灰泥軽茶の恋月 ぴのさんおすすめリスト 2010年12月13日20時09分から2012年5月9日8時49分まで ---------------------------- [自由詩]砂上のひと/恋月 ぴの[2010年12月13日20時09分] ゾウさんの鼻先あたり あるべきものが無いというか 腰の高さでぐるっとフェンスに囲われていた ご丁寧にも幼い好奇心を遮るシートまでかぶせてある わざわざペットを囲いのなかへ入れて おしっことかさせる飼い主いるらしいしねえ 誰もいなくなった夕暮れの公園 砂場には誰かの置き忘れたスコップとバケツが寂しげで そんな光景って記憶のなかに残るだけとなってしまったのかな 幼い頃、私が砂場で作ったもの それはお城だったり 秘密の王国へ通じるトンネルだったり できたと思ったらイジメっ子な男の子に壊されてしまうのだけど いつものように泣きベソかいてると どっからかカレーの美味しそうな匂い漂ってくる だるまさんがころんだ おなかがぐうっとなっちゃって おんなの子だって袖口で鼻水なんか拭っていたけど いまどきの夜空は街路樹に飾られたLEDの眩しさに遮られ いつから息苦しくなったのかな もっとおおらかさあったような気がする 砂の上には楼閣さえ造り得なくなって それでも訳知り顔じゃすまされないのは判ってはいても 私のせいじゃないけどさ 吹き抜けた木枯らしに首をすくめて帰りを急ぐ ---------------------------- [自由詩]ヤドリギのひと/恋月 ぴの[2011年8月8日18時34分] 何かの工場でも移転したのか 住宅街の真ん中にあられた大きな空き地 その空き地を取り囲むようにはためく斎場反対の白抜き文字 いつまで運動は繰りひろげられていくのだろう はちまちをした町会の面々 遅かれ早かれ斎場が必要となる歳になっているはずで よそ者だから許せないってこともある ※ Tomodachiであったとしても 用が済めば早々にお引き取り願いたい 感謝をこめた挨拶はやっかい払いってこともある 家族ができて 生活環境が変わってくれば 次第次第と都合の悪いこと煩わしさはひとしおで もっともお金が総てってこともありそうな ※ ときには実の母でさえ鬱陶しくて どらえもんのポケット ひとの本音かも知れない ※ わたしの思いを知ってか知らずか いっこうに責任を取ろうとしないあなた どこまでが本当なのか どこからが嘘なのか 悔しさに達するでもなく萎えたペニスをきつく掴む ※ その空き地の近くには親水公園がある 釣りもできるようになっていて 近くのお年寄りだろうか日がな釣糸を垂れている 白鳥の脚に仕掛けが絡まないだろうかとか そんな心配など飲み込むかのように黒い雲湧き立ち パラパラと大粒の雨降りだした ---------------------------- [自由詩]甘噛みのひと/恋月 ぴの[2011年8月15日18時10分] その橋の欄干から身を乗り出せば 清らかな流れの中ほどに石ころだらけの中洲 別段、川の流れに抗う姿勢をみせるでもなく 上流に夕立でもあればあっさりと荒くなった流れに呑まれ ちょうど今ごろの季節なら週末ともなると バーベキューの歓声が辺りを支配し 総ては川の流れが清めてくれるものと決め付けている ※ 生きるとはなんだろう あえてそんな問いに悩まずとも ひとは生きる 生きてしまえるもの 川の流れをよく見やれば ウミウの襲来などものともせずにひらを打つハヤの群れ ひとかたまりと川面に揺れる ※ むやみやたらと子が欲しくなる 生を繋ごうとする本能の恐ろしさよ 抜いてはならぬとばかり、おとこの腰に絡めた己の執念深さ それほどまでして産んだ我が子の行く末など 恐ろしくもあり そして哀しくもあり ※ アキアカネの飛翔でも見かけられるなら 多少なりとも救われるものを 日差しの酷薄さは密やかな願いさえも無に帰してしまうようで 誰が打ち捨てたのか、ひしゃげた日傘は熱風に舞う ---------------------------- [自由詩]祝祭のひと/恋月 ぴの[2011年8月22日19時08分] あっ    風の軋む音がします ※ 母となれなかった女の子供が母となる 子を宿せば母になれる そんな容易いものではなくて 幼子の抱く古びた操り人形のように いつのまに欠けてしまった夫婦茶碗に唇を添え 口ずさむ子守唄は儚くも哀しい 金魚すくい セルロイドの風車 きつねのお面はコンと鳴き わたしの頬にひっついた女のあたたかくも艶やかな唇 ※ 父親は誰なのか あのひとだよと教えられてきたはずなのに 夕焼けこやけで橋の下 長くのびた影法師にまぎれ どこか遠くへ行ってしまいたかった このまま、わたしが消えていなくなったとしても 誰も悲しんでくれなくて 女の唇は紅よりも紅く濡れそぼり ※ 金だらいのなかで泳ぐ金魚 鼻筋に塗った水白粉 豆絞りで飾った髪にかんざし一輪 わけもなく嬉しくて山車の後ろを付きまとい 切れた鼻緒にべそかけば お嬢ちゃんの家まで送ってあげるからと 見知らぬおじさんがわたしの肩を優しく抱いて 鎮守の森の暗がりは 幼い心を弄ぶ ※ あっ    風の軋む音がします ---------------------------- [自由詩]旅路のひと/恋月 ぴの[2011年10月10日18時54分] 旅ってなんだろう 帰るところあっての旅なんだろうけど 住んだこと無いはずなのに 慣れ親しんだ気がしてならない場所へと帰ってゆく そんな旅路もあるような気がする ※ 無人駅のホームでひとり 秋の日差しは山間を掠めるように影を伸ばし 手持ち無沙汰のベンチでアキアカネは羽を休める 手にはカバンひとつ 思い出とか詰まっていることもなくて 仮に誰かの詩集の一冊でも入っているのなら 言い訳のひとつでも語れるのかも知れないけど 次の列車はこの駅に止まるのかな 耳を澄ませば澄ますほどに辺りは静けさに支配され 駅のはずれで交差する鉄路は鈍い光を放ちながらも夕闇と沈む ※ 果たしてこの場所だったのだろうか ここでは無かった気もするけど いつかの日に訪れたはずの記憶を頼りに探し出す わたしがわたしであった証 生きてきた痕跡 たとえ泥に塗れていたとしても わたしがわたしであったとするなら、それを否定することは叶わずに 幸せとは時を刻んだ日々のひとつかみ ほろ苦く噛み締める刹那にも訪れることを知る ---------------------------- [自由詩]寡黙のひと/恋月 ぴの[2011年11月7日16時07分] 思い出の数には限りがあって 両の手のひらからこぼれた思い出は ひとひらの色あい 鮮やかに晩秋の野山を彩っては やがて力尽き 道端の ふきだまり 静かな眠りに何を夢見る ※ ひと恋しい 何ゆえにと問われても 触れ合う肌の安らぎと組し抱かれて 額に滴る汗は狂おしく 愛する男に犯さる悦びに酔いしれたひと夜が 忘れられないのか 満たされたくて 滲みでる欲情の兆し メス豚と尻を叩かれた肌の震えはよみがえり 歯がゆさにひと恋しさと 鏡へ映す この肌のほてりは鎮められずに ※ 忘れえぬもの それゆえにこころの奥襞で疼き 愛は 肉欲は 気づけば漆黒に沈むやせ細った潅木の枝先に 百舌が串差した早贄の長い 長い触角は冷たい北の風に震える ---------------------------- [自由詩]オッペのひと/恋月 ぴの[2011年11月21日15時56分] 息を切らしながら山道を登っていくと 薄暗い脇道から片目のポインターが飛び出してきて びっこの前脚で器用に跳ねた どうしたらよいのだろう 何かの病で左目を失くしたのか眼窩は 底知れぬ闇夜の存在を表しているようでもあり たとえ走って逃げたとしても追いつかれる 立ちすくむ私のまえに現れた芸術家らしいみなりの女性 私に向かって笑顔で軽く会釈をすると しっぽを振るポインターをいなしながら山道を下っていった ※ オッペとの関わりはそれが総てだった 