そらの珊瑚のsalcoさんおすすめリスト 2012年7月3日23時26分から2014年12月4日23時38分まで ---------------------------- [自由詩]ぬり絵する女/salco[2012年7月3日23時26分] 春が来るたびに 色が褪せて行った 女はテーブルに きいちのぬりえ を開き サクラクレパスで塗って行く 夏が来るたびに 心が剥がれて行った 何ひとつ帰り来ぬ家の 何ひとつ得られぬ部屋で くすんだ顔に笑さえ浮かべ 好きな色で好きな色で好きな色で かわいらしくかわいらしくかわいらしく 線画の少女に世界をこさえてやる 十六色で施して行く 雨が降るたび 輪郭が失われて行った 今日のさっき が昨日と連れ立ち明日の崖から身投げする 女は塗りこめて行く 何とも知れぬ面影を いつか見た空 空の青 空の青 チューリップの赤、チューリップのチューリップの ちょうちょの黄色ちょうちょちょうちょ 陽が射すたび 女は消えて行く 衰えた指で泡立つまま幾重にも幾重にも交差した色彩は 灰の靄 拡がって行く ---------------------------- [自由詩]旅/salco[2012年8月16日0時09分] 峠の茶屋に見る月近く 鉄路の涯に家遠し 旅する者の心得は 行き去る者の漫ろなり 行き着きけるの寂寥か 風吹くほかは音もなし 来たれよいざ我が傍へ 今生を去りし同胞 ---------------------------- [自由詩]おゝ、フィーリア/salco[2012年10月8日23時03分] 蒼然古色霜夜の廃城 その回廊を音もなく飛び歩く 惨劇の後の静寂は、ひたと夜闇に寄り添って 風ばかり、眠れる草木をあやしている 石は変わらず乾いてそこに在る お前は どのストーンヘンジからやって来た 何番目のストーンヘンジからお前は来たか 川はせせらぎ 千々なる月の面を壊し続け 在らしめ続けて流れている 「あゝ、昏い。まるでここはお墓のよう」 誰も呼びに来ぬ野っ原を駆け巡る 乙女の霊はここにも彷徨う 狂った花嫁の亡霊は、ここではひっそり横たわるよう 「それでもわたしには聞こえていてよ」 全てを帳消しに、己が身も消える夜明けまで 長らく水面を浮き沈み 「ひなぎくは何故わたしにさようならを云うの?」 「ライラツクは何故わたしを捕えようとするの?」 燐光を宿したガラスの目をしている 「わたしはずいぶん長い髪をしているでしょう?  そうして夏陽に耀く亜麻色でしょう?  お日さまとお花を差し上げてよ」 お前の可哀想なハムレットの為に泣いておあげ 「水の中でどうやって?  わたしには捧げる泪がありませぬ  水のように、もうわかりませぬ」 ---------------------------- [自由詩]Die(ディー) Hard/salco[2012年11月4日23時29分] 歩かなければ足がしなびる 使わなければ腕がなまる 戒めてないと腹が出て来る 触らせてないと胸がしぼむ エッチしないと尻が垂れちゃう 言いなりなるとガキ出来ちゃう 月イチで卵出しては傷んでる 「作り」がないと見映えが悪い 齢重ねるほど見劣りして来る 社会に出ないと不安で霞む 仕事しないと頭が呆ける 女の仕事と軽く見られる 一人でいると時を失う 交流しないと心が歪む 目先に浮かれて退屈しのぐ カネ貯めないと路頭に迷う 通勤すると痴漢にも遭う 夜道を歩くと危険な目に遭う ご飯作って浴槽洗う レンジの脇でヒップをアップ クレンジングに洗顔フォーム 化粧水に乳液、クリーム重ねる 明日の朝もブラジャー着ける 女はケッコー大変なのよ ---------------------------- [自由詩]細野のおばさん/salco[2012年11月15日23時32分] 近所の子らが小銭を握って フルタのチョコやオレンジガムを買う 細野商店はおばさんがやっていて 娘と息子がひとりずつ 近所の子らが大人になって いつやらクリーニング代理店になり 細野商店は娘が嫁いでいなくなり おばさんとドラ息子だけ 近所に不幸があったと聞き知ると おばあさんになったおばさんは 細野商店を息子に預け もっと詳しく聞き知りに出る 近所の悲嘆沈下をたずね当て 靴に溢れて施錠を忘れた玄関を開け 細野商店の顔をひょいと覗かせ 誰が何で死んだか耳立てる 近所に不幸を知られたその昔 夫を亡くして途方に暮れた 細野商店の越し方よりも新鮮な 同じ不幸に気が晴れる 近所の不祝儀総ナメばあさん お咎め用心香典袋を仕入の代に 細野商店ひそひそ、ふむふむ噂の販売 葬式饅頭ばばあと呼ばれる ---------------------------- [自由詩]文句しか垂レヌ/salco[2012年12月14日0時19分] 金もナク仕事もナク 展望も若さもナク 妻子には捨てラレ 責も任も負ハズ 誰にも期待さレズ 東にも西にも行カズ 誰を労ふ用もナク 暮しの足は大丈ブ 家計一人このオカズ 雨にも当たラズ 風にも吹かレズ 南採光/北水回リ そんな賃貸に起居シ 外を羨み他を妬ミ 貧(ヒン)の身空に富(フ)を憎ミ 自己を憐れみ涙に咽ビ 十年一日数珠手繰リ 懸想妄想を枕頭ニ 責任転嫁に明ケ 開き直りに暮レ 鬱憤山積因縁ツケ 怨み骨髄骨粗鬆セウ かうして日の目を見ずシテ 自己完結を貫徹シ 死に目を見せず唯ひトリ ひつそり或日去んだナラ 誰ひとりにも悲しまレヌ 愛別離苦で不幸にさセヌ これほど幸ひな人はナイ 逝きがけの駄賃トテ 大家へは意趣返しともナリ ---------------------------- [自由詩]ウェイトレスの娘/salco[2012年12月16日23時17分] 娘は 今日も一日家にいた 年を取るのは嫌だ嫌だと言いながら 母親は水ぶくれの手で 何種類ものクリームを塗ったくっている 客の食べ残しを載せた皿を今日も洗う為 にせ鰐皮のバッグは椅子の上 鏡は時計よりも正直に 残酷な今だけを映している コーヒーを飲み過ぎた母親はとうとう 永年不眠症の口うるさい亡者になった 投げやりな険しい顔相のトーチカで 眼だけが執拗に娘を追い回す 割れ皿のこすれ合うような声で 娘に人生の調べを聞かせている  こういう男にはこういう注意をしなきゃ駄目 すっかり黒ずんだ顔を入念に塗りこめながら 母親は数々の警告を与え続ける だから娘は家にいる 一日じゅう、一年じゅう家にいる 窓辺に置いた鉢植のように 蒼白い顔を弱い陽光に向け 鳥である自分を想像している 歩いた事のない足で空を舞い 堕ちた事のない体を雲間で遊ばせている 母親の自慢の種の 絹糸みたいな長い髪を埃だらけの床まで垂らし 小さな円椅子の上で微かに体を揺すっている 空と触れ合う安アパートの最上階 窓辺の籠の中 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]懐かしい人/salco[2012年12月24日23時22分] 〜2012年備忘録 1月  九時過ぎ、テレビを点けると石岡瑛子が映り、すっかりお婆さんになって いて驚いた。