りゅうのあくび[彼女に捧げる愛と感謝の詩集] 2013年6月1日11時26分から2017年8月15日16時20分まで ---------------------------- ?????????????????????? ---------------------------- [自由詩]恋と愛のあいだの何秒か/りゅうのあくび[2013年6月1日11時26分] 瞬きがまだ終わらないうちに なくなってしまう 数知れぬ一秒にも 満たない想いがあるだろう とは思うけれど 一瞬のあいだ瞬きをするうちに 恋の始まりはきっと 終わりのない愛になる 陽もまだ出ていないある朝に まだ眠っている彼女の うっとりとした寝顔が吐息をしながら ずっと遠くのほうを 向いていた気がして 夜空の果てがなくなっていくまで 待っていたよ 記憶は巡っていく 二人でStudioに行ったときに 彼女が奏でる Mozartを聴きながら ふと伝えた言葉を思い出したよ まだ出会って間もない頃 「すごく好きだよって 言ってもいい?」と 一緒に食事をしながら 話していたとき 眼鏡の奥にある彼女のまなざしは とても澄んでいて 「うん、いいよ」と答えた返事には きっとちょうどMozartの 第一楽章の最初の音が 始まるときのように声が 弾んでいたことがゆっくりとわかる ************************ 丸い月の周りには 光の輪が明るく耀いている ようやっと仕事も終わって 同じ駅で待ち合わせをして ちょうど近くの公園の 大きな二本の樫の木の下で 夜霧のなかを二人でベンチに 深く腰を掛けていたら アカペラサークルの青年たちが 少しずつ集まっている 発声練習をしながら 小走りに公園を廻りはじめる まるで幾粒かの水滴が 集まって川に注ぎ海に たどり着く大きな流れのように 霧の中で夜の合唱が始まる 夜霧は公園を 優しく包んでいて 彼女にそっと口づけをする 小さな幸せは 休日の予定のあいだにあって 秒針が止まってしまった 壁時計をそっと見るときのように 彼女のことを自分のように想う そして自分のことを彼女に預ける ************************ 哀しいことだけれど 二人はいつか大人になって 同じ病気にかかってしまった そう永遠のうちにどちらもが 生きられなくなる運命だろう あとどれぐらい生きても ずっと治らない病気なのだから 彼女も僕も同じ薬を これからも飲み続けるはずで 命の燃焼がとまっても 一緒に生きた証が愛になればいい お互いには仕事があるけれども 二人が生きていく分だけでも 働ければいいと思う 決して生き長らえるためではなく 生を受けた地球に何か輝きを 残して生きていきたい 命ある旋律が停まる楽譜の 終止符を見つけるまでに 一瞬のあいだ瞬きをするうちに 恋の始まりはきっと 終わりのない愛になる だから胸を熱くして 共に生きていこうと ---------------------------- [自由詩]初夏/りゅうのあくび[2013年6月8日12時35分] 休日のメガロポリスの朝 天空にぐっとくい込むように コンクリート製の棘として 何本もの電柱が太陽の眩しさに突き刺さろうかと 悲しく立ち尽くしている アパートの小さなテレビの天気予報は先月になって 例年になく早く梅雨入りを宣言している 梅雨が終われば蝉が鳴く でも果たして今年は 空梅雨なのだろうかと思ってしまうぐらい 青空があって空気はあまり蒸していない 郵便の仕事をしている僕は 封書に入った手紙が濡れはしないか 心配なのだけれど まだ東京は晴れの日が多い ちょうど彼女が 髪を切りに美容室に行ったついでに そうめんとめんつゆを 買ってきたところで スタンドミラーをみながら 長い黒髪を触っている まるで誰かが帽子を 少しずつ集めはじめるように 風はゆるく涼しいけれど もうまもなく紫陽花は散って向日葵が咲く 雲がきれいで暑い 真夏がそこまできている ---------------------------- [自由詩]くちづけ/りゅうのあくび[2013年6月14日19時55分] 決して退屈なことではないのに 夜空の静寂は 孤独な人間の沈黙とも 全然違ったりする 恋をすることで 時間が過ぎてゆくのを忘れるとき 最近の彼女は欠伸をする だから僕には 彼女の欠伸を食べる 習慣がある いつも胸が いっぱいになって しまうけれど ---------------------------- [自由詩]Restaurant Saint Malo/りゅうのあくび[2013年6月16日1時50分] そこは場末の洋食屋ではなかった。 マスターは自家製のコンソメスープの 味を利きながら、笑みをこぼして 「イギリス海峡には初めて来たのかい?」