17日2時54分] 僕には 愛の密度が足りていない あの日 深海に落とした欠片が 隙間風を招き iは 破れた質量を繕いながら 失った体積を埋めるため きぃきぃと泣いている 錆びた窓が 風に揺らいで開いて閉じて そんな声で きぃきぃと泣いている iを含んだ 朱い海月が緩んで ビュレットから ゆるり、 熔け出してゆくのを 悲哀を喰らふ 緑した鴉が 逆さづりのまま じっと 見つめている 不完全な僕の愛は まるで木から落ちた猿だった Nobody tell me love . ---------------------------- [自由詩]狩人/士狼(銀)[2006年11月27日16時56分] その昔 まだ名前も与えられなかった頃 僕に 綺麗なモノの綺麗さは届かなかった 1 深い山の奥底で 熊の子供が眠っていた時 その兄は僕が殺したのだった 子供の寝顔に銃声は似合わなくて その耳を奪って入れ替えた 子供は鮭に食べられた 我知らず微かな音を拾うその耳から 僕は命を知った 足元で蠢く、虫の存在が恐ろしかった 2 狭い洞の枝から 梟の子供が飛び立った時 その妹は僕が殺したのだった 月光を一身に集める姿が美しくて その翼を奪って入れ替えた 子供は鼠に食べられた 我知らず夜空を求めて動くその翼で 僕は月に逢った 星の輝きすら消す月光が、眩しかった 4 脆い廃墟の隅で 人の子供が死んでいた時 5 6 ばらばらの部品が ただひたすら愛を叫ぶ 7 暗い森の湖畔で 狼の子供が泣いていた時 その母は僕が殺したのだった 子供の涙に心臓がぎゅっとなって その眼を奪って入れ替えた 子供は鹿に食べられた 我知らず泣くその眼の涙は温かくて 僕は嘘を覚えた 大丈夫だと、根拠のない嘘であやした 8 小さな白い小屋で 初めて貴女が笑ったとき 初めて僕に笑ったとき 貴女が綺麗だと仰ぐ空や 貴女が綺麗だと触れる硝子玉よりも 僕が奪ってきた何よりも 貴女の笑顔が綺麗だと思った その笑顔が愛(いとお)しかった 9 10 そして僕は神の存在を知る 裁かれるべき原罪に 全てを払拭する贖罪を重ね ---------------------------- [自由詩]アリクイは何処だ/士狼(銀)[2006年12月6日1時08分] アリクイが逆転サヨナラ満塁ホームランを打つ そんな夢を見た 飛び起きて冬の早朝に町へと繰り出す 目覚めた僕は豚になった気分で震えていたのだ 廃れ逝く町で 々、ような毎日で 退屈な僕は小指を噛む 仔犬みたいな人ね 蜘蛛が寒波に呑まれながら 罠を繕って笑う アリクイを食べたことはあるか 夢の話をすると 蜘蛛は空に帰ってしまった 退屈な僕は仔犬みたいに小指を噛む 噛み千切れるかい ごみ箱から音が顔を出す 煙草が揺らぐ度に音域を失くす六時の音楽は まぬけな旋律で古ぼけた山を包む アリクイに会ったことはあるか 夢の話をすると 音が散っていってしまった 退屈な僕は仔犬みたいに噛み千切ろうと小指を噛む アリクイは何処だ 未来は何だ 保証された未来の魅力より退屈な現在が辛い 規則的な時間の骨が露出する前に 僕はアリクイとキャッチボールがしたい 骨の白さに気付く前に 小指を噛み千切ってしまえたら そこから何か面白い赤が始まるかもしれない 普通が大事だと気付いて 未来を希望して 現在に縛られるのが嬉しくなって 過去を吐露して泣いて 生かされていることに少しだけ触れたらいいかもしれない 臨終間近の友情に いざ終止符を打ってしまって その生命を粉々に殺(バラ)した後の血が滲む顔で 大した事ないねって笑ってやりたい 僕の小指が何事もない町の々、ような毎日で 腐っていくのが 見たい 僕の町にはアリクイは何処にもいなかったから 炬燵で蜜柑を食べようと思う ---------------------------- [自由詩]曲線と直線/ゆくりゆくりと、ふたり/士狼(銀)[2006年12月13日22時05分] 老いた驢馬はゆくりゆくりと歩む 赤茶けた泥濘に蹄は重く 驢馬の道程に気紛れな心が曲線上に見える 黄昏時に直線は 物悲しいと私は思うのだ 老いた犬が老いた驢馬に並び 二つの足跡が 交わり重なり連なって ゆくりと続く 驢馬は夕空の星に詳しく 犬は無償の愛を愛していて 泥まみれのふたりは 色鮮やかな、少し霞んだ、愛について語り 美しい、恥ずかしがり屋な、星について学び ふたつの影は 微かに橙色に染まって往く 小さな足の小さな老いた犬は 大きな老いた驢馬の小さな蹄にキスをして 曲線の美しさは 時に直線に優るだろうか 問いかけは謎解きと裏切りに満ち満ちて ふたりは明日を知らないが 次にまた 互いが互いの帰り道を横切るならば 今までのふたりの道程を 一緒に眺めてみたい そう、 心に仕舞い さよならもなく しかし確かに情愛と言えるような糸を結び 