落合朱美のtonpekepさんおすすめリスト 2005年6月7日20時55分から2006年7月18日10時19分まで ---------------------------- [自由詩]夏の日(III)/tonpekep[2005年6月7日20時55分] ぼくは歌わなければならない 風をひとつ折って その先で 記憶する 読むことのできない詩集の中で ぼくは歌わなければならない 花と恐竜の足跡を辿れば やがてぼくらは海の波のひとつであることに気づくように ぼくは歌わなければならない 恋人の滴り落ちてゆくその下に 果実をひとつ置いて ぼくはきっと歌わなければならない方角を 捜さなければならない 千年の雲の行方を捜し続ける旅人のように ---------------------------- [自由詩]夏の日(II)/tonpekep[2005年6月7日20時59分] きみは静かに 美しかった この土地はきみの中で生まれ きみは一滴の 沈黙の中で ぼくの愛を生んだ 走り去ってゆく時間は さまざまの彩りの中で きみの姿を奪い去ってゆく 空を穴が空くほど見つめていると ぼくは涙なんかを流していたりする ---------------------------- [自由詩]夏男/tonpekep[2005年7月5日17時50分] 夏のことをよく知っている人がいて その人は 例えば緑の葉っぱを重ねたような人で ときどき 鮮やかな花を咲かせていたりする ただ画家がその人の絵を 描こうとするとき その人は たちまち恥ずかしそうに崩れ落ち 小さな川の流れになるような人で 絵の中では 網を持った子供らの水飛沫になっている わたしの夏はそうやって 繰り返してきたように思う そうしていつの間にか大人になった 今じゃ夏のことはよく分からない ときどき夏のことをよく知っている人を 子らの絵の中に見かける ---------------------------- [自由詩]siranai/tonpekep[2005年7月12日20時29分] あなたはわたしの何もかもを知らないし わたしはあなたの何もかもを知らない それでいいと思う それでいいと思ったら 夏の柔らかい部分では 雨の方で都合をつけて わたしとあなたを 水たまりにする そこに集まってくる花たちは わたしとあなたを これから語ろうとするために 根を潤したりするけれど 上手に語ることが出来ずにいる けれどもわたしの約束は あなたの全てを知っている あなたは わたしの約束を覚えている 水面を削ぐように 夏の風が わたしとあなたの 思い出を飛ばし続けている あなたはわたしの何もかもを知らないし わたしはあなたの何もかもを知らない それでいいと思う ---------------------------- [自由詩]なんとなく包まれている/tonpekep[2005年7月25日20時35分] 初めて道を歩いた人はどんな人だったろうと ものすごく高尚なことを 考えていた朝であったけれど 眠ってしまった 目が覚めてしまうと 体中にぐるぐると包帯が巻かれている 木乃伊取りの夢なんかを見ていた気がするのだけれど 取られる側になっていた どこかの箇所で ぼくは引っ掛かっていて どうやらそこから ぼくの思い出はこぼれ続けているらしい 感傷に浸っている場合ではないけれど このまま巻かれっぱなしでも いいかもしれないと こぼれ続ける思い出は包帯を青く染めている ---------------------------- [自由詩]始まりの秋/tonpekep[2005年8月29日22時25分] 夏が去っていくと 雲の足音が聞こえたりする 道程はうっすらとひかって わたしの側で 秋はひとりでに語りだす もの音は静かに出会ったりする さよならの方角がすこしずれてたりして ときどきわたしは 誰かの落とし物を拾ったりする 秋はゆっくりと覆る そうして昔話なんかが零れたりすれば 洗い晒しのカッターシャツが涼しく感じられる 幾度となく夏の記憶に 秋のひかりがしみ込んでゆく 傾斜した風の上を転がっていくやさしいものたち 傷つきながら転がっていくやさしいものたち 両手を広げるなら鮮やかに色づくものたち 祈りのようなものとして わたしは受け止める ---------------------------- [自由詩]ひとつの秋に/tonpekep[2005年9月4日21時19分] 何もない処に秋がやってくるとき ひっそりとして わたしは言葉の行方を知らない わたしはわたしを有りの侭にしている 夕くれに空はふりだし 空はそこらじゅうで実り始める 声を掬ったりすれば わたしは誰にもみつからないよう光の透き間に入り込む 何気ない言葉を洗濯すると 美しい響きになる それは陽に染み込んでいくようにして 秋の化石になったり 明日の辺に埋まっていたりする 遠いものたちのこどく 気づいているものたちのこどく 語り尽くせないこどく 呼吸を 美しく散在できる場所はどの辺りか 言葉を 遠のいてゆく音色にのせる わたしはそれを悲しがったりしない ---------------------------- [自由詩]振り返るとき/tonpekep[2005年9月13日18時41分] 風が吹いておりました 風が吹いている日に飲む野菜ジュースは哲学の香りがするのです そんな日は詩を書きたくはないのです 空があまりに無知なので わたしの青春としての位置づけは もう随分と前に光の中に埋葬されましたけど 残像はときどきぼんやり道を歩いていたりするのです そんなときわたしははっとして声をかけたりするのです 「きみはいつの青春ですか」 「いえ、わたしは随分と古い青春です」 「それではわたしはきみを失ってもいいわけですね」 「いえ、滅相もありません!わたしは随分と楽しかったりするのですよ!」 声をかけると振り返る雲の群 青春には順序があって それは正しい配列に並んでいるのです 遠くで光ったりするそれは青春だったりするのです 何処かにゆっくりとした時間の落とし穴 ときどきそこに落ちたりする それが青春 叫びたくなる青春だったりするのは間違いではありません ---------------------------- [自由詩]胃袋の秋/tonpekep[2005年9月16日20時08分] 炊飯する ごはんはきっと海苔で巻かれたい 秋刀魚焼いてみる 秋はその辺りでちりじり色つきはじめる お米は海を知らない 秋刀魚は畝を知らない けれどもぼくは知っている そこでぼくは海について畝について お米と秋刀魚にそれぞれ話しかけたんだ ただ 季節の重なり続けたかれらの身の 美味しいことは話さなかった やがて静かに それぞれの 身に醤油をたらす 胃袋は切なく啼いたかと思うと 秋の訪れをまちかねていた ---------------------------- [自由詩]約束/tonpekep[2005年9月27日20時03分] あなたの方で風が吹いている わたしはわたしで知らないことばかり捜している 秋がそこらじゅうで溶けはじめるとき 空き瓶には夕くれが満たされるとき 幾つもの詩を繋げるようにして わたしはあなたを見失ったりしない ただすべてを忘れてしまったりする ふるえるほどのかなしさが実は愛であったりする ひとつの道が秋によこたわる わたしは頑なで その道のほかを知らない 美しい彼方の約束がある わたしは空に考え事を浮かべながら 透き通る人々の横を通り過ぎる ---------------------------- [自由詩]風邪流行ってます/tonpekep[2005年10月25日17時47分] ぞくぞくするものだから 風邪をひいたように思ったのだけれど なんだ 背中に離婚届が貼り付いていたのか ついでだから その上から婚姻届も貼ってしまおう 少し温かくなるかもしれない それでも何だか優れないので 体温計を郵便ポストの受け口に差し込んでいると 角などどこにもない一本道の 角を曲がって 郵便局のおじさんがやって来た なぜか黄色いヘルメットを被っていて なぜかそこに世界安全という文字が書かれてあって なぜかでっぷりしたお腹の下の方では ライダーベルトの風車がくるくると廻っていた 「ショッカーはきみの悪いこころの中に潜んでいるぞ!」 