小岩井祐子のe.meiさんおすすめリスト 2009年7月16日19時18分から2009年11月6日13時01分まで ---------------------------- [自由詩]真夜中の魚/e.mei[2009年7月16日19時18分] 通りをまっすぐ行ったところに置かれた忘れ物よりもむこう 右へ右へと使われなくなった線路を歩いていくと役目を終えて眠りについた人形がいます そこには電車と同じで動かなくなった時にだけ優しくされ ふたたび誰からも忘れられてしまった人形たちの墓があります 運命でしょうか 神様のしわざでしょうか 雨のおおい季節です 台風におそわれます からだの震える夜に冷たくなるのはゆびだけではなくて ひとみもです ――ほら 赤いマントに白い風船 忘れたあしでのけんけんぱ 眠る頃に目が覚める 夢はたべられ野原に散らばる 海から手が伸び世界を引き込む 光は廻って始めに還った―― 「私が星に指をつけます  あのトンネルを抜けると火がひろがり 空を見上げると星がまたひとつふえました  おおきな星をめじるしにして明日へとつなげましょう  ほら ごらんなさい  雨のやまない世界では椅子はすぐに腐ってしまいます  なおそうとしてはいけません  我々人形と同じでまた同じ事の繰り返しになりますから」 「夢というコトバが好きです  未来にはないものですか?  私たちはふたりの船でした  そこに小鳥があらわれて彼の足を食べてしまったのです」 「それは不快ではありません  いえ それをしあわせとよぶべきなのかもしれませんね  鳥が飛んでいった時  私は水になりました」 (――ああ  波が夢をのみこんだ  ベルの響かない夜は珍しい  瞳の色がかわり 空気が白くなりました 光がおぶさります  ながされる あいされる うまれゆく いきている  あいしてる――) それは海のにおい 彼のにおいです 魚のにおいでしょうか 子供が石をけっていると墓にあたりました それは過去です 線路は草でもうみえません 鳥が小さな声でないています それをきいてしまうと 一日がまた始まります 真夜中に泳ぐ魚を見失う頃に 永い一日が また ---------------------------- [自由詩]AIR/e.mei[2009年7月19日1時35分]     (もううんざり!!)  ほらほら、教室から飛び出した鳥、夢のなかの数学の授業で先生が言っていました、「死が我々の隣にないのであれば私たちは消えてしまうしかない!」って。――ねえ、先生、もし私が神様だったらどうします? あの、ごめんなさい、実は神様なんです、私。何でも思うとおりです♪ でも死なんてあげません、欲しいって言ってもあげないのです。鳥を追いかけるのは燃えている青、(青を燃やしているのは太陽。私は月? 星かしら? 私は神様なのですが、気になります。)何だって良いのだけれど私は先生の祈りだけは拒否しますね、これだけは絶対。神様も疲れているのです。全員の祈りを聞いている時間もないのですね、来週からテストでしょう。勉強に忙しいのです、私。――そうだ、教室を砂漠にすれば先生は渇いて死んじゃうのかなっ? だから優しい私は教室を先生が死ぬまえに海にしてあげます♪ それだと先生は溺れて死んじゃうのかなあ。あのっ、順番はどっちがいいですか? 選んだほうと反対のほうを選んであげますねっ。でも死はあげないの。(ごめんなさい!)先生の言ってたとおり人間は死なないと消えてしまうのでしょうか? そこにすごく興味があるのです、私。消えないのであれば2007歳の先生が見てみたいな。骨だけになって私に死をくださいと祈る先生の姿を見てみたいのです。私、悪い子ですか? あ、でも死がなくなると本当に「我々」が消えるのであればそれはそれで見てみたいと思うのです。 (ああ、先生は鳥を追いかける燃えた青でしょう。鳥になりたいのですか? 鳥はだめですよ。先生は燃えて追いかける青。青だって太陽から逃げているのですよ。太陽になりたい人は多いので私は月で良いです。あ、月はひとつだから競争率高そうですね。どちらにしても苦しむ先生を見下ろせるから星でも良いです。そこは神様ですから遠慮してあげますね♪ 鳥だけが自由、ばさばさと好きなところへ飛んでいく、みんなはそう思っているからみんなは鳥を選んでしまうでしょうね。人気なのは鳥と太陽と月、不人気なのは青ですよ。だから先生は燃えている青。私はそれを嬉しそうに見てるんだろうなあ。ほら、先生、早く何とかしないと燃え尽きてしまうよ。消えてしまうよ。みたいに、うふふ。私は本当に先生のことが好きだなあ)  フジ―サンフジ―サン 隣の席の男の子が声をかけてくる、きみは太陽っぽいね。 眩しい。きみは眩しすぎるよ。 私は太陽とは交われないのに。 「あ」窓の外では鳥が空へと飛んでゆき、燃えた青は鳥を追いかけ 空へとのぼっていった。 私は神様なのに、 私は神様なのに、 先生は教壇のうえで「我々は隣に死がないと消えてしまうものなのだ!」と叫んでいる。 今は国語、ほんの少しの違いしかない。大丈夫、先生はきっとこれから燃えるのだろう。 好きだよ、先生、 死はあげないからね。 約束、約束だよ、先生。骨だけになって私に祈ってください。突然消えたりはしないでね。 ふふふ。と私が笑うと先生は真面目な話だぞ。と言った。太陽が不思議そうに私を見ていると、先生が青くなってきた……、 気がしない?