ピッピのおすすめリスト 2006年12月20日23時30分から2012年2月13日18時34分まで ---------------------------- [短歌]【短歌祭】赤いつぼみ/容子[2006年12月20日23時30分]   膨らんだ真っ赤な少女が綻べば真綿の雪に椿がぽとり   体内で春を待ちきれずに芽吹く血潮に染まった椿のつぼみ   花びらを散らさぬように雪の上そろりと歩くも染みが点々     赤い紅ひく母さんの寒椿、まぼろしを越えこの身へ宿る   払っても抜いても肢体に絡む枝、寒雨に晒せど花ひらく赤   教科書の「冬は命が眠る」など真っ赤な嘘だと椿を手折る   つらら針、未練を断ち切るかの如く置いてけぼりの気持ちに刺さる   両足をつたい滲んだ赤い雪泣いては染まる雪うさぎの目   かじかんだ凍った手足と裏腹に熟れたつぼみは少女を咲かす ---------------------------- [短歌]いつか虹を/たもつ[2007年1月3日9時41分] 帰ります、とメールをしてきた君が向こうから全力疾走で 君の重さを受け止める。お姫様抱っこ?もう少し痩せてからね 人ごみに紛れこむとどうして私だけがここにいないんだろう 走るのが苦手だから校庭より広いものは空しか知らない 雨が上がったら傘なんか捨ててさ、虹の鳴き声を聞きに行こう あなたの笑顔を見ていたいだけだよ生きている本当の理由は むかし、あるところにあなたと僕がいました。幸せでした、おしまい。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]ポイントについて/黒川排除 (oldsoup)[2007年1月8日9時22分]  写真が嫌いだ。風景写真は好きだが人間が写り込んでいる写真が大嫌いだしじぶんが写り込んでいようものならその写真を処分するためにおまえの妹の身柄を確保して交換条件にしたいぐらいに嫌いだ。思い出は必要だがそこに生身のじぶんが写り込んでいる必要なんてどこにあるんだと思う。他のものに頼らずおぼえられるだけの範囲が思い出でいいんだよ、とじぶんの中で見切りをつけていたらまったく物覚えの悪い子に育ってしまって、バイト先の常連さんの名前が全然おぼえられずに先日「もういい加減おぼえてよ」って笑いながら怒られたぐらいでにんげんってこんな不自然な表情ができるんだあ! と夜道を用心せずにはいられなかったがおれはそれほどまでに物覚えが悪いが変なことばっかりおぼえている。くやしいこととかは特に。  現代詩フォーラムはポイント制だ。そしておどろくなかれ、oldsoupはポイントが欲しいのである。どれぐらい欲しいかというとログインしたあとの現代詩フォーラムというロゴの下の赤い文字にびっくりしないようにログイン直後は目を背けているか目を閉じているかブラウザで違うページを見ているかするぐらい欲しいのである。まあ大抵別の意味でビックリするんだけど。  とはいえ難しいものでポイントが欲しいと書くことでポイントを得たとしてもそれはそれでスネてしまうところがあるが矛盾しているものを解決できてないだけなので気にしないように。おれだけ気にする。気にするといえば結局ポイントが入らないというこの……なんていうんですか……事実……があるわけだがその点に関しても平静を装う必要がある。元号が平成だからといってそうやすやすと平静を装うことができるわけじゃないが口さえ開かなければポイントが当たらないことに関してみにくい姿をさらけ出していやらしいわたしを見てッということもないのだがこの点に関しては本当にポイントがいらないポイント界のガンジーみたいなひともいるだろうからおれがおれがという点だけに絞って書く。それにしても新しく入会(にゅうフォーラム?)したひとで10作品ほど出しているのに二進法みたいなポイントの取り方してるひととかいるもんだがよくめげないなあと思うわけではある。精神構造が違うのかなあ。爪のあかを煎じて飲まさしてください。手料理を作ってください。ピラフが好きです。  その一連のおれの中の、見ているひとたちにはどうでもいい羞恥プレイ的な情動がくやしさである。残念なことのひとつには今書いてきたようにくやしさを隠しに隠してきたためにくやしいと思う感覚が麻痺してしまったということがある。そしてもうひとつがサイトのトップページにログインすると見られるトップ10である。ためしに現在のトップ10をコピーアンドペーストしようかと思ったが別に最近のはいつ見てもかわらないのでいいや。昔はあれを見ては悔しがっていたものだと思い出すわけよね。