老いた驢馬はゆくりゆくりと歩み 老いた犬は温かい家へ ゆくり ゆくりと 泥濘に小さな爪痕を真っ直ぐ置いて歩く 少しだけ欠けた月が ふたりの背中に優しく微笑みかけていた 驢馬…ろば 泥濘…ぬかるみ 道程…みちのり 橙色…だいだい ---------------------------- [携帯写真+詩]お揃いの首輪で繋がってたいよ/士狼(銀)[2006年12月22日20時54分] 暗闇を優しいジンベイザメが支配する 捉らえた僕の手首には 哀しいくらい初々しい、空色の首輪 この手首には大きめで あの首には小さめで 幼い僕らに少し硬めなレザーは 拙く祈る永遠を拒絶する 僕らが飲む薬は色鮮やかで楽しいけれど 体内に確実な別れが蓄積していく 笑ってバイバイとか、してやらない あいつは生きる、あいつは死ぬ 僕は生きる、置いていかれる、僕は死ぬ お前は生きない、思考しない、色褪せる、お前は死なない 何も語らず、ただ鰭だけが鳴咽で揺れて 優しいジンベイザメが時間を泳ぐ ---------------------------- [自由詩]自殺補助/士狼(銀)[2007年1月5日10時44分] 風が強いから 真っ白な兎のロングマフラァを 首の後ろで きゅっと結びましたわ まるでわたくし 絞殺されたがっているみたいだった 兎に殺されるんだわと思うと それもいいかしらと笑いましたの ---------------------------- [自由詩]夜鷹/士狼(銀)[2007年1月13日12時34分] よだか、かあいそうよう かわうそうよう 四歳のわたしは協会で泣いた よだかを想って泣いた かあさまが牧師様に頂いた絵本を わたしは涙でくしゃくしゃにしてしまった 十八歳は思い出して教室で泣いた 最後尾でラストを知りながら ノートにぱたぱたと 小さな染みが幾つかできてそれがいつか わたしの周りに海を招いた 腰の辺りで揺らぐ夜の水面に 青白いよだかの星が、光を、落とした わたしもいつか あんな無限に暗い宇宙で 夜のままの世界で よだかの隣に、一雫の涙のように はたと顔を上げて本を閉じると 黒板の前ではリミットえぬから無限大が と始めたところだった よだか、と口の中でそっと云って わたしはΣを大きく描いた ---------------------------- [自由詩]しっぽを掴む/士狼(銀)[2007年1月17日22時28分] あと二回満月に逢えば わたし、ひとりと眠る 僅かに欠けた月を眺め 煩雑な世界に目を瞑り 生きて死ぬことだけを考えた それからカァテンレェスを畳んで 大洋に堕ちる一滴の雨粒のように 短く、儚く、静かな遠吠えをした 夢は暗く重い空から 木霊のように囁いた まだ見ぬ夢の声に 失明に怯える左目が震えた わたしの半分は ちゃんと動物だった 少しだけ 夜が軽くなった 夢のしっぽから ちょっとだけ拝借して 髪の毛に紫を織り込んだ その鋭い牙に触れるまで わたしの首輪は外さない 掴んだ手を宥めるように しっぽはとても柔らかい ---------------------------- [短歌]たまには炬燵で寝たいんです/士狼(銀)[2007年2月6日23時15分] うにゃーとか ごろにゃんとかで生きてみたい そう云うあなたはナマケモノ ハイエナが 悪者だなんて酷すぎます 一生懸命生きてるんです ラブレター食べさせられても困ります いくらヤギでも困ります ワニよりも 恐ろしいのは人間です 僕たちあなたのカバンです 誰よりも威張っていますが奥さんに 頭の上がらぬ王様ペンギン(♂) 犬なので雪に「遊ぼ」と誘われる たまには炬燵で寝たいんです      わん ---------------------------- [自由詩]遠吠え/士狼(銀)[2007年2月9日20時58分] 悲しくなって遠吠えすると 風に乗って 色んな場所から返事を貰った 風が生まれるならそれは掌からだ 水面に翳すと波紋が囁き  耳を澄ませばラピスラズリが唄う 冷たい指先で声を拾って 廃墟の壊れた硝子に貼り付ける 風が泳ぐ世界で 遠吠えはどこまで届くのかしら 鴉は「お前は阿呆だな」と云い 猫は「自由が一番さね」と鳴き 犬は「素直に生きなよ」と吠え 鶏は「覚醒させてやる」と叫ぶ 僕は「ありがとう」とだけ返す 風が生まれるならそれは掌からだ ひとりひとりの声を撫で 掌に唇を寄せて音を浮かべる ゆったりとした夜に流れた風に 月は何も語らない ただ 鼓動が聴こえる 小さく細く掠れた遠吠えの後 少しだけ 明日は笑えるような気がした ---------------------------- [短歌]伸びたほっぺもチャームポイント/士狼(銀)[2007年2月12日15時16分] バレンタイン 伝書鳩も今日だけは ハートのチョコを配達します サメですがあなたを食べたりしませんて 彼は頬白、僕は甚兵衛 カメレオン 実はほんのり悲しいの わたしの色はどれでしたっけ? 