乾 加津也の恋月 ぴのさんおすすめリスト 2010年7月12日19時59分から2012年3月19日19時21分まで ---------------------------- [自由詩]道なひと/恋月 ぴの[2010年7月12日19時59分] ダイエット目的にはじめたジョギングだったはずなのに 夢はホノルルマラソンなんて張り切っている フルマラソンって42.195kmも走るんだよね あの子の精神構造ってどうなっているんだろう 単に楽しんでいるだけじゃ満足できなくて そのうち険しさとか求めるようになる やしの木陰で日がな一日のんびり過ごすって訳にはいかなくて これが道ってことなのかな 剣道とか柔道とかの道であったり 人里離れた山奥にも道はある 道無き道を…てなことばもあったような 「道」 高橋選手の銀メダルも道だった 置き去りにされたヒロインの悲哀と 今日をそして明日を生きざるを得ない人々の思い 総ての道はローマに通じるのだから 足の不自由な女の子がよっぱらいの吐しゃ物に足を取られ 汚物まみれで呆然としてた背中に声もかけられず通り過ぎてしまった あの日あの時がいつまでも忘れられなくて せめてもとつづりはじめた拙さに それゆえの道であるのかと 道端で揺れる向日葵の愚直なまでの眩しさ仰いでみた ---------------------------- [自由詩]本当のかなしみを知るひと/恋月 ぴの[2010年7月26日9時34分] 本当のかなしみを知るひとは かなしみのあり様をあれこれと邪推せず 涙で濡れた手のひらにあたたかな眼差しを重ねてくれる 本当のかなしみを知るひとは ひとの過ちをあれこれと論ったりせず 夜空に散らばった星屑のひとつひとつ共にひろい集めてくれる 本当のかなしみを知るひとは ひとびとのちいさな幸せをあれこれと僻んだりせず まるで我が事のように喜んでくれて 本当のかなしみを知るひとは 「がんばって」 そんな一言では伝えきれないもどかしさに唇は震え 寄せては返す波間に浮かぶ防波堤の突端でひとり ひろい集めた星屑のひとつひとつ願いをこめて八月の宵闇へと流し ひとびとのかなしみそのすべてに罪のないことを知っているが故 本当のかなしみを知るひとは ---------------------------- [自由詩]ラブソング/恋月 ぴの[2010年8月23日19時19分] ラブとラブのあいだに愛がある なんだかそんな気がしてね 久しぶりに歩いてみた渋谷の街は 良い意味での乱雑さを失いつつあるようで 道玄坂下から円山町 色褪せたラブホの佇まいは老娼の厚化粧にさえ見えてしまう 真実と真実のあいだに嘘がある なにげにそんな言い訳大好きで 妊娠しちゃったかも 見えすいた嘘で愛の深さを測りつつ ポエジィとポエジィのあいだに言葉があるのだから 傷つけて 傷つけ合って それでもふたり寄り添えば どこそで拾ってきた指輪であっても嬉しいもので ラブとラブのあいだに愛がある なんだかそんな気がしてね 自分だけは違うんだと叫びたくても 時間とお金に縛られているのには違いなくて 宮下公園はいつの間にかNIKEパークと呼ばれてた 言葉の持つ力に寄りかかっちゃいけないよ それだからこそのポエジィってこともあり得そうだけど 明治通りを辿れば原宿駅は程近い ほんの僅かな秋の気配を見出しては自らに言い聞かせる これもいわゆる人生ってやつなんだから サイズ違いの指輪でも感謝を込めて残暑厳しい青空にかざした ---------------------------- [自由詩]決別のひと/恋月 ぴの[2010年8月30日19時14分] 花はどこへ行った なんて問い続けるよりも大切なものが私たちにはあった それが今の生活であることは否定できないし ひとの望むものなんて目に見えるものに他ならないのだから ありふれた結婚生活に憧れてた 誰しも安逸な幸福感に満たされていたい 例え明日が約束されていないとしても それだから私たちは 花はどこへ行ったなんて問うこともなく 朝9時始業だとしてもそれ以前には職場へ就いている それを嘲笑う権利は誰にでもあるし 今すぐにでも投げ出すことはできるけど 満ち足りていたい そんな心の渇きはどうしようもなくて あれこれと文句言いつつ 