まーつんのただのみきやさんおすすめリスト 2011年11月27日23時19分から2011年12月31日22時34分まで ---------------------------- [自由詩]今日という日は死ぬけれど/ただのみきや[2011年11月27日23時19分]   傷だらけの携帯電話を見ながら   明日のことを思いめぐらす   不利な戦いになる   このまま今日が続くなら      偶然とは理由がわからないだけの必然   真夜中に白い氷が降りはじめると   唇からいつものメロディーがこぼれ   絞め落されたように眠るだろう      一瞬 時が止まるころ   誰かの夢の中で脇役を演じているが   夜明けはそっと忍びより   あっという間にすべてを剥ぎ取る   もうまぎれもなくおれは明日   結晶化した人格を竜巻が迎えに来て   目まぐるしい砂粒となって街の獣たちの脳裏に地図を描く   天地は反転し 人の性は   無機質な理想郷の地表にまで届くだろうか    明日になる今日は昨日になり明日は今日になる       おれは過去の夢             現在の幽霊                 未来の子供   ---------------------------- [自由詩]イメージという名の傷跡/ただのみきや[2011年12月3日0時12分]  決して建て終わることのない塔がある  光をまったく反射しないその塔は黒い輪郭に  太古の文様を刻んでいる  日の光のもと   それは実体のない白い影となって横たわり  存在を忘れさせる  が  心におびただしい黄昏が這い上がってくると  おびき寄せたように目の前に立つ   ことばに浮かんだ蜃気楼のように  心臓は凍った時計と入れ代わる  時折  黒いコートの女に姿を変えて  大理石にはめ込まれたオニュキスのように  こちらを見つめている  声もなく  表情もない  絶対零度の抗議  だが  そのコートの下にはただ  イバラが生えていることを知っている    決して建て終わることのない塔がある  光をまったく反射しないその塔は黒い輪郭に  罪悪と苦悩を刻んでいる    ---------------------------- [自由詩]あるところに/ただのみきや[2011年12月8日23時42分] あるところに一人の男がいた 男は理想を見いだせない革命家であり 大義名分をもたないテロリストだった 彼にはため込んだ多くの武器があったし 破壊活動のためのノウハウもあった それらが彼を一つの衝動へと駆り立てる 彼は目の前のスペースを埋め尽くしていく 広げられた破壊のイメージへ 真っ赤に熱した熟語を装填していく 幾重にも隠喩のトラップを仕掛けては 多くの人をまた自分自身をも殺傷するであろう 時限式の直喩を隠しておいた すべてが文字で埋め尽くされたとき彼は 一瞬躊躇するが 静かに そう小川でも のぞくように自分の作品に目を向ける まるで己の存在を確認するかのように あるところに一人の女がいた 女は気球にあこがれたが 実際の人生は切り落とされるバラストだった 彼女は時間を着重ねてはいたが少女のままだった 彼女は口をひらかないが 心の中には悲しみの源泉があり それが満ちてくると彼女の目から ぽろぽろとことばがこぼれ落ちた ぽろぽろこぼれ落ちたことばは 連なって彼女の詩になった やがてそれは細い蜘蛛の糸のようになり 風に飛ばされていった どこか遠くで 誰かがその光る糸を見つけてたぐり寄せると その悲しみの詩から なぜか慰めを受けるのだ またあるところに一人の男がいた 男は白骨だった 男は気前よく自分の血肉をそぎ落としては あっちこっちにふるまった 多くの人に味見をさせて 大評判を得ていた だがいまはただの骨 形跡だけが残っている マグマに呑まれた木のように 冷たい雨に打たれる墓石のように もう何も生み出すことができない 枯れ果てた泉 だが男はあきらめてはいなかった 男は待ち望んでいた ロゴスではなくレーマを 神の息吹とともに ---------------------------- [自由詩]投身自殺/ただのみきや[2011年12月11日17時21分] 凍えるような 朝 遅刻の崖から身を乗り出し 思う 湯たんぽこの身にくくり付け 布団の海に 身投げしたい ---------------------------- [自由詩]にっくき御犬様/ただのみきや[2011年12月14日23時42分] 冬の黄昏に照り映える 赤いおべべに着飾って あれに見えるは御犬様 にっくき仇の御犬様 お供はいつも従って 糞を拾うて歩いてる 思い起こせば七日前 クレーム処理で訪れた 上得意の客の家 玄関ドアに札二枚 「猛犬注意」 「咬まれても責任もちません」 