かんなのおすすめリスト 2020年1月27日23時05分から2021年11月26日22時02分まで ---------------------------- [自由詩]Astronomy club/AB(なかほど)[2020年1月27日23時05分] 1 毎年この日の夜には 上原君の星が話しかけてくるはずなのに 今年は何も聞こえてこなくて 見上げても光が揺れることもなく なあ、もう忘れちゃうよ と、小さく嘘をついてみた 2 帰り道は晴れていて すっかり覚えてしまった物語をつぶやくと 齧りかけの月、歪んでゆきました 置き去りの絵本、店員さんに見つかる前に 誰かが手にしてくれるでしょうか それともその前に 3 でもさ そしたらさ よるのそらがきれいでさ みたことなかったからさ おほしさまとか おつきさまとかさ 4 君が百本の小説を乗り越え眠るころ 僕は一握の詩の前で童貞のままで 国際色の喧騒にしがみつきながらも 同じ月の夢に  ニャー    と哭く 5 もう切る指をなくしてしまったらしいので 嘘つきなのは僕のほうだよ と嘘をつく 琴座の一辺を二倍伸ばした線上に 糸切りを持った君がいて 約束、と言いながら弦を張り替えているとか 6 ここのプラネタリウムの寝心地は格別で やがて40分の夜が明けて おはようって言ってみるのがいい 眠りにきたの?と訊きながら息子は 小春日和の堤からふんわりロケットを発射する それはあまりにもゆっくりと静かなのだけれど 7 僕が天文学者だったらと その星帯の向こうのカロンを指差しながら あたしを見た あたしは冥王星のあなたの側で足をぶらぶらして そんなに遠いんか と笑った 8 銀河鉄道の話を聞きながら 僕は窓の外の天の川を 思い浮かべていた 君はそんな僕を とても遠いとこから 探し出してくれた 9 どうして星は夜に見えるんですか 三鷹の空から130億光年先まで広がる宇宙の球は ほんとに球なんですか あんたの唇が動く ただそれだけ待っている 夜はどうしてすぐぺしゃんてなるんですか 10 小惑星にまで触れたイカロスは 大気圏へ突入するその時に その目で見た最後の映像を送信した それは当たり前の私達の星の姿 君達の足並みは、羽ばたきは、瞳の色は 揃わされなくてもいい 11 猫と月は もともとおさななじみなのに とおく離れてしまって それでも 月の胸に猫の痣があるように 猫の瞳に月がいる 12 空へ消える 天に昇る 残る記憶を感じて生きてゆく 空から降る声にも 清しい 瑠璃の色香にも ---------------------------- [自由詩]てのひら/羽衣なつの[2020年2月7日16時14分] どうすればいいのか わからない 貝の中で 泣いていた 日 それから いちど海がかれて 空がおちて ながくもないとしつきを 二億年と少しへだてて わたし またここにいる どうして うつむいて てのひらに なみだをこぼしながら ---------------------------- [自由詩]物理学の定理/umineko[2020年2月9日10時47分] 広島にいる私の水面と 室蘭にいるあなたの水面が 水平 だとするなら 大型客船の中のあなたと 日曜日のカフェの私も きっと 同じ高さだとと思う それはずっと連続していて だけどどこかで安心してる 物理学は残酷だ 移動するには障壁がある 心には 距離がないんだよって 思おうとした私がいて 信じようとした私がいて でも 物理学は正直だ 距離に比例して 気持ちは まるで言葉みたいに 電送する魔法が欲しい ウイルスは コーヒーカップの持ち手のあたり 今日も 誰かの帰りを待って             ---------------------------- [自由詩]ハッピーチョコレート/都築あかり[2020年2月13日22時33分] きみの発する言葉ひとつひとつから ぼくの体温を感じ取って、 それは甘ったるくて しつこくて粘ついていて、 どうもぼくの世界には 合わなかった それだけだったのに 今は無性に味気ない また求めてしまうぼくは無力だ 他人に分かるわけなんかないのに 分かったような顔をして 中毒、依存 テンパリングされていないチョコレート ただ溶かされて型に嵌め込まれて 今日もそんな鎧を被ったりして 1ミリも綺麗なんかじゃないそれを ぼくときみは互いに分け合って それが、それでいて幸せだった 着飾ることが嫌いな女の子はいないよ 本当のぼくなんてきみがいないと 