堤清二のPARCO、その尖鋭的広告の仕掛け人だった。  山口はるみのイラストが流行った七十年代末から八十年代初頭、長い髪に ソヴァージュ、平たい面立ちにノーズシャドーを入れ、黒いパンツスーツの 意思的な容姿が印象的だった。  三宅一生や山本寛斎がパリコレやロンドンコレに風を吹き込み、紅の天女 山口小夜子と怒り肩のプレタポルテがランウェイを街を闊歩していた時代、 日本が最も元気に駘蕩していた頃の象徴みたいな女性だ。レンピッカのメタ リックな頽廃やリーフェンシュタールのヌバ族も、パルコを通じて私に教え てくれた。  九十年代、東欧のアジアを醸したカフタン風衣裳と血の色彩が秀逸な映画 『ドラキュラ』でアカデミー賞を獲った時以来の久し振り、もう七十一歳と いう。頭にスカーフを巻き、コム・デ・ギャルソンかヨージ・ヤマモトっぽ い黒服に、それでもきちんとチークを入れた薄化粧で、媚びのないあの口調 はちっとも変わらない。  ここ二十年、ニューヨークを拠点に映画や舞台の美術に携わっていて、新 作ブロードウェイミュージカル『スパイダーマン』の斬新な衣裳作りの工程、 その精力的な仕事ぶりを追うドキュメンタリーだった。  「元気の秘密が」  と、やや変な日本語でストレッチ体操を実演してみせる、お茶目だけが老 人らしかった。  NHKの「プロフェッショナル」という番組は、中島みゆきの御詠歌で名 を馳せた「プロジェクトX」を踏襲し教条的で仰々しいので嫌いなのだが、 つい観入ってしまった。  不屈の美意識と絶対に妥協しない姿勢に、「かっこいいなぁ」、「でも寂 しくないのかなー」、「自分もこんな風に生きないとダメだなぁ」など感嘆 しきりでいたら最後、  ・・・2012 ご冥福をお祈りします  キャプションが出、エーッ! 亡くなったの?!   追悼の為の再放送だったかと愕然とした。  ネットで検索すると、少ない記事に一月二十一日東京で逝去とあり、すい 臓がんで去年九月に帰国し療養していたと。一週間以上知らなかった自分に も心底呆れる。  一年半前から体調を崩していたというから、面やつれもなくかくしゃくだ った撮影時には多分、御自分の病気を知っていたのだろう。するとあのスカ ーフは治療のせいだったのかも知れない。  佳人薄命とはよく言うが、才人もしばしば短命だ。  人生、それに天職と恋に落ちると足元すくわれるみたいだな。やりたいこ とはまだまだあっただろう。  それでも、好きな仕事で身を削るように働いて来た強い人だ、悔いは相殺 済だったかも知れない。  原田芳雄に続いての訃報だ。絢爛の八十年代に雪が降る、雪が降る。 ---------------------------- [自由詩]鶴の恩返し/salco[2013年1月22日23時28分] 進歩は昔話を撲滅する  あんたの事は食わしちゃる  あたしが部屋で何しとるかは  詮索せんといて  覗きでもしたら出て行くきね 女房のオツーはそう言って襖を閉め 日がな何事かをする 百姓のヨヘーは朝が早いので先に休み 明け前に起きれば 湯気立つ朝飯を膳に並べてオツーが侍る それからコビルの握り飯を持たされ 田んぼに出かけるのだった 長雨で稲が腐れ出した夏 オツーはJAの通帳と印鑑を ヨヘーの前についと出した 三百万ほど入っている  心配せんといて  あたしがあんたを食わしちゃるき そう言いにっこり微笑んだ その秋は平年の三分の一しか収穫がなく ヒマ持て余して昼間っから寝転び 情報ライブミヤネ屋を見ていたヨヘーの好奇心が起床する 何せヒマだもんで余計な思考がぐるぐると 加えて慢心と依頼心の申し子まーいいじゃんが後押しを それで立ってそぉっと襖を… 女房が全裸でパソコン前に横たわり スカイプ相手に見せていた その晩飯どきオツーは言った  見たねあんた  あたしの覚悟も信頼も踏みにじりよって  約束は憶えておろうが?  たった一つの願いもぶち壊しよる  そんな不甲斐ない亭主は要らんきね  今日からあたしは独り者だよ 有り金持って女房は出て行き 風の噂では県庁所在地に出 警察で許可を取り起業した 業種は言うまでもない 自分への面当てだと思うことで ヨヘーは自尊心を慰めている 無論そうではない 女という生きものは意趣返しなどしない 切り捨てた能なしなどには ---------------------------- [自由詩]鬼灯/salco[2013年1月31日0時04分] 現代狂言 般若(シテ)、男 男   母上様、母上様。 般若  なに用。 男   それがしの願いをお聞き下さいますか。 般若  事と次第による。 男   薄情な。それが垂乳女(たらちめ)の御心根でございますか。 般若  ふむ、母を万能とでも心得るやら。わしもか弱き女性に過ぎぬわい。 男   なれど、なれど、それがしを大事とは御覚え下さいますか。 般若  ならば、ならば、それはもう、何に代えてもそなたを大事と覚う。 男   ならば、お聞き下され。 般若  さらば、聞くだけ聞こう。 男   どうぞ、それがしを産まずに下さいませ。 般若  何と。 男   この鬼灯にてそれがしをお流し下さいますよう、御願い申し上げる次     第にございます。 般若  気でも触れたか。血肉を分けた子を宿す母に、吾子を愛してやまぬ親     に殺せと申すか。命を絶てと願うか。出来ると思うか、思うのか。 男   それを伏して御願い申し上げるので。これ、この通り。 般若  おとろしい事を。聞かぬ、聞かぬ。 男   それがしは生まれとうございませぬ。生きとうないのでございます。 般若  ええ、まだ申す、母の胸刺す言の刃を。 男   申しましょうぞ、何振なりと。それがしは、生まれたところで幸では     ござらぬ。長らえたとて、死にたいばかりでございますゆえ。 般若  嘆かわしや、恃みの倅がかくも痴れ者。 男   お産みになるならば、母上こそが無残に吾子を斬り捨つる事と相なり     ましょうぞ。 般若  幸も不幸も親に帰するか。不甲斐ないにも程がある。 男   いかにも。不甲斐ないのでございます。 般若  ふむ、開き直る。生まれたからには生きで如何する。そなたには手も     足もある様子。何なりと掴めよう、何処へなりと歩けよう。路は己で     拓くもの。 男   掴めど掴めど空、歩けど歩けど闇。それがしの路は、拓けど拓けど泥     沼にございます。 般若  足らぬからよ。徒手空拳の手数が足らぬ。無駄足の里程が足らぬ。く     たぶれ儲けの銭高が足らぬ。 男   ならば御覧じろ、この足の浦。 般若  おゝ、汚らしや。面がひび割れ固くなり、指の股にも泥濘びっしり。 男   したり、したり。もはや歩かれませぬ。 般若  なれど、福は望めぬまでも、歩かで幸は掴まえられよう。