あ。の未有花さんおすすめリスト 2008年11月19日12時39分から2009年9月3日12時57分まで ---------------------------- [自由詩]日没幻想/未有花[2008年11月19日12時39分] 林の向こうに星が落ちた 遊びつかれたカラスが 西の方へ飛んで行った あたりはワイン色になって 夕闇に沈んだ 遠くで一匹犬が鳴いた 町に人影がなくなった 青白い三日月がひとつ 水銀灯の上に出ていた ---------------------------- [自由詩]アネモネ/未有花[2009年3月24日13時38分] 風の中で震えていた瞳 あの日突然奪ったくちびるを 二度と忘れはしない 美しい少女よ 一生分の愛を君に捧げよう 自分勝手な愛で 君を愛し続けることを許して欲しい 例え永遠にこの腕で 抱き締めることが叶わなくても はかない希望と嘆くことはない 僕の罪も 君の苦しみも 風がすべて癒してくれるだろう 春はいつの日にもやって来て 君に喜びを与えてくれるから アネモネ アネモネ 花のように笑っておくれ 真実の愛を君に贈ろう 春が来るたび思い出しておくれ 愛は今もここにあると ---------------------------- [自由詩]花の森にて/未有花[2009年4月13日13時05分] やわらかに色紙の花園で 子猫が蝶々を追って駆けて行く 淡紅色(ときいろ)の薫りを放つ花たちは 自慢の花びらを踊らせることにいそがしく まるでそれは雨のように降りしきり この花園を埋め尽くそうとするかのように 花びらは散る また降り注ぐ 小手毬の花影から聞こえるのは やさしい音色のパストラーレ あれは姉さまの弾くハープシコード 夢のように私の心に舞い降りて 昼下がりの眠りを静かに誘(いざな)う 花海棠の根元でうとうとしていると 赤い花が私を起こしてくれた それは葉陰にひっそりと咲く草木瓜の花 首をちょこんと傾げるように 身をこごめて私をみつめていた 何て平和な時であろうか 連翹の空の上雲は静かに流れて行き 見渡せば春の吐息であふれている 色とりどりの花の雨 花吹雪の中 私はまるで迷子のように ただひとりきり花の森にたたずんでいた ---------------------------- [自由詩]夕暮れ 橙 さびしんぼう/未有花[2009年4月22日12時37分] 夕暮れ 橙 さびしんぼう だあれもいない公園で 影踏み かけっこ かくれんぼう 風といっしょに遊ぼうよ いつも泣いてる あの子とふたり 遊びにおいで またおいで ぶらんこ お砂場 すべり台 夕日に染まって待っている 明日も遊ぼって待っている 夕暮れ 橙 さびしんぼう だあれもいない公園で ---------------------------- [自由詩]夏の魔法/未有花[2009年7月15日12時43分] 夏休み前の教室で ぼんやり先生の授業を聞いていた 教室の窓の外では アブラゼミがうるさいくらいに鳴いていて 授業に集中できない僕の頭の中を これでもかというほど占領していた ジージー いっこうに止む気配のない蝉の声 いつしか時間が止まったみたいに 僕のまわりは蝉の声で充満していた ジージー ジジッ 突然蝉の声が止んだかと思うと 僕は目眩のような感覚におそわれて その時何だかわかってしまったんだ これは夏の魔法だ アブラゼミがかけた特別な魔法なんだ ふとまわりを見渡すと 何事もなかったかのように授業は続けられていて 気がつけば蝉の声も またうるさいくらい鳴き始めていた それにしても蝉の声が 前と違うように聞こえるのはなぜだろう きっと僕が彼らの秘密を知ったからに違いない アブラゼミがかけた魔法に 僕もかかったかどうかはわからないけれど 今年の夏休みは いつもの年より特別なものになりそうな気がして 自然と笑みがこぼれた ---------------------------- [自由詩]私がふたごだったとき/未有花[2009年9月3日12時57分] 私がふたごだったとき ずっと森で暮らしてた ふたりおそろいの服を着て 毎晩同じベッドで夢を貪りあった ふたり一緒にいること それが当たり前の世界だった 私がふたごだったとき 世界はひとつきりしかなかった 庭にはいつも同じ花が咲き 季節は春と夏しか知らなかった 変わらない風景と代わり映えのしない日常 狭い箱庭の中の世界がすべてだった 私がふたごだったとき 空想することが生きている証だった ふたり裸足で森を駆けめぐり 森のあちこちに物語を埋めて歩いた いつか思い出したときにまた読むために 埋めたところには必ず目印をつけた 私がふたごだったとき こんな幼い夢がいつまでも続くと信じていた 世界は私たちを裏切ることなく 少女のままずっと一緒にいられると思ってた 大人になる日が来るなんて 恋をする日が来るなんて永遠に来ないと信じていた だけど大人になって恋を知ると 私たちはふたごでいられなくなってしまった やがて森は消えてなくなり 季節に四季があることを初めて知った 空想だけで生きていけるわけもなく 少女の幻想はあっけなく壊されてしまった 私がふたごだったとき それはきらめく光にあふれた記憶 愛しくも愚かなやさしい時間 物語の続きだけは森の中に隠されて いつしか母となり新たな命を宿したとき きっとひそやかな夢の息吹を感じることだろう ---------------------------- (ファイルの終わり)