無味であることを証明しているように もっと丁寧に温度調節されるべき 恋というものがそこにはあった ---------------------------- [自由詩]pinhole fish/むぎのようこ[2020年2月16日23時21分] 凍りながらかけてゆく つま先の音が まぶたの裏でひかっている 薄むらさきの血液が花を さかせていた 降ってはかえる雪の 野は 斑にはるをくちずさみ ついになった色から透けてゆく したさきの 渇きに火をともしては 片端から 星になって膨らんでは しろく、浮かんだ 瞬きをなんどもゆすいで さくら色をした体液が 滑滑と、 うすまっては足元を通りすぎて いって 囲うように眩しくしのばせた 綻びも、はれて 地のいろにとけては むすばれてしまうからしろく そまっていたかった 音、 だけが こだましたさかさまの夜が ひとみの 底を、游いでいる ---------------------------- [自由詩]あさ/梅昆布茶[2020年2月18日7時48分] とても良い朝には きみに電話をして かわいい化け物の話とか 食べきれないピザの大きさなんかを 評論してみたいんだ ときどき売りにゆく 柱時計がボーンと鳴り 寺山修司が競馬新聞を持って 渋谷場外で馬券を買っている んだけど ---------------------------- [自由詩]図星/クーヘン[2020年2月29日13時05分] 見上げた冬の夜空に図星が一つ輝いている。 あの星だけが、僕の小さな悪事を見抜いている。 ---------------------------- [自由詩]口だけじゃんと言われても、何度も/AB(なかほど)[2020年3月9日19時51分] 口だけじゃんと言われても、何度も、何度でも 1 祈りを忘れてしまう夜がいくつもあります 誰かが亡くなったことを耳にしない日はないというのに ハンバーガーを食べながら 我が子にその意味を問われました 2 答えはまだ見つからない のか もうずっと前から そこにあるのか そのままに生きてゆく 世界の全てが優しさで包まれるように 花束と折り鶴が少しだけ風に揺れる ように 3 やさしいひとが 笑えない世の中で 山河に吠えている 一体何と戦っているんだ それでも もっとやさしいひとが 壊れた土手を 治している 4 僕らは優しくなれる 罪多き生き物で 偽善を覚えて 利己主義であっても  優しくなれる もう会えない君へ こんなにも寂しい思いをするのなら 口だけじゃん と言われながらも 優しい言葉をかければ良かったと思う もう会えない君へ 夏のグラウンドは暑かったね 冬の体育館は冷えたね 初めてのゴールはうれしかったね もう会えない君へ 山、白く輝いて  まぶしいよ 5 まだなんか。あんたのこころん中でくすぶっとる 真実が、うそにならんように、うそにならんよう にて、わしはただただ願うしかないんかいの。 あんたのゆわはる正義てなんの事や。それで、誰 の魂が救われるゆうんか。自分の魂も、冷めてま うんやないか。ほんでも、あんたにもわしにも、 まだ消されへんぬくもりがあるんやないか。 消 したらあかんもんが。その胸によく問うてみ。 わしもよくよく考えてみるわ。 6 スダジイの 樹の下眠る麦藁帽子 木漏れ日も 星影も (幼い僕が初めて命を感じて  泣いた絵 のような) ---------------------------- [自由詩]憩の月/朝焼彩茜色[2020年3月13日0時58分] 眠れぬ夜に 月から地球を眺めて俯瞰した 私は強かった  まだ今も人間であるが 愛に飢えているのか  錆を吐き出せず 溢れている 磁気も強烈に  男と女の創りの誤差如きに 己で己の心臓を長い爪で  掻き出して 血まみれに踊っている 哀しみに揺れ  変えられないものを変えていこうと企む 鷲の爪 俯瞰 君は強かった 月から地球を眺めていた 幼さと若さを融合させ バランスを保ち羽ばたいていた 生まれたての雄飛だった 眠れぬ夜に 蓋の出来ない怒りに 最愛の人に受け止めてもらえない虚しさの意味ある贈り物を 問わずに 月から地球を眺めて 心のよりどころを さだめている ---------------------------- [自由詩]額で見る景色/朝焼彩茜色[2020年5月13日22時31分] 大きな空と 大きな山を見た 幾何学模様を合わせたような 目を細めて時間軸を仰ぐ 私と人類の記憶に滞る