マリエの乱太郎さんおすすめリスト 2016年10月17日19時18分から2017年11月19日17時45分まで ---------------------------- [自由詩]お伽話ほか一篇/乱太郎[2016年10月17日19時18分]  お伽話 銀河の向こうに君がいた 禁断の実は渦の中 迷い込んだら逃げ出せない 小さな小さな恋のお話しで瞼が閉じて 朝の雫が落ちたとき ぶらんこに揺れながら笑う君  僕とキツネ 夜 公園のベンチに座っていたら 一匹のキツネが近づいて 僕の顔をしばらく眺めていた 揺れた白い月 もぐらなんかいるものか 舌打ちの後の砂煙 尻尾が大リーグボールのように消えていく ---------------------------- [自由詩]あけまして/乱太郎[2017年1月5日1時55分] 文章の欠片が部屋の隅で笑う 僕の脳内で言葉に白髪が生えてきて 杖のない単語がよく転んで痛がってしまう 今日は元旦 「あ」から始める餅つき 「け」「ま」りで祝う祈願成就と健康第一 「し」んと見とれる初日の出 「て」を合わせて初詣 何がなんだか分かりませんが 何はともあれ おめでとうございます ---------------------------- [自由詩]風邪/乱太郎[2017年2月4日20時55分] 冬の群れが私を襲い 迷い込んだ高熱の森で誰かを叫ぶ 私の足腰の筋肉は溶けて 歩く音は電池の切れかけた時計 そして この時だけは合法と見なされる白い粉を 何度も体内に注入する 四角い部屋が丸みを帯びて とげのない代わりに水浴びの刑が始まり 悪魔がやたらと微笑む あいつの正体は悪魔だったのかと 今更だけど気づき 温かい春の歌が聞こえてくるのを 今はただじっと待っている ---------------------------- [自由詩]無音の部屋/乱太郎[2017年2月22日20時26分] 音のない電話が置かれて わたしはそこにはいなかった 涙がこぼれそうな音楽が流れて あてのない悲しみはもうそこではない気がした 楽譜が全く読めないわたしは 楽器に触れても音を奏でることが出来ない 夜中の室内は音符も見当たらず 慰めも労わりも盲目の詩の書きかけで終わりそう 音が消えた電話が震えた ただわたしはもうそこにはいなかった 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紅い鱗がまた一欠けら剥がされて沈む ムラの中で流されたままで 僕ですよと発言してみる が 関係ないだろと叱咤される ボクひとり 黒い尻尾がムラの秩序になんとか絡まり凌いでいる ---------------------------- [自由詩]失われた回帰線/乱太郎[2017年4月4日20時03分] 失われた回帰線(そこは闇となって届かず 赤ん坊の泣き声だけが今でも響き 菜の花が一面に咲いて揺れる高原の陽炎 詩となる前の無数の言葉の散らばりがあって 繋げることがままならない僕がいる 感情という無色の糸が 無意味に流れていくだけの夜の静寂 山の頂上から突き上げられたかのように 満月が浮かんできて僕を嘲笑う ---------------------------- [自由詩]影/乱太郎[2017年4月23日13時44分] 光りが僕の身体を切り取り地面に張り付ける 重力に引っ張られ立ち上がることはない そこにいなさいと蟻が行進する 夕日が沈み影が消えてしまって もうそこには僕はいない 缶蹴りの音だけは 懐かしそうに僕の影といつまでも ---------------------------- [自由詩]北の桜/乱太郎[2017年5月6日18時08分] とっくに終わったよと あきれ顔で南の国に言われそうだが 待ちに待った開花だ 長かった冬に別れを告げる合図だ こんにちは 思い出を咲かせる 友よ ---------------------------- [自由詩]朝と夜/乱太郎[2017年6月9日20時25分] 制御のない朝の起動 太陽はいつまでも膨らみ 乱雑な鳥の鳴き声に光は拡散していく 二つの皿の擦れる音が 寝ぼけ眼の時間を砕き割り 名のない闘牛を歓声の輪の中に運ぶ 朝はこうして夜を寝かしつける 恐ろしい夢は霧に包まれて 明かされることはない 埋もれてしまう秘密の黒の書 歴史はもうひとつの物語を封印してしまう そして始まる 見えない針の不規則なふれがいつまでも ここは 点滅を繰り返す交差点 朝と呼ばれる清潔感漂う新緑の世界と 