チアーヌのおすすめリスト 2004年9月12日2時30分から2004年9月22日11時33分まで ---------------------------- [自由詩]癖、焼いてまた、/みい[2004年9月12日2時30分] 9月11日 学校帰りの地下鉄はいつも ぎゅうぎゅうでみんな疲れてて きらいだ でもそれが今日は少しやわらかな そう、土曜日 休日の人もいるのだ 休日の人も 真実子ちゃん こないだもオシッコをしたのね 人気のある道のまんなかで 伯母さんが泣いていたよ またおばあちゃんに死ねなんて言って 真実子ちゃん あなたはやさしい人だ わたしには いつも ものごころついたときから どこからともなく わたしに差し出していた その花を ありがとう、と言って受け取るのが もう何十回目になって わかった 秋、だった コスモスをくれたあと あなたは まるで死人を見ているように わたしを見て 少し 遠いわ 仏壇のように パン、と手を叩き 拝まれて それからやっぱりわたしは ありがとう、と言った 真実子ちゃん あなたは にこり としている 伯母さんがまた泣くのを見ながら 隣の家の人に怒鳴りつけながら 真っ裸で家のすみずみを歩きながら そのまま 外に出ようとしながら 人混みの車両で 缶ビールを飲んでいるおじさんは 顔を真っ赤にしながら 電車がゆらりとするたんび 気持ちよさそうで でも あなたの方が、きれいだ 真っ裸で缶ビールに 口をつけて きゅい、と一気に飲んで ゴクン、 一瞬で食道をかけぬけ振動するお腹は 真実 だ 見逃したくないほどの 光だ 花は 受け取るたんびに焼いた わたしはそこでもまた死人になって あなたは知らずにまた、 花を探しに行く 真実子ちゃん あなたはたまに殴るね そのお腹を、唐突に ---------------------------- [自由詩]水のソコ/ソラ太[2004年9月12日2時58分] 君に会おうと  ついソコまで来たけど やはりこのまま  帰ることにする 背中を向けて 踏み出す一歩も やけに重く     深呼吸がしたい、と 切に思った     ---------------------------- [自由詩]バルタン星人(怪獣詩集)/角田寿星[2004年9月12日8時06分] 暗闇に 浮かび上がる 無駄のないシルエット 黄色く光る 大きな丸いふたつの眼だけが 無表情にこちらを覗いている バルタン星人だ。 両手のハサミを重そうに持ちあげ 分身を残しながら 音もなく歩み寄り 泡から生れてくることばのように 不確かな像をむすぶ 宇宙忍者 バルタン星人だ。 「生命…?セイメイとは何か。わからない。」 マッドサイエンティストに母星を破壊されて 20億3千万の同胞と共に地球に逃れてきた 0次元の羊水に笑い 母の胎内で妖しく明滅 自らのハサミで胎盤を這い破る 3次元のダイオードを求め 仮想と現実のダーク・ゾーンをさまよい歩き 5次元の真実に V字形の頭部器官が にぶい光を放つ 宇宙忍者 バルタン星人だ。 古い殻を脱ぎ捨てるかのように 夜のビルを見おろし ウルトラマンと無言のまま対峙 空中戦のはてに スペシウム光線を浴びて 撃墜された バルタン星人は 燃えながら堕ちていく。 そして今 背後から 空間のスリットから 幻影の 黄色いふたつの眼が浮遊して消える バルタン星人だ。 バルタン星人だ。 バルタン星人だ。 ---------------------------- [自由詩]成仏する時の香り/喫煙変拍子[2004年9月12日11時05分] あー、何? セブンスター挟んで微妙に開いたドアの隙間埋めるべきだ/鳴ってるのはずっと8分の5拍子/ハンダ付けしてみ両手/そんなコート全然似合わない/6杯目のアップルジュースはもうほとんど水溜り/何で笑顔か知らん/忘れすぎて忘れすぎてそれを覚えてる/赤のブラウスと肌色の胸と漆黒の谷間をダウンロードしたいんですけど/目でっかすぎ/ジンをとりあえずダブルのふりでシングルでロックで割って/パンクとヒップホップ用のゴミ箱/貴方の醜い裸が映る前に鏡砕くね/誰、足踏むの/メガネをベルトでグルグル巻く/ストロー役/こんな体位マボロシ/挿入するかしないかの違い、留まるか流れるかの差/髪にかける/大丈夫筋肉ホールは無くなった/歯磨き粉で顔洗うための歌/ドアノブカバー一括購入癖/寝ぐせ魂/魂込めてあみだくじ/9時にだけは集合しない/その竹刀反対や/タイヤを利用していく/TAKE5でもまだ笑ってる/何で笑顔か知らん/ せやから今電話してるやん ---------------------------- [未詩・独白]てばさ/蒼木りん[2004年9月12日23時06分] 秋刀魚のはらわたの味を思い出し それはやはり 新米ではなく一年置いた白米ご飯 ほくほくと温かい甘みを堪能 秋刀魚の皮は青銀色に光るけれど 焼くと金色も加わる箔になる 銀色はトタン屋根 塗装のあとは 土の上に銀の雫が落ちている トタン屋根は雨が降ると トン タン トタ トタン トタン パタ パタ パタ パタ... と音がする トムとジェリ−の ジェリーのすきそうなチーズを食べてみる 穴ぼこ 賢い奴はそれなりにずっとつつがなくいくだろう マヌケな奴は一度ぐらい勝ってほしいものだ けれどどんでん返しは今回もない 私の自立は出張しているらしい ご名答 失調だ それに自立じゃなくて自律だし 目星はついている(どこ?どこ?どこ?どこについてる?) どうせたばこと睡眠不足とストレスが犯人だろうよ(なんだ..つまんねぇ) やめられないとまらないやめるつもりもない トゥル トゥル トゥル でてくる言葉 なんだこれ だから 呟きだってばさ てばさ 手羽先 つばさき やっぱり 手羽先でいい 洒落た名前は付けるな ---------------------------- [自由詩]蚊をやっつけながら/吉原 麻[2004年9月13日18時42分] さみしいなと思った途端に寂しくなくなった それというのは自分でもわけがわからなくて たとえていうなら水族館に行ったことが無いとか 煙草の火をつける方じゃない方に火をつけたとか 手帳に挟むペンがなんでピンク色なのだろうかとか あと少し背が高ければ電車の吊り革に掴まれたとか Tシャツから透ける下着の色が黒でちょっと驚いたりとか 2ヶ月連絡をとっていない恋人であるはずの人のこととか きっとそういうくだらないことが多すぎて忘れたんじゃないか でも自分には大事なこともあったりして(決して全部ではない) そういうことだって分かってくれないとつらいなあと思う コンタクト本当は2週間で新しいのにしなきゃと思うけど 半年使っていても異変が起こらないから使いつづける ピアノはもう2年弾いていないけどきっとまだ弾ける 実はタンスの中に業務用コンドームが隠してある トイレットペーパーならダブルで切り取り線ナシ この部屋にきてからクーラーは使わなくなった 向かいの家は新婚さんらしくいつもにぎやかだ ただその賑やかさはときに自分を苛立たせる けれど寛大な自分はなにを思うわけでもない 折り畳み傘のカバーをいつもなくす 使いかけの消しゴムがいくつもある 3つある時計は皆違う時刻だ 洗濯ものをとりこまなければ 洗濯バサミが無いから 今度まとめて買おうか しかしその前に あそこのあれを こうしなくては ---------------------------- [自由詩]ともせ/砂木[2004年9月13日23時46分] くり抜かれた 口 墓のない 足 が まじないを 諭す 延びて来る真っ赤な歌 電車を塞ぐ  幾すじ もの 人柱 青は赤へ 赤は青へ そこは どこへ 行く それは 空虚へ 落下 ぎじりぎしり 抜けた タイヤ ふかした鉄くず 握りしめ ない力に 明かり 求めてる ---------------------------- [自由詩]白線ないがしろ感/喫煙変拍子[2004年9月14日16時59分] 懐かしいお風呂屋さんのフルーツ牛乳をコンクリに撒いて  滑りたい 群青色でよかったのに誕生日プレゼントの革ジャンなんて グミチョコレートパイン味の千円札なので釣銭は結構です 左しか使わないマスターベーション終了予定時刻記入ミス 愚問とは私のお母さんのお兄さんの2番目の子供のあだ名 連絡事項ここに記しておきましたところで足踏んでますよ ファンデーションずっと太腿の内側に塗りたくるのやめて 通行止めは1小節に8分音符を6個ぶち込むリズムの旗振 トースト焼けてコーヒーこぼれて朝刊はクシャミで半分こ 褐色の弾丸なんてロマンティックな首相の遺書のタイトル 明日は妙な廃屋に隠れて一日中ムダ毛を処理する純粋な息   吐きながら ---------------------------- [未詩・独白]けだもの/いとう[2004年9月15日0時16分] けだものの口からはいつも涎が垂れていて その臭いは数百メートル先まで届くが けだものは気づいていない もちろん 涎が垂れていることに けだものの体毛は針のように硬く 生えているというより突き刺さっているように見えるが けだものは泣かない そして吠えない けだものの目は澄んでいるという者もいれば 濁り腐っているという者もいる けれども けだものと目を合わせた者はいない よく見ると けだものは傷だらけだ どこで傷ついたのかけだものしか知らない いや けだものも知らない 誰もが知らないあいだに傷ついているので けだものの爪はもちろん尖っている それは 殺すためにではなく守るためにある いや 同じことだ 誰もが守るために殺すので 死ぬことだけは 平等だ けだものにも死は訪れる けだものはそれを知っている 知らないのは けだものであること そして けだものと呼ばれていること そして けだものという言葉があること ---------------------------- [自由詩]いつかの出会い/終[2004年9月15日9時12分] 忘れないからと呟いたことも いつのまにか忘れてしまう そんな些細なことが毎日あること やさしさも 伝えたい言葉も たったひとつの出会いがくれたもの 耳を澄まそう 心に 思い出す いつかの出会いを ---------------------------- [自由詩]根拠のない永遠(その翌朝)/たもつ[2004年9月15日17時52分] 納豆をかき混ぜながらきみは 深夜まで見続けた同じ映像に目が釘付けで 醤油とって、と差し出す手に マヨネーズを渡したとしても きっと気づかないことでしょう ときおり あっ、とか ふう、とか発しながら 今後の世界情勢なんかを聞いても 私が気の無い返事ばかり繰り返すものですから かき混ぜる手にも自ずと力が入るよう 二人で暮らし始めてから 二、三の痴話喧嘩を除いては 毎日同じような朝をむかえ この平和が永遠であるかのように振舞うのですが それはまったく根拠のないこと すべてのものは劣化するという 世の法則に照らし合わせれば 安らかな二人の空間も いずれなくなる日がくるのでしょう そんなことを考えていたおかげで いつまでこうして一緒にいられるんだろうね、と トンチンカンな謎かけをして 余計に低血圧のきみを苛立たせてしまうのです ---------------------------- [自由詩]距離/アンテ[2004年9月15日23時31分]                   「メリーゴーラウンド」 7   距離 星には決して手がとどかないって 知ったのはいつだっただろう 夜空のした はじめて自分で立って見あげたあの時 ぼくはすでに知っていた 夜空の星はみんな ぎらぎら燃える太陽なんだって 記憶はぜんぶなくしたはずなのに それだけは なぜか鮮明に覚えている 本館2階の売店のドアをあけて 一歩を踏み出したのは ぼくが先 でも 先に気がついたのは 彼女だった 廊下がどこにもない 広々とした草野原が鎮座ましましていて 大量に空気に溶け込んだ 草のにおいが ひとかたまりになって 風に揺れている 白やピンクの花が なんて 懐かしい 振り仰いだ空に 太陽がマグネットみたいに貼り付いている 夜になったら星がきれいだろう って思いかけて 太陽も星だと訂正 振り返ると 彼女はまだぽかんと口を開けたままで その背後にあったはずの ドアがどこにも見あたらない 世界がずいぶん広いって 知ったのはいつだっただろう きっと 星に手が届かないことよりも ずっとあとに知ったにちがいない だからあの時 太陽や星を捕まえられないのは ぼくがまだ子供で 柄の長い虫取り網を持つだけの力がないせいだと 自分をなぐさめたんだ 心配そうな彼女に でもまあそのうちなんとかなるんじゃない と言ってから 心配なのがぼくの調子だって 気がついた なんだろう 不思議な気分がする そう あの時 星を見上げたときのように アイス 溶けちゃうね 彼女は笑って ぼくの手をとって歩き出す 花をできるだけ踏まないよう あいだを縫って 蛇行して 進んでいるのか ぐるぐる回っているだけなのか