小池房枝[小池ながしそうめん] 2010年5月31日20時00分から2011年5月17日20時03分まで ---------------------------- ---------------------------- [短歌]話しかける五月/小池房枝[2010年5月31日20時00分] シャガールの恋人たちよ天蓋に夜を満たして水浴びしなさい 留守にして帰り着いたら生き延びた薔薇が幾つも咲いていました ビッグバン、インフレーション自鳴琴の箱を開いた誰かがいました 鎌倉と思えばゆかしうす青く色づく紫陽花 線路際にて スターゲイザー昼下がりの雨身に受けて仄かに星のエステルを醸す ひとんちの薔薇の垣根とすれ違う時そよ風が立たぬかと思う   一昨年も去年も今頃咲いてたね本気なんだね五月のコスモス   ぶらんこを漕ぎ切ったことがありますよしがみつく手に火傷しました 木の椅子をロープで吊るしたぶらんこは漕ぐべしたとえ踏み抜こうとも こんなにもゆっくりとしか動かない雲たちなのにそれぞれの向き 地球照あわい光を内側にたたえて月は遠い金魚鉢 イソギンチャク触手に指を絡めさせそれからそっと引き抜く感触 エンジンに火の息通わせ身じろいで震えて船は埠頭を離れる 早苗ではなく麦でもなくイタリアングラスの上を吹き渡る風 鳥はもうお帰り海に泊まるのか夜ごと異なる波のしとねに 五月から六月にかけて落日は山並ごしに多摩川を渡る キウィ棚は黄色いキウィの色をした一重の可愛い花で鈴なり   タンポポにちっちゃなハチが潜ってた見渡す限り何色の世界? 水晶をもてあそびながら雨音に沈んだ世界のバラードを思う 胸の火の用心を責めて落ちてくるマッチのようなサクランボの森 おうし座が胸に太陽 腰帯に月を飾ってオリオンに挑む   アルビレオ二つ並べておく石をミネラルフェアで探してみようか 薔薇のうてな手を伸べてしまう後れ毛をかき上げてでもやれるかのように   鞠のようなつぼみまた少し膨らませ夏つばき夏を孕んでひそやか   濃い色の紫陽花に添えて飾るならオパールよりも紫水晶    ささやきに耳寄せるように花の香を確かめる薔薇の声を聞くように   薔薇園をそっとケント紙に写し取ってエドガーとアラン二人立たせたい オールドアースそんな名前の薔薇がいつか生み出されない未来を祈ろう とりどりのケーキバイキング スィーツの海賊どんな乙女たちだろ たくさんのツツジが地面に落ちているヒヨドリだろうか小学生かな 控えめな香りの薔薇は両の手の中にあっても遠くにいるよう ちょうちょうを見るたび思うねぇ君は何処で生まれた?どんな子だった? 図書館の喫茶室にてコーヒーとアップルパイとルドゥーテの薔薇 表札にさえ倚りかからず真っ直ぐに凛と立て立て青き言の葉 あぁそうだクリームソーダ青い空。青い青い空、傘をほさなきゃ 透明な飴細工の薔薇ぱりぱりの花びらはやがて雨に溶けます さわさわと降る雨の音、風が木を通り過ぎてくときと同じだ   オーロラを描く手そして奏でる手降り注ぐものを受け止める大地 葉陰には心臓ひとつ生りかけてはいるけど鬼灯市は文月 しゅんしゅんのヤカンで麦茶の麦をたく深夜に夏の匂い突沸 うわさばなしにおひれがついてきれいなきんぎょになりました   街の夜のさそり座ぼやぼやのんびりと月を見ているあぁきれいだね ビル街のアオスジアゲハの蝶道はヒトの歩道の少し上のほう   その薔薇は開かないよと無造作に言い切らないで抉じ開けたくなる ぴゅうぴゅうと吹く今朝の風おとといのカマキリの子が飛ばされまいか かたくなに閉じてた薔薇もしおれては指でかき開かれてゆくまま 剣咲きのピンクの薔薇は順々に色あせながら尖ってゆきます 部屋に一人、私一人が動くたび満ちてきた薔薇の香りも動く 南海の停滞前線ながながと低くかかって海蛇座のよう ちょっとだけ現れて今空を打ってよ鯨の尾型夏の高気圧 ---------------------------- [短歌]六月の声は/小池房枝[2010年6月20日20時54分] コスモスといえば秋風を思うだろう?初夏には咲いて揺れ始めている ワスレグサ忘れていたい思い出があること思い出させないでよ 昨日見た四つ葉は今日はもう虫に喰われてとうに虫のものでした 嘴と皿と甲羅と水かきで雨と緑を!河童ラッパー 先月のアサガオ今頃芽を出した。すなまい私が埋めすぎたんだね   草むしりされる草ほど根に土を抱きしめミミズを飼っているらし 貝の火はオパールだったか知れないね。スズランがホモイおいしそうだよ   音だけを盗ってゆく人 音だけを残してゆく人 風鈴泥棒 水は水の色を収めてただ空を映す夕刻みかん色の川 パパラチア サファイア ルビー コランダム コーンフラワーブルーが揺れてる   水無月の水すべて青き紫陽花の青にそそがれ青にかくれる あぁ海が青いね赤潮でてないね人出はすごいね何処へ行こうか 雨上がり夜の空気は新しく香りたててる薔薇の匂いだ 玲瓏と聞けば水素のりんごです。違う詩を百、書いてみたいな 三葉虫、二尾の化石に添えてみたい「仲良きことは美しきかな」 ぴかぴかの直角貝の卓袱台を、買う人はつまり何にするのだ   目の前にひらりと散った瞬間の真紅の花びら手のひらに拾う   シリアルに牛乳つぐ時かしゃらんとサンゴに寄せる波の音がした   真っ白なセイルを旋回させながら香りをひらく八重のくちなし   ひとの手になるユリのその真白さに南の島の自生地を思う 雨の日にヤマネがポツリとつぶやいた 「この雨なかなかやまねーなー」って カラスウリ真っ白な触手ふるわせて織り始められた夜絡めとって 見るからに巣立ったばかりのツバメたち電線の座り心地もむずかし   垂直に滑空しながら落ちてくる雨が見ている世界を見たいな   降る星は星ではなくて宇宙塵 空をこすって燃え上がるマッチ   こんびにで短冊さらさら笹の葉は揺れていたのか売られていたのか 爪先で通せんぼするよダンゴムシ駅のホームをどこへと向かう すっぽんが増えててうれしい川上の図書館までのラインセンサス 梅雨に入るや否やの晴れ間にオジギソウほどの小さなネムの初花 六月のどの手が夏至の砂時計ことんと返す昼から夜へと 万物に触れてゆく手はしなやかで白くてどこか汐の香がする 巣立ちびな子スズメ口からはみ出てる緑色のもの何とかしてくれ 地下深く遠来からの素粒子の青い光を湖に待つ 風立ちぬ香りも立ちぬ梔子と薔薇とバジルとミントのベランダ その瞬間、風を鎮めて家々に風鈴配り風鈴を配る 雨傘は鼓膜いつでも一人ずつそれぞれの傘に違う雨音 ほたるぶくろ咲いたね今ごろ飛ぶほうのほたるもどこかで飛んでいようね   ベランダの窓がとんとん叩かれる。