それはもう店の常連さんの顔も名前も憶えないほど記憶力の悪いおれが猛烈に記憶するぐらいに。どれぐらい昔かというととっぷてんに並ぶ作品ことごとく一桁のポイントであった頃ぐらいのむかしだったが、そのころには、正確な題名は失念したけど「テーブルの上のフランチェスカ」が13ポイントか14ポイント取っていてくやしくてくやしくて昼食のラーメン食ってる箸が震えて麺を取りこぼすぐらいにくやしくて仕方がなかったわけだ。今そのトップ10を見てもなにもくやしくはない。これはスネているのではない。断じて違う! かわいそうな目で見るな!  さてはてソレはなんでだと考えたときに思うのはバリエーションがないというか見慣れた特定のひとがいつもトップ10にいるということだ。KinKi KidsやB'zがいつもオリコンのトップにいるような不信感を感じるわけじゃないがトップページのトップ10がいわゆる常連さんで占められるようになるとさすがに物覚えの悪いおれも名前を憶える、じゃなくてトップページにそのひとの特設コーナーが儲けられてるようなマンネリを感じる。酒屋に入ってすぐアサヒ、のようなマンネリを。この場合は別にアサヒスーパードライとトップ10の常連が一緒くたでもよい。人気があって取っ付きやすく、中身も優れているからね! アハハ! つまりこのばあい彼(彼女)という名前のカテゴリーがトップページに常に存在しているようなものである。余計なカテゴリーは存在しない方がいい。どうせのちのち個人個人の頭の中で増えるカテゴリーをわざわざ増やしてもらう必要もない。おれが批評祭に参加していないのも余計なカテゴリーをおおやけに示したくないからだ。だがこう言っても良かろう、すげえ目立ちたいのだ! おまえ批評散文エッセイの項目みたかよ! 黒い四角ばっかりだぜ! そんな中で黒い四角を付けるよりは付けない方が目立つだろう! あ、あと、今更参加したってもうだめだよ! という諦めもあるなあ  フォーラムに参加している人数が多いのにあるところからポイント数が頭打ちになって100を超えるか超えないかのところでいったりきたりしているのもそういういまさら!的なバランス感覚がうまく働いているものだと感じる。そういう頭打ちなところもトップ10に限界を感じる点のひとつだがやはり、「そのひと」という名前のカテゴリーが常に存在している状態がキツい。いつのまにか、うわあ、あのひと人気あるんだなーとは思ってもそれ以外のことはなにも思わなくなってしまった。トップ10である理由が作品の質なのか作者の人気なのか分からず混乱するようになってしまった。むかしのようになぜその詩にポイントが集まったかを考えて貪るように読み貪るように書くような目線でトップ10に接することが出来なくなってしまった。ここまで書いておいてなんだが別にトップ10が何の役割も果たしてないと考えているわけじゃないんだ。有用に使ってるひともいるわけだし。楽しむ方法がないわけでもない。ポイントが高くなる前の作品からポイントを投じておいて、後日ポイントが増えるとともに「昔はあんなひとじゃなかったのに……彼は変わったわ」とか報告するキャサリンになっても楽しいが。  とはいえ、トップ10をx(バツ)できる機能があれば喜んでクリックするつもりだ。mixiかここは。つまりどの作品に人気があるのかは別に知りたくないというわけだ。本当は無数に日付け順に立ち並ぶ作品群のどれがどのひとの作品かということもわかりたくない。匿名ってやつですよ旦那。古くからこういう願望は他のひとの胸にもありときおりその考えが暴力的に立ち回るのを見ることもあった。ただおれの場合は、ハハッ、そのひとの作品だと隠してもらっても後日タネあかしがあって「この作品は、このひとのものでしたー」って言われた時点で普通に幻滅してしまうようなダメにんげんなので単なるわがままである。ジコチューである。じぶんスキスキスーである。「じぶんの作品は本当は優れていて名前さえ隠してもらえればたくさんポイントがもらえるはず」とかいう妄想にしょっちゅう駆られるぐらいである……ッ。そしてその惨憺たる結果も予想済みだ! また、相手の立場で「もしじぶんが毎回あんなに高得点をもらっていたら結局ポイントはじぶんの作品を判断する基準にはならないだろう」ということもかんがえずみ!! まあこの辺は中居正広の番組のCMも中居正広、みたいな考え方なのでサクッと流し読みしてもらってもかまわないが、とかくそういういらなくもありむなしくもある想像をポイント状況から喚起しはしてもそこから燃えるような熱情をくみ出すことは困難になってきた。  