非在の虹[鳥獣虫魚] 2009年3月8日16時08分から2016年1月18日22時11分まで ---------------------------- ?????????????????????????????????????Τ?????????μ???????????????????????????? ???ΤΤ???????????????????????????????????????????л???βν????????????????Υ??????????????Ф???Τ????????????? ????????????????????????????????Τκ??????? ??????????????????????κ?????????Τ??????????????????????????????? ?????????????????????Τ?????????Ф??κ????????????????? ---------------------------- [自由詩]毛虫/非在の虹[2009年3月8日16時08分] 湿気と暑熱が凝り固まるジャングルの奥 そのはば広の葉の重なりを覗きたまえ 黒く蠢くものこそ無数の毛虫 黙々と食べ累々たる糞を垂れる 糞は山となりジャングルとなる すなわちジャングルとは彼らの糞であろう 濃緑の闇濃い体の深奥は毛虫 ジャングルの正体を知る者はいない 糞とはバナナの葉と羊歯の葉であり 光る瞳孔の黒豹の母であり 黒豹の餌となるバクどもの父 サクサクという咀嚼音は大きくなる 光を食い光を生み闇を食い闇を生み出す 世界のうらがわに無数の毛虫がはりついている ---------------------------- [自由詩]蛾/非在の虹[2009年6月11日18時53分] 隠さなければいけない過去 隠されてしまう過去 脂汗が流れるときだ 見付かってしまうポートレート 今朝わたしは一匹の蛾を発見した それは見事な蛾だ たれもみつけられない たれもくれやしない 愛する人の命のような蛾だ こいつにだけは打ち明けられる 憐憫の恐ろしさを 閉ざされた部屋の安逸を こいつにだけは打ち明けられる 存在しない時間の束 わたしは、以前おまえに会ったのだよ ---------------------------- [自由詩]亀/非在の虹[2009年6月12日21時09分] 歳経てその泥亀が石となったのは三世紀の事であった アレクサンドロス大王がしばし馬を休めてチグリス川に憩うた時 その亀は大王の右足の傷を認めたのであった 亀はたちどころに卜し、大王の死の近い事を知った 亀は中央アジアを北上しロプノール湖に棲んだ 岸辺の都、楼蘭に登る月が五年に亘って赤かったある日 最早この国の命運の尽きた事を亀は悟った この時、海亀よりも大きくなっていた亀は長江へ棲みかを変えた ついに亀の大きさは小山のように大きくなった 亀は自らがどこまで大きくなるものか、それだけは判らなかった 漢の武帝によって不老長寿の秘薬として追われたのもその大きさ故であった 何処とも知れぬ土地に辿り着いた時、たちまちにして亀は死を向かえ石となった 石の甲羅 石の皮膚 石の爪 石の血 見開かれた石の目  石の心は今、漸くにして砕けた ---------------------------- [自由詩]金魚/非在の虹[2009年6月12日21時10分] 机から滴り落ちる水 机には陶器の水差し 水差しの中に一匹の金魚 ブロンズのように沈む 誰も覗かない部屋の誰も触らない机 その上の誰が置いたのか分からない水差し 金魚は目を閉じて永遠にひれを揺らす 孤独の楽しさに孤独に笑う 窓も閉じた暗い部屋の黴の臭い ごく稀に跳ねる金魚 ポチャンという音を聞かれる気遣いはいらない しかしこの赤い鱗の小魚の愉悦はもう続かない まもなく襲う災いが水差しを倒す 床で跳ねる金魚を水に戻す者はいない ---------------------------- [自由詩]鷹/非在の虹[2009年6月16日17時44分] 荷を負う人々の足 