頭を使え、     頭を。人は自ら足るを以て幸となる。これ、そなたの手指は幾つあ     る。順繰りにへし折れるまで、そを指折り数えるがよい。 男   したり、したり。仰せの通り、十の指すべて折れております。 般若  何と哀れな、労しい。おゝ、胸が痛む。おゝゝ、胸が痛む。 男   西より東、北より南、無駄足踏み踏み、踏み抜きましてございます。     生まれてよりこのかた、徒手空拳を日々数え、数えに数えてこれ、こ     の通り。 般若  時に、そなたは幾つになった。 男   齢でございますか。三十にございます。 般若  三十か。はや三十。否、まだ三十。ちと気が早くはあるまいか、何も     かも知り済ました顔をするのは。 男   もはや三十なのでございます。この先何が変わりましょう。もう充分     にございます。 般若  はて。言われてみれば充分のような。否、思いなせば不足のような。     三十、三十。いかにも宙ぶらりんな嵩。否、否、さればこそ。三十と     言えばそなたを元服させた齢。肩の荷降ろした心持とて、わしはまだ     まだ若くあった。若くあったぞ。  男   はて、元服の時。さてもあの朝、母上はそれがしを御覧になり、わし     とて老いた道理よと、しとど涙に暮れられたような。 般若  はてさて、とんと覚えぬが。 男   さても御身の覚えとは、事と次第によりますな。 般若  そうじゃ、そなたも身を固め、子を生すがよい。いつまでも独り身で     ふらふらしておれば、気楽もいつやら気塞ぎとなる。側に育つ者あら     ば、幾分なりとて気が紛れよう。 男   さても笑止を。生きとうもない者が子を生していかにします。 般若  ふむ、左様であったな。さあれどそれが人世の定め。無体な夢見に醒     むればこそ、人は現に己を飼い馴らすもの。捨ててこそ浮かぶ瀬もあ     る腹づもり。 男   己がいつきを嘗め続ける犬ざまに、空手にのの字、のの字を書いて足     る、そを幸と呼べと仰せとは。母上の俗性には吐き気が致しますな。 般若  俗で悪いか。そなたは人世を何と心得る。俗とはそれよ。そなたもそ     こに生まれたからには俗性じゃわい。今生が天上人の飛び歩く大伽藍     とでも思うたか。それこそ笑止よ。 男   さればこそ、生まれとうないのでございます。 般若  得手勝手を申すな。生まれて来とうて生まれ来た者など何処にあろ     う。皆、俗に倣うて生まれて生きる。そなたもこれより俗に習え。 男   厭でござる。生まれる生まれぬは親の都合。さあれど生きて行くのは     それがしの次第。生きる生きぬはそれがしが決めます。 般若  さまで申すならば致し方ない。勝手にせい。 男   しからば。 般若  これ、何とする、何とする。 男   それがしを間引くのでござる。 般若  無礼者、親をば何と心得る。こうしてくれよう、こうしてくれよう。 男   痛い、痛い。 般若  子宝に手を掛けさせてなるものか。ええい、ええい。 男   おやめ下され、おやめ下され。 般若  死にたくば、未生にあらず今生が身に手を掛けよ。 男   とんと勇気がございませぬ。 般若  ならば生き死に口走るな、人前に。 男   なれど生き死に負わせて産みたるは、母上その人。 般若  まだ申す。情けなや、あゝ、情けなや。 男   申します。産の戸口は閉ざして頂きたく。 般若  これ、何とする。こたびはいかに。 男   かがります。針と糸もて縫いとじます。 般若  狂うたか。 男   何とでも。未生と今生の道封ずれば、生苦も死苦も塞がれる。 般若  何たる無残。阿呆が、否、吾子が狂うた。 男   吾子吾子と気安う申すな、女性の鬼め。 般若  あれ、あれ、誰か。 男   待て、待て。 般若  待つものか。 男   待て、待て。 般若  待つものか。 男   鬼待て、鬼待て。 般若  鬼は手前よ。 男   鬼をば追うて、ぐるぐる。 般若  鬼より逃げて、ぐるぐる。 男   吾子を助けぬ鬼をば追うて、ぐるぐるぐる。 般若  鬼と化したる吾子に追われて、ぐるぐるぐる。 (謡)  ぐるぐるぐる、回るほどに足もつれ      ぐるぐるぐる、回るほどに息も切れ      堂々巡りは涯もなく      堂々巡りはくたぶるる 男   追うておるやら、追われておるやら。 般若  追われておるやら、追うておるやら。 (謡)  鬼め、鬼めと追わるるようで      あれよ、あれよと追うようで      かくしてどうと倒れ伏し      子亀の背に親共倒れ 男   重い。のいて下され。 般若  のいてなるか。 男   これでは追われませぬ。 般若  終わるとな。嘘をつけ。 男   嘘ではござらぬ、終われませぬぞ。 般若  否、否、追わせぬ。追わせぬぞ。 男   否、負うております。この通り。 般若  否、追うてはおらぬ。この通り。 男   母上、重い。重いでござる。 般若  嘘をつけ、そなたの何処が母を思う。 男   毛ほどにも思うてはおりませぬ。母上が重いので。 般若  したり、したり。腹にそなたがおるものを。 男   されば、こは不条理の重さにございますな。 般若  たわけ、子は理の重さ。鬼ごこはお仕舞じゃ。 男   いかにも鬼の子、いかにも鬼の子。 般若  まだ申す。さても痴れ者、鬼は手前よ。 ---------------------------- [自由詩]砂をんな/salco[2013年2月26日23時33分] むかしむかしある所に 哀れなおんながありました たいへん貧しく生まれたので おんなは 人に何かをもらうことしか 考えませんでした 自分は哀れな身の上なので 情けをかけてもらうという心得で だれかに与えたり扶けたりする事は 絶えてありませんでした そうしておんなは おのずと悲しみ泣くのでした 人を求める心をもて余しては泣き 人に求められぬ身を嘆いては泣き 近しい者が死んでさえ 自分が寂しいばかりに泣くのでした こういうおんなでしたから 人に想いを寄せるのは 腹を膨らませる為でしかなく 何かに応えているつもりでも それは身の裡にしまい込んだ もらいものの反映に過ぎませんでした こうしておんなは情けを乞い もらった心映えを食べてぶくぶくと肥え 口を開くと腹に貯め込んだ水が たぷん、たぷんと揺れるような 恩恵の音を立てるのでした それは大そう心地のよい音色でしたが 人懐こいおんながしなだれかかるばかりで 何一つしようとせぬのがわかると だれもかれもが離れて行きました 何て冷たい人なのかしら どうしてああも薄情になれるのだろう そうだ 優しさのない人達からは離れていよう ああ、寂しい 悲しい つらい おんなが泣くといつしか 目から砂が流れるようになりました 砂はさらさらと頬を伝い さらさらと胸をすべり さらさらと足下へ落ち 