と切り出す。                    ローマ時代に修道士が          住み着いたフランスのブルターニュ半島に          あってイギリス海峡を臨む          港町Saint Maloは          いずれ英仏の百年戦争を経て          大航海時代には海賊が根城にしていた。          その後、数々の大型帆船がその港町から          出航し世界へと航海と探検を果たす。           「ええ、初めてですよ」と答えたが、 カウンターにはまだ誰も人は居なかった。 ちょうど予約なしで席に座ることになって、彼女と料理を注文した。 シチューのオーダーを待つ時間、人気のシチューベースについて マスターが調理をしながら、彼女と僕に熱心に話し掛け その話題で持ちきりになる。          そう云えば、話は大分変わるが          大学時代にはヨット部に半年ほど所属して          毎週末にマリーナに通っていた。          台風の到来時に備え天気図を毎日記しては          台風の進路予測の勉強をしながら          帆船が海に出るための出港準備をする          訓練を行ったりしている。          ヨットは向かい風の方向にも          帆走することができ、          その航行方法のことをタックという。          大学1年の夏休みにかなり激しい合宿が始まる。          少ししか泳げないのに。           Restaurant Saint Maloと同じ通りには、 近頃米屋ができた。 精米したてのお米を提供しているせいか、 ご飯はつややかに光っている。 ビーフシチューは、ビールで煮込んでいて 少しほろ苦さがあるものの じっくり仕込んだものだった。 ビーフはスプーンではないと食べられないほど柔らかく ブラックペッパーがスパイシーに効いている。                            夏より始まる合宿後は、          クルーザーで島々を廻る予定だった。          しかし大学1年の参加者は、          ほぼ5人全員が脱落であった。          3人は夜逃げをし、1人は病院に搬送され、          自分1人最後に残る。          残ったものの僕が先輩に最期の抗議をしたため、          合宿は解散する。          その後、ヨット部は辞めたが、          小さなヨット部の話がどちらだったにしても、          丸い地球には、どの時代にも大海は確かに1つしかない。           彼女と「ごちそうさま」を 告げてマスターと別れた。 ブラックペッパーの漆黒の味には、 古きヨーロッパの水夫たちの命を賭けた 大航海時代にフランスの 港町の雑踏にいたような気になる。 参照:ウィキペディア:サン・マロ http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%AD           ---------------------------- [自由詩]一瞬と永遠はとても似ている/りゅうのあくび[2013年8月21日19時25分] 夕立は突然やってきて 落雷で鉄道の 運行が遅れている 雨宿りをしながら 駅の改札口で彼女と 待ち合わせをしていて たくさんの 雨粒のなかには 彼女の残像を映す きっとひと粒の 大きな水滴ぐらい あるだろうと 探し始める真夏に どしゃぶりの大雨は 雨音とともに 窓際のそとで 降りそそぐ ふと一瞬のうちに 大きな水滴を巡る追憶のなか 水に包まれた惑星の 地球をそっと宇宙で ひんやりとさせる 僕らの小さな夏の部屋にも 涙のひと粒や 汗のひと粒を 永遠のうちに 僕らの運命とする 愛のひと粒をやっと 記憶のなかで見つけだす 都会の引越しに降る 雪が積もった日に 白い息をたてながら ふたりで引越をした 小さなアパートのひと部屋 ダンボールを運びながら ふたりの眼鏡に 写し出されていたのは 一緒に入った布団の とても切なくて暖かい お互いの身体の温もりと 涙のような汗の雫 最初に迎える 真夏の遠い夕暮れに 最寄駅では 焦がれる熱帯夜の空を 見上げるとすでに 入道雲が通った跡がある 各駅停車が 彼女を乗せて 到着するのは いつになるだろうかと 想いながら 小さな駅舎で 待ち続けて 電車が鉄道駅に 停まる時刻には 改札は彼女の到着とともに 開かれている ずっと今を捧げながら 感謝に包まれる幻の花束は 愛を誓う印を 確かめるためだけに ささやかに幸せをみせる 笑顔みたいに ただにっこりと 