るるりらのおすすめリスト 2010年12月9日12時01分から2011年1月8日6時35分まで ---------------------------- [自由詩]が ある/Wasabi [2010年12月9日12時01分] 自転車を猛スピードでこいでしまう 毎日の生活がある 自転車をゆっくりゆったりと漕ぐ あきらめとゆとりの生活がある ぼんやりと歩く散歩の中で 見えてくる気づきがある 気づいてしまう 充実した瞬間がある 遠くを眺めるから見える 青い空がある 色彩を受け入れてのぞく花に 豊かな潤いの心がある 耳を澄ます求めに 応えてくれる空気がある 愛する人を信条と重ねる 救いのメッセージと歌がある この世界に 足りない私がある いつもどこか足りない私でいいと みとめる私がある ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]さるすべりの影/はるな[2010年12月9日16時07分] 一年まえとおなじように、さるすべりの木がアパートのしろい壁に影を落とす。葉のおちた、やせた、冬のさるすべり。 はれて、あたたかい夕方は清潔なにおいがする。角のスーパーマーケットのほうから、圧倒的なただしさが立ち込める。揺るぎない奇跡とでも言うべき「生活」。 いろいろなことを言われる。いろいろなひとから。賞賛と罵倒、そのどちらでもない言葉。 でもそれはただの言葉であって、わたしではない。言葉はわたしそのものではない。 欲しいものは手に入れてきたし、これからだってそうするつもりだ。欲しい男の一人も手にいれられない人生は、わたしのものじゃない。 そう思うのに、わたしは圧倒的な清潔さのまえで立ちすくんでしまう。憧れているみたいに。あるいは何かを損なってしまったように。 ---------------------------- [自由詩]人形の家/生田 稔[2010年12月10日8時45分]  入り口にある絵  赤いマントの人形  妻が好む絵  人形のように  口の小さい彼女  琴の音が  響く部屋に  エステルのように  微笑んで  紅の日傘を  夫婦並んで  こっちを見てる  私たちの絵  妻と一緒に  描き上げたよ ---------------------------- [自由詩]靴/アマメ庵[2010年12月13日19時22分] ぼくはいつも作業服を着ている 田舎ではみんなそうだったし 何の不自由もない 社名の入った制服 オフの日でも安全靴 それがぼくの正装だ そんなぼくの格好を 都会の君は嫌った ある日 一緒に街を歩いていた日 君は 靴を買おうと言った あれでもない これでもない すったもんだの挙句 二人で選んだ NIKEの黒いスニーカー 初めて履くスニーカー 履き具合はなかなか良くて その日だけは 水溜りを気にしながら歩いたっけ 遠く離れてしまった君 靴を買ったあの日以来 一度も履かれることのないスニーカー 今日も たった一人 下駄箱に残して ぼくは 仕事に行く ---------------------------- [自由詩]食物連鎖と転生と/相差 遠波[2010年12月15日10時51分] 海の味を覚えている アサリよ アサリよ お前が居た海の味をこの舌は知っている 私は明日 おまえを食べるだろう そのために舌で味を見ながら 砂を吐かせるための塩水を作る おまえはそんな運命も知らずに 久方ぶりの上潮じゃと 笑っているような 目のような形をした排水器を延ばし 砂を吐いて生きる 海の味を知っている アサリよ アサリよ お前が居たという 私の故郷の海の味を覚えている 私は何時か 死んで灰になるだろう それまでは故郷の祖先がそうしたように お前を舌で味わいながら 肉を養って生きていく できれば灰は海に撒いて 溶けた私の成分が お前の遺した子孫達の 肉を養って活かせればいい 溶けた私の石灰質が あの美しい貝殻になれればいい 海の味を覚えている アサリよ アサリよ 祖先が居た海の味をその舌は知っている ---------------------------- [自由詩]落ちてくるもの/nonya[2010年12月15日19時24分] 雨が滑り落ちる 雪が零れ落ちる 花が乱れ落ちる 涙が伝い落ちる 決められた方向で 定められた法則で ただ落ちていく あらゆるものを ありのままに 受け止める大地に 突っ立って あらゆるものを ありのままに 受け止められずに 油断すると 猫背になってしまう自分は 引力と遠心力の狭間に 打ち捨てられたまま 落ちてくる方向に 落ちてくる意味を見出そうとして 弱々しく懐かしい 瞳を向ける ---------------------------- [自由詩]交わり/水穏(みおん)[2010年12月16日9時29分]  痕痕痕  痕傷痕  痕痕痕 ---------------------------- [自由詩]遠 聲/アラガイs[2010年12月18日4時00分] 金曜日の夜 窓をそっとあけてタオルを干しました 。 