今朝も遅刻しないかと早足に歩む 長く曲がりくねった道の終着点が見えてきて 今以上の幸せは望め得ないとしても 私たちは歌うことを忘れたりはしないだろう でもそれは花はどこへ行ったと問い続けるような歌ではなく ごくありふれた他愛もない歌だったりする そしてそれだからこその人生であって 半ば諦めつつも 絶望よりも仄かな期待を胸に抱いて 今日って一日をやり過ごす 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乱筆乱文お許しくださいとあなたに宛てた思いに添える ---------------------------- [自由詩]木漏れ日のひと/恋月 ぴの[2010年10月11日20時26分] 真っ直ぐな道は歩きづらい かと言って迷路みたいでも困るのだけど 適度に曲がりくねっていて ちょうど昔ながらの畦道のように 赤い帽子によだれかけしたお地蔵さんが祀られているとか 時には肥だめみたいのもあって わざと落ちそうな仕草で笑かしてくれる そんな道は懐かしさと片付けられてしまいがちだけど 歩き疲れた心にも優しげで 解けた靴紐直そうとかがんだ先にはどんぐりの実ひとつ かさこそと折り重なる葉陰からこちらの様子を伺っているようで ひょいと跨いだら先を急ぐふりなどしてみた 緩斜面を回り込むとやがて小さな集落に出会う ひと気の無い閑静な家並みとお役所仕事らしい真っ直ぐな道 どんなに雨が降り注いだとしても水溜りなどできる余地も無い ひとの歩むことなど配慮し忘れたような真っ直ぐな道 真っ白なガードレールは眩しすぎて こんにちは って誰に挨拶すれば良いのだろう 最後の六年生が卒業して廃校となった小学校 今でもチャイムが鳴れば子供たちが教室から飛び出してくるようにも思え 閉ざされたままの校門からは秋の日差しが人恋しげに延びていた かつては雑貨店だったのだろうか シャッターを閉ざした看板の手書き文字消え失せて 道路に面した軒先にはお地蔵さんの替わりにコーラの自動販売機 これだけが文明の証だと言わんばかりに鎮座している 白々しい明かりに引寄せられたのか長い夜を物語る吸殻の数 よそ者の安らげる場所など何処にも無いのだと 躊躇いを赦さぬ真っ直ぐな道は当て所ない旅の出立を急かす ---------------------------- [自由詩]ケーハクなひと/恋月 ぴの[2010年11月1日19時39分] 「じれったい!」と叫んでいた男の背中にすがりつこうとして 彼が必要としてたのは私じゃないことに気付く う〜ん、淋しいかも 開けてはいけない扉を自らの意思で開けてしまったのだし それが愛ってことだと思っていた 夢を夢と信じる それさえも叶わないのなら これ以上生きてても仕方ないだなんて思いつめてた 単に短絡的だっただけのような 「今度こそ!」を繰り返しては 私の懐からお金むしり取っていった男の愛した女も私じゃなかった なんだかねえ 無性に誰かと話したかったけど それって、ひとりプリクラの狭い仕切りのなかで あれこれとポーズ決めてみるのとおんなじ位に虚しくてさ 数少ない友だちを そして母親さえも裏切り続け 空っぽになったお財布よりも軽かった私のこころ 馬鹿な男をかばい続けた私のこころ わたしってさ、おひとよしすぎるんだよね 夢を夢と信じてはいけないんだと思い知らされ Chotto Matte Kudasaai! 誰かに呼び止められた気がして振り返ったけど、当然にして誰ひとりいやしなくて それはそれで良いのだと独り頷き ふわり宙に舞う身体の軽さを受け止めてみた ---------------------------- [自由詩]安らぐひと/恋月 ぴの[2010年11月8日21時06分] うつろな視界の外側で小鳥の囀る気配 ひとしきり肩の上を行ったり来たり 動こうとせぬ私の様子をいぶかしく感じたのか 右の頬を軽く啄み樹海の奥へと飛び去った 時の感覚を失う それがこんなにも安らぐとは想像だにしなかった 色鮮やかな木の葉が音もなく舞い散るように 昼とも夜とも知れぬ只中に漂い 時折私の近くを通り過ぎる獣たちの目に映るのは あるがままに総てを委ねた私の姿 いつしか夜になっているようだった 晩秋の夜 穢れない満月の夜 