恐る恐る入ってみると そこにはなんとも気難しい 御座敷住まいのポメラニ姫 正気の沙汰ではありえない わめき吠え立て牙をむく 何しろ相手は上得意 こちらは頭が上がらない そして相手はご乱心の 御犬様に猫なで声 相手が後ろを向いた隙 電光石火の御犬様 私の足に咬みついて 奥の座敷へ逃げてゆく 営業マンの甲冑の下 ぷるぷる震えるわたしの心 仕事を終えても癒えぬ傷 たましい蝕む破傷風 いくら身分が違うといえど あまりと言えばあまりの仕打ち 酷すぎまする御犬様 斜陽攻め入る営業車 逢魔が心を抱きながら ハンケチ噛みしめ泣いている 嗚呼あああ あれに見えるは御犬様 赤いおべべに着飾って にっくき仇の御犬様 ---------------------------- [自由詩]月の味方は詩人だけ/ただのみきや[2011年12月15日22時33分] 神秘のヴェールを失った 月は一個の衛星 人類にとって偉大な一歩は 月を地面に引きずり下ろした 足跡をつけられ 征服ずみの旗を立てられ 凌辱されたかつての女神は いまでは早い者勝ち 勝手に売り買いされているらしい そんな無機質なあばた面と 今もかわらない付き合いをするのは 詩人ぐらいなもの 古今東西詩人たちは 月を詠い 月をしたためた 多くの詩人は詩では食えない 昼間は働き 夜詩を書くものだから 「絵のない絵本」の画家のように 月と親しくなってしまう 詩人は聞こえない声を聴き 語らないものに語らせる 月が神秘を失っても 詩人の心にはそれがある 月は詩の中で何度でも輝きを取り戻し 夜の主役を演じ切る 往年の名女優さながらに 女神を装い 死を演じ ロマンスを生み出し 狂気を孕む さあ 殺伐とした昼の街並みの緞帳が上げられた 今宵はわたしが観客だ その冴え冴えとした微笑みで 沈黙のアリアを歌っておくれ まだまだ雲には入らないで その一瞥で打ってくれ わたしの詩心を打ってくれ ---------------------------- [自由詩]すべて つなぎとめることは できないもの/ただのみきや[2011年12月17日23時09分] 常緑樹が立ち並ぶ小高い場所で わたしたちはうさぎの足跡を見つけた 雪原の輝きとはうらはらに 頬がかじかみ 言葉は出る前に凍りついていた あなたはやさしいメロディーと悲しい歌詞の歌が好きで よくハミングしていたが いつも 風と見分けがつかなくなっていた 同じ場所に立っている きょう うさぎの足跡は見つからない 白い風が横っ面を氷の粒で打ってゆく あなたの面影も白く消されてゆく あのメロディーもすべて のみこまれ 風だけが 悲しげに歌い続け 大地は すべて無情にも引き裂かれ 散り散りになるもののために  黙祷を捧げていた ---------------------------- [自由詩]感覚遊泳/ただのみきや[2011年12月19日22時47分] アイビーが空間を探っている 感覚だけをたよりに  つかまえて 己のからだを寄り添わせ まだ見ぬかたちを具現しようと 精一杯手を伸ばし 探している 探している わたしも この感覚だけをたよりに つかまえて 己のことばを寄り添わせ 見えぬ詩情を書き記そうと 暁を待ちわびる鳥のように こころ澄ましながら ---------------------------- [自由詩]空転突飛腹八分目/ただのみきや[2011年12月21日21時03分] それぞれに様々な「ことば」が書かれた無数の箱の前で男は沈思する 名詞 熟語 接続詞 形容詞…吟味に吟味を重ねた末 男は箱を積み上げて建物を建て始める                 実存の子宮に眠る                 碧き焔の罌粟 時                 間のゆらぎに波長                 を合わせ切れない                 いきり立つ平和は                 振動の背中を捉え                 崩れ落ちる 天空                 を削る雨のナイフ                 ・・ あっ      【突然】びゅぅー!るり〜【風が吹く】びゅぅー!るり〜らら〜 建物は崩れあちこちに「ことば」の箱は転がった 男が慌てて箱を拾い集めていると 男の息子がやって来て言った「父さん その箱からっぽで軽いから風に飛ばされてしまうんだよ」 息子の正論は男を頑なにする 「いいからあっちへいって二字熟語の勉強でもしていなさい」 男は「実存」と書かれた空箱をまさぐりながら考える「もっと重量感のあることばを使ってみるか」                 実存の核心に深く                 埋め込まれた鉛の                 円錐は重力に押し                 潰された楕円の惑                 星に繋がれ あら                 ゆる不動な価値観                 の楔で留められた                 呼吸する山脈とな                                 り うわぁっ!          