楽しく咲いている 愛のある人間みたいに ただ咲いている 愛の雫で出来た 水分で満ちあふれる 綺麗に咲く花がある 何だか 一瞬と永遠は とても似ている ---------------------------- [自由詩]夕食はサラダスパゲティ/りゅうのあくび[2013年9月14日9時29分] 仕事が早めに 終わるときには 少しの安堵を抱くように 同棲は始まっていて 郵便局での仕事がおわって 晴れた日の夕暮に 実家から少し離れた 二人の住まいへと 自転車で走る なぜか携帯電話だけを 実家に忘れていたのも 気づかずに 途中新しくできた道を 選んでは走る 環状八号線を挟んで向こう側の 小さな住まいへと まなざしには見えない恋は 部屋の鍵を開ける前の 僕のうちにあって 形のある愛は自転車の 二つの車輪のように走る 今夜はパスタにするつもりで 皿洗いが終わり 夕食の食材を 調達するため スーパーマーケットへと 自転車で走る ふと気付いて 携帯電話を取りに行く 環状八号線の横断歩道の 青信号が点滅し始めて ゆっくりと停まり ようやく実家について 彼女から 着信履歴のある 携帯電話を ポケットに入れて ついでに実家にあったツナ缶を サラダスパゲティにするため 持っていくことにする 自転車は 再び走りだす ---------------------------- [自由詩]月を食む夢をみる鳥/りゅうのあくび[2013年9月21日6時48分] 彼女が突然 夜食にゆで卵を食べたいと云って 卵をふたつゆでた。 寝そべって 二人でひとつずつ食べながら、 話をする。 彼女には卵の黄身になってくれたら 僕は白身になって君を包みたいと云ってみたら 少しおなかが膨れて 二人は、「翼をください」を唄っていた。 もう まどろみのなか 眠る前に歯を磨く。 ぐっすりと 眠りにつくと 秋の深い真夜中にも、 鳥は卵の白い殻を破る。 二羽の鳥の 永い旅が始まる。 遠い夜空へと。 いつか大空に浮かぶ 月を食べる 夢を見るように、 大きく羽根を広げて。 夢の中をはばたく真似をしている。 ---------------------------- [自由詩]小さな春のタチェット/りゅうのあくび[2014年4月30日21時58分] 気まぐれな嵐は ときおり吹き荒れて 数え切れないほど 散り始める 桜の花びらが 舞い落ちては ゆったりと流れる どこかの運河の水面を どこまでも薄紅色に 染めるように この春は過ぎ去ろう としていて ちょうど晴れわたった 青空ひとつ いつかの住み慣れた部屋には 褐色の厚紙でできた 搭がそびえたつ 引越しのダンボールの 荷造りは少しずつだけれど たくさんの楽譜や 手作りのピエロの人形や 使い古されたフライパンやらも 少し残された 春の匂いにくるまれて 箱詰めにされている ペールグリーンの 色彩の扉の向こうへと 多くの荷物が いつのまにか 運ばれていく クレーンで 宙吊りになって 持ち込まれた 彼女のグランドピアノからは 華やいだ音色が 奏でられて きっとどこかの運河で おびただしい桜の花びらが 敷き詰められながら 浮かんでは揺らいでいる ひとときを想う 散り逝く桜の 花びらが心舞うように 今夜は春の終わりを告げる 幻となって ピアノの鍵盤からは 澄みきった風の音色がしてくる 新緑に萌える 初夏の前奏曲を聴くのは いつになるのだろうか すでに郵便局への転居届けは 近所のポストへと 確かに投函されたはずで 旧住所宛ての 電気料金の明細書が 隣町のこの住まいへと届く まるで まだ見知らぬ場所へと 僕と旅立つ前夜の 静かな祈りみたいに とてもささやかな 春の夜空には いくつもの灯りが 穏やかに明るく点っている 先日までの家路が 記されていたはずの地図には 小さな春の遠い追憶が そっと閉じ込められている ---------------------------- [自由詩]もうひとつの日傘のチェリー/りゅうのあくび[2014年5月18日0時08分] 晴れわたった休日の朝に 僕にとっては 世界で一番優しいのは 君だけだよと 伝えたのだけれど 宇宙で一番優しいはずだと 言ってくれた年上の彼女に 僕がもし火星人と 浮気をしたらどうする? と冗談で聞いてみると 許さないと きちんと答えてくれた 街のデパートで もうひとつ日傘を 探してみたいからと云って 一緒に出かける 往路の電車の中で ふと気づく 彼女は 薄紅色のキーケースが どこにあるのか わからなくなって 一度探しに家に戻って帰る 僕のキーホルダーを借りて 次の駅で電車を降りていく そう云えば ある秋のまだ付き合い 始めたばかりの雨の日 彼女の住む旧い アパートへと送るために ひとつ傘の下 ふたりで歩いていた 雨水を弾く日傘は とても小さくて