墨色の空を見上げ ねむれないのは星と僕だけだと、 知りました 。 遠く離れたあなたの淋しさを思うとき 冷たいコップの水に胸がキュンと締まります 。 街はこんなにも静かに空けてゆくのかと 胸もまた、あつくなります 。 明日は逃げてゆくばかりで わたしは追いつけるのでしょうか 薄い血に冷めた身体から 沸きたつお湯の息が あつい (ふと、子供にかえり 誰かが遠く、耳元で叱る ‥寝なさい…)と そんな夜に泣く喉笛はもう 土曜日の朝 でした 。 ---------------------------- [自由詩]サンタさんからの手紙  〜 過去6年分/北大路京介[2010年12月21日16時58分] 2010 ---- Dear Kyosuke サンキュー フォーユアレター。 とても嬉しいよ。 Ho, ho, ho. 京介君は、たいへん 良い子にしてるんだね。 とても偉いよ。褒めてあげる。 去年は、政権交代やらなんやかんやあって、 日本へ行けなくて、とても悔しかったよ。 残念ながら、今年も夏が暑すぎたコトや円高の影響で、 今年も行けないかもしれません。 京介君も大きくなってきたから、 もう来年からはプレゼントを貰わなくても良いんじゃないかな? サンタさんは、世界中の子供たちにプレゼントを配らないといけないんだ。 京介君よりも小さな子供たちがプレゼントを待っているし、 わかってくれるよね。 これからも ずっと良い子でいてね。 よいクリスマスと新年を! From Santa ---- 2009 ---- Dear Kyosuke Ho, ho, ho. お手紙ありがとう。 とってもうれしかったよ。 サンタさんは、京介くんが良い子にしてると知っていますよ。 君の欲しいプレゼントを届けに行きたいんだけど、 今年は、政権交代とやらで、日本政府が変わってしまったんだ。 むずかしかったらパパかママに聞いてみてね。 ジャパンへ行けなくて、ベリー残念だよ。 Ho, ho, ho. (もう笑うしかないよ) よいクリスマスと新年を! From Santa ---- 2008 ---- 京介くんへ お手紙ありがとう。 サンタさんの絵を描いてくれて、とてもうれしかったよ。 よく似てました。 トナカイのルドルフも喜んでいますよ。 京介くんは良い子だね。 良い子には、クリスマスプレゼントを届けに行きたい! だけど、 今年はサンタさん、リーマンショックの影響をもろに喰らって、 プレゼントを用意できなかったんだ。 よくわからなかったら、パパかママに聞いてみてね。 ニッポンへ行けなくて、ソーリー。 よいクリスマスと新年を! From サンタさん ---- 2007 ---- きょうすけくんへ おてがみありがとう。 クリスマスカード、とてもうれしかったよ。 緑と赤と金色の3つが合わさるとクリスマスらしいよね。 きょうすけくんが、いつも良い子にしていること、 きょうすけくんのパパやママや先生からきいています。 良い子にしていたら、クリスマスプレゼントがもらえると パパやママからきいていると思うんだけど、 今年はサンタさん、サブプライムショックで、 それで くびがまわらなくなったんだよ。 よくわからなかったら、パパかママにきいてみてね。 プレゼントをもっていけなくて、ごめんね。 ふゆやすみのしゅくだいは早めにやっておくんだよ。 おじいちゃん・おばあちゃんから、お年玉たくさんもらえるといいね。 サンタより ---- 2006 ---- きょうすけくんへ おてがみありがとう。 とてもうれしかったよ。 きょうすけくんが、おうちのおてつだいもして、 おべんきょうも がんばっていること きょうすけくんのパパやママからきいています。 おべんきょうがんばっている きょうすけくんに クリスマスのプレゼントをあげたいんだけど、 ずっと、おなかがいたいんだよ。 