♪ ---------------------------- [自由詩]まごころを君に、/e.mei[2009年7月20日10時04分] わたしは消えてしまった光をのみこんでおちてゆくので 海へとかえってしまう 小さな夢が微笑みながらわたしのほうに歩いてきて わたしは夢の続きへとはいっていかなくてはならない (教室で先生が小さな猫を撫でているのは夕暮れのせいだ  夜になるのがこわいので走らなければならないわたしは  走らなければならないのに  校舎のとおくから音がする  生きていたひとたちがそっと並び待っているおと  おと おと おと  窓の外が白くなって今はふゆなんだと確認したからといって  どこからが雪でどこまでがわたしなのかはわからない  さむい さむいよ) (耳の奥で猫の声がする  こぽこぽ溢れだした先生はもう見えなくなった  学校ってこわいな  こわい  教室のなかには水がなく 溺れている人も いない 今は  飛び込む水もない  流れていかないでよ、先生、 流れていかないで  ――いかないで ……)  あ、 ねえ、 ほら また猫がないたでしょう 今度は少し遠いね 終わってしまうと不思議と何の違和感もなくわたしは ひとつの光のように なりたかっただけ なんだって 知らない人には教えない 大切な秘密 教室に忘れてきてしまった光はすぐにちらばってわたしは 裂け目を探さなければならない 遅れてきたチャイム どこにいけばいいのかなんてだれにもわからないって 先生がわたしに 内緒で教えてくれた ふたりだけの秘密は 夢の続き 水の音 とぷん 夢の続きに とぷん さよならしてる ---------------------------- [自由詩]shiki/e.mei[2009年7月22日11時58分] 君は暮れ果てた記号の森ふかくで永遠と出逢うだろう 僕は知っている 泳ぐのを止めてしまった魚 そして地獄を 君は目を醒ますことなく星を抱いている 月光を 浴びながら 甘い偽善へと沈んでゆく世界から離れた幻影の欠片 星の降る夜に世界は止まる そう思ううち 眠りに落ちる *  春の晴れた日には世界の終わりがはっきりと見えてしまう。  澄み切った瞳の奥には永遠が覗いていて、 全ての言葉が意味をなくしてしまっていた。  名前をなぞる指先は季節の推移のように何処かへと向かい、 堰を切り雪崩る地獄の記憶を止めてくれた君に僕は依存する。  忘れない。何一つ。 * 「依存させてください。」 「はいはい。」 「愛してます。」 「分かった分かった。」  酔った二人は抱き合いながら横になって熟睡してしまい、  店員に起こされてしまいました。  君を、愛してる。 * 雨の日の夜に星が降る 病み衰えて死に絶えようとしている恒星の向こうに見えるコル・カロリ 光が君を傷つけているから 何もかも一切は永遠に辿り着けないでいるのでしょう 失われてゆく星星と共に沈む君の存在は 五衰に喘ぐ天人のように綺麗です 美しい夢の終わりに 記憶と溶けるダイヤモンド それは穏やかな世界の光 雨は果てなく星と星とに降り注ぎながら 君に赦されることを 待っています *  世界樹の前には一羽の鳥がいて、 君は、眠りを知らない夜の湖に身を沈めたあと微笑した。  黒雲の破綻から生じるヴェルトシュメルツ、 機械仕掛けの鳥は世界の終わりから時を打たないまま僕をじっと視ている。  星と空に醒める兆しはない。  天使飼いの少女がまとう白いワンピース、 長い睫に縁取られた大きな瞳が永遠を映す間は偽りの渇きと僕は別れる。 * 君を大切にしたい。 この言葉につけ加えることは、今のところ、何もない。 ---------------------------- [自由詩]流星群/e.mei[2009年7月25日13時58分] 夢がまた落ちてゆきました いつか僕たちはまぼろしの形をした記憶のなかに沈みます 君には誰も読んだことのない本を読んでほしい うまれる星の話 海に咲いた永遠の話を 世界中の誰も言葉なんて知らない 目を開けば僕たちは明け方に消えた波みたいに たちまち粉になって消えてしまいます 光の世界のなかですべてのものと融け合いながら 千回目の死を見つめ終わる頃に 泳ぐことをやめた真夜中の魚は霧のように薄く広がってゆく 月も太陽も人間も永遠も 何もかも 沈んでばかりいますね 風がやみ 夏に雪が降りだして 君が透明になったその時が旅の終わり なのかもしれません * 「(……)ね、」 「何がそんなに、悲しいの、」 「夢を、視ること。」 * 誰もいないホーム 電車を待たせながら君を抱きしめる 星の見えなかった夜の終わりに君は何を視ていたのだろう 何もかも全てが眠りについた世界で 君の体温を記憶する 言葉は永遠のまえに消滅して 僕は空に降る光を 視ていた ---------------------------- [自由詩]まぼろしの通信/e.mei[2009年7月27日15時37分] 此処までがわたしで 彼処からをあなたとすると あなたは夢をみるだけ夢から離れると云うことになります 行進する群れの中から あなたひとりだけが選ばれたと云うことなのでしょう 上へと還る雲たちは 何もいわないで 風に流されてしまって 永遠は無邪気に笑いながら最果てへと遊びにいってしまう あなたは空よりも向こう あなたはやがて星よりも遠くなってしまうのだとすれば それは消えると云うことと何が違うのかを教えてください 朝のやってくる時間 あなたを離さないものは永遠を知らないものなのです のびていくのは終わりを知っているものたちばかり 小さな火はより小さくなって 約束通り消えてしまう 「永遠は まぼろし」 「夢の続きのかくれんぼ」 わたしたちは始まりの朝から終わりに近づいていたのです わたしは風に吹かれ 何処かへと飛んでいってしまえばいいと思っています ――あなたはそれすらも やがてはきれいに消えてしまうと知っていたのですか―― あなたは 消えてしまう わたしは 忘れてしまう 最果てで微笑する永遠はたくさんの光をまとっている あなたがいなくなって わたしが歩けなくなった時 わたしたちの頭上にたくさん たくさんの光が降ればいい 終わりのない 永遠みたいに ---------------------------- [自由詩]静かな人へ、/e.mei[2009年7月28日16時40分]  光がきみから離れていった夜のはなしをしよう。 