しんと降る空気が浮く  説明する辞書がない この大きな空と この大きな山 私の瞳におさまり 退行したように欠伸をする 時間軸を滑り降りたり 昇ったり 過去に過去を重ね それをファイルするかのように 蘇る 透明なフィルターからの魂の欠片 水色とくくった空に 緑色とくくった山に 肉体をもっているが故に 表せない 現わせない けれども 生まれてきた誇り 風にあたるだけでも 麗しい だから表に現れて来る 未来生のような 指南の景色 そのコードが著しく抽象で溢れかえる 大きな空と大きな山と ---------------------------- [自由詩]海鳴り/羽衣なつの[2020年6月18日0時22分]  毎晩、おなじ夢をみていた。   わたしは、丘の上にいる。神さまといる。丘のふもとは男たちで埋め尽されている。男たちは、肉に飢えている。わたしの肉を、欲している。わたしはかれらをみながら、濡れている。  神さまは、美しい青年の姿をしている。何も着ていない。股間に、樫の木のような男根がふとぶとと屹立している。わたしはうっとりとそれをなぜ、頬ずりをし、けがらわしいことをかんがえている。  わたしは、神さまに懇願する。ああ、神さま、わたしはけがれた娘です、わたしはあなたを冒?したいのです、あなたの前で濡れている、このけがれたからだを辱めてほしいのです、けがれた娘にふさわしい、永遠の痛みと辱めをお与えください。  美しい青年の神さまは、やさしい微笑を浮かべながら、わたしをかるがると持ち上げ、わたしの両脚をおおきくひろげて、したたるほどに濡れたそれを、丘の下の男たちに示す。男たちはうめき声をあげ、のたうち回る。神さまの男根がわたしを一気につらぬく。わたしは歓喜の痛みにむせび泣く。わたしは今、地上の誰よりも美しい。  神さまは、わたしから男根を引き抜くと、丘のふもとの男たちに、わたしを投げ与える。無数の手が、口が、男根が、美しいわたしを奪い合い、辱め、穢す。男たちの精が尽き、ひとりのこらず息絶えるまで、わたしは歓喜にむせび泣きつづける。  今日は、その夢をみなかった。かわりに、夜の海の夢を見た。星のない空の底にくろぐろと潮が盛り上がり、うねっている。海鳴りがきこえる。わたしはいつまでもそこにいる。くろぐろとうねる潮はわたしと、ひとつになる。海鳴りがきこえる。  わたしは目を覚ました。  生理がきていた。 ---------------------------- [自由詩]空を切る、斜め上からの投下/ゆるこ[2020年6月18日20時13分] この道の 最果ての夜明けで または、 赤い月の落ちる砂漠の中心で、 裁断用のハサミで 制服のスカートを切りあおう か細い指で、ずっしりとしたハサミを持って 瑞々しい太腿を切らないように 心を描こう 漆黒のスカートをぐちゃぐちゃにしよう 夏の匂いは、 路地裏の中華屋の室外機みたいな むせ返るような熱い空気と 涙で蒸発した土の匂いでできている 部活棟まで香る その匂いは 私たちの青春を、とても苦いものにする 廊下を走る、誰かの彼氏 かげぼうし、女の子 ふとした瞬間の入道雲 の、隙間から落ちてくるたくさんの女子 生温い雨とともに、また 空へ舞い上がる 白いブラウスに七色の粒々を 地上から男子達がとばしてくる 地平線、その向こう 白いうさぎが飛んでいる コンビニの袋のように、 リプトン 午後の紅茶 ミルクティー みんな、本当の自分をしらずに 夕凪に消えてゆく その儚さの先に、 日はまた昇っていくのだろう ---------------------------- [自由詩]The golden door/梅昆布茶[2020年6月23日10時53分] The golden door うちの猫はキーボードを踏んで歩き スリープ状態のパソコンを呼び覚ます名人である ぼくの彼女は何時も地雷を踏んで歩き その意味ではとても有能な詩人でもある 謎って解けないままに 人生終わってしまうのかな むしろその方が良いのかもしれなくて ぼくたちはかがやいているはずのいちにちを ルーティーンにおとしこんで初めて安息する ちょっとつかれた革命家にすぎないのかもしれない いつも単純な夢をみて チーズの王国に住み 生物分解されるまえに スティーヴィー・ワンダーの Stay Goldを聴いてみる ---------------------------- [自由詩]消えない星のハッピーエンド/ゆうと[2020年6月24日14時53分] つめたい星の下 