わからないけれど ぼくも彼女もなにも言わなかった ひらけた場所があったので ならんで座って 彼女が先に半分 それからぼくが半分 アイスクリームはとても冷たくて それはこんな原っぱでは絶対に起こらない冷たさで でも こんな花畑だって 不自然にはちがいなくて 夜空の星を見上げるとき 立ち上がった方が近く感じるのは なぜだろう 知らないふりをしている方が楽 だからかもしれない アイスクリームのバーで 土をほじくり返してみる 思ったよりもやわらかくて 途中で彼女も参戦して 手で土をかき出すうち 固いものに行き着く 岩にしては平らすぎて 面積を広げていくうち ようやく正体が判明する 聞こえないはずの 彼女の笑い声が 本当に楽しそうに 原っぱを転がっていく ぼくも声を出せればいいのに って思ったのは 久しぶりだ 地面のなかから現れたドアは 土に半分埋まって しっとりと濡れている 手をのばせば届く距離が こんなに確かだなんて 知らなかった 彼女は知っていただろうか                  連詩「メリーゴーラウンド」 7 ---------------------------- [自由詩]水蜜桃/岡村明子[2004年9月17日21時18分] 赤ん坊の頬をなぜるように 水蜜桃の皮をむいていく あなたの指が 汁にまみれて 窓から差し込む光に包まれている 甘い水が 赤ん坊の膚のような 産毛の柔らかい皮をはぐたび したたる したたる 私はベッドで熱い息を吐いている 肺がしゅうしゅういう 斜めに見ている 病院の窓枠からでも 今年の夏はずいぶん暑かった 私は乾いて 汗をかかなかった いま あなたの指の間からしたたる 水蜜桃のしずくが 生命の水だ 一滴含ませてくれるだけで 私は生き返るのではないかと思う どんなに 腕から栄養の水を入れたって 山を登ったとき 高原の清水に手足を浸すより 栄養があるとは思えないんだ ---------------------------- [自由詩]「 ドライブ 」/椎名[2004年9月18日3時59分] 駆け抜ける光の中 たくさんの想いも駆け抜ける 次から次へと 流れる 走り去る 街も 車も 想いも ねえ 何を考えてるの 心地よい音楽が耳をくすぐり 酔い心地の沈黙の中 気にかかる 気にしないそぶり 前を向こう 景色はこんなにも美しい 明日のことなど 昨日のことなど 全て頭の中から消し去れ 今が全て この瞬間 光と 音楽と ふたりだけの空間 いいじゃないか 何が待っていようとも 今が全て ---------------------------- [自由詩]背の割れた魚/umineko[2004年9月18日10時52分] 君にあてて手紙を書こう 便箋 ティファニーの スカイブルーな 世界は そうだね まだもう少し続くみたいだ ボクは ボクの周りの ごく限られた人たちが 平和でいてくれたらいいと その中で 君は なんだか奇妙な位置にいて まるで ホログラムの錯覚で 生きていく と いうことは 上手に忘れていくことなのに たぶん  ボクは おそらく  君も あまり上手な生き方じゃない ずっとずっと昔読んだ 未来は スモッグと 腐臭の海でできているって 工場の街は うすく かすんだ 背の割れた魚の写真 二つの胴体に ひとつのしっぽ どこにもいけなくて 砂に打ち上げられている そんな魚に 君と なりたい       ---------------------------- [未詩・独白]路面電車/バンブーブンバ[2004年9月18日12時29分] 大きな家並み さらさらと消えていく 小さいものは遠い 遠いものは小さい 当たり前のこと 当たり前のことなのだけれど 座席にまぁるく またひとまわり 小さく白い母 毛繕いする風 瞼の裏に あえかな光 名前のない夢模様 少しでも軽く長くと 膝上のカバン持ちあげて 無人の車掌室 速度メータなぞって 胡乱な傾きに抗いたかったのだけれど 踏切が堰き止めた ランドセルの群れ さらさらと消えていく さらさらと 消えていく 一つの反響 列車は大きな弧を描き モデラートに 夕陽を抱くから ---------------------------- [自由詩]あっしゅ/喫煙変拍子[2004年9月18日16時23分] せっかくの ためいき せっかくの ふじょうり せっかくの