「それは煙が濃くなり壁となった夜、                 彼女が川にやってきたあの日のこと。          (――あれは少女の涙だったのかもしれない。……)  冬が終わればおしまい。  降る雪でひかりが見えなくなってしまえばいい。                         (私は雪が見たい、)  飛んでいくものばかりだから僕も何処か、                  忘れられる夜には、                         小さな魚を渡そう。  流れる永遠、       ぼくはあたらしいせかいのひかりなのだ。  そこは彼のいないせかい、             それでもよかった?……」  夜明け前、      光は飛ぶものだから空が怒るのですと、                  彼女は橋の上で光を裂きはじめる。  落ちてゆく光の音を橋は避け、               だれもかわりにはならない。               だれもかわれるはずもない。              (――どうして、                     なんて、                      わかっているくせに――)  指で星と星とを繋げたあと、              僕は風の強い日の独立を禁止した。  いつかと同じ、       夜中に光は事故となってかえってくるのだから、                         後は飛び散るだけ。   腐っている誰かの右手に着地するための、                     ひかりになる。  僕は「悲しい。」と呟いた。                       何時だってそうだろう。  それが同時であろうと、          掬われるのが左手になるだけで、                       何もかわりはしない光。            泳いでいる魚たちを燃やすのは、                          太陽。                 きみの目指すものは、                          永遠の海。  誰かの歓喜を背に、          僕は亡霊から死の囁きを――  橋のしたには灰色の波紋が描かれて、                  神様は一枚、                       また一枚と、                           捲られる。                               風が、      僕を、  ふきつけた。    消え失せるものを追いかけない自分の愚かさが、憎い。  夜明けを待ち震えるきみは、太陽を知っているのだろうか。                         (餓えている。)                                 (――何に?)  ……寒い日に――         誰もが秋の日を忘れ――                   明けた朝のことを夢見ている。          夜明けだけは等しい――     なんて――  幻想を、                         繰り返し眠りにつく――               沈んでは浮かぶ――  終わらない夜に光は君から離れて―― 「かれは秋が苦手と言います。  彼女は冬が苦手、       ついこのあいだまでは目の前で魚が泳いでいたのですが、  かれは神様をお見かけしたことはない。               お見かけしたことはないと言います。」  ――ぼくたちは考える。            ――永遠についての、                     ――ひとつ、ふたつを。 「太陽が忘れていくものがあります。  月が置いていくものがあります。  それは、     何ですか?」 (彼女のからだには、          神様の血が流れる、                 (神様、)                     朱の、) 「――たとえば、       彼女の名は消えてゆくものです。                   それは落ちるものではない。  かれの名は其処にはありません、                落ちるものなのです、                         それは――」 「――ひかりの子、       それは神様の意志、            そう聞くたびにぼくは毒を飲むことになる。  神さま、  神さま、     彼女の星をぼくの手に、     静かな夜に開いた扉で白い亡霊たちが、     ぼくより空へと飛び立って行くのです。                    (浮遊するすべての魚が、                 真夜中へと歩いていくのを見た。                               きみには光はない。                             意志、                         ――誰の……、                           ――ああ、                      その光を飲み干して、                        ぼくはあなたに、            拒まれることを期待しているのです……)」 (かれは朝を待たず、  さかなたちを溺れさせようとしたことがあります。  