洗濯物かな風かなお入り ねじ花よいきなり咲いたね居たんだね根菌もずっと一緒だったの? 瞬間を咲き継ぐ薔薇の花びらは南無阿弥陀仏なんまいだろう フィボナッチゼロから螺旋を幾重にも重ねて溢れる深紅の花びら 柳絮かなそれとも何かのタンポポか朝日と風を舞い渡るもの 夕方の三日月今日も細くって昨日とおんなじ姿に思える   夜も咲いているのね昼咲き月見草 咲いたら散るまで咲いてるんだね 皿ならばかしゃんと割れよう沙羅の花つばきの風情でほたりと落ちてる まだ咲いたばかりで既に満開の合歓いろあわくそよいでいました 駅のホームをミノムシが渡る何処へか行こうとしてかミノムシが渡る ツユクサの青さ見るたび目が覚める気がする何から目覚めるんだろ スーパーの駐車場から立ち話する声 雨はあがったらしいな 見たことのない淡い色の鳥がいた。夕日を浴びたムクドリだった。 ---------------------------- [短歌]ゆり文月/小池房枝[2010年7月5日19時20分] 夕方の水が巡って夜前につぼみのたががひとひら外れた ひとつふたつ互いに互いの花びらが外れてそしてそりかえって咲く カサブランカ自分で咲いたね信じてはいたけどつぼみに手が出そうだった ふくらんだつぼみがどうして本当にひらきえるのかやっぱり不思議だ 蝶か何かとらまえたときの両の手を合わせた形に百合が膨らむ むきたての果物のように滑らかな百合のつぼみが裂けてはじける  咲く直前つぼみは軽くなるような気がする片手であやしてて気づく ひとつめの百合は満月に咲きました妹たちもそろそろでしょう いつつ揃えた指先のように窮屈な形でつぼみの中にいたのね雄蕊 花びらと共におしべもすいと伸びて開いて赤い葯が揺れてる 蕊の先のしずくを舐めてみたいけど顔に花粉がついたら怖いな 抱き上げて涼しいところにうつすとき甘えて花粉つけないで百合   虫たちのサグラダファミリア真っ白なカサブランカはソロモンそのもの 単子葉植物のなかで最大の花咲かせつつもたおやかな百合 こんこんと湧き出る匂いの甘やかさ重苦しさに耐えるよろこび カサブランカいつ咲き終えてもいいからね狂恋のような白き饗宴 カサブランカお疲れ様とねぎらってさいごの花の首を掻く夜 咲き萎れた花びらに君を開かせた水脈の網の目 褐色に浮かぶ   夏の花は足が早いねいいことだ咲くべき密度を咲き終えては去る オトウサンモドキのようだねニックほら、裏庭にユリとユリモドキの花 ---------------------------- [短歌]ほし文月/小池房枝[2010年7月6日19時41分] ここは雲の真底すずしい風が吹くじきに全てが雪崩れ落ちて来る 夕映えのお天気雨が東方の空高く架けた主虹副虹 緑から朱へまた赤からまた青へ 光と水のクロマトグラフィー 美しい挿絵のゲーテの「メルヒェン」の蛇の化身のごとき大虹   夕方の一番混んでるスーパーで働くおじさん虹を見ていた 「オーバーザレインボウだね久しぶりだ」駐車場誘導係員さん 幽霊じゃなくて二本の足がある虹 屋上にしっかり立ってた 幾重にも重ねた気流の層ごとに細波を描く夏の薄雲 ばら色のあの雲どこから来たのだろう天気図ひろげて源を探す 日蝕を済ませた空はほっとしてまた改めてざばざば降ってる 二、三日もすれば夕方三日月が何もなかった顔してるだろう 七夕の夕方の空は雨上がり夕焼け雲は急いで晴れてね 七夕にスタートダッシュで駆け出した二人に笹のエールを送ろう 七夕の日の昼下がり雨上がり短冊も笹もさぁ乾きなさい 七月も八月のそれも星の逢瀬どちらの夜もかないますよう 織姫と牽牛世界中ありったけの暦で二人が会えたらいいのに 水滴のような銀河もあるだろうサトイモの葉のしずく転がす   水滴のような密度で透明な宇宙もあるかしずく零れる 卵かな?それ蛹かもしれないよ。宇宙が丸ごとふわりと羽化する 妖蟲の中の宇宙に要注意 渦巻くホットな不可視物質 輪廻する宇宙 回虫 虫下し飲めばたちまちビッグバンかな エンドピン大地にぶすりと突き刺して宇宙に地球を反響させよう 地球には毎日昼と夜があって星が見られてとてもうれしい 流星を呼べたらいいな星屑も1ミリ以上は危険だけどね 夜明け間近半月火星を従えて東の地平の向こうを見ている 明るすぎず 暗すぎもしない夜をあげる 半月そっと星を見守る アイ、オイ、マー、カマル、ヤレアハ、チャンディラム、 ルルイエの海に降りそそぐ月   みなさんもう眠っていますか。金星が東の空で光っています。 星になど何故ひとは願う時として世界はひどく美しいけど ---------------------------- [短歌]落とし文月/小池房枝[2010年7月12日20時12分] 吹く風よ微笑む人の面影よネム絶え間なく船出の風情   朝ごとにアサガオその名に天国を青さに空を映して地上に   花、柘榴。