梅昆布茶のおすすめリスト 2020年11月1日7時02分から2020年11月17日7時30分まで ---------------------------- [川柳]ハロウィーン川柳/足立らどみ[2020年11月1日7時02分] 白衣着てバイクに乗って一句よみ ---------------------------- [自由詩]詩人にはなれないから/こたきひろし[2020年11月1日8時49分] 往路で道に迷いだしているんですね それは誰にでもある事です でも 通り過ぎた道は戻れない 有効な未来への地図はどこにも見当たらない ですよね 幸福の鐘はいつだって遥か彼方で鳴っているだけ 耳障りなだけでしょうよ  こっちへおいで手の鳴る方へ をされてるようで 往路で道に迷いだしているんですね 目的の場所はどの辺りですか それを探り当てる 磁石持ってませんね この世界に太陽があるから 日向と陰が生まれるんでしょう 太陽だって傾いて来ますよ 地平線 山の向こう 水平線の彼方へと沈んでいくんですよ 周りは黄昏て暗くなっていって 心細くなっていくんでしょう そしたら誰だって帰りたくなるんじゃないのかな 明かりの灯る家に それとも 自ら明かりを灯す家に 出迎えてくれる人がいたり 誰もいなかったり 孤独から解放されたり そのまま延長したり 人それぞれ帰る家に 帰りたいでしょう 往路で道に迷いだしているんですね 終点迄は 後 どのくらいでしょうか ---------------------------- [自由詩]トラムの話/春日線香[2020年11月1日8時53分] トラムは悪い病気を持っている。唇に薄紅色の肉の塊が垂れ下がり、ちょっと見には馬鹿みたいな花を口にくわえているようだ。だから大首女や酒飲みのガンに笑われるし、うだつが上がらなくていつまでも一人前に見られない。今日も街外れの遺跡で砂を掘っている。空に月が昇るまで毎日そうしている。 トラムが歌うと人々は嫌がる。口の肉がぶるぶると震えて、深い地の底で鳥が殺されているような音がする。おまえが歌うとどこかから不幸が運ばれてくるようだと皆はトラムに言い、また彼自身もなかばそれを信じているので人に聴かせようとはせず、一人のときに口ずさむ。トゥララ、トゥルララ。おもちゃみたいなスコップで砂を掘る。 ある日、トラムが砂掘りに精を出していると、小さな石の扉が砂の下から現れた。ずいぶんと古びた扉だ。苦労してこじ開けると階段が下へ下へと伸びて、冷たい空気がすうすう流れている。どこへ続いているのだろう。トラムはおそるおそる地下に降りていった。トゥララ、トゥルララ。歌は壁に反響していつもよりもっと奇妙に響いた。 それきりトラムは消えてしまった。彼がいないことに最初に気づいたのはバベル屋の主人だった。もう何ヶ月も経っていて、トラムが掘っていた遺跡は砂に埋もれてわからなくなっていた。トラムの消息を尋ねても誰一人知らなかった。主人は胸騒ぎを覚えたが厄介者に気を回す余裕はなかった。人々も病気持ちの妙なやつのことなんて気にもとめなかった。 何年かして街にはある噂が生まれた。どこからか気味の悪い音が聞こえる、と。誰もがふとした瞬間にその音を耳にして怖気をふるうのだけれど、どんなに調べても出所がわからない。それどころか、本当にそんな音がしているのかもよくわからない。耳のうしろを撫でる風、ほんの少しの空気の流れにその不吉な音が混じっているようだった。 またしばらくして親たちはあることに気がついた。子どもの間に病気が流行っている。唇が腫れ上がって、垂れ下がった肉がそのままの形で治らなくなった。一体何が原因なのかわからないまま多くの子どもが患った。あの不吉なトラムを思い浮かべる者もいたが数は少なかった。大首小屋は場所を移していたし酒飲みのガンはとうに死んでいた。バベル屋もなくなった。 今では何十年も経っている。子どもたちは親になり、彼らにも子どもが生まれた。どの住人の唇にも肉の塊が垂れ下がっていて、歌うと奇妙な響きの音楽になる。トゥララ、トゥルララ。不吉な風が吹くとき、彼らは歌わずにはいられないのだ。トラムの名前を知らなくてもその歌は口をついて出て、時折来る旅の者を不安がらせたりする。