少女はさかなにいくつか歌を教えていたのですが、  彼女らは、  その歌をかれに教えようとしませんでした。)                     「少女が目覚めたとき、                   隣に眠るのがさかなでなく、                       ぼくだとすれば、」  彼はそう言っていましたね。 (しかし、    そうするとかれの精神は、           さかなより深く、               眠ることになってしまうのですが、)    ――かれがどれほど少女を望もうと    かれはいつか橋から離れてゆくものです。    離れたものに少女は訪れてはくれません。    それはぼくにも言える事、    また、かれもそれを知っているでしょう。    神様の一秒、    ぼくたちの頭上ではさかなたちが自由を求めて泳いでいます。    その時は少しでも、    彼女はぼくたちに祈りを捧げてくれるでしょうか?―― 「きみは捕まえたはずの彼女の指から転げ落ち、  沈めたさかなに見られながら落ちていくことになると  わかっていながら、」                     (孤独の魚が僕を追う。                     僕は少女を追いかける。                 (誰もが長いあいだに流されて。               ぼくはいくつもの夜を少女とふたり、                     ひとつの夜が終われば、                             また、                          新しい夜が、                                  繰り返し、                                   繰り返し、) (枯れゆく緑を川へと流せば、         魚が孤独を食べてしまう。                 それはいつかの終末のかたち。)            (僕は指先を垂らして。……)         ――永遠、               永遠、                   永遠が、                        わからない―― (探した星の名前も、  古い夜の名前も忘れてしまい、  ただ川の流れる音だけが頭のなかに渦巻いて、  誰かの絶望が太陽の沈む方向へと消えてゆく。)  果てのない、闇のなかに。                    ――僕は忘れてしまった。                       ――きみの名前を、                        ――僕の名前を。                      ――哀れだろう?……                       ――哀れなものは、  すべてにかえる、                       (教えてほしい。)           (白い霧に隠れて逃げていくきみの速度を、)  流れてゆく水は何処にゆくのだろう?  色のない水に泳ぐ魚は孤独だという。  渡された孤独を僕は少しだけ舐めたあと、  七日降り続いた雨が忘れられる頃にまた、  不機嫌な少女の顔を見上げ、  僕は結ばれた星と星とを永遠と呼んでやった。                     (この永遠の姿、……)  昨日沈んでしまった太陽を誰も知らない。  遠くのやさしい少女のまぼろしをみて、  星の海へと飛んでいってしまったあの魚を、  消えていった波を追いかけていた太陽のことも、  すべて、  忘れてしまっていた――  秋の終りに降った雨は、         少女の身体を震えさせ、               魚はまた何処か遠くへ流れていった。                            どうか、              春になるまでには救われないものかと、                             僕は、                        光を求めている。  僕は、  ひとり、  冬の夢から逃れることもかなわずに、  ただ深く、  少女の眠りすらわからぬ彼は海底よりじっと少女を見つめ、  それが二度目の眠りだということも、  何も知らないまま、  ただひとつ、  失った孤独を探そうと、  死んでいく魚たちのたましいを、  追いかけ続けている。 ---------------------------- [自由詩]あとがきにかえて/e.mei[2009年8月10日13時29分] 「僕たちは遠くの遠くの空の向こうへ行かなくてはならないのだと生まれる前から約束されていたのだけれど、」 (蠍は現実のなかから降りてきていました。  機械鳥は最後に僕か君かを選ばなければならなかったのでしょうか、  双子のお星さまの後ろで永い時間をかけて僕は、……)  記号の森のなかにある世界樹に結びつけられた時を打たない時計、 双子のお星さまが見えないと機械鳥は小さく鳴いていました。 僕が世界樹に手を伸ばしたら、 時間と云う幹から魚たちがたえず流れてゆきます。  マーキュリー、  僕には君の提案に反対する理由なんて何一つありませんでした。 僕が世界樹の涙のなかで泳いでいる魚たちの名前を うまく発音出来ないでいるから、 マーキュリー、 君は、 遠くの遠くの空の向こうに飛んでゆこうとしている機械鳥を 無視していたのでしょうか。  マーキュリー、 「コールサックのなかから永遠を見たい。」 それだけ書かれた短い手紙を君が寄越した翌日から、 記号の森には永い冬がやってきました。 