壮佑のsalcoさんおすすめリスト 2012年6月21日23時28分から2014年3月16日23時57分まで ---------------------------- [自由詩]生きる証/salco[2012年6月21日23時28分] 舌を切られた者はともかく 一度口に放り込まれたら 二度とキャンディーの味は忘れられない どんな果実よりそれは甘く どんな甘味より刺激が強く 思うだに唾液が溢れ 食べ続けても満腹感は決して来ない 例えば愛とはそんなもの 虫歯予防は根気が第一 かつて我々はサバンナに暮らす 歯磨きも靴磨きも要らぬ 素朴で謙虚な裸族の子ら 無心で無垢な未開人の子らのようだった 貧しい親の精一杯の供与に充足していた しばしば空飛ぶ夢は見ていたものの そしてある日 異教徒の毛むくじゃらな指先から 口の中へ転がり込んだ宝石の味を知る 宣教師の熱意が あるいは無用の節介が 土人の子らの舌上で至高の音楽を奏で 至上の夢となり最大の罪過となったように その時以来我々は 愛に焦がれ、欲し続ける虜となった 何か大きな堕落の陶酔ででもあるかのように それなしには生きてさえ行かれぬようだ 狂おしく渇望し 追い求め打ちのめされても 震える手を延べ救いを乞う 麻薬中毒者のように 庇護を求める捨て犬のように 時には見境ない悪食漢のように そうしないと生きて行けない まるで心臓が 誕生時に傍らで鼓動していたシャム双子の 分離されてしまった片割れを探し求めて 盛んにくっつきたがっているみたいだ 時限装置を組み込まれた かくもか弱き我々は なべて生物の存在理由である生殖以外の目的で エゴを毛布でくるみ苦痛を緩和する愛情を求め いつまでも乳児のような幸福に包まれていたいと願う そうした状態に自分を置かないと 心が荒んでミイラになるか 発狂して狼男にでもなるか 老いさらばえた透明人間になってしまうと 孤絶の懲罰房に怯える人々は サファイアの瞳を差し出した王子の像と その足元に転がるツバメの幸福については 忘れてしまったようだ 修道院の塀外を ありふれた日常に笑いさざめく人々は 強制収容所で自ら命を差し出し餓死に赴いた あのポーランド人神父の幸福については 知りたくもないようだ ---------------------------- [自由詩]腸詰めをものする/salco[2012年6月24日23時55分]  成分非表示 1本のソーセージを自我とする 貫く串はリビドー又は時間軸だろう 小麦粉と溶き卵、それに砂糖 このブ厚い衣が自尊心 適温の食用油で適宜に揚げる これは処世術(セオリー)と言える 外はカリッと 中はフワッフワ 仕上げにケチャップとマスタード 適量の楽しみ、スパイスの添加は欠かせない こうするとソーセージの質を問わず おいしく食べられ、小腹を満たせる 実にコンビニエントだ そして串の尻にこびりついたカリカリの欠片 このいぎたないひとかじり分が恐らく 私の実質  誇大広告 1本のソーセージを戯画化する それは男性器1本しかないだろう 性欲と繁殖の前哨基地いや砲身 雪隠詰めの朕詰めはだがしかし 噛んではいけないのだ 優しく舐め且つ適宜に吸わねばならない この作業は 雑食動物の歯牙にとって厄介な事だ およそ ヒト科以外でこの業に励む動物はいるのか ま、犬猫のは自己グルーミングだ 母親以外はやらない 朕の支配欲は 一定の女性器への収容により鎮静し めでたく去勢を見る 「属する」 それがヒト科唯一の幸福論である これをケツ論という 属性の恒常的安泰を得てヒトは初めて 自由への飢渇で心おきなく遊ぶ事ができる これを心因性解離包茎もしくは いい御身分という フランクフルト・ソーセージの自己認識 この過大評価は幻影でしかない 何故なら怒張とは方法論の過程形態であり 自ずと委縮を以て完了とする でないと日常生活に支障を来す これは体面の対海綿体機制 もしくは淫果おほほほと呼ばれる 男は神経学的に不利ですよ 形態機能からしてストレスフルだ 長生きを望めるわけがない ---------------------------- [自由詩]ぬり絵する女/salco[2012年7月3日23時26分] 春が来るたびに 色が褪せて行った 女はテーブルに きいちのぬりえ を開き サクラクレパスで塗って行く 夏が来るたびに 心が剥がれて行った 何ひとつ帰り来ぬ家の 何ひとつ得られぬ部屋で くすんだ顔に笑さえ浮かべ 好きな色で好きな色で好きな色で かわいらしくかわいらしくかわいらしく 線画の少女に世界をこさえてやる 十六色で施して行く 雨が降るたび 輪郭が失われて行った 今日のさっき が昨日と連れ立ち明日の崖から身投げする 女は塗りこめて行く 何とも知れぬ面影を いつか見た空 空の青 空の青 チューリップの赤、チューリップのチューリップの ちょうちょの黄色ちょうちょちょうちょ 陽が射すたび 女は消えて行く 衰えた指で泡立つまま幾重にも幾重にも交差した色彩は 灰の靄 拡がって行く ---------------------------- [自由詩]黒アンモナイト記/salco[2012年7月21日0時09分] さかんに水が降りますね 明日に蓋でもするように おびただしく注いでおります 地面の下はどうなっているだろう 私はこんな時決まって 泥濘に埋もれた兵士の白骨を連想します それから恐竜の化石とか みな雨に濡れていましょうから 消え去った者どもに感応してしまいます 江戸では汚れた箱枕に頭を乗せて 廓の女もこうして大雨を聴いていたでしょう 多分、里の親きょうだいの暮らし向き 恋しい男の身の振りや それから寺の絵草子で見た、 もっと昔の女の境遇なんかを想い なぐさんでいた筈 雨はもう10億年間降っています この星の中心には巨きな巨きな洞があり そこまで水は届きませんから きっと圧縮された堆積の質量が 赤のきりんや青の半島となって ぐるぐる、ぐるぐる、回っているに違いない そこにはまた銀の大滑り台があり 月の夢やら太陽の花やらが 周りを咲き乱れているのですよ だって、この星は夢を見ているのですから 滅んだ森林や湿地の時間をしまって ほら、遺構ばかり地表に現われてありましょう? 