【またもや】どっどどどどう〜!【風が吹く】どどうどどうだ〜!     男は必死に駆けずり回り 遠くまで飛んでいった「ことば」の空箱を拾い集めてやっとの思いで戻ってきた「凝り固まっていた 確かに しなやかさが足りなかった 君の言うとおりだ」息を切らしながら男は一人「実存」と書かれた空箱をやさしく愛撫した                 実存の腹部から伸                 びる柔らか洗脳は                 風にどこまでもた                 わみ続け折れるこ                 とはない流形の変                 形の言霊の白玉の                  しなやかな新体操                  の腸で揺蕩うウー                 パールーパあっ!                   ごごごごごごご【地響きみたいに激しい風】ごごっぶれっしゅぅ〜! 「んがああっちっくしょうーやってられるかぁ!」男は散乱した箱をむちゃくちゃに蹴り飛ばした すると息子がもう一度やって来て 言った「父さん その『ちくしょうーやってられるかぁ!』て なんかいいね すげー重みがあって びっちり詰まってるって感じ」 「 ……そう そうかぁ 」                 おうおうおうおう                ちっくしょうやるって               えのかあ!上等だよこの野              朗 風がどうした来るなら来い             批評も批判もかかってきやがれ お            れは百本の矢が刺さった首なしの落ち武           者だ 空爆あとから黒煙と共に湧き上がる反          撃の叫びだ おれの悲しみは壊れた水道管だがお         れの喜びは鳴り響くシンバル打ち鳴らす大砲だ おれ        のことばは興奮したスズメバチの群れ 這いずり回る悪寒       夢の中まで追いかけて行くかたわの狼群だ 裸になった太陽の      音を無くしたキスの爆音だ 啓示の隕石 狙いすました落石 世界     の壁紙を剥がしまくる上等な猥褻だ 極寒のネズミの歯 灼熱のガラス    のどしゃ降り 脱皮する化石 虚空に張られた七本の弦 鏡の中からの絶叫              「父さん やっぱりちょっと 嘘っぽいね」 ---------------------------- [自由詩]MISSION/ただのみきや[2011年12月25日23時18分] こんもりと雪に覆われた朝 夢中でついばむすずめたちは 埋もれることもなく 枯草を折ることもない だがまんまるの愛らしさは鋭い冷気への対抗 食糧不足は天敵も同じ 生きることは戦い いのちあることは恵み 今朝この空き地が彼らに備えられた食卓だ  汝 言葉を殺すなかれ それは物体と現象の従属物ではない 貶めるな 縛るな 解き放て 矮小化するな  息を吹き込め それが使命だ 言葉にはいのちが在り心が在る そこには語り書き記した者の意志 情熱や知性が息づいているのだ 言葉から全ては始まる 言葉によって全ては変えられて行く 言葉は時代を超えて行く あの日 テレビのニュースを見ながら思った なぜ札幌ではなく福島だったのか 生きているわたしと津波にのまれた人々 そこに何の違いがあったのか 近所の保育所の幼子たちを見ながら 思わずにはいられないのだ なぜ誤診のために2歳で息子は寝たきりになり 5歳で天国へ逝ったのか 無邪気に遊ぶ幼子たちと息子の違いは何だったのか 地球の裏側で生きるために銃を持ち 人殺しの訓練を受けている子供たちと 衣食に事欠くこともなく学校にも行けるこの国で 自らのいのちを絶ってしまう子供たち そのいのちにどれだけの違いがあるというのか 答えは 沈黙だ どれほど論じてみても誰の責任にしてみても 失われたものはすでに解答より遥かに重い だが今 わたしは生かされている そしてあなたも わたしたちは失われた者たちに対して勝者ではない 競争を勝ち抜いたわたしたちが生きていて 勝てなかった彼らが死ぬのは当然だと言える訳などない 彼らはわたしたち わたしたちは彼らなのだ 生かされている だがそこは安穏と過ごせる楽園ではない 生かされている