トゥララ、トゥルララ、ルルルルル。ざわざわと胸の奥をかき混ぜる。 ---------------------------- [伝統定型各種]精密機械(都都逸)/足立らどみ[2020年11月1日10時19分] 加減乗除時代に乗って作業細かくショボクレ目 ---------------------------- [自由詩]炊き込みご飯/クーヘン[2020年11月1日12時27分] 実家の方角から、炊き込みご飯の炊ける薫りのしたような。 晩秋の寂しそうな母の背が、硬い根菜を刻んでいたような。 ---------------------------- [自由詩]事前準備/花形新次[2020年11月1日20時54分] どこで聴いたかも 分からない 名前も知らない歌が 繰り返し 頭の中に響く 「あの頃は良かったね あの頃は良かったね」 女の声が唄う でも実際はそうじゃない 私の都合のいいように 歌詞は変えられている 「あの頃は良かったね あの頃は良かったね」 良かった頃なんてあったっけ? 思い出そうとしても 思い出せない 「あの頃は良かったね あの頃は良かったね」 嘘ばかり もううんざりだ 良いことなんかない あるのは 悪いことか そんなに悪くないこと 良いことなんか ひとつもない これまでもこれからも よし、うんこしてこよう ---------------------------- [伝統定型各種]鬼滅の刃(都都逸)/足立らどみ[2020年11月2日6時20分] いつもトランプポーカーフェイスバカの壁よりウソの壁 ---------------------------- [俳句]屋根のしたの宇宙4/もっぷ[2020年11月2日16時12分] 缶チューハイ二本で秋意の顔つくる 式部の実きらいだけれど愛してる トナカイの隣に座るうちの猫 秋の蝶少女のごとくうずくまる 屋根のない自転車置き場冬支度 自由詩と違うもどかしさエノコログサ 秋終わる青いユニコーンと宙へ ---------------------------- [自由詩]黒い革靴/ひだかたけし[2020年11月2日18時46分] 街道をぶらぶら歩き進み歩道沿い 赤い赤い花の群れに 黒い革靴一つ、落ちている 右片方だけ 色褪せ 皺の寄り 黒い革靴、落ちている 存在の大海原に 今日も冷雨は降り注ぎ 個体化された在る の唐突異様な出現 に驚きながら 生々しいその実在感 私は一瞬の稲妻に打たれ 未だ生かされ在るこの己を、知る ---------------------------- [伝統定型各種]ローテンション(都都逸)/足立らどみ[2020年11月2日19時53分] 歌ってみれば枯葉の歌をリズムは文字数ではないし ---------------------------- [自由詩]優しい女/ひだかたけし[2020年11月2日22時22分] わたしはバター 熱いあなたの舌に 乗せられ転がり踊り 少しずつ少しずつ 溶かされトロリ 液状になるの そしたら 一人悪夢に苦悩する 愛しいあなたも いつのまにか 蕩け溶け恍惚と 真っ白な笑い顔 点火するわよ1、2、3 そしたら 黄白い炎が束の間 夜陰彷徨うあなたを 透明リアルに映し出す 私はその時にもういない 閃光一閃沈黙に蒼く震えて 無人の機械工場に響く金属音 蠢く闇 迫り来る灰色帽子の工員 あなたはどこにも逃げられない まるでわたしの手には負えない 悪の存在が全てを無機質な虚無へ変えていく バターのようには決して溶けない腐食水脈 地球の大地深く循環しその時を待ち構えている あなたの脳髄には匿名性と恐怖が充満するばかり ああ意識が遠退いていく 私はやっぱりバターだから 大人しく冷蔵庫で眠ってるわ 怨まないでね憎まないでね これ以上何もしてあげられない ---------------------------- [自由詩]むだい/足立らどみ[2020年11月2日22時37分] ありふれた言葉なんてないんだよ ありふれていると思う心が壁になってる ---------------------------- [短歌]住み慣れた町/夏川ゆう[2020年11月3日5時41分] 