相変わらず地図には美術館と記されてはいるけど 大道あやが開設したという美術館はとうに廃していて 今は、その建物を継いだかたちでゲストハウスおっぺ村となり アーティスティックなイベントが催されているとのこと それらを予め知っていた訳ではない 桂木観音あたりでも散策しようと 毛呂山駅で下車 パンフレットのイラストに従ってのそぞろ歩き ウオーキングコースとして整備されている山道は歩きやすいけど 簡素なゲートで閉ざされた脇道には落ち葉の深い堆積 薄暗さへ少し分け入るだけで静かにひとり 歩きにくさで弾んだ息を整えようと切り株に腰掛ければ 日差しはひんやりと沈んだ雲の重なりに遮られ このまま優しげな落ち葉のベッドに身を横たえるなら はるか彼方訪れるであろう春の目覚めまで 安らかに寝入ることができるのでは たとえ二度と目覚めの訪れぬ眠りであったとしても そんな浅はかな夢想を諭そうとしたのか 手の届きそうな低さのところで山鳥の鋭い鳴き声一閃 厳しい冬はすぐそこまで訪れていることを知る ※ 仮に拙いながらも詩を書いていると住人たちへ告げたとしたら ゲストハウスのなかへと招き入れてくれるだろうか ステージらしきところに呼ばれて簡単な自己紹介 そして促されるまま携帯サイトから引き出した拙い自詩を読みだす 場違いな山ガール風情な震え声の朗読に暫し耳を傾け よそ者の乱入に戸惑う場を取りなそうと 長い髪を後ろで結わえた年長の男性が短い感想など述べくれ 私は紅潮した面持ちで手招かれるまま古い椅子に座る 長年馴染んできたかのような手作りの椅子 果たして私は彼らに許されたのか また遊びに来てくださいね 笑顔はあの落ち葉のベッドのように優しげであったとしても ※ 桂木観音への急坂 ゆずの里らしく道の両脇にはゆずの黄色い実が鈴なりと生っていた 無骨すぎるほど頑ななゆずの素顔 それでも厚い皮の下には柑橘系らしいすっぱさが潜んでいて 雲の切れ間からのぞいてくれた初冬の日差し 「あと少しで」 息を切らした急坂の果てに訪れるもの それはひとときの安らぎであり 目をそむけ続けた果ての惨い現実であったりもする ---------------------------- [自由詩]気付かされたひと/恋月 ぴの[2011年12月12日16時55分] わたしだって一生懸命走っているのに なんか自分だけ後ろへひっぱられてる感覚に囚われてしまって 一緒に走ろうねって誓った友達の背中が だんだんと小さく小さくなってゆく ※ はじめはダイエット目的だった いつまで続くかなと思いつつも買い揃えたランニングシューズ あえてピンク色にしたのは初心者のつつましさ 近所の公園とかで走るまねしてると けっこう様になってる気がした 会社の友達に誘われたランニングのイベントで イケメンすぎるコーチに筋が良いなんて褒められたりすれば まさに豚もおだてりゃ木に登るなんて 絵に描いたようなお気楽さは 色違いのランスカとか お給料の半分近くも買いまくってた ※ 夢であって欲しいけど これが現実ってことなんだよね ガンバ! 振り向けばコーチが笑顔で励ましてくれたけど 作り笑顔を返すのが精一杯の体たらく 心拍数どのくらいなんだろう ふだんなら見もしない心拍計をみやれば信じられない数値だったりして あがらなくなった腿は痛くなるし まっすぐ走るのさえ苦痛になってきたよ 走るのやめちゃおうかな でもなんか、ここで止めるのはもったいない気もするけど あと少し! ってどのくらいなの? 