日に日に失っていく意識で辛うじて捕らえた一羽の梟 朽ち果て行く姿に弔意でも表しているつもりなのか 向かい側の梢に止まり夜通し私を見つめていた 何も思い出せない 思い出さない いずれ今年最初の雪が熊笹の繁る大地を白く覆い 感謝の念を書き記した手帳は読まれるあてもないままに ゆっくりと そして安らかと朽ちる ---------------------------- [自由詩]取り分けるひと/恋月 ぴの[2010年11月29日19時59分] あり合わせの野菜と特売の豚ばら肉で作った野菜炒め ちょっと辛めなのは彼の好みで できたての熱々をふたりのお皿に取り分ける 彼はと言えば相変わらずのパソコンに熱中していて 彼のお皿にはお肉を多めに それと嫌いなんだとお箸で除けてしまうニンジンも多めに ふんふんとそれはそれで幸せなひととき それでもねテレビとかで見聞きする哀しいニュースを思い出してしまう 育ち盛りだもの、誰だってお腹いっぱい食べたいよね できたよ♪ なんて声をかけても毎度毎度の空返事 あのさぁご飯食べられるだけでも幸せなんだから テーブルの上に散らばってるレシートなんかを脇に寄せ 結婚してもいないのに揃えたのは 夫婦茶碗に 夫婦箸 おっきい方が私のだよと言いたいところだけど 貞節なおんならしさってのもありそうで お腹いっぱい食べられる幸せ 当たり前すぎることぐらい当たり前であって欲しいのに そうじゃない 誰のせいだか判らないけど パソコンの前から立ち上がってきた彼は テーブルに背を向けて涙なんか流してる私の姿にキョドってた ---------------------------- [自由詩]片付けるひと/恋月 ぴの[2010年12月6日20時36分] 今季一号の木枯らし吹き荒れた次の日の朝 あれだけ騒々しかったのが嘘みたいに静まり返っていて 近所の児童公園にはこれでもかってぐらい散り積もった落ち葉 これってプラタナスだよね 比べてみれば私の手のひらよりも ソフトボールのミットよりもおっきくて こんなんが夏の強い日差しを癒してくれていたんだ 見渡せば足の踏み場なんか無いぐらい枯葉色に占拠されていて いったい誰が片付けるんだろう 森のこびとさんたち大忙し だなんてことは到底ありえなくて この町から委託された業者さんが片付けてくれるんだろうけど 片付ける ひとが誰かの何かを片付けるって行為に覚えるのは 我が子の紙おむつからはみ出したウンチ片付けるみたいな愛おしさなのか それとも亭主の脱ぎ散らかした下着類を片付けるときの鬱陶しさなのか しりぬぐいじゃ寂しいよね 孤独死のお部屋を片付ける仕事もあるらしい ひとってさ、産まれるときも死ぬときも そして死んだ後でさえ誰かのお世話になるってこと 煩わしくもあるけど少なくとも生きていることには感謝しないとね あれほど思い悩んでいたはずなのに 朝起きてみたらけろっと忘れ去っていた 森のこびとさんたち大忙し だったのかな 朝食前の散歩でもと児童公園へ出かけてみれば 落ち葉はもうすっかりと片付けられていて 枯れ草の目立つ陽だまりは毛を刈られた羊みたいに凍えてた ---------------------------- [自由詩]うんなひと/恋月 ぴの[2010年12月20日20時19分] うんうんと首を縦にふる なんだか良いこと舞い込んでくるような ダメダメと首を横にふる 良いことなんかどっか行っちゃって なんだか悪いことだらけな日々となってしまうような こりゃダメだと切り捨てるよかたまには褒めることも知らないとね 今週末は毎度ながらのメリクリで あといくつ寝なくてもアケオメとなってしまうのだから このおせちもおいしいじゃん! あれもこれもと試食ばかしで迷いに迷って 結局のところ手ブラなままにデパ地下から地上へと這い出てしまう クリスマス気分のソニービル斜向かいは数寄屋橋で 宝くじ売り場に長々と並ぶ善男善女はいかにもって年末の風物詩 やっぱここは僻むでもなく リキ入れてヘッドバンキングみたいに激しく首を縦にふる 来年の干支はCFによると卵じゃなくて卯ってことらしい あれって飲みすぎなのかな? 