ことしはサンタさん、ライブドアの株をたくさん買ってしまってて、、、 ほそきかずこというオバチャンがテレビで、ホリエモンに 「株が5倍になるわよ!」と いってたんだ。 よくわからなかったら、パパかママにきいてみてね。 プレゼントをもっていけなくて、ごめんね。 テレビのいうことを かんたんに しんじてはいけないよ。 おじいちゃん・おばあちゃんから、 おとしだま たくさんもらってね。 サンタさんより ---- 2005 ---- きょうすけくんへ ママに よんでもらってね。 おてがみありがとう。 とてもうれしかったよ。 きょうすけくんが、おへやのおかたずけが ちゃんとできるようになったと きょうすけくんのパパやママからききました。 えらいね。 えらいこどもには クリスマスのプレゼントをあげたいんだけど、 ことしはサンタさん、原油価格の高騰で下手うっちゃって、 資金運用に大失敗。取引業者に騙されたよ。 京介君のママも気をつけてください。 素人は手を出さないほうが良いですよ。 きょうすけくん、こどもにはむずかしいはなしだったね。 おおきくなったら、パパかママにきいてみてね。 プレゼントをもっていけなくて、ごめんね。 おじいちゃん・おばあちゃんに クリスマスプレゼント買ってもらってね。 お年玉も たくさんもらってね。 サンタさんより ---------------------------- [自由詩]循環/森の猫[2010年12月22日0時18分] 自覚がない でも あたしの肩は パンパンに張っている   他人にコリを指摘されて 気づく 足の先端も冷たい 脚も冷える 上半身は熱いのに 冬でも半袖ワンピに 綿カーディガンなのに どうなっているのだろう あたしの カラダ? リンパの流れが 循環が滞っているのだ わかっている わかっているけど 冬はキライ 引きこもる 素足で歩き回る 長風呂は苦手 熱いシャワーがスキ 生ショーガをすりおろした 紅茶がいいらしい 去年の冬は 小まめに ケアしていた 今年はなあなあだ だって 夢中になるものができたから 生活が簡素化している 他のことに興味がわかないんだもん さぁ 今宵も 熱いシャワーを浴びて まるまって 寝ようかな ---------------------------- [自由詩]飛翔するカゲの家族/石川敬大[2010年12月23日14時43分]  カゲがひとつ減った  またひとつ減ってこれでは  カゲの家族が家族ではなくなってしまう  カゲの家族の個々のカゲすらなくしてしまう  とつぜんの惨劇ではなく  しのびよってきたものによって  つぎつぎ斃れた  斃れながらも  洗いたての両翼をひろげて  なくしたカゲを地上のカゲに預けたまま  神がいる  空を飛翔した      *  やっとのおもいでたどり着いた  泉だった  この泉でなければ  と、声をそろえて  カゲの家族たちは鳴くのだった  泉  と、いっても  湿田がひろがる海につづく干拓地の  川やクリークに架かる橋をわたって  右往左往する昆虫みたいなクルマが連なって蝟集した  カゲの家族の  カゲがある団欒を  共有したいそのためだけに集まってきた  祈りににた行為だった  ひとびとは  自覚することなく  カゲをうしなったカゲの家族が飛翔する  神の空をみあげた    なにも聴こえない羽音をたてて  絶滅の危機がせまっていた ---------------------------- [自由詩]名所について /服部 剛[2010年12月24日0時18分] 遠くに見えるあの富士は  名所と言われているけれど  今・この詩を読んでいる  さりげない姿勢のあなた自身が  同じ地面につながった  世界にひとりの、名所です。  (日ノ本の全ての人の心象にある          ましろい富士)  たとえば、一台前の車の  ガラスに映った雲の隙間から  太陽の顔が輝く時、そこは  私にとっての、名所です。   名所はいつもさりげなく  足元から、現れる。  ---------------------------- [自由詩]思い出した/いねむり猫[2010年12月25日18時12分] 気持ちがゆるんでいた午後 街は 私から距離を置いて 忙しい ひざがゆるんでいる ゆっくり歩く 軒先から覗いてる 猫と目が合う 頭のねじがゆるんでいる しらふなのに 気持ちがいいけど 少し心配 肩が落ちている 元気だけど 足元を横切るアリを よけた 耳鳴りのような 深いため息が聞こえる 青空に 葉をすべて落とした けやきが立っている 視界が広がる いろいろな音が聴こえる 自分の中の音楽を 思い出した ---------------------------- [自由詩]狂った風/atsuchan69[2010年12月26日10時37分] 窓がとぶ 屋根がとぶ 全裸のマネキンが宙をとぶ 狂った風が吹きやがる 傘がとぶ 帽子がとぶ 純白のパンティーが宙をとぶ 狂った風が吹きやがる 笑いやがれ、 笑いやがれ、 笑うしかないから 笑いやがれ ビルがとぶ 消防自動車がとぶ テープみたいな時間が宙をとぶ 狂った風が吹きやがる 巨象の吼える声がとぶ 殺気走った師走の街がとぶ おびただしい数の万札が宙をとぶ 狂った風が吹きやがる ---------------------------- [自由詩]師走に思うこと、成長したのかな/一 二[2010年12月27日2時11分] 来年からの学費と生活費を捻出するため 隣町で道路工事のバイトをした ギリギリ専門学校に受かり あまりの嬉しさに 現代詩フォーラムで報告する くらいの学力しか持ってない俺でも 家が土木建設会社だったこともあり 肉体労働だけには自信がある そのツテで紹介して下さったバイトだ 知っている人が多いから 別段気を使うことは無かったし コーヒーと原付のガソリンを 奢って下さった 有り難かった クリスマスの間ということもあり 日給がとても良かったが 道行く車に乗っている 親子連れやカップルは みな、幸せそうで、楽しそうで 何より寒そうにはしていなかった 俺は 彼らは毎日 誰かのための労働をしているが 俺は俺のための労働を 今しかしないで良い こんなに気が楽なことはない と、自分に言い聞かせた 涙を堪えると寒くなくても鼻水が出る とても寒かったけれど 五日間のアルバイトを終え家に帰り 親と来年から住むアパート (家賃:月二万四千円)を決めた 近くに小学校があるためか 一番安い物件より六千円高かった 「通う学校から近い」 「駐車場がある」 「駅が近い」 「お風呂とトイレが別々」 「ベランダが広い」 「共益費が無い」 「二年住めば敷金と礼金が返ってくる」 様々な理由を親に述べ了承を得た アパートを決めた帰りに 学校は開いてないから友達の家で 現代詩フォーラムにログインしたら いつも励まして下さる 先輩の私信を二通もスルーしていた という無礼に気付き とても焦った 俺が「親知らずを抜く」と 告知をしていたため それをとても心配して下さったが 町の歯医者では抜けないくらい 抜きにくい生え方をしているため 別の日に大学病院で抜くことになった 心配を掛けてしまった… それと全額ではないがバイト代の出費… まだアパートには住まないから 実家に帰り 自分の部屋で 冬休みの宿題をしながら 友達に録画してもらった BSのアニメソング特集を見た 次の日は 自動車学校で マニュアル普通車の講習を 同級生たちと共に学び 卒業後に購入する車や 俺が普通二輪を狙っており 普通二輪の免許をとるのは 新しい生活に慣れ 時間とお金に余裕が出来た 来年の夏休みになるであろう 車なんて要らない バイクは風と一体になれるが 車は箱が動いているだけだ お前も原付に乗っていたなら それぐらいは想像がつくだろう そもそも マニュアル普通車免許の取得は 履歴書の空欄を埋めるためだ といった話をした 学費と生活費とは別の貯金に kawasakiのninja250rという バイクを買うための貯金をしている 購入費 改造費 登録税 強制保険 任意保険 を含めると 物凄い金額になる 頑張るぞ 目まぐるしく 自らを取り巻く環境が ぐるぐる回りながら がらがら音を発てながら どんどん変わっていく 夜、眠りに着くとき 期待と不安がごった煮になって 物凄い味になってしまうから 寒くもない布団の中で でろでろと鼻水を流してしまう 専門学生になった俺よ 独り暮らしには慣れたかい? 友達はいるかい? 彼女は…いるか…二次元… 学校は楽しいかい? バイクは楽しいかい? 原付が寂しくなったかい? 面白いアニメを視てるかい? そしてなにより 詩を書いているかい? また話そうな 今度は専門学生の俺が 高校生の俺に色々と聞くからな ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]大宰府にて/soft_machine[2010年12月31日7時33分]  節分は、母親がお札を返しに行くと決めている日。 数年前、「あんたも行かんね。」