「愛してる」オウムは何度も繰り返す 他に言葉を知らない幸せ 寂しくて充血した目が目印です ウサギは静かに恋を育む ハムスター あなたの愛を詰め込んで 伸びたほっぺもチャームポイント    ちゅー ---------------------------- [自由詩]斑/士狼(銀)[2007年4月8日11時45分] わたしはうさぎになって 寂しさを抱いて、眠った よく晴れた朝を迎えて 腫れぼったい瞼に苦笑いを零す 鏡に映る姿は うさぎというより 醜い何かで 涙が眼球を傷つけていく ことん、と音がして ベランダに出ると 片足のない斑(まだら)の鳩が 桜の花弁を纏ってやってきて 春の風をくれた まだ少し肌寒いけれど それは仄かに新しい香りがした ---------------------------- [自由詩]風切羽根/士狼(銀)[2007年5月6日16時17分] 清算されない過去で 腐敗し始めた小指に 果物ナイフを突き立てて 基節骨の深い処に疵を入れる 白旗の揚げ方を知らないから 傷口を舐めた舌は赤く染まり 飼い慣らされて 飛び方も 風切羽根も失くしてしまった 籠の中は安心だった から 切られた羽先も 次第に馴染んで プラットフォームで死んだ鳩 きっと何年後かの自分の姿を 垣間見て素通りする 昼下がり ベランダに出ると 雨に打たれた蝙蝠たちが 街中に氾濫しているの が 見える ---------------------------- [未詩・独白]合図/士狼(銀)[2007年5月31日19時14分] ミンククジラのパンプスの中で 小さな金魚が揺らめいている 落雷があった駅からは 洪水が始まっていて 横断歩道の境界は灰に変わる 賭けに出る前に 豪雨の隙間ですれ違った少年は 折れた左腕を高く掲げた いち、に、さん 水溜まりは超えたくないから そのまま、裸足で、鰭を追う 皮膚を捲ると見えた白さを アスファルトに帰していく 綺麗に墜落したツバメの 尾羽の黒さを還していく 踵から滲む赤色を鰭に返して 赤い金魚を浸水した部屋に、孵す そして窓辺に残されたのは 水面と雷鳴のプリズムだけ ---------------------------- [短歌]かくれんぼ vol.1/士狼(銀)[2007年10月1日23時18分] 閉じられた扉を内からノックする 「お願い、誰か、…わたしを見つけて――…!」 もしも、とか。 ほんとは好きじゃないけれど(アンバランスだ)と影が言うので あの人に恋して伸びた背 身勝手な愛し方しか知らなかった 幼さを虚勢で誤魔化す主義主張 ちょうどいいから埋葬しちゃえ。。 R指定された階段 とん、とん、とん、ボタンホールを探して上る 錆びていくトラブル回避に忙しい 明日のためのチョコを下さい シャープペン、銀行口座、ミルクティ、鳴り響く鈴、目を伏せた君、 破られたルーズリーフの裏側に隠れた。 鬼になりきれない人 ---------------------------- [自由詩]チーター/士狼(銀)[2008年4月6日4時44分] そっとくちづけるかのように 首筋に立てた牙が血液を辿ってゆく やさしいじかん 一度だけ閉じられたガゼルの眼は 空を仰いでいたけれど 若草は映らなかったに違いない 荒野の果てにいる動物は 僕の知らない目をしていた ---------------------------- [自由詩]だから犬歯が疼く夜はあなたに噛みつきたくなる/士狼(銀)[2008年7月7日0時07分] 犬歯が疼く夜は あなたのことを考えてしまう 黒猫が一方通行道路を逆走していて わたしはみゃぁおぅと鳴いて忠告をした 哀しみに月はなく 瑠璃色の眼は立ち止まり この影をきちんと認めて にゃあ と言って暗闇をすり抜けた きっとあの子には交通ルールなんて関係ないんだって 鍵を閉めてから気がついた わたし、 まっすぐな眼差しはもう少なくなってしまって 周りのおんなのこたちは きちんとみることをしないのに 街中に溢れる嘘を見ないふりして 見えることを 隠している わたしにはルールに縛られた猫が五匹くらいいるから おんなのこたちの裏を知っていて 怯えた猫たちは月のない夜に 泣く だから犬歯が疼く夜は あなたに噛みつきたくなる ほんとうは狂犬のわたしが五匹の猫でごまかしている日々を 笑ってくれるあなたの鎖骨に 噛みつきたくなる 噛みついて 甘噛みをして わたしがわたしであることを 確認したくなる。 牙が埋もれていく日常はおんなのこたちと変わらなくて わたしはきっと 猫を逃がして静かに泣くから ---------------------------- (ファイルの終わり)