子供等の自由な発想縛りない大人にはない世界を生きる 機嫌よく育つ野菜に微笑んだ愛の数だけ美味しさがある 国道のすぐ側にあるチェーン店戦略がありこの場を選ぶ 住み慣れた町少しずつ変化するマンションが増え景色が悪い ---------------------------- [自由詩]未だに/こたきひろし[2020年11月3日6時29分] 未だに不老と不死の薬は開発されていない 絶対的な幸福を欲しがってはいけない 生命は 死の尊厳が優先されている 自由と平和を愛していても いつなんどき 平凡な日常が壊され押し潰されないと言う保障は与えられてない 病因は至る所に潜んで発症のチャンスをうかがっているんだ 富と美食は引き換えに体の健康を失うかも知れない 貧困と粗食は心の健康を奪いかねない と言うのか 神の行く手を妨げるのは 人間の仕業に違いない 未だに 未だに 戦争の火種は燻っている ---------------------------- [自由詩]空飛ぶ円盤が現れて/こたきひろし[2020年11月5日1時25分] 漂い 彷徨い 移ろう ヒトの想い 切り裂かれ 引き裂かれ 付けられた傷の痛みは 容易には癒えない 明日の方角がわからない ヒトが通るべきは 人の道 なのに ケモノが歩く道も ヒトが踏みつけて歩くのはなぜだ 昨日に帰りたくなって つい 今日を見失うは愚か この世の終わりも 我が身の終わりも 結局は 一緒じゃないか 東の夜空に 夜空ノ果てに 空飛ぶ円盤の群れが無数に現れて 人間のサンプルを採取している事を 誰一人気づいてない それが ヒトに与えられている 死のカタチなんだと 誰も気づいてない ---------------------------- [自由詩]怨念の赤い糸/ただのみきや[2020年11月8日14時36分] 湿度計 乾いた悲哀に触れる時 こころは奥から浸みてくる 湿った悲哀は跨いで通る 乾いたこころが風を切る 〇〇主義に痴漢する  ? 知識は雄弁であり 知恵は寡黙である 知識は言葉でしか示されず 知恵は行動でしか示せない 知恵も知識もなんのその 愚者は雄弁で行動的 歴史は時々それを賢者や英雄へと呼び変える 歩がト金に成る以上 イカサマにも寛容で 評価の数がすべてを決める 民主主義とは 自らが主役だと思って疑わない大群衆を 上手に踊らせる者が所有する豪奢な庭園 ? 思想くんは苦行者 彼を慰めて苦痛を紛らわすのは理想さん 二人はティーンエイジャーのカップルみたいに べったりいつも一緒だったけど 悲しいかな 蒸発するのはいつも理想さんの方 人は神の子にはなれない だからと言って蟻にもなれない 宗教はアヘン 然り 共産主義はエタノール 労働者は酒場で夢を見る 雲 雲を眺めていた 良いことのように思えた 海や山を眺めるのと同じように 無垢な心持ちの気がして 比較するものがなければ 綿菓子みたいに掴めるが こう山の上を流れていると 今更ながらでかさに呆れてしまう 人が雲に乗ったところで 地上からは見えはしない 天使のような子どもが手を振ろうと 死んだ祖父母がにっこり笑おうと 恐ろしいほど人は小さい あの綿菓子を覗くには 望遠鏡より顕微鏡 等身大の夢を探索するミクロの決死圏 雲を眺めていた 良いことのように思えた だが良し悪しはいつも後出しで そうしたかった それで十分 羽根 小鳥たちの官能と 黴のように青い月の頬骨 鼻腔を満たした霧の朝 枝分かれした時の先端で 手袋をしたままの雄蕊と雌蕊が発火する 誰かが言葉を投げつけると それは雪玉みたいに大きくなった 叫びながら後を追うサッカー下手のデモ隊を 素早く過去へと押し流す 水洗トイレから逃れるための箱舟工作 不眠症の脳は相変わらず空を浮遊し 粉砕された頭蓋の堆積からなる氷の大地に 舞い降りた一羽のオウムの錯乱と 黒塗りの神話の朗読劇を見下ろしている それが詩人であれ先史時代のラジオであれ 極めて内向的な幽霊であれ 記号の指輪と記号のピアスと 空気を揺らさない呪文で繋がった 虚構的都市生活では鴉の迷惑行為にすぎず 抹殺する手間暇と天秤にかけられたまま 静止的識別を得ようとすることで増していく 