目を赤くしているのは泣き上戸ってこともありそうで 明日はかなり鬱陶しい会社の忘年会 逝きたくなんかないけど、それをおくびにも出さないのが大人のたしなみ どんなときでも首を縦にふる リキ入れずペコちゃんかケロちゃんになった気分で縦にふる ---------------------------- [自由詩]いそぐひと/恋月 ぴの[2011年1月17日20時15分] ここ数日来の寒波で凍てついた地下鉄の連絡通路に 場違いとも言えそうな親子連れの姿 乳母車を押し歩くお母さんの脇には小さなおんなの子 お母さんの手助けと押すのを手伝っているようにみえるけど やっぱ乳母車にしがみついているだけなのかな ついこないだまでは自分の指定席だったのに 快適な乳母車のなかは産まれて間もない弟に占拠されてるし おねえちゃんなんだから 生きるって、望もうと望まざるとに関わらず 誰かに押しつけられた役柄を演じないといけないんだよね お母さんの歩調に合わせて歩くのはしんどいし 見知らぬ場所でおいてけぼりは怖すぎる 昔だったら乳のみ子はねんねこで背負って 幼子の手を引くのだろうけど OLさんみたいなヒールの高いブーツじゃおぶったりはできない 外国製のおしゃれな乳母車に バーバーリーとかの高そうなカシミアのコート 以前勤めていた職場の同僚にでも会ったりするのかな お母さんはますます急ぎ足になって おんなの子は足をもつれさせながら乳母車にしがみついて ころんで怪我とかしなければよいのだけど 自動改札を抜けると振り返って親子連れの姿を探してみれば 最後の楽園へと通じるエレベーターの扉が閉じた ---------------------------- [自由詩]顛末のひと/恋月 ぴの[2011年2月7日20時38分] 出かけようとして出かけられなかった朝に ひとりの女性の顛末を知る 喩えようのない過去の行状 足跡の是非はともかくとして 不治の病に長らく臥していたとのこと 病棟の小窓に映す時代の移ろいを 果たして彼女は知り得ることができたのだろうか ひとひとりの居場所 それを手にいれるのは容易いようで容易くはない 水面で弾ける小石程にも波紋は拡がらず 立ち枯れた葦原を渡る北風の冷たさが身に染みるばかりで   * 出かけようとして出かけられなかった朝に ひとりの女性の顛末を知る そんな日は風邪気味なのを良いことに うつらうつらと寝返りを打ちながら 人生の有り様なんて考えてみる 答えなんかありはしない 至極当たり前なことだと理解はしていても 仮に予定通り出かけていたとしたら 何かしら移ろいだのだろうか いちずに想い続けたあのひとに告白したとして あっけない「休んでいこうか」のひと言に 頷くまでもなく ひと昔前なら曖昧宿とか呼ばれそうな寂れた一室で 終の想いを遂げることが出来たのかも知れず   * 出かけようとして出かけられなかった朝に ひとりの女性の顛末を知る 数十秒毎にひとりの日本人が死ぬ ふとキーボードを叩くのを止めた間にも誰かが死んでゆく そして死することに理由を問われないとしても 過去のとある出来事について それぞれの記憶を呼び覚まされ、暫し想いを巡らす けれども、それは密やかな湖畔に立ち並ぶ行見出しのひとつに過ぎず ゆっくりと朽ち果てては、やがて見失った筈の青空を仰ぐ ---------------------------- [自由詩]まもなくのひと/恋月 ぴの[2011年2月28日19時31分] まもなく幸せになれるでしょう と言われても 不安感の先立つ今日この頃だから それって、ほんとかなと首をひねってしまう フィギュアスケートとかのスポーツ番組みてると まもなくまもなくってかしましい まもなくってどれくらいかな しばらくでもないし すぐでもない いずれそのうちにってこともあったりして そんなんじゃ待ちくたびれちゃう 淡い期待を持たせておきながら 騙されるあなたが悪いのと平気で人を裏切る そんな女たらしな背中に この人でなし!