ここまでポイントについて長々と書いてきたがおれはポイント制度が気に食わないわけでもない。むしろ好きだ。なにかいびつで形骸化したような感想をつけられるぐらいならさっとポイントを付けられた方がジェントルでブリティッシュだ。そういったポイントをたくさん稼いでいるひとも作品も全然悪くない。多分すごい。だけど実際には無関係な感情とリンクしている、感想のように形骸化したポイントがありそれがいかに無味乾燥としたものであるかを書きたかった。そんなポイントを与える側にそれが無意味であることを伝えるべき、伝えたい、アナタニ、ツタエタイ……のだけど、無数に付いてるポイントの性質を見極めて一個一個キミキミ、だなんて不可能であるからもう諦めた。読んだひとだけ感じて。ポイントは目的地じゃなくて燃料なんだということを。 ---------------------------- [短歌]「 おやすみさん歌。 」/PULL.[2007年2月16日16時52分] 黙っているだけで、 聴こえてくるよ。 こんにちはこんにちは。 ことばさん。 道路工事の音リズミカルどどどどどど土曜日にはしないでね。 お湯の沸く音も季節によって違う気がするぞ「ゆわわゎ。」 給湯器の音も小さくなりまして暖冬さまのお通り代。 そんなにきつくしちゃ駄目お茶碗さん泣いてるよ大切にしてって。 ぺちゃぺちゃと土間で話しているのは誰の話それは裸足の噺。 きききっ新聞すとん配達の人また変わったな前はききっ。 一段ごとに文句を言う膝くんきみは少し黙っていなさい。 あくびあくびして寝っ転がって聴こえてくる流れる音あれは、 っ。 瓦鳴り。 声はすれども姿は見えず。 裸足の春が駈けてった。            了。 ---------------------------- [短歌]みずいろの風/青色銀河団[2007年2月27日1時15分] みずいろの風に誘われ野原にて射殺されたねぼくはきみに いつかきいたきみの翅音は悲しくて見上げた空にながれる虹(なみだ) きっとこの冷えた大気は羊水で泳いでいけるさあの夕日(ひとみ)まで 黎明はイマージュとなりやさしく唄う泣いて眠るぼくのために ---------------------------- [短歌]オレと美少女とリターンフォーエバー/青色銀河団[2007年3月17日1時05分] たくさんの美少女達とすれ違う街 みんなオレに気がある気がする 一度くらい言ってみ美少女よ 「ずっとあなたが好きでした」と ひとことでドン引きまくる美少女よ オレにくれてた笑顔は何だったの? 送られた写真片手に待ち合わせ その母かと思いし人があなたでした それでもね高い金だしおごったオレを ふるとはなんだ じっと手をみる 美少女がオレはほんとに好きなんだ オレが美少女になりたいくらいに 美少女ははいて捨てるほどいるのにな ああいるのにな うういるのにな ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]軽作業->16歳->/ヌヌヌ[2007年5月24日23時28分]  十六歳の時、スプレー缶にキャップをつけるバイトをしたことがある。ベルトコンベアに乗って流れてくるスプレー缶に、一日中ただひたすらキャップをつけるだけという仕事だ。  未経験、初心者大歓迎、カンタン作業、明るい職場です。時給800円。謳い文句に偽りはなかったがひとつ大事なポイントが抜けていた。30秒で飽きる仕事です。と何故書いておいてくれなかったか。職業に貴賎はないなどというが、心の底からくだらない仕事だなと思った。  両手にキャップを持ってスプレー缶につける、両手にキャップを持ってスプレー缶につける、両手にキャップを持ってスプレー缶につける、両手にキャップを持ってスプレー缶につける、両手にキャップを持ってスプレー缶につける、両手にキャップを持ってスプレー缶につける。  商品は主に制汗剤か殺虫剤だった。ピンクや黄色、空色といったさわやかなパステルカラーの制汗剤は、見た目にもまだ救いがあるが、殺虫剤はいけない。ガンメタリック地に深緑や赤茶といった毒々しいデザインに「殺虫ゾル」なんて極太のゴシックで書いてあったりして、その上死にかけの害虫が泡を吹いて痙攣しているようなカットがプリントされてあった日には否が応にもテンションも下がるというものだ。  そんな殺虫剤の調合も仕事の内なのだが、いつもその作業にまわされるのは、少し頭の悪い二人組みで、ボクは心の中で彼らのことを、残念な脳の人と呼んでいた。彼らの間では「扇風機にあたりすぎると窒息死する」とか「最近満月が多い」などわけのわからない会話が成立する。