オイタルの未有花さんおすすめリスト 2008年9月16日8時19分から2011年10月3日9時42分まで ---------------------------- [自由詩]黄昏色の空の果て/未有花[2008年9月16日8時19分] 黄昏色の空の果て ひとりっきりの帰り道 誰を待っていたのだろう 誰を探していたのだろう 電信柱の長い影 淋しいようと風の吹く 黄昏色の空の果て 家路をいそぐ鳥の群れ どこへ行くというのだろう どこへ帰るというのだろう お家は遠いまだ見えぬ 泣くのはだあれと風の吹く 黄昏色の空の果て 心によぎる思い出は 何を求めていたのだろう 何を探していたのだろう 誰も知らない夢の跡 いつかまたねと風の吹く 黄昏色の空の果て ---------------------------- [自由詩]日没幻想/未有花[2008年11月19日12時39分] 林の向こうに星が落ちた 遊びつかれたカラスが 西の方へ飛んで行った あたりはワイン色になって 夕闇に沈んだ 遠くで一匹犬が鳴いた 町に人影がなくなった 青白い三日月がひとつ 水銀灯の上に出ていた ---------------------------- [自由詩]花の森にて/未有花[2009年4月13日13時05分] やわらかに色紙の花園で 子猫が蝶々を追って駆けて行く 淡紅色(ときいろ)の薫りを放つ花たちは 自慢の花びらを踊らせることにいそがしく まるでそれは雨のように降りしきり この花園を埋め尽くそうとするかのように 花びらは散る また降り注ぐ 小手毬の花影から聞こえるのは やさしい音色のパストラーレ あれは姉さまの弾くハープシコード 夢のように私の心に舞い降りて 昼下がりの眠りを静かに誘(いざな)う 花海棠の根元でうとうとしていると 赤い花が私を起こしてくれた それは葉陰にひっそりと咲く草木瓜の花 首をちょこんと傾げるように 身をこごめて私をみつめていた 何て平和な時であろうか 連翹の空の上雲は静かに流れて行き 見渡せば春の吐息であふれている 色とりどりの花の雨 花吹雪の中 私はまるで迷子のように ただひとりきり花の森にたたずんでいた ---------------------------- [自由詩]夕暮れ 橙 さびしんぼう/未有花[2009年4月22日12時37分] 夕暮れ 橙 さびしんぼう だあれもいない公園で 影踏み かけっこ かくれんぼう 風といっしょに遊ぼうよ いつも泣いてる あの子とふたり 遊びにおいで またおいで ぶらんこ お砂場 すべり台 夕日に染まって待っている 明日も遊ぼって待っている 夕暮れ 橙 さびしんぼう だあれもいない公園で ---------------------------- [自由詩]夏の魔法/未有花[2009年7月15日12時43分] 夏休み前の教室で ぼんやり先生の授業を聞いていた 教室の窓の外では アブラゼミがうるさいくらいに鳴いていて 授業に集中できない僕の頭の中を これでもかというほど占領していた ジージー いっこうに止む気配のない蝉の声 いつしか時間が止まったみたいに 僕のまわりは蝉の声で充満していた ジージー ジジッ 突然蝉の声が止んだかと思うと 僕は目眩のような感覚におそわれて その時何だかわかってしまったんだ これは夏の魔法だ アブラゼミがかけた特別な魔法なんだ ふとまわりを見渡すと 何事もなかったかのように授業は続けられていて 気がつけば蝉の声も またうるさいくらい鳴き始めていた それにしても蝉の声が 前と違うように聞こえるのはなぜだろう きっと僕が彼らの秘密を知ったからに違いない アブラゼミがかけた魔法に 僕もかかったかどうかはわからないけれど 今年の夏休みは いつもの年より特別なものになりそうな気がして 自然と笑みがこぼれた ---------------------------- [自由詩]悲しみ/未有花[2011年3月3日9時52分] 乾いた大地に 夏の厳しい日差し しおれてしまった花に 水をひとしずく下さい * 空っぽになった部屋で なくした希望を探す 仕方がないと言いながら 耳障りなため息を吐く * 傾いた影を追いかけて 名もない街をさまよう 知らない誰かの影法師 見失った夕暮れ * 欠けて行く月の下で 鳴り響くオルゴール 沈んで行く水底 見えなくなった光 * 重ねた手をわざと放して 泣かせてしまったあの子 幸せにしてやりたかったと 惨めな言い訳をして * 貝殻を耳に押し当て 懐かしい歌を聴く 静かな潮騒の音 満ちて行く悲しみ ---------------------------- [自由詩]彼岸花/未有花[2011年10月3日9時42分] 友達と遊んで別れてひとりきり 空はとっぷりと日が暮れて すっかり遅くなった帰り道 お家に帰りたくないよう きっとお継母(かあ)さんに叱られる きっとお継母(かあ)さんは怒ってる 重たい足取り引き摺って うつむいて歩く畦の道 彼岸花が燃えてるように ずっとお家の方まで続いてた 燃えろ 燃えろ 全部燃えてしまえばいいんだ 空を真っ赤に焦がして 炎のような彼岸花 少女は彼岸花を手折ると 急ぎ足で道を進む これでお家に火をつけよう そうすればきっと お継母(かあ)さんに叱られなくて済む お継母(かあ)さんに怒られなくて済む 彼岸花 炎のような彼岸花 燃えて 燃えて 全部燃やしてしまっておくれ 炎が消えてしまわないように 彼岸花をしっかり握って 少女は道を急ぐ 少女の進む道は きっと地獄へと続く道 道に咲いているのは地獄花 彼岸に誘(いざな)う 赤い炎 空を焦がして ---------------------------- (ファイルの終わり)