消えもせず溜って行きます おんなはそれにも気づかず 寂しい 悲しい つらい と泣くばかり 出歩くこともありませんでしたから 一年後には 頭まで埋もれていました 百年が経ち そこは小さな砂丘です おんなはすっかり深く埋もれ 寂しい 悲しい つらい と泣くのです 汲めども尽きぬ砂泪が頂きを押し上げ おんなをいっそう沈めて行きます そんな砂丘を歩くと 靴底がこすれてぎうぎうと音を立て 砂粒がくるぶしまで行人を沈め 靴の中にも入り込み かかとを掴んで歩みを遅らせ 後ろへ後ろへと引くようです それはまるで 行かないで ねえここにいて ここに来て と言っているようです ---------------------------- [自由詩]みどりが丘で/salco[2013年3月18日23時43分] あひるは腰かけていた 石のおいろはみどりいろ あひるはそこへ腰かけて 誰かが来るのを待っていた 誰かが喋り声を出すのを じっと待っていた しんしろの太陽は黙っていた これらの人を知っている 黒くて痩せた、 赤い骨をした人だよ かれらはあたいの友人で ぱんたらぱんたら あひるはつぶや あひるはつぶやく こういう風でおりますと 長い野原のてっぺんを 汽車が通った てっぺんって言うのは 野原の縁だ あすこ ほら、あすこだよ 汽車っていうのは距離を運ぶ カシミールからやって来た ガンジラ・ハハールが むらさきのずた袋を頭に巻いて たんぽぽと風といっしょに 飛んだ ナガスフンダ、ナガスウンダ 赤いダリヤが虚に咲いた きみどりいろのペン先の上 夏木綿の貴婦人が 二人の子供と昼食中 ぴんたーるとぴんたれん あれは、あの頃だったろうか 山羊は問屋の袋から 新しいワンピースを出した 風吹いた 春しい  春らしい  春はるしらへ まあるい落下傘が 雲からゆっくりと ---------------------------- [自由詩]誰が食わせてやってるんだ式/salco[2013年3月22日0時16分] 女というものは 化粧を落とした顔がすっかり輪郭を失っている 写真の中では既に 枯れ傷んだ花弁のように色褪せて 寝室の鏡に映る素顔は男の目に見せられない 女というものは 安物スーツにハイヒールでオス孔雀さながら歩き回り 背が高いと言われれば、したり顔で大満足だ 書類をバサバサ持ち歩き、真っ暗な部屋へ帰ると ロウティーンの馬鹿げた夢すら失った自分の為に悶え苦しむ 女というものは TVニュースに寸評を加え、第5次中東戦争や独裁政権の動向や 超大国の軍備拡張について人道的な私見を長々述べ立てる 戦争の無益を滔々とまくし立てながら 軍靴を履いて胸まで泥沼に浸かり、機銃を頭上に掲げて 体じゅうをヒルやシラミにたかられる義務は生涯負う事もない 唯一の懸念は 「私の坊や、私の坊やはどこ?」と叫ぶ 戦後の被害者になる事だけ 政治が戦争の主犯であると知っていながら 「あしたのおこめはどうするの?」 その最たる従犯である母親の役割については露ほども 瓶底に残った化粧乳液ほども考えない そこで我々国たみなる人頭税納付者も 発想の転換を図ろうではないか これからの時代は女を 男の代りに戦場へ送り出すのだ 兵士こそは戦争を最も熟知する消耗品だ 戦争のバックグラウンドが敵国でも議事堂でもなく 懐かしい故郷の町にこそ在るのだという事すら 女達は知らないのだ 少なくとも有史以来、身を以って 黒衣の女達は長年 服喪の被害者づらをして来たが 塹壕や墓穴に冷たく横たわる 四肢や腸のちぎれた軍服の屍こそが被害者だという 事実の代弁者とは決してなり得なかった 亭主の呻きや倅の悲鳴を聞きながら一度として クーデターも組織せず、テロさえ起こさず 「あたしのおめこはどうするの?」 女の無力に胡座をかいて、疲れた顔で窓辺に座り 無益な涙を流してばかりいた だから女を戦場に行かせたら 世界はずいぶん変わるに違いない 母性の疼きの共通理解に基づいて 前線がダレると政治屋達が懸念するなら それはとんだ買いかぶりというものだ 戦果はもっと速やかな、素晴らしいものとなるだろう 我が子 を守る為 女がどれほど攻撃性を獰猛に発揮するか考えるがいい それはかつての、今日までの青年達の いわゆる「我が父母」「我が兄弟」 「我が郷土」「我が国土」式愛国心の悲壮より 数段深度の確かな盲目的モチベーションとなる 女達は 根絶やしの殺意を血まなこに 顔面や胸よりも、腹を狙い撃ち合うだろう 母の愛ほど偉大な力がこの世にあろうか! 膂力だけのウスノロ ロマンティストの青年達よりも 彼女らの動物的な愛情がどれほど果敢で凶暴な力を いかんなく発揮する事か 母こそは我が子の為なら嘘も盗みも厭わない 乞食だろうと売淫だろうと 殺人だろうと躊躇しない 命さえ喜んで捨てる自己犠牲の権化ではないか 女達は 保育施設に子を預けて戦場へ赴く 子はみな政府の監視下に置かれ 人質に取られた各自の至宝の為に めざましい戦果を上げるに違いない  前進は我が子との再会を意味する  戦死は名誉孤児の生活と高等教育を保証する  後退すれば我が子を国家の手で弄り殺される この状況で誰がめそめそ泣こうか シェルショックに震える腑抜けでいられようか 今こそ腹を痛めた命の為に身を挺し その生存の為だけに前進し続けるだろう 躊躇も疑念も入る余地の無い動機の為に メス犬こそは最も戦闘的なのだ! この勇敢で盲目的な戦闘員 女どもを陸軍へ! ---------------------------- [自由詩]少年人形/salco[2013年3月25日23時22分] その兵隊は綺麗な目をしている 義眼さながら澄んだ一対 まばたきも忘れたかのように 永続の晴天を映しながら それは自分をしか見ない 時々彼は女の役目もする そんな時さえ目を閉じない 本物は多分 どこかの冷たい湖底に在る 決して明けたことのない 夜の水底に在って 生誕時より三、四十年の歳月をかけ ひそかに腐って分解して行く 何も見ず、何にも動じず 着々と腐って行く ようやく彼は目を瞑る 美しい人為の水晶体を 今日の光が射ようとした時 険しく立てた眉間の溝奥で やはり黄金の夢は やはり黄金の過去へと繋がっている それは生誕以前の暗黒 巨大な無知の深淵 独り勝手の無心な経験へと 痛みも知らず疲れもしない 柔和な涙の内に在り 病みも弱りもしない目 その虹彩は環礁の色に縁取られ 一切の視力を持たず 従って光景に惑い濁ることもない 神経に煩わされることのない眼球 異物の不可侵に触れている先端から やがて神経それこそが腐り出す ---------------------------- [自由詩]嵐/salco[2013年4月7日23時26分] 四月 夜来の雨が軒を叩いて やんだかと思うと強まって 千の靴音を撒き散らすと 再たふと空のどこかに引っ込んで 猫のように耳を澄まして 南の果てから吹く風の 雄々しい声を聞くようで 