と誘われ、お参りのお供をしました。  太宰府は前日からの冷たい雨が降り止まない中、大勢の吐く息の白さが揺れていました。  参道の両側を埋め尽くしているお店からは売り子の声。溢れかえった人波の傘を気にしながら歩いてゆきます。空気が、まるで針のように冷たく硬く尖ります。延寿王院を見て突き当たり、左に折れると境内です。  久しぶりの天満宮。変わらない景色。ほぼ10年ぶりでした。  広く美しい庭、池、木々。懐かしい、心字池に掛かる太鼓橋。  池を流れる水の波、落ちる雨の円。緑の水面を滲ませる朱は鯉。  ひょうたんくぐり門がかわいい。  先にお参りを済ませうちわを購める母が「今年はお豆はありませんの?」なんてイヤシイことを言う。「申し訳ありません、もうなくなってしまって…」巫女の言葉にうちわをくるくる回して苦笑いの母。飛梅はその隣、流石(飛梅は天満宮一の早咲きです)よく咲いていました。  本殿を過ぎると、受験期なので学問の成就を願う絵馬や瓢箪がずらっと並んでいました。千年楠に降る音の拡がり、まだ数えるほどしか花開いていない梅林。裏手の方は人が随分と減って、ゆっくり歩けます。一番奥の--何て屋号だったかな--茶屋の先で「そろそろ戻ろうか」母が言い、お稲荷様までま行かず引き返しました。  「縁切りだから(寝も葉もない俗説、天神様は昔より縁結びの神様です)恋人と来て橋を渡ってはいけないって云うけれど…今の子はそんなこと知らんとやろうねぇ。」  「どうかいな、こんな噂話し、結構今も伝わっとっちゃない?」  「そうね、案外そうかもねぇ…そう言えばこのお茶屋、凄い美人さんがおって色んな有名人が来たげなね。」  「そん人の往き帰りば楽にする為に、トンネル掘った人がおるっちゃろ?」  「見たい?」  「またにしよう。」  「そういえば、あんたとお兄ちゃんの受験の時は、おばあちゃんとふたりで祈願祭お願いしたとよ。」  「うわ、まじで?」  「やっぱり本人がおらんと駄目ね。」  「…ちゃんと受かりました。兄貴も受かったやん!」  「あら、そう?」  「そげなんしよったったい、ありがと。」  下らない会話が弾んで楽しいです。  その太鼓橋。高校生の頃付き合っていたコと渡り、見事に別れ…。  おみくじも引きました。吉でした。母は大吉。なので、ふたりとも紙縒りにもせず財布に仕舞ってあります。特筆すべきは縁談。ナニナニ…苦労あれど成る、か。そうかそうか。遂に俺も長かった彼女イナイ歴に終止符を打つか。  帰りは宝物殿、曲水の庭、菖蒲池と眺めながらアーケドをくぐるコースです。菖蒲池、随分昔--僕も兄貴もまだ小学生だったかな--、夜訪れるとライトアップされた菖蒲には人また人で、まったく疲れるばかりだったな。  そんな風にして思い出すことは色々です。ばあちゃん、母親、マル(昔飼っていた犬は迷い犬で、拾ったのも名付けたのも私です)とは何度も来ました。マルはまだ生きていたし、ばあちゃんも元気だった。けれど激しい感傷にはもう襲われません。ちょっぴり寂しさを感じても、いい思い出です。  ちいさな、ひなびた、きっとお日様のひかりが似合うアーケード。母親は、「あんたらえらい喜んどったとよ。」と教えてくれましたが、なるほどここは子どもだった兄と僕が(今でも?)大喜びしそうな雰囲気だけど、悔しいかな憶えにありません。天満宮にこんなアーケードがあるってことを、今の僕は知りませんでした。ちくしょう。ここにも茶店が並び、お土産屋が並び、短い区画ですが傘を畳んだのも楽しかったです。  アーケードを抜け心字池の脇でまた傘を開いて水面を眺めていると、岩影に何かちいさく動くものがあります。それはとてもちいさいものでしたが、何故か目によく映えて感じられました。  見ると鳥でした。  緑に見えた羽色。最初は鶯かと思いましたが、目を凝らすと緑ではない、鮮やかな青。あれは…ひょっとしてカワセミかな…カワセミかな…そうだ、あれはカワセミだよ…カワセミだ!!  僕は田舎育ちのくせにカワセミを見たことがありませんでした。  テレビでしか見たことのなかったカワセミが、数メートル先の岩にちょこんとしています。  羽根をまるまる膨らませているのは、きっと寒いから。 「ちょっちょっ…あそこ、カワセミがおるばい…梅の向こう、岩のとこ。」 「あら、まぁ本当、こんなところにねぇ…。」 「やっぱりカワセミったい…めちゃくちゃ可愛いいね。」 「ほんと、可愛い。」 「初めて見た。」 