そう言ってぼくに 遅すぎる年賀状を届けてくれました あけまして/おめでとう/今年もよろしく/酉 誰からだろう そう思って裏返してみると 鈴木智と書かれてあった 鈴木智って誰だろう 日本で一番多い名字の鈴木さんに ぼくはたった一人も知り合いがいなかった チーンと鼻をかむ ティッシュペーパーの中は 花びらでいっぱいだった 何だか無性に涙がこぼれた ---------------------------- [自由詩]鳥瞰図/tonpekep[2006年1月21日19時27分] 空が飛んでいる 空が飛んでいるので全ての羽が浮上する 見つめることはいつだって透きとおる 見下ろせば ものの在りかはかなしい 重力の堆積が歴史で出来ているなら ぼくらの言葉は足跡のように点々として あちこちの道につづいている 未来も過去も今もぼくらの足跡は重なりつづけている かなしいことをかなしいと言える動物が好きです それは微塵子のようなプランクトンでも好きです かなしい動きをしている動力が好きです いっそのこと大気圏さえ越えたらいいと思います 見下ろしてしまえば空も重力も足跡もなくなり 青い丸だけ見下ろせばいい ---------------------------- [自由詩]緑のたぬき/tonpekep[2006年3月3日20時27分] 緑のたぬきとして暮らしている 暮らすことに対しては苦痛ではないけれど もう随分と古狸であるものだから 化かされているんじゃないのかと ボンズで飲み食いした後 カードを使用すれば 店員は裏表をライトに翳して くるくるくると頭の上で確認している 葉っぱじゃないですよ それは昔々4チャンネルのことです 咳払いをひとつしてネクタイを締め直す ぷらぷらとネクタイを揺らしながら バス停に向かうと そこはいつでもお花畑で 時刻表には 到着時間が記入されているのだけれども 「なるべく努力します」とか 「頑張ります」とか 「行けたら行きます」とか 言い訳のような時刻ばかりで 最終の時刻には 「俺ばっかり!」なんて書いてある 今晩は妙に明るいなあなんて思ってお花畑を見つめていると 小さい花がたくさん咲いているとばかり思っていたのですが それは小さい満月がたくさん光っているのでした といつの間にかわたしの側には 双子の小さな女の子が待っていて 「猫バス来るかなあ」 なんて呟いているのでした 何か間が持たないような気分になって 心臓に汗がたら〜りとしたような感じの中で つい たんたんたぬきのキンタマの歌を口ずさみましたら それが双子の女の子には非常にウケて みんなで猫バスを待ちながら合唱するのでした 満月のお花畑の中で繰り返し繰り返しリフレインする 風もないのにぶうらぶら たぬきの術は禁止されているのですが 月の葉っぱを3枚千切って ざるそばを作りました 「ざるそば大好き」と言ってくれました ---------------------------- [自由詩]長い洗濯/tonpekep[2006年3月9日20時22分] 長い洗濯をしていると パンツもシャツもくつ下も きれいになって 空を飛べるようになる 洗濯の匂いが土にしみ込み そして全ての建築物にしみ込み 青い空で見えない 全ての恒星にしみ込んでゆく ぼくらのパンツやシャツやくつ下は 飛行力学の常識を覆して高く高く舞い上がってゆく ちょうど空の背骨のように直列になって 干すものをなくしたぼくらは 見上げるしかなかったんだ 明日からのことを考えながら 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江戸時代の船場のことなど考えている 船場には日本中の船が集まっていた 千石船は夢を搾取しつづけていたのかもしれない 荷が下ろされて たくさんの夢が船場の蔵の中に蓄積される 船場は夢の重さに耐えきれず あちこちで 大きな音を響かせては底を抜かした 夢は儚い つゆとおち つゆときえにしわがみかな 浪花のこともゆめのまたゆめ 城攻めはわしにまかしてちょ! 城攻めは得意中の得意だぎゃ! 船場の妻は そんな生活が耐えられなくて よく実家に帰った それが日本の伝統になる 一所懸命に 自己中心でありたい 一所懸命に 自己中を守りたい かなしいもんが溢れつづけている 自己中にダムのようなものを築いて かなしいもんを堰き止めたなら 誰かを幸せにできる電力を作れるだろうか 夏のお茶漬けにしば漬けは美味しい さらさらとお茶漬けは食道を下る さらさらとお茶漬けが流れていった後で らっきょを食べるとものすごく美味しかった 沢子と呟いてみた ---------------------------- (ファイルの終わり)