自分で自分に問いかけてみたりしてると あれれ、もう少し走れそうな 弱音吐く気持ちを励ましてくれるかのように 疲れきってた手足が勝手に動き出す ---------------------------- [自由詩]春を待つひと/恋月 ぴの[2011年12月19日19時09分] 誰もが幸せであることを望み それに見合うだけの不幸せを我が身に背負う 故に生きることは辛く 苦しい ※ ふと目覚めれば凜として未明の寒さ厳しく 曖昧では済まされないこと知りつつも 北風に弧を描く白い首 羽を繕う渡り鳥へ思いを託す ※ 明日は訪れる 等しく誰のもとへも 不確かな手触りのままで それでも伝わってくるのは 生きる限り日々歩まざるを得ないこと いつまでも岸辺に佇むことは許され得ないこと 吐く息は白い 物憂げな溜息か 生きる故の喘ぎなのか 渡り鳥は鳴いた 曇天の 岸辺に張った薄氷の ※ 春になれば その思いで一心と 頭上に振りかざした鍬を振るう まるい背中は力強くも 「今しばらくは生きながらえていたい」 敢えてそんな言葉を口ずさむ ---------------------------- [自由詩]It's a beautiful day(変わらないひと)/恋月 ぴの[2012年1月2日16時45分] 気合入れて目覚めても 去年となんら変わることの無い朝だった それでも いつもの年とは変えよう 変えてみよう 初春は一途な決意が大切なんだと自らを奮い立たせ 買いだめしておいた菓子パンとか齧りつつ ひとりぼっちな元日の朝を迎えた ※ それでも考え方を変えてみた 変わらないからいいんじゃない とか だって、朝目覚めて誰か横に寝てたら困ってしまう たいがいがお金にだらしない男で ずうずうしくも寝正月を決め込まれ ふとんのなかから手を伸ばすと わたしの弱いところへしきりと舌を這わせてきた ぬくいふとんのなかが あり地獄と一緒だったなんて気付いてしまうは切なく哀しい ※ クリスマスから年末にかけて やたらと幸せそうな家族をみかけたよ おんなの子はやっぱ可愛いね さらさら揺れるきれいな髪は愛情のしるし 幼さと甘え上手は おんなの生き抜く手立てと心得たのか おしゃまな身振りで パパの大きな手のひらを弄ぶ ※ 初夢はいつか見た正夢の続きだった ほんわかとかじゃなくて なにげに怖い系な夢だったけど 恋愛がらみの夢じゃなかったのは不幸中の幸い 勘違いな目覚ましの音に目覚めると いつもの部屋で いつものふとんのなか パジャマの下を脱がされていたなんてありえなくて ちょっと残念 ちょっとほっとしながらも 寝相悪さに乱れたふとんを整えれば 去年までと何ら変わらぬ、大根芝居の幕が開く ---------------------------- [自由詩]Bird strike(車窓のひと)/恋月 ぴの[2012年1月9日17時27分] 一羽の鳩が飛んでいた わたしの乗る列車を追いかけるように 無機質な四角い窓枠のなか 黒いコートの肩越しに 羽ばたき続ける 白い鳩の 翼 ※ 線路を渡る架線を巧みに避けて 鳩は飛んでいた 誰かに伝えたかったことでもあったのか 希望の 明日への思いは 低く差し込む陽射しを翼に浴びて 一羽の鳩が飛んでいた ※ あなたが存在するとして あなたを信じるとして 現実と向かい合うことなく 体を逸らすことになるのだとしても ひとは何を祈る 幸せ 明日の幸せ やせ細った腕を伸ばし たわわに実った果実を安易に掴み取ろうとする ※ やがて鳩は見えなくなった 伝えたかった思いは伝わったのか 冬ばれの空 何ごとも隠しようの無いほどに晴れ上がった 空 あおい空 四角い窓枠に切り取られた あなたの意思 ---------------------------- [自由詩]優しいひと/恋月 ぴの[2012年1月30日19時09分] 今ごろ何しているのかな きっと趣味のデジイチを首から提げて お気に入りの被写体を求め 谷根千あたりを自転車で走り回っているのかも そんな感じに好きなひとを想ってみる なんか幸せなひととき 想いは決してわたしを裏切ったりしないし ただいま あなたの笑顔が待ち遠しい 今ごろ何を考えているのかな きっとわたしのことだよね 通りすがりの店先でみかけたピンク色のセーター わたしに似合うかどうか思案顔 そんな感じに好きなひとの心うちを推し量ってみる やっぱ幸せなひととき でもちょっと不安になってみたりする 今日は考えてくれてるとしても 明日もわたしのこと考えてくれるのかな