タコさんウィンナ血の味を実に成す前に朱色地に散る 鬼の木は天使(エンジュ)涼しき薄緑 踏みしだきながら見上げれば空 シャクトリはどこから来るの鉢植えの三個体目が同じ枝ぶり 確かめに行くとやぶ蚊に守られて夕闇の林キツネノカミソリ 真っ白なムクゲが雨に咲きかねてバレエのジゼルの衣装のようです にわたずみ ほとりにたたずむひとかげは あれはひとではないかもしれない 降る雨を手に受けるように耳深く鼓膜に雨をあててみたいな 首、体、深く傾け耳の底、鼓膜に雨は轟くだろうか 吾亦紅、街中で君に会うなんて揺れてるとこしか知らなかったよ 雨の日の温泉にひとり腰掛けて背や肩やももに天水を浴びる 空高くオルタンシアを投げ上げる何度も何度も手毬歌うたう カンナ何をか削って咲くの夏という季節に命の篝り火かかげて 本の山 本の谷間に住みたいな 書物という名のヴァーレルセルたち ヒグラシとアオマツムシを聞くために無人の広場をチャリで突っ切る フシギダネ不思議だね花は実を結び零れダネからまた咲くんだね 反魂草(ハンゴンソウ)こどもが描く星のような花の匂いを誰か知ってる? ペンギンのジョナサンは海を飛ぶだろう誰より何より速く巧みに コオニユリくるくる揺れる出穂も間近な水田みどりの畦道 プールサイドで耳の水抜きするようにとんとん跳ねると落ちてくるもの 真っ白なファイルを抱えて昼過ぎの電車を待つときそよと吹く風 ヤマユリは山姥のゆり鬼のゆりヒメユリはそれを秘めているだけ 本で得た知識などなどと言うなかれ本は二、三冊読むものではない 宮ヶ瀬をヤビツ峠に抜けるとき鹿を見ました夏の鹿でした 久遠って山の孤独な生き物が不思議がるとき鳴く声のよう 風呂の湯を飲みに風呂場にやってくる猫よおまえは何がしたいの? ヒマワリが全身で雨を浴びている手があればきっと頭洗ってる 夕立が篠突く最中、突然の日射しに打たれた電線が光る 梅雨明けの兆しの日差しが眩しくて電信柱の影に逃げ込む 雨の中カメ散歩きみは何してる?どこへ行きたい?誰に会いたい? 水槽の水草つっと水面に莟を伸ばす雨のベランダ ---------------------------- [短歌]八月は歌の葉月 人と人外の巻/小池房枝[2010年8月4日20時34分] http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=259343 ---------------------------- [短歌]八月は花の葉月/小池房枝[2010年8月10日19時16分] http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=259391 ---------------------------- [短歌]八月は風の葉月/小池房枝[2010年8月17日19時32分] http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=259181 ---------------------------- [短歌]括られた九月/小池房枝[2010年9月9日20時20分] ラストノート彼女の香りと音楽とルーズリーフの最後の一枚 引き出しの記憶の奥に「ユトリロの白」とだけ画家の絵も知らないのに 猫よ猫、抱き上げた目の奥行きよ、あんた脳みそあるんかい?ニャー カニの名はスベスベマンジュウ何故それを?清原なつのアンタ何者? 触るなと誰も私に触るなと私が私に深いところで タンデムで「アーユー良かとっ」「良かっ」発進 「あんたば好いとぉ」「聞こえないよ〜」   美しさを持たぬ言語があるだろうか。カタコトであれヒトコトであれ 秋に飼う小さな二匹のカニの名にシロカニペそしてコンカニペなどと   押入れの布団の上で猫さまは牢名主さま一枚おくれな   涼しさは替えたばかりの蛍光灯 詩人の留守にひとり見る月   子供たちドングリそんなに集めてさ一年分もどうするつもりさ   ムルムルは佃煮よりも動いてる彼らとぴよんこぴよんこしたいな リービッヒの最小律は君にとって外部ではなく君自身だろ ただびとの一生に見る二回分はもはや見たりとカエルの畦道 通りゃんせお通りよここは遠い日の思い出どんぐりぴしぱし降る道 髪の毛が触手だったらいいのにな百円ショップ薔薇の髪飾り 夏を終えたわわに実った果樹たちを狩りとれ西の善き魔女たちよ 夜と名づけられたなら夜になれるかな胸にひとを抱いて深く静まる 体中どこにあててもぴったりとフィットするひとの手のひらの不思議   やわらかなやさしい触手をうたいたい。自分をふくめて誰宛でもなく   「軍隊」は「国民」を決して守らない「国体」あるいは「命令」を守る 国民こそ陸海空の自衛官や警官さんを守らなければ 「あっけない」に見えちゃってました 「あっいけない」 いずれにしてもとりかえせない 前髪を1ミリ切りすぎちゃったのとあえかな若妻家出決行 ぐっすりと寝てたら夢に起こされた朝帰り猫が外で待ってた 駐車場ノラ猫ニャニャニャと小走りで何をしてるの? でっかいカマキリ! ---------------------------- [短歌]寛ぎはじめた九月/小池房枝[2010年9月10日20時28分] 高くばかり吹いていた風降りてきて翻る葛の葉裏の白さ 金も銀もまだ咲いてません少なくもこの風が来た道の限りは せいせいと水色の空の低いとこに三日月そっとすくっと立ってる 西はイリ東はアガリ太陽(ティダ)の通るとおりに呼べば今年もミーニシ 金色の秋の夕日は人影をも金に縁取ることを止めない   無限遠で交わることが平行の証ヒトにも二つの眼差し ペガサスの窓が開けば東にはオリオン天の赤道を告げよ 冬星が幅を利かせてる東天に寄り添いあって頼りなげスバル 星屑は最微等級以下無限フォーマルハウト一つ星がゆく エリス我は讃える不実な和合より不和もて我らを未知へ導け 親しんだ既知打ち壊して新たなる宇宙を拓け争いの女神 カメ様が作った世界の内側にひとがいるのね天蓋背甲 カメ様はとってもおっきな方舟でみんなを中に抱えているのね   太陽が一族郎党引き連れて驀進中です。けれども何処へと? 光そは闇の左手 暗闇は光の右手 天地開闢   媒質(エーテル)の中を光が進むようにくるくる地球が十二月(じゅうにつき)をゆく 空が深呼吸しているゆっくりと吐く息の辺り雲が消えてる   トビウオをペットにしたいな広い海と広い空とが必要だろうな   ぐりとぐらどんぐり探しに行く森の地下ではCERNがグラビトン探し 月からの距離真っ直ぐに落ちて来て月光電信柱に砕ける 空の底私たちへと降り注ぐ月日星総て堕天の光 雲の上で遂行されつつあるらしい夕焼けが気配だけで残念 熱風がやっと普通の風になって薔薇のそば薔薇の香りが動いた 虫の音の満ち潮に乗ってオリオンが漕ぎ寄せる九月ちりりちりりり ゆうべ君が琴座のあたりでヒットした火球を見ましたマイナス5等 翼だけの大きな鳥の姿して天高く秋が渡って来ました ---------------------------- [短歌]September Sepals/小池房枝[2010年9月13日21時49分] 薄紅のネム天辺に咲き残り夏の限りを見送っている 風に挿す飾りのようなミズヒキの合間をそっと抜けて行くもの   秋植えの球根花屋に並びます眠り姫おいで土の褥に ベランダの雑草大事に見てましたアカマンマかな?