不気味なもう一つの時間帯 躍動を忍ばせて夜は片目をちらかせる 月は隠れてはまた現れる 星の輝きは狂気の爆発と正気の安産 見えない力で織りなす 過去への憧憬と無理数の新陳代謝 柵のない草原で牛が吠える 夜はそして朝を妬むだろう 乳牛までも絞られて 朝と夜 二つの酔いどれが運命を照らして回り続ける ---------------------------- [自由詩]飛沫/乱太郎[2017年6月18日22時46分] 街は揺れているだろう 茜色の飛沫と共に ひとつ両手で掬ってみれば 紫陽花のように 移ろいでゆく陽炎 瞳に映る乱舞に 惑わされ それでも飛び散る 飛沫は 明日を運んでくる ---------------------------- [自由詩]森の奥で/乱太郎[2017年6月20日22時49分] あなたが怯えていた八つの音符で紡がれた そこにしかない織物は 夜の冷たい川でなんども染められた幻想の世界 そして聴こえてくる九つめの誘惑の叫び 異端の絵画に連れ去られていく眩暈を覚えながら あなたの吠える姿に 太陽の輝きが黒い鍵盤の上を叩いていく ---------------------------- [自由詩]交響詩/乱太郎[2017年6月24日17時58分] 繋がりのない低音の言葉ばかりだが それでも今日は落ち着いて聞いていられる これはあなたの心の交響詩なのだから いくつもの楽器が奏でるように あなたの感情はいくつもの思い出の多重奏 おい また泣いた カップにコーヒー注いだら マーラー交響曲第五番「アダージェット」もどうかな ---------------------------- [自由詩]探し物/乱太郎[2017年6月27日23時58分] 今朝サンドイッチを食べていたときまでは 確かに僕は僕のものでしかなかったろう いまこの個体は他人の手で弄られ 僕の不確かさを探している 血小板よりも小さくなった未来は ぼんやりとした瞼の向こうで 時おり点滅して僕を呼んでいるようだ 見つかったかな あなた方の探し物 僕は芝生の上で寝転んで僕の雲を探しているよ ---------------------------- [自由詩]パヴァーヌ/乱太郎[2017年7月6日23時08分] 六つの舞曲があなたから贈られ 時を奏でる精霊に妬まれた 愛を歌う神話に戻ったような物語が いま回転盤の針を震わせて 狂おしくヴァイオリンの音色とともに 目覚めると 珈琲の飲みかけのカップと 封を切って読み掛けの一通の手紙 溜息と朝の光とのパヴァーヌ ---------------------------- [自由詩]月の雫/乱太郎[2017年7月17日9時18分] 肺の中に巣食った僕の三つの驚きは 実は月の雫なのだと いつの間にか飲み込んでしまった涙の欠片は あなたから遠いところのノクターンの苦さ これから先もいくつ回るだろうと思えば 月は微笑んでいるように見えてきて 僕は息のできる喜びを素直に感じている ---------------------------- [自由詩]すみれ/乱太郎[2017年7月22日17時46分] 紫色した小さな幸せ どこにでも咲いている可憐な幸せ 嫉妬に狂わされるのは あなたが娘のように可愛過ぎたから 花びらがいくつも咲いて あなたはブーケとなるでしょう すみれは あなたの化身 微笑みを運ぶ星となる ---------------------------- [自由詩]七月の夕立/乱太郎[2017年7月30日11時01分] あなたが両手で抱えている苦しみは 陽炎の中で揺れている紫陽花なのでしょうか それとも 遥か遠くに見える積乱雲なのでしょうか 小さな水たまりに落ちた 一滴の言葉が一面に広がり 底なしと掘っていこうとしています もう必要とされていないのでしょうね 私の肉体は六月までと 一度は宣告されましたし あなたの涙を受けることも無かった 真夏の日にうっかり飛び込んだ言葉は 梅雨明けには程遠いようだ まだ降りそうもない ---------------------------- [自由詩]ある日/乱太郎[2017年8月19日12時57分] ある日 歩いて近くの図書館に行った 詩集を一冊取り出して 椅子に腰掛けて 読みだした 十五分もたたずに なんだか瞼が重くなってきて あれれ ふんわり 文字が 二重三重に揺らいできて 紙の上で踊り出す そう言えば 近くの公園から 盆踊りの唄が聞こえてく・・・・ ---------------------------- [自由詩]波長/乱太郎[2017年10月4日15時02分] わたしの波長は沈む陽に重なり合って ポチの波長は雑踏の音を消す あなたの波長は銀河の渦から生まれ 冬の波長は生まれいづる幹の芽 わたしの波長はノイズのようで あなたは綺麗な踊り子のステップみたい あなたの波長で音楽が鳴らされると 星は円い起動で動き始めて止まらない わたしはあなたの波長に近づきたいと願うが あなたはいつも琴の響きのように 子を抱く母の温もりに 蟻が戻る巣の中に 塵が堆積する深海の底に そっと隠れていってしまうのです ---------------------------- [自由詩]トロント行き623便/乱太郎[2017年11月6日21時10分] やがて知ることにだろう  わたしの真実 毒の入った林檎をいくつもしまっておいて いつ胸の奥から取り出そうか 考えることはそのことばかりになってきた 沈黙の呪文がひしひしと忍び寄る わたしを目覚め起こさせる 漆黒の二時半 カナダ行きの国際便に 今日もまた遅れてしまいそうだ ---------------------------- [自由詩]おしかり/乱太郎[2017年11月7日16時54分] 今日も言葉と友達にはなれなかったな 何かしら考え思い発してはいるが その場で消えていくものたちばかり ああ 明日僕を叱るかもしれない友は 今度はどんな言葉で待ち伏せしてくるのだろう ---------------------------- [自由詩]洗浄/乱太郎[2017年11月12日11時51分] 払い落とされるのが 私自身の精霊と言えるものであるならば もう悩む必要はあるまい リンゴが落下する 画家は決して筆を取らない これに関しては逆らえない伝手はないし 永遠の壺の中身は空であることに気づかない 私はいずれ埋められる 生きている意味という 正解が見つからない数式の森で 赤い林檎を手にした魔女 無色な生地に二本の針が泥を付け コインランドリーでの洗濯機の中いつの間にか 一件の一人称が消滅した ---------------------------- [自由詩]て・き・べ・ん/乱太郎[2017年11月14日14時03分]  て・き・べ・ん              邑輝唯史 丁寧に入れた人差し指を肛門の中でくねくねさせて 気持ちいいものだと思っていたら 息を吐いて次は息を吸って言われて これはもう陣痛の苦しみ 高齢出産で何を産もうとしているのでしょうか おかしいな 摘便と言われ 昨夜からの苦しみは もう安定期に入っているはずと 首を傾げられては もう桃太郎伝説やかぐや姫を超えている 明日どんな子供抱えているのか 僕は今夜落ち着いて眠れそうにない ---------------------------- [自由詩]たまにはベンチに寝転んで/乱太郎[2017年11月15日12時17分] 後何日かなと考えていたら 悲しくなっていくよね 僕の命 そして生まれてくる命も必ずあって 輪廻転生も捨てたものじゃないと思えば この世界はいつも忙しい ここはひとつ何もかも忘れて 詩集一冊取り出して 雲に運んで貰おうかな ---------------------------- [自由詩]視線/乱太郎[2017年11月16日9時34分] 白い湯気が十二月の肩をやんわりと叩きます あとでお疲れ様でしたと 家内の肩でも揉んであげようか 大晦日が近づいてもゆっくりとしていられず 首から上はいまも世間に見られている気がする キリマンジャロの雪は永遠に溶けない ---------------------------- [自由詩]空へ/乱太郎[2017年11月19日17時45分]   母音がうつむいて部屋に籠る 空はもう投げ出された孤児となる 白い鴉の群れ 消費期限の過ぎた救命用具の欠伸が聴こえる LP盤のレコードが針を探して 書きかけのままの日記帳    おお空よ    わたしをのせた空    わたしを忘れてしまったのか    いつからか! 戦争があった 遠い遠い遥か異国の地で空爆の断末魔 寝た子はもう起きない    おお空よ    人々の願う空    もう見飽きたのか    血に染まる大地と瓦礫の山を 無数の矢を飛ばす青い狩人 ストーンサークルはもう時の鐘を響かせない ミトコンドリアの海に竜巻が起きて     おお空よ     歴史はもう戻らない あなたの御手に委ねられ もはや行きつくところまで      ---------------------------- (ファイルの終わり)