って罵りながらも お人よしすぎる自分自身が情けなくて まもなく雨はあがるでしょう あったかなのに冷やっこい春の陽射が待ち遠しい 幸せになれるのなら嘘でもよいから信じたくなって 今度ばかりはと騙されついでに身を任す ---------------------------- [自由詩]がんばるもんのひと/恋月 ぴの[2011年3月21日18時29分] 一念発起とがんばってみるのは 容易いけれど がんばり続けることは なぜか難しい * それって三日坊主 だよね 悔いてはみるのだけど いつだって 他のひとの視線が気になって 指先を眺めたり 心うちを見透かされないようにと髪の毛をさわる もっと素直になれれば良いのにね * たとえば、がんばることを止めてみる というか がんばんなくっちゃいけないを捨ててみる 少しは気が楽になって なんで悩んでいたのかと窓の外を見やったりする * がんばるもんから入場して 一目散にゴール目指して駆け抜ける いつだってビリだった がんばらなかった訳じゃないけど 私は駄目な人間なんだからと言い訳していた がんばるもんは紅白に飾られていて 歓声沸きあがる空にはポッカリ白い雲浮いていた ---------------------------- [自由詩]傘をさすひと/恋月 ぴの[2011年3月28日19時33分] 雨が降る 黒い雨が降る * 夢の島 誰が名づけたのだろう ぐぐったところで明確な由来などでてきやしないこの島で 静かに眠り続ける一艘の船 東西冷戦の最中 高度成長の軋みを飲み込み続けた 夢が夢だった頃の悲劇 明治通りを渡り陸上競技場の向かい側 緩斜面を引き摺るように下ると 第五福竜丸を納めた展示館が立ち現れる 現実を覆い隠そうとする そんな意図さえ感じられる緑の深さと息苦しいほどの静けさ 「触れてはいけない」 何故にと立ち止まれば誰かが肩を突いて歩みを急かす * ぴかどんの雨だから 傘ささないと頭が禿げるぞ 幼さで囃すことばには悪気など無かった 乗組員23名全員が被爆して ひとりの無線士が水爆実験の犠牲となった あの都知事でなければ はやぶさ丸と名を変え廃船となった一艘の船を保存などしたのだろうか 涙もろいヒューマニズムに付き纏う危うさと それが正しかったと言えるのか それで悲劇の連鎖を断つことができたのか * 雨が降る 黒い雨が降る ---------------------------- [自由詩]揺れるひと/恋月 ぴの[2011年4月11日19時13分] 水面を見上げると ちいさなおんなの子の顔 こちらの様子が気になってしかたないのか 大きくなったり小さくなったり * わたしだけの世界 酒屋さんの軒先に置かれた古い火鉢 最初は他にも仲間いたけど カラスに狙われたり 狂ったような嵐の晩に火鉢の外へと流されていった 金魚藻とホテイアオイ 火鉢の底には竜宮城のおもちゃらしきもの ひらひらとゆれる尾びれ たしかに自由気ままではあるけれど その日暮らし かりそめの自由ってこともある いつ野良猫に襲われてしまうのかも知れないし 酒屋の店主に火鉢ごと片付けられてしまうかも知れない それでも ここはわたしだけの世界 桜の季節には 舞い散る薄桃色に水面は染まる * もし人間に戻れるとしたなら あのひとに逢ってみたい 今では幸せな結婚生活おくってるらしいけど それでもわたしの好きだったひと 逞しい腕で抱きかかえるように頬ずりしてくれた 情熱的な口づけは甘くて そして永遠の誓いでもあったはずなのに * おんなの子がひとさし指で軽く突くたび 薄桃色の爪の先から波紋は拡がり 金魚藻の茂みに身を隠しながら水面を見上げてみれば 丸く切り取られた青い空 大きく見開いた黒い瞳はゆらゆらゆれる ---------------------------- [自由詩]隠すひと/恋月 ぴの[2011年5月30日19時18分] 姿見に映すわたしの姿 ぷくっと気になる「部位」がある * 肩甲骨を意識して 立ち姿に気をつけてみた たとえばモデルさんみたいに片足を気持ち後ろにずらす それなのに元カレに似たひととすれ違ったりして 深いため息でもついたとしたら 元の木阿弥、胸を張って生きるって難しい * 今年の新作水着 へえっ、こんなにもおしゃれなんだあ すかさず手にとってはみても やはりあの「部位」が気になって陳列棚へ戻してしまう 目ざとい店員さんがお似合いですよとまくし立てるので 慌てふためき逃げ出すように店を出た ショウウインドウを掠めるわたしの姿 現実を直視しないのが幸せのこつだったりして * 単なる「部位」に違いないのだけど これこそ。