シロマンマでした 葉の色が隠れるほどに萩の花ほろほろ咲いて風に揺れてる   夏物のスーツのポケットさぐったらオシロイバナの種が出てきた   夏からのつぼみを摘まずに咲かせたらミニバラますますミニバラになった   コスモスの苗首を切って植えました咲いてると花さらいが出るので おじぎ草ピンク色した耳掻きのふわふわ触れたら胞子が舞いそう ナトリウムランプの公園秋の夜の薔薇たち全員色彩不明 一群れの彼岸花咲くそこにだけ日差しに秋が透き通ってる ヒガンバナ倒れたあとを見てごらん倒れてないなら倒れるところを 根の国の金魚ことしも彼岸花赤くひらめく空の水底 埋められた金魚らの揺れぬ赤い鰭 低く宙宇にヒガンバナ群れる 根の国の朱火は今年も燃え尽きて真っ直ぐ倒れる花は葉を見ず キンモクセイ雨に打たれてオレンジの十字の雫ふるふるまわりに 金も銀も咲いてはいません少なくともこの風が来た道の限りは 咲いたのかまだなのかそれは分からないけれども風に香りが溶けてる ひやひやと涼しい朝はアサガオもひんやりしていて透き通るピンク 美人咲きした朝顔の目印に糸をむすんで結実を待つ 百日を風がほどいてサルスベリ空気をすべって落ちる花びら   夏の花火の名残の火花百日紅青天今日も暑くなりそう くず洪水 電信柱の足元に打たれたように溢れでたように 葛の花踏みしだかれてこの秋もこの山道を行きし人あり 雨なので何処も出かけず百合だけがただベランダでずっと咲いてた ぴしぱしと昨夜の風の置き土産 今年生まれの青いドングリ   口を開けたイガに栗の実光ってる揺すぶったなら落ちてくるかな 風ごとにぱらぱら落ちる銀杏を拾いに行きます夜の校庭 水深むごとく夜道に湧き上がる虫の音 胸まで浸かりつつ行く   水色と黄緑の胴のギンヤンマ翅は夕日でみかん色してる チャリならば遠目で道の毛虫らの軌道を読んで避けて走るよ なつあかねアキアカネそして秋風と日差し行き交い揺れるトンボ池 二階まで今年もシャクトリやって来た飛んできたのか歩いてきたのか さくらさくら毛虫にやられて丸坊主また咲いちゃおうか花芽ならできてる お月見のススキの原にクモたちが今宵も今宵の網を織り掛けた 飼っていたわけではないけど雨蛙の風呂子ちゃんと窓子ちゃんが昔いました。  秋風が撫で付けていった白鷺の背中が薄い飴色してる カルガモがまた孵ったか九月だぞ?なんだコガモかまだ九月だぞ! 鳥たちが混群を作る季節かなまだ早いかな明るい山道 きらきらと川に魚がいてうれしい君も忙しそうだねカワセミ 晩夏解纜ともづなを解く声がする「船が出るぞ〜」アサガオが咲いた ---------------------------- [短歌]十月夜の四方山話/小池房枝[2010年10月20日21時21分] 他のどの白い花木にも思わない山茶花だけが降る雪に似てる 結納を終えほっとした友の父「本とマンガは全部持ってけ」   落ちたザクロ割れ目ざっくりぎっしりとダリのルビーがのぞいて見えてる   透き通るラピスラズリの空低く北を見つめて一人立つ月   一人だと思った月のかたわらに赤いアンタレス下るる大火   ヒガンバナ朱花(しゅか)は見事に朽ち果てて葉が出て来た今あとかたも無い   秋咲きの黄色一重の山吹が身を差し伸べて雨受くるさま   雨あらば直ぐに水かさ増す川が当然となって久しき大地   秋風に風鈴おろして型にして小さなプリンを一つ焼きます 一面に赤い茎した白い蕎麦の花揺れていた夏の思い出   真っ青な真昼の空に散ってゆく風船は風の軌跡を描かず セイルアップされたセイルが透明で鱗粉の落ちたチョウの羽のよう 雨が屋根を叩く音さらに迸る滝となって落ちた先を打つ音   アカトンボ人差し指を差し出せば止まったあとで首かしげている   金木犀こないだ咲いていたけれど場所と姿は確かめなかった   星はなく月まっぷたつのハロウィーン空を駆け抜けるエナー小父さん さとうきび咲いてる頃だね幾重にも銀色の丘を海へと連ねて ホリックの侑子さんなら言うだろう「サヨナラ買います」委細面談 これはとても大きな秋だな北半球すべてが秋か猫も溜息 バビンカとルンビア二つの台風が突っ込んでいく秋雨前線 ドングリがこつんと私に落ちてきたもうどれがそれか分からないけど   ハロウィンが終ってからがクリスマス 気が早すぎるよミズキの赤い実   夜猫の目が真っ黒でまぁるくて何か言いたい人の目のよう 咲き終わった百合がふわりと佇んで歩かぬ姿も美しいこと   ねぇ鉄郎、メーテルがほら、眠ってる。静かな寝息、安らかな顔で。   あるひとはじぶんはやさしいとのことです たしかになにもしたことなさそう   神無月まだ咲いているアサガオがもう咲いている午前二時半 冬星の只中双子の片割れに蹴られそうではないか火星よ   切り紙の黄色い星の形した葉を降らせている街路樹の名前 ねぇちょっと寄って行ってと言われても紅薔薇わたし出勤の途中 カメ、きみは、狭いところに嵌まっては身動きできなくなりたい願望?   