水は、過去へ過去へと流れます 巨きな巨きな大洞の上方、1千メートルほどに 地下水路となって循環し 果てない循環に循環を循環し ですからユカタン半島はおおよそ晴れているのです 今から27年後に生まれた、 赤い服を着た4歳の私が遊んでいますよ ---------------------------- [自由詩]毛が濃い・村上春樹/salco[2013年5月6日23時20分]  毛が濃い け‐がこい[怪囲い] 北陸地方に伝わる、悪霊や妖怪のたぐいを封じるまじない。紙垂(しで)を連ねたものや消石灰、小麦粉、片栗粉、米粉または春雨、 ビーフンなど、とにかく白っぽい物質で結界を表現する。 けが‐こい[怪我恋] 二人のどちらか一方または双方がひどい目に遭う恋愛。煩悶や失望、時間の浪費といった主観ではなく、DV受傷や感染症罹 患、人工中絶、貧困、連帯保証、破産、倒産、一家離散、放火、ストーカー被害、心中未遂、殺人未遂、PTSD、服役など実際的な損害を伴う場 合をいう。 けがこ‐い[華雅古井] 兵庫県たつの市揖保川町の古刹、揖保輪唱寺に伝わる井戸。痔疾のため比叡山での千日回峰を2日で挫折し寺に戻った和尚 がこの井戸端でふんどしを洗っていると観音菩薩が現われ、尻を冷やすなと黙示したという由来がある。 ケガコイ[Alexandre Kegacoy] スコットランドの民族学者。何故スコットランド人が他民族、特にフランス人からしみったれ呼ばわりされるイン グランド人にしみったれ呼ばわりされるのかを主に研究した。著書『鋳掛屋ジョンの気鬱』、『投影の作為 パラソル/こうもり傘/雨合羽』など。 (1891−1958)  村上春樹 ムラカ・ミハルキ[Mùraka Miharki] フィンランドのシンガーソングライター。本名ムッラ・カミルハキ。キュメンラークソ県に生まれ、成人後は 労働と納税を拒否して社会保障と万引で生活し、自主制作アルバム「フィヨルドが何だ」でデビュー。シングルカット「人類はむせる」がユーロチ ャート87位のヒット。売れてからの収入を社会還元と称して宝くじ購入に注ぎ込む一方で脱税を繰り返し、強制執行で破産後は社会保障と路上ラ イヴ、晩年は万引で生計を立て、肥料小屋の堆肥で暖を取った事による低温やけどが元の感染症により破天荒な生涯を閉じた。代表曲は「残雪マニ ア」、「ヨウルプッキはわかってない」。(1968−2002) ムラカミハ・ルキ[Mulakamiha Luki] ハワイの古民謡。カメハメハ3世・カウイケアオウリの侍従の従妹マニカ・ウエアケコが作者との一説もあ る。  Mulakamiha Luki  ‛O ka mahina hiki aloalo  月が出た出た  ‛O ka mahina hiki ‛oaoa 月が出たワンワン  Kaulana kainoa o ‛olua wale  あなたはとても名高い  Ka mele o makani ke nolu ia moli  世界を巡る風の歌  Akā ho‛olono ‛a ole mau mauka わたしは聴かないけれど  Kawapaka hanohano a Ōe hanohano さだめし素晴らしいのでしょう  Holo pono ‛anake na ho‛olewa ‛anakala ヘコるおじさんにイくおばさん  Ka mai‛a pōkole a ka ma‛i pulu 短小バナナとそぼ濡れ×××   E hula hula hula i ka nahele o Nolowake ノロワケの森でダンスダンスダンス  No ka mea he hana lepo o kanaka mo‛okalaleo 文学は人間のうんこですから  ‛O ka mahina hiki aloalo 月が出た出た  ‛O ka mahina hiki nino nino 月が出たニャーニャー  Kaulana kainoa o ‛olua wale  あなたはとても名高い  Hiki ka loa‛a ia ‛oe  あなたが獲得しますよう  Mulakamiha luki 才人の栄誉を  I ke āina mamao anu a uliuli 寒くて暗い遠国で  Mulakamiha luki 才人の栄誉を 参考資料 イカロス出版『ALOHA!ハワイ語 〜フラとハワイを愛する人々へ〜』エギル・マグネ・フセボ監修・著、他 ※尚、大変に付け焼刃のため単語、文法、対訳とも適当の範囲を越えません。 ---------------------------- [自由詩]Mitä kuuluu?