ひとって想うほどに他人のことに関心ないって言うし それと釣った魚に…なんて言葉も思い出した わたしの発した「わたし達」ってことばに あなたは頷いてくれるけど 本音はどうしたって見えてこない 信じるから 信じてもらえるのだとしても 愛しているよって、ことばの重さは量りがたいし ついつい余計な詮索してしまう 自信持てないんだよね わたしのこころに あなたのこころに わけもなく焦るばかりで すがる思いで差し出した手のひらに ひとしずくの光るもの もしかして天使の涙だったりして お〜いって声に振り返れば きこきこと自転車こいでるあなたの笑顔 ---------------------------- [自由詩]悩むひと(仮題?)/恋月 ぴの[2012年2月6日18時56分] 左手はご不浄らしいけど わたしって左利き どうしよう(笑 歯を磨くのも お箸を持つのも 字を書くのも左なんですけど 小学校のお習字の時間 せんせいから右手で書くよう指導されても いつのまにか左手で掻いてたよ 否、書いてたよ ※ 幸せを知らなければ 不幸も知らない 満腹を知らなければ 空腹も知らない かな? 誰かがうんと幸せだから 誰かがうんと食べてしまうから 不幸なひとがいて おなか空いてるひとがいる のかな? ※ とんでもない忘れ物をして とんでもない時間をかけて取りに戻った 仮定として 1.忘れたことに気付かないふりをする 2.そもそも忘れものなんかしてない 3.忘れたのではなく誰かに盗まれた などなど考えてはみたものの 結局は電車を何度も乗り継いで取りに戻った 後悔先に立たずと思いながら この際だから、キセルでもしちゃおうかと子供みたいなこと考えながら ※ それは 有史以前から置き忘れた場所に安置されていたかのごとく寛いでいて 取りに戻ってくるのは当然とばかりに手招きした 網棚にお骨を置き忘れる あれはたぶん意図的なものだと思う めんどっちいから 納めるべきお墓なんか無いから その程度?の安易な理由なんだろうけど 赤子をコンビニのトイレに産み捨てるがごとく わたしは、とんでもない物をとんでもない場所に置き忘れてしまって あれ、猫まっしぐら? ※ 缶コーヒーのCM見るたびに涙流してしまう(汗 ありがちなストーリーなんだけど ついついと 涙なんかほろほろ流している わたし自身のおばかさ加減に情けなくなったりして わたしも防波堤の端まで突っ走って 一生懸命大漁旗とか振って そうだ!日の丸も振らないと 君が代とか流れたら席から立たないと やっぱ大阪なんかに住みたかないやと思ってみたりして あれ、猫まっしぐら? ---------------------------- [自由詩]奈落のひと/恋月 ぴの[2012年2月20日18時55分] 顔見知りの男が死んだ いつも何かにイラついていて 斜に構える自らの姿に酔いしれていた そんな一人の男が死んだ ※ よくある話しだけど おんなが二人いた 別れた奥さんと 男の最期を看取った内縁のひと 別れた奥さんの脇には小学校低学年の兄弟 幼い長男が喪主だった ※ 埋めようとしても埋められなかった 甘ったれのごうつくばりで 欲しいものを手に入れずにはいられなかった 優しい言葉と執拗な暴力で おんなの一人や二人は意のままに動かせたとしても 自らの人生まで意のままとすることは叶わず 果てに投げ出した負け犬の命 遺書らしき手紙に記された男の想い ※ むりやり引き伸ばした遺影 ゆがんだ口元は許してやるよと微笑んでいるのか 死人にくちなし 内縁のひとは日陰者を演じきろうと 受付の片隅で息を潜め 男との同居で失ったものを少しでも取り返す魂胆なのか 自殺者の葬儀などに訪れるはずも無い会葬者を待つ ---------------------------- [自由詩]顔なしのひと/恋月 ぴの[2012年2月27日19時06分] ひとりで生きられる 生きられない それとも、ひとりで生きざるを得ない わたしってどれなんだろうね ※ 無責任ってわけじゃないけど ちょうど 満員電車のなかで誰かに寄りかかってしまうような 仕方ないじゃんと思っているところがあって 大人らしさを自覚しなくちゃなんて 朝起きる度に思うのだけど 何かしら困りごとが起こる度 誰彼となく手助けを求めていたりする それでも喉元過ぎれば知らん顔 我ながら身勝手すぎるとは思うのだけど ※ 頭の禿げあがった男のひと 意外に家事とか苦にしないようで 塵ひとつ落ちてない片付けられた部屋は女っけなし ひとり寝の夜は寂しくないのかな というか そんな思いは不必要なぐらい男を感じさせる匂いしなくて お気に入りの楽曲とかを解説するのに熱心で ブラウスからのぞく下着の色には無関心だったりする ※ やっぱ身勝手なんだよね ひとりじゃ生きられないとしても 誰にも心を開いたりはしないし なんか話し相手欲しいなと思ったときには そばには誰もいなかったりする 寂しがりやでもあるんだよね 寄りかかりあいながら生きるのが「ひと」ってことらしいけど わたしの寄りかかるひとにはなぜかしら顔がなくて 自販機みたいに同じ言葉を繰り返すだけ でも それが心地よいなと思うわたしも確かにいたりして わたし自身の顔だっていらないんだけど あんたも消えちゃえば 鏡に映る顔に向かってつぶやいた ---------------------------- [自由詩]Crosswind/Crossroad(契りのひと)/恋月 ぴの[2012年3月5日19時02分] 風の吹き抜ける交差点で あなたは待つ 約束は必ず果たされると信じて ひたすら待つ 待ち続ける そして見上げれば雲 春の雲 おぼろげで奥ゆかしくありながら したたかさをも予感させて ※ 生きるもの いずれは死に至るように ≪約束は果たされる≫ だとするならば 地の果てに投げ捨てた一枚の銀貨 あれは ふたりで過ごした日々の記憶 軋む鎖骨の痛みに逆らい伸ばした上腕に感じたあなたのぬくもり ※ あなたは見やる 時の鼓動 果たされる約束の放つほのかな輝き そして、あなたは気付く 或いは とうに気付いていた 愛憎で築き上げた螺旋形のいただきでは 阿鼻 叫喚にも似た 暗闇と 黒羊たちの悲嘆にくれた眼差し ※ ひとは孤独 それ故に立ち止まり 佇み 果たされる約束のみぎわで 委ねる 自らのいのち そして吹き抜ける一陣の春風に乗り かつて愛したひとの面影をたどる ---------------------------- [自由詩]積むひと/恋月 ぴの[2012年3月12日19時04分] あなたは積み上げる 与えられた積木を丹念に積み上げる それが人生 ※ 親指と人差し指で作った輪の大きさぐらいな積木 いつも何かに苛立っていて 終りの無い議論を隣の積木に吹っかけてみたり 時には手を出して大騒ぎになる それはあなた わたしにだけ優しいつもりなのか 夜空に届けとばかりに息を切らせては お腹の奥に愛の記憶を象った ※ やがてわたしは身ごもる 満月みたくに膨らんだ臨月間近なお腹 片時も忘れて欲しくないのか それとも自らの存在を誇示したいのかお腹のなかで暴れてる あなたと わたしの ふたりの子供 ※ せっかく積み上げた積木を崩される それも人生 生きている限り諦めることなど許されないから どんなに愚痴をこぼそうとも 再びと積み上げる 積み上げた積木の頂点には古びた三角錐を乗せて ぐらっと傾いた その刹那 あわてて押さえた積木の揺れは 生きてる証であるのだから 何かを握って離さない幼い掌の力強さに気づかされる ---------------------------- [自由詩]望むひと/恋月 ぴの[2012年3月19日19時21分] 1 必要と頷いても 近くにあっては困るらしい それは遠くにあって 必要なときにだけお世話になる ありがとうございました 添えたお礼と深く折り曲げた腰を上げてしまえば あとは総てを水に流す 2 肌触りのよい言葉 拒む仕草を組し抱かれ 耳元で囁かれた