裸足の足裏に小石のむごく食い込む しかし頓着はない 人々が見上げているのは一羽の鷹 苦役に口を開き 前後の者を探す目は黄色い 荷の重さは刻一刻と変わり 頭上に日はないが鷹はいる 鷹 お前は眼下の営みを解さない しかし 空のその位置で葉陰の禽獣を見逃さず 空のその位置で枯れてゆく泉を見逃さない 塔のある世界から孤立し 鷹よ お前が欲しいものは気流だ  肩怒らせる積乱雲がお前を見据える ---------------------------- [自由詩]蝶/非在の虹[2009年6月16日17時46分] わたしが蝶であるなら 世界が剥き出す筋肉の紫の静脈の盛り上がりを ペロリと舐める その時の世界の激しい快感を 想像出来る わたしが蝶であるなら 世界が秘めている恥部 その柔らかく熱い粘膜の奥を  ススッと擦る その時の世界の身悶えを わたしは想像出来る  蝶よ 毛だらけのストローの口持つものよ 理性のひと羽ばたきで 世界の頭部を砕け べとべとした快楽に脳は煮えたぎっているだろう  わたしが蝶であり 蝶はわたしであるなら わたしは快楽を与え それを受け入れるみだらな虚け わたしは世界を死に至らしめ わたしの死体もそこに転がる  ---------------------------- [自由詩]毛虫/非在の虹[2009年6月19日16時29分] 湿気と暑熱が凝り固まるジャングルの奥 そのはば広の葉の重なりを覗きたまえ 黒く蠢くものこそ無数の毛虫 黙々と食べ累々たる糞を垂れる 糞は山となりジャングルとなる すなわちジャングルとは彼らの糞であろう 濃緑の闇の濃い体の深奥は毛虫 ジャングルの正体を知る者はいない 糞とはバナナの葉と羊歯の葉であり 光る瞳孔の黒豹の母であり 黒豹の餌となるバクどもの父 サクサクという咀嚼音は大きくなる 光を食い光を生み闇を食い闇を生み出す 世界のうらがわに無数の毛虫がはりついている ---------------------------- [自由詩]猫 ?鳥獣虫魚より?/非在の虹[2010年8月6日10時26分] 合歓(ねむ)の木の上で眠りをむさぼる不らちな内臓 不透明な猫が目覚めたところだ 今そこにいた所に白っぽい魂を残して 静かにとなりの木に移る 走り去る猫 睾丸は膨らみ過ぎて目玉と区別がつかぬ 瞳孔を縦長にして 静かにとなりの木に移る なぜ許されるのか その怠惰を 鳥類の動きすら追わず 「あしたのてんき」のみに耳そばだてる 猫は廃墟の比喩となるべし 猫は藻屑の比喩となるべし 空から尿が激しく降り出す         2002年初稿 2007年弐稿 2010年参稿 ---------------------------- [自由詩]犬  ?鳥獣虫魚より?/非在の虹[2010年8月10日11時35分] 転がる空き缶を追う犬 犬は追う生き物だ しかし犬は追わない 目前の暗闇を 餌の残りを掘った穴に隠す犬 犬は穴を掘る生き物だ しかし犬は掘らない 飼い主の墓穴を わたしはそれを不誠実だと考える 少なくともわたしだったら 目前に在るものしか追わない わたしは犬を不らちだと考える わたしだったら 殺した者の墓はすべてわたしが掘るだろう         2005年初稿 2009年弐稿 2010年参稿 ---------------------------- [自由詩]とかげ ?鳥獣虫魚より?/非在の虹[2010年8月12日0時59分] 焼けた石の上を滑らかにすべる水銀 光ったかと見えてそこにはない それは一匹のとかげ 生き物であることを頑なに拒否する 草むらに放られたまま忘れられたナイフ 発見からまぬがれる殺人事件の凶器 それは一匹のとかげ 自らを人殺しの道具として疑わない このきめ細やかな爬虫類が歌うことはない 歌えないのではない 信じたものに歌はいらないのだ 生物の汚名をしりぞけ 金属の栄光を生きるとかげは 腐食しないように日向に現れ日向から去る        2004年初稿 2007年弐稿 2010年参稿 ---------------------------- [自由詩]白兎/非在の虹[2011年7月19日11時19分] 白兎は視界から消える 羞恥にまみれ、しかも無防備に 何も見ていない兎の目 盲目の充血が痛ましく雪原に消える 去った後に残されたもの 汚された雪 汚らしい食い残し おびただしい丸い糞 こどもが抱きしめるぬいぐるみに似て しかも肉の臭い 充満する血と 薄皮の中の死 白い毛皮の下の生々しい肌色 赤い肌色を覆うボツボツした毛穴 毛穴の奥には何もない暗黒 ---------------------------- [自由詩]紅鶴/非在の虹[2011年7月19日12時33分] 紅鶴をご存知だろうか 災厄という災厄を一気に引き受け 苦笑いをしている あの嫌な鳥である この鳥はしかしなかなかに美しい 羽など一枚も生えていないし 尾もない 何よりこの鳥には頭部がない 実は私は一羽をひっそりと飼っている 深夜ひとりで聞く紅鶴の鳴き声 私は人知れず感動に涙するのだ この事を誰にも知られたくない 知った者は鳥を奪いに来るだろう きっと私を殺すだろう ---------------------------- [自由詩]猿/非在の虹[2011年7月21日20時13分] 小さい蓑でも欲しそうな猿がいる バスで山道をたどって行くと 樹木の陰にちらりと見えた 芭蕉なら喜びそうな猿だ 猿は群れから離れたのだ 猿は群れを憎んだのだ 群れには暗黙の了解があるから 暗黙の了解に従わせるから ボスはその猿を激しく咬んだ 猿は痛みの中で仲間の猿の苦笑いを見た 落ちていた石をつかんでボスの脳天を打った 血まみれでボスは倒れたが ボスと仲間への憎悪は消えなかった そんな一匹の猿が時雨の中で動かずにいた ---------------------------- [自由詩]かわうそ/非在の虹[2011年8月1日14時52分] かわうそは水をくぐる 水は瑠璃色に光り、水音は鈴だ そう言うかわうそは嘘つきなのだ かわうその棲家は荒れて、臭気すらただよう かわうそは魚を獲る 餌はあふれるばかり手当たり次第だ 嘘つきかわうそは得意げだが 魚はほとんどいないし、たまに捕れるものも嫌な味だ かわうそは虫も鳥もいないことが気にかかる 空の色がみょうに赤いのも気にかかる 嘘をつく相手が減ったことが一番気にかかる かわうそは水をくぐった かわうそは魚を獲った いつもと変わらないと、自分に嘘をついた ---------------------------- [自由詩]なめくじ/非在の虹[2011年9月19日13時43分] なめくじの聞こえない歌声が家の下から聞こえる なめくじの湿った心がぬるぬるの木屑から立ちのぼる なめくじがゆっくりと顔をめぐらして食い物を探している 大食いなのだ この楽観論者は 金属質の足跡を残しまるで 歌うことが楽しくて仕方がないように 軟体動物の微笑ましいわき腹をくねらせている 今日も聞こえるよ 排泄物だらけの路地裏の歌姫の歌が なめくじの銀の道に従い なめくじに従って喜びの歌を心に呟き 土砂降りの中を行進しよう なめくじについて行こう この道は見つけやすいから そして塩を浴びるんだ みるみる縮む安いストライプ ああ溶ける溶けるとその顔は笑っている ---------------------------- [自由詩]カマドウマ/非在の虹[2016年1月18日22時11分] カマドウマは笑う バスルームに人はいない カマドウマは糞をする バスルームに水音が響く カマドウマは眠り、目を覚まし呟く わたしは哲学者だ と キッチンの片隅のカマドウマは妊娠している 胎に溜まった大量の卵が カマドウマを幾分苛々させている だからどうしてもジャムプが右へ逸れるのだ 深夜、私はこっそりとあいつらの様子を窺うのだ あいつらほど私に無防備なやつはいない バスルームで不可避のジャムプを行う カマドウマは高笑いをしている 廊下でドアの前で、そして寝室で ベッドに登り、触覚を振り乱し、私に好意の眼差しで飛び掛る ---------------------------- (ファイルの終わり)