言葉の雪が降る空の下で、 欠損した水仙はもう 必要のなくなった音楽に言い換えられていたのだと僕は知りました。 (君に伝えたいことがあります。) (僕は名前のない少女を抱きしめてあげたかったのです。) (今日も機械鳥の骨を見下ろして、  生命に別れを告げている少女を。) (忘れてしまうほど永い、  永い時間が経っても機械鳥の骨が埋まったままだったと云う  現実と共に。……)  マーキュリー、  世界樹に種を重ねればすぐに水仙となることを君は知っていましたね。 (ところで、  君の聴いている音楽は相変わらず天上の音楽なのでしょうか。) 僕の前では意味のない音楽たちが踊っていますが、 水仙は時を打たない時計から離れられずに涙を流しています。 それは一瞬の出来事。 君の嫌っていた世界での、 本当に一瞬の出来事なのですが。 「瞬きをしないで。」  世界樹から離れた冬の川で、 僕は少女と初めての写真を撮りました。 その日の世界は白かった。 少女を見失いそうになる僕を少女はどう思ったのでしょう。 たった一つの存在すらも留めておけない僕たちは、 生まれた日から何かを失い続けていました。 少女の髪に触れたあとに君からの手紙を開く。 知らない機械鳥は何も語らずに空を飛びました。 僕は君の言葉の意味ばかりを考えて、 僕と少女の名前は雪みたいに何も意味せずに降り続いていた。  マーキュリー、  時を打たない時計から流れてくる魚を機械鳥が食べていますよ。 機械鳥の美しい羽根が落とすものは名前だったのでしょうか。 夜明けに向かって流れる魚を食べた機械鳥は世界の沈んでいく様を見て、 また、 小さく鳴きました。  マーキュリー、 「これが僕からの最後の手紙になるでしょう。」 * (ふたつの瞳で少女を見ながら、  君はおそらく共有出来ない時間について考えていた。  少女は時を打たない時計の前で衰えた死を数えているうちに、  等しさの意味について直面したのだけれど、  蠍には必要のなかった永遠と云う言葉が、  記号の森に還ったことにより少女の視界は白い雪に分解されてしまった。) 「あそこで青白い火がたくさん燃えているよ。  火を数えていけば神様が降りてこられるの?」  少女は僕に訊いたのだけれど、 僕は答える言葉を持っていませんでした。  誰にもわからないから僕たちは記号の森から動けないのでしょうか。  君の指から零れ落ちる星星は、 光の果てを知っていたはずなのに。  だけどいつか時を打たない時計が世界樹からはなれる時には、 空一面の星が少女を待っているのでしょう、 (少女にだけ、真実を隠しながら――)  少女は幾度となく記号を数えながら終わらない光の火を見ていました。  月の光に染められた水に隠した機械鳥の骨からは何も洩れません。  死んでゆくものたちは果てのない海へと歩いてゆくばかりでした。  遠くに甦った君の姿も、 まぼろしに包まれた闇のなかに消えてゆく事を僕は知っています。  海が永遠を見つけたあとに嘆いて悲しんでいた魂は、 少女の夢を見る僕の姿だったのでしょうか。  月が隠れてしまえば夜明けの魚に群がってくる機械鳥。  彼らは今日と云う日を忘れないよう羽根に刻んでいました。  君はかつて生きると云うひとつの悲しみの終わりを歌にしたけれど、 君は結局、 僕にどんな運命が待っているというのかを教えてくれませんでした。…… (海はただ待っていた。  永遠を、  重なり合う日々を。  少女が空を見上げれば白鳥のくちばし、  アルビレオ。)  白んだ空に連れられては 果てのない夢を視なければいけなかったと、 君は言いました。  僕が何も知らないまま 永遠の海は神様の時間に達してしまい、 あとは、 ただ何処までも記号が広がるばかりで、 森の景色が変わろうとしているのだけは何となくわかりました。  世界樹のまわりを飛ぶ機械鳥は夜ごとにいれかわり、 いれかわり、 僕と少女は最後に撮った写真の前で、 空白の最果てを誓い合った。  記号のまわりではまるで天の川のようにたくさんの たくさんの機械鳥が眠っていました。  君が川に流した夜明けの魚はリチウムより美しく燃えていました。  それは蠍の火よりも美しく燃えて、 少女は永いあいだそれを見ていました。  息を洩らした火が生み出した霧は僕には眩しすぎるから、 僕たちは水面に永遠を描いて、 少女だけが、 消えていく火が霧に包まれてゆく様を見ることを許されていました。 (そして消滅と云う一つの悲しみから星星は  子供のいない星座へと還ってゆく。) * 「マーキュリー、」  今日も南十字を落ちてゆく機械鳥を見れば、 過去と云う存在を忘れてしまいますね。 僕は君を視ていたのだけれど、 君はアルビレオの光を視たと言いました。 僕は蠍に見つからないよう、 双子のお星さまの後ろに隠れます。 (何かを失ったのとお星さまに訊かれたけれど、  おそらく僕たちは、  はじめから空っぽだったのではないでしょうか、) 頭上には僕たちを見下ろす機械鳥がいて、 マーキュリー、 君はもう世界樹よりずっと向こう、 遠くの遠くの空の向こうの見えない処、 コールサックまで行ってしまうと決めていたのなら、 せめて、 名前だけは誰かに預けていってほしかった。……  マーキュリー、  冬を待たずに動かなくなった機械鳥の名前、 僕は機械鳥の名前をうまく発音できません。 機械鳥が眠る土のなかから生命が歩き始めて、 僕は約束された時間に目を覚ましました。 『ある音楽家は、  無意味を追いかけて意味を知った。』と 君は言いましたね。 君の手が星めぐりの歌を指揮していたのは、 君の視たアルビレオが原因だったのでしょうか。 埋められた機械鳥の目は燐光の川を、 見ていたようだったけれど、 君は重なり合う永遠を見つめていました。 (いつか時を打たなくなった時計が、  再び時を打つ日が訪れるかもしなませんね、  マーキュリー、  僕たちには確かなことなんて何もなかったはずですから。) 君は何もかも一切が、 時を打たなくなるのを待っているのだと、 言っていたけれど、 僕たちは、 僕たちのこと以外、 いまだに何も答えられないではないですか。  マーキュリー、  僕たちは光を通過していって、 僕たちは遠くの遠くの空の向こうに行ってしまえば良かったのです。 (双子のお星さまに行き先を訊かれた僕は、  何処までも、  何処までもゆくのですと答えたのに。) (マーキュリー、  リチウムより美しい火に灼かれた君を見失ってから、  一時間半。  プリオシンコーストに反射して崩れてくる波に僕は、  流されてしまいたいと思っています。) (流されてしまいたいと思っています。) ---------------------------- [自由詩]アレジオン/e.mei[2009年8月15日7時43分] クリームで前が見えないけれど 世界には青が降っている 炭酸を抜かないで 誰かの声を聴いた僕は夢中になって世界を振った * 勢いよく噴出した青を二人の子供が飲んでいた 子供たちは夢中になって飲んでいた さよならブルー 北十字から南十字まで転がっていったブルー 静かに眠る子供たちに青が近づいていくから 子供が神さまになって 世界はもう少しだけ優しくなれるようにした 星の場処なんて誰も知りやしない 青よりも青い場処に立って僕は目を閉じた この町の青は透明に近い青だと思った アンタレスを観測する場処は既に閉鎖されてしまっていて どれがアンタレスかわからなくなっても この青い町から見えるのは綺麗な赤だった もうすぐ秋になるのだろう 冬になれば青にかわって白がくる 青い空から青い雨が降るので 僕は目を閉じた 僕から抜けていったのは炭酸ではなくて 愛している と云う言葉だったのかもしれない * あの日の帰り道に友人がクリームに溺れて死んだ そう聞いたのは数週間が経った日のことだった 天国から降ってきているかのようなどしゃぶりの青のなかで 僕は二人の子供がかわらずにそこにいたのをただ眺めていた その次の夜もまた次の夜も ソーダはたえることなく降り続けて 二人の子供はずっと クリームに溺れながらソーダを飲んでいた * 隣町の女が妊娠したらしいと誰かが言った あたらしい あたらしい何かが宿ったのだから世界も 僕も何か変わるのだろう いつからか僕もクリームにまみれていた * 炭酸が目にしみると子供が言い出したのは今年に入ってからだ 炭酸が目にしみることを知ったのはいつからか 僕はいつの間にかそういうものだと覚えていた 炭酸は目にしみる 生まれてくる子供の目にもいつか炭酸が目にしみる日がくる 僕はそう思った 生まれてくる子が男か女かなんてのは些細な 本当に些細な問題で どうにもならないと言うのなら目を閉じれば良いだけだ そして夢を見よう あたらしい あたらしい夢を見よう そして全部忘れてしまわないか * 子供たちが去っていったのは僕の生まれた日 新しい世界の誕生もまたその日の朝だった クリームが少しばかり多めに降っていたから目は赤くなっていた 青い世界で赤い瞳が遠くの遠くの空の向こうを見ていると 無数の星屑が落ちていく ガラスの水車が時々まわって微かにクリームを混ぜている 自分にはそのクリームで前が見えないから 世界には青が降っているかどうか教えてくれと女は言った 炭酸を抜かないで 誰かの声を聴いた僕は静かに青を川に流した * 世界には青が降っている クリームで前が見えない ---------------------------- [自由詩]アナフラニール/e.mei[2009年8月22日20時06分] 頬がストロベリィジャムの女の子が生まれた日にはたしか 僕は君とあたらしい世界について話していた その日が何曜日かなんてのは僕たちにはどうでも良くて クリィムを混ぜている水車を見るとその先には 誰がつくったのかお菓子で組み立てられた家がたっていた 僕と君にとって今日と云う日は特別何も変わりのない一日で ストロベリィジャムの女の子とは何の関係もない 僕たちはただ 現在の世界の不満を口にしながらアイスクリィムショップに行った そして君がチョコチップのアイスクリィムを買ったあと 僕はチョコミントのアイスクリィムを買って その店にいた少女が僕たちの横を抜けて店の外に出ると 星の子供は永い夢を視ようと目を閉じた 前の世界からあたらしい世界に移った際に上昇を始めた水位は 今もなお上昇を続けるばかりで いつかは此処も水のなかと呟いたのはどちらだったのか 僕は覚えていない 僕と君はこれと言って嬉しい記憶もなく 楽しい記憶もないアイスクリィムショップで少しのあいだ お互いの記憶を重ね合っていた 夏のあいだに終わってしまった世界で君が 淡いピンク色した蝶々のまぼろしを視たことがあったのなら ようすいに沈んでいった女よりも少しだけ多いチョコレイトが君へ 話しかけてくるだろう ばいばいと言ってはいけなかったんだよと言ってから君は その言葉自体つくられるべきではなかったのにと続けた 川を静かに流れているのはブルー 僕たちはそれ以降何も言わずに上昇を続ける青を眺めていた 閉鎖されたアンタレスの観測所が遠くにぼんやり見えていて 空では季節はずれの蠍が心臓をさがしているのだけれど 覚えているだろうか 君が初めてアンタレスの観測所から空を見上げたあの日のことを あの時に泣きながら言った君の言葉は謝罪の言葉だったのだと あたらしい世界になってから気付いた ソーダによって洗浄された世界に生まれた ストロベリィジャムの頬をした女の子 降ってくる祝福の言葉を受け入れる彼女のジャムは蠍の心臓より 朱い色をしている ---------------------------- [自由詩]世界の中心でアイを叫んだけもの/e.mei[2009年9月12日10時02分] (終わる世界、) (青い鳥が空へと流れた、) ようすいに集まった子供は暗くなるまえに家に帰る こころのかたち、人のかたち、 雪を知らないアマリリスを神さまと見間違えたと知らずに何人かは 海のなかに沈んでしまう 嘘と沈黙、 /のなかで 黒い雲から祈りの雨が降って 星の海で漂流するわたしの目をあなたが 食べてしまえば、 鳴らない、電話、 /に、わたしは祈る あなたを見つけなければ百の名前は意味を喪ってしまうのだけど わたしはただもらうばかりで 月の光がいまも みえない、 子供たち、 沈んでしまった子供たちは知っていた、 見間違えた神さまを追いかけていたことを わたし、 忘れてはならない アマリリスは沈んでゆく子供に言葉を渡していたことを、 夜の霧で見えなくなった神さまのことを、 あなた、 終わりを願うのをやめてください 最果ての空に雪が降る、 ひかりは 夜にあかいあかいアマリリスを視た 太陽の欠片、 死に至る病、そして、 あなたは 星に生まれた子供を知っていますか わたし、 空が死んでしまった悲しみから あたらしい誕生を拒絶して落ちてゆく、 わたしは時計の針を進めたいので ちくたく/ちくたく、 誰かが遠くで沈んでくのをみていた それは神さまではなかったらいいねと、 子供たち、 私の願っていたまぼろしの通信をする さよなら/またね/ばいばい、 いくつもの夜を経てもあたらしい朝は やってこない、 (動かなくなった子供は海のなかで  創りだそうとする  新たな言語を、  消えてゆく時は上昇する水位に怯えて逃げた大人たちへ、  Air、  太陽が見えなくなってから咲いたアマリリスが忘れられない  あなたは永遠ばかりさがしている、  静止した闇の中で、  子供たちは流れるひかりを飲もうとしている自分に気付く  堆積する負の感情に  ひかりをうしなったあの星の名前を、  見知らぬ、天井、  /を眺めては思う  みんなみんな忘れてしまったと、  溺れてしまう子供たちもやがて何も遺さず消えてしまうのだけど  あなたもいつかは沈んでゆくものだと知ってるわたしは、  せめて、人間らしく、  /と願う。) マグマダイバー、 奇跡の価値は、 夏に降る雪のなかで音もなく育っている 追いかけてきていた時間の終わりに あなたが眠り続けてた理由を問う 最後のシ者、 生きているわたしたちの言語の終わり わたしは落ちる 青い鳥と離れ 星の海へと、 (Fly me to the moon  /おめでとう、) ---------------------------- [自由詩]終わる世界/e.mei[2009年9月14日13時49分] 「つよいかぜのうしろでうまれたちいさなあわがいます。  あのこはけさそらへとのぼっていくゆめをみたそうです。」  きえていくあわをとおくにみながらのぼってゆくのです  生きているあいだにどうかこのせかいを崩して下さい  少女は名前を喪ったあと人形の背中に凭れながら呟いた  少女はこれから終わってしまったせかいいちめんに  あとがきを書かなくてはならない  僕はきっと星のかずを数えながら自分の名前を忘れてしまうまで  此処にいるのだろう  音のないせかいに光がひろがっていく夢を見たのだけど  すでに存在を失った何ものかの声がきらきら光っていた (陽のない泉に流れているあおいろの名前をした誰かさん、  あなたは生きるという行為を何よりも嫌っていますね。  少女はとても元気ですよ。  せかいがなくなるまであの子はあとがきを書きますから、  双子のいなくなった双子座の宮で眠っていてください。  目を覚ますまでにはきっと明日をむかえていますから。)  ひかりがない     いつの間にか雨が忘れていった光が消えていた     僕が首からぶらさげていたあの子の名前もなくなって     またひとつせかいの足音がとおくなってしまった  人形の右足は砂にさらわれて暗いところに消えてしまう  時計台に立ったかぜが三度目のあくびをするのを待って  時間どおりにはじめる  約束されたせかいの結末を  下から上へ  喉から唇へ  親から子へ  あの子の終わりを決める為の合図を僕は待っている  ちいさなあわは露の降りかかった小さな木々の中から空へと  のぼってゆく  僕が少女の横顔をながめると  少女はせかいの夢をみていた ---------------------------- [自由詩]落日の骨/e.mei[2009年9月23日12時36分] 「僕は生まれるまえから窓のない部屋に住みたかった。  落日の骨は終わらない記号のなかに消えてしまった光の海へとかえってしまう。」 君は自分を求めない問いが何番目にあるのかを知っていたのだと思う 双子のいない双子座を光が通り過ぎて 上昇を始めた水位のなかで泳いでいた魚を 君が愛した男が見つめていたのは偽りの記憶であって 夜になるとそれが証明されてしまうから逃げなければならないと君は言っていたけれど 遠くから流れてくる記号の成分は落日の骨にちょうどあてはまり 生きていた人間たちが並んで待っているあいだは 帰れないという答えに向かって 問題を解き始める 何処からが記号で何処までがわたしなのかはわからないと 独り言を言ったあと 君は僕を拒絶した 双子のいない双子座という新しい記号のなかには水がなく 溺れている人間がいない 僕の部屋に窓がない理由を僕は知っているのだけれど この部屋を出ていっても流れてしまわないで 君にかえってきてほしいというのは僕のわがままだろうか *  君をうしなってから一年が経つのだけれど、僕は君を失ったのか喪ったのかまだわかっていない。