Lucyのひだかたけしさんおすすめリスト 2016年5月3日14時14分から2020年7月14日19時55分まで ---------------------------- [自由詩]楽音宇宙.2/ひだかたけし[2016年5月3日14時14分] 漂い波打つ 波打ち漂う  響きの光の   光の響きの 渦巻き潜る 潜り渦巻く   光の響きの  響きの光の 集まり造る 造り集まる  響きの光の   光の響きの 聳え立つ黄金の城郭 高鳴るラッパの旋律 [全ての苦痛一切は絶滅し] 私は憩う、調和の響きに光彩に    連れ出され    内なる外へ   光の交響する海 あらゆる色彩打ち鳴らし ---------------------------- [自由詩]駅前の雨(改訂)/ひだかたけし[2016年6月7日12時51分] 細かい雨が降り続くなか 最寄り駅前のロータリーに着くと くるくる廻るビニール傘 黄色い小さな長靴履いた 三歳くらいの女の子が くりくりまぁるい目をキョロキョロさせ立ち止まっていて 通りかけた僕が思わず笑いかけると ニッコリ笑いを返し隣の母親を見上げた 三歳の娘を専業主夫をして育て溺愛してた頃 友人の女性が言っていたことを 僕はふと思い出した く 「三歳のまりちゃんは二度と戻って来ないんだから今を大切にするんだよ、今あなたは三歳のまりちゃんと居るのよ」 パパ、という声にハッとする 振り向くとさっきの女の子が すぐ傍に横付けされた車窓に手を振っている 俺は今いったいどこにいるのだろう? 僕は混乱して立ち止まる 人はいつも神と共にあるんだよ、牧師の友人はそう言っていた 僕はその言葉を思い出し怒りが込み上げてきた 愛する人、愛情を注ぐ人と共に居るからこそ神は在るのだ 単なる観念ではないカミが 女の子は母親と共に鮮やかな青の車に乗り アイドリングしていた車はすぐ発進した もう二度とあの女の子のニッコリ笑いを体験できないだろう もう二度と愛娘の息遣いを温もりを体験することはないだろう (「パパと好きな時に会えるなら」という娘の条件付きで一昨年離婚し、それが元妻に強制的に何処かに連れ去られた高校3年の今の彼女は何を思っているのだろう?) 今は自分が何処にいるのか、まるで実感できない んだ あの時の女友達に僕は心の中でそう呟く ---------------------------- [自由詩]高貴/ひだかたけし[2016年9月18日21時28分] 激情を極め 静けさを極め 祈りながら認識し 認識しながら祈る この飢え切った界で この哀しみの界で 導かれ 諦め 静謐に包まれ 光り輝くあの日の君を 僕は決して忘れない ---------------------------- [自由詩]脱出/ひだかたけし[2016年11月10日21時45分] この夜に目が覚め この夜底に触れる 私にはもはや 親兄弟家族親族はなく 現世的無縁仏だ 円やかな現世孤児だ そこでは  私という存在が剥き出しで そこでは  私という存在が真っ裸のすっぽんぽんで 実にスッキリとしたものだ 恐怖と歓喜の段々畑 うねりダイレクトなコンタクト この夜の底でこの柔らかな底で 私は限りなく境界の縁に触れる 私だけの死の門を垣間見る 門番は豪壮で醜悪な私の分身に過ぎない 夜底はやがて夜明けと共に 紫から橙、黄から壮大な黄金へと 染め上げられていくことだろう 私はその瞬間を捉え からからからから 廻り昇りゆく 宇宙の風道に乗れるだろうか ---------------------------- [自由詩]セイシン科医/ひだかたけし[2016年11月15日19時27分] 「疼痛発作の周期が短くなっているんですが」 私がそう言えば 「疼痛発作で死ぬことは 前から言っている通りあり得ません」 カルテを見ながら無表情に応える医者 死んで新例作ってやろか 私はそう思いつつも ケチ付け門前払い ハ己の損と 軽く微笑み ソウデスヨネ 医者もソウソウと満足顔 もはや怒りも沸いてこない 薬を貰ってさっさと帰る 3時間半待ちの夕刻は 秋風激しく朧月夜 ---------------------------- [自由詩]〈根源悪〉の原体験(新訂)/ひだかたけし[2016年11月20日17時49分] 薄暗い 漠然と広がった 空間のなか 台形で ノッペリとした 大人の背丈半分程の 鉛色の工作機械が 等間隔で何台も 一列に並べられている 大きな金属音があちこちから 互いに呼応するよう 規則的に響き渡る 人影は全く見当たらない 三歳の私は 並んだ工作機械の一番奥隅で 両耳を手の平で強く塞ぎ 背をできる限り丸め うずくまっている 私は 自分の存在が ナニカに気付かれてしまうこと そのことにただひたすら怯えている と いつのまにか工員が一人 機械工場の入口に立っている 工員は 灰色の作業服姿に つばの付いた 灰色の四角い作業帽を被り 背が高くマッチ棒のように痩身だ 私はうずくまり目をきつく瞑っているのに 彼の姿やその思念がつぶさに分かってしまう 彼の注意は 最初からジブンに向けられている 彼は私の存在に気付かないふりをして 刻一刻と私に向かって近付いて来る 逃げなければ逃げなければ! 