るるりらのおすすめリスト 2020年8月9日16時05分から2022年2月1日22時03分まで ---------------------------- [自由詩]まどさん/道草次郎[2020年8月9日16時05分] 泥濘の 市井で こってんこてんに なって ずぅーんずぅーんと 沈むような どす黒い 不吉なわた雲のような 詩や げいじゅつや エンタメが その 一切の 精彩を欠くような 日 そんな どうしようもない 日に あなたの 声は 聴こえてくる いわなかったことは いったことの たいがい いつも なんばいかだ もう いないん ですね もっとも はじめから いたようには 感じられ なかったけれど 幾夜となく 本棚の前で あなたに 流れついた筏でした あなたは そんな筏に 乗ってくれる ふつうの やさしいかみさまでした あなたの評は 風やたんぽぽのしごとです あなたの ひらがなのような さみしさ あれはあなたの抱えた宇宙でしたか それとも あれは こどもたちにみせた お楽しみ会の すてきな 手品だったので しょうか どうか、教えてください まど・みちおさん ---------------------------- [自由詩]平和の祈り/Lucy[2020年8月9日22時00分] そこまで惨いことをしてみせなければ わたしたちが 気付けなかったとお思いですか それほどまでして ただ懸命に生きていた人たちをいたぶり苦しめなければ 地道に生きることの大切さと 命の尊さを わからせることができなかったと お考えですか 例えばもっと恥知らずな 人を人とも思わないような 罪深い輩のほうをなぜ罰してはくださらなかったのですか 彼らは生きて 笑っている 自分たちの咎を知ろうともせず 犠牲になった人たちを悼むこともせずに 何も知らない私たちの罪と 彼らの罪が同等なら 彼らを指さし断罪する資格が私にないなら 苦しみうめき泣きながら死んだ人たちの絶望は いつどこで報われたのでしょうか いつ果てるともない問いかけに沈黙するだけのあなたは ただ 嵐の後の青空や 津波の後の平らな海を どこまでも続く焼け野原を みせるばかりだ 苦しみを人に与えたのはただ人なのだからと 等しく人を許すばかりだ ---------------------------- [自由詩]桜姫/田中修子[2020年8月13日0時31分] ふわりとしたエメラルドグリーンのワンピースが 雨上がりで蒸し暑い灰色の 川辺に映え 道化師が その様子を写した ワンピースに茶色の髪の毛が、あんまり優しく垂れさがっていたので。 たくさんの人魚姫たちが、とってもうつくしいシッポをうねらせて このとこ、しずかになった、夜の街の、夜の道を泳いでいる。 (蝋燭を作りましょうね、おじいさまとおばあさまのために。) 村が亡んで、雪が降った。 ときに縄師は、陶然と縄酔いした客を犯し 界隈は嬌声かまびすしいことこの上なしだね 赤・黒・白、吸ってきた汗やら何やら、黴のにおいがするんじゃねえの 遊郭は画一的なビルディングのまちにこそ出現し 逃げるおんな赤襦袢 うろこの剥げ落ちた なよやかな白い足うらに目を打たれ いまは怨霊と化した刺青師は どこかに隠れて、さらう日を待ち構えているのだから こんなところにいるのはよさないか? だってさ、もっともっと雪が降り積もってくるよ あの日降りはじめて、止むこともなく 冷たいとか寒いとかそんなものもある日、ふつっと途切れて そのまんま 人をやめて、人魚になったね スノウ・ランタンの灯かりに照らされる、青い唇で。 重い灰の雲のきれまに、薄い水灰色の空が覗く、 ま白い傘をさす彼女、藻に銀の蠅がたかっている水面を覗いていて、 「絵になるな」 と道化師が呟く ぬるくなったノンアルコール・ビールがまとわりつきながら 胃の腑に落ちていく。 川底には、ひとを愛しきれず泡にもなり切れなかった こわされた人魚姫たちの死骸が重なっているから 一緒に踏み入って、死骸から鱗をちぎりとってやろうか。 こんなになってもまだ、人になるのがあの子らの想望ぞ。 剥いで剥いで、清めの塩みたいに投げたら、空に青金がひろがって あなたは耐えきれずに、桜の花びらになってくずれていった。 ---------------------------- [自由詩]花火/wc[2020年8月13日22時03分] 一発上がるたび メッセージや協賛が アナウンスされる 辛気臭い 思い出の中の花火大会 大人になり 横並び何連発や 間髪入れず打ち上がる迫力の 爽快感と、興奮 ひとつづつあがる、辛気臭い 花火大会 協賛と 恋人へのメッセージと 世の中へのエールと 花火師の見つめる先が 噛み締めるように、あがり いやでも耳に入る まえふり きっと、5000とかで、寄付したら、込めてくれる 友達とわいわいしながら行って はやくあげろよなーとかディスって 邪魔だなーって でも全部聴こえて ぽーん と、あがる その中には 今か今かと 待ちわびて アナウンス入って喜んだり その中から新しい夫婦が生まれたり いろんな物語があるのが、変に自分のことのようにおもえたり ぽーんとあがる、あのいっぱつ 誰かは必ず 見てる ---------------------------- [自由詩]ラプタ/クーヘン[2020年8月14日12時21分] 天空の城ラプタを観ようとしたが、そんな映画は見つからなかった。 それは、発音のままならない幼少期にだけ存在したのかもしれない。 ---------------------------- [自由詩]こもれび盆/そらの珊瑚[2020年8月15日13時13分] 東の国の光が 樹々のさやさやに濾過されて 薄いカーテンにまるく形作られる あれらは宇宙から帰ってきた魂 風が吹くたび わずらいから放たれて踊ってみせる おばあちゃんのことで覚えているのは 千ピースのうち ほんのわずかで穏やかな数ピースだけ 声と おばあちゃんになってからの顔 人を形作るにはとても足りないね ある年 おばあちゃんは迎える人から迎えられる人になり ある年から あたしはお帰りなさいと言う人になった ---------------------------- [自由詩]憂鬱はこのようにして打ち砕いてゆく/ジム・プリマス[2020年8月15日13時37分] 何故か苛立つ 原因が分からない タバコも旨くない コーラも飲む気がしない 時にはそんなこともある 憎しみの波動を感じる 謂れのない悪意が伝わってくる そんな時は 冷たい水に浸かって 意識を宇宙に向かって開いてみる 身体が痙攣するにつれて 意識がだんだんクリアーになってゆく 気分がスッキリしてきた 天界の意識はいつも前向きだ 天恵を受けると 意識が前向きになる タバコに火をつけて 一本、吸ってみる そうするとタバコも いつもの味に戻っている 憂鬱はこのようにして 打ち砕いてゆく 感覚を研ぎ澄まして 意識をクリヤーに保つんだ そうして得られる空は だだの空じゃない 血沸き肉躍る至福に満ちた空だ チベット死者の書に書いてある通りだ そのことをまたこうして実感する ---------------------------- [自由詩]眠り/道草次郎[2020年8月16日5時17分] 目をつむると 疲れた子のように 眠ってしまった コオロギの子守唄が じつは 守ってくれていた 目を開けると まだ生きていて うれしくって だから 全部 水に流せる 気がした ---------------------------- [自由詩]独白/道草次郎[2020年8月17日9時45分] たくさん詩を書いて たくさん詩を消した 推敲などろくにせず 縋るように投稿した 作品と呼べるものなどなく とても人様にお届けできるものではなかった それでも悪くないねと誰かが言ってくれると ほんの少しだけ生き延びられる気がした そんなぼくの生きようをだれが笑えるか そんなぼくのみっともなさをだれが笑えるか ぼくが吐き出してきた詩はぼくそのものだった ぼくはすごい詩を書きたいわけじゃない 誠実になりたいわけでもない ぼくはただやり場のない気持ちをぶつけたかっただけだ ぼくはいまハローワークへ行く勇気が出ないからこんな詩を書いている そんなぼくをだれが笑えるか これがいまの正直な自分だ この自分というものをぼくはこの先ずっと愛し続けなければならない それだけが確かなこととしてエベレストみたいにそそり立っているのだ ---------------------------- [自由詩]星の刻/道草次郎[2020年8月19日10時33分] 星の刻 ぼくは砂漠のトカゲで 歩き疲れたラクダは銀河を見ていた 水溜まりにはジュラ紀の鬱蒼が ネアンデルタール人の女の子とも恋をして 弄ぶ時流のうねり 倦むことなき鍾乳石たち____ 単細胞生物だった思い出は キリマンジャロの彼方へ疾うに消え失せた 