あぐりのe.meiさんおすすめリスト 2009年7月23日12時56分から2009年10月29日20時18分まで ---------------------------- [自由詩]鳴らない電話/e.mei[2009年7月23日12時56分] 教室でうずくまり光に焼かれた青みたいに小さくなって眠った子がいた 私は違う 学校が終わったら友達に黙って先生のところに行った 彼女の夢のなかで泣いていた女のひとはどうして泣いていたんだろう?…… 考えていると先生は扉を閉めて私を寝かせた 寝れば寝るほどに足元から痺れが上のほうへ上のほうへとのぼってきて もう私の全身は痺れに支配されていた。 先生が誰かわからなくなって 何かわからないものになっているって気付いたけど もう遅かった 「おちてきた ほし /  まがりくねった つき  わたしたちはきおくからはなれ ゆめのよくしつにはいる ( あかくかためられたねんど たかいうたごえ  くうきはもうそんなにすんでいない )」 さよならはいわせない 先生の右手にわたし 手を伸ばしたら 先生は遠くへと離れていく わたしは星になりたい 光に焼かれたりはしない 崩れたりはしない 誰よりも星らしくなりたい 知らない人に寝顔は見せない 教室でうずくまったりしない 青よりも青い星になると決めたから、泣かないで …… 曲がった月は教室で輝いて 彼女の夢から漏れる声が 世界にひろがっていく 猫はかたちを変えて 先生は優しく笑うけれど 動かない 何ひとつとして わたし以外は息をするばかり (――みんなだ/あのこも あのこも てんしのそばにいく  あおいほしのおくをさがして こえをそろえてうたうことを  わたしは きょひする――)  それはくるしいから  なぜくるしいかわかるかな? 「教えてよ 先生」 (ねむったこがおきるのはよる  まどのそとへと  とりがはばたいてきえる  あれが このこ  しびれてうごけないなんて  / うそばかり ) 教室のすみっこ 月が落ちてゆくときに わたしではない星が 流れていったとしても 嘘はついてはいけない って あなたも 教えてもらったでしょう 起き上がった彼女に わたしはふたたび生命と形を縫い付けてあげる わたしも先生に そうしてもらうように してあげるから ね そうすれば ほら 何処にも行けなくなった ---------------------------- [自由詩]アレジオン/e.mei[2009年8月15日7時43分] クリームで前が見えないけれど 世界には青が降っている 炭酸を抜かないで 誰かの声を聴いた僕は夢中になって世界を振った * 勢いよく噴出した青を二人の子供が飲んでいた 子供たちは夢中になって飲んでいた さよならブルー 北十字から南十字まで転がっていったブルー 静かに眠る子供たちに青が近づいていくから 子供が神さまになって 世界はもう少しだけ優しくなれるようにした 星の場処なんて誰も知りやしない 青よりも青い場処に立って僕は目を閉じた この町の青は透明に近い青だと思った アンタレスを観測する場処は既に閉鎖されてしまっていて どれがアンタレスかわからなくなっても この青い町から見えるのは綺麗な赤だった もうすぐ秋になるのだろう 冬になれば青にかわって白がくる 青い空から青い雨が降るので 僕は目を閉じた 僕から抜けていったのは炭酸ではなくて 愛している と云う言葉だったのかもしれない * あの日の帰り道に友人がクリームに溺れて死んだ そう聞いたのは数週間が経った日のことだった 天国から降ってきているかのようなどしゃぶりの青のなかで 僕は二人の子供がかわらずにそこにいたのをただ眺めていた その次の夜もまた次の夜も ソーダはたえることなく降り続けて 二人の子供はずっと クリームに溺れながらソーダを飲んでいた * 隣町の女が妊娠したらしいと誰かが言った あたらしい あたらしい何かが宿ったのだから世界も 僕も何か変わるのだろう いつからか僕もクリームにまみれていた * 炭酸が目にしみると子供が言い出したのは今年に入ってからだ 炭酸が目にしみることを知ったのはいつからか 僕はいつの間にかそういうものだと覚えていた 炭酸は目にしみる 生まれてくる子供の目にもいつか炭酸が目にしみる日がくる 僕はそう思った 生まれてくる子が男か女かなんてのは些細な 