りふじん せっかくの ふこう せっかくの たぼう せっかくの すきなひとのよわね せっかくの すきなひとががっくしかたおとすかんじ たいせつにしなきゃ つごうのいい てき つごうのいい つみ つごうのいい ざいあくかん つごうのいい ぜつぼう つごうのいい こんなん つごうのいい はっぽうふさがり つごうのいい じこけんお つごうのいい ふぁっきんかみさま ぜんぶまとめて ひ つけたら ぼくまで もえた ---------------------------- [自由詩]room/本木はじめ[2004年9月18日21時34分] 連れてこられました 真っ青な部屋です まるで深い青空のなかを 迷う小鳥のような気分にもなれ 濃ゆ過ぎる空を切り取ったような 真っ青な部屋です 君は今ごろどうしているだろう 連れてこられました 真っ赤な部屋です 死人花のような鮮やかな赤ではなくて 濃い黒く変色したような赤 血液の中を流れているよな気分にもなれ 暗く赤い部屋です あなたは今ごろどうしているでしょう 部屋に窓がないせいか どうにも息苦しいです 「さみしいなんて思ったりしない」 あの日、そう言ったきみが 今ごろあの河原に座り込んで 僕を待っていたとしたら ごめん  僕はもうそこへは行けないや たぶん このままここで 窓を開けるといつも夜なのです たぶん夜にしか開かない窓だからなのでしょう いつも暗い空がどこまでも広がっています あなたが今ごろあの波止場で あったかいコーヒーを飲みながら わたしを待っていたとしても ごめんなさい  わたしはそこへは行けません たぶん このままここで 秋の河原に無言のまま座り込み夕日で溶けてゆく空を見つめているふたり 冬の波止場で青白い雲の合間の遠雷を聞いているふたり たくさんの置き忘れられた傘のある下駄箱で取り残されたふたり 電車の中で過ぎ去ってゆく菜の花を見ているふたり たぶんあなたは もう気づいているでしょう そこがどこなのか そして僕がだれなのか たぶんきみは気づいているだろう そこがどこなのか そしてわたしがだれなのか あなたがそこから抜け出すには きみがそこから抜け出すには みちはひとつしかない だけどきみはやさしいから だけどあなたはやさしいので きっとそのまま そこにいるんでしょうね きっとこのまま そこにいるんだろうね ---------------------------- [自由詩]サワガニ/たもつ[2004年9月18日23時42分] ありったけの小銭を持って 僕らはオークションに出かけた 実家が火事なんです と泣きじゃくる男の人に競り勝ち 三匹のサワガニを落札した 一匹は僕が名前をつけて 一匹は彼女が名前をつけ もう一匹は帰りの地下鉄の中で 行方を見失ってしまった 駅の係にその旨を伝え ついでに火事のことも聞いてみたが 上司に相談してきます と言ったきり姿を見せない 何かの間違いだったのかもしれないねえ ということになって 以来、僕らの間で火事の話はタブーとなった 一方、二匹のサワガニはといえば 水槽においた石の陰のようなところから出てこようとしない そんなに好きならば、と 陰のようなところを増やしてやると サワガニはこっちの意図を見透かしているように 冷ややかな目で見るものだから 何だか気まずい雰囲気になって やがてサワガニの話もタブーになった それからしばらくして 見つかったとの連絡があり駅の係に行くと サワガニはきれいに干からびていた その頃には 他の二匹もとうに生きてなかった ---------------------------- [自由詩]真空フラスコとティンカー・ベル/umineko[2004年9月20日0時43分] ほら こうして 鈴をつるしたフラスコの 空気をだんだん抜いていく 鈴の音はやがて 震えるだけの記号となって        あのフラスコにわたしは どうしても ティンカー・ベルを入れたいんだ あの妖精が か弱くはばたきながら 何かを必死で訴えるのを わたしは 悲しそうな目で 静かに首を振るんだ 世界は 真空なんだよ ティンカー・ベル        ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]コントラバスは昏睡していた/エズミ[2004年9月21日1時54分] たんぼを適当に切り抜いて、開いた空間に建てたような小学校だった。