/salco[2013年5月13日23時34分] 漆黒の大サングラスをも 目深のニットキャスケットで隠し うつむき加減の奇異なキープで ポストに封書を投函したあなた その後も投入口に屈み込み 二重フラップに引っかかっていないか きちんと下に落ちたかを 肩を傾げてくれぐれ確認する 心配性も可愛げなあなた バレてます その芸能人帽でもグラサンでもなく 挙動不審と黒ずくめでもなく スタイルいい、なんてもんじゃない あり得ないフォルムが発する選良オーラで バレてますから カジュアルな綿ジャケットからも ジーンズのデニム地からさえ洩れ出る ハキダメ不親和オーラ バレバレなんです ほらあそこで市井のオッサンが さっきから遠慮会釈なくジロジロ見ている 「見てんじゃねーよ、消えろ3B(ビンボー・ブサイク・不作法)」 そんな目ヂカラビームを出せる筈もない 菜々子さん ちょっとそこまで、ベンツ転がす距離でなく ちょっとそこまで、家政婦頼む富豪でもなく 見られてナンボの生業で日本全土に顔を曝し 生業以外で穴のあくほど有象無象に見つめられ そんな居心地と媒体の間で実生活し続けて行く 菜々子さん 嗚呼ハキダメの菜々子さん ---------------------------- [自由詩]便り/salco[2013年5月16日23時14分] 春の風は遠くから来ます 夏の風は遠くへ行きます あこがれ、とは違う 何処か知らない所へと 私を誘います 秋の風は通り抜けます 冬の風は通り過ぎます 喪失を知らしめ 懐かしい者どもとの隔絶を 私に伝えます ここまで生きて私は 墓石に泳ぐ一匹の淡水魚です そのように感じます ところでダムに沈んだ郵便ポストの 一通の手紙 それは誰の為に在るでしょう? すると人生の総評は所詮 水に溶け出るインクに過ぎないと 言えますまいか ---------------------------- [自由詩]再世記/salco[2013年5月26日23時12分] 子に差しのべた腕からは 女の斬られた両腕からは 水が滴った 血でなく間断なく水が 滴り落ちた 空に差しのべた腕からは 男の斬られた両腕からは 樹が生えた 蛆でなく際限なく枝葉が 伸びに伸び繁った おゝ、わたくしが斬った女は 母でありましたか 長は走り寄るとその腕の滴を 両の掌で享け皆に掲げた 砂漠の民よ、砂漠の民よ お前達はもはや渇える事がない そしてここに斃れた男 わたくしと斬り結んだ男は 父であったのだ 見よ、空は緑蔭にさえぎられ 砂漠の民よ、砂漠の民よ 我らはもはや灼かれる事はない こうして 腐れた母体は土壌となり 滾々と水を湧きいだし こうして 干乾びた父祖は国となり 子らに家を造らせた 息子らが種を蒔けば 土の母から父の苗が萌え育ち 娘らが髪を梳けば 幾丈もの生糸となり被服となる 子の子らは 母を細分化して庭とよび 父を増築して盤石となし 境界と利権を巡って相争った 子の子の子らは今日も争い 和合を祈念しながら 未来永劫争い続ける ---------------------------- [自由詩]タルタル新聞/salco[2013年5月29日23時44分]  いちごとたまごサンドの具 いちご1パックを買い 5、6個出してセロファンを戻し 3ドア冷蔵庫最下段の野菜室に入れた 2、3時間後 冷凍庫を挟んだ最上段の冷蔵室が いちごの香りでいっぱいになっていた 翌日は鶏卵1パックを買い 3個を茹でて玉ねぎのみじん切りを晒し マヨネーズ、塩こしょう、パセリ適宜で たまごサンドの具を作った 食パン2枚に使った後ラップをし いちごの香りの冷蔵室に入れた それから1、2時間 庫内がうんこみたいな匂いになっていた  猪木VS. セブン&アイ・ホールディングス 日曜日 食パンを買おうとコンビニに行くと どうも実物に食指が動かずバターロールを買った これも自社ブランドである ハムたまごサンドにしようと切り込みを入れたら 「え?」 ナイフに白っぽいペーストが付き なに生焼け?と 切り口を開いて見ると マ−ガリンが球状に埋め込んである 余計な事を… 私の心は顎がしゃくれた マーガリンはバターナイフで適宜に それから粒マスタードを適宜に それでハムを敷き玉子とセロリを挟みたいのだ この工程を奪われるということは 味つけの仕上げを奪われたということだ こうして「なんだコノヤロー」的な リング中央で挑発中の猪木を胸にわだかまらせつつ 具をぶち込み 気を取り直してコーヒーと居間へ運び ひと口ふた口食ったところ こってりチーズの味わい チーズだったか贅沢な事だと驚いて 台所へ包装を確認しに行くと やっぱマーガリン入りとなっており おみそれしましたセブンイレブン ---------------------------- [自由詩]退院/salco[2013年6月6日23時25分] スー・チーは怒っていた 歯石に覆われ摩耗もした奥歯を3本抜く その際の全身麻酔が老いた腎臓に負担となる為 昨日から右前肢に入れられた点滴の針が よほど苛んだのらしかった レントゲンやら抜歯中の画像やらを見せるテーブルの上 キャリーの中でウーとかシャーとか唸っている こんな事は初めてだと、担当医と飼い主が笑う横で あんた達が大嫌いだ、いなくなれと威嚇している それが証拠に 「うるさいわねぇ」と床へ下ろすと静かになった けれどスー・チーの不安と不信は帰路の間じゅう続き                 いつもはじっと座っているのに盛んに動く その度にキャリーは重心がずれて傾ぐ ネットの小窓に鼻先を押しつけて外気を嗅ぎ 逃げたがっている 飼い主に手を噛まれたよね、スー・チー ---------------------------- [自由詩]宇宙のリアリティー/salco[2013年6月11日23時21分]  アースウインドアンドわしじゃ 私の中のピッグス粒子 はブヒブヒブヒ 私の質量 とゆーより実質量を造作する 去年買った26インチが穿けない 腹を引っ込め 腰を捻じり 肉を掴み上げ 尻を突き出し どうしてもファスナーが上がらない いい加減ヤバイよ〜ん 心身共にラード袋だ 地球よさぞかし重かろう 足元見ればひずんでいるよな… おっしゃ、明日からおやつはにんじん、トマトだ 明日からね ブヒブヒ (ピッグス曰く)  でもさー、夏からダイエットって遅くねえ? (ミー曰く)  だねぇ (またピッグス曰く)  でさー、お前の夏からポテチせんべい取ったら何が残る? (ミー曰く)  うーーむ。