私は恐怖に大声をあげそうになるのを必死に堪えながら 立ち上がろうとする が そこから動くことは決してできない ふと一斉に 響き渡っていた金属音が止む 私は思わず顔を上げる 〈彼〉が工作機械の上から私を見下ろしている 〈彼〉のつばの付いた灰色の工員帽が見える ガ 工員帽の影になった 〈彼〉の顔ハ 夜の砂漠のように茫漠たる闇で その奥からギチギチギチギチと 執拗に歯軋りを繰り返すような 異様な擦過音が響き続ける 「わっ!」と叫び私は目覚め ベッドから上半身を起こし 荒い呼吸を繰り返しながら 思わず後ろ手を付く ト 眼前の 灰色の漆喰壁 襖張りの白い引き戸 ガ 豆電球の仄か黄色い明るみの中 浮き上がるようにして 在る 日常当たり前にあったものが 今や剥き出し露骨な匿名性として 冷たい無機質な虚無の塊として そこに在る 私が呆然として その光景を 凝視していると 次第に ソレラガ ウゴメキハジメル (辺りにいつのまにか響いている「ヴゥー」という低いモーター音と共に) ト唐突 ソレラが 無数のザワメキとナッテ 一斉に立ち上がり 一気に私の中に 雪崩を打って 侵入して来る このままではじぶんがじぶんでなくなってしまう ジブンガカレラニ奪ワレテシマウ! 私はもはや夢も現実も錯綜した混沌のなか じぶんの名前をひたすら反芻しながら 半狂乱にナッテ脱出口を探す 逃げなければ カレラカラ逃ゲナケレバ! ---------------------------- [自由詩]今日の午前に/ひだかたけし[2017年8月11日13時18分] ああ なんていい風だろう みんみん蝉が緑の木立に鳴いて 大きな鳥が素早く飛び立ち 鬱々とした気分が 涼やかに洗い落とされていく この高曇りの八月十一日 [目を閉じれば未だ 橙の光彩のなかを ふわふわと海月が 泳ぎ漂い溶解する] ああ なんていう日だろう 疼痛は相変わらず眼底を抉り 立ち上がれば体は鉛だ けれども、 今日を生きる準備は整った この夏の合間の秋風に ---------------------------- [自由詩]夢の底/ひだかたけし[2017年8月20日3時06分] 反転した 薄暗い影の なかに 取り込まれて 居た なんだったかな 何処だったかな うちゅうの窪みに 休らって 然るべき場所に確保され 受け留められて ふんわりと明るみ目覚めた 午前2時半 反転した 薄暗い影のなか わたし、 久々に憩っていた 夢の底 無底の宇宙 の記憶残像 未だ響き在り と 夢のない眠りの界に 生かされていたこの感触 ---------------------------- [自由詩]飛翔/ひだかたけし[2017年8月22日5時28分] 朝だ もうこんなに明るい のだね 不思議だよ、 それにしても 昨夜はあんなに ふらふらだったのに 今朝まで一眠りすれば 力、漲り こうして詩が書ける駆ける 眠りの底から 力が汲み出される限り まだまだ生きて活きて行けるんだ 朝だ! 今日もまた この混沌狂い始めた濁世の界に 己魂、飛翔する ---------------------------- [自由詩]虹の立つ/ひだかたけし[2017年9月12日21時34分] 虹の根元を今日の夕暮れ初めてみた 輝く太い白柱、虹の弧を支え 余りにリアルなその立体の佇まいに 遠い遠い常世から        繋がり報知する    そのサイン  確かに見事に聳え立ち 僕は唖然と立ち尽くしていた 女の子達が夢中で写メするその傍ら         ---------------------------- [自由詩]息遣い/ひだかたけし[2017年9月16日16時14分] 今日の午前三時 痛む肉を携えて 部屋の暗闇に沈んだまま 私はひたすら夜明けを待っていた その時また 意識のふわりと広がり始め 頭上から垂直に響く 無数の秘やかな息遣いに じぶんの息遣いも混じり合い いつしか私はうっとりと 澄み渡る気に包み込まれていた 気付くと一匹のコオロギの 鳴き声だけが静けさに 遠く近く木霊していた ---------------------------- [自由詩]ありがとう/ひだかたけし[2017年9月22日21時25分] 