敷地とたんぼは舗装道路でくぎられていたが、ブロック塀や植え込みで囲われてはいなかった。校舎はカステラのひと切れみたいに呆然とつったっていて、校庭は放心していた。わずかに保った正気のはずの二百メートルトラックは、ところどころ切れていた。五月の終わりころには芝生の植わった校庭のへりは、野原に還ろうとしているみたいにクローバーが芽吹き、走りだしていた。すみっこに雲梯や滑り台やジャングルジムなんかが、ぽつらぽつら生えていた。晴れた日の午前中に通りかかると開け放った窓から、陽気な喧騒がひよめいていた。  その日の放課後、ブラスバンドが校庭で練習していた。今度の日曜日は運動会なのだ。遠目からだと、手足の先端がきらっと光る子供たちのひとかたまりに見えた。すごく生真面目そうに並んでいた。コントラバスも一台、横倒しに待機していた。女の先生が両手を大きく振って指揮していた。一オクターブぶんの音階を皆で何回も合わせていた。今度の日曜日に間に合うか、ちょっと怪しい習熟度ではあった。軽快な行進曲でも演奏するのかと期待して待った。鳴りだしたのは、なにか民謡を吹奏楽向けに編曲したもののようで、濃ゆいかんじの演歌に聞こえる。温泉地の宵の口を思わせる旋律で、そこはかとなくえげつない。てんでんばらばらのぎくしゃくしたリズムはたちまちほどけて、たんぼに向かって音は逃げていった。ゆるい。重篤にゆるい。笑った。コントラバスは昏睡していた。 ---------------------------- [自由詩]ゆう せ に/砂木[2004年9月21日7時23分] かや かや かや しなの ほの なき かな かな かな つれた つもり の そそらの はなお ひせの くら ふき さや さや さや ---------------------------- [未詩・独白]とてもうつくしかったのに/poetaster[2004年9月21日9時00分] ごめんね、猫。 あたしは勇気がなくて 黄緑色のかえるや 濡れてつやつやしたその まっくろな毛が こわかったよ。 触れることさえ できなかったよ。 雨にうたれて横たわるその姿は とてもうつくしかったのに。 ---------------------------- [未詩・独白]狂人のふりをして/span[2004年9月21日20時45分] 狂人のふりをして 俺は狂人のふりをして 街を歩かねば 負けてしまう お前らに お前らってお前だよお前 「お前だ!」と心の中で叫んだけどそこには誰も 世界中に氾濫しているルールは全て中止だ 誰か中止にしてくれー!!!!←あほ、キモい 俺も一つ中止にするから! 家に帰ってからも 狂人のふりをして本を読み 狂人のふりをしてインターネット上に書き込む 詩人のふりもしてみたけど だめだったみたい 君の顔を思い浮かべようともしたけど とくに誰の顔も浮かばなかったんだよ←知るか ---------------------------- [自由詩]しき/サカナ[2004年9月21日21時50分] 8月のはじめの まだ水のあふれていた庭で あたためておいた6月の 水々しい果実を口にする 風をおとしたような日陰には 小さな花が咲いて あれは5月の始まりの ささやかな名残なのだと思った 桃という名のくだもので 囁き合ったのは2月 以来待ちこがれていた庭で 12月の子どもと並んで居る いとしい果実はやわらかくむかれて 思わず戦慄したのは 10月のあなたの皮膚が あの皮のようにするりとむける様を想ったから 果実は幼児の手の中でまるく 6と10とは繋がらない  日々の安堵をつめたような1月に  4月の帽子屋が紅茶の中に種を  3月の兎がそれを飲み  小さな種は発芽して  立派な果実となりました 視線を落とす先に 根元でうなだれている ラヴィットファーとシャッポ 気だるく 7月の雨に打たれ 腐り 育て 還る 何処へ? 