オイタルのsalcoさんおすすめリスト 2010年3月19日21時12分から2014年10月15日23時00分まで ---------------------------- [自由詩]2010年宇宙の旅/salco[2010年3月19日21時12分] 23時。 さてと、と男は義手を宇宙に伸ばす するすると、それは暗黒へと伸びて行く無限梯子 スコッチのグラスを置いて、バケツをかぶると 穴だらけのおんぼろアポロで出発だ ずっと宇宙とコンタクトを絶やさずに来た 知者の言葉を知る異星人みたいに暮らして来た 何故ならこの星の人々は実利実益しか理解しない 原始人の頃のように、子供のように不思議に打たれ 森羅万象を畏怖しない、奇々怪々を見ようとしない 魑魅魍魎が蠢くのは、永田町兜町だけではないのだよ? TVの窓に地球(テラ)が映る テロと為替、飢餓やグルメ きれいな女のきれいなアンヨと明日の天気、コマーシャル テト攻勢の頃から進歩したのは電化製品と人口密度だけ 2010年。 ずいぶん長らくこの惑星に留まって来たものだ いい思いもしたけれど、そろそろ飽きた、ケツ上げ時だ 赤錆びたおんぼろボストークで出発だ 何故なら廃品処理場から拾って来たロケットや宇宙船を 12基も持っていて、小さなガレージに放り込んである 日曜や雨の日に溶接したりネジ回したり油を注したり少しずつ 少しずつ修理して来たのだよ 何故って想像力の塊は、壊れた物の言葉がわかる 打ち捨てられ、消えかかった者達の気持がわかるのだ そいつらの為に毎日こうして歌も作って来たわけさ だから楽譜とギターと、ペンも持って出かけるよ カクテルグラスにビーフィーターとオリーブの実も 宇宙にはやっぱりドライ・マティーニさ! 豪勢なアンドロメダはライムとラムで香りを楽しむ だって芋焼酎はしんみりしていて似合わんだろう? 理論武装で世界に乗り出す気でいる奴とはちょっと違う 理論では大気圏どころか自室の壁も抜けられまいさ 帰って来るかも来ないかも だって2万光年彼方をぐるりと回って来るのだから、再会は 期待しない方がいい 君も一緒に行きたいかい? しかし未練を克服できるかな? 望郷を断ち切ることができるかな?  一人称の翼はチタンで出来てるかい? 宇宙船は一人乗りだよ、 一人ぼっちでずっと楽しく歌っていられる性分だろうね 作れるかい? 君も心に気有壮大を、 万物総和のギャラクシーを置けるかい? 1個じゃないよ、100個でもない、単位の話じゃなくってね 次から次へと寝ても覚めても ---------------------------- [自由詩]遺伝子 青色1号、黄色4号/salco[2010年6月2日23時15分] お前の母ちゃんの子宮にはアリゾナの青い空があって 乾いたハイウェイ沿いにただ1軒あるガソリンスタンドで お前の父ちゃんが働いていたんだよ。 ただお前は地下に埋設されたガソリンタンクからではなく そこから1番近い町にあるダイナーの ソーダファウンテンの泡の1つから生まれたんだ。 何故って、 その緑いろに着色された炭酸水にお前の母ちゃんは 幼い頃から憧れていたから。 海はきっとこんなだろうと思って、 硝子のドームの中をいつも覗いていたものだ 人魚姫のつもりになって。 青い空はげっぷが出るほど持っていたんだが お前の父ちゃんの7代前の祖父はスコットランドに住んでいた。 ずいぶん赤い顔をした大男だったが赤毛は以後遺伝しなかった。 何故ならブルネットの男に妻を寝盗られて駆け落ちされたから。 その腹いせに長老派の牧師の女房と乳繰り合っていたんだが 大酒を食らったある晩、天罰のように脳溢血で死んでしまったし グラスゴーで生まれたブルネットの子供は大層美しい娘だったが 尻尾があったので結婚が望めず 17になるとロンドンに出て売春宿で働き出したその1年後 客になった真黒な髪の兵隊とフォックス・トロットを踊る間に恋に落ちて その夜の内に身籠った。 兵隊はその後インドでベンガル虎に左腕と臓物を食われて死んだと 風の便りに聞いたのは、倅を産んで6年後だった。 そんなわけで、お前の父ちゃんの髪は黒く お前には少し尻尾がある。 そうしてお前は母ちゃんの憧れの1つから生まれたよ。 顔いちめんにそばかすのある大層かわいい娘だったお前の母ちゃんが 王子様と出会ったのは14の時、父ちゃんは27だった。 だから結婚式はしていない。 駆け落ちしたのが8月7日土曜の夜、 乾いたハイウェイ沿いにあるモーテルで その夜の内に身籠った 捨てられたのが8月9日月曜日の朝、 乾いたハイウェイ沿いにあるモーテルで 起きたら置き去りにされていた お前の母ちゃんの子宮にはアリゾナの青い空があって 乾いたハイウェイ沿いの町にあるダイナーでは 緑いろのソーダファウンテンがいつもぶくぶく泡を躍らせている。 お前の母ちゃんはストロベリー味のガムをその前でふくらませては そのつど自分の心に風船の大きさを賭けていたものだった。 だから母ちゃんが怒りっぽくても気に病んではいけないよ お前は緑いろの泡の1つから生まれたのだから、 自由におなり。 行きたいところへ行って良いのだよ、 船にも乗って海を渡っても良い。 