静かだなあ 今夜はなんとも静かだ 昨夜からの疼痛が 今は嘘のように収まって 気持ちも まぁるく落ち着いて こうして詩の言葉を綴る自分が居る ちらっと記憶の奥を覗いてみたり 火照る身体を触ってみたり まるでじぶんで自分の 生存確認をしているみたいだ 外は秋雨降り注ぎ 窓から見える校庭は 街明かりを映しながら すっかりびしょ濡れ水溜まりだ 明日はいったいどうなるやら こんな静かに落ち着いた夜は もう滅多にないから詩を綴る 宇宙工房から織り糸通し 真っさらな時空を ありがとう ---------------------------- [自由詩]わたし/ひだかたけし[2018年9月17日14時43分] うねる雲を見ていたら わたしは私でなくなっていた わたしは流出して溶けてしまい 涼風とともに雲をかき混ぜていた ---------------------------- [自由詩]時の開け/ひだかたけし[2018年11月9日22時40分] 今宵、 白い部屋に 在るもの在るもの 自らの輪郭を鮮明にして 回流する澄み切った夜の空気に すっかり馴染んで留まっている 横たわっている私もまた寛ぎ 在るものたちと繋がり合う 揺るぎない今の内に在る 時の進行は止めようもなく しかも不断に 時の開けは到来する 時の減速と不在化、時の垂直な切断 その時私たちは永遠を垣間見る 途方に暮れた名無し人として ---------------------------- [自由詩]街角にて/ひだかたけし[2018年11月27日11時11分] 声と声が交わるあいだ 柔かな光が横切って わたしは不意にいなくなる うねる大気が木霊して ---------------------------- [自由詩]今夜は満月/ひだかたけし[2019年1月22日0時04分] 今夜は満月 天に貼り付き  煌々と現の恍惚を照らし出し 巨大なものに呑まれいく恐怖 束の間刹那だけ麻痺させて 街行く人の顔、 白くくっきりと浮き上がらせる ---------------------------- [自由詩]優しい午後/ひだかたけし[2019年6月18日15時33分] うつらうつらする この午後に 鳥は囀ずり 地は照り映え 私の憂鬱と倦怠は 一吹き風に溶けていく )なんて優しい午後だろう )遊ぶ子供の声が窓辺から )うっとりゆっくり流れ込む )スローモーションで進む世界 うつらうつらする この午後に 陽を浴び輝く静寂(しじま)の色 空の青は遠く映え 私の憂鬱と倦怠は 一吹き風に溶けていく ---------------------------- [自由詩]夕焼け(改訂)/ひだかたけし[2019年7月1日13時15分] 巨大な宇宙の夕焼けが 今日も雨降りの向こうにやって来る 私も君も雨に濡れ その時をじっと待っている 今日という日を取り逃さないため 在ることの不安に呑み込まれないため 祝祭の刻を、永劫の瞬間を 途方に暮れて待っている   ---------------------------- [自由詩]光の星/ひだかたけし[2019年8月5日17時11分] 光が渦巻いていた 熱風が絶えず吹いていた 人々は絶えず歩き過ぎ 俺は串カツ屋の前で アイスコーヒーを飲んでいた とても苦い味がした 身体が熱く飢えていた 生きることに飢えていた すべては容赦なく光を放ち この地球という星の夕暮れ時を 物凄い勢いで照らし出していた (在るもの一つ一つを くっきりとした輪郭のうちに保ち) ---------------------------- [自由詩]記憶/ひだかたけし[2019年9月10日13時32分] 夜が深まっていく 連絡がつかない、繋がらない 隣室ではコツコツと壁を打つ音、間欠的に 遠くの森を手を繋ぎ歩いた愛娘は 青春を謳歌しているだろうか、今頃 夜が深まっていく オレンジジュースがやたらと飲みたい 隣室では相変わらずコツコツと壁を打つ音、間欠的に 彼(彼女)も遠くの森を歩いた記憶があるのだろうか 繋がらない父親と 今も、今にも ---------------------------- [自由詩]顔(改訂)/ひだかたけし[2019年10月5日22時10分] 灰色の街道沿いの 深く暗い井戸の底、 白く円かな女の顔が 微細に揺れ動きながら 切れ長の目を閉じ浮かんでいる 死んでしまった死んでしまった! わたしは戦慄のうちそう悟り 隣で無表情に立っている、 愛娘の手を取り強く握る [ママは死んでいるから うちも一緒に焼いて下さい 納骨堂はもう買ってあるから] 久々に聴く娘の声、 この十月残暑の初夢の どんよりした空気を切り裂き