調合は殺虫剤の原液を攪拌したりするので、飛沫が素手にかかったり目に飛んだりしてちょっと気の毒だが、まぁ奴らは残念な脳の人なので仕方がない。  そういえばアブラムシを捕食するナナホシテントウは益虫で、葉っぱを食べるニジュウヤホシテントウは害虫だっけ、同じ天道虫でも人の都合で生かしたり殺したり、同じ時給でも楽だったり危険だったり、人類皆兄弟なんて都市伝説なのだと思った。  両手にキャップを持ってスプレー缶につける、両手にキャップを持ってスプレー缶につける、両手にキャップを持ってスプレー缶につける。  時給800円手取り124020円アパートが56000円と共益費4000円 残りが64020円 パソコン買ったからその借金が毎月10000円 残りが54020円電気ガス水道インターネットのライフラインで15000円くらい、残りが39020円で飲んだり食ったり原チャリのガソリン買ったりゲーム買ったり漫画買ったりアパートの更新用の貯金とかなんやかんやで終了。80歳まで生きてあと64年、64年×12ヵ月×124020円=9524万7360円。 希望も絶望もなかった。  主任は両手に二つずつ計四つのキャップを持つ、生産性は倍だ。凄いですねとボクが言うと主任はちょっと得意気な顔をしたが、すぐに暗い表情になった。劣等感とプライドがないまぜになったような、なんだかみっともない顔だなと思った。だが、高校をクビになって一日中スプレー缶にキャップを付けている自分自身のことは、なぜかずっとマシだと思っていたのだ。  帰り道、もらったばかりの給料袋を川に投げ捨て、思いのほか早く流れるのであわてて飛び込んで拾った。ずぶ濡れの自分はまだ純粋で、なにかの可能性を秘めていると思い込んで少し安心したりしていたのだ。 ---------------------------- [短歌]お前の胸は痛むだろうな/鳥獲[2007年7月22日17時58分] 《宿題は涼しいうちに済ませましょう》 お前の胸は痛むだろうな ぢあぢあと蝉が鳴くのを外に聞く お前の胸は痛むだろうな 世を嘆き人を憎んで夢の中 お前の胸は痛むだろうな 大好きよ、骨の髄まで愛してる。お前の胸は痛むだろうな かしたかねかえせかえせかえせかえせ お前の胸は痛むだろうな 野菜より油で揚げた肉が好き お前の胸は痛むだろうな あの猫は撫でたら首が落ちそうだ お前の胸は痛むだろうな 足の爪切れてどこかに飛んでった お前の胸は痛むだろうな ---------------------------- [自由詩]呼ばれている/千波 一也[2007年8月30日11時11分] 器の 壊し方を知っている けれどもわたしは 外側にいない 器の 壊れ方をおぼえている けれどもあなたは 内側にいない  朝と呼ばれるものや  愛と呼ばれるもの  わたしがそれを責めるとき  あなたは上手に  忘れてほしい  その代わり  終える花だとか  果てる星だとか  あなたの傾きに見合うような  耳の飾りにわたしはなろう  雲は  その名のための雲ではなく  清流は  その名のための流れではない  拒まれる祈りの  生命に触れ  響きは  いつでも澄んでゆく  ひとつを決めない  痛みのなかを  ただひとり  澄んで、  ゆく 飽きもせずに 無色のわたしと 不可能なわたし 時々あなたは 答の途中できれいに消えて だから、 ほら、 いとしさが呼ぶ どこまでも 呼ぶ 幾らでも間違えられる 器のように ---------------------------- [短歌]僕達の井戸/しろいろ[2007年12月12日7時26分] (透明な感性とやらがほしくってそれは犬とか食べても安全?) ビー玉が散らばる雪の校庭を裸足で乱そう(見つからないように) 息を吸って吐いて吸って吸って吸って結び目ばかりでどこにもゆけない 男のコになりたかったとないている男のコなら僕のコトデス。 蹴っ飛ばせマックで流れるビートルズ ラッピングされたしあわせなんて 心臓がピンクの理由を今知って、町中笑顔で爆破したいの トンネルをくぐっても何も変わらない 疼きつづける左胸の傷 不本意に勃起している京都タワー 私もおまえも街の余白だ クリスマスツリーの電飾飲み込んでちかちか溶けるくらげになりたい さびついた前頭葉の檻なんて噛みちぎってゆけ私の恐竜 硫酸銅、微毒を溶いた青空で溺れた魚の目が僕を見る (十二個の遺書を井戸に投げ捨てた。