本当に些細な問題で どうにもならないと言うのなら目を閉じれば良いだけだ そして夢を見よう あたらしい あたらしい夢を見よう そして全部忘れてしまわないか * 子供たちが去っていったのは僕の生まれた日 新しい世界の誕生もまたその日の朝だった クリームが少しばかり多めに降っていたから目は赤くなっていた 青い世界で赤い瞳が遠くの遠くの空の向こうを見ていると 無数の星屑が落ちていく ガラスの水車が時々まわって微かにクリームを混ぜている 自分にはそのクリームで前が見えないから 世界には青が降っているかどうか教えてくれと女は言った 炭酸を抜かないで 誰かの声を聴いた僕は静かに青を川に流した * 世界には青が降っている クリームで前が見えない ---------------------------- [自由詩]落日の骨/e.mei[2009年9月23日12時36分] 「僕は生まれるまえから窓のない部屋に住みたかった。  落日の骨は終わらない記号のなかに消えてしまった光の海へとかえってしまう。」 君は自分を求めない問いが何番目にあるのかを知っていたのだと思う 双子のいない双子座を光が通り過ぎて 上昇を始めた水位のなかで泳いでいた魚を 君が愛した男が見つめていたのは偽りの記憶であって 夜になるとそれが証明されてしまうから逃げなければならないと君は言っていたけれど 遠くから流れてくる記号の成分は落日の骨にちょうどあてはまり 生きていた人間たちが並んで待っているあいだは 帰れないという答えに向かって 問題を解き始める 何処からが記号で何処までがわたしなのかはわからないと 独り言を言ったあと 君は僕を拒絶した 双子のいない双子座という新しい記号のなかには水がなく 溺れている人間がいない 僕の部屋に窓がない理由を僕は知っているのだけれど この部屋を出ていっても流れてしまわないで 君にかえってきてほしいというのは僕のわがままだろうか *  君をうしなってから一年が経つのだけれど、僕は君を失ったのか喪ったのかまだわかっていない。当たり前という言葉がどの記号よりも大きくて、僕は何も考えずそれに甘えてしまっていたのだと思う。またがないことをわかっているのだけれど、僕は君との、またという時間を計算することをやめない。 だから教えてほしい 別れという結論に達した落日の骨が放っている光に 違和感がなかった理由を 僕は一人の夜に目を覚ましては後悔している 僕はなんだって窓のない部屋なんてものをつくってしまったのだろう 扉が開かれた時に侵入する光は窓のない部屋にすぐ散らばって 廊下では 上昇する水位に逆らいながら魚が深く深くに沈んでいる ---------------------------- [自由詩]終わる世界/e.mei[2009年10月29日20時18分] 10月27日 曇 僕は数を数えるのをやめた 「僕はハルシオンになったみたいだ」と に言った  は腕を縦に切ったカッターを机に置いて力を込めた 「おけちゅるゆりかりゅ」  はもう何を言っているのか判らないと云った風情で壁に凭れ掛かり血の泡を噴いた 「ひゅー ふひゅー」 僕は白黒テレビを見下ろしながらハルシオンを三錠のんだ 「あたしたちのことをお母さんはどう思ってるのかな?」  はだらしなく流れる腕の血を舐めながら言った 空気はひんやりとしていた 僕は手に残っていたハルシオンを全部飲んでしまった 「訊かなわからんよ」 僕が無表情で言うと は寝転がりながら 「ならお兄ちゃんが訊いてよ」と返してきた 「僕が?」 僕はそう言いながら の止まらない血の海を見た これはどう扱われるのだろう  が死にでもすれば やめたやめた 僕はその日の夕食をハルシオン五錠ですませることにした もう日暮れが迫ってきている  は死んだような顔をして 明日という路線に転がっている 僕は誰もいない部屋で棒線の雨に打たれながら またひとりけがれない少女を殺してしまいました ぼんやり光る瞳が見えますか あれは柚子の瞳です 涙が流されていく河の果てには 白いワンピースが飾ってる  ――きこえますか 柚子  ――きこえますか  ――きこえますか 僕の殺したたくさんの子供たち 青い鳥のつつくアルファベット A 神様なんていない ---------------------------- (ファイルの終わり)