…プリンとアイス? (ピッグス曰く)  せーの… (ミーとピッグス一斉に曰く)  バカタレーーっ❤ ---------------------------- [自由詩]悪魔/salco[2013年6月13日23時34分]     悪いことして、理くつくっつける人間は、用心しなきゃなんねえぞ。 理くつさこいてやってくる奴あ、用心しなきゃなんねえ。                    「ひかりごけ」武田泰淳 頭にちらつき出す 夜の誘惑 振り払うほどに 頭蓋の闇をチラつく いけない考え 必ずや克己心を打ち砕く 女の敵 ひとたび咥えてしまえば 踏みにじられる それは自尊心の音かしら 悪徳はおいしい あなたには抗えるだろうか あなたは抗い徹せるのか 歌舞伎揚げ ポテチ 内なる欲望 その誘惑者は悪魔と呼ばれる 求道者イエスも岩屋で渇きと空腹を覚え 壮健な男であるからには 女体なんぞもチラついたことだろう 疲れもし、思考が散漫になり 睡魔に襲われもしただろう しかし全て退けられた その意思堅固は後世に喧伝されるほど 超人的なものだった(らしい)からだ しかもかの時代、かの地にも せんべいとジャガイモは存在しなかった 信じ難いことに いちごヨーグルトやモンブランもだ お菓子は悪魔か 製菓会社の企図が悪魔か 仕入れて小売りするスーパー、コンビニは 悪魔の手先か 素通りの通行人が数多いる以上 立ち寄り購う自分に根源が在るのは確かだ 需要という悪魔  マッチ売りの少女  この子がいぎたなく見る幻影  これが貪欲とされないのは  貧窮、薄幸の限りを前提とし  厳冬期の児童労働と飢餓を資格条件に  非行にも現住建造物放火にも走らぬ清廉な  世知に疎い思考様式の報酬として  貸与された暫時の現実逃避だから  もしくは低体温の末期症状であり  もうすぐ「慈悲」が授与されるからで  行き交うシカトを決して煩わせず  推奨される無抵抗主義を貫いたならば  必ずや脳内麻薬の恍惚が訪れ  叶わぬ羨望と欲望を思うさま眼前に陳列し  なつかしい祖母のお迎えをも幻視しながら  通行を妨げぬ深夜の路傍で  ひっそりくたばる道理が保証されているとの  キリスト教的道徳律の体現  つまりお手本なのであった  (仮にその冬を生き延びて、栄養失調児なりに第二次性徴が発現し   商品価値が出現してしまえば、人でなしの実父が手篭にするなり   転売するなりして、可哀想な身の上の意味合が変わってしまう。   もはや子ども向け読み物でもない。   小児性愛者が大手を振っていなかった当時さえ、この子の生存は   世人にとって看過できぬ問題を孕んでいたのだ。)  あるいは現代に於いては  非の打ちどころない被虐の可哀想が篤志家をして  行政を動かし公共の福祉を促進させもするだろう  19世紀末、動物虐待保護協会に助けられた  メアリ・エレン・ウィルソンのように  ただ問題は  厄介事には関与したくないヒト科  見たいものしか見ない「ホモルーデンス」  その割合の不変で だからものを食いたいと考える時は最低限 胃が空っぽでないといけない 飽食の先進国現代人はつい忘れがちだが おやつとは 代謝の激甚な乳幼児ならびに少年期 あるいは 日中の苛酷な肉体労働、緻密な頭脳労作時 もしくは低血糖症でもない限り 無用の栄養補給なのだ 人の道に外れる それが証拠に食えば食うだけ太る カロリーを見よ 歌舞伎揚げ ポテチ いちごヨーグルトやモンブランもだ 人の道どころか 科学的にも悪弊が証明されている くわばらくわばら そしてダイエット 痩せたい きれいになりたい願望 自己啓発のごとく喧伝されるこれも 実は虚栄心に他ならない 何故なら「痩せたい」と思った時 きつくなった勝負服や許されざる裸形より先に何故 自分とは似ても似つかぬエビちゃんや 道端三姉妹のいずれか等を思い浮かべたのだ? つまりは周りを蹴落として異性の気を惹きたい まことに僭越ながら仲良し同性にすら 見目をおだてられてエゴを満足させたいという あさましい欲望に発した譫妄なのだ はたまた健康問題上の節制 これも健康奪還か小康の維持により 長生きを目論むエゴの欲ずくでしかない 何故ならそんな貪欲の行使が一体 誰の益になるのか ヘルシーリセッタで潤うのはまず手前だ 更には年金制度崩壊の片棒を敢えて担ぎ 労働人口を搾取してまで余生を楽しまんとする そんなエゴイズム待望論 くわばらくわばら では対極の禁欲 ストイシズムとは何か 滅私 である ストイシズムとは アグレッシヴに幻滅をそのつど排して進む 滅私 である 賽の河原の除雪車みたいなもんだ しかしだからと言って「善」たり得るか 何故ならこれも欲動ではないか 目する時、欲する時 何処まで行こうとそれはエゴだ そも発心とは 世のため人のためと言いながら そーゆーオタメゴカシで自己満を修飾する論理に 必ず依拠している 宗教者のそれも犯罪者のそれも必ず、だ おのれを納得させ安堵させる言い訳 つまり自己正当化でヒトは欲求を解き放つ はぁ〜くわばらくわばら だから人間社会は欲求を 主に目的と様態で正邪に振り分けている が見ての通り 正邪も弁別も立場と解釈次第だ ふぃ〜くわばらくわばら ---------------------------- [自由詩]しげこ/salco[2013年6月17日23時33分] しげ子には 何ひとつ起こらない 小説や映画の出来事は 重子は それを不幸と考え 不当に感じている 茂子は ひとり置き去りにされ 日常に縛られていると 繁子は ドラマツルギーに耐え得ない 自分には微塵も気づかない 滋子は 