波紋は消えずに次の遺書を待つ) ---------------------------- [短歌]きまぐれの雪/たにがわR[2008年2月8日15時05分] コーヒーの代わりに紅茶が来たような今日の雪にも生きてるを知る また晴れて明日は雨で次が雪、まるで季節が君のようです もう一度、降るというなら、その覚悟、空と君にと確認をする その雪がいつかの記憶を繋ぐから明日(アス)はモアイと会いたいのです  そうね、そう、負けてしまった午後の日にラリホーなんて唱えてみるの ---------------------------- [短歌]冬にうたえば、春は近づく/たにがわR[2008年2月15日15時48分] 冬型の気圧配置を見てるよう、穏やかに君、強かったりする 拝啓と綴る手紙の確かさが、チョコレイトより君らしくある この空と夜が導く静寂(しじま)さえ盗めば春と予告状だす 焼酎に水だお湯だと揉めるから君待つ土曜はワインを買って そう、春も、近づくほどに良さが消え、花粉ひとつにくしゃみをしてる ---------------------------- [短歌]夜の進水式/車輪/しろいろ[2008年2月16日20時26分] 夜 水底で送受信を繰り返すようなあなたのさびしさが好き 水道水注いだグラスを一度きり鳴らして僕らは夜へと、流れて 満月の灼熱のようなかなしみに入水してゆく二匹の蝶々 ふたりきりがらくたみたいなマリオネット千切れた糸で戯れあって、笑う 散ってゆくスロウスピードの花びらと(君のダンスと((サイレンが近い 栞 (透明なしおりをはさんだ本を閉じ新たな故郷を探しに、僕らは) 春 君君君君の名前からこんなにも春があふれてあふれてあふれて ヨーグルトにビーズを撒いてみにくくてきれいな食事で育ったぼくたち さくら散れ破った遺書よ散ってゆけきみの明るいお墓のまえで 春にしぬコップ一杯の水葬で君だけ夏に生まれてください 坂の多い町できらきらを振りまいて生きてゆくんだ車輪のように ---------------------------- [自由詩]ガムは大地と踊る/木屋 亞万[2008年2月24日0時16分] ガムを噛むと 口が広くなる 舌に野原が広がり 歯がぶつかり合う森 呼吸が定期的に吹き荒び 茎は湿っている 血の気が引いたように 青く暗く奥へと続く 洞窟の入り口で 茎は湿っている 口笛が夜を呼び 埋められた白い石から ギターが鳴る ガムは口の中で踊る しなやかに体を 姿かたちを変えていく 持ち前の色を失い 肌の弾力が衰えた時に 銀に光る安っぽい紙に 全身を包まれ消えてゆく 草原には静かな風 ほのかなミントと 骨を打つピアノの音色 ---------------------------- [自由詩]卒業/Utakata[2008年2月24日5時03分] 全ての旅立つ人のために *** 湯気を立てているお茶のカップと 小さく開いた窓から差し込む朝の光と 四月の風に揺れる薄いカーテンを 置き去りにしたままで部屋の鍵をかける 鍵はこれから瓶に詰めて海へと流すので もうこの部屋に戻ってくることはない 閉まりかけるドアから最後に見た風景は 何も知らずに持ち主の帰りを待ち続けるようにも見えた *** 手のひらにはもうひとつ このあいだ受け取ったばかりの見慣れない鍵がある その鍵に合う扉を探す長い旅が いまから始まろうとしている *** 旅に持っていけないたくさんのものを捨てる 幾つかのものにはあまりにも多くの記憶が染み付いている 友達と永遠に別れるように あるいは自分の身体を切り取っていくように それでも最後にはそれら全てを 地面に掘った大きな穴の中へと埋めてゆく 穴を埋めた後で その場所に苗木を一本植える もしも樹に成長したそれを見る日があったとしても 地面を掘り起こすことができないように *** 体中から生えた電話線を よく研いだ鋏で一本ずつ刈り取ってゆく 一度しか使わなかったものもあれば その上で無数の会話を交わした線もあった 切り取る前に ひとりひとりにさよならを言う仕事を済ませてゆく 足元に千切れた鉄線がはらはらと落ちる *** しあわせでありなさい 別れるときにひとりの大人がそう言った その人の言うことは正しいとは思うが 今のところはその言葉を忘れなければならない 旅が終わるときにたぶん その言葉を思い出すときが来る とりあえず死ぬな さよならを言うとき ひとりの友達が独り言のようにそう言った その言葉だけは覚えていく 旅立つにあたっての数少ないルールの一つ 生きのびること *** 夜明け前の川へ向かう 既に前の部屋の鍵は瓶の中に詰めて蓋をしてある 河川敷で 水に浮かせた瓶をそっと押し出す もしかしたらある日 