白亜紀の火粉が暁新世の扉に降りかかると さすらい人の太陽が2億年ぶりの帰還を果たす 漂着した羊皮紙を齧り齧り 化石化したスマートフォンに竹節虫(ななふし )のような指を這わせる____ 星の刻 ぼくはふたたび古代魚となって 始原の海へ泳ぎだす ほやほやの脊椎が痒くてたまならない ---------------------------- [自由詩]はなび/AB(なかほど)[2020年8月20日9時02分] やわらかいことばで 伝えようとすると よけいにかたくなに なってゆく ひとは水なんだってさ そんなことも 夕方にもなればようやく ひとごこちのつける その風にふと あの人の花のかおり そらに溶けてゆくのは そらに溶けていったのは 即興ゴルコンダより ---------------------------- [自由詩]わたしがぞうさんだったころ (童謡「かくざとういっこ」によせて・・)/Lucy[2020年8月20日21時09分] わたしがぞうさんだったころ 大きな大きな夢と希望と ありあまる時間と可能性と 努力すればいくらでも磨ける若さと才能と 確かな記憶と集中力と 眠らなくてもどこまでも歩ける体力と 持て余すほどの自意識と 自尊心と傷つきやすいガラスのハートと 持ちきれないほどの恋と憧れと欲望とで 膨れ上がって 自分が嫌いで 勲章はいつもはるかな遠いところに 誰かほかの人の胸に眩しく輝いていて うらやましくて 妬ましくて ぐずぐずしていたものだから 時間はあっという間に流れ ひとつひとつを失くしていった 憧れも希望もなにひとつ手に入れられず 象はしぼんで いつしか小さなありになっていた だから 角砂糖一個の幸せが とてもおおきい ---------------------------- [自由詩]生きてる/よしおかさくら[2020年8月21日16時21分] 世界が変わっていくのが恐ろしい 人が死んだり 気をつけないと私が死んだりする 生きてることは 死ぬかもしれないこと 気づいてしまった五歳児の悲しみ 目を背けて見えないふりが 難しいね けれども 知らないうちに芽吹いて するすると伸びる新芽 輝く緑の命 鳥の声 蝉の力強い独唱 雲の魔術 生きてる ---------------------------- [自由詩]長雨/たもつ[2020年9月5日12時22分] 部屋に雲が入って 雨に濡れていく、色も形も音も 僕らはどこにも繋がらない二つの心臓 匂いもたくさん嗅いだ かつては他の何かだったものが また他の何かになっていく 記憶に触れればいつも 僕らは優しい嘘つきでいられる 昨日より少し衰えた僕が 昨日より少し衰えた君を愛しく思う 明日も これからもずっとだ   ---------------------------- [自由詩]にくじう/田中修子[2020年9月5日16時48分] ふわふわ ふわわん ふわりんりん あはは くすぐったいよう- 夏の温度がさがって ほら クッキリした青い夏のうしろ姿は 日焼けした子たちの笑い声 あの眩しい光にあたりながら歩いたんだね走ったんだね たくさん ね 私の膝あたりのちんまい子から そう これから恋をしたり したいこと探していく 若い子たちの こんがり いきぐるしかったなつかしさがめのうら うららかであります 豚ばら肉をヒノキのまな板に平らかにおいていく まな板ね 世田谷のぼろ市で威勢のいいおっちゃんから買ったの 洗ったししとう えのきだけは石づきを落として 割いておく で、ししとうとえのきだけを豚ばら肉で巻きながら 鉄のフライパンを中火で熱しておく ごま油をたらり B級品を安く買ったのだけど もはやすっかりどこが悪かったのかも忘れて活躍中です 豚ばら肉で巻きあがったのを、巻き始めたとこを下にして敷き詰めて ちょっと生姜焼きも食べたかったから えいやあっ 生姜のすりおろしもパパっとかけちゃう 塩もふっちゃう胡椒もふっちゃう じうじうじうじう じうじうじうじう 豚肉ですから赤いとこ残しちゃだめですよ ほとんど焼けたと思っても油断大敵だから 醤油を細うく ひとまわし いちばんちっさい火にして ガラスブタして蒸し焼き わあ ここにもブタさん (そういや、今日は使わないけど、オトシブタさんもいる) 鍋の下の青い火 にくじう じゃなかった 澄んだ肉汁 少し焦げてきた醤油のにおいが躍ったら 夏の終わりの夕ごはん ---------------------------- [自由詩]妊娠は航海/よしおかさくら[2020年9月17日11時05分] 子どもを産みたい本能をグラフ化するのは難しい 明日は産みたくない昨日なら産みたかった 子ができる工程もそれは楽しみたい 神聖視とは神秘とはなんだろう 人間は動物だ 神の子を産むなら 受胎告知を夢見れば済む事 妊娠は航海である 二百八十日間の船酔い 安全なマリーナに辿り着いてから産みたい 出発の時期も 港も選べないだなんてあってはならない ただでさえ死地への旅路かもしれないのに 腹がせせり出るまでも 長い 歩いただけで 足の付け根の痛みは強く 蹴られ続けて少ししか食べられない 豪華客船でも眠れない 明日か明後日か とうとう痛みが来た ---------------------------- [自由詩]泡立ち/はるな[2020年9月28日23時44分] 木たち 花たち さまざまなプラスチックたち 混ぜ返される色色の 日々の泡立ち いくつもの あらゆる種類の 嘘をついて来た そうして私が 出来て動いて居る 触れる ものの全ては ここにあるのに なぜ私だけ 本当に 嘘なんだろう? 思い 考え 息をしていた 軋む音がする 扉が開かれる 眠ろう ---------------------------- [自由詩]庭園/よしおかさくら[2020年9月30日12時59分] 何かが破損している意思の 立て石を滑る力よ 牛の乳を絞る動きと同じに枝豆弾けて 膝は高らかに笑い 崩れ落ち 寂しさとも心細さとも違う 薄っぺらな心で 振り子の反動でしか動けず 何処へ行こうと泣く 頭から片時も離れない歌の如く 誰かの心をひたすらに占めたい 柔らかい 木漏れ日を浴びて眠れ ---------------------------- [自由詩]かじってごらん砲を放て/ブルース瀬戸内[2020年10月7日11時54分] 私はリンゴであると宣言しても リンゴじゃないよと宣言しても 丸みを帯びた至高のフォルムと 英語でアッポーと呼ばれるのを 冷静無垢に考え併せてみるなら 私はかなりの確率でリンゴです それでも宣言したい時はあって それは確認かもしれないけれど 私はリンゴであると宣言します 私はリンゴであると自覚します かじってごらんとの誘い文句で 宇宙の果てを射程にとらえつつ 買ってくれた人に伝えるのです 消費社会の記号的存在ではなく 栄養学的見地の王様を気取らず しりとり先でゴリラを独占せず 本来の魅力を今こそ全開にして かじってごらんを放つわけです かじってごらん祭りではないか そんな穿った見方も一掃すべく 情熱と覚悟と誠意をひっさげて かじってごらん砲を放つのです 決して忘れてはいけないことを 決して忘れないことが大事です 私の魅力は何なのかを忘れない ということで優しくかじってね ---------------------------- [自由詩]いつからそこにいたのだろう/Lucy[2020年10月15日20時50分] 線路の脇の赤茶けた砕石の荒野 そこに芽吹いてしまったジシバリ 細長い茎のてっぺんに ちいさいタンポポに似た花を掲げ 電車が来れば車輛の下に潜り込むほどレールに近いのに 倒れずに ふらふら風に揺れている 砕石の層の下の土にまで まっすぐに根を下ろしたのだ こんなところに芽吹いたことを 嘆いただろうか それとも喜んだだろうか 意を決してここに立つことを 自ら選んだのであろうか 目立たないから抜かれずに済んでいるのか それとも心優しい保線係がわざと抜かずに見逃したのか 雨にも 照り付ける陽射しにも 嬉しがったり 憂いたりして うつろう季節に身を委ねている 一本の野草 か細い命の豊かさが 黄色い花を揺らしている ---------------------------- [自由詩]陰陽説/道草次郎[2020年12月23日18時03分] 過度な太陽光を浴びた後 くらがりにいくとやけに青くなる 子供の頃のきおくが ブルーがかっているのは そのせいか ついぞ過度になりがちなくらがり そこに常住すると ブルーは顕われない ブルーは 透明なこどもの土踏まず もえつづけた夏の午後が精査した 千里眼の島 ---------------------------- [自由詩]雨の時制/道草次郎[2021年2月2日0時55分] 雨のおとがした 雨がようやくふっている ---------------------------- [自由詩]ひとつ/入間しゅか[2021年4月3日7時10分] ひとおもいに ひとしきりながした ひとよのなみだを ひとみにやどし ひとりだと ひとたまりもない ひとのよを ひとりの ひととして ひとつのしに いきる ---------------------------- [自由詩]つぶやかない(四)/たもつ[2021年5月23日9時07分] 外野を抜けた白球を追って走る 走者が一掃して 試合が終了しても ひたすら追いかける 悲しみも寂しさも ただの退屈だった 人の形を失っていく それでも最後の一ミリまで走る (午前7:25 ? 2021年4月19日?) ビーカーの中に 夜が落ちた 何も量れないように 目盛は消しておいた そっと手 物も事も普通にある (午前8:04 ? 2021年4月20日?) 私が私だったころ 私はまだ私のことなど知らなかった ただ無邪気に 私は私だろうと思っていた いつ私は私になったのか 私にはわからないし 私にはわからなかった 気がつくと私は私ではなく私だった 私だったころの口癖を思い出す 時々仕草の真似もしてみる (午前7:46 ? 2021年4月21日?) 仕事に疲れて 夕日を見ていると 自分などいてもいなくても 何も変わらない だからもう少し 生きていようと思う 吹かれてみればわかる 風は美しい (午後6:01 ? 2021年4月30日?) 羊たちが集まって来て 僕のお墓を作ってくれた 立派とは言えないけれど 質が良いことは一目でわかった 眠れない夜に 数を確認したことへのお礼だそうだ みんなでお参りをして 僕の墓前でお茶会をした ありがとうを言うところで目が覚めた 朝食の片付けを済ませ 娘の結婚式の支度を始める (午前7:27 ? 2021年5月2日?) あなたが言葉の 真似事をしている 風に揺れて それが似ているのか似ていないのか 僕にはわからなかった それでも並んで一緒に揺れると 確かに伝わってくるものが 言葉なのかもしれない こうしているうちに 僕らが何事でも何者でもなくなる いつの日かを思う (午前7:50 ? 2021年5月3日?) 雨が降っている 雨が降っていると思う 濡れて咲く人もいれば 乾いた列車で出掛ける人もいる 雨が止めば 雨が止んだと思う人がいる 雨が止んだと思う (午前7:53 ? 2021年5月6日?) 万年筆の隣に 漁港があった 海が近いのだろう 出口から入って来た人が 今、入口から出て行った (午前7:17 ? 2021年5月7日?) たくさんの枕を積んで 貨物船が入港してきた 市場は朝から声と匂いで たいそうな賑わいだった やがて日蝕が始まり 空白の頁は廃棄された (午前8:00 ? 2021年5月10日?) 列車という名前の犬が 一番線に到着した 乗車は出来ないけれど お手の仕方を教えてあげた 列車は駅員におやつを貰うと 次の駅を目指して出発した 雨上がりにはよく 虹がかかる街だ (午前7:42 ? 2021年5月12日?) ---------------------------- [自由詩]メランコリックにできている/微笑みデブ[2021年7月21日4時52分] ブランコにのせた蚕 白球と青空 鏡の中の痩せた王子様 上昇する空気層 透明にならない心残り 落としたアイスクリーム スプーンのない午後 洞窟の奥の先の躁鬱 通り雨に花柄傘 リモコンの前にきみがいると 効きが悪いような気がしている 蝙蝠となりそこないの森 ちがう味の卵焼き 蜥蜴となりそこないの森 ブランコにのせた蚕 ---------------------------- [自由詩]一次審査のひと/たま[2021年8月3日8時57分] 昨年のこと とある詩のコンクールの審査を依頼されて はい、はい。と気軽に引き受けた どうせボランティアなんだから 身構えるほどの責任もないだろうし 兎にも角にも 年金詩人は暇だったのだ 七月の下旬 海水浴場のバイトを終えて帰宅すると ズシリと重い レターパックが届いていた え、何これ? 