いずれは許すつもりでいたとしても 今すぐでないことは確かだった 愛の確証と引き換えに身体を開く 例えしたたかと揶揄されたとしても そのほかにどんな術があるって言うのだろう 無様なほどに引き裂かれた脚を閉じ 敢えて問いかけてみる 背中越しに返ってきた返事で埋めようとして 埋められない そっけない吐息の氷の冷たさと   3 裏切られた記憶を引き摺りながらも 託してみる 依存心が強いだけ そうなのかも知れない それでも 春の兆しは優しげな日差しに揺れ 曖昧な微笑みの意味を紡ぐ そして胸のうちにと折り畳み 移り行く季節の刹那に乱れた髪を整える 4 明日はお彼岸の中日 いつもの年なら紅梅白梅と可憐な春の賑わい そぞろ歩きでさえ惜しく思え ことさらにゆっくりと境内を歩んだのに 足早とは至らぬまでも 日陰の冷たさに首をすくめ 春の訪れを口ずさむ枝先越えの陽気に心なしか綻び 水に流そうと無言で問いかけてくる背中に答え そっと腕をからませた ---------------------------- [自由詩]Fish & Chips(時代少年)/恋月 ぴの[2012年3月26日19時09分] こと切れる最期の瞬間まで 彼はひとりの少年だった とっつきにくさは彼の持ち味だったし 時代を憂いても 希望を捨て去ることはなかった ※ そんな彼との接点 あったのかな と思うぐらいに希薄なのは確かなことで 例えばテロリストの肖像画を自室の壁に飾ったのは あくまでもインテリアのひとつだったし それをネタに友人たちを自室に招いたりはしなかった そんなんだから 彼が何者なのか 彼が何を語っているのかなんて自分には興味なかった ※ あれは熱病だったのか それともある種の方便だったのか 右手に鉾 そして左手には盾 語れる者だけが偉いとみせかけ オリベッティの赤いタイプライターで打ち出したのは 永遠と見紛うryryryの羅列と 打ち損ねたままで放置された彼の名前 ※ 「そんなバナナ」 彼の悲報を知って女はそう叫んだとか 叫ばなかったとか そして玉座に座ろうとするもの後を絶たず ポピュリズムに必要不可欠なのは 判りやすい正義と 叩きやすい敵の存在で ああ、掲げた旗のした バナナ色したスカーフを首に巻く ---------------------------- [自由詩]幕間のひと/恋月 ぴの[2012年4月2日18時54分] 期待してしまうから 疑うのか それとも明日の訪れを信じられなくて 疑ってしまうのか その何れでもあるんだろうけど ※ 今年の冬はことのほか寒かったはずなのに 疑い知らずな桜の蕾はぽっくりしてた いいかげん出番だぞ だれかが背中を押したから けつまづきながらも春は訪れてくれて ※ わたしだったらどうしよう 引きこもったままは 心地よいから もうちょっとと目覚まし時計を遅らせて お勝手で大忙しなお母さんを困らせてみたい ※ 運命とかで片付けてみるのもよし あるがままはあるがまま 拗ねた思いまでもお見通しなんだからと 舞台裏の片すみで 手のひらに書いた「人」って言う字を飲み込んだ ---------------------------- [自由詩]陽春のひと/恋月 ぴの[2012年4月9日19時11分] おさんぽカーには幼い顔が幾つも並び 桜の木の下をゆっくりと進む 時おり吹き抜ける風の冷たさに ぐずる子がいて あやす保母さんの肩には桜の花びら舞う ※ 手を繋ぎあう子供たち ちいさな手のひらで伝え合うのは ぼく、ここにいるよって証し 君と一緒だよって証し それなのに泣いている子には無関心なのも可笑しくて ※ これから児童公園でお花見なのかな わたしの初恋はお隣に住んでた男の子にだったらしいけど 今となってはさっぱり覚えていないし おひとり様のお花見は 遠くから思い思いに寛ぐ家族の笑顔を眺めるだけ ※ 子どもたちは神田川を渡る橋に差し掛かり 保母さんの指差す先には 桜色に染まった日差しを横切る燕の羽ばたき