涼しい目の 海水に濡れた髪を垂らした 熱い体の 長く硬い腕にサーフボードを抱えた エゴイストの 艶やかな胸から吐き出す一杯の 疾走の叫び 遥か常夏の炎天から洋上を遡上し 女達の髪という髪、頬という頬 首筋という首筋、腹という腹を なぶって行く哄笑の風 だから私も眠れない 雨飛沫の歓喜の嬌声が うねって悶える彼女らの愚かしい熱情が 棺の中まで降り注ぐから ---------------------------- [自由詩]便り/salco[2013年5月16日23時14分] 春の風は遠くから来ます 夏の風は遠くへ行きます あこがれ、とは違う 何処か知らない所へと 私を誘います 秋の風は通り抜けます 冬の風は通り過ぎます 喪失を知らしめ 懐かしい者どもとの隔絶を 私に伝えます ここまで生きて私は 墓石に泳ぐ一匹の淡水魚です そのように感じます ところでダムに沈んだ郵便ポストの 一通の手紙 それは誰の為に在るでしょう? すると人生の総評は所詮 水に溶け出るインクに過ぎないと 言えますまいか ---------------------------- [自由詩]2013夏 聖子超人伝説/salco[2013年7月23日22時27分]  松田聖子との同時代はもはや左腕の種痘痕のみである。                      哲学者 猿田川愕膳   具足の季節           作詞:三浦徳子           補作詞:アウラ・トクホ           作曲:小田裕一郎           歌唱:没田姓子 うちの夫はハゲ 10年課長 メタボに加齢臭 いいとこないわ 土日はテレビまえ3食昼寝 草むしり洗車も私です エクボはいつかミゾと化し 共稼ぎで家事育児 頬とまぶた垂れシミだらけ私 松田聖子と同い年 3回も結婚パワフルなのね ぶりっ子ウソ泣きと言われたけれど 肌もお腹O(オー)脚、二の腕さえも 三十路ガールキープ聖子ちゃん 若さに秘密はないわよ 抗酸化と代謝に修理(リペア) 愛と希望、自信、資産、家政婦さん 要は人生1度きり エミゾとシワはヒアルロン シミはレーザーへそくりで 頬とまぶたリフト次のボーナスね 首から下トゥーレイト トゥーレイト   ✕(バツ)の扉           作詞:三浦徳子           補作詞:恨見毒子           作曲:財津和夫           歌唱:バツ田所為子 アガリかけたわたしに 食事に行こうと あなたは多少年下の 既婚者の上司 女として見てるの? まさか嘘でしょう 若いコもいる仕事場で 子持ちのバツイチ Reフreッシュ!フreッシュ!フreッシュ! ✕の扉を開けて わたしを食べに連れて行って フleッシュ!フleッシュ!フleッシュ! 勝負下着とラブホ 裸のわたし20年ぶり 季節が通りすぎて あなたは冷めてくる 別れたくない奥さんに 全部バラすわよ 脅されたとあなたは 部下に言いふらす 居づらくしても愛の火は 消せはしないのよ 修羅!修羅!修羅! ✕の扉を開けて ティッシュみたいに捨てるつもり? いや!いや!いやーっ! きもち悪いと言って すがる私を振り払ったの 死ね!死ね!死ねーっ! バッグからナイフ出し 思いのたけを突き刺している        ※フleッシュ … flesh [名詞](人間、動物の)肉、肉体。又は肉欲、情欲、獣性。                 [動詞](刃物などを)肉に突き刺す、など。    〜 おまけ 公共広告 〜   トイチのゥリング           作詞:尾崎亜美           補作詞:司法書士           作曲:尾崎亜美           歌唱:枡田債子 約束を破ったなら 目にものを見せてあげる 海の底おさかなのエサ にしてあげるよ 便秘のように滞ってくのよ 返済額が日々のライフの中 助けて先生(助けて先生) 10万借りただけ 元金超えの利息に泣くの I'll rob you I'll rob you 電話ですごんだり I don't go I don't go  行くと言って来ないのは何故? トイチがゥリング(ゥリング、ゥリング) 勇気を出して 踏み倒してね それが日本の法律だから 笑わないでね貸金業の理由(わけ) 暴対法が粛清の世の中 チンピラくずれ(チンピラくずれ) 学歴がないけど ガテンいやなの意志も薄弱 Unlawful Unlawful たたみかける語彙の Underdog Underdog 理屈に意味がないのは何故? トイチがゥリング(ゥリング、ゥリング) バカづら見える 威勢の裏でおびえる男 無届けのカス(無届けのカス、無届けのカス) 無効なプロミス ムショに行くかと 笑ってごらん それが本当の約束だから        ※ゥリング … ring [名詞]電話を鳴らすこと、電話をかけること。              [動詞]電話が鳴る、電話をかける。 ---------------------------- [自由詩]失楽園/salco[2013年7月29日23時43分] 楽園の門が閉ざされて久しい 寝室には潰れたふたつの枕だけ ふたりは台所にいる 夏は不快な熱で部屋を満たして 居座っている まるで昨夜着いたばかりのように テーブルには缶詰がひとつ ふたりは疲れ、怯えている イヴは窮屈な椅子で 浮腫んだ脚を前に投げ出し 苛立つ夫を目で追っている 来月には子供が生まれる 失業手当は今月で切れた なるべくクーラーはつけない だから暑さが不当だ 日本の夏には頭がおかしくなる アダムはきのう 内緒で貯えを下ろし 増やすつもりで賭けてしまった 押入れのスポーツバッグの底板の下 防水紙に包まれてダガーナイフが眠る アダムは寝室に戻って シャツをひっかけ それからそっと押入れを開け 閉める 出て来たアダムに妻が訊く 「どこに行くの?」 「ああ、職探し」 「土曜日よ?」 「いや」 ふたりは閉じ込められている だから怪物退治に行く そうすれば物語を取り戻せる 「求人誌。コンビニ」 そうだった今日は 銀行は休み 郵便局も休み おはよう、アダム 「あー。どうも」 今日も暑いわね。奥さんお元気? 