ふたりは降りしきる雨に びっしょり 濡れながら 帰って行った ストライプの模様の傘には 紅いチェリーの絵柄が 描かれていたことを 想い出す やっとのことで 僕は外来で 診察を終えると 待ち合わせ駅へ 復路を電車で向う 休日の昼下がりに 高層ビルが立ち上る まるで透き通る 鍵穴のような 青空からは もう初夏の陽射しが 嬉しそうに そっと零れている ---------------------------- [自由詩]倒れるということ/りゅうのあくび[2014年5月27日12時13分] 担架の中で目を覚ます 運ばれる直前の 記憶が定かではない どこで何をしていたのか 今日がいつなのか 答えられない なぜかはわからない 倒れるということは 命のともし火が消える 手前のことであって 人間の命という力を失い 地球とのつながりが途絶え 生きるためのすべが 見つからなくなること ただ疲れ過ぎていたせい かもしれないけれど 誰もいなければ そのまま たったひとりで 倒れていた 彼女は救急車を 呼んでくれていた 自分の名前を問われて やっと答えることができた まだ生きることができる 人の手が あたたかい 倒れても 再び立つことが できる ---------------------------- [自由詩]愛するということ/りゅうのあくび[2014年6月3日0時45分] きっと初めから 死を覚悟して恋をしていた 随分前のことだけれど 彼女から 死にたいのだと こっそりと 打ち明けられたことがあった どんなに哀しくても 明るく振舞う 気立てのいい 年上の女だったから 生きることが つらいことだと よくわかっていた その女のためなら 死んでも良かった 同じ病気の苦しさから 一緒に死のうかと考えたこともあった けれども お互い共感することによって 二人で何とか 今も生き抜こうとしている 彼女は多かれ少なかれ戸惑い 生きることをためらったけれど 僕をいつの間にか許し好きでいてくれる もちろん僕についても 何よりも彼女の愛があればいいと想う 恋愛は恋人たちが 生死を共にする 一瞬より始まるのかもしれない それが恋愛の始まりであり 人生の夜明けでもあるのだろう その一刻に 恋人たちの朝は 永遠に耀いている ---------------------------- [自由詩]ラストメッセージ症候群/りゅうのあくび[2014年7月11日23時18分] 寿退社する君へと パッションフルーツを プレゼントする昨日 月末に送別会があるようで 退社するときに演説する 練習をまたしている 揺りかごから 墓場までと云う言葉を 知っている?と聞いてきた 僕は野暮な 答えを伝えた それはイギリスの福祉政策から 生まれた言葉だろうと 揺りかごから墓場まで 会社で働くつもりはありません そう決めました そう云うことにしよう 面白いでしょう、と君は云う            伴侶へ「ちゃんと働きます」 ---------------------------- [自由詩]真夜中の向日葵/りゅうのあくび[2014年8月1日0時47分] 真夏の彼方から 静かな夜空へと手前に延びる 扉を開けると 独り涙に濡れている君がいた ぽろぽろ汗を流しながら 仕事から帰り着いたばかり ずっと一緒に生きていこうと 伝えた僕は 花瓶のなかで 瑞々しく咲いている 閉店の間際に 走りながら飛び込んだ花屋で さっそく注文して 創ってもらったばかりの 少し切なすぎるブーケには 橙色に咲く数多くある薔薇のとなりで 黄色い向日葵が花びらを 君に向かって伸ばしている 凛として嬉しそうに 遅めの夕食を食べながら聴く 会社を辞めるときに別れを 惜しんだ同僚の話には 胸の詰まるたくさんの想いがある きっと一陣の暖かい風が去った後の 向日葵のように 咲いている 涙が乾いたころの 寝顔の君へと宛てて 真夜中の向日葵には とても穏やかにほろほろと咲く 幸せがある 夜明けに太陽が 昇ってしまうまでのあいだに ---------------------------- [自由詩]夜空と楽譜と/りゅうのあくび[2014年9月2日21時30分] やや乾いた 風がない 夜空のなかで Schubertの楽譜から 不思議な音が響く 一瞬のあいだに 戦争写真家が撮影した たった一枚の写真が伝える 真実みたいに 部屋中に澄みわたる 透明な音 群衆の真ん中で 時刻を確かめている いつかの少女はもう永遠にいない 独り楽譜を見つめる まなざしだけが 何か漆黒の光が込もっているみたいに ある世界の終わりを告げる 音だったのかもしれない 不協和音のように 或る真実を伝えなければ ならなかったのは 純白の雲が 浮かぶ夏が終わる 足跡だったのだろうか 黄昏に少年が颯爽と 走り出した足音のような 残響があって もう秋が訪れる 夜空は奏でられ始める 傍らにいる 彼女が弾く ピアノの 旋律を聴いて 一篇の詩を 書き始め ただ夜空を想う ---------------------------- [自由詩]音と言葉について尽きない話/りゅうのあくび[2014年10月3日22時50分] ショパンのノクターンを演奏している サンチョ・パンサ号という ふたりで名付けた彼女のグランドピアノのことで 彼女は、音が死んでいく、と悩んでいる。 