だからこそ生きるために戦わなければならない 凍てつく雪原で天敵に追われながらも 切り立ったビル街の暗い路地裏を足早で歩く時も 不条理の泥濘の中で縋る手が見当たらなくても 明日が怖くて震えが止まらなくても いかに弱々しく小さないのちであっても すずめたちは飛び去った 後には小さな足跡がいくつも残されていた それは白い雪に書かれた一遍の詩 いのちで刻まれた言葉 だから書く 言葉を解き放つ 名を馳せることがなくても 立派な本を出すことがなくても 誰かが読む そして心に何かが始まる たとえそれが小さな波紋であっても わたしがすずめの足跡を見て この詩を書いたように          《MISSION:2011年12月》 ---------------------------- [自由詩]しめ殺し屋/ただのみきや[2011年12月28日22時15分] アマゾンの絞殺し屋といえば 大蛇アナコンダを思い浮かべるかもしれないが 本当はもっとすごいやつがいる アマゾンのイチジク それはジャングルの生態系を支える基幹植物のひとつ 細く弱々しい姿で巨木にすり寄り そのたくましいからだに 身を這わし からみついて 鬱蒼とした世界から 日の当たる場所へと身をのばす すると豹変し始める 太く 固く 抗えない力で おのれがすがり支えられた 相手を 死の抱擁で ぎりぎりと締めつけ 締めつけ 締めつけ 殺してしまう やがて 巨木のかたちにぽっかりと空いた 不在の穴を抱いて イチジクだけがそこに佇んでいる 日本にも絞殺し屋の眷属たちが住んではいるが 地球温暖化の影響で このアマゾンのイチジクも北上し すでにこの国にも暮らしている はじめは皆が喜んだ 「人の世にも巨木ならぬ巨人となり 日の光を独占し場所をとりすぎる輩がいる そんなやつらをぎりぎりと締め上げてくれるなら大歓迎だ」 だが実際は違っていた そもそも人間の道理が アマゾンの絞殺し屋に通用するわけがない イチジクは自分の絞殺したいものを絞殺す 昨今の蒸発 失踪のほとんどは やつらの仕業なのだ 環境に適応したやつらは ある時は弱々しく男が助けずにはいられない女の姿で ある時は甘いことばでささやく優男の姿で 愛している 愛していると その腕を絡みつけ そのからだを寄り添わせ その男や女の生活を少しずつ 覆ってゆく はじめ程よい束縛が心地よく 激しい抱擁に情欲は燃え上がるが イチジクはある時を境に 豹変し始める 固く 太く 抗えない力で おのれがすがり支えられた 相手を 死の抱擁で ぎりぎりと締めつけ 締めつけ 締めつけ 殺してしまう 人格的にも 社会的にも やがて その人のかたちにぽっかりと空いた 不在の穴だけが残るが すぐにまわりの人々も それに慣れてしまうのだ ---------------------------- [自由詩]隕石衝突説/ただのみきや[2011年12月30日21時31分] きみの引力に引き寄せられ 幸福の隕石が落ちてきた きみの願いごとが大きかったから 地表のすべてが吹っ飛んだ それで不幸な人類はみな滅んでしまい きみはお構いなしに人生を楽しんでいる ---------------------------- [自由詩]虚構の海域(転覆丸哀歌)/ただのみきや[2011年12月30日22時07分] さあ 帆を上げよ 出航の時が来た 一かけらだって未練を残すな すべては過去の出来事だ さあ 目を沖に向けろ 出航の時が来た 呼び止める声など幻想だ 港にわれらの取り分はない さあ 海鳴りの音を聞け 早くも歓迎の嵐が来る あの暗雲の真下こそ われらの海への入り口だ いざ行こう 勇敢なる乗り組みよ 絶望の石ころを胸に抱く 見限られ 見限った者たち こころは死人の者たちよ いざ進め 転覆丸 虚構の海域を目指し 波の咢を超えて行け 茫漠の海に咲く ふりむくことのない 歌声を追いかけて ---------------------------- [自由詩]新しい年も続きを生きる/ただのみきや[2011年12月31日22時34分] 長年やってきた 自分というものを 衣服のようにスルスルっと 脱ぎ捨てられるなら 別の物語の主人公にも なれるかもしれないが すべてを新しくしたつもりでも 自分という本質は変わらない カウントダウンで変わるのは 年号の数字だけ 心機一転 白紙にもどして この物語の続きを 同じしがらみを負って生きていこう 誰かの物語の中での役どころは その誰かに任せておこう 時折 観客席に腰を下ろして 遠い目で自分の人生を眺めたり 誰かの素敵な物語にのめり込んだり そんなことを くりかえしながら そう 熟成されることはあっても リセットされることなどないのだから ---------------------------- (ファイルの終わり)