わたしの総て どうぞと席を譲られても困ってしまうし 無理なダイエットはリバウンドが怖い おんなものの傘があくまでも華奢なように ひとりで生きられない女でありたいものだけど 誰も気付いてはくれないみたいで * 見てくれだけが大切なんだよね いざとなればパッド入りの勝負ブラがあるし 半ばだまされて買った補正下着だってある 物事の本質なんて誰ひとり求めてはいないのだから 姿見に映すわたしの姿 ここぞとばかり大胆不敵な見得を切る ---------------------------- [自由詩]しやがれのひと/恋月 ぴの[2011年6月20日19時10分] 沖縄出身らしいコンビの片割れ 何言ってるのか聞きづらいんですけど それとは違うんだよね * 前を向くってさ 結局のところ、そう言うことなんだと思う しつこいぐらい諦めない気持ちに ちょこっとの勇気 ときには後ろを振り返ることもありだけど そればかりじゃ前に進めないのだから 思い切って出る杭の眼差しになってみたりして 昔だったらジュリーなんだろうけど 今なら誰になるのかな 草食系とか言われてる若い子なら ひーはーだなんて、直ぐに弱音を吐きそうな気もするよ * やってみたら何てことなかった そんなものなんだけどね 判ってはいるのだけども 今にも泣き出しそうな曇天を仰ぎながら 誰かが作った天気予報を信じるか それとも自分自身の心うちを信じきるのか なけなしの空元気を見透かされないよう ままよとばかりに飛び込んだ ---------------------------- [自由詩]第二ボタンのひと/恋月 ぴの[2011年7月4日19時12分] べつだん躊躇ったりすることもなく 無造作に引きちぎった胸元のボタンを手渡してくれた 「ありがとう」 「礼なんていらないよ こうするものらしいしさ」 恥じらいをみせれくれれば可愛いのに でも、それは君らしくもあり ひとまわりは確実に離れてる女のあしらい方と考えているのか 母親でもないし お姉さんでもないしね そのくせ、わたしの前を歩かないところが甘えんぼさんの所以だった 合格した東京の大学へ進学するとのことで わたしにそれを止める確かな理由なんてあるわけもなく 懐かしい文通だったのかな いずれ疎遠になっていくことは覚悟してたけど 夏休みに帰ってくると約束してたのに帰ってはこなかった 東京の暮らしは刺激に満ちているだろうしね わたしなりには覚悟きめてはいたけど あれから何年経ったのだろう 名前は一緒かなとは思ったものの 同級生が教えてくれた まさに余計なお世話ってやつなんだよね いまでも君のことだとは信じられない 東京へ出て行って 半年もしないうちにわたしのことを忘れてしまった男の子が 滞在していたホテルのドアノブで そんなんでも自らの命を絶てるなんてね テニス部の部長さんじゃなかったっけ 引き出しに見つけた第二ボタン 口に含むと後追いの青錆び臭さが舌を刺す ---------------------------- [自由詩]饗宴のひと/恋月 ぴの[2011年7月11日19時04分] 出棺を待つ君は安らかな表情で 首筋にあるべき索状痕は目立たぬよう化粧を施され 凄惨な最期を遂げたようには見えなかった 呼びかければ目を覚ますのではとか 冗談が過ぎたかな 頭を掻きながら棺から起き出してくる気もしたけど かつて愛した男の死を認めたくない ただ、それだけのことなのかも知れなくて ※ たぶん君がそうしたように寝室の扉へ上体を預け 揃えた足を前に放り出してみる 頭上には鈍い輝きを放つ金属製の塊 確かに人生の終りを告げるベルの類に見えなくもない わたしでも手を伸ばせば指先は生死の岐路に触れることができるのだから 運動神経が良くてタッパのある君ならば その刹那、何らかの素早い動作で此方側に残ることができただろうに 両手のひらをドアノブの鈍い輝きに捧げてみる 同じホテルの同じ階の部屋 君が自らの命を絶った部屋に泊まることは叶わなかったけど それは古代太陽神を具現しているようで 生贄となるべき一頭の山羊 自らの行く末に気付いてはいても手綱を引かれれば従わざるを得ず それがわたし達の在り様に思えた ※ 空のバスタブに左手首を浸ける もちろん剃刀とかで手首を切ってしまったわけではないし