当たり前という言葉がどの記号よりも大きくて、僕は何も考えずそれに甘えてしまっていたのだと思う。またがないことをわかっているのだけれど、僕は君との、またという時間を計算することをやめない。 だから教えてほしい 別れという結論に達した落日の骨が放っている光に 違和感がなかった理由を 僕は一人の夜に目を覚ましては後悔している 僕はなんだって窓のない部屋なんてものをつくってしまったのだろう 扉が開かれた時に侵入する光は窓のない部屋にすぐ散らばって 廊下では 上昇する水位に逆らいながら魚が深く深くに沈んでいる ---------------------------- [自由詩]終わる世界/e.mei[2009年9月29日13時49分] ひとつのメルヒェンが世界を往復するあいだに 路地裏の女はひらがなで大きく書かれた しなないという文字を 街の中心地へと押し出そうとしている (光の海で星と泳ぐ少女の物語も日が暮れる頃には薄れていく  六月に生まれた少女は冷たいという感情を  知らないまま大人になるのだろう  毎日僕は誰かに送る最後の言葉をさがしているのだけれど) 一言目にはしなないと言ってください 路地裏の女は目を伏せて言った 仕組みなんて誰も知らないと続けたあと彼女は祈りを捧げた まっすぐに切り取られた世界の上では少女の種子が芽を出している  ひかりがきえる   ろうそくのひがきえるとみんな    しんでしまう     まるでえいがみたいだとおもいながらぼくは    しにんのやまからあるきだしてかみさまのみきにもたれかかる   ろめんをはしるでんしゃをささえるしょうじょといっしょに  ひをけさないようにおわりをみとどけましょう * 一人ですか? 此処にいるのは僕一人だけなのですか? 廊下で目を覚ました僕は世界の神さまに訊いたのだけれど しがもう過ぎ去ってしまっていたことを僕はすでに知っていた またがもうないことも僕はすでに知っていた *  酷く眠くなってきた  六錠ほどの睡眠薬を酒で飲んだ僕は良い気分になって  しさくを中断することに決めた  まるで子供みたいに少女に抱きしめられて僕は少しだけ眠る これで終わりだよ 風が白く見えるところ 世界という負の堆積の崩壊が始まる 通りに雨は降りしきり 終わりの終わりのそのまた終わり そして僕はゼロになる 終わりをむかえる ---------------------------- [自由詩]終わる世界/e.mei[2009年10月29日20時18分] 10月27日 曇 僕は数を数えるのをやめた 「僕はハルシオンになったみたいだ」と に言った  は腕を縦に切ったカッターを机に置いて力を込めた 「おけちゅるゆりかりゅ」  はもう何を言っているのか判らないと云った風情で壁に凭れ掛かり血の泡を噴いた 「ひゅー ふひゅー」 僕は白黒テレビを見下ろしながらハルシオンを三錠のんだ 「あたしたちのことをお母さんはどう思ってるのかな?」  はだらしなく流れる腕の血を舐めながら言った 空気はひんやりとしていた 僕は手に残っていたハルシオンを全部飲んでしまった 「訊かなわからんよ」 僕が無表情で言うと は寝転がりながら 「ならお兄ちゃんが訊いてよ」と返してきた 「僕が?」 僕はそう言いながら の止まらない血の海を見た これはどう扱われるのだろう  が死にでもすれば やめたやめた 僕はその日の夕食をハルシオン五錠ですませることにした もう日暮れが迫ってきている  は死んだような顔をして 明日という路線に転がっている 僕は誰もいない部屋で棒線の雨に打たれながら またひとりけがれない少女を殺してしまいました ぼんやり光る瞳が見えますか あれは柚子の瞳です 涙が流されていく河の果てには 白いワンピースが飾ってる  ――きこえますか 柚子  ――きこえますか  ――きこえますか 僕の殺したたくさんの子供たち 青い鳥のつつくアルファベット A 神様なんていない ---------------------------- [自由詩]終わる世界/e.mei[2009年11月6日13時01分] (この世界にうまれなかったすべての記号たちに  琥珀色した光りが届いたなら――) /星が瞬きも忘れて /死を視ている 世界の空が薄い琥珀のように潤み始めた頃には残されたのは 僕たちだけだった 青白く光る夜の岸に白鳥がとまる 静かな人の祈りの歌が聴こえてくるまでには僕も死ななければならないのだと僕は知っている 蠍の火に焼かれて この夜はふけるばかりで 太陽の姿は久しくみてない / みんな何処へゆくのだろう 僕には知らないことが多すぎる 日々は泡のように消えてゆく 僕と云う記号を遺して 消滅を繰り返してゆく / 僕は雨の降る音が屋根を打つ南通りで白い犬の死体を見つけた 君は濡れた唇から僕の空っぽのお腹に向かって言葉を投げかける 窓のない部屋に隠れている少女の名前 雨の日に禁止された独立は星の瞬きと共に消えてしまった 春の雪を拾った白い犬はこの世界をすくうためにここで 死体をさらしているのだろう 君という記号が上がったり下がったりしている理由を僕は知らない けど僕という記号とならんだ時には写真を一枚撮らせてくれないか 誰も知らない世界の終わりの 写真 (青い記号は鳥になって  空低く飛んでいってしまった) あの日君は何もない世界で唯一の記号だった そこに僕はいない あれからそこには君ではない誰かが訪れたのだろうか いつの日にか 今日という記号の終わりには琥珀色した光りが降る 夜に流れていく青い鳥 窓のない部屋 風のない日に禁止された独立の意味 今日も永遠が永遠に終わらないかくれんぼをしているなら 早く終われよ 世界 ---------------------------- (ファイルの終わり)