きっぱりと訣別の意を響かせる )灰色の街道沿いの古井戸は )いつまでも女の顔を揺らし浮かべ )飛び込む男を今か今かと待ち受けている 顔と顔の 終生続く隔たりを保ち ---------------------------- [自由詩]流砂/ひだかたけし[2019年11月17日0時33分] 白い部屋に横たわり 独り時が過ぎるのを さっきからずっと眺めている )右足の親指が急につり )反り返ったまま動かない 無音無言の部屋のなか 時は流砂のように流れていき 私が上げる呻き声を 静かに静かに消していく ---------------------------- [自由詩]日光浴(改訂)/ひだかたけし[2019年11月25日12時49分] フローリングに寝転がり 爆発する太陽を浴びる 降って来る光の洪水は 世界のすべてを肯定し 温め熱し燃やし尽くす )否、否、否 )肯、肯、肯 )越えて超えて! 病に苦しむ己も この世界の一滴、 肉はいずれ破壊され灰塵に帰し 魂は宇宙の巨大な沈黙に曳航され 歓喜と恐怖の界の境を 言葉の以前へと 越えていくことだろう 今はゆっくりと寛いで フローリングに寝転がり 爆発し続ける太陽を浴びる 漆黒の宇宙空間を 光と成って泳ぎ来る 死者達の峻厳な愛に包まれて ---------------------------- [自由詩]迷子/ひだかたけし[2020年1月12日21時09分] 坂道に 水の流れ、 大量に  夜の透明、 車は行き交い 飛び込んでいく 人、人、人 君はスマホの 中に居て 綺麗な声で 歌っている 聴いたことのない 異国の歌を 夢見心地で 歌っている やがてバスが 昇って来る 君と僕を 見知らぬ町へ 運ぶため 水に浮かんで やって来る 二人一緒に 迷子になる 足場をすっぱり 切り取られ 抱擁しながら 宙に舞う 絶望と歓喜を 乗せたまま 透明な水の街中を バスは静かに 進んで行く ---------------------------- [自由詩]日々/ひだかたけし[2020年1月29日18時20分] 今日の平板を飼い慣らし 明日への傾斜を生きる私は もう何十年もの間、 口を開いたことがない 者であるかのようだ )赤く燃える明けの空 )ゴオゴオと鳴る遠い街並み いったい出口は常に入口だと 痛い程味わってきたのではなかったのか ---------------------------- [自由詩]夢の他者/ひだかたけし[2020年3月22日19時22分] 毎夜夢に現れる人達の 考えていることが見通せない それぞれがそれぞれの意志を持ち まんまブラックボックスだ 私の夢なのに!私の夢なのに? 彼らは何処からやって来るのだろう? 彼らはどうやって創り出されるのだろう? )夢の電車で隣り合った人、 )夢の街ですれ違った人、 )夢の家で向かい合った人、 彼らは、彼らは?彼らは! 私は今夜も夢見るだろう 私は今夜も出会うだろう 私という この広大な意識の沃野で ---------------------------- [自由詩]四月馬鹿の雨/ひだかたけし[2020年4月1日15時43分] 雨が 木の幹を濡らしていく 緑の木立は微かに揺れて 時の狭間に佇んでいる この四月馬鹿の一日に 優しく優しく照り映えながら 雨は 間断なく降り続け やがて 街を静かに濡らしていく  緑の木立が静まる頃 街から人は居なくなる ---------------------------- [自由詩]紫陽花(改訂)/ひだかたけし[2020年7月10日20時31分]  心の野辺 ゆらんゆらんと 揺れる森の紫陽花は 暗い雨空に青く浮き 翳る心のこの野辺を  仄明るく照らし出す  お買い物 遠く揺れる紫陽花に 呆けた顔して立ち尽くす人 全てが忘却された雨上がりの朝、 男は綺麗に髭を剃り キャベツを買いに街に出た ---------------------------- [自由詩]造形未知/ひだかたけし[2020年7月14日19時55分] 土塊を捏ねる 指先に気を集め 煮え立つ熱を流し込み ゆっくりしっかり力入れ 未定形の粘る分厚い土塊を 思い思いのまま捏ねくり回す 捏ねくるうちに不思議なこと 土塊と指先は拮抗しながら 浸透し合い親和し始めて 熱と物との力動の一対 無骨な造形躍動する 鍵裂き状の閃きの中 歪み撓み捻れながらも 不意に迷いなき確信の許 可塑性に富む弓形フォルム 土塊と指との交歓に結実する いずれ燃やされ尽くすだろう かならず失われていくだろう それでもこの刻印は残るのだ 新たなる生へと引き継がれ ---------------------------- (ファイルの終わり)