わたしも生贄の山羊なのは確かなことだけど 自らの命を差し出すに暫しの猶予は疑いようもなくて 永遠と回り続ける換気扇のうなる音は 腐肉にたかる無数の銀蠅の羽音にも似ていた ※ 告別式で出逢った喪服の若い女性 あくまでも凜として 参列者の誰もが思わずたじろいでしまうような気迫を感じさせ 喪主を演じきる そのためだけに彼女は生きながらえようとしているのか 襟足から覗く透き通るほどに白いうなじは 執念の 或いは情念の 血臭さに溢れていた ---------------------------- [自由詩]許されたひと/恋月 ぴの[2011年9月12日19時38分] 人一倍寂しがり屋なはずなのに 気がつくと、いつもひとりぼっちになってしまう これも運命ってやつなのかな ※ みんなはひとつの輪になっている それなのにわたしだけ一歩後ろに下がっていた というか、あれはなんだろうね 肘とかで弾かれたわけでもないのに 気がつけばわたしひとり輪の外へ出ていた 今さら、ひがんでもしかたないから みんなが笑えばわたしも笑う みんなが頷けばわたしも頷いて さあ行こうか なぜだか、わたしひとりだけその場に取り残され みんなは、どこかへ行ってしまう おしゃべり楽しそうだったよ なのでわたしも楽しかったふりをする ※ わたしはボトルに入れた手紙になりたかった 遥か七つの海を旅して やがて好きだったあのひとに拾われる わたしのことなんか忘れてしまっているだろうけど つたない文面から思いの丈の僅かでも彼に伝わるのなら これまでの人生は無ではなくなるし 彼のこころの片隅で生きていくことができる ※ おひとり様って便利なことば 胸元まで冷たい湖水に浸かっているはずなのに 安らぎさえ感じられて お魚にでもなったように掌で許されることの幸せ感じながら 爪先で星屑みたいな砂を蹴る ---------------------------- [自由詩]旅路のひと/恋月 ぴの[2011年10月10日18時54分] 旅ってなんだろう 帰るところあっての旅なんだろうけど 住んだこと無いはずなのに 慣れ親しんだ気がしてならない場所へと帰ってゆく そんな旅路もあるような気がする ※ 無人駅のホームでひとり 秋の日差しは山間を掠めるように影を伸ばし 手持ち無沙汰のベンチでアキアカネは羽を休める 手にはカバンひとつ 思い出とか詰まっていることもなくて 仮に誰かの詩集の一冊でも入っているのなら 言い訳のひとつでも語れるのかも知れないけど 次の列車はこの駅に止まるのかな 耳を澄ませば澄ますほどに辺りは静けさに支配され 駅のはずれで交差する鉄路は鈍い光を放ちながらも夕闇と沈む ※ 果たしてこの場所だったのだろうか ここでは無かった気もするけど いつかの日に訪れたはずの記憶を頼りに探し出す わたしがわたしであった証 生きてきた痕跡 たとえ泥に塗れていたとしても わたしがわたしであったとするなら、それを否定することは叶わずに 幸せとは時を刻んだ日々のひとつかみ ほろ苦く噛み締める刹那にも訪れることを知る ---------------------------- [自由詩]春を待つひと/恋月 ぴの[2011年12月19日19時09分] 誰もが幸せであることを望み それに見合うだけの不幸せを我が身に背負う 故に生きることは辛く 苦しい ※ ふと目覚めれば凜として未明の寒さ厳しく 曖昧では済まされないこと知りつつも 北風に弧を描く白い首 羽を繕う渡り鳥へ思いを託す ※ 明日は訪れる 等しく誰のもとへも 不確かな手触りのままで それでも伝わってくるのは 生きる限り日々歩まざるを得ないこと いつまでも岸辺に佇むことは許され得ないこと 吐く息は白い 物憂げな溜息か 生きる故の喘ぎなのか 渡り鳥は鳴いた 曇天の 岸辺に張った薄氷の ※ 春になれば その思いで一心と 頭上に振りかざした鍬を振るう まるい背中は力強くも 「今しばらくは生きながらえていたい」 敢えてそんな言葉を口ずさむ ---------------------------- [自由詩]Bird strike(車窓のひと)/恋月 ぴの[2012年1月9日17時27分] 一羽の鳩が飛んでいた わたしの乗る列車を追いかけるように 