「はぁ、おかげさまで」 そうだ、金はある 世間を回っているものだ 手から手に 懐から懐に アダムが出て行った後 イヴは台所にひとり 初めての陣痛と出産とに思いを馳せる 来月、ふたりの赤ちゃんが生まれる もうこんなには暑くないだろうし 忙しい明け暮れになる そうなれば、きっと全てが新しく 上手く行くような気がする ---------------------------- [自由詩]でっかい/salco[2013年8月4日23時20分] 日曜日 公園端にひまわりが伸びていた 二輪はふてぶてしい黄色 子ども達のはしゃぎ声を したり顔で見下ろしている あと四、五本のはまだ早緑 背丈は一人前なのにねー 大きな葉っぱを着て もう虫に食われて しゃがんで見上げると 穴から空がいい感じだ 逆光気味に銀色がかって まるで吠えてるみたい それで撮ったらピクセルでは 雄々しさが消えてしまった やっぱりナマに限るのねぇ 見ればひまわりも とても植物とは思えない 宇宙生物襲来だ! ---------------------------- [自由詩]夏の商売/salco[2013年8月22日23時20分] 風売りが辻々に立ち 夏商い キンギョソウ浴衣娘 花穂揺らし 神楽坂は汗ぬぐう貌 険もなし 逃げ水の小路の先 だんまり暖簾の昼寝蕎麦 白の碁石の艶 黒の碁石の涼 盤に零れてぱち、ぱち、ぱち 日暮れ待ち ---------------------------- [自由詩]ネゴシエーター/salco[2013年8月26日23時30分] 一九七〇年八月 母は二十何年かぶりの帰省を決行した 復帰前の沖縄 前回は渡航制限とフトコロ事情で 密航とはいえ鼻息荒いものだった 東京で贅沢させてやるとたぶらかし 花もはじらう妹二人に掃除婦と釘拾いまでさせ 生涯の恨みを買ったが 今回は日米両国に臆する事なく パスポートを取り予算をドルに換え 小学生の長女と長男を伴った 小商いを夫に譲り 家計の安定化を図って小出版社に就職し 美術全集二十巻と文学全集百二十巻余 この自腹を以て営業成績とし 半年ほどで辞めた後 宮崎県の免許で時間講師と産休補助の教職に戻り 一年余 問屋で値切る吝嗇に油を注いで節約を重ね 下の二人も連れるほどには貯めてなかった 正午過ぎ レモンイエローの綿ピケワンピースの姉は パウダーピンクのお子様スーツケースで決め 巨人軍帽の兄は 紺のポロシャツに黒のボストンバッグ 母は朽葉色の綿レースのスーツで 水色のボストンに黒ハンドバッグとあれやこれやの紙袋を腕に引っかけ 鼻から火焔を上げて玄関を出て行った 羽田空港発、ノースウエスト航空便 その夜、ご飯も済んで テレビを観ていると黒電話が鳴った 父が出て驚いている ノースウエストのミスで座席が塞がり乗れなかった 出発は明日午前に変更 羽田の東急ホテルに泊まっている 部屋はタダ、食事もタダ よかったら今から来ないか ではモーニングを食わせてやるから明日来い 私はホテルに泊まってみたかった モノレールで羽田に向かうと すっかりうらぶれた中層ホテルが見える 時流の番外地でぼってり塗装を重ねただけの 自動車教習所かタクシー会社と見まごう今と違い 当時は白亜の豪奢だった シャンデリアのクリスタルが恭しい煌きを乱反射する 革のソファが配されたラウンジレストラン 私と弟は生まれて初めてホテルの分厚いトーストとオレンジジュース 半熟のさまも典雅なハムエッグを食べ 恥を知る父はロビーで待っていた 鼻の穴から煙をくゆらせ ふんぞり返ってコーヒーを流し込む母 ウエイターは明らかによそよそしく 兄は恥じてぷりぷり怒っていた ツインの部屋でベッドに寝たと姉は上機嫌で 昨夜はルームサービスでステーキを食べ パンではなくライスにし コンソメスープとサラダ付き デザートにはメロンとアイスクリームが出 酒を飲まない母が赤ワインを注文したと 航空会社に二室を要求し シングルに寝たイビキ持ちの母は 予定日時に渡航できなかった重大損失の見返りに ファーストクラスも要求し それは予約の関係でどうしても無理だと拝み倒され これで勘弁してやったのだった モノレールと電車で一時間半の家へ戻れない理由に 折衝担当者とその上司が何故、折れた方が得策と判断したのか 大人になったらこれが謎だ がら空きバスでホテルを後にし 国際線搭乗口で別れを告げ 三人は機上の人に 残り二人は展望デッキでソフトクリームを買ってもらい 鉄柵に張りついて眺める機体の巨大 パンナム水色の地球、日本航空赤い鶴 KLMはオランダ航空、紺の帆船は全日空 横腹と尾翼を色とりどりに もう飛び終えたかのような安穏に居並ぶ 父が指す機体に目を凝らして窓を辿ると 髪の長さで姉とわかった 手を振ってみたが気付かないのか もう取り返しのつかない所にいて もうすぐ空へ旅出てしまう いよいよ赤いノースウエストが滑走路へ向け 複雑なジグザグをのろのろ、淡々と遠ざかり スタート位置で機首を右手に向き直ると 小さな陸上選手みたいに静止した やおら耳をつんざく金属音を轟かせて疾走を始め 滑走路の先でおもちゃみたいに地を離れた 上空を半旋回して点となった機影が青に溶けるまで 私は涙をこらえていたが無論 危篤の祖母がピンピンしているのを知っていた ---------------------------- [自由詩]六本指の女/salco[2013年9月4日23時25分] ある所に六本指の女がいた 小指の横に不様な枝のよう けれど女はピアノを愛した 弾けもせぬ楽器を愛した 美しい爪をして ハープの弦の為にあるような 水晶の爪だった 鳥が飛ぶ ガラスの空の中 ガラスの籠の中 りんどうの花 それは淡いむらさき色 はかなく揺れて りんどうの花 女はそれを追っていた 生まれて以来いつも ずっと 手袋の中に隠されてある 陽を見ぬ指 無残な切断面を隠すように 人目を避け 手は一層白い 生まれて以来役立たぬもの 不様な器官と誰が言ったの? 誰が言うの? 言えるの? 目を閉じて 千年の眠りに入る時 美しい声を愛した 耳に聞こえる美しい声という声 鳥は飛ぶ ガラスの空のガラスの籠の中 やがて呼吸は夢へと向かう 潮騒のいざなう先へ漂って行くと やがて鎮痛の温暖な海が眼下に広がる そこに人影は無く音さえも無い 無邪気な青空と思慮の海原と 僅かな白砂だけが地球を折半している やさしい場所を やわらかな世界を愛した女だった ---------------------------- [自由詩]生活/salco[2013年9月19日23時59分] 「御用邸の月」という 那須のお土産を食べている おととい貰った 「萩の月」そっくりな 数多あるパクリもんだ 案の定カスタードが全然劣る 何で真似さえできないのだろう ウコッケイでも使ってるのかしらね本元は  コスト的にあり得ないな んじゃ法的に引っかかるんだわ そーよそーよ、きっとそう わざと、月並みな味に留める「工夫」? というか「追求の不熱心」 やっぱ「いい加減」って事に帰納するわな 萩にも月にもパテントがあるじゃなし 天皇家の方がパクられ放第で気の毒か それにつけても「博多通りもん」 思うさま食いてえ あれが駅前で買える福岡市民はラッキーだよな  でも太るか やっぱ都民でいいや ただ今宵 兼好もパソコンを閉じる月 御用邸で仰ぐのは更なり、だろう 名月とは言い難いが、冴えてはいる 今年も夏が去って行く バイバイ、かぐや ---------------------------- [自由詩]パターナル/salco[2013年10月2日23時19分] 耳を塞いでよく聞きな 俺の生い立ちはこうだ 頭を巡らせてみると 