開封すると詩のコンクールの応募作品が ドッサリ出てきた その数、一五三編 バイトの疲れもあって 思わず発熱しそうだった コンクールは 小学生部門、中学高校生部門、一般部門の 三部門だった わたしは 小学生部門の担当になったらしい というのはコロナ禍の影響で 審査に係わる連絡会議は一度もなく すべて事後承諾だったし レターパックに同封されていた 依頼書を読むまでは 審査のやり方さえ知らなかったのだ 一次審査のわたしは 当然のこと 応募作品をすべて読むことになる そうして二〇編の入選候補作を選出し 一〇点満点で採点したあと それぞれの選考理由を書くことになるが 採点については大雑把でいい そもそも、詩の評価を採点方式でやるなんて おかしいではないか いかにもお役所がらみのコンクールだと思うが 問題は、選考理由なのだった バイトを一日休むことにした 各日のバイトだから一日休むと三連休になる しかし、審査は三日で終わらなかった とにかく、 小学生の詩は面白すぎる 大人さえもついてゆけない、シュールな物語や 豊かな発想に支えられた、確かな詩や たどたどしいことばで綴られた 生まれたばかりの詩、と呼べるものなど それらはすべて、詩の宝物なのだと思った それぞれの詩にひそむ それぞれの作者の秘密を読み解くことに わたしは没頭した 小学生部門を担当できたのは幸いであった 字を書くのは苦手だから 二〇編の選考理由をパソコンに打ち込んで プリントしたものを一作ごと採点表に切り貼りして ようやく審査を終える 採点表だけを投函すると 応募作品はわたしの手元に残ることになる 作品には作者名がない 作品だけを読んで審査するのは ほんとうに公平なんだろうかと思う おそらく 審査に漏れた一三三編の作者名を わたしは、永遠に知ることはない どうしても歯がゆい想いがする それが、 一次審査のひとなのだろうか レターパックには 謝金振込依頼書が一通混じっていた なんと 審査料がもらえるのだ 海水浴場の一〇日分もあった ---------------------------- [自由詩]告別/石村[2021年11月10日21時27分]    我が友、田中修子に 時折西風が吹く そして天使が笑ふ するとさざ波が寄せ返し 沖を白い帆が行き過ぎる 砂に埋れた昨日の手紙を まだ浅い春の陽ざしが淡く照らす 生まれたばかりの小さな蝶が その上でしづかに羽をやすめてゐる それで時には幸せだつたのかと 僕はお前に問ふてみたのだが もうどこにもお前はゐないのだから こんな風に暖かくやはらかい光に 何もかもがやさしく包まれてゐる午後にも 失はれたものは失はれたままだ ひえびえとしたさびしさばつかりだ さうだ去年の今ごろは 硝子の笛を吹いてお前とこの海辺を歩いた 今日とかはらぬおだやかな陽を浴びて 時折の西風がお前の傘を飛ばした すると天使が笑つた お前も笑つた 僕は今日とかはらぬ道を歩いてゐたのに けれどお前がもうどこにもゐないといふことは どんなに僕が呼び掛けたとしても 答へが永遠にかへつてこないといふことだ お前がきかせてくれた名も知らぬ歌が めぐる季節の内に忘られてしまふといふことだ それでも僕が生きてゐるといふことだ お前以外のすべてがここにあるといふことだ それがどんなにつらくさびしいことかを お前に知らせるすべがないといふことだ…… 時折西風が吹く そして天使が笑ふ もう昨日までの時計は止めて 歩いて行かう お前がゐた日々の憧れだけで するとさざ波が寄せ返し 沖を白い帆が行き過ぎる ---------------------------- [自由詩]蝸牛のうた/マークアーモンド[2022年1月25日21時28分] 仮寓の蝸牛には やり残したことがいっぱいあるのだが 奇遇という気球に乗って 無音の空の旅をしてみたかった 修羅場という修羅場がなくて 絵になる風景も知らずに 雑踏に紛れて遺伝子の旅は終わる とある蛙さんと一緒に見た昭和の空には 広告ビラを撒き散らすセスナと 持久走を走りきった君の汗の タオルになった僕はちょとだけ勝利者 ---------------------------- [自由詩]good-bye/ちぇりこ。[2022年2月1日22時03分] お花があって それから けむり? 雨ふりの森の中みたいな ちがうよ びゃくだん! くすくす しっ! こえだしちゃ だめ おそーしき? そう おそーしき ぼわぼわって空気が 静止 止まってる 静かになった空 冬の夕がたの おわりみたいな 白い人 なんか いろいろ ゆるされた人 横たわったまま ほら つま先から飛びこんで あ ちいさな「。」になっちゃった じゃあね ばいばい ---------------------------- (ファイルの終わり)