あと少ししたらね ---------------------------- [自由詩]7時15分の女/salco[2010年7月16日19時36分] シャネルの前にはいつものように孤独な乙女が 「私の志集」を薄い胸の前に掲げて佇立している 思えば20年以上前から立っているけどリレー制なのだろうか 夢多き若気の士心は1部300円というのに誰も買わない 多分、それは胸にしまって歩くべきもので、 突っ立って他人に売りさばくべきではないからなのだろう 何故なら生はままならない 新宿駅西口前にはテントが2張、 何かの屋台になっており、仕事帰りのサラリーマンや 退屈の余り覇気の出たOLがいい気分になっている まだ9時前で、明日は金曜というのに不況のせいで雑踏も どこかしょぼたれており去年の今頃より隙間が多い 京王デパートの方では誰か若い男が下手くそな歌をがなっている 夢というのは主観の楽園だから、悲惨な幸福状態というのは同様に 傍観者の頭の中でしか成立しない 例えばそれはヤク中のトリップとか、雑音でしかないこの声と楽曲だ などと考えながら私は見知らぬ肺ガン仲間に混じって煙草を1本吸う ニコチン&タールの摂取も堂々の悲惨組で 空車タクシーがのろのろ回るロータリーの向うにあるビルの 34階には、自分を19歳だと信じ込んでいる女が棲んでいて 毎晩7時15分になると全裸で窓に立ち下界を眺める 髪が膝裏に届くほどだから30は超えているのではないかと思うけど ここからだと顔なんか見えないから本当のところはわからない 高い所にいるから体だって誰にも見えはしないんだけど。 それに今は時間が違う、あの窓はもう暗い 女は19歳の心のまんま大きな窓辺に立って見下ろしている 多分、歌でも口ずさんでいるのではないかと思う するとその目は恐れと喪失に見開かれているのだろう 喧騒を外界に閉じ込める厚いガラスに体をくっつけて天使のように 薄い乳房と柔らかなお尻をしているのだろう それで体の前面がすっかり冷え、瞬きを忘れた眼球がすっかり乾く頃 つまり7時20分になる前に、女は窓枠から床に下りて 部屋の中央に置かれた巨大な中華鍋へと戻るのだ それが女の寝床だから 鍋には乾燥クコの実が8分目まで入れられていて、足を乗せると 南国の汀のような音を立てる 紅い貝殻の眠り。 あどけない女は中に潜り込むと、知った男の数だけオナニーする 立ち去った男達、ずるい男達 疲れ切った男達、いくじのない男達 水気に触れた赤い実がいっぱいくっついて愛らしい香りを立てる 毎晩、そうして淋しい悦びの内に眠る 何故なら言葉は何も印さない。 ---------------------------- [自由詩]黎明/salco[2010年7月19日2時58分]  狂女の独白 いつもそれは夕刻よりも暗い夜明け 一日は、東の地底で死んだ胎児のように いつ迄も、紫色の胎盤にまみれて 暗黒の硬い産道に引っかかっている 胎児の頸には硝子のつららが刺さっているから だからあたしは不安で電灯を消す事が出来ない このホルマリン霞みの長い廊下に一人で 産褥の母親達の呻き声に耐えて こうして座って待つ事は出来ない 気のふれた、若い母親が叫んでいる 真っ黒な血まみれの死産児を産み落とそうとしている 光の破片が全身に刺さって死んだ 哀れなみどり児を今日も再た ああ、ああ、母親の叫び声が聞こえる 癲狂院の一隅で、再た今日も赤ん坊を産み落とす 億年間の毎日の性交の堆積を 毎日の受精の代償を こうして億年間も積みつづけ、払いつづけている 夕刻よりも暗い夜明け 太陽の所在の無いそれは、いつもあたしを怯えさせる その日毎に新しい赤ん坊は 失血し、青黒い傷口をいくつも開けて 気難しい老人の顔をしている その無残な小さな骸はあちこちの路上に放置され ああやっと夕刻、 黄金寺(おうごんでら)に洗い清められ、葬られるのだ 一日は、白昼は、 外は彼等のささやかな死臭で一杯だ  妊婦 夢を孕んだ女はこうして十年と十月産褥に在り 人工中絶と死産を繰り返している 丹念に手を洗った医師はこうして胎児を今日も掻き出して 丹念に手を洗い、サンダル履きの足音で廊下を遠ざかる  あたしの子はひょっとして、 女は狂った頭で考える  今、学校から走って帰って来るところじゃないかしら。  小学3年生のお前にお母さんはおかえりと言うだろう。  でも何故よその家に入って行ってしまうのよ、お前は。 夢を流した女はこうして天井へか細い手を伸ばし 眼前を掠めて消えた子を抱きしめる これはなあに、これはなあにとうるさく問うて来た子は すっかり黙り込んでどこかへ行ってしまった  でもさ。 女は生爪を剥がしながらさまよう視線でひとりごちる  あたしは確かに産声を聞いたわよ?  出て来た血と膿をさ、さらさらと温かく脚の間に感じた時に  ああ、苦労が報われたと思わなかった?  だってあんなに膨らんでいたお腹がぺしゃんこになったでしょう、  それで両足がここから見えた時に  確かなものを解き放ったのだという達成感が湧き上がって  この部屋いっぱいに響き渡ったわよ?  押し上げてさ、口を溢れて吐瀉物はだから床に流れて、  ほらこの手。  この空っぽな手。ね? 何も無いでしょうが。 開いた掌からばらばらと臍の緒が落ちて女の顔を打つ まるで小枝のような音がする  雨だ。 すると女の腹は雨を感じて膨らんで行く まるで花の蕾のようである 口を大きく開けると、多幸感に女はけらけらと笑い出し その産声は病院いっぱいに響き渡る 白い光は満ち満ちて すると女の目は溶け出して行く 過去を離れ、存在のない未来へ未来へと漂い出て行く ---------------------------- [自由詩]十一月の童話/salco[2010年11月7日23時05分] 幸せ 孤児院住まいの見習いウエイトレスは 真っ赤な口紅のついたコップを載せた ステンレスの盆を厨房の隅にそっと置くと 裏口から同じくらいにそっと出た ダイアモンドとマスカラのお客はまだ ハエが浮かんでいたと喚いていた 少女までもを死んだハエのように見た客は 漢字だらけの通りを人波に逆らって、少女は もうどこへも帰れないと思いました 陽気で苛酷な街にいて 自分は幸せの仮面さえ持ち合わせていないのでした 泣きじゃっくりに息が切れて佇んだのは 海辺の公園の噴水前 月曜日の夕暮れ時、人影はみな 家へ家へと踵を返す頃合いです そこで少女は一人の浮浪者に会いました レストランの裏口を一つ一つのゴミ箱漁り 空の酒瓶から滴を集め、食べかすの魚や肉や野菜屑を 一日の糧にして生きている 裏口で時々すすり泣いていた小さなウエイトレスを この初老の浮浪者はよく憶えていました 鉛色の顔の中でどろんと黄色く光る目が覗き込んだ時は ぎくりと身構えたものの 少女も歯の無いこのおじさんを 何となく憶えていたのでした 二人共、帰る場所などこの世に無いので 紅い旗袍(チーパオ)を着た痩せっぽちの少女と ぼろと新聞紙を纏った男は親子のように寄り添って 夕陽の方へ歩いて行くことにしました 寒くないかね? 