「あら、そうね、お母さんも数えるくらい」  ふっと飛び立って…カワセミが飛ぶ姿は、想像以上に美しいものでした。羽撃きの速さで流線型の躯をほとんど振らさず、滑らかな弧を描く。そして池にはり出した黒い梅の枝に止まり、首をちいさく動かします。しばらくすると向こうの茂みにまた飛び掴まって休み…ひとり雨を振い、佇み…。  母親が言います。 「逆瀬谷で、何回か見て…あとは紅葉ヶ丘の家でも見たわ古刹。」 「紅葉ヶ丘におったとね。」 「何回か見たわ。」 「知らんやった。」  風が強まって雨も斜めですが、どちらも笑顔です。 「あと一回。飛んで欲しいね。」 「ほんと、ねぇ、もう一回飛んで見せて。」  母親は語りかけますが、じっと10分くらい眺め、身体も冷えきって、諦めることにしました。  カワセミ、思ったより嘴がちいさかったです。雨の中、その輝きは慎ましいものでしたが、晴れの日はきっときらきらとするのでしょう。 「鳥は燕が一番好きやったばってん、変わったよ。」 「そう。」 「うん、カワセミ。」  思い浮かべるカワセミ、今も凛として可愛らしいです。また会いたいです。  その後、近所の古刹まで足を伸ばそうと母が提案しました。  参道から外れる途端に、あれほどあった人影がなくなります。背後に、その気配も遠ざかり、街の佇まいがはっきりと感じられました。  向かう途中、駐車場で骨董品を広げていたので覗くと、目にとまったのは雨ざらしの大皿です。絵図はニ尾の鯉。溜った雨を喜んで、泳いでいるようです。可愛い珈琲カップは有田で、びっくりするくらい高かったけれど、あれで飲んだら美味しそう。  光明寺は初めて行きました。けれど見覚えがあったのは、いつか生徒さんに見せてもらった写真の一枚にあったから。堂々の構えです。母親はずんずんと境内を奥へ進んで行きます。  靴を並べて母親が、「もうこの千円は雨漏りがすごいと。」そう言って笑いながら、すっかり濡れた靴下を見せてくれました。上がりで足跡が濡れています。母親に新しい靴を買ってあげたいけれど、それをすると、母親が、再婚相手の吝い旦那に、必ず嫌味を言われるだろうから出来ません。  飾らない風でも意匠の凝った造りの柱は古く、しっかりとした床板は清潔で…でもなんて冷たい床なんだ!  母親が連れてきた理由は、時期には大勢の人を集める庭園、大小三十本余りの紅葉です。苔むした岩、石庭に雨が降る様は正座していても、時が経つのを忘れさせました。 もう40年も昔の元旦に、母親はここで初点をしたそうです。その頃は、まだ奥山の岩肌が露で、木々もやはり小振りで、芍薬もまばらで苔も今よりは浅かったそうです。その青春の中で、時間の流れる力強さは、庭を豊かにし、母親の顔に幾筋も皺を描きました。  見れば母親は何を思ったのか声も立てず泪を流していました。出鱈目な僕なりにでしかありませんが、大切にしよう。そう思います。  雨がやんで、梢の雫がビーズのように反射していました。 「すっごくいいお寺やね。」 「でしょう?また、若葉の頃に来ようね。」 「うん、きっと。」  買われてからずっと母親の掌でくるくる回っていたうちわが、乾いて波打っていました。 「厄よけに。」と言って母親が扇いでくれたので、お返しに「福呼びに。」と扇いであげました。  ぎっしりあった車もすっかり減った駐車場に着くと、太陽が雲の上で中天を過ぎる時刻。  遠く背振の頂きに、一際鮮やかな陽光が落ちていました。 ---------------------------- [自由詩]初春の空を眺めて/未完[2011年1月1日8時55分] おめでとう 祝福の言葉を たくさん浴びる そんなシーンを 思い浮かべて 新たに ---------------------------- [自由詩]透明な気持/ペポパンプ[2011年1月1日9時01分] 朝露を感じ 深呼吸する 平和な日々 何も無い時 花が咲いた 鳥が歌った 風が笑った 月が泣いた 芽が膨らみ 時を待って 心が澄んで 想いを貫く ---------------------------- [自由詩]金魚鉢と紅生姜/お菓子[2011年1月1日10時42分]   金魚鉢がひとつあれば 紅生姜を入れる すると紅生姜は 金魚になって うれしそうに泳ぎだす でもそれは 本当は金魚ではなくて 赤い赤い心臓なので 箸でつかむと 金魚鉢が割れてしまう ああ だから赤い赤い心臓は かなしそうに 喉に落ちていったんだねえ だから 生きてるってかなしいんだねえ 真実は目に見えるけど 見えないから 