果実は幼児の手の中で まるくて 隣に居るのは11月の私 何処へ 口に運ぶ 果実を口にする 肉片という言葉を思い出す 7月の雨になら 靴も濡れて光っていた その下の胃袋は 悲鳴をあげていたというのに 安堵する8月の庭で わたしは確実に死を想う この身もいつか還るだろうか この血や骨や心臓は 死んでなお 何かを育てるだろうか ふと耳元に手をやると 触れる9月の青い石 光を増した 一巡りするのだ どこへもずれることなく 避けられないものなら山ほどある それらを抱えて桃を食む 大丈夫 ずれはしない そもそもことの初めから 繋ぎ目というものがなかった 円やかに前転し続ける12の季節と死 一瞬に凝縮された暗示 それらを纏った皮をむく わたしはまだ上に立つ者として このやわらかい桃を食む ---------------------------- [自由詩]グレーゾーン/ミズタマ[2004年9月22日0時16分] わたしは 乳房の小ささに悩むものの 自分が女であることをもどかしく思い 愛する人は欲しいけれど 女扱いされると複雑な気分 男のひとは嫌いで 男のひとに媚びる自分も嫌いで そしてなによりも 曖昧さを嫌うA型のわたしが 踏みこんだグレーゾーン あなたとわたしが 恋人でもないのに くちづけしあった日 部屋の隅で くまのプーさんのヌイグルミが 斜めに傾いて笑っていた わたしを嘲るように ふんぞりかえって くまのプーさんは笑っていた けれども あなたとわたしは くちづけを ---------------------------- [自由詩]ねや の さと/砂木[2004年9月22日7時27分] ふかえ とおく ふかの とおく もした つのり のよみ くれて そのわ とどき みちる ややこ つき しろ まや かな おおて すぎ はて ゆく まま あうせ ---------------------------- [未詩・独白]すい と参る/山内緋呂子[2004年9月22日8時48分] 破 点線のぬり絵 やぶれても まだ 色がぬられてない 電車内で 公園で 商店街で 能楽堂でぬっていくところです 能舞台では 面と厚い衣装 おはなしの全てが声 生き方の全てが 面下の     声から     言葉から 音に 気持ちがあるそうです 能楽堂を通らずに 商店街 住宅街を通って うちには帰れません そうして色を ぬっています 点 線 でやぶれて   床におかれています 実はこれ すい と移動するとくっついて ぬり絵ができます すい と 音にのって移動 楽しそうだ できあがった絵を アロンアルファで すい と固定 またやぶれてもガムテープやセロテープではしない めんどうくさい 一緒に マティス盗もう モディリアニが好きでも上野では 来ない いない 来るのを 幾度の秋も 待とう ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]走馬灯/あみ[2004年9月22日10時35分] いつからか、記憶が上書きされにくくなった。 あれは去年の夏か、一昨年の夏か、動機は覚えている。楽しかったことも。出来事も。 初めての行為は、いつも、楽しい。初めての出会いも。初めての場所も。 旅は好きだ。 今年、2ヵ月半は軽く自宅にいなかった。 少しずつ時間をかけて、準備を始めていたのかもしれない。 あれは、去年なのか、一昨年なのか。 今年の、夏か。 一度近づきすぎた距離を、また以前のように、とは、 戻れないものなのか。 崩れてしまったと感じるのは間違ってはいないと思う。 6月、 出会いのひとつ。 ある女の子がこんなことを言った。 「こんなふうに出会ってしまうと、今までのものがなくなってしまう」 それは私たちのせいでもあるのだろうけど きっと、それだけではないんだと。 今年、ずっと見れなかった東大寺の燈花会に行った。 奈良公園のあちこちに、ろうそくがひしめきあっていて、 私はその橙の天の川の始まりに立ち、友達の存在をすっかり忘れ、見入っていた。 このたくさんの迎え火に迎えられ、15日、送り火に送り届けられる。 ずっと待っていたような気がする。 迎えに来てくれることを。 あたたかな光で、視界をいっぱいにして。 記憶の上書きが出来ないでいる。 出来事は、順を辿らずに、まるで写真のように切り取られて溜まるだけだ。 わたしは、いつからか長い走馬灯の中にいる。 ---------------------------- [自由詩]秋/さち[2004年9月22日11時33分] ああ 雲ひとつない 騒がしい季節が終わって 空も 心を一つに決めたんだね ---------------------------- (ファイルの終わり)