音楽の師匠は、ちょっと綺麗な言葉じゃないけれど ピアノとの肉体関係を思って ピアノを抱きしめてあげるぐらいにと 云っていたそうで、 彼女は、何でもそうかもしれないと おぼろ月のしたで僕に云う。 詩でも、パソコンをもっと抱きしめて上げなきゃなぁ 僕のパソコンにも煩悩もいっぱい詰まっているよ、 女の裸もたくさんインターネットにあるしなぁ、と云ってみる 満月のように目を丸くする彼女に、 ひと言、僕は最低だね、と伝えた。 ---------------------------- [自由詩]月蝕から遠くない日に/りゅうのあくび[2014年10月8日23時30分] 月下美人のつぼみは 僕から君へと宛てた 詩集の挿絵に 描かれていて 本当は籍を入れる時は 月蝕の夜になっていた かもしれない まるで仮眠でも 取るように くれないに染まる月蝕は とても静かに耀いて 都会を包む夜空のなかで 月を食む鳥たちの夢のなかで 僕たちはとても感謝しながら そばにいたいと お互いを想っている できれば 一緒に海辺に行って ふたりで愛を誓うことを 約束をする日は 欠けることのない 満月の日に 果たしたいのだけれど ---------------------------- [自由詩]彼女の午睡/りゅうのあくび[2015年4月10日15時42分] 低い雲がたなびく 雨空のなかで生まれたばかりの冬猫が ふんわりと尻尾をまるめながら きっとこの春のどこかで ゆったりと昼寝をしているように 彼女はまだ目覚めない もう夢のなかでは 序曲の演奏が始まる まるで音符は楽譜から 巣立つときに鳥の翼が はばたいているみたいにして 時を刻んでリズムが響く フィギュアスケートで トリプルアクセルを 何回か決めながら ロンドを踊る 彼女は冬に生まれたのだけれど 陽射しが暖かな 命になったばかりの 初めての春を 思い出すみたいにして スケートリンクのなかで廻りながら アイスブーツのエッジを 効かせて回転する きっと夢をみることにも 地球の重力が鋭くかかっている まるで手紙の返事を そっと待つときのように 部屋の遠い静寂とは 彼女の深い寝息になっていて 心臓の鼓動とともに 踊り続ける血液は身体じゅうを巡りながら ぱっちりとまばたきをして 冷めた珈琲を飲みながら やっと午睡は終わって彼女は スリッパを履き始める ---------------------------- [自由詩]ぺんぎんの浪費癖/りゅうのあくび[2015年4月13日1時16分] ほとんど同じ 服しか着ないのに ストレスが溜まると 服の買物へとはしる ぺんぎんがいる 広い海には百貨店があって 青空を飛べないぺんぎんは 翼を使って海を泳いでいく 飛べないことを まるで悲しむように 大空を翔る翼を 買物できないからと 想っていて 角部屋にある クローゼットのなかには 着ることのない服と 持つことのない鞄と 履くことのない靴で いっぱいになっていて ぺんぎんは嘆いている もう絶対に買わないと 口ずさみながら 今夜もまた宅急便が届く ぺんぎんの住まいには ネットショッピングで買った 雑貨が届いている ほとんど南極では 服も鞄も靴もいらない ぺんぎんの仲間たちも 服も鞄も靴もさほどいらない ぺんぎんは 翼のない寂しさを 埋めるために 今夜もまたインターネットと にらめっこを始める 海のなかにある アパレルのブティックで 働こうとした夢は 南極にある氷山のように 暑い夏に溶けたり 寒い冬に凍りついたりを 繰り返している 反省を忘れたぺんぎんは 誰もが寝静まる真夜中に 鏡と一緒にファッションショーを そおっとする習慣があって 婚約しているぺんぎんに 助けを求める 見張りをお願いしたつもりで こっそりと隠れながら 再び買物をしてしまう 翼で羽ばたくまねをしながら ---------------------------- [自由詩]傷跡は春に包まれて/りゅうのあくび[2015年4月22日4時23分] 真新しいパンプスを 履きながら歩く 晴れわたる春の路地裏 靴づれはひりひりとして ドラッグストアに立ち寄る 店員へ傷跡に貼る ばんそうこうを下さいと云う     * 少し無愛想に ぽいっと置かれた小箱の医薬品 要らないとは云えずに