浜辺に寄せられたそれを再び拾うかもしれない その日が来ても あの部屋の風景を覚えていられればいいと思う *** 手に持った新しい鍵と 自分自身だけが後に残る *** 扉を求めて どこへ行くべきかは分かっている 海を越えたところにある別の大陸 もう一つの言語 その都市で出会うだろう数多くの人々 同じ鍵を持った 今とは全く異なる自分 冷たい鍵穴に滑り込む 滑らかな感触 それを探して *** 電話線はもうないけれど 自分の名前はまだ持っている さよならを告げるときに たまに思い出したら互いの名前を呼ぶように約束をした 今までに出会った人々の名前を 一つずつ口ずさんでゆく 呼んでくれれば そこにいるから *** 昇ったばかりの太陽を目印にして 東の方向へとゆっくりと歩き始める さしあたっては まず港のほうに向かってみようと思う ---------------------------- [短歌]ラララ/しろいろ[2008年2月25日8時27分] 二行目の感情をうたうドレミファソラシドの次のこわれやすいおと マイブームは立ち入り禁止のこの庭で溺れるための井戸を掘ること 思い出はぜんぶさくらのいい匂い/スロウ/な/シャッタ/ー/スピード//笑って バスタブに埋めたひどく薄い皮膚(わたしとあなたをへだてるなにか) (ラララララ)過剰な歌がこだまする町で震えたふたつの心音                 空っぽでも雪が積もれば満たされてあたたかいかな そうだと、いいね 春になればおそろいの手錠用意して世界の果てまでピクニックにいこう ---------------------------- [川柳]欲しい/相良ゆう[2008年3月14日13時21分] 1,597,500円 ---------------------------- [短歌]【短歌祭参加作品】肺病み/しろいろ[2008年3月17日16時35分] 重なった指、ブラインドから漏れた光、第一話、春、終わりの始まり、 さようならカシオのG−SHOCKカシオ以外のG−SHOCK君以外の僕 着席のベルは空襲警報みたい、みんな笑ってるね、死んじゃうのに 僕は魚、そしてこの狭い水たまりで、纏った鱗に隔てられている、 ここを押せばデータリセットされまして羊になります(牙はあります) 白線の外側で聞く警笛がとてもきれいで少し目を閉じた 肺を病んで息もできずにキスしたね)(たましいなんて、ひとつでよかった ---------------------------- [短歌]【短歌祭参加作品】グッド・バイ/簑田伶子[2008年3月18日4時14分] 砂浜のない水たまりがさみしくて砂時計から補充した陸 さようなら ― もとは接続詞なのだから ― 悲しむ理由はどこにもない 「リコーダーを縦笛とよぶ日常は、果実のように傷んでいくね」 ただきみに白をみせてあげたくて父の煙草を着服した日 (最近のラムネはビンを割らずともびいだまを取り出せます)リセット 間違えて塊をたましいと読んだあの正しさをわすれたくない 第一話になりそこねた朝に降る雨ストライプのシャツへつづいて ---------------------------- [自由詩]軽さへのあこがれ/佐々宝砂[2008年3月18日5時19分] 飛ぶ鳥はとても軽いのだということを わたしはときどき忘れる 飛ぶために鳥が捨て去ったものの重さを わたしはときどき忘れる 鳥の骨は細く軽く すきまだらけで脆いということを 150kg超の鳥でさえも脆く たくさんのものを捨て去っているということを 明け方庭のどこかで鳩が鳴くとき 夕方田んぼの片隅でケリが鳴くとき わたしは思い出す わたしは150kgの鳥より重い どれだけ多くのものを捨て去ろうとも わたしの身体は風に乗らない ---------------------------- [自由詩]潮騒/れつら[2008年4月2日13時36分] 速度が燃えている 千切られた紙が空中に乗り 方位を失っているのだ 気紛れで開けた窓から、風 陽光だけが揺られず、ベランダに線を引っ掻く じわりじわりと来た それが春だった 爪先ひとつで扱う出来事が堆積し硬直し 緊密な構造となっているのだった 駅通りに新築されたマンションをもう僕は笑えない 同じように流れ着いた石いしも ひとつは防波堤になりもうひとつは波に砕けていくのだった コンクリが固まりかけるように足は地を這い まだあきらめのつかぬ砂粒がじゃずりじゃずりと裏では擦れている そしてスーパーマーケットの惣菜売り場では 土方の男が半額の弁当に手を伸ばしている ひとつの娯楽もないように見えた 彼も 窓際で呻くだけの僕も 待たれたまま通り過ぎた潮騒も ---------------------------- [短歌]石を継ぐ者/本木はじめ[2008年4月10日0時09分] ヘイ!