眩暈の中で ふと靴の先に見つけられてしまう 抜け落ちた一本の羽根の黒の青さ おんねん芸者 首から上がない着物姿の女が酌をしてくれる 盃は透明でわたしの不安な指先が形作っていた 女の手はことさらになめらかで 女形のように白く科をつくる 酒を注がれる度意識はフラッシュを焚かれたよう 一瞬の心神喪失を引き起こす 短い眠りの合間の夢から覚める瞬間に似ているが 夢ではないから覚めようもない ――まるで三々九度だ まめまめしく酌をされる度 無言の落雷 脳は白熱球になり フィラメントが焼き切れる 女は面白がっているのか止めようとしない だがそこには何の啓示もなく むしろ 誰かの啓示のための挿絵にでもなったようで 入子状の黴臭い笑いが奥の方でカタカタ鳴るのだ 首もないのに女の笑いもそれとなく膝に零れて 真っ赤な情念を散らした後の 満ち足りた諦念を醸している 一本松 呻きが樹皮を裂く 思考と情念を袷に縫い上げてゆく 娘の 白く縺れ合う蛇のような指先に懸想した 片端の翁の顔が 朝の光を陰と陽に振り分る 浮き立つものは雷を流す溝か 千年を超えて燃え上る松明よ 拷問の渦中に大気へ射精せよ ポプラ 赤子の唇に触れる指の重さ いま光は睫毛をみな寝かせてしまう 蜜柑ひとつ額に乗せて ボールの疎らな心音 置き去られた影のように 建物の中を逃げ惑う鳥 老人たちの朴訥なテニス その向こうには一本の樹が 黄色い蝶で埋め尽くされ 眩しくはためいている 脳が内から冷たく焦げてゆく                    《2020年11月8日》 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[自由詩]栗のスープ/ふるる[2020年11月14日22時51分] いつしか、 日は暮れていて足元は寒くなった ももに置いた手は静かに落ちた しばらく眠っていたらしく 目の前で遊んでいた子たちも いなかった こうして一人の時間が増えたかわりに 雨や落ち葉が隙間を埋めに来る なかなか上手くできていて 窓辺に座って黒ぐろと光るカラスを見たり 夕陽を薄い頭で受けたりして 退屈はしていない ほとんど何も考えずに夕食の支度はできる 毎日作っている 気がついたらできていることもある 少なからず できる料理は増え ケチャップやマヨネーズなど足してみては やめてみたり 来る日も来る日も不足のことで困るけれど 劇的な変化や改善策はなく 日が落ちれば 生きる仕事はとりあえずこなしたといえる 身体は老いの盛りの登り坂 中身はがらがら 焦りや不安がいまだに寄りそって 欠けた茶碗が気に入っていて捨てられない 笑い 泣くたびに 激しさはなくなりほわほわと幼子の髪のよう 小さな君が何かよく分からないものをプレゼントしてくれて 分からないなりに嬉しいことが嬉しく 熟練の技という感じ 生まれて初めて生の栗から、 モンブランを作ってみた ゆでて、くりぬいて、混ぜて、木べらで裏ごしして こんなに頑張ったのにまだ 木の実の味しかしない ラム酒を入れてやっとモンブラン あの味ラム酒だったのか 買いすぎた栗にも発見の二文字 何十年生きてもやったことがないことには初めての沸き返り つくづく見る栗はつやつやのカブトムシの良さ 栗のスープとやらも作りたい そうこうしているうちに十一月 と思っているうちに十二月 よくわからなかったプレゼントは 逆さにして後ろから見たら人だった 焦り、不安、おびえ、 雪山を凍りながら下る川の水のように 鋭利で駿烈な感情 それらは今しかない 無駄なことは浴びるほどしたらよくて 後悔しても忘れる時が来る 生きる仕事といえば 食べ物、言葉、自分自身を 入れては出す単調な作業 シンプルな中に熟練の技を光らせ 生ゴミは夏場は凍らせておき プラゴミは細かく切り 楽しめるのかどうか 今は何も楽しくないだろうけど 羨ましい その 自らを否定し斬りまた縛る力の強さなどは 自分のことばかり考えるというのは 叶わぬ恋をしつつも希望は捨てていないようなもの 君の身体は光っている 暗闇だとよく分かる 言わなければ分からなかったか 悲しみで身体を包んでいる 贈り物みたいにしていたら 誰かに届いただろうか 