逼塞に拘縮して暮らす 虚しく年を重ねて行く 成子は 幼児退行で自我を減免する事にし よちよち歩きの放恣を手に入れた 包子は 今さら窓辺のお姫様になり 今さら白馬の王子様を待つ 盛子は 思い定めた妄想で 思いの丈を言いつのり 志毛子は 燃えて酔い痴れ付きまとい 怖じられ逃げられ屍となる 思悔子は 深夜ぼよよ〜んと現れ 手揉みしながら何やら呟く 至夏子は まだまだナニを諦めない 誰かの背中に湿疹が出る 死外子は 固着を強める S・キングお約束の嵐が吹きつのる (リビドドドドドーーーーーーー・・・) ---------------------------- [自由詩]ぽぽち/salco[2013年7月25日23時21分] 夏のくもり空は ぽぽち 雀のほっぺほどの ぽぽち 何だか眠くて ぽぽちぴ 鼻奥がのーのー詰まって来る 太陽も今日はカンバン 食器棚のおちゃわんの高台の中 ぐっすり眠ってるんじゃない? 太陽も ぽぽち はりきってるのは 夏休みの子ども達だけ こんな日はね、大人は眠いですよ ぽぽちになる とても会社に行きたくない 去年の枯葉に埋もれて眠りたい でも寝ころんでると臨海学校とか 林間学校の頃を思ってしまうので なつかしく遠すぎる、 過重懐古をしてしまい 不必要に凹みますのよ だから胸のぽぽちと出る 歩いていると忘れる ぽぽち のーのーをふり捨て、ふり捨て 忘れろ忘れろ、声出して 太陽はね、今日は寝てていいよ ---------------------------- [自由詩]でっかい/salco[2013年8月4日23時20分] 日曜日 公園端にひまわりが伸びていた 二輪はふてぶてしい黄色 子ども達のはしゃぎ声を したり顔で見下ろしている あと四、五本のはまだ早緑 背丈は一人前なのにねー 大きな葉っぱを着て もう虫に食われて しゃがんで見上げると 穴から空がいい感じだ 逆光気味に銀色がかって まるで吠えてるみたい それで撮ったらピクセルでは 雄々しさが消えてしまった やっぱりナマに限るのねぇ 見ればひまわりも とても植物とは思えない 宇宙生物襲来だ! ---------------------------- [自由詩]夏休み ハリポタ煎じ1〜4秒半劇場/salco[2013年8月20日23時56分] ハリー・ポッターと便秘症のカズコさん ハリー・ポッターとお父さん不整脈の予言 ハリー・ポッターと快適床暖房 ハリー・ポッターと殺人おむすび最後の戦い ハリー・ポッターと白菜ジュース早搾り大会 ハリー・ポッターとなだれ込むおばさん下り快速電車 ハリー・ポッターとアルマジロの長男 ハリー・ポッターとこっくりさんアクネ菌の誓い ハリー・ポッターと靴下の森 ハリー・ポッターとヘドロの比重そのものであるかのようなX‐Japanファン ハリー・ポッターとマルチブラケット歯列矯正型吸血ロボット モデストヴァンプ ハリー・ポッターと納豆で親日度を測りたがるヤパン人 ハリー・ポッターとマサイの万引きGメン驚異の千里眼悪目立ち ハリー・ポッターと竹中正久カリスマなき後釜 ハリー・ポッターと顎関節症の怪力女インゲボルグ ハリー・ポッターと言わずと知れた3?の宿業  ハリー・ポッターとビッグ・ベンから降り注ぐモモヒキの謎 ハリー・ポッターと宜保愛子の大群 ハリー・ポッターと催眠商法クーリングオフの書 ハリー・ポッターと首振り走法世界陸上予選落ち ハリー・ポッターとシオニストのモサド対ハマスのファンダメンタリスト ハリー・ポッターとあいりん地区の手配師あられもない談合 ハリー・ポッターと演歌のこゝろ臼木幸江が歌い上げます「かさぶた時雨」 ハリー・ポッターとジェフリー・ダーマーの手料理いかが ハリー・ポッターと朱塗の重箱おはぎがぎっしり ハリー・ポッターと野心家コートニー・ストッデンの直球ライフプラン ハリー・ポッターと高層マンション建設反対住民集会「緑地は我らに」 ハリー・ポッターと国境なき医師団は医療過誤を問われる事などあるのだろうか ハリー・ポッターと逆さまつげ涙目の独裁者 ハリー・ポッターとおんなの業 化粧ファッション清潔なふり陥入爪まれに摂食障害 ハリー・ポッターと大人のふりかけフェニックスカルキンファーロングほか ハリー・ポッターとDELL製品管理担当上級責任者サミュエル・グロスマン ハリー・ポッターと金の花盆底鞋 西太后の子守歌 ハリー・ポッターとファッションセンターしまむらハーマオイニー怒髪天の号泣 ハリー・ポッターと同棲の条件として彼氏に禁煙を迫る菅原智恵子さん41歳 ハリー・ポッターと遺産争奪押入れの宝島あによめの画策 ハリー・ポッターと楽天ポイント地獄のスパイラル有効期限の呪い ハリー・ポッターとベアトリクス・ポッターたいしたもんだよナショナルトラスト今日も聞こえるウッドペッカー世界中からバックパッカー新大陸ではヒッチ ハイカー・ジーザス横目にハーレー・チョッパーデニス・ホッパー袈裟がけトラストずたずたプライドあたしゃ御役御免のベビーシッターか許すものかねマザ ーファッカーアシュトン・カッチャーそこで問題:関係ないのはどれ? ?ピーター・ラビット ?ピーター・フォンダ ?シダーラピッズ ?