かかとを痛みで尖らせながら 彼女はこころの奥から 痛いと叫ぶばかりで ばんそうこうを ふたつ分だけ貼る 途中のターミナル駅で 待ち合わせをするために     * 百貨店のすぐ目の前で 靴問屋が国産靴はたくさん 在庫一掃市みたいに セールをしている ちょうどふたり分だけ 未来の足跡を 買い占めながら 鉄道の車窓からは 藤の花が咲いている もう夕焼けは暖かくて     * 今夜から彼女は まるで庶務ができない僕の 先生になる予定がある 年上の伴侶へと 少しは事務仕事の腕を上げるようにと 家事にもよく似ている庶務について 教えを請いながら     * 生徒になったばかりの僕は 先生の左足にある 痛みを丹念に手当をする 次々と先生が 求め続ける宿題 はらはらしながら しっとりとして うららかに 傷跡は春に包まれる ---------------------------- [自由詩]Engage Bracelet/りゅうのあくび[2015年5月20日13時26分] 彼女が弾く クラシックピアノの旋律で ジョン・レノンのImagineが 魔法のように何処からともなく 記憶として生まれて 再び消える 彩られるブーケを持って 一緒に写真を 撮ろうとしていた 昨日が少しずれ込んだけれど 彼女から僕宛てに 十数年ぶりぐらい 腕時計のプレゼントを貰う 日時計の代わりとなって 小さな太陽電池が半ば永久に 時刻を教えてくれる 最も細い秒針は 極めて微かに 燃えさかるプロミネンスのように 情熱を照らしてゆったり 回転しようとする そして目立とうとするばかり 純白に輝くコロナに 包まれながら 腕時計の丸い窓のなかで 人生の伴侶との 大切な約束を察している 最も長い分針は 今と近未来のあいだを 少しだけ思慮深く測りながら 進もうとする そして計算しようとするばかり 銀白色をしている硬いベルトが 彼女と僕を結んでいる絆のように 時刻はふたりの結婚を とても切なく報せようとする 最も太い時針は 伴侶をしっかり 愛することのために 今を静かに伝え続ける そして確かめようとするばかり 地球と月に神々しく 煌めく光を放つ 太陽の陽射しに ささやかな祈りを 捧げている たくさんの 小さな白い花々が ずっと咲いていて 遠くまで広がる 花壇のように 果てしなく嬉しい 夕刻には彼女へ Imagineの楽譜を贈る 結婚指輪を 真夏までに彼女へ届けるため 永遠と一瞬は とても似ていることについて 解き明かしたので 叙事詩としてきっと書籍にしよう ガリレオ・ガリレイの 望遠鏡に映し出された 太陽の黒点みたいに 耀く漆黒を描きながら そっと箒星が 夜空を落ちるあいだに 曲想のある音色と 詩心のある言葉たちが 誓い合って深呼吸をしている とても感謝をしながら 世界の始まりを告げる 処女の気持ちみたいに 舞曲を踊り続けて まだ夢のなか深くでも ---------------------------- [自由詩]真夏の骨と雨/りゅうのあくび[2015年8月14日19時21分] 太陽の厳しい陽射しにさらされて 赤黒く色褪せた 夕暮れを夜空に染める とても細い雨降りの音は 真夏のRequiemのように 聴こえて微かに哀しい 久しぶりに ゆったりと 寂しく過ごす夕食 やや透明なグラスワインを 飲み干す前に まるで海水のような 不思議な薫りが漂う 鮭のムニエルは もう直ぐに食べ終わるだろう 明日の朝食は そうめんにしようか バスが出発する時刻を 案内する一本の鉄骨が 真っ直ぐに伸びている まるでかつて誰かが吹いていた 錆びた銅色の 古びたフルートみたいに 優しい雨が降っている ちょうど天気予報は外れて 傘を持ってはいないので バスを待ち 雨宿りをしながら ふたりで食事をする Barの小窓にはバス停と 暑くて雨が降り続く夕空が 映っている ちょうど故郷の田舎にある 森の奥深く眠っている 誰かの墓地にも 名前だけになった灰色の 真夏の骨が静かに うずくまっている たった一匹の母を想う鮭の 本能みたいに故郷を探す 旅の途中で 真夏のお盆に とても切なく咲く 白百合の花を揺らす風の音をも かき消しながら雨音が響く 昨日の夕暮れを踏んでいた しっとりとした誰かの靴音よりも 道なき道が続く夜空の大地は 雨音をしいしいと はじいている 真夏の昼に降り注ぐ 太陽が照らした大地には キッチンにある グリルのなかみたいに 熱く焦がされていて 道なき道を浸す雨水も やはり生暖かい 磁器の白くて小さな皿には 鮭のムニエルもすでに 真夏の骨となって 横たわっている 何だか涙の味も 少しする バス停には やっと人々が 集まっている 真夏の骨が眠っている墓地へ 残暑をお見舞いする気持ちを そっと届ける道が 続いている ---------------------------- [自由詩]かき氷の遠い夏の音/りゅうのあくび[2015年8月31日20時42分] かき氷を 噛み締める音が 透き通る 氷の粒の結晶は ちょうどひかりが 零れおちるみたいに 花火の黄昏にある音のように ころんころんと ふたりの記憶のなかでも 響いている ずっと遠い夏空に 消えていった かき氷を噛み締める かりんかりんとした 真夏の音と 部屋を改築した大工たちの たくさんの汗の粒は もう海の底にまでたどり 着いたのだろうか 遠い夏空に浮かんでいた 雨雲の匂いを 運んできた緩やかな風が 清々しい柑橘の薫りみたいに いつまでも さらりさらりと 吹いている気がして うちわがふたつとも要らずに ずいぶんと涼しい 秋の透明な夜空は すでに近くにも 疎らな雨跡とともに 訪れている 喉越しに かりんかりんと 溶けていた氷の粒には 搾り出された果実から ひんやりとした果汁が 含まれていて 遠い夜空の 果てを想う ---------------------------- [自由詩]林檎/りゅうのあくび[2015年9月6日19時47分] 恋の果実を 収穫することを待ちながら 暑かった夏空は 熟れた林檎を 真っ赤な彩りに染めている 大切な人へと 恋を想って約束を するときのように 真夏に夕焼けを 埋め尽くしたばかりの しっとりとした夕空が 雨跡を道路に残しながら 太陽の陽射しを抱きながら 緩やかな風とともに 半月の夜空に溶けて行く 遠い日の夏空には 熟れた林檎に そっと種を宿している 恋を果たそうとする 契りのように かなり昔に アイザック・ニュートンが導いた 万有引力の法則には あらゆる恋の果実にもはたらく 重力がきっとあるだろう 地上の朝に恋の最中へと 再び堕ちる彼女と僕は ひと粒の林檎でありたい ---------------------------- [自由詩]結婚式はふたりきりで/りゅうのあくび[2016年3月4日19時31分] 故郷を遠くはなれて というより 次の故郷をもとめて 家族はまだ ふたりきりだけど 静かに暮らす日々が 永い冬の西日みたいに 遥かな春を望むように続いて ふたりで 寝坊ばかりしていて 君が早起きして初めて 創ってくれた 会社勤めの僕に宛てた 手造りのそぼろ弁当から 顔を出すアスパラガスは 零れる君の笑顔の味がして 彩りも香りも遠い春が まだほんのりとしている 結婚式の替わりに ふたりぼっちの 写真をたくさん撮りに 行ってきたばかりで 晴着の君には やっと春が爽やかに 色差す曙に くちづけをした 紅が焦げるように 綺麗だったよ いつもわかってくれていて 応援もお互いさまだけれど 本当にありがとう 花束とボトルワインを お礼に贈ったら 家にはコルク抜き 何てまだなくて ふたりで病気のこと いつも心配をしていたり ごめんなんて 言わなくても 会社の同僚に のろける話題には 事欠かないと 笑顔で迎えられて 祝福されて嬉しかったけれど 君とずっと暮らし きっと ふたりきりで 乾杯の夢を叶えていく ---------------------------- [自由詩]たんぽぽ花粉予報/りゅうのあくび[2016年3月13日20時25分] 幼いころの古びた靴は シャベルよりも ずっと小さくて、 土遊びをしながら 泥だらけで夕暮れに沈んでいた。 永くて遠い春はすでに まなざしの向こうにあって、 冬を越えるたび 軽くうなずきながら アスファルトから咲く。 かすかに揺れる 黄色い花びらは、 綿毛のついた種を 何処かの記憶へと 風とともに運ぶために散って逝く。 かすかに揺れる 黄色い花びらは、 柔らかい大地の 匂いがする季節に くしゃみをするたび思い出す。 かすかに揺れる 黄色い花びらは、 もうずっと この街で見かけてない。 小さな春を何処かに探しても とても寂しい想いをするけれど、 くちびるにふれた 君の温もりに、 僕の切ない祈りが咲いていた。 ---------------------------- [自由詩]待ちぼうけの煮物たち/りゅうのあくび[2016年11月26日0時10分] 明日の朝餉で 煮物たちは ついに食べられるつもりです かぼちゃの君は セミロング気味に散髪され さらりと初冬の乾いた風になびかせ そっと魔法の馬車馬が走り出す だいこんの僕は 降りしきる初雪がとても名残惜しく 三島由紀夫が記した金閣寺が 燃える小説のなかで ふと炎の本質を想い出す 勿論のこと煮物は 煮物の素材だけで成り立たない お互いの運命と宿命の辻褄を合わせる かぼちゃの君とだいこんの僕は 近所の八百屋で支払う銭の計算をする 日溜まりにある遠い朝を 迎える鍋のなかで 小さな炎の加減をする 熱い風呂で煮えながら ゆったりして ほっと吐息を かけられながら