よく晴れた朝は悔しい明け方に起きたらどんなに星空だったか   ぽんぽんとパレットナイフでポプラの木 バーントシェンナとディープイエロー 遠足も運動会もないけれど秋晴れなのでおにぎりをにぎる 熱々のアップルパイを冷や冷やのアイスクリームでいただく秋の日   淵をなして堰き止められていたらしいキンモクセイが昨晩決壊   よく晴れた明るい朝に猫が目を細めて無駄にやる気満々 十月の市民プールの午後五時は夕日に溢れた海のようです いつだってもとめているがいつだってもめてるに見える誰のせいだよ   雲間からきらりと見える木星が月から零れた何かのようだ forget me not 青き小さきこの花を四季咲きにしていかにせんとや   アンブロークンアロー 雪風 JAMの前にただ我は我 地球人類   駅員さんあなたが掲げるカンテラは灯台のようあなた自身も   命優先 何より優先 だけど書くことで生きてく人もいるから   花があって星も見えますわたくしの短歌は地球(ここ)から宇宙(そら)への報告  ---------------------------- [短歌]立冬月の秋のこと/小池房枝[2010年11月9日0時33分] 雀たちふわふわススキを持ち帰り夜寒の寝床に足し綿しなさい 凪という名前の少女を知ってます炎の魔女と呼ばれていました    ナンテンとツルウメモドキとピラカンサ小鳥たちおいで朱いご馳走 目に見えぬ子らが遊ぶか忙しなく黄色や茶色の葉っぱ散るらむ   夜ごとにひとの心に触れながら薄れてゆくも蘇るも月 昔日に「カモカモ come on !」とカモたちに叫んだ友を思い出す秋   この時期は軌道の真上に落ちる陽が直に十二の車両をつらぬく   「けだもの」と「けもの」は違う「けだもの」は「けだものだもの」百パーセント 外海と同じ色したルリハコベ瑠璃をそのまま手に取れた不思議 星たちが年に一周する間にも月はビュンビュン満ちたり欠けたり 三日月に凛々しく見える横顔に見惚れて階段一つ踏み外す 耳をすませ降りだしたかなと呟くと急にうるさく騒ぎ出す屋根 家の灯を映す川にはカモたちの影が静かに行き来してます 朝顔の終わった夏のプランターの土をあけたらヤモリが一匹   分かつ風か禍津風(まがつかぜ)せめて人々に異言の祈りや呟きを運べ 朝ごとに部屋に低く深くなる朝日やがて朱色に光る下駄箱   落ちる前も落ちて来るまもその後もカサコソ遊びのユリノキの並木 焼きたてのスコーンを出せば客人は「あんたほんとに小麦粉好きねぇ」 美しき明星二つなおのこと美しきかな並びかかりて 「花はダメ!とっていいのは写真だけ」そっとタネならもらってもいい? 実ったり散ったり忙しないことに飽きたらぽかんと明るい秋です 蒼穹にそびえるテイオウダリア、ダリア。 増えたねここの気候が好きかい?   落ち葉厚く覆われ春まで守られてあの斜面きっとカタクリが咲くな   いなぃいなぃばぁ星たち雲にかくれんぼ月に名前を当てて欲しくて 奥行きも高さも靄(もや)に閉ざされて狭い狭い空 鳥はどこを飛ぶ   風だけが聞こえるわけを本当に知りたいのなら教えてあげるよ? 雪も雨も重力加速度そのままに落ちて来てたら危険なこの星 入日野にさびしさゆえに草結ぶ誰も転ぶまい遊べ秋風 リロイきみはあれからどうした?死体をも瓶詰めにして判事になった? 妖怪に「何用かい?」と言われたい「こんにちは」とだけ答えたいから   神々は留守ですものども手のひらの分だけ世界を受け持ちたまえよ ゴンベさんが種まきゃカラスがほじくると。これが逆なら絶妙なのだが。   花もちを良くする薬に活けられた薔薇枯れきれず色褪せ果ててる 海は春が早いよ風がかきまぜてお日様スイッチ入れたらすぐだよ びゅうびゅうと風ばかり吹く雲ばかり運ばれてゆく先ヘ先へと 細やかな影絵だれかが手仕事で貼り付けたような夕暮れのポプラ カサブランカいつ終わりますか零余子(むかご)ひとつ緑の身体にいつまで抱いてる たんぽぽがぱったり倒れて咲いていた今日寒かったねでも咲いたんだね 時は未来。昔し昔しあるる処に、おじじいさんとおばばあさんが 何かあった?白い花びらが散っている。ああサザンカが咲いてるんだね 秋の日は釣瓶落としと言うけれどだからって叩き落とさなくても 昼はまだ緑色なのに夕日には黄色に耀く銀杏並木だ つんつんと生えてきた葉はヒガンバナ 林は開けて明るくなったよ そこのミケ、声かけたのは私だよ。ふりむいたくせに気がつきゃしない あたたかなコタツの中でボコマルをしようよ水虫なんて気にせず ぐいぐいと頭突きで迫り来るネコよ言いたいことがあるなら言いなよ ちびゴキよトイレに一匹だけならばいいけどちょっと大きくなったか 図書館の建て替えだとかでカメたちが池からいなくなっててかなしい 数学のお花畑を無限記号ちょうちょがひらひらしていてきれいだ   日本のおでんを食べに北欧のオーディンもおいで一族とともに ---------------------------- [短歌]詩忘れ月の歌/小池房枝[2010年12月10日19時24分] 連れて行ってもらえなくても走っていける クークー、君がそうしたように 歌ってよシンガー今日の合言葉 午前零時の愚者の黄金 クリスマス風のうなりに血が叫ぶライダーベルト三位一体 ねこよねこ、パニックしよう年末の商店街に魂が降る 地球宛、小さな星(セイ)に贈る手紙エルグの星をいつか見つけて 星々に樹魔の降る夜ディラックの海ディエンヌの遠い歌声 よろでるり本当に美味か「自我系の暗黒めぐる銀河の魚」は パトロール、冬の円盤、笑(えみ)という少女が一人で星夜を待ってた ラグーンと浅海の色を託された薔薇を見た夜読み返す拓次 法面と路面の隙間のスミレたち も少し待っててそれから咲きなね クラムボンは一つの光学現象です嘘です正体募集中です シグナルとシグナレスねぇ君たちはあの後ちゃんと結ばれたろうか 下り坂カーブも今日はブレーキをかけずに行けるそんな気がして 体当たりして降らせたい金色の銀杏並木の雨帰り道の 沼に落ちた星は隕鉄だったので静かにそっと錆びていくとこ 観覧車もう人は乗りに来ないので橄欖石を置いてあげよう 双子座の流星群は来週です四つの腕でぶんぶん投げます 十二月午後五時暗くなりたての空に高々と夏の三角 イタリアンパセリ復活うれしいな早く使える大きさになれ ベランダのアボガド冬を黙々と耐えてる割りには元気そうだな  君はナス?それともダリア?