般若、おまえのしかめっ面に落書きをしていたガキだった頃 浴室に溢れる涙どんだけの悲しい嘘を喰らったのだぃ? 今さっきあんたと会った夢の中?いやいや夢の中ぢゃない春! 傷ついた?そうかいそれじゃあ空を見な港に停泊している戦車 バスタブが棄ててあるからハイ、決まりっ!みんなでノアの方舟ごっこ どこまでも禁煙しますやっぱやめ(笑いで)を閉ぢる 黒塗りのクラウンぼくはくま爆音見るより聞くより感じなパンク ぶちまけた絵の具まだまだ色褪せづ石を継ぐ者継ぐ意志持ちなっ! ---------------------------- [自由詩]手紙20080614/れつら[2008年6月14日13時22分] ヒロタくん お元気でいらっしゃいますか 元気もクソもないと怒られそうではあるけどさ 俺には免許がないからさ 時候の挨拶が使えなくってさ こっちは夏なんだけど とにかくひどくってさ 街中に車で突っ込んでナイフをぶん回したやつが捕まったって 東京って怖いとこだよな あんたが東京になんていかなくってほんとよかったよ 俺も今はせいせいしてる 一昨年の夏には東京にいたから俺は 職質されて指紋とられちゃったよ あんたから貰ったナイフが鞄に入ってたから おかげさまでもう悪いことはできそうにないわ 恨んだよほんとはちょっとだけ あんたが残してったのがナイフじゃなきゃ おまわりさんも見逃してくれただろうにさ あの時は でもこのごろは 何を持つにも免許がいるんだ おまけに免許を持ってても使えやしない 教師になろうと思ったけど 生徒を殴ったら捕まるらしいからやめたよ 小説家になろうとも思ったけど 落書きしたくらいで死んじゃう奴も多いからそれもやめた 今はニートやってるよ ニート知らないだろ 遅れてるなあお前頭ん中春のまんまだ 昔はこうやって 手紙を書くことができなかっただって 外が暑いからって暑いって言ってても涼しくなんないし でも最近気づいたんだ 暑いって言ってりゃ誰かがクーラー付けてくれるんだよ そういうふうにあんたもできればよかったんだよな 馬鹿だな どうせあんたが持ってたナイフも 使い方がわかんなかったんだろ 俺はわかるよ 毎日馬鹿みたいにテレビ見てインターネットやってたら わかるようになった あと足りないのは免許ぐらいだよ でも謝らなきゃいけない 梅雨がきて野ざらしにしてたナイフがさ 錆付いちゃったんだ あんたもろくに殺せなかったっていうのに 勿体無いことをした もし上手いこと殺せてたら こんな手紙を書くこともなかったかな とにかく あんたが東京にいなくてほんとによかった 俺は今せいせいしてるけど じきにここにも夏がくるんだって 信じたくないんだけど ヒロタくん お元気でいらっしゃいますか 元気もクソもないと怒られそうではあるけどさ そっちには季節もないから 時候の挨拶とか使えなくってさ もうすぐこっちは夏なんだけど ---------------------------- [短歌]【短歌祭参加作品】 少年少女たちの自由奏/Rin.[2008年12月2日23時40分] 廃校の探検隊だぼくたちは廊下がミシンと鳴るアンダンテ イチゴにも砂糖をかけるアキちゃんが横目で見ているスターバックス 算数が誰より得意なユウくんは今日も釦を掛け違えている ニンニクを花壇に埋めて水をやる生き物係・ヒロくんの虹 巻き舌と側転ができないりんちゃん大きくなったら月に乗りたい 痛くないのに出る鼻血の謎を背に空に向日葵探すケンちゃん バービーの剃髪をするマミちゃんは嫉妬という字をまだつづれない スピノザを夜空に探した間違いを摘めば林檎を枯らす北風 東京を地図で指せないぼくたちにたったひとつのソナチネがある ---------------------------- [短歌]【短歌祭参加作品】アラウンド・ザ・ワールド/吉田ぐんじょう[2008年12月5日8時23分] 早朝に剃刀を買うコンビニで 剃髪用です 袋いいです 昼下がり主婦がミシンを踏む音は 人を撃ち抜く練習に似て 夕暮れが鼻血のような色してた 鉄のにおいが漂って、冬 にんにくのあのふくらみを撫ぜるたび 欲情しちゃう 特に夕方 砂糖ってクスリにとてもよく似てる さびしい夜にすぐ効くところも 星空を指令のようにサイレンが揺らし始めるひとがまた死ぬ 自販機の釦がすべて売り切れと表示されてる深夜二時半 