無機質な四角い窓枠のなか 黒いコートの肩越しに 羽ばたき続ける 白い鳩の 翼 ※ 線路を渡る架線を巧みに避けて 鳩は飛んでいた 誰かに伝えたかったことでもあったのか 希望の 明日への思いは 低く差し込む陽射しを翼に浴びて 一羽の鳩が飛んでいた ※ あなたが存在するとして あなたを信じるとして 現実と向かい合うことなく 体を逸らすことになるのだとしても ひとは何を祈る 幸せ 明日の幸せ やせ細った腕を伸ばし たわわに実った果実を安易に掴み取ろうとする ※ やがて鳩は見えなくなった 伝えたかった思いは伝わったのか 冬ばれの空 何ごとも隠しようの無いほどに晴れ上がった 空 あおい空 四角い窓枠に切り取られた あなたの意思 ---------------------------- [自由詩]悩むひと(仮題?)/恋月 ぴの[2012年2月6日18時56分] 左手はご不浄らしいけど わたしって左利き どうしよう(笑 歯を磨くのも お箸を持つのも 字を書くのも左なんですけど 小学校のお習字の時間 せんせいから右手で書くよう指導されても いつのまにか左手で掻いてたよ 否、書いてたよ ※ 幸せを知らなければ 不幸も知らない 満腹を知らなければ 空腹も知らない かな? 誰かがうんと幸せだから 誰かがうんと食べてしまうから 不幸なひとがいて おなか空いてるひとがいる のかな? ※ とんでもない忘れ物をして とんでもない時間をかけて取りに戻った 仮定として 1.忘れたことに気付かないふりをする 2.そもそも忘れものなんかしてない 3.忘れたのではなく誰かに盗まれた などなど考えてはみたものの 結局は電車を何度も乗り継いで取りに戻った 後悔先に立たずと思いながら この際だから、キセルでもしちゃおうかと子供みたいなこと考えながら ※ それは 有史以前から置き忘れた場所に安置されていたかのごとく寛いでいて 取りに戻ってくるのは当然とばかりに手招きした 網棚にお骨を置き忘れる あれはたぶん意図的なものだと思う めんどっちいから 納めるべきお墓なんか無いから その程度?の安易な理由なんだろうけど 赤子をコンビニのトイレに産み捨てるがごとく わたしは、とんでもない物をとんでもない場所に置き忘れてしまって あれ、猫まっしぐら? ※ 缶コーヒーのCM見るたびに涙流してしまう(汗 ありがちなストーリーなんだけど ついついと 涙なんかほろほろ流している わたし自身のおばかさ加減に情けなくなったりして わたしも防波堤の端まで突っ走って 一生懸命大漁旗とか振って そうだ!日の丸も振らないと 君が代とか流れたら席から立たないと やっぱ大阪なんかに住みたかないやと思ってみたりして あれ、猫まっしぐら? ---------------------------- [自由詩]望むひと/恋月 ぴの[2012年3月19日19時21分] 1 必要と頷いても 近くにあっては困るらしい それは遠くにあって 必要なときにだけお世話になる ありがとうございました 添えたお礼と深く折り曲げた腰を上げてしまえば あとは総てを水に流す 2 肌触りのよい言葉 拒む仕草を組し抱かれ 耳元で囁かれた いずれは許すつもりでいたとしても 今すぐでないことは確かだった 愛の確証と引き換えに身体を開く 例えしたたかと揶揄されたとしても そのほかにどんな術があるって言うのだろう 無様なほどに引き裂かれた脚を閉じ 敢えて問いかけてみる 背中越しに返ってきた返事で埋めようとして 埋められない そっけない吐息の氷の冷たさと   3 裏切られた記憶を引き摺りながらも 託してみる 依存心が強いだけ そうなのかも知れない それでも 春の兆しは優しげな日差しに揺れ 曖昧な微笑みの意味を紡ぐ そして胸のうちにと折り畳み 移り行く季節の刹那に乱れた髪を整える 4 明日はお彼岸の中日 いつもの年なら紅梅白梅と可憐な春の賑わい そぞろ歩きでさえ惜しく思え ことさらにゆっくりと境内を歩んだのに 足早とは至らぬまでも 日陰の冷たさに首をすくめ 春の訪れを口ずさむ枝先越えの陽気に心なしか綻び 水に流そうと無言で問いかけてくる背中に答え そっと腕をからませた ---------------------------- (ファイルの終わり)