いずれ君の名ともどこかで出会うのだろう 枯れるまま枯らすはずだった朝顔がまだやる気でした爪ほどのピンク 朝の陽が髪も睫毛も通らずにまっすぐ顔にあたってあったか 同じ場所で毎朝十時に見るスズメ同じスズメと分かればいいのに   目玉焼き誰が食べるの陽が海にじゅじゅじゅと落ちてお皿に乗ります 空からは光る爪先降りてきて地面をそっと確かめてました 飼い主に冷や飯食わせる悪い猫(ヤツ) 炊飯ジャーの保温切るなよ あざやかにウグイス色のメジロたち山茶花ざわざわさざめかせてる   あれはねぇクリスマスでなく夜通しのおっちゃんたちの工事のぴかぴか 公園の薔薇の茂みで眠ってたダンボールの人 今日は寒かろ 背の高いメタセコイアがゆっくりと真っ直ぐ揺れてる三日月の夜風 薄雲が風にゆっくり動くので空そのものまで流されていった 眠りながら時々躓くことがある何処を歩いているのだろうか バイオリンにドルフィンなんて誰がつけた? ストラディバリウス海を渡った? チューリップ今にもチュンと地中から言って来そうな緑のくちばし 今日のこの日差しにどこかで梅が咲く後のことなど何も恐れず 汲み上げる水車にも似て観覧車 人々さざめきながら乗り込む 考えてみれば乱暴な星である空から水がだばだばざぁざぁ あるでばらカピバラんとは牡牛座の主星から来た宇宙人だよ ことこととジャムに煮られる林檎たち リンゴ語でぷちりぽちりとおしゃべり 三上章(みかみあきら)「は」と「が」についてが有名です。 「ば」と「か」ではない。間違えないで。 君たちが世界と思っているものは社会なだけだよ世界は広いよ 寒施行油揚げ添え小豆飯供えれば街のアライグマ来る かぼちゃぽちゃん湯船にそっと浮かべれば柚子がふわりと波に乗ります 今生は未生の緑を身のうちに抱いたまま土に還るどんぐり 地球からごくゆっくりとヒトたちは退いていけたらいいのだけれども 交すものは音と光の合図のみ船と船そして灯台と船 ただ其処にあること霧笛を響かせて届かぬ光を投げ続けること ---------------------------- [短歌]睦びあう睦月/小池房枝[2011年1月17日23時58分] 吹雪いてた処も多かろ、此方ではこれが初雨。静かに優しく。 舞い上がった正月埃をほんの少しほんとに少しの雨が鎮める 恋人は何かの匂いのひとがいい焚き火の匂い潮風の匂い 失くしたか失くしてないか分からないままになってる銀色の指輪 電柱は温かいのか一本を背負ってスミレがちょこんと咲いてる 寒いのに空が高くてオオイヌノフグリがどこかで咲いてると思う ケータイで猫をこすって充電もできて火花も飛んだらいいのに やぁ久しぶりだね咲いたね車窓からあざみ野駅の梅に挨拶 午後四時半。水族館で退社待ちサラリーマン顔していたペンギン 苺狩りハウスの中からぬくぬくと苺も外の雪を見ていた 多い布フグリってそれじゃ褌(ふんどし)じゃん琉璃唐草よ星の瞳よ 公園を一周すると四十個咲いていましたオオイヌノフグリ いつ水をやればいいのかパンジーは凍土に伏して天水を待つ いつ餌をやったもんだかベランダのカメリー視線を投げかけては来る 草原の支配者カピバラこの国の動物園にて温泉に浸かる さめざめと氷雨季節を戻そうと降るので木々はそっと浴びてる 月は今、西から東へ太陽を渡るとこです気をつけてお行き よく冷えて帰って来たネコ花の香にも気づいたけれどもう夜だからね 赦(ゆる)すというこの字のこれは打つであろ?しゃくしゃくと赤く何をせよとや 折り紙の方舟いくつも乗り継いで海やまのあひだ海やまの限り あかあかと夕日は朱色の粉吹き芋雲からさかんなコークスが覗く 陽は鉄の熔けた色して夕空に大きな鍛冶屋が雲を展べてる ぬくい日はサクラもぷっと膨らんで夜には縮んで忙しかろうな 列を成す丘のキャベツは花嫁の緑のブーケにちょうどいいかも 一月の朝日は部屋から朝ごとに退いて行きます外を照らしな 脱字所で文字一つずつ脱ぎ捨てて街で裸の風を浴びよう 逢魔が刻春の不思議は夕景に蠢く藤城清治の木蓮 さくらたち今年もどれも咲いて出るやる気一杯で冬の芽冬の目 佐渡越しにウラジオストクが見える日が冬にはあると新潟のジョーク 雪という言葉を持つ国、持たぬ国。消える国そして新たに知る国 過ぎてから思い出すひとの誕生日グレアムきみは先月だったね 真紅とだけ聞いて姿を思ってた香りも知らぬエナ・ハークネス 海にある真珠の色を順々に全て纏って輝く満月 金星は朝当番です夕方の一番星を誰かお願い どれほどの花を孕んでか天からは百花の王の繚乱と降る 咲きそこねた梅が横向いて怒ってる今日は雪だよも少し待ちなね ビッグバン以前の何かの微かなるデブリなのかもダークマターは とも座ほ座らしんばん座が見えている何処へ行こうか星々の中を 飛ぶのなら飛び降りるのが簡単だ我もバベルの塔の一塊 一かけの蜜柑のような半月が電信柱に置かれていました 春やあらぬ花の香にあらぬ早過ぎるけれども風に何かが溶けてる 止んでからやっと気づいた昨晩の雨は何かをほどいていった 洗ったらネコふっくらして良い匂い数本ヒゲがヨレちゃったけど 違う星の神さま、私はここにいます。私たちと、そして人間たちも ---------------------------- [短歌]時のこちら側のフェブラリー/小池房枝[2011年2月7日20時20分] ボツリヌス菌がポツリと呟いた。僕、ボツリヌス。ポツリじゃないもん。 白鳥の王子の翼を手まくらに金の梯子をほどく娘子 ビロードのつぼみは輝くモクレンの裸体のための毛布だそうです その彼女 魔女にして塔のラプンツェル 白鳥を森の湖に囲う    竜田姫 佐保姫 冬はうつた姫?ネットに古き神の名を探す たまに聴く中島みゆきに煽られた程度で恋などするか自分よ 温泉の夏の匂いはああそうかプールの匂いだ消毒の塩素 明け方にふと目が覚めて外に出て見上げると空にサソリがいました クリムゾン・スターは兎の目でしょうか血の色でしょうか変光星です だるまさんがころんだ今日はどの花も咲いたりせずにじっとしてなね   鬼きった!