でみ子 ---------------------------- [自由詩]夏の商売/salco[2013年8月22日23時20分] 風売りが辻々に立ち 夏商い キンギョソウ浴衣娘 花穂揺らし 神楽坂は汗ぬぐう貌 険もなし 逃げ水の小路の先 だんまり暖簾の昼寝蕎麦 白の碁石の艶 黒の碁石の涼 盤に零れてぱち、ぱち、ぱち 日暮れ待ち ---------------------------- [自由詩]バイバイの頃/salco[2013年8月29日23時12分] きみのハウンズトゥースの胸の上 ニャーニャー鳴いている仔猫も やがて大きくなるってことだ 愛されたくて庇護を求めて 尾っぽをぴんと走り寄って来る 痩せた可愛い仔猫だって なのにきみは四対のおっぱいなんて 持っていないじゃないか ひんやり砂丘のように静まった 地平に貧しい乳首がただ一対 なんにも出せないその上に顔を乗せ ニャーニャー甘えていたいけど 心の中は今しも満月冴え冴えと あたしはひどくもの悲しい そしてお腹が空いた お魚食べたい もうすぐよそへ行っちゃうよ ---------------------------- [自由詩]六本指の女/salco[2013年9月4日23時25分] ある所に六本指の女がいた 小指の横に不様な枝のよう けれど女はピアノを愛した 弾けもせぬ楽器を愛した 美しい爪をして ハープの弦の為にあるような 水晶の爪だった 鳥が飛ぶ ガラスの空の中 ガラスの籠の中 りんどうの花 それは淡いむらさき色 はかなく揺れて りんどうの花 女はそれを追っていた 生まれて以来いつも ずっと 手袋の中に隠されてある 陽を見ぬ指 無残な切断面を隠すように 人目を避け 手は一層白い 生まれて以来役立たぬもの 不様な器官と誰が言ったの? 誰が言うの? 言えるの? 目を閉じて 千年の眠りに入る時 美しい声を愛した 耳に聞こえる美しい声という声 鳥は飛ぶ ガラスの空のガラスの籠の中 やがて呼吸は夢へと向かう 潮騒のいざなう先へ漂って行くと やがて鎮痛の温暖な海が眼下に広がる そこに人影は無く音さえも無い 無邪気な青空と思慮の海原と 僅かな白砂だけが地球を折半している やさしい場所を やわらかな世界を愛した女だった ---------------------------- [自由詩]生活/salco[2013年9月19日23時59分] 「御用邸の月」という 那須のお土産を食べている おととい貰った 「萩の月」そっくりな 数多あるパクリもんだ 案の定カスタードが全然劣る 何で真似さえできないのだろう ウコッケイでも使ってるのかしらね本元は  コスト的にあり得ないな んじゃ法的に引っかかるんだわ そーよそーよ、きっとそう わざと、月並みな味に留める「工夫」? というか「追求の不熱心」 やっぱ「いい加減」って事に帰納するわな 萩にも月にもパテントがあるじゃなし 天皇家の方がパクられ放第で気の毒か それにつけても「博多通りもん」 思うさま食いてえ あれが駅前で買える福岡市民はラッキーだよな  でも太るか やっぱ都民でいいや ただ今宵 兼好もパソコンを閉じる月 御用邸で仰ぐのは更なり、だろう 名月とは言い難いが、冴えてはいる 今年も夏が去って行く バイバイ、かぐや ---------------------------- [自由詩]パターナル/salco[2013年10月2日23時19分] 耳を塞いでよく聞きな 俺の生い立ちはこうだ 頭を巡らせてみると 格子の向こうに四角い光 その中からこっちを見ている一本の木 やっと首の据わった俺が ベビーベッドの中にいたというわけさ 何かを探していたのかな こっち側は沈んだように昏い まあ天井には飽き飽きだった 頬に空っぽの哺乳瓶が触れていた あるいはゴムの乳首が コンドームだったかもな 口蓋に貼り付くあのゴムの味 今でもありありと憶えている おまけにオムツが尻にべったり貼りついて はみ出た糞が前に回って干乾びて 脚の付け根までこびりついていたっけよ 誰も来やしねえ 嬰児ゼロから諦念まみれだったってわけだ 一度として王様であったためしがねえよ どうりで泣かねえガキだった 親父は大道芸人だったらしい 人垣の中で剣なんかを呑んでいたんだ 火吹きや鉄棒曲げもやってたが 何と言っても客受けするのは剣呑みだ ハイライトでありクライマックス 芸名はマックス倉井だったかもな      流れ流れて北の町   さびれた駅は風ばかり   街道はるかズリの赤山   栄えはいずこ人いずこ   流れる雲と去る時と   昔語りはせせらぎ葉ずれ   名残やしろの秋祭禮   小春日和の日曜日   影法師が笑った よそ者の汚辱に飢えた田舎もんを前に 偉丈夫の裸形に鹿革のふんどし その日も親父は興行していたんだが ゆんべ淫売にもらった毛ジラミが温もったか 耳の傍を季節外れなブヨが掠ったのかも知らねえ 剣を抜こうとしたその途端 脳髄に衝撃が走った 手が震えたんだか喉が締まったんだか 食道をぶった切っちまったのさ 地面と垂直の頑丈な首の中 突き抜けた切っ先は気管軟骨に触れていた 真上を向いた親父の目が忙しなく動いたのは 信じられねえ夢から醒める為じゃなく この致命的ヘマを何とかする手段を 青い空の何処かに探そうとしたからに他ならねえ ごぼごぼと溢れ来た血が下顎を塞ぎつつあった 何故なら気管支動脈もぶった切っちまい 飲み下す事も出来ねえし なるたけそおっと鼻で息をしても 空気も肺へ下りては行かねえ 刹那の狼狽が引っ張り出したのは単純至極 状況を元に戻すという、最も稚拙なセオリーだった 元の鞘に収めるってわけだ それで切れた血管が塞がるなんて甘い幻想が 大人の分別に働くわけはない だが体内に異物がある、 特にどえらい傷害の元凶が在るってのは 理性の利かねえ不快千万なんだろうよ これには大人も子供もありゃしねえ 畜生も人間もな 今生の覚悟で剣を引き抜いた その、一生に匹敵する一瞬 親父は空を見ていた ある晴れた日曜の ほんの些細なブレが取り返しのつかねえ失態となり 人生を切り裂いた一瞬の為の 頭を押さえられ冥途へまっさかさまの絶望におかまいなく 突き抜けるように真っ青な空を 剥き出しの胸にうららかな陽を受けながら だが親父は呻き声一つ洩らしやしなかった 声帯もぶった切っちまったもんで・・・! 