生きてるってたぶん そういうことだねえ ---------------------------- [自由詩]抱負/月乃助[2011年1月2日10時27分] やせることにしました 夜も昼も 私の体は、重たい気がします 持っているものも これから 持とうとするものも 少しばかり多すぎるから 知らぬ間に 体にたまった/たまる澱は、いつまでも 消え去らずにいるのですね 本当に必要なものをのこしてみたら、 さっき貧欲な海鳥が えさを求めて 鳴き声をあげていました 生きるために 当たり前のように いりもしない見栄とか、 手にもてあます欲とか、 赤い目をして、 つまらぬ男を捨て去るように いさぎよく 投げ捨ててしまう 削り落としたその先に 残るものもあるはず それは、きっと 私の大事にするもの/ものたち そうかもしれない ---------------------------- [自由詩]ピーターはラビットにはなれない/nonya[2011年1月3日20時41分] 草食系だと もてはやされたり 馬鹿にされたり その度に 膨らんで青空を目指したり 萎んで地面に貼りついたり そんな僕は サヨナラも言わずに 強制終了された恋を いつまでも着古したまま 安い焼肉屋の片隅で サンチュをもそもそと食んでいる 葉肉葉葉 葉葉肉葉 葉葉葉肉 葉葉葉葉 葉葉葉葉 葉葉葉葉 僕の目の前で屈託なく笑う とても肉食系の友人は いつか僕を喰らってやろうと 笑ってないほうの目から よだれを垂らしている そもそも 消化能力が極めて低く 臭いに敏感すぎる僕を 焼肉屋に誘う友人に 脂ぎった悪意を感じつつも もそもそ 言い返したい言葉を 上唇の下に貯め込んだまま 僕は人より長い前歯を隠しつつ もぞもぞ薄笑いを滲ませる そもそも そんな仕草ばかりしているから 人からピーターなんて 呼ばれてしまうんだけれど もしかしたら耳も 人より長いのかもしれない 上機嫌な友人は ハラミで頬っぺたを孕ませながら 僕をいじくろうとする <ねえピーターってさあ> (微笑んだままうんざりする) <それってピーターらしいよなあ> (同意するふりして血圧を上げる) <ピーターなんだからしょうがないって> 頭の中で何かがぴょーんと弾けた 僕は 不器用な前脚を丸めて 不健康な後脚を縮めて 友人の後退しかけた額めがけて 思いっきり跳躍した 僕は 陽気な血飛沫をあげる友人の 能天気な額を踏切り板にして ネザーランドの草原の真っ只中に ものの見事に着地した ように思えたのだが 相変わらず 目の前の友人は ユッケビビンパを愉快そうにかき混ぜながら 葉葉葉葉 葉葉葉葉 葉葉葉葉 相変わらず ピーターの僕は サンチュをもそもそもそもそと食んでいる いつまで経っても 僕は 本物のウサギにはなれないらしい ---------------------------- [自由詩]ー冬日双詩ー/生田 稔[2011年1月3日21時40分] ○冬日在居 メダカ動き、妻しきり歓び めずらしや、めずらしや と言う 正月、真冬なり、寒し、されど 外は、陽の光うるわしく 時は正午を過ぐ しきり妻と共 何処へか出向かぬかなど談ず 昼なるに燈火に親しみ 暗き部屋に在り 詩を書くは悪ろしや 詩を書くはいずれにせよ良し 部屋に在りて。 ○冬日外出 青空に、 絹をのべたる 細雲の 冬の日の道 辿りたれば 行く手はなくも あるやもしれず 午後の外出 ときめきの胸の思いの この詩の終わり なくて、この辺りにて 止めんかとも 思うなり。 ---------------------------- [自由詩]大人の事情がるた/salco[2011年1月3日23時19分] い 色恋は風の道 ろ ロケットは落とすもの は 恥知らず有頂天 に 妊婦忍耐 産んでも忍耐 ほ 星の数よりヘボ詩人 へ へカテ元アフロディテ と トイレはシステムの始まり ち 痴漢の心眼 刑事の彗眼 り 料理も嘘もひと手間 ぬ ヌかないと死ぬ る 類型は芸術に非ず を オカン全員オンナ わ 割れ目までは乙女(のつもり) か カチンと来たら負け よ ヨッパライ生き下戸 た 確かなんかない れ 列車は少年を乗せる そ 空見る阿呆そら見ろ つ 罪無きはなし ね ねんごろ嘘の味 な 泣くは我が為 ら 裸身悪しきは中身まで む 村は失せる為に在り う 浮気九割 本気五分五分 ゐ イモは畠出てこそ の 脳に始まり脳に終わる お 男とは寛き手のひら偏見せぬ眼 く くたかけ飛ばず唄わず や 