言うと浮浪者は 風に舞う新聞紙を捕まえて来て 少女に上着をこさえてくれました 少女は再び泣き出して 孤児院へは帰れない訳を しゃっくりの中から途切れ途切れに話しました 就労したら出て行かねばならない決まりの 家へ入る為に 何十人もの見知らぬ子供達が一台の 落ち着いて眠れるベッドの空き待ちをしていて 本当は明日が初月給の貰える日であること 同時に路頭へ叩き出される日であることも話しました 街を出て国道沿いをとぼとぼと 長い影を引いて歩きながら 今度は浮浪者が 遠い故郷の話をしてくれました 鉄骨とコンクリートの間で働いて働いて 金を送り いつしか都会の誘いに溺れて忘れた故郷に 恥じる心と壊した体で帰り着いた時には すっかり老けた妻と見違えるような子供達の非難と憎悪が迎え そうしてとうに食卓の席は 酒浸りの自分の座れる場所ではなかったと 浮浪者は言って あたり前だよなあ、と笑いました そうして真っ黒な手で懐を探り とうに用無しの財布から 擦り切れた一葉の写真を宝石のように取り出すと 自慢げに一人一人を指差して 少女に名前と年を教えたのでした この夕暮れの同じ空の下のどこかでは今頃 小さな子供が明日から眠るベッドを想い 初老の夫婦が明るい電燈の下 穏やかに談笑しているのだろう 二人は家族のように手をつないで国道沿いを歩いて行き すっかり日も沈んだ頃 巨大なゴミ処理場に辿り着きました おもしろおかしく笑いながら 色んな不要品からなる山を登り テレビや冷蔵庫の頂上に腰を下ろすと 男は破れかけたポケットをまさぐって 昼間見つけておいたサンドウィッチを 少女にくれました 少女が半分に割ろうとすると、それを制して モク拾いで集めた煙草の一本に火を点けて ぷかりぷかりと 煙を吸っては吐き出しました そのように身を寄せ合って二人は長らくの間 空に瞬き始めた星達や 遥かな街明かりを黙って眺めておりました 闇が降りると空はすっかり深海のようになって 大地の貯えていた日中の熱は見る見るそこへ落ちて行き 二人はあまりの寒さに身震いしました 「行こうか」と浮浪者が言い 「行きましょう」と少女が答え 二人は再び立ち上がり、手をつないで そろそろとゴミの山を下りました この向こうは埋立地 そのまた向こうは太平洋 夕陽の沈んだ先へ、きっと夕陽がまだ若く 真昼を照らしている場所を目指して 二人は闇の中をどこまでもどこまでも 歩いて行ったのでした 旗袍 … チャイナドレス ---------------------------- [自由詩]パンパカ/salco[2010年11月18日19時40分] 中学の用務員パンパカは 第二グラウンド裏手の平屋に住んでいた 戦争中はラッパ手だったのでパンパカ 短気な爺さんでからかうと怒り出すのでパンパカ 上級生の一部男子は面白がってかまっていた かばう女子にも相好は崩さない 校長や教頭にもヘーコラしない 迎合しない人パンパカ ヨボヨボの まことの苦労人パンパカ 融通無効 謹厳無碍 隠元豆くりそつ 粛々とパンパカ 調理実習の鮭のムニエルに照れ かわいい笑顔で校舎に虹生やす 黙々とパンパカ 学年主任、進路指導より大した老いぼれ 拾った子犬を渋々飼ってくれたパンパカ ラッパ手のパンパカ 黄砂吹き荒ぶ校庭に立つ小さな作業着姿 しわくちゃの新撰組残党 パンパカ 今日も夕陽が沈むよ ---------------------------- [自由詩]豚肉を哲学/salco[2010年11月23日16時04分] 天高くヒト肥ゆる秋雨の宵 換気扇がブーブーと油煙を吐いて 焼け爛れたローズマリーの匂い 隣のアメリカ人は今夜も豚肉らしい ブーブーブー これで一体何頭目? カンサス・シティーの豚舎の嘆き 謎の黒頭巾が棍棒を振り下ろす 「グエエエ!」 総じて人間、1日3回腹が減る 殺生はだからやめられない 凡そ食えなくなるのは癌死の2週間前 それだって飢渇は覚える モルヒネが心筋まで侵し昏睡するまでは 生活/生活/生活だ 指を入れてもらうのは気持いい そんな愛玩の間は、何か 家畜になった気がしないでもない 何となく獣医と雌牛の尻が目に浮かぶ 花芯だの肉棒だのと、陳腐な表現は嫌いだけど Ching in Puss お道具が入るとようやく対等に人間らしく うわごとみたいにもっと、もっととお願いする 演技っちゃ演技、本気っちゃ本気 ケラクはゴラク、 生理欲求でホーム・ドラマの一環だ でも、さほど本能的ではない気がするんだ 人間の場合、脳幹に根ざしているのは行為の1割ほどで 多分に意識下での修飾を受けた発動なのだ 快楽とは感覚だが、認識するのは脳であり その条件づけは極めて恣意的かつ文脈的だ 人間は条件選択によって自己生を規定している それを剥奪される1例がアウシュヴィッツ行き そこに於いて唯一許される自由は、 逃走=射殺ぐらいのもの アンネ・フランク一家の如き幸運は 判断と実行に優れた父親の資力 その常人ならざる警戒心以上に、 稀少な手蔓がなければ叶わなかった それさえ義理堅い支援者の行動が露見しない限り という可変条件を前提にした博打であったに過ぎない 小学校の卒業文集で花屋になりたいな、と書いた つまり花々の所有者なりたかったという事だろう こーゆー陳腐な行為のメタファーでは決してなく 窓辺でお空見ながらこんな事態は夢にも思わなかった 少年よ大志を青年よ恋人を 中年よ何を抱けばいい? 