明日は一気に三月の陽気だそうです春の子ら走れ   ツグミ胸の模様を見せて鳴き交わす季節のうちに声を聞かせて   沖縄より海を駆け来る桜たち緋色はやがて薄紅に変わる ランドセル歌えよ子らの背中から本や筆箱ぴょんぴょん跳ねろよ 雨脚は暮れていっそう忙しなく二本足等の家路を急かす 雨粒を弾いてピアノの音がする傘できないかな透明な和紙で   やわらかな雨やわらかな腕(かいな)して夜と土とを抱きしめている 何もかもまぶしい季節にさようなら草木は光を空へと応える 月も星も見えてるそれではさらさらと白く降り来るこれは何かな   ひとまわりちっちゃなすみれが咲きました すみれもともとちっちゃいのにね   ひとの生死に関わる覚悟をネット上で問われ少年「興味」と答える 金星と同じ色した金星という名のリンゴは果物の匂い 嵐明け水族館の前庭の波打ち際には貝の花びら   二巻きの二色の殻に白き肉包み守らせヨモツヘグイニナ 特設のチョコ売り場今宵撤去するバイトの兄ちゃん今夜は雨だね あたたまると猫は対流おこすらしいカーテンのぼって行くやつがいる デコレーションケーキのピンクのクリームの薔薇の飾りのような侘び助 太陽は誰も照らしてなんかいない此処には地球が回ってるだけ   ほら、あの木。桜かどうか紫に樹皮がなんだか光って見えない? 本という漢字は逆さに見てみると地面に咲いてるチューリップみたい モクレンのちょっと尖った蕾にはモクレン太郎が隠れていそうだ   ヴェガのぼれ夏の織り姫まず春のあけぼのを紡げ冬をほどいて   来月はモモの節句だカシオペイア遠い異国のぶかぶか上着の 湯がくとき一茎よけた菜の花よ咲きな咲かねば食べてしまうぞ 丸くなりもせず布団から首だけを出して寝ているうちの馬鹿猫   今頃の一番星はと見上げれば一つじゃなくて冬の綺羅星 半月は今宵さそりの心臓を訪うようです丑三つ時過ぎ 遙か遙か通勤電車で読む本は井上靖「シルクロード詩集」 一日の足しにしちゃれと「らき☆すた」を聞いて出勤まだ火曜日だぜ 宵越しの春一番に段ボールが横断歩道を渡って行った 茜さす紫野ゆき標野ゆき雪ダルマきみが手を振っている   フェスティナーレンテと呟き思い出す「はじめ人間ギャートルズ」の歌   わぁデージー今日は寒いねガーベラもタンポポみたいに花を閉じてる   電線にスズメが一羽、電線に積もった雪と降る雪の中に   まっすぐな海岸に沿ってひとすじに寄せ来る波はとても長くて 空のうんと上のほうの雪は空ほどは白くないのか灰色している   閉鎖花じゃないのにスミレ咲かないであたたかな虫の出る日を待ってる   ひやひやと雪の匂いの雨の日に寒くてもやっぱ図書館行きたい   ハルサリよ一日のみの蜉蝣よヒトも地球のエフェメラルだろう   妖精のようなそれとも青い石の名前のようなルーリン彗星 おおいぬのふぐり一面真っ青に咲いてたくさん実をつけなさい   真っ青な海をセピアにかえようとイカたち集って墨を吐きました   メデユーサの髪の蛇らも春までは眠れ静かな歌を聞きながら   寒の戻りお花は急に止まれないヒヤシンスもう咲き出しちゃってる   サザンカは去年の秋から咲いていてまだ咲いてるけど春に紛れた   宣言があってもなくても南風。春一番のような風です 襟元にノスフェラトゥの薔薇ふたつ人であろうとあるまいといのち ガーデニングの奥さんそれは花の苗というより実際ホウレン草では 玄関を開けたらいきなり半月が向こうにいたのでびっくりしました ケムンパスでやんすヒヤシンスでやんす両者互いに挨拶を交わす 梅の香を確かめたくて深呼吸・・・。今日は何処かで牡蠣鍋らしい 咲きたがってた車窓のミモザ今日ついに咲いちゃったのね明日は寒いよ   あたたかい風吹き荒れたねヒヤシンスのど乾いたろ?たんと水お飲み   未詩を思う未語をも思うそんな名の古の神がいたことも思う ---------------------------- [短歌]生えて来ていた弥生/小池房枝[2011年3月2日23時57分] 一昨日(おととい)が日蝕でした今日細い月を探すと見えていました カラス座が見える春には懐かしく地平線下の星々を思う 花たちの静まる気配に何事かと思えば空に月浮かび来る 向こうからこちらへことりと落ちてきたばかりのような明るい月です 冬天という響きの中つんと突き抜けて光ってた星たちさよなら 惑星もスピカも全てかき消して月だけが浮かぶ春霞の夜 半月の光も和らぐ春の夜さそりもふわりと寛いでいる   すあま二つ逢魔ヶ時に持って出て桜の下でたれぱんだを待つ 真夜中に揺らいだ海と島のこと聞いたら何を思えばいいのか 雨の日のカタクリかたく身を閉じて爪先立ちのバレリーナのよう   クッキーをひとからもらってうれしくて押入れにそっとしまいこんでる ささやかなものをたくさん見てきた日 次はあなたに早く会いたい   田の水を抜く時分にはオタマらの干からびセンベが出来るものです 掬い上げた小魚ぴちぴち網越しに掌の中で跳ねてうれしい 読み手ごと数多の読みを受け止めて尚も賢治はただ賢治である アネモネが咲くから風が立つのだろうあべこべでもいい春の相聞 三日月は桜に遊び桜らは三日月挿頭(かざ)す代わる代わるに 空き缶に菜の花一茎「なっちゃん」の笑顔も妙に得意そうです ブルーナイル、ブルーラグーン、ブルーバユー、薔薇の名前に水の青やどる 離島にてふっと見かけた人骨はあなたはちゃんと土葬の人ね? スミレからスミレ色した蝶々が飛び出してきてびっくりしました えぐられた傷の血肉が盛り上がるまでは時折かさぶたをはがす   グロリオサ地上に降り立つ瞬間の天使裂かれた翼ひろげて 掌にころんと濡れたサカマキのからの貝がら飴色の琥珀 南への夜行に乗ってトンネルを海でくぐれば火の国の桜 納豆の白い繭から納豆が羽根を生やして生まれてきません 揺すぶられ叩かれて花は散るだろう洗われて木々は輝くだろう   ベランダを乗り越えてまで春の夜の嵐が窓のガラス叩くよ   部屋中にイチゴの香りが溢れてる早くケーキに閉じ込まなければ 「かなしい」は零れて落ちる「かなしみ」は名前をつけて抱え込まれる 満開の花は寒さに守られて長らえるでしょう花の命を   一度咲いた花は氷雨に打たれても蕾に戻ることは出来ない 車窓から見えてる景色に身をおきに行こうかそして電車を見るんだ ピーとポー、ふー、ぐー、まー、以下、えとせとら。 怪しき家族ここに集えり。   