格子の向こうに四角い光 その中からこっちを見ている一本の木 やっと首の据わった俺が ベビーベッドの中にいたというわけさ 何かを探していたのかな こっち側は沈んだように昏い まあ天井には飽き飽きだった 頬に空っぽの哺乳瓶が触れていた あるいはゴムの乳首が コンドームだったかもな 口蓋に貼り付くあのゴムの味 今でもありありと憶えている おまけにオムツが尻にべったり貼りついて はみ出た糞が前に回って干乾びて 脚の付け根までこびりついていたっけよ 誰も来やしねえ 嬰児ゼロから諦念まみれだったってわけだ 一度として王様であったためしがねえよ どうりで泣かねえガキだった 親父は大道芸人だったらしい 人垣の中で剣なんかを呑んでいたんだ 火吹きや鉄棒曲げもやってたが 何と言っても客受けするのは剣呑みだ ハイライトでありクライマックス 芸名はマックス倉井だったかもな      流れ流れて北の町   さびれた駅は風ばかり   街道はるかズリの赤山   栄えはいずこ人いずこ   流れる雲と去る時と   昔語りはせせらぎ葉ずれ   名残やしろの秋祭禮   小春日和の日曜日   影法師が笑った よそ者の汚辱に飢えた田舎もんを前に 偉丈夫の裸形に鹿革のふんどし その日も親父は興行していたんだが ゆんべ淫売にもらった毛ジラミが温もったか 耳の傍を季節外れなブヨが掠ったのかも知らねえ 剣を抜こうとしたその途端 脳髄に衝撃が走った 手が震えたんだか喉が締まったんだか 食道をぶった切っちまったのさ 地面と垂直の頑丈な首の中 突き抜けた切っ先は気管軟骨に触れていた 真上を向いた親父の目が忙しなく動いたのは 信じられねえ夢から醒める為じゃなく この致命的ヘマを何とかする手段を 青い空の何処かに探そうとしたからに他ならねえ ごぼごぼと溢れ来た血が下顎を塞ぎつつあった 何故なら気管支動脈もぶった切っちまい 飲み下す事も出来ねえし なるたけそおっと鼻で息をしても 空気も肺へ下りては行かねえ 刹那の狼狽が引っ張り出したのは単純至極 状況を元に戻すという、最も稚拙なセオリーだった 元の鞘に収めるってわけだ それで切れた血管が塞がるなんて甘い幻想が 大人の分別に働くわけはない だが体内に異物がある、 特にどえらい傷害の元凶が在るってのは 理性の利かねえ不快千万なんだろうよ これには大人も子供もありゃしねえ 畜生も人間もな 今生の覚悟で剣を引き抜いた その、一生に匹敵する一瞬 親父は空を見ていた ある晴れた日曜の ほんの些細なブレが取り返しのつかねえ失態となり 人生を切り裂いた一瞬の為の 頭を押さえられ冥途へまっさかさまの絶望におかまいなく 突き抜けるように真っ青な空を 剥き出しの胸にうららかな陽を受けながら だが親父は呻き声一つ洩らしやしなかった 声帯もぶった切っちまったもんで・・・! 剣の切っ先が輝きの弧を曳くと 盛大な血飛沫が噴出し 親父の顔や乾いた地面のそこいら中に降り注いだ 赤い噴水みてえに迸らせながら それでも窒息か失血のどっちが先に来るのか ずいぶん待たされたもんだ そうやって利き手に剣をぶら下げて 長らく突っ立っていたそうだぜ 死体になるまでな これが長い芸歴の一世一代 白眉の見世物だったってわけよ 唖然と観ていた田吾作どもは ぶっ倒れた血まみれの顔が瞬きせず 尚も口から溢れる血が仕掛けでないと 十全に見極めてから駆け寄った 取り巻いて見下ろす戦きは既にほくそ笑みだ 家に持ち帰り寄合の度に持ち出す 当座の語り草が手に入ったからな どこの爺さんが何で死んだの どこの倅がどう動いただのじゃねえ よそ者の汚辱ほど美味い肴はねえ 異能者の蹉跌ほどの見世物もな しかもさっき投げた銭 肘でも突き合や取り戻せる 麓の町から自転車で駐在が そのまた隣町からパトカーが追っつけて 男の骸を救急車で運んだが 特大の骨壺の引き取り手は現われずだ 旅から旅の芸人だからな 手繰れる女は使い捨て 所帯なんかに用はねえのさ それに英雄気取りを芸で済ますような奴は とうの昔に勘当されたか 顔も知らねえ親父の親父も同じだったのか 墓もねえから誰も知らねえ もし俺がその時息子だったなら 引き取って剥製にしてやったがな 高々と剣を引き抜いた姿 あっぱれな半死半生の立像だ 彫像じゃねえぜ 剥製だ ---------------------------- [自由詩]寄生体/salco[2013年10月10日23時20分] 見世物なんかにならないよ こっちが性に合ってる  ブランシュは言う 家柄がいいし 学もあるのでね 愛されて育ったのよ 悲しまれて育った これはね でもあたしの脚じゃない 姉さんなんだか妹なんだか どちらか言うと 妹って気がしないでもない 小さいし、動かないのに 別個に生きているのでね お客もさ こっちの方を気に入ったり 具合がいいんだってさ 主はあたしなのに 頭もないのに生意気に 商売はね 見世物なんかになりたくないし 毎日たくさんしたいから 淫乱じゃないよ 守銭奴でもない こっちが欲しがる 一人じゃ足りない双子だからね 何でも半分ずっこなんだ どちらか言うと あたしは考えごとが好き 見たり聞いたり 読んだり書いたり 思い返したり空想したり すると欲しがる あたしも欲しい あたしにも寄こせって 生きているのよ 楽しみたがる 頭もないのに生意気に ※ブランシュ … ブランシュ・デュマ ---------------------------- [俳句]ねこ曜日/salco[2013年10月14日23時07分] 猫 降る讃辞しっぽの先で受け流す 人 寝子胸に朝ランデヴー日曜日 猫 老描の眠り百年時の棲む 人 痩せ三毛のかそけき息に目を凝らす ---------------------------- [自由詩]黒船/salco[2013年10月31日23時13分] 帰宅早々インターフォンが鳴り え? 宅急便? 受話器を取ると 「とりっくおあとりーと!」 