喜んでもらえただろうか 記念日のように きれいな人の心を読みきれずに とんちんかんな受け答えで笑われた そんなようなものが 心に残っているからいつまでも眺めている 健康診断の途中で帰って来た そういう人でいっぱい 街は健康とは関係がなく 赤と緑の点滅が震える やがて 白く凍る 胡桃もひとりでに落ちる 幼い君には重すぎる願いだろう 忘れないで欲しい 何かを 何であるかとたずねたこと その疑問符 よくわからない人の形 いつしか、 秋は暮れきった 冬がまた始まる 君と同じくらいの頃は毎冬 バケツの水に張った丸い氷を外して 叩き割ってから学校へ行った 毎日だった やらなくなったのはいつだか 何故だか 診断の結果に興味はない 目が年々しぼんでいくのは困る そのうち閉じて枯れ落ちる まぶたの 花びら 数少ない友人にとり残されて 残された日々 足りないものを埋めようとして歩いている人の側へ行く 誰もが無言だよと 誰かが言う ---------------------------- [自由詩]過去現在未来/こたきひろし[2020年11月15日8時20分] 過去に射抜かれた弓の矢 未来の空から降って来そうな硝子の破片 時間の砂嵐は止まない   人は時がたてば変わります と彼女は言った  一年後 二年後 三年後 歳月が経てば人は変わります  そんな事はありません ボクの気持ちは何年何十年たっても今のまんまです 貴女を思う気持ちはかわら  です そんな事が言える時代が彼にもあった あったからこそ口した だけど現実に歳月がたった今  ジェクスピアかよ  と過去の自分をふり返り自らを笑ってしまう彼がいた あの日彼女が言った言葉は彼の告白を拒絶していた でも 上手に言葉をオブラートに包んでいた それは彼女の優しさなのか それとも彼女のプライドに依るものなのか  私があんたなんかにナビル訳ないじゃない 少し位優しい言葉かけてあげただけで感違いし  てさ 迷惑なのよ もしかしたらそれが本音だったかも知れない  だとしたら惨めな自分だったのだ と彼は苦い唾を噛みしめた   ---------------------------- [自由詩]どうしてこんなに暗いのかしら/ただのみきや[2020年11月15日15時42分] 彫刻 折り畳んだまま手紙は透けて 時間だけが冴える冬の箱の中 なにも温めない火に包まれて鳴いた 繭をそっと咥え 欄干に耳を傾ける 肌に沈む月 纏わる艶を朧にし 蠢く幾千幾万の 翻訳し得ない沈黙は 埋もれもせず 足跡も残さずに 白紙の雪に影だけが 猫のように絶えず避けて ダンス 水面は揺れるが水底は揺れない 虚像は見えるが実像は見えない 心はやわらかいが言葉はかたい    全てのものが静止しても    わたしは歪みぶれ続ける 死者の祈り まだ雪が淡いうち 黄色い落葉のように祈ります どうかあの冷たい秘密が孵らずに 互いの半身を交換できますように そうしてわたしが 縫い合わせることもできない 青白く剥離しかけた魂を 襤褸布みたいに寒々しくし 吹雪の丘にぽつんとあった 今はもうない廃屋の煙突のように 虚空を見上げてこと切れますように そうして泥土に沈むひとつの頭蓋 内側に釘やガラス片で刻まれた 謎々として見つけられないまま あなたの夢の花壇から匂いますように そうしてそれ以上に あなたが行う拷問の おろし金でじゃりじゃり擦られ 顔も名前も紛失し 狂おしく飢えてあなたを探しますように この黄色いキ印が凍結されたまま 死が新鮮を保ちますように 永久凍土でありますように 高速バスから 落葉した白樺と針葉樹が斜面を覆う峠路 その合間の所々に鬱金色の樹々が見える まだらに垂れこめる雲の下 どこからか陽射しを集めたのか 仄かに灯るように枯れている 少し下には川 まだうすい雪野原を割って夜のように 黒く滔々と  * トンネルからトンネルへ 合間に見えるものは山と樹と雲 ここにトンネルを通し 送電線を通した人間が 自分とは別次元の 超人類のように思えて来る  * 雲下の山並 雪を被った針葉樹が続く クリスマスツリーを連想するのは たぶん幸福な子どもたち わたしは古いストーブの傍に寄りたくなる 