剣の切っ先が輝きの弧を曳くと 盛大な血飛沫が噴出し 親父の顔や乾いた地面のそこいら中に降り注いだ 赤い噴水みてえに迸らせながら それでも窒息か失血のどっちが先に来るのか ずいぶん待たされたもんだ そうやって利き手に剣をぶら下げて 長らく突っ立っていたそうだぜ 死体になるまでな これが長い芸歴の一世一代 白眉の見世物だったってわけよ 唖然と観ていた田吾作どもは ぶっ倒れた血まみれの顔が瞬きせず 尚も口から溢れる血が仕掛けでないと 十全に見極めてから駆け寄った 取り巻いて見下ろす戦きは既にほくそ笑みだ 家に持ち帰り寄合の度に持ち出す 当座の語り草が手に入ったからな どこの爺さんが何で死んだの どこの倅がどう動いただのじゃねえ よそ者の汚辱ほど美味い肴はねえ 異能者の蹉跌ほどの見世物もな しかもさっき投げた銭 肘でも突き合や取り戻せる 麓の町から自転車で駐在が そのまた隣町からパトカーが追っつけて 男の骸を救急車で運んだが 特大の骨壺の引き取り手は現われずだ 旅から旅の芸人だからな 手繰れる女は使い捨て 所帯なんかに用はねえのさ それに英雄気取りを芸で済ますような奴は とうの昔に勘当されたか 顔も知らねえ親父の親父も同じだったのか 墓もねえから誰も知らねえ もし俺がその時息子だったなら 引き取って剥製にしてやったがな 高々と剣を引き抜いた姿 あっぱれな半死半生の立像だ 彫像じゃねえぜ 剥製だ ---------------------------- [自由詩]ぺピータ・ベーチョの或る日/salco[2013年10月7日23時20分] 猫がふと ベッドの上に端座して スピーカーから流れる フランソワーズ・アルディに耳を立て 神妙な顔で聴き入っている 「私の青春は去ってしまった…」 猫にもアンニュイがあるのだろうか 猫も回想に浸る事があるのだろうか この藤猫の鉄火ぶりに 南米風の名を付けていたけれど あんがい前世はフランスの お針子だったのかも知れない 近頃おずおずと 不本意ながらと言いたげに 私に甘えて来るからな ---------------------------- [自由詩]ジェロニモ/salco[2013年10月17日23時36分] ジェロニモは古い雑居ビルの二階にいる 逆立てた金髪の根元半分が黒い 豪壮なプリンあたまの ぶざまに鼻の長いこの青年は いつもどんより倦み疲れた顔で ほぼ毎日同じ電車でプラットフォームに吐き出され カットオフにヨレヨレのソックス ソールの反り上がったドタ靴で 私の二、三歩先を足早に行く まるで自分の置かれた領域には何一つ 楽しい事などなかったし これから足を運ぶ先々にも何一つ ないかのような顔つきで ぶ厚い革靴をだるそうに引きずる 足首はそれでも細く幼い 半分を黄金に染めた髪を彼は毎朝 ていねいに逆立てて固めるのだろう 出陣式然と 鏡に向けて顎を引き 額にしわ寄せ 自己存在の後光のごとき この精一杯な主張を組み立てるのだろう 客の襟足にも触らせてもらえず 床の毛屑を掃き集めて回るだけの ひとかけらの自負も持てない今ゆえに 突き刺さる悔しさ寂しさを不機嫌に隠した 誇り高き戦士ジェロニモは ぶざまに長い鼻の上 小さな一対の目にけれど時たま あどけないプライドと恥じらいがキラリと光る 社会という大工場のベルトコンベアーのエッジで 余人の与り知らぬその夢は 今にも破砕されてしまうかな 青くさい情熱や 生っちょろい義侠心を嗤ってへし折る鋳型の口に 幾度も幾度も呑み込まれ 分別くさいショートカットの 模範俗物が出来上がってしまうのかな ジェロニモがんばれ 我張れ我張れ 昂然と羽根かんむり振り立てて行け 白人どもの捕虜にはなるな ---------------------------- [自由詩]性教育庁唱歌/salco[2013年10月27日23時04分] 初等科之部  よいこはねとけ子守歌 ももたろうのおはなしと かぐやひめのおはなしと ねむれよいことねかされて ごっちゃになったゆめをみて ひとりでよなかにめがさめた ごとごとがたがたなんのおと それからきこえたママのこえ くるしそうにないている おにがむかえにきたのかな つきからたいじにきたのかな まっくらろうかをなきながら ママをたすけにいくよりも ひとりがこんなにこわいから たすけてほしくていくのかな ドアをそーっとあけたんだ あ、 パパがママをいじめてた はだかでプロレスしていたよ パパはおしりをふっていた ママのおっぱいゆれていた パパはうんうんいっていた ママはあーあーいっていた みたことのないかおしてた みたらいけないものをみた もっとこわくなったから ねむれねむれねむれぼく ママがきたらどうしよう もっともっとこわくなり ねむれねむれすぐにぼく パパがきたらどうしよう ねむれねむれどうかぼく あ、 あしたがきたらどうしよう 中等科之部  女子中学生のマーチ 電子を浴びて 今日も辻立つ 挙動のおじさん ポケットの手を ロケットに添え 激しく振って われらを迎える 下校の通学路 ああたぶんアルバイトかニート 部活がある日も(オカズ、オカズ) 部活がない日も(不潔、不潔) 校門外は成人るつぼ(ぴゅっぴゅー) 男子はYの字 黒板に書く 見たこともない 符牒にウケてる 子どもなのよね きたない実物 われらは見ている 下校の通学路 ああAとアイドル夢見てる 塾に行く日も(玉森、玉森) 塾がない日も(松潤、松潤) 時間外は幻滅ドツボ(ぴゅっぴゅー)  註・かっこ( )部はバックコーラス ---------------------------- [自由詩]黒船/salco[2013年10月31日23時13分] 帰宅早々インターフォンが鳴り え? 