そして、わたしは前カゴに入れたままの届け物に気付き 悪戯な風に舞うフレアスカートの裾を押さえた ---------------------------- [自由詩]口ずさむひと/恋月 ぴの[2012年4月16日19時01分] 四月病ってあるらしい さりとて年度替りの初々しい賑わいとは とうに縁遠くなっているのだから 花散らしの雨もあがり葉桜と化した桜並木を これでよいのだと独りごちながら歩む ※ しっくりしなかったのに いつの間にやら馴染んでいる 私たちの時代とは異なって 厚塗りのお化け顔とか見かけないけど こころの内はまっさらなままでいて欲しいと願う ※ お花見はと見上げてしまいがちだけど 足元にも春は訪れてくれていて 名も知らぬ可憐な花々が陽だまりを春色に飾り その他大勢じゃ、失礼だよね 春になる度に野草の名前ぐらい覚えなくちゃと思いつつ ※ 四月病ってあるらしい さりとて他の誰かになれるものでも無く 仕舞い損ねたコートの重さに驚き 見かけ倒しな振る舞いなど私には似合わないのだからと 通いなれた道すがら、懐かしい恋の歌など口ずさむ ---------------------------- [自由詩]うつろぎのひと/恋月 ぴの[2012年4月23日19時00分] 君にとっての世界 それはこの部屋のなかがすべて 出かけてくるよ 君は寂しげに小首をかしげ ドアをあける気配に まだかなまだかなと待ちきれない様子で玄関を覗き込む ※ 外の世界も見せてあげたいと思う 君はどう考えているのかな キャットタワーのてっぺんからでもお見通しさ そう言いだけに窓の外を眺め ふと背伸びをしたと思ったらテーブルの下にもぐりこむ ※ 醜いものにも美しさみぃつけた そして君は、ゆったりと丸くなって夢のなか 笑顔でいること 平穏に暮らせること とっても大切なはずなのに誰もが捨て去ろうとしているよね ※ お腹へったのかな にゃあと鳴いて私を見上げる 前世じゃ君はきっと船乗りだったんだと思う そしてかりかり可愛い音を立て あてどない船出前のひと仕事お皿いっぱい平らげた ---------------------------- [自由詩]葉陰のひと/恋月 ぴの[2012年5月7日19時01分] もうちょっとを掬い集めても もうちょっとはもうちょっとのまま それでも息なんかふぅっと吹き付けたら 袖口でゴシゴシ磨いてみたけど やっぱし、もうちょっとはもうちょっとのままだった ※ あの頃のわたしってね 吃音混じりな恥かしがり屋さんで いつも好きなひとの顔色を伺うばかりで 告白できないもどかしさに俯いて歩いていたのに ちいさな石ころにけ躓いては笑われた ※ もうちょっとはもうちょっとのまま それはそれで良いのだと思うけど 思いのたけを伝えられたら、さぞすっきりするんだろうね 果して、どっちが自分らしいのだろう なんて言い訳に思えてしまうけど ※ 今だってたいして変わらないのかも もうちょっとにしがみついていたりして あの頃のわたしと一緒だね いつまでも告白できず俯いて歩いているなんてと 丸まった自分の背中を押してみた ---------------------------- [自由詩]もうちょっとなひと(みんなありがとう!)/恋月 ぴの[2012年5月9日8時49分] もうちょっとを掬い集めても もうちょっとはもうちょっとのまま それでも息なんかふぅっと吹き付けたら 袖口でゴシゴシ磨いてみた やっぱし、もうちょっとはもうちょっとのままだった ※ 夏の日差しにかざしてみた ダイヤモンドの原石にも思えるけど においをかいでみた 仔犬のような優しいにおい ※ もうちょっとで 幸せになれる もうちょっとで 夢はかなう ※ もうちょっとを繕ってみても もうちょっとはもうちょっとのまま それでも息なんかふぅっと吹付けてみたら みんなありがとう! おやまあ、そんな挨拶きこえてきたよ ---------------------------- (ファイルの終わり)