みりんと醤油と酒とで暖かい 仮分数のように 大きな頭で かぼちゃの君は 買物で予算を考えていた 真分数のように 太い足で だいこんの僕は 食材の調達を急いでいた いつの間にか 随分と浅くもない器に居座りながら すでに翼のない 鳥肉とともに 僕たちは まるでTVに映る 新米芸人たちのように 待ちぼうけしていた @参照@ 仮分数  http://www.weblio.jp/content/%E4%BB%AE%E5%88%86%E6%95%B0  真分数  http://www.weblio.jp/content/%E7%9C%9F%E5%88%86%E6%95%B0 ---------------------------- [自由詩]トナカイの足音[イングリッド・ヘブラーを聴いて]/りゅうのあくび[2017年1月13日19時49分] 一瞬の奇跡の近くに 永遠の軌跡がずっと続いた 花瓶に差した薔薇を彩る橙色の呟きを待っていて 僕の遠い夜空にもある シケモクは必ず捨てた方が良いだろう 妻が影で吸わないように おせち料理の請求書が届くはずで もはや寝正月は想い出の向こうにある あの鐘を鳴らすのは誰でもない年の瀬だった 戦争前に生まれ二〇世紀を超えて モーツァルト弾きの彼女が奏でる旋律が宇宙に鳴る 妻から彼女の曲想が僕にはどう聴こえるか尋ねられて やっぱり音階では聴こえない?妻は僕の答えを待つ ちょうど鼻唄のような音色だよと伝えながら いつの間にか部屋から妻が居なくなってピアノを弾いていた 幻のサンタクロースは最果ての雪道にては残る足跡 夢のなかではトナカイの足音がそっとして 白と黒の鍵盤を弾くのが聴こえていた ---------------------------- [自由詩]そっと君から信じてもらう光景に/りゅうのあくび[2017年1月25日22時39分] ほんとうの自分のことを わかってもらうことは 誰かをそっとこころのなかで 信じるということでした あの日を  僕らが生きていること すでに静かな風が通りすぎるように 深い森林と広い草原が夕暮れと横たわる うなずきながら橙色に焼ける 永い地平線の違いを ふたりでそっと眺めることでした だから 例えば夜明け前に 深い森林のなかで そっと佇んでいたとしても 真夜中の広い草原のなかで ふとほんとうの星空を探していたとしても あの日を  僕らが生きていること きっと小さな恋のあいだに うっとりした夜空のなかにいる ずいぶんと静かに風はささやいて 僕らはこころのなかで 焚き火を灯すことができる ほんとうの自分のことを そっと君から信じてもらう光景に ---------------------------- [自由詩]これからも/りゅうのあくび[2017年8月15日16時20分] たとえ朝を迎える途中であっても 厳しい人生にもある 僕たちの突端ですら きっと色彩のある 鮮やかな情熱があるだろう 小さな群集として 四つ葉のクローバーが佇む 草原に静かに風が吹いていたあの日から 太陽も月も銀河ですらも まるで仕事とか家事みたいに 巡り続ける輪廻が これからも続いてく あの日を想う口笛が優しい ある時に忘れ去られたとしても 取り戻す永い記憶には 彼女によって覚えられていた すでに薄命の母が届けた花瓶とは そう妻がいつも話す 思春期にある哀しい寂寞 僕たちは小さな花束を 傾けるのだろう ちょうど僕たちが共に 強く生きることによってのみ 抱きしめることができる 残された命の切実さとして 僕たちは契約の言葉を 真夏の暑さのなかで 運ぶことができるのだろう いつの間にか気にもせず 幾筋もの涙が流れていたあの日も すでに遠い昔にも感じる頬の軌跡 きっとまだ妻の瞳に沈む奥底には まだ静寂なかにある瞬きがある どれぐらい先まで 未来を描き込める 想い出があるのだろうか ひたむきな汗による労いですら もはやそのままにはできはしない 僕たちは誰しもの誕生を祝い これからも頑張るのだろう 草原にある記憶のひかりと 花冠にある陰影のくらやみのあいだ それだけが微かな時間として いつも単純な熱意をひとつずつ それだけがささやかな空間として いつも自然な努力をひとつずつ 颯爽として準備する 僕たちは幸せをもとめ これからも頑張るのだろう おそらく 頑張ることの意味には 生きることの重さがあり 命を携える言葉がある 僕たちは時を刻み これからも頑張るのだろう 暮れない夜明け前を待ちながら 薄命でもあった 彼女の母が残した面影が とても哀しいけれど 永遠の記憶を抱きしめる 揺らぐ髪に花冠をかぶせた 妻が沈黙をしていた夜空には 僕たちは寂寞を満たす 想いを見つけるのだろう これからも ---------------------------- (ファイルの終わり)