宅急便? 受話器を取ると 「とりっくおあとりーと!」 子供達の雄叫びが両耳に飛び込んで来た 驚いた かぼちゃランタンがそちこちに並ぶ時節 とうとうアクションが一般家庭に定着し始めたか それでも半信半疑でドアを開けると 五、六人の小学生が隣家の門にとりついている 「ちょっと待ってねー」 言い置いて台所に戻り テーブルのレジ袋は野菜と牛乳 電子レンジの上のスチール籠は コーンフレークの食べ残し たばこのおまけのフリスクと こんにゃくゼリーしかない 「ごめーん、こんなのしかない」 ピーチ味のこんにゃくゼリーを渡して  あ、ストッカーにキャンディーがあった 慌てて戻り 夏に買ったのど飴を 内心ガッカリな子達に配っておしまい 雪辱を誓う でも来年来てくれるかな ---------------------------- [自由詩]セッド シー/salco[2013年11月5日23時13分] 思い描いた未来なんて 無意味なまぼろし 窓のガラスに描いた夢 流れ去って行く雲を数えて 惰眠を貪っている内に ひとり丘に取り残されて 春かと思っていたのに 秋風が立っている 私を育てて来た過去は 消え去った世界 苔むした墓石 思い出を一つずつ取り出して 陽に輝かせている内に ひとり夜の浜に立っていて 足首を洗っていた波が 胸の上まで満ちていた ---------------------------- [自由詩]さよならの刻/salco[2013年12月13日23時18分] にわか雨が去ると 真冬の風が通りみち 樹木も人も躰を震わす 「バーイ!」 「バァーイ!」 交差点の娘たち 無敵の若さにさざめいて もっと綺麗な明日に生きる ヒラヒラと手を振って ひとり素になり歩を早め バインダーを抱きしめて 行き先ふかすバスの横 めがねの小さな女の子 夕暮れはさよならの刻 『ばいばい』 『ばいばい』 背のランドセルはまだ軽く 暖かなすべてが家で待つのに 頬も膝も木枯らしに腫らし ヒラヒラと手を振っている なかよしと別離を惜しみ 明日またクラスで会えるのに 楽しかった今日に幾度も 路地の先は大きな夕陽 そのまた後ろは金のいにしえ 今日という過去も残照 「じゃねー」 「バイバーイ」 はにかんでチームメイトの母親に 歩道を持て余していた三年坊主 大通りの信号傍で別れたけれど 手を振らないんだ男の子って なのにヒラヒラ、白いてのひら 我が子でなくても見送っている 駆けて行く子が見えなくなるまで ヒラヒラ、ヒラヒラ、さようなら ---------------------------- [自由詩]散華/salco[2013年12月16日23時17分] あれは 花の散る音だよ 花びらの儚くはがれ 地に落ちる音 砂に擦れる骨片の 乾いた軋みのようだろう あれは 時の流れる音だよ 流砂のさらさら崩れ行く 風と波の造る音 私の体を通り抜け 遠ざかるだけの足音だ 手は振りほどかれて虚空を掴む 足はもつれて地に埋もれ 日に灼かれた眼も夜に沈む 風は止み 燈芯にたなびく薄煙 左様なら… これは  花の咲く音だよ おののく蕾が導かれ そっと天へとひらく音 すやすや眠るみどり児の 金の産毛の柔らかに かがやく頬のようだろう? 散華散華 一切皆苦 一竅虚通   散華散華 空手還郷 空亦復空 ---------------------------- [自由詩]ひな/salco[2014年3月2日22時49分] 垂乳根の母がそうしてこわれたら 貌あおみどりにこわばって 幽鬼のように見えましょう 蛍光管は外しましょ こわれた母には濃い布(きれ)でなく 産着の色を着せたげます さきの事実は疾くに消え 七十年まえ残照(のこ)るのです こわれた母の手を包み 花咲くお庭へお連れして 背もたれ床几にケット敷き あらざる今を浴します こわれた母に赤ひも輪にし ふたりで綾とりいたしましょ こわれた母は童女です こわれた母はあなたの生んだ こわれた母が凍てた眼で 腹が空いたと言うでしょう ひなあられ薄い冷たい掌に 夢の淡雪あげましょね こわれて心許なく母しろく どんどん消えて行きました なごりの遠い日の光 小さなおほねに透かしましょ ---------------------------- [自由詩]春のおっぱいフェスティバル参加謹呈・其弐/salco[2014年3月16日23時57分] おっぱいの弾力が失せた女は信用できない        … 夭折の男根主義者(ダンコニスト)              セルゲイ・メンタイコスキー  ビッグ・ティッツ 海潮音の記号を火山の如く胸部に怒らせ 円錐下着を巻きつけて練り歩くゴッデス達 哺乳器としての受容器としての女人の思い出 安逸の蠱惑を微笑に湛え 揺籃として娼婦として 世界の男の脳裏に共有されるアイコン達 巨乳小悪魔、爆乳農耕馬としての映画女優達 短命美少女・柔軟玩弄物として あらかじめ褪せ萎み行く量産グラビアアイドル達 あるいは 不老を詰めるだけ袋詰めする謎の美人姉妹 CないしDカップ設定の中道ヤラレ女・アヴェマリア 後世やはり許されざる許され汚女・阿部定まり亜 なんと、無料なんでゴザイマス! おっぱいの時間でちゅよー、地球の紳士諸氏 てめえの母ちゃんとは似て非なる ババロア火山は円錐形でお願いします と フルスロットルで 信楽たぬきが白マグマ噴き上げております と ざけろ馬鹿野郎 円錐も三角錐も存在しねーんだよ どっちか言うとそらお前らの形状じゃねえの? クフ王の陵墓じゃあるめーし 女のは紡錘 しかもいびつにたわむ半球だ 第一お前ナニサマ? ショーメのトレイに御大尽の尺でもなし ツラ洗って出直して来い! ---------------------------- (ファイルの終わり)