きみはどこへいったんだろう ちゃんと幸せになれましたって ハッピーエンドになったのかな 物語は途中で消える はずがないけど もしかしたら そうかもしれない きみの望まないバッドエンドも 可能性としてはありうる そもそも ちゃんと幸せになれましたって ハッピーエンドは存在するのかな 終わりをきちんと終わらせて 天国へのぼっていく なんてできるのかな 物語の終わりみたいに 「おしまい」の字はあるんだろうか ワールズエンドを見守って おだやかに死ねたらいいんだろうか 眠るように息を引き取るのが ハッピーエンドというんだろうか さよならをはっきり言うのがいいのか またねとあいまいに手を振るのが正解なのか 終わりのことなんて考えていても 考えていなくても 終わりは来るんだけど わかっているけど ああ 幸せを見せているひとに ぼくは安心するんだ ほんとうに幸せならよかったなあと 思うんだ 幸せであってほしいと思う 願う 不幸じゃない方がずっといい 幸せなまま死ねたらいいけど 死んだら幸せは途切れちゃうのかな わからないけど ぼくが死んでも きみは不幸にならないで どうか幸せになってね ---------------------------- [自由詩]かあさん/山岸美香[2021年4月4日6時44分] かあさんと 眠りについた こどもの頃を思い出す 暗い部屋が怖くて オレンジ色の小さな電球を お願いしてつけてもらっていた しょうがないなあと笑う かあさん ささやかな幸せを 思い出す もし 全てが分からなくなってしまっても 怒りにまかせてしまっても 私はかあさんから生まれて かあさんと一緒だった かあさん かあさん かあさんがすきだった ---------------------------- [自由詩]柔らかな疎外/梅昆布茶[2021年8月13日19時49分] 水源と柔らかなことばにめぐりあう 船の舵取りは水辺の花を想いながら いくつになってもできないものはできない 今更のようにはぐらかして過ごそうか 永くゆっくりと関わってゆく事は大切だし 固く結ばれて解けないほどの不自由も たぶんほんとうは大切なのだろうと 嫌いな人間は少ない方なので助かるが ただしつけこむ奴は大嫌いなんです 環境との接点は少ない方が良いのですが 仙人願望とは無縁の今日に転送されて 僕は世界の卑小で愚劣な汚穢であり たまには優秀なこもんせんすみたい 自身を阻害するものは自身なのでしょう 僕を超えてゆくのも自身ならば僕にまかせましょう もう社会へ参加できる日々も少ないとおもうのです きみと会える力があるうちに逢いたいのです ---------------------------- [自由詩]文通/凍湖(とおこ)[2021年10月10日12時56分] 拝啓と書く 敬具で〆る 小学生のとき 電話とメールというメディアの違いを考えよ、という課題があった 今はもう、そのどれもがふるい 既読がつき、いいねがあり 三分の空隙にすら意味がうまれてしまう時代 わたしは手紙を書いたことのない世代 狭い教室のなかで折りたたんでまわした小さな紙切れが わたしにとって手紙だった 先月、はじめて便箋と封筒を買った 友人のSNSを見るのを辞めた そのかわり文通をする 形式のなかに推敲があり 相手方にだけわたしの言葉が残り わたし方にだけ相手の言葉が残る 話しすぎることなく知りすぎることなく  とても遅い そういうのが真新しい そう、新しいのだ 千年前よりもなお 十年後よりもきっと ---------------------------- [自由詩]居場所のないうた/梅昆布茶[2021年10月15日4時06分] 居場所のないことにすっかり慣れてしまった 居場所があったのはたんに周りが優しかっただけ 革命の年にテントとシュラフを積んで やさしい風景を捜しに行った訳なのです いまも漂泊中の修羅猫みたいにこのありさま 家でも連休の1日は家にいないでくれって 微妙なだけにハラスメントっぽいでしょ 想像しない蛙は蛙にすぎない 純真な兎はどこにでもいるものです 不都合な蛙と屏風絵のなかで戯れていたり 健やかな夢想はいつのまにか 塗り潰されてしまうのでしょう 白い鳩は焼いて食べると美味しいらしい 赤い犬も美味しいとは仄聞の隣国のこと 誰も理解していない宇宙に 誰も誤読していないのに存在すること 言語は歴史的一瞬に定位したのかもしれない サピエンスが想像力の幼翅を広げてