朝焼彩茜色のおすすめリスト 2020年8月16日12時58分から2021年12月2日0時35分まで ---------------------------- [自由詩]淋しい金魚/千波 一也[2020年8月16日12時58分] 淋しい金魚は ひらひら、きれい 冷たい水の いちばん冷たいところを その身に負った 見事な絵の具で ぬくめて渡る 淋しい金魚は なんにも言わない わたしにわかる言葉など ひとつも放らず ただ美しく 黙って 涼を縫ってゆく ---------------------------- [自由詩]風のおと/千波 一也[2020年8月17日19時58分] 朽ちた葉を踏むと 乾いた音がする 傍らに歩くむすこが 聞いて、と 教えてくれる 朽ちた葉を踏むと 風の音がする 今まで気にしなかっただけの あまりに満ちあふれた 音がする むすこはいつまで教えてくれるだろう わたしの聞き逃したものを 見落としたものを 純粋無垢な散歩道には 有難い言葉たちが たたずんでいる ---------------------------- [自由詩]宇宙の風道/ひだかたけし[2020年8月21日20時50分] この夜に目醒め この夜底に触れる 私にはもはや 親兄弟家族親族はなく 現世的無縁仏だ 円やかな現世孤児だ そこでは  私という存在が剥き出しで そこでは  私が真っ裸のすっぽんぽんで 実に孤独にスッキリとしたものだ 恐怖と歓喜の段々畑 うねりダイレクトなコンタクト この夜の底でこの柔らかな底で 私は限りなく境界の縁に触れる 私だけの死の門を垣間見る (門番は豪壮で醜悪な私の分身に過ぎない) 静かに、静かに 夜底はやがて夜明けと共に 紫から橙、黄から壮大な黄金へと 染め上げられていくことだろう 私はその瞬間を捉え からからからから 螺旋に廻り昇りゆく 宇宙の風道に乗れるだろうか ---------------------------- [自由詩]森宇宙(改訂)/ひだかたけし[2020年9月5日20時20分] 言葉 宇を身籠もり 身籠もる言葉は 響く声また声の渦 何かが何かが ウマレテイル   〇 夏の炎天下の縁側で 西瓜を食べている 兄と弟、汗流し その頃青大将たちは 群れをなし 裏道横切る 平然と )舞い舞い舞い )渇き渇き渇き )刻む刻む刻む )記憶の砂漠を )さぁらさら 蛇の道の向こうには 大きな森があり 兄は夏休みに入ると 弟をそこへ連れていった 未だ薄暗い朝方から 蛇が石垣の隙間の穴で 眠っているその間に )舞う舞う舞う )飢え飢え飢え )刻め刻め刻め )記憶の砂漠を )じゃあららら 六歳年上の兄は 四歳の弟にとって 優しくも絶対的な 父であり先導者で 薄暗い森を 下草掻き分け進む兄の背を 必死に追い掛けながら この森は兄ちゃんの森だと 弟は誇らしげに思った )舞い舞い舞い )渇き渇き渇き )刻む刻む刻む )記憶の砂漠を )さぁらさら 兄はふっと 一本の大木の前に立ち止まる [いいか、たけし、 あの節くれ立った処に大量の樹液が出て 奴らはみんなあそこに集まってるんだ] 兄はそう言いながら左足裏で 大木の幹を 物凄い勢いで蹴り始める 何度も何度も蹴り続ける )舞う舞う舞う )飢え飢え飢え )刻め刻め刻め )記憶の砂漠を )じゃあららら 落ちて来る落ち来る 何匹もの昆虫が 下草の上に仰向けで 盛んに脚を動かして 兄は素早くその一匹を掴み 弟の眼前に突き出し言い放つ [これがノコギリクワガタだ] 弟は驚き興奮しながら そのイキモノに目を凝らす )舞い舞い舞い )渇き渇き渇き )刻む刻む刻む )記憶の砂漠を )さぁらさら 黒光りしたそのイキモノは 長い鋸状の二本の角を カシカシカシカシ交差させ 六本の脚を 粘り着くように動かし続ける その圧倒的で精巧な存在感に たけしはもう震えが止まらない [の こ ぎ り く わ が た  これが ノコギリクワガタだ!] ナニカガ ノウリニ キザマレタ   〇 言葉 声を身籠もり 身籠もる言葉は 響く宇宙また宙宇の渦 何かを何かを今の今も ウミダシテイル ウマレテイル ---------------------------- [自由詩]哀しい/渡辺亘[2020年9月6日20時22分] 夏は哀しい季節 全生命が伸びようとする それ故に 哀しいのです ---------------------------- [自由詩]古代のあのひと/よしおかさくら[2020年9月9日5時42分] 稲妻は夫であり稲を探して地に落ちる 結実する為の交配であると 古代のあのひとは言った 必要不可欠と考え 受け入れてきたのかも知れず あのひとらに私たちの生活があれば どのように立て直そう 身分制度がない(はずの) 横領する者がいない(はずの) 全力で御神輿を担ぎ 邪悪を蹴散らしてください ---------------------------- [自由詩]星の子/よしおかさくら[2020年9月9日5時44分] 見上げる時 既に喪っていると知った光を見つめて 立ち上がり歩いて行ける いつもいくつもの 波長を受け止めて生きてる 科学的に生物学的におかしくても 星の子 満天にあるのを知ってから 小さくても強い 瞬いて合図する 流れ飛ぶ勢いを 探す 私の星はどれだろう 星の方がいつか 見つけてくれるのを待ちながら ---------------------------- [自由詩]ひとり/よしおかさくら[2020年9月9日5時46分] あなたのタイムラインが わたしとは違うと忘れ 選ぶ傘の色 吸い込む煙 小雨の冷たさ 日向、すぐ傍の日陰を見ないで 一緒に音楽を聴いても 吐く息の白、見上げる闇に薄ら 同じになれない ずっと部屋に一人だった どうにもならない眠気に翻弄され 音楽をかけて舟を漕いでいる アリバイなど産みようもない午後 不可解なことがある 不可解なままにしている 恐ろしいような気のすることには 距離を取るしかない そこにお届けものが届いた どうにもできずに受け取るしかない 受け取るしかない 世界の作り方を間違えたでしょう 池の中くちをぱくぱく している方が良かったでしょう 逢魔時だけは安心するの ---------------------------- [自由詩]秋風/メープルコート[2020年9月23日21時03分]  緑の映える公園に人は少なく、秋の入り口に私は立っている。  涼しい風があなたを通り過ぎる。  小さな肩が私に寄り掛かる。  あと何度こういう時が訪れるだろう。  冷たい現実を前にして。 ---------------------------- [自由詩]空論のカップに口を付ける冬の横顔/ただのみきや[2020年11月29日14時55分] 銀杏一葉 フロントガラスのワイパーの圏外 張り付いた銀杏一葉 冬の薄幸な日差しに葉脈を透かして 用途を終えて捨てられた ひとひらの末端 美しい標本 飛び立つことはないはずなのに いつのまにか消えていた 夢から迷い出たきいろ 蝶の幽霊 鳩と座敷牢 肉叢を揺らしながら 前のめりに近づいて来る 玉虫色の首 乾いた胡桃のリズム   紫の袱紗に包まれた   ロザリオをとりだして   額の上に吊るし持ち   カリカリと噛み咀嚼する 見えたものしか見ない 嵌め込まれた赤い目は なにも表現しないことで 汎用性をまとっている   骨肉の優美な屈折から   溶け出した乳白の海   訪れる者などなく   髪の毛で首を吊ったラプンツェル 平和とオリーブ 漆黒の夜に突かれ突かれ 肉叢をゆらし 生は あてどなく死の圏を巡る 時間? 卵から空気が孵る 殻の内側にはたくさんの 殴り書きの文字 かつてわたしたちは 上手に時間を混ぜ返していた 風呂のお湯を揉むように 中華鍋で炒飯を振るように 対象よりも先に思考は老いる ひと時咲いて散る花のよう なにもかも解説して批評して あの輪廻のような 驚きも発見も忘れ果てて 首の女 暗い朝の水の肌に 月のように咲いた女の首 伏し目に瞬いて 唇はそっとほころぶ 活けられた死よ 肉体の幽玄 イメージの刺青よ 隔てるものの厚みのなさに 深く映り込む眼差しの 夜の向こう 輪郭も朧な睡蓮の 白い焔のように 素足で侵食する 匂いを描いた一枚の 揺蕩いに二人沈んで 時間? 鍋を弱火にかけて 焦げ付かないように ちょくちょくかき混ぜる 丹念に渥を掬う 味付けの タイミングと分量 考えて 気を張って 自信がない 経験も乏しい いつもとは違い過ぎる そんな 誰かのために捧げた時間 あたたかい不安と嘆息の 自分を拾い歩く 姉と弟が犬を散歩させている 土曜の朝 風は腰を下ろしたまま 静けさと鴉が圏を競う 冷気の背中のファスナーを下ろすと 晩秋の濡れた土 落葉が匂う ここ数年毎朝届けられる すでに失った取り戻せないものと これから失うであろうものの目録 擬人化された季節や感情たちと 通販雑誌でも捲るように 一本の燐寸を擦るよりも 一本の燐寸になりたい 一瞬の快楽に燃え上り 記憶も残らず灰になる そう百も千も書いたなら 繰り返される生贄のように 破り続ける誓約のように 姉と弟が公園を一巡りして此方へ 異なる軌道を描いてすれ違う 弾力を持った小さな惑星たち 盗み見て面はゆく 平然と心にはサングラス わたしはなにも守れないだろう なにかと刺し違えることもできないのだろう 一生自分の憂鬱とセックスして 蛭児のような言葉を生み続ける それに酔いすらしている 枯葉が敷き詰められている 瞳はあてどなく盲人の手探りで わだかまった時の玩具を 生の色濃さを保つ死の隠喩を 自らに処方する宝石を 太古の涙であり 鳥の糞であり 不埒な音を孵して白く濁る 美しい狂女の姿態を 生まれる前に失くした舌を              《2020年11月29日》 ---------------------------- [自由詩]魂の深淵/ひだかたけし[2020年11月29日19時16分] 月見草 銀に揺れている 透明な水流になびき 引き寄せられ 傷んだ身体 俺は引きずっていく 引きずられていく 寒風吹き荒ぶなか 青、蒼、碧 陽光余りに眩しいこの真昼 俺のジガは弱り果て 腹底から突き上げ 皮膚を内から 引き裂こうとする、 不安恐怖 恐怖不安 剥き出し露わ シシシと笑う嘲笑う 己の喉ウゥと呻き 俺は苛立ち焦燥に駆られ よろけゆらゆら歩み行く 立ち止まったら最後 を自覚しながら ひたすら前進 脂汗のなか足運ぶ 消えはしない 肉の痛苦は軽減されても 決して消えない この病巣、魂の深淵 ---------------------------- [自由詩]ひまわり/たもつ[2020年12月1日7時21分] ひまわりに虫がとまっている 指で触れると 驚いた様に飛んで行ってしまった どうしてひまわりには羽がないのだろう 羽があれば私の肩にとまったり 驚いた様に飛んだりできるのに ただ土の中に根を張って あした娘が帰ってくる ---------------------------- [自由詩]生きてること/シホ.N[2020年12月2日17時43分] 生きてることが かっこ悪いとき そのことこそが 生きる糧 ある種のかっこ悪さは 逆説的に かっこいい 生きてることに 実感ないとき ふと訪れる 現実感の不思議さ 現実を感じるから その向こうに 非現実らしきを見る たとえば夢とか たとえば死とか 生きてるからこそ それらが見える ---------------------------- [自由詩]ハレル/ひだかたけし[2020年12月2日19時20分] かなしみの 青が降る 透明、 ただ透明に なっていく 己の体 幾億もの幾兆もの者達が通った道 途、未知、溢れ 枯れ果て、移行する 光の奥の ふるふる震え揺れ 時の間隙縫い 開く 巨大な闇に 私ハ漆黒に 濡レ光ル 宙の裂け目に 呑まれ 沈み消える ベッドで ベランダから 静かに かなしみの 青が躍り 澄む、 ただ澄み渡って いく己の体 幾億もの幾兆もの者達が通った道 途、未知、溢れ 枯れ果て、跳躍する 闇の奥の ふるふる震え揺れ 時の間隙縫い 開く 秘やかな小部屋に ---------------------------- [自由詩]二本の線/道草次郎[2020年12月18日6時31分] けっきょく 思いようによってみえる雲 雲からすれば 流れようによって思われて ---------------------------- [自由詩]きみがわらうと/道草次郎[2020年12月18日8時41分] きみがわらう わらうことを好きになれる きみがなく なくことを見つけたとおもう きみがおこる それはまるで宝石みたいだ これから先 どんな気持ちが飛び込んで来るのだい? きみがキョトンとした顔をして ぼくをみていると 充たされてゆく盃をかんじる ---------------------------- [自由詩]裸木と三日月/ひだかたけし[2020年12月18日15時34分] 木々は枯れて葉は落ちて 遠く鳥の群れが過るとき 裸木の梢に三日月が 白銀の色を散らしながら ぽっかりうっとり浮かんでいる )あゝやっぱり今日もまた )永劫宇宙の営みが )ここそこかしこで唸り上げ )続いていく、静けさの )巨大な穴を穿ちつつ 木々は枯れて葉は落ちて 遠く鳥の群れが過るとき 裸木の梢に三日月が 白銀の色を散らしながら ぽっかりうっとり浮かんでいる ---------------------------- [自由詩]現像/ぽりせつ[2021年4月5日8時12分] 海と空の写真を逆さにすると 水の惑星が現れるのに 海が 水に変わるこの瞬間は たったひとつのフィルムにしか収めることができない 随分むかし ひとつでじゅうぶんだから、と 父と母がもたせてくれたものだ ---------------------------- [自由詩]この夕暮れが/ただのみきや[2021年4月7日17時56分] 哀しみあるいは悲しみを 膝の上に乗せて よく眠ってくれるから ひと時煙をくゆらせるように ギザギザした鍵を 胸に刺したり抜いたりして 酒と音楽でにじんだ幻を孵したい ああこの夕暮れが永遠なら 観客のいないサーカスのような人生だった 天国と地続きのような人の笑顔も見た おどけた音たちが心の被膜を滑る ああこの夕暮れが最後なら              《2021年4月7日》 ---------------------------- [自由詩]思考体/ひだかたけし[2021年4月11日20時35分] 鮮やかな轍を残しつつ 決して姿を現さぬもの いつかの時を夢見ては 永遠にさらに逃れゆく 底に沈んだ泥団を 清められた手で掬い上げ 透過する心の底 遥か彼方の源頭に 耳鳴り繁く接続する 見えないものと見えるもの 貫き生きる思考体 意識の渦を抜け出して 未来未知から到来する ---------------------------- [自由詩]春の海に小石を投げる/かんな[2021年4月20日15時09分] 水面を何度も跳ねる小石のように 弾けて走って抱きついて頬を合わせて 近づいてまた離れていく潮のように 傍にいてでもそのままひとり自由でいて 嵐の中でうねる波が静けさを取り戻すように 圧倒的に敵わないけど泣いてたら頭を撫でて 夕日が水平線ぎりぎりで沈まないように 今を生きて明日まで生きてそれで朝は起こして 空と海が果てしなく広く深く見えたとしても 世界は結構狭いから早く出会ってしまいたい ---------------------------- [自由詩]鮮やかに/渡辺亘[2021年5月18日15時03分] 初夏の太陽光線をいっぱいに浴びて 鮮やかに咲けよ ミモザよ 遠く去ったあの人に 薫りよ届け あつく胸を焦がして 触れた指先が未だにあつい 君を悩ませる 哀しみよ、去れ 君の胸に 喜びよ、宿れ 初夏の太陽光線をいっぱいに浴びて 鮮やかに咲けよ ミモザよ ---------------------------- [自由詩]テレパシー/佐白光[2021年5月19日7時52分]  人と人との意思疎通  向かい会って言葉を交わしていた時代から  離れていれば郵便手紙  電話にて感情を推し量りながら  時が流れて電子メールとなり  ラインへと簡素化されて  軽い気持ちの意思交換となってきた  この先どのように進化しで行くのでしょう  心の中で想うだけ 感じるだけ 考えるだけで  伝わってしまうテレパシーとはならないように  今日もペンを走れせます       ---------------------------- [自由詩]音楽の途中でぼくは飽きてしまう/ゆうと[2021年5月20日13時06分] 音楽の途中でぼくは飽きてしまう 本当は好きじゃないんだと思う 無理してるんだ、きっとそう だってまた別のこと考えてる ゆるやかにリムーブしていく ああ、ああ こんなはずじゃなかったのに 大切なものなんて すり抜けてしまう 最初からぼくのじゃなかった 知っていたけれど 寂しかったぼくを 可愛がってくれたのは きみだったから 忘れられないよ 時々疼くと 喉の奥が苦くなる やっぱり好きだと言いたくなるのは わがままなのかもしれない 美化していくのは過去だからかな プラスチックのダイヤモンドでも 大切にしてみたくなる そんなふうに ただの憧れだとしても やっぱり好きって思うのは 本当のことだけど ぼくはひねくれているのだと思う 音楽の途中でぼくは飽きてしまう 醒めても夢の中にいたい それは叶わないことだとしても ぼくは夢みてしまうんだ ---------------------------- [自由詩]神楽坂から平井まで/うめバア[2021年5月23日3時23分] 神楽坂から平井まで 定期を買って通勤してた 神楽坂下、艶やかな夜 お先に失礼して 飯田橋から黄色い電車で 平井まで、カタンコトン 恋人と暮らす川の町で アサガオの紫を見ました 煙草を吸いました 夜遅くまで、飲み歩きました ケンカをしました 何度も別れて あの日も自転車で 川沿いをこぎました 悔し紛れに 風を切りました CDを聞きました 花火を見ました 両国の夜 浴衣で歩いて 疲れてまた ケンカしました 布団を敷いて くっついて眠りました コロラド珈琲で 待っていました あなたを わたしを 最後に会ったのは、中野駅のホーム じゃあね、いつか、またね 若かったから、すぐに仲良くなって でも、若かったから、別れました たくさん怒って、笑って、悪口言って 泣いて、その後また 10年、いえ20年、もう25年 時は早い、あっという間です 神楽坂から平井まで ---------------------------- [自由詩]つぶやかない(四)/たもつ[2021年5月23日9時07分] 外野を抜けた白球を追って走る 走者が一掃して 試合が終了しても ひたすら追いかける 悲しみも寂しさも ただの退屈だった 人の形を失っていく それでも最後の一ミリまで走る (午前7:25 ? 2021年4月19日?) ビーカーの中に 夜が落ちた 何も量れないように 目盛は消しておいた そっと手 物も事も普通にある (午前8:04 ? 2021年4月20日?) 私が私だったころ 私はまだ私のことなど知らなかった ただ無邪気に 私は私だろうと思っていた いつ私は私になったのか 私にはわからないし 私にはわからなかった 気がつくと私は私ではなく私だった 私だったころの口癖を思い出す 時々仕草の真似もしてみる (午前7:46 ? 2021年4月21日?) 仕事に疲れて 夕日を見ていると 自分などいてもいなくても 何も変わらない だからもう少し 生きていようと思う 吹かれてみればわかる 風は美しい (午後6:01 ? 2021年4月30日?) 羊たちが集まって来て 僕のお墓を作ってくれた 立派とは言えないけれど 質が良いことは一目でわかった 眠れない夜に 数を確認したことへのお礼だそうだ みんなでお参りをして 僕の墓前でお茶会をした ありがとうを言うところで目が覚めた 朝食の片付けを済ませ 娘の結婚式の支度を始める (午前7:27 ? 2021年5月2日?) あなたが言葉の 真似事をしている 風に揺れて それが似ているのか似ていないのか 僕にはわからなかった それでも並んで一緒に揺れると 確かに伝わってくるものが 言葉なのかもしれない こうしているうちに 僕らが何事でも何者でもなくなる いつの日かを思う (午前7:50 ? 2021年5月3日?) 雨が降っている 雨が降っていると思う 濡れて咲く人もいれば 乾いた列車で出掛ける人もいる 雨が止めば 雨が止んだと思う人がいる 雨が止んだと思う (午前7:53 ? 2021年5月6日?) 万年筆の隣に 漁港があった 海が近いのだろう 出口から入って来た人が 今、入口から出て行った (午前7:17 ? 2021年5月7日?) たくさんの枕を積んで 貨物船が入港してきた 市場は朝から声と匂いで たいそうな賑わいだった やがて日蝕が始まり 空白の頁は廃棄された (午前8:00 ? 2021年5月10日?) 列車という名前の犬が 一番線に到着した 乗車は出来ないけれど お手の仕方を教えてあげた 列車は駅員におやつを貰うと 次の駅を目指して出発した 雨上がりにはよく 虹がかかる街だ (午前7:42 ? 2021年5月12日?) ---------------------------- [自由詩]そんな人間/吉岡ペペロ[2021年11月10日19時50分] スズメに なんでお前は人間じゃないんだ そう怒り狂ってるような うどんに はやくスパゲティにならんか そう指導するような そんな人間に 俺なりたかったっけ 11月の湿気た秋の香り 冷えて来れば 夕焼けが渋い色してら スズメに なんでお前は人間じゃないんだ そう怒り狂ってるような うどんに はやくスパゲティにならんか そう指導するような そんな人間に 俺なりたかったっけ ---------------------------- [自由詩]自体顕照/渡辺亘[2021年11月22日14時10分] 少し前まで 生きるとか死ぬとか 大騒ぎしていたくせに 今ではどうだ 生きている事に 感謝さえしている自分がいる ありがたいなこの人生 人と比べる前に 自分の個性を 思う存分照らせばいい ---------------------------- [自由詩]平均値のうた/梅昆布茶[2021年11月24日8時58分] 素晴らしい朝は 岬の鴎たちが啼き交わす言葉までわかる 遠い希望は持たないほうがいい ただ一瞬の充実が幸福論のすべてならば そこに集力してそれが結果になる方がいい それからが始まりだと思う 努力しても不可能はあるが 自分の燃焼を感じていたい 大好きな美文堂書店は閉店するが 読み続ける事を教えてくれたのは此処です 平均値から外れても良いのですただ それがあまり意味ないことを覚えよう もしも自分というものが有ると仮定して この世界の一隅を借り住まいしていても 細胞は日々入れ替わり 毎日瞬間別人になってゆく 37兆個分の責任はとれないので ある意味自由に生きて行こうとおもう 魂だけが僕ならば 身体は余計な荷物だけれどもね ---------------------------- [自由詩]絵心/やまうちあつし[2021年12月1日11時17分] 絵を飾る   遠い砂浜 日が沈む五分前    遠くに人影が 犬の散歩だろうか それとも 心の散歩だろうか     気がつけば 絵の中に立っている 橙色に染められて 描いた人はわからない 飾った人はもういない ---------------------------- [自由詩]蕾/服部 剛[2021年12月2日0時35分] 一輪の花がゆっくりと、蕾を開く、宵の夢  創造のわざは、私のなかに働く 私を支える茎は背骨、密かな光合成をとめず 今日もわずかに、背丈を伸ばそうとしている たとえまだ、日の目を見ていなくとも 私の内に隠れた蕾を、私は愛でる うずくまっているように見えても 花開く春の陽をじっと待つ、蕾よ 夜の底で人知れず  沈黙と語らい 私は蕾を愛でる ただ光を求めながら ---------------------------- (ファイルの終わり)