妬かれるうちが花 ま まけぬ種はオカモト け ゲイは蝶番 ふ 「不」倫は保身 こ 胡椒好きの味オンチ え エゴイストは止まると死ぬ て 手垢を愛と呼ぶ あ あばずれはカネを動かす さ 刺身は4時まで き 狂人は嘘つかず ゆ 夢すり替え中年 め 目玉焼きは醤油っしょ み 身の程知らずの声高 し 知らぬふりが涅槃 ゑ 円の下支え損 ひ 貧乏先もなし も もっこりが屈折の素 せ 瀬戸内海つまんない す 好く方が捨てられる 京 清志郎がいなくてさもしい ---------------------------- [自由詩]ゆきうさぎ/殿上 童[2011年1月4日0時33分] たんねんに こさえた ゆきうさぎ あなたが ふりむいてくださらないから きょうも 赤い目の ゆきうさぎ ---------------------------- [自由詩]dissimilation./吉田ぐんじょう[2011年1月6日3時25分] ・ 夫があまり鋭く見つめるから わたしはしだいに削れてゆく 夫と婚姻関係を結んでからのわたしは もう余程うすっぺらくなったらしい 強く手を握られると きしゃり と指ごと潰れるから かなしい ・ 眠る夫の口から 糸がはみ出ていた 引っ張るとそれにくっついて 汚いどろどろしたものがどんどん出てくる もう何も出てこなくなるまで 三十分ほど引っ張っただろうか 洗面器いっぱいに取れたどろどろは 死にたてみたいに温かだった 庭の隅に埋葬した 翌朝 起きてきた夫は つやつやとよい顔色で 愚痴も言わずにきびきび動く 清らかなひとになっていた 青ざめるほどに後悔した わたしは夫の悪いところをこそ 受け入れて許さねばならなかったのに 受け入れることも許すこともできずに わたしたち どうやって暮らしてけばいいんだろう ・ 誕生日には 自分の部屋に鍵をかけ 既にそこで待っている 一歳年上の自分と交代するつもりだ 交代した後は押し入れに横たわり もう二度と目覚めない わたしはいつでもこうしてきた そういう風に出来ているのだ 二十七人目のわたしは 二十八人目のわたしと交代し 二十六人目のわたしの隣に横たわる そして短く息をつき 静かに眼を閉じるだろう そのときはすぐにやってくる だから今のうちにさりげなく あいしていたと伝えておこう ---------------------------- [自由詩]青い湖畔のシカ/石川敬大[2011年1月7日0時04分]  満月の夜には  外にでてはいけないと老婆はいう  ふらふらと外にでて  川を遡上  青い山に囲まれた  いちばん星空に近いその湖に行ってはいけないと  ゆらめく満月は  湖面から  シカになったおまえを手招く  手招いておまえの傷痕を消えなくなるほど露わにする   ―― と、ほら  ここまで書いてきた  ぼくの言葉に  黙ってついてきたおまえは  もう青い満月の湖面に魅せられ惹きよせられている      *  ふるほどに鏤められた  冬の天の川その  アフリカの広大なサバンナを過ぎる沙漠の星空もすべて  はるかな過去だったなんて  シリウス  冬の大三角形  ほら、観えているのに  ほら、こんなにも感じるのに  すべてが過去だったなんて  宇宙のどこにも存在しない星もまた  いま  夜空に  またたいているなんて      *  まるで  青い湖畔の  透きとおった野生のシカのようじゃないか ---------------------------- [自由詩]左手/Wasabi [2011年1月8日6時35分] 私の手は大きい方なのか 指が長いのは 誰かの忠告通り 手袋で隠した方がいいのか 手相をみてもらった 50歳すぎてから開運されますね ああ、 そのころ母親はどうしているだろう 家族って 軽いのに重いよ 「30才前後にした恋愛が 結婚に結びつく恋でしたね」 その言葉に “幸せな”結婚という 保証はどこにもついていないでしょ DVなんてごめんだよ 良妻賢母タイプですね 母親になれなくても、その言葉 うれしいよ 細やかで優しい方ですね いろいろ分かるの 私はわたしの手を信じていいの 自転車をこぎながら 声をもらして泣く 劇団なんとか という 育ちの良い芸人が嫌(きら)って言う すんげー貧乏くさい顔で泣いてたって たぶんこのことだね   夜道だからいいよ って私が言ってくれるから 顔も涙も隠さなくていいよね ---------------------------- (ファイルの終わり)