子供達の雄叫びが両耳に飛び込んで来た 驚いた かぼちゃランタンがそちこちに並ぶ時節 とうとうアクションが一般家庭に定着し始めたか それでも半信半疑でドアを開けると 五、六人の小学生が隣家の門にとりついている 「ちょっと待ってねー」 言い置いて台所に戻り テーブルのレジ袋は野菜と牛乳 電子レンジの上のスチール籠は コーンフレークの食べ残し たばこのおまけのフリスクと こんにゃくゼリーしかない 「ごめーん、こんなのしかない」 ピーチ味のこんにゃくゼリーを渡して  あ、ストッカーにキャンディーがあった 慌てて戻り 夏に買ったのど飴を 内心ガッカリな子達に配っておしまい 雪辱を誓う でも来年来てくれるかな ---------------------------- [自由詩]セッド シー/salco[2013年11月5日23時13分] 思い描いた未来なんて 無意味なまぼろし 窓のガラスに描いた夢 流れ去って行く雲を数えて 惰眠を貪っている内に ひとり丘に取り残されて 春かと思っていたのに 秋風が立っている 私を育てて来た過去は 消え去った世界 苔むした墓石 思い出を一つずつ取り出して 陽に輝かせている内に ひとり夜の浜に立っていて 足首を洗っていた波が 胸の上まで満ちていた ---------------------------- [自由詩]我鬼窟主人と飢餓靴女/salco[2014年2月4日23時44分] 芥川龍之介とマリリン・モンローは    一、生母の狂気遺伝にぼんやり怯えていた  一、心身疲弊と神経症状に苛まれていた  一、常用眠剤プラスαで眠り死んだ 傑出の質量はあたかも 恒星の急激な収縮のごとく 往々にして悲劇的宿命を負うのだとすれば 天才とはやはり 芥川が執拗にのたまう「良心なき神経」 その感度と精度に違いなかった かくてドラゴンチャイルドは 特異な苦悩の罹患に至る 電柱に等しい同輩に対し  菊池寛、堀辰雄なんか誰が読む?  鈴木三重吉、宇野浩二 誰だそれ? 天才だけが時流の淘汰を残り 意義を示す その創造が おぞましい脳の隔絶によってのみ 生み出されるものであるならば 凡人の有り体こそは幸福の切符だ  実証なき自負に通行証の謙遜 凡人の浅薄と愚鈍こそ幸福の源だ 例えば女「性」イメージの傑物として 最もあまねく認知される女「優」 今世紀も引き続きシンボライズされ 無限再生されるマリリン・モンローは ショーやアインシュタイン 同時代の頭脳傑物と好んで対照され ジョークの常套とされるように 双璧をなす天才だったのだ 一時代の君臨を超える その造作は何故なら天賦ではなく 若干の外科工作とたゆまぬ工夫 あの下顎も色を重ねたリップラインも 流し目つけぼくろも あの時代にジョギングをしエクササイズし ベンチプレスまでしたのも 発声や歩き方同様の頭脳労作 リタ・ヘイワース亜流から抜きん出 ジーン・ハーロウ亜種から脱する為の 努力の賜物だったのだ 厄介者でなければ慰み物として 壊され続けた自己存在への承認と庇護を求め おっぱいの紡錘とありったけの嬌態を武器に 階段を駆け上がったノーマ・ジーンの それは転生と復権を求めた創造であり おっぱいと嬌態をしか認めぬ世界で 孤絶の錯乱に終わった戦いだった  三十六歳二か月 自作の虚像からも落伍して行った 惜しみない微笑の敗北 一方 貰われ寵児で頼られ病者 並はずれた知力が躍る大脳半球の痔主 透徹の自我も自滅に突き進む  三十五年と四か月 何しろ芥川龍之介が笑おうとすれば むごたらしい乱杭歯の展開であった ---------------------------- [自由詩]スプーン/salco[2014年12月4日23時38分]  冬 誰もが道行く姿に目をみはった くすんだ家並の下町 それは何よりも奇異に映えた 女は山の手の私立病院に通う 病人ではない、看護師で 給料とボーナスを貯めて八年 恋人のひとりも作らず 遊びの誘いにも乗らず 年に一度の帰省もせず ある意味病人かも知れない 全額を引き出された行員は何故か 平静の下に的外れな憤怒をひた隠した まるで捨てられた男みたいに そして拾われた女みたいに 店員は思わぬ上客にひれ伏し 裏では即金での支払いを 会計係が三人がかりで鑑定した 売り場責任者の心からの追笑 ゼロの並んだ領収書 こうして女は軽やかな重み ロシアンセーブルを手に入れた 食事もせずに部屋へ帰ると 箱を開いて鏡の前へ  今後のご予定は?  かぼちゃの馬車でパーティーへ? 金持ちの十分間に八年も費やしたのだ 見合う宝石も服も靴も無く こうして女は鏡の前で踊る パートナーもシャンパンも無く ラジオは管弦楽団 リノリウムが大理石になる 愛おしい宝もの まちがいなく自分より大事な同居者 ハンガーで留守番を余儀なくされ 箪笥に南京錠を付けた 部屋のドアには五個 不安の横槍で三個足す なのに片時も頭を離れない 空巣と類焼で仕事に身が入らない 悪液質を来した患者に薬を飲ませ 浮腫んだ手首の脈をとるのに気もそぞろ 早く帰りたいとしか考えていない 休みの日には商店街や公園 舗道や駅頭で姿が見られた 『まぁ高そうなコート着ちゃって』 『うわ、時代錯誤』 雨でも雪でもしまい込んだりしない うす汚れた大気 うすら寒い雑踏 うら寂しい街角でも 素敵な誰かに会いに行くよう 楽しい用事を片しに行くよう 知らぬ者には場違いの富裕に過ぎず 知人は驚き、いぶかしんで噂する 女達は羨望と妬みを撚り合わせ 男達は商売替えをしたと見た 見合う観念が自ずと策定される 社会という構造体 女は意に介さない 人目も口も鏡やガラス 多ければそれだけよく映る 顎に襟足に触れる毛足と同じ くすぐったくて気持ちがいい こんな毛皮を着る自分 それを確認する瞬間が嬉しいのだ 称賛者は一人でいい 最も熱烈で忠実なのはどうせ一人だ こうして冬じゅう 春先まで女は幸せだった  夏 誰もが道行く姿に振り向く アスファルトも溶け出す日射の下 それは何よりも奇異に映る 女は涼しい顔で闊歩する 歳末セールにかけられた北半球中の毛皮が 三月に倉庫へ投げ込まれていようと 見た目だけでも爽やかであろうと髪を束ね 女達が寒色の薄物をひらめかせていようと 待てない 辛気くさいセーターを出す時期までなんて 半年も箪笥に閉じ込めて置くなんて! 華やいだ気分を禁じられるなんて 人生は短く 誰しも長く幸福でいたいもの 黒褐色の毛並は少しく乱れ 毛足もいくぶん乾いたようだ 目をむく人、指さす人 冷めた横目ですれ違う人 くすくす笑って囁き合う人 今やちょっとした有名人 話に聞いてわざわざ見に来た者 後をつけ回して囃す子供 それでも 町の誰より豪奢なものを着けている事実 満ち足りた気分で歩く現実は変わらない ただ時が移って気温が上がっただけ 同じようなセーブルや もっと高価な外衣を並べる所有者達が 避暑地で日焼けし 沖合の紺碧に白波を曳いている間 女のは次第に汚れて傷んで行った 何故なら寝る時も着たまま 充足は肌身を離れる時がない 夢の中でも燃え続け 女の心は決して凍えることがない 片時も離れたくなく入浴をやめ 同じ理由で退職したのはもっと前 残暑が引いて家賃が滞り出し 秋も深まって食糧が底をついた 真っ暗な部屋で忠実に守られ 水道も止められて 女は飢渇もおぼえず満ち足りていた 野良猫みたいに骨の浮き出た体を横たえ くぼんだ目を陶然と開いて 何かを語り聞かせるかのように 冷たい指でゆっくり毛足を撫でていた 管理人が業者を引き連れ 八個の鍵ごとドアを破った時は アッパーカットにのけぞったものだ 息を止めて突っ切ろうと己を鼓舞し 窓に手を掛ける前に駆け戻った 何とか通路へ間に合い背を折ると その後は記憶の戻しに悩まされた由 テーブルにはキャンベルの空き缶 ひっそりとステンレスのスプーン ベッドには毛皮 ---------------------------- (ファイルの終わり)