物憂げに深夜はばたく鳥かごの小鳥の舌は細くて硬い 「東京へくらげを買いに行って来る」そう言い残し夫は消えた 間違いを消して乾いたホワイトと同じ色して明けてゆく空 ---------------------------- [短歌]溺れる青/○[2009年1月20日0時54分] あの夏のプールでずっと溺れてる 溺死するまでたぶん永遠 溺れる青、僕らの断絶、空、曖昧にdis・communication、沈む群青 週5日学生鞄に泡爆弾 すべてを咎め何も咎めず 窓際で左耳に点滴してくれた君のイヤホンつたう旋律 ねえ先生、夜の理科室でかじるお菓子ほど小さな背徳あげたいの Repeat after me. 愛してる。愛してる。の音読練習 屋上のドアは開かない。合鍵もない。漫画の主人公にはなれない。 フラスコは内から脱出不可の構造です「もう、授業で教えてよ。溺、れる、 制服を着たワナビー達ばかり/wannabe,wannabe!/ワラビーになりたい 月曜、朝礼、最後尾。女子高生に擬態する物体(のふりをする) 「ごめんなさい」と「さようなら」を繰り返しわたしはずっと大人になれない 下校時刻を3分過ぎてチャイム鳴る氷結世界の無人校舎 ---------------------------- [短歌]方向転換禁止/しろいろ[2009年1月25日20時16分] 自転車で法定速度はこえられない/次のカーブを鋭く曲がる 風船に君の息が入っていく入っていく やさしい すこし こわい 屋根裏でなくした白紙の古い絵本 握りつづけた鉛筆の熱 セロファンのブルーは剥がれて朝がくる 皮膚よりうすい現実がくる フリスクを2ふんたらずでたべつくし自殺ごっこももてあます冬 めざましを5時にあわせる 5時に鳴る 5時に鳴るのを すこし、おそれる 危うげな 彗星のようなキスがしたい 今日の気分は 晴れのちミサイル ---------------------------- [短歌]number/石畑由紀子[2009年2月3日3時22分] 1という字のように立ち 一という字のように眠れ 孤独な無限 0なんて発見するからいつまでも君の不在が消えないままだ ON/OFFのあいだに広がる宇宙にて親指は祈る メール、送信 最大の素数の更新くりかえし僕たちという単位で、いよう ---------------------------- [短歌]羽化するうたげ/あすくれかおす[2009年5月19日21時49分] 羽生さんが氏名を説明するたびにやさしい口調で羽が生まれる 初夏がきてみかがみのような水田の空にむかって落ちてゆく羽 ケチャップの湖沼に沈める手羽先をお箸でさくのが彼女の普通 パピヨンと名付けた子犬が羽ばたいてドラッグストアのちらしくわえる 「ろーるすろいすかーるるいすすいすろーる言えたよパパ!羽をちょうだい!」 開戦の挨拶代わりに一匹の天使が地上に落とす火の羽 「羽のなかにはカタカナのンが二つ入ってるから2回の負けよ!」 鳥類の世界タイトルマッチします挑戦者側の羽送ります 女子は保健室に男子は羽をもちいますぐグランドにきなさい まじないに必要な羽を探してます新宿西口駅の前です 羽と尾とどちらが望みか問う神のいない今朝にはウォーキングする 満タンのガソリンタンクの給油口に付着している羽の休息 ミトンがいい?それともミント?なんつって羽を拡げてしゃべる新妻 羽をありがとう。フェザー級にダチョウも入れていい?返事ください 慎ましくいたいけな羽を苗床に萌える緑に涙する昼 羽がほら生え変わるたびに友だちのRSSがフィードされてる 成田なら立ち止まるような未練でも羽田ならむしろ追い返すかも うつむいて羽をゆすいで泣く夜のティンカーベルが鳴らす着メロ ---------------------------- [短歌]データがありません/北大路京介[2012年2月13日18時34分] 買えません愛がどこかで売ってても お金が無いし働けないし 拾っては捨てる神しかいないのか次は死ぬまで愛されてたい 本なんて読んでる場合ちゃうかった正面の席美女座ってる 右腕にマリコ命と彫ったから同じ名の人探しています 莫大な財産あると思い込み富豪気分で死ねる幸せ 作文に書くことなくて嘘ついた架空の善意金賞をとる 有名なパワースポットご利益がないのはオレが証明してる 吸わぬのにショートホープと灰皿を君来る部屋にカッコ良く置く 誰ひとり女子は観戦していない完全試合マウンドの上 見栄張って結婚指輪はめている守備力上がるような気がして  ---------------------------- (ファイルの終わり)