丸い菓子入れと湯呑を置いて 懐かしいテレビ番組を見たくなる 幼い頃へ逃避したくなる この鬱蒼として寒々しい景色 まるで自分の内面を投影した パノラマスクリーン 正解 わたしは正解を知らない あるのは選択そして成功失敗という自他の評価のみ わたしは正解を知らない 正解というブラックボックスの向こうに何があるかも もはや正解を求めていない それがもし正解でも気づくことはないだろう                 《2020年11月15日》 ---------------------------- [自由詩]十二月は踊るように繋ぎ、傾くように綴る/かんな[2020年11月15日21時16分] いっぴきの魚がキラッと 跳ねていく月の 一日には海辺が朱色に染まり 水平線で傾げる夕日に向かって あなたへ告白の橋を掛ける 物語りが夜半の寝息に 幕を下ろた七日に 閉め忘れた扉をノックすると たちまち夢は ぬいぐるみのリボンに幸せの魔法をかける 庭で育ったラズベリーの棘が 女の子の小指に傷をつけた十四日は 窓ぎわでカーテンに包まり いつかは愛してくれる という祈りを地面に投げつけるしかない 透明と白とグレーを行き来する二十一日を 染めるように歩くから 歩調とあなたとキスを行き来しても 辿り着けない明日を 引き寄せるまで暗がりで抱き合いたい ウィンドウの向こうはきらきらした二十八日で 売れ残りの愛だけ 値引きシールが貼られたみたいに 価値とはなんて検索すると スマートフォンの向こう側へ行ける 三十一日は踊るように 誰も彼もやさしさもさみしさも繋ぐから あの家の屋根みたいに 少しだけ傾くように わたしは帰りたいと綴る ---------------------------- [自由詩]パピルスの諌言/道草次郎[2020年11月16日12時18分] 白紙があるだけで 大半は満足だ 詩人らが挙って 製紙工場へ見学に行ったいう話を ついぞ聞かないのは 退行現象か 『詩論』で有名なホラティウスだって パピルス製造工場を 覗いてみたことぐらいあったろうこと 賭けてもいい 何を賭けるか この詩をば 笑止 身の丈の墨を まずは摺れ ---------------------------- [自由詩]選挙投票券/花形新次[2020年11月16日17時59分] 一回100円で投票した後 当選者に投票した中から抽選で 8億円当たるようにしたら 区議会議員選挙にだって 行ってやるんだけどなあ みんな穴狙いで 下ネタ全開の泡沫候補が当選したりしてさ まあ、選挙民の良識ってやつを 信じりゃあ心配ねえだろうけど、ハハ ---------------------------- [自由詩]黄金の矢/ひだかたけし[2020年11月16日19時56分] 巨人の吐息 甍の黄金 聖玻璃の風吹き 僕は行く 巨人が眼差す 夢の突端 輝き始める黄金の矢を 掴み取ろうと 僕は行く ---------------------------- [自由詩]階段の有る家に/こたきひろし[2020年11月17日7時30分] 普通に生きているつもりでも 普通の領域が曖昧だから 普通じゃないのかも知れない  あんた普通じゃないよオッサン。知ってるか、この世の中普通じゃないんだから、オッサンだって普通で  ある訳ないだろう。勿論、言ってる俺だって普通じゃないんだからよ。所詮普通なんてのはそんなもんな  んだから、いつまでも普通にしがみついていてどうすんだよ。  教えてやろうか。俺は極端に普通じゃないからな。ここで俺と出逢ったのも普通じゃないんだぜ。  これから起こる事も普通じゃないから覚悟してくれ。そして俺を恨むのは筋違いだからな。  みんな世の中が普通じゃないから悪いんだよ。  分かったら、オッサン俺に財布の中身を全部よこしな。  逆らったら痛い目にあうからな、素直に金をよこせ! 若者は脅しの為にナイフを用意していた それをポケットから出すとオッサンに向けた  オッサンは階段の有る家に棲んでいる  オッサンは普通に考えた  普通に家に帰り、家族に迎えられたいと ---------------------------- (ファイルの終わり)