片袖だけ通しておいで去る日には淋しい人にひかれないよう   クッキーを作りたいのに小麦粉をなぜか出す気になれない春の日  花梨きみの愛らしい花を覚えてる季節の最中に伐られた姿も ひとさおと何故数えるのかわかるよな箪笥は不思議な漢字をしている   よく冷えた空を通ってきたらしく雪はひらりとここに舞いました 人々の暮らしも基地も原発も何もかもなゐの上にある国 屋根の上こんばんおわぁと猫たちはおわんをもって托鉢においで わたしでんでん這い跡夜目にも光ります殻の中には無限の図書館   ツーツツツー草木や花の気ぜわしい春のモールス信号を聞く   ヒヤシンス羽ばたくようにオデットは上向きに咲いて両手を下ろして まだ濡れているアスファルトに青空が映って車は不思議ドライブ 喧嘩の喧「やかましい」って読むんだね鮮やかに出入り出来たらいいね 散る花は散れよ明日は沈丁花ばかりがせいせいしてるだろうさ コーヒーを座敷わらしが覚えたか昼下がりミルを挽く音がする 滾々と湧きあがれ天へ尽きることなく黄泉ではなく「楽園の泉」 オフィーリア生きてる君と舟遊びしたいね川をどこまでも下る 黒髪のラプンツェルその洗い髪のおごりの春のうつくしきかな   やまびこの最初の一つはどの山が囁き返すか耳を澄ませる 河畔林は宅地になって分譲中タヌキはどこに引越せただろう 梅の花ひとつひとつが律儀にも五つに散ります小さな白斑 「すごいなぁオレサマこんなに謙虚じゃん」 「それって不遜きわまりなくね?」 ナメクジにニャル子と名づけていいですか。這い寄る混沌 NYARLATHOTEP 花は咲くことを課されてはないだろう。ただ誰かとの約束だろう 舞い降りて水浴びしていた言葉たち羽衣とられてひとの詩となる ソラマメの形になったりツチノコに伸びたり春の猫の寝姿 鼻面を突き出してカメは春風に何の匂いをはかっているやら   青空の色をそのまま画素にして散りばめたようなオオイヌノフグリ 降って来るででぽの雛のピーの声ようこそ外の世界は広いよ すみれつぼみ固く閉じられたパラソルの先っぽが濃い紫している 一日の終わりに風を穫り入れるように洗濯物をいれます ---------------------------- [短歌]卵みたいな卯月/小池房枝[2011年5月17日20時03分] 始まりのながしそうめんひとすじの流れを開いた歌を覚えてる 水面へとそして空へと浮かび出たばかりのように濡れた満月 ぽっかりと伐りひらかれた森の中ヤブラン静かに工事を待ってる   なつかしい人なつかしい物語キツネの窓の向こうにも春 花びらは散り伏してからも風のたび立ち上がっては走リ廻るよ ストロベリーチーズケーキとバーガンディチェリーのダブルの溶ける速さよ    ユリノキの梢にぽっぽと緑色ともし火のように点っています 昼間見た残され池の雑魚らにも雨ふるらしも良かったねみんな 透明な小鳥は空に木蓮の白き遺骸はやがて大地に 身の内に秘するものなど何もないただ咲くだけさとサクラ全開 バールひとつ月夜の晩に拾ったらどうしてそのまま捨てられようか 梅の実がさやさや風に揺れていた若葉とおんなじ緑色して 実らない花ばかりなのに何故スミレ鮮やかに咲いて何と交わる きれいかと問われれば迷う八重桜たわわだなと言う君と見上げる   泣きたくて恋したわけではないけれど笑いたかったわけでもないよ 雨の日にスミレがたくさん咲いていたどっちも欲しくてずっと待ってた チンダッレ日本の花とは違うだろうけれどもツツジを見るたびに思う 桜走り今日はお休み花びらが路面の澪にダムを作った ヒヤシンス部屋には匂いがきつすぎる分かっていたけど入れたかったの   図書館が我が「祈りの海」読むことのユーフォリアそっと揺りかごを揺らす るすにする。るすとするーはちょとちがう。するとするーはぜんぜん違う   あしたたた明日は足が多そうな気がするスタスタ歩いて行きそう   リターンキー「こくう」が虚空になりました穀雨は虚空に生まれるものか さくら咲き終わって小さな篝り火のような花梗が落ち散らばってる ケムケムにつぼみの先をかじられて尚まるく咲くちびたタンポポ   月は誰かがこっそり其処においたものひとが見上げて目指すようにと   黒点は無く太陽風、磁気圏は共に静穏。ヴォネガット逝く 作家たちの訃報きくたびまだ同じ時代に生きていたのかと思う ちびかけた赤鉛筆を拾ったよ駅のホームで何してたんだろ 山道に怪しい案山子が立っているすっごく怪しい案山子の山道 歩く歩く吹く風の中に一歩ずつ自分の身体を差し入れてゆく   神は死んだ、とのことそうか、生きてたんだね。どんな一生だったんだろうね 醸された昼の桜や菜の花と晩のカレーの匂いがする風 斜面ふと見あげればスミレ好き好きにあちこち向いて咲いていました 植えたはずのない百合すいと立っている今年来るのは誰の百年 高層のあわい砂漠をはろばろと月がゆきます砂に染まって   裏側にからざがあって天蓋にぶらさがってる月だといやかも   月はかつて何したものかとシジフォスがプロメテウスと不思議がってる   ほとんどの星が静かには尽きぬものか新星発見ニュース相次ぐ あんたまだそこにいるのね低気圧ゆっくりというかやたら長寿ね   骨ならば二百余ひとは柔らかな部分はどこまで数え得ただろ 成り成りて成り合はざるも余れるも一処ずつどころじゃなくって 細やかに砕かれた緑まぶされた銀杏にひとさし金色の夕日   月は今宵なにかを覗きに来たらしい土星だよそれは輪っかがあるでしょ ひとひとりの重さを思う新雪のような花びら踏んでゆくとき 問われたら素直に静かに答えよう誰かいますか誰もいません 四月でも雪になるかとふと思うつんと冷たい風が吹いてる 沈み果てる前に春先長くなる日脚に呑まれ消えゆくシリウス ものかげの花に気づいてやぁと言うと近くの猫がニャァと答えた   タイミングはかって花の吹き溜まり蹴り上げてみたが風に乗らない   まじまじと蕊を見てるとウメもモモもサクラもやっぱり薔薇科と思う   風ここでそんなふうにも動いてたの渦巻く花の軌跡目で追う さくらさくら行ったり来たりくるくると向きを変えたり舞い上がったり   鯉の背が水を分けてくそのたびに花びらがすっとよけたり触れたり ぼさぼさとあまり手入れのされてない梅林の底シロバナタンポポ   花信風双六一気に立夏まで咲きあがらんと荒れる雄風 君はもう咲き終わったろチューリップ。 ここにお座り、五月の風だよ ---------------------------- (ファイルの終わり)