登記謄本の写しと預金通帳、あとは保険証書か? こんな事いつまで続けるんだろうねと考える 厭世感ではそれはないのだ、業について倦む事は パスカル以前から延々考えられて来た倣いに過ぎない セロテープで透明と接着を戯(たわ)ける独り遊びのようなもの 俯いて延々と、考え足したり剥がしたり 言葉遊びは無価値なヒマ潰し だからエッチは止められない、だって気持いいんだもん だから行為中には考えない、恣意で濡れるのに忙しく しかし放棄も我慢も常に可能ではあるのだ 自分にそれを課していないだけの話で、 課したところで何なのだと思うところもある 尼さんが何ぼのもんじゃ?  剃髪の女人がエラいのは求道と早起き雑巾がけで 交情断ちがその本義ではない 何せ煩悩は108つあるらしいのよん すると、1コ多い109は 東急の、仏教に対するアンチテーゼなわけか? 東急電鉄は阪急電鉄に対するアンチテーゼで 文化村と五島プラネタリウムは宝塚歌劇団への対抗意識で 西武グループは堤康次郎の貴方に対するアンチテーゼでしたが 五島さん、そうなんでしょうかっ! 小林一三めっさグレイト! ただ、貴方がたと私めの違いはそう大きくはない 田園都市の開発をしたか否かぐらいで、 その自己実現や自己利益は社会貢献度などというわけのわからない、 矮小化も誇大化も随意な偽善的尺度で測るべきではないのだ 何故なら20世紀、土地開発など他の企業でもできた 目端の利いた経営手腕の他は 宅地分譲からの派生利益独占の為に資本を投入したに過ぎない 江戸時代に測量を行ない地図を作った偉大とはわけが違う 事業とは、知の地平に於いてのみ敷衍される 文明はなべて衰退へ向かう刷新だ 放射性廃棄物を除けば、人間が蓄積し得るのは知だけ これが人類の下す評価というものだろう だからその意味で資本家は、 無能無名で無価値極まりない労働者階級の私と大差ないわけさ 人生って何だろうね 結局、人間って何の為に生まれて生きるのだ? ブーブーブー、ブーブーブーの為だろう ただのブーブー、ひねもすブーブー 慣性の心電図上を脳波が踊る 食って屁こいて糞して苦しむ 何ゆえ苦しむかと言えば、大方は生の空疎に 空気が透明で先行きが不透明だからと苦しむらしいのだ 古からそうでなかった例は一日(いちじつ)たりともないにせよ、 毎日毎日課せられる務めをこつこつこなすだけじゃ なるほど杉原千畝やミープさんにはなれそうもない ましてマザー・テレサや沢田美喜 宮城まり子もか 益体もない人命を無償で負う 私財を投げうってまで混血孤児を負う 生の時間を、寸暇さえ放擲して障害児を負う それで教団上層部や役所、銀行に何度もかけ合い 来る日も来る日も世人の無理解無関心、蔑視偏見、罵詈雑言に遭う 何しろ「マザー」「ママちゃま」「おかあさん」 赤の他人からそう呼ばれるまでに貫徹するのだ ヒトサマの初めて役に立つとはそういうことだろう 人間の「情熱」とは、こうした酔狂のことだろう 後世、炎の画家と称されるに至ったゴッホの狂気と等質だ その個人的業績を作品と見做せば にんげんの公益財産である事も変わらない 1つ違うのは、 無為徒食の俗物共からいまだに売名、偽善と嫉まれる その矢面に立つ代行者、事業を買い上げてくれる後継は誰ひとり 誰がなりたい?  ブーブーブーだろ人生は ---------------------------- [自由詩]生まれの日/salco[2010年12月4日19時19分] 誕生日を祝ったりする 成長段階を経てしまえば老化して行くだけなのに 自分の生まれ出た日を記銘して再来させる これは不思議な慣習だ 去年の今日が今年の今日でないように 刻々と老衰に向かう肉体もまた 1年を単位に衰微しているのではない 地球が太陽の周囲を365日プラスαで公転しているだけで その法則に便乗した誕生日の巡りは、実質的に架空なのだ 生まれた時から直線上を死へ向かって歩くのに どうやら我々はその道程に螺旋をイメージしたいのらしい ライオンに食われるシマウマやインパラなどとは違い 1ミクロン狭まる同心円上で過去と現在、 既知と葛藤を揺曳しながら 未知なる死へと極力ゆっくり歩を刻みたいのらしい 「我思う、故に我あり」式の、 自己認識のありようを誇示してやまないこのナルシシズムには 一方で看過できない謙虚さも含まれている 協調の音色も流れている ピアニシモのひとり言 うれしい楽しいハ長調の 誕生日おめでとう! 誰かに言ってもらう 誕生日おめでとう。 自分で言ってあげる 生きている お祝いの意義は、過去から連綿と今在ることの感慨 頭蓋に鎮座ましますこれが本日のメイン・ディッシュ ましてそれを共にする相手を持てるのは僥倖と言う外ない よくぞ生まれ、貴方は今、生きていてくれると思い合う 父母兄弟、子孫、配偶者、恋人、友人、同僚、ペットも だから幸せの総量はいつも計り知れない 幸福という充足は主観に過ぎない けれどそれを他の言葉に、 例えば安寧とか平安と置き換えた時 人類はこれを数値化する手段を永劫持てないのだと気づく 私達の存在はあまりに儚く 神託を捧げ持つにはあまりに愚かしいからだ ただ大気ほどの知遇に微笑を返す これも人間の大切な仕事なのではないか 誕生日おめでとう、再た年食って まだ生きている 再た生きている 孤独であっても無一物ではない 自分がいる 空の青が上に在るだけでも、生は貧ではない 地面に影曳く存命の、その持ち時間は闇ではない 「本当かよ」 ただ、このように言う時だけは 越し方と行く末の間で寂しさを払おう  さらっと 空しさを暫時、棚上げする  しれっと この今、その掌上に在るのがたとえ自嘲であれ 誕生日おめでとう ---------------------------- [自由詩]ゴッホの空咳/salco[2010年12月26日21時34分] 夢に根ざした情熱は けれどガラスのように脆い炎だ その熱情は外に向かって放たれ 壁の前に砕け散る それでも消えずに突進し続ける ドン・キホーテの姿は哀しい ゴッホの空咳 コッホ、パスツール 幼児より尚傷つき易いエゴイストは 傍迷惑な理想の押し売りを決して自分の鏡に見ない、 涙をためた盲の目をしている 彼ほど人を愛する者はなく 彼ほど愛されぬ者もない 独り善がりでしかない激しい愛他精神を抱えて出て行き あちこち街を彷徨い歩き 失望を曳きずり夜道を帰る 糞の役にも立たない熱情の火力が人の顔をしかめさせる 太陽を直視するようには 人間の目は出来ていない事に独り気づかない その渇望はうるさく纏わりつく乞食の哀願のように 人を辟易させるという事も 彼は拒絶だけを解答に見、 結論を導き出す数式の方には目もくれない サディストでないエゴイストは結局自分ばかり傷んで その理由も解らないので 耳を切り落としたりするわけだ 芥川龍之介の言う 「超阿呆」とはこんな人を指すのだろう ---------------------------- [自由詩]はじめに言葉ありき。超エテ公の独り歩き。/salco[2011年1月2日22時37分] 父よ 母よ 神々は太古からそこにいて 神々は初めからここにいはしない ヒトが路上で嘆息する時は ただ頭上に空と、眼前に生活があるだけで 哲学や文学など役に立ちはしない いつだって それでも何かの一員たりえんと 誰かの手を求めたり 見上げるビルディング達の慰めを聞く 二十一世紀 人類の進化はA.D.の始めに完了していた あとは物質文明と人口の膨張に先鋭化し 加速して来たに過ぎない 進歩とは何か 月に降り立ち、銀河の数を数える事か 双頭の牛を創り、 石女の膣にスポイトを突っ込む事か 機械と動力にかしずかれ、 鉄とガラスの塔に住まう事か 進化とは何か 右手で世界を構築し、 左手で世界を破壊しながら 無人の沃野で ガイガー・カウンターの針が振り切れる程の 放射能が大気を満たすその日を待つ事か お前の存在理由を守るのは どんな国際機関か国内機構か お前達の未来を照らすのは どんな科学か宗教団体か ああ、人類は神の如し 脳膜炎を患う神の如き哉 地下生活者の選民共の最後の祖先 空気浄化装置の低く唸る中、 薄暗い電燈に慣れた目で いまだに親しい青空から永久隔離された 残り少ない人類は このひっそりした惑星の地下 コンクリートと鉛の穴の中で 古ぼけた曽祖父母の写真を見せ合う事だろう そして再び物語が ノアの箱舟から始まる事を願い 第三の聖書(最新約聖書)に記すべき 最後のアダムとイヴの事をも こもごも語り合うに違いない 進歩とは何か 放射能半減期十万年の 捨て場の無い粗大ゴミの山の麓で 我々は何について語るべきなのか 今、何を以ってサル達は ---------------------------- [自由詩]大人の事情がるた/salco[2011年1月3日23時19分] い 色恋は風の道 ろ ロケットは落とすもの は 恥知らず有頂天 に 妊婦忍耐 産んでも忍耐 ほ 星の数よりヘボ詩人 へ へカテ元アフロディテ と トイレはシステムの始まり ち 痴漢の心眼 刑事の彗眼 り 料理も嘘もひと手間 ぬ ヌかないと死ぬ る 類型は芸術に非ず を オカン全員オンナ わ 割れ目までは乙女(のつもり) か カチンと来たら負け よ ヨッパライ生き下戸 た 確かなんかない れ 列車は少年を乗せる そ 空見る阿呆そら見ろ つ 罪無きはなし ね ねんごろ嘘の味 な 泣くは我が為 ら 裸身悪しきは中身まで む 村は失せる為に在り う 浮気九割 本気五分五分 ゐ イモは畠出てこそ の 脳に始まり脳に終わる お 男とは寛き手のひら偏見せぬ眼 く くたかけ飛ばず唄わず や 妬かれるうちが花 ま まけぬ種はオカモト け ゲイは蝶番 ふ 「不」倫は保身 こ 胡椒好きの味オンチ え エゴイストは止まると死ぬ て 手垢を愛と呼ぶ あ あばずれはカネを動かす さ 刺身は4時まで き 狂人は嘘つかず ゆ 夢すり替え中年 め 目玉焼きは醤油っしょ み 身の程知らずの声高 し 知らぬふりが涅槃 ゑ 円の下支え損 ひ 貧乏先もなし も もっこりが屈折の素 せ 瀬戸内海つまんない す 好く方が捨てられる 京 清志郎がいなくてさもしい ---------------------------- [自由詩]懐古する自動人形/salco[2011年1月19日21時36分] カシオペアってどれだろう 懐かしい北斗七星は何処だろう オリオンの一角も捉え得ぬ眼球は 地面に転がって冷えている でも、宇宙はもっと寒いんだよ ?昭和の音?という玩具がある 夕景のフィギュアの釦を押すと、焼き芋売りやら 金魚売りやら豆腐屋のICチップに内蔵された呼び声が 遠くの電車の音みたいに流れる こんな代物にさえ、大人は回帰願望を揺さぶられる 曰く、 昭和は路地に匂いと声が詰まっていた 豆腐は鍋持参で買いに行き、 突っかけを履いた母やおばさん達はいつもおんなじ服を着ていた 生活の手触りがぬくもりを持っていた時代 いや、あれは私の家族のぬくもりだったか 私は一体何歳の老婆になったのだ? 暗闇をバタバタ飛んで電線にぶら下がり 冬空と屋根屋根を半分ずつ、逆立ちで眺めているよ どちらの界隈を懐かしむのだろうね  家には誰もいないし 宇宙はもっと寒いんだよ ---------------------------- [自由詩]ダッチワイフ りりか3号/salco[2011年1月22日21時51分] へやがくらい    かわいいお口を開けてりりかは考える あのひとかえってこない ぜんぜんだいてくれない    埃をかぶったつぶらなお目目で考える ふりむいてもくれない まいばんあいしてくれたのに ほんもののおんなみつけたから あたしはおもちゃになってしまったんだ    不潔に萎んだビニールの体で考える そうだよ、にんぎょうあつかいになったから ほんものおんながここにくると、そのまえに あたしはすてられてしまうんだよ あいしてるのに?     吹き込まれた半年前の空気で考える ここはあのひととあたしのへやだよ だって、あたしがさきにいるんだもん そんなめにあうためにいるんじゃないよ    歯の生えたお口の中で考える そうだ      赤い塗料のお口の中で考える しんぢうだよ ---------------------------- [自由詩]合一/salco[2011年2月21日21時55分] それは男が汚れた靴下を脱ぐ時 それは女がきついガードルを脱ぐ時 みじめに軋るベッドの上で 広い背中を白い手指が所在なげに抱く時 愛はそれぞれに 互いを壊し満たそうと足を引きずり 見栄えのしない坂道を走り始める こんな小さな置時計の中で 体温と体温は 男性器と女性器は これ程激しく希求し合うのに 愛は肉に達する事さえできない 愛さえも 互いの臓物のあちこちに巣食う 無形象な言葉の一切を交換し合う橋ではない 何故なら愛もまた儚く不幸に怯えている 空しく重たい裸体は摩擦の一塊りとなり 獣の如く、男は 手負いの獣の如く突進を繰り返し 肉塊の如く、女は 一器官たる肉塊の如く優しく妨げ 攻撃と受容の結合点で起こる調和の音律の中でさえ 己が天国に達しようともがきながら遁走する ---------------------------- [自由詩]シオンのあばずれと地獄の犬/salco[2011年10月15日23時55分] 祝婚歌 旅は美しい 金のウンコを過ぎた辺りで助走に入り 爆発的加速でトップスピードに乗れば 船尾のエンジン焼けのひどい匂いも後方へ置き去られ 大川の生ぐさも顔打つ風に堤へ跳ね返されて 心は遥かな海へと先回りする カレはカノジョをジャケットの下にしまい込み 水飛沫から守るフリして 思う存分おっぱい触る 風景見るフリで掌全体をソナーにして ピンクの小鳥が棲む双丘と 鳩尾から腹、腰にかけての地形と国境線とを 感知しまくる 知悉した新大陸をもどかしく 探査しまくる 鼻を髪に突っ込んで 上向いた地溝帯に子機をグイグイ押しつけて どんなに欲しいか伝えながら 脱ごーぜ早く 一糸纏わずもっと あんなことこんなこと どんなとこでも構うかよ 我慢できねえよもー 育ちのいいあばずれは それには鳥肌と横隔膜で応えてあげる とり澄ました雲と競争だ 素敵な高速艇 恩に着るからこのままどこまでも運んで行け 両岸の景色も人の営みも遠くへ押しやって この川の流れから早く出して 恋するちっちゃなモンゴロイドのお通りだ 空も水も速やかに 2人の行く手を開けるがいい このスケベな護衛官とメス犬を 太平洋に連れてって 年若きアントニウスとクレオパトラを 絶海の孤島にかくまって 休暇中のタナトスと研修中のエロスに 世界一周の猶予をおくれ 出逢ったばかりのアダムとイヴを 地球外の楽園へと連れ戻せ 2人はそこで子供を1000人作るんだから 灼熱の坩堝から人類の歴史を始めさせるんだから 毎日をセックスに明け暮れて 時間も曜日も 月日も歳月も忘れ果て 腹の底から笑い転げて至福の生涯を送るんだから 現よ2人に唱和せよ このささやかな幸せに賛同し お伽話の鍵束を恋人達に投げ返せ 旅よ終るな 時間よ止まれ ---------------------------- [自由詩]江古田家臍次第(えこたけへそのしだい)/salco[2011年11月20日23時05分] およそ百年前 大学二年の一人息子を交通事故で亡くした時 既に寡婦であった資産家の江古田夫人は 今度の悲嘆には到底耐えられないと思った そこで息子のDNAを研究機関に預け 一年半後 スーパー多能性幹細胞で自己再生した 嬰児の息子を受け取った ありし日の息と同じ息を 同じように育て直し 成人させ 六十七歳の秋 膵臓がんを発症して およそ二年の闘病ののち没した 母の愛情を一身に享けて育った息子は 二十四歳になっていたが この死別には到底耐えられないと思った そこで母のDNAを*輪廻還生事業法人に預け 一年後 スーパー多能性幹細胞で自己再生した 嬰児の母を受け取った ありし日の母と同じ娘を 親孝行も加味して育て 成人させ 四十七歳になっていたが 息の愛情を一身に享けて育った母は そんな家が疎ましくもあり遊び歩くうち 馬のホネの子供を孕んで結婚を反対され 後ろ足で砂をかけるように出て行った 息子は母を死んだものと思いあきらめ だが母から遺された資産には手をつけず 母本人に遺す旨の遺言状を作成して十年後 七十一歳の春 ウィルス性心筋炎で急死した 報せを受けた母は五人もの子持ちとなっており 必要以上の生活苦にすっかり萎びていたが 亡父の慈愛に悔悟と感謝で滂沱しながら この死別でやっと安気に暮らせると内心 明日を寿いだ それで早速 丸菱USJむぎほ信託銀行の小竹向原支店に出向き スーパー定額信託で保管された 祖母で自分の遺産を受け取った そして相続税納付後は 五人の子とそのカレシやカノジョ 無職アル中ギャンブル依存おんな狂いの夫の食い物にされ 江古田家はまたたく間に没落 土地家屋も売却され一家離散 今は一棟の分譲マンションになっている *注 輪廻還生(りんねかんしょう)…     2048年頃、再生医療技術を応用したSiPS細胞(超・人工多能    性幹細胞)を使う再生誕請負企業が作った造語=Renewbornation    (Reincarnationのもじり)の和訳。    倫理上の問題、また人口減少を鑑みた厚生労働省の事実上黙認など、    詳細についてはVagipedia参照のこと。 ---------------------------- [自由詩]I’M NOT JOHNNY RAMONE/salco[2011年12月28日0時23分] ヒトが来るとみんなさ オレの顔がお母さんに似てるって言ったり お父さんに似てるって言ったりさ おとなって何でそんなこと言うんだろ “I’M NOT JOHNNY RAMONE” お母さんは小さい時すっげー大人しくて お父さんは小学生の時オレみたいだったって 信じれないよ よーするにオレはコドモってことだな “I’M NOT JOHNNY RAMONE” アラナさんとこの菜月が オレのお嫁さんになるって まっぴら御免だね おなら爆弾ボォォーン! “I’M NOT JOHNNY RAMONE” 今さ、おばちゃんのお腹に赤ちゃんがいて オレは生まれるの待っているんだ 男だから楽しみだ 見せたいものがいっぱいある “I’M NOT JOHNNY RAMONE” この前、歌うたってあげた おばちゃんにもねぇ、寝る前とかに 宇宙の話を話してあげてって、本かしてあげた オレは恐竜とかも好き “I’M NOT JOHNNY RAMONE” でもさ、その子が同じ年になったら オレはもう、大きくなって中学生さね  高校生? じゃあ高血圧かも知れんな 年を取ると、血管が老化するって言うからなぁ! “I’M NOT JOHNNY RAMONE” うん、飛行機乗ってみたい オレさー、空港で、近くで見たよ でも音すっげーうるさいよ! あと、ぜったい緊張すると思う “I’M NOT JOHNNY RAMONE” ふーん、アメリカ人? 何でこんなTシャツくれたの?  おかしいさ、そのヒトじゃないのアッタリ前なのに んー、べつに謝らんでもいいよ ---------------------------- [自由詩]魂/salco[2012年2月11日23時56分] 車庫へ還らぬバスは 停留所にも停まらない ただ辻々で わずかな客を乗せて行く 代金は要らない 誰もが代償を払っているから 今日は五人だけ乗っている 眼鏡を失くした男と 手紙を置いて来た女と 水着のまま少年はタオルも巻かず 病み疲れた老女は もう少しうたた寝をするようだし 疎外のホームレスに 車内は別天地の暖かさだ 老女の他はみな目を覚ましていて 闇の飛び去る窓外をぼんやり見ている 誰もが行き先を知っており 戻れない事も知っている 言葉を交わす者はなく 華奢な少年さえ泣きはしない ただ、誰かの声をもう一度 聞きたいと心の中で思っている それさえ叫び出すに足る 狂おしい願いでは最早ない 闇に飛び去る景色の中で 真昼の風鈴みたいに 間遠に鳴るだけ ---------------------------- [自由詩]脈絡/salco[2012年3月25日23時00分] 夜は雨 どこからか雨 水を弾くタイヤの音 通りの向う どこかで屋根を落ちる滴 私はここにいて 眠る人のことを思う 生き満たされぬ人を思う 又ここにいて 眠れぬ人のことを思う 燃える翡翠の在りかを想う 黒々と春の息に濡れ 土に抱かれ球根が見る夢は 早瀬の岩魚の目の中を 夜は雨 今日も雨 ---------------------------- [自由詩]まえのばちゃん/salco[2012年8月6日0時00分] おさむとかなめの家の後ろには 同じ造りの平家があって 銀髪をひっつめた細い老婆が住んでいた 地味なワンピースにいつも前かけをして 家作の花をかわいがり ピンクと一対の青いスイートピーを息子と呼ぶ 不思議な心のおばあさんは何故か 通りに対して後ろなのに 「まえの(お)ばちゃん」と呼ばれていた 女の子達はそっちへ流れた 狭い庭は花々が咲き乱れ 木蓮の大きな肉厚の花を拾えるのも嬉しく 乳白の女王様に恭しく見入ったものだ おさむとかなめが引っ越してほどなく まえのばちゃんの家が埋まっていた もともと道より低い所で 前の更地が盛土で路面の高さにされ 家の上半分しか見えなくなったのが 玄関も掃出し窓も縁側も 一面の泥で塞がれていた 生き埋めされたように見え 人が住んでいようとは思われない 身寄りのないあの老婆がどうしたのか 窓を確保したのはずっと後のことだ 開かずの玄関はそのままだった あのお母さんの返礼だと思った 仔犬の保健所行きを不憫がり 元宝塚に仲介したのがまえのばちゃんだった 隣の家を埋めてしまうなんて こんな仕打ちが許されるのかと ちらとしか見た事がないあの母親を 狂っていると思った 今思えば 田んぼを潰して貸家にした地主が 価値を上げようと土を入れたついで 立ち退かない未亡人に嫌がらせしたのだろう 示談や裁判なんて縁遠かった時代だ 原状復帰された後も 通りから見る限り 更地の向こうに花々の色はなく ひょろ長い裸木だけが立っていた 女の子達はもう行かない もう小学生ではないから たまに見かけるまえのばちゃんも どこか険しい虚ろな目をして 私達には気づきもしない風だった いつしかその家も取り壊され 同じ高さに整地されると 木蓮の樹も消えた 二軒分の敷地は広々した二階建てになり 私はまえのばちゃんを忘れた ---------------------------- [自由詩]文句しか垂レヌ/salco[2012年12月14日0時19分] 金もナク仕事もナク 展望も若さもナク 妻子には捨てラレ 責も任も負ハズ 誰にも期待さレズ 東にも西にも行カズ 誰を労ふ用もナク 暮しの足は大丈ブ 家計一人このオカズ 雨にも当たラズ 風にも吹かレズ 南採光/北水回リ そんな賃貸に起居シ 外を羨み他を妬ミ 貧(ヒン)の身空に富(フ)を憎ミ 自己を憐れみ涙に咽ビ 十年一日数珠手繰リ 懸想妄想を枕頭ニ 責任転嫁に明ケ 開き直りに暮レ 鬱憤山積因縁ツケ 怨み骨髄骨粗鬆セウ かうして日の目を見ずシテ 自己完結を貫徹シ 死に目を見せず唯ひトリ ひつそり或日去んだナラ 誰ひとりにも悲しまレヌ 愛別離苦で不幸にさセヌ これほど幸ひな人はナイ 逝きがけの駄賃トテ 大家へは意趣返しともナリ ---------------------------- [自由詩]バス停/salco[2013年4月11日23時21分] お父さんの部屋は半分おなんどで 机の横にさびたバス停がありました お父さんが3年前 会社の近くのがらくた市で買って来ました 私と妹は大喜びしました お母さんは 「何考えてるのよ、こんなもの買って  車の支払いだって残ってるのに  返して来て」 とお父さんをしかりました 「安いんだよ。今日で終わりだって言ってたし」 とお父さんは言って 「困るわよ、あんなもの」 と毎日言われても平気なようでした そうしてきのうの夜中 バスはやって来たらしいです プシューとドアが閉まる音を 私は夢の外で聞いた気がします 朝、お母さんが起こしに行くと お父さんはいなくなっていました おまわりさんが来てお医者さんが来て 「ねむってる間に心臓が止まったんでしょう  苦しみはなかったと思いますよ」 と言いました お母さんは冷たいなきがらを揺さぶって 「これからどうすればいいの?」 と聞いていました それからおじいちゃんとおばあちゃん おじさん、おばさん達が来て 家が泣き声とひそひそ声でかわいて行きました でも私は知っています 時々さみしそうな顔をしていたお父さんは 行きたい所があったのです 「よっぽど前に廃止されたのかな  インターネットで調べても出て来ないんだよ」 「はいしってなあに?」 「やめて、なくしちゃうことだよ」 「なんで?」 「住む人が減っちゃったのかな。どんな所だろうねぇ」 「うーんとね、木がいーっぱいあるところ」 「うーんとね。トトロ!」 「トトロだ! トトロだ!」 「ねこばしゅ!」 「わーいわーい、ねこバスが来る」 「くゆくゆ!」 お父さんの留守にもトトロごっこ うそんこだけどうそじゃない ほんものだけどほんとうじゃない 待っても来ないバス停にはその内あきて 四年生になった私は マンションのローンが大変なの! なんて友達とため息つくまねをしたり 一年生になった妹も なかよしの子の家に行ったり来たり 枕元の腕時計は止まっていました バス停の時刻表どおり2時45分 大分交通 直川駅行き 風の森 ---------------------------- [自由詩]さよならの刻/salco[2013年12月13日23時18分] にわか雨が去ると 真冬の風が通りみち 樹木も人も躰を震わす 「バーイ!」 「バァーイ!」 交差点の娘たち 無敵の若さにさざめいて もっと綺麗な明日に生きる ヒラヒラと手を振って ひとり素になり歩を早め バインダーを抱きしめて 行き先ふかすバスの横 めがねの小さな女の子 夕暮れはさよならの刻 『ばいばい』 『ばいばい』 背のランドセルはまだ軽く 暖かなすべてが家で待つのに 頬も膝も木枯らしに腫らし ヒラヒラと手を振っている なかよしと別離を惜しみ 明日またクラスで会えるのに 楽しかった今日に幾度も 路地の先は大きな夕陽 そのまた後ろは金のいにしえ 今日という過去も残照 「じゃねー」 「バイバーイ」 はにかんでチームメイトの母親に 歩道を持て余していた三年坊主 大通りの信号傍で別れたけれど 手を振らないんだ男の子って なのにヒラヒラ、白いてのひら 我が子でなくても見送っている 駆けて行く子が見えなくなるまで ヒラヒラ、ヒラヒラ、さようなら ---------------------------- [自由詩]ナマズ/salco[2014年10月15日23時00分] 海底が隆起し水位が下がって エベレスト界隈が空中に生えた頃 ナマズは汽水に放り込まれて 激烈な減圧に体を硬くしていた それから雨が際限なく降り 雷鳴をも呑むほどの洪水が引いた頃 ナマズはでっかい水たまりに取り残され 淡水の浸透圧に膨れ上がっていた 今度は晴天が続いて蒸発を重ね 雲に届かぬ水たまりはドロドロに濁った ナマズは泥を飲んでは濾し出す労苦を重ね 馴れた頃には鱗と目玉が退化していた 彼ほど翻弄された者はなく 同時に適応者もいない 体を覆うヌメリは真水の侵入を防ぎ 弱視のぶん敏くなって第六感が生えた ピーンと来るんだ、ピーンとね 沼底は真っ暗で泥まみれだが 女(おナ)マズどもが血迷う時は秋波が届く そんな時ナマズは、おい 俺は何でもお見通しだぜと発信する 地球がまた貧乏揺すりをしそうな時は ヒゲの根元がムズムズ張るのだ そんな時ナマズは、おや 大変だ隠れなきゃと尻を振って慌てる ナマズは予知に長けるのみならず 経験を貯め込んで定義を引き出すことができる してみると俺様は大したバロメーターだな 変動と伝導をものする碩学といったところだ だがナマズは知らず 水面を滑る風のことを 光に踊る影のこと 足の生えたナマズがいることも 陸上が沼より広くて水中より多彩なことを 翼の生えたナマズが泳ぐ空があり それが高く深く無窮に続いていること 直立二足ナマズが無聊を放つ明滅の点在も それどころか月と太陽の見分けもつかず 悲観は勿論、一死で絶えぬ危惧も知らない いつもの兆しを感知した時 ナマズは岩陰にひそんで安穏としていた 流体である水中にさしたる毀損はない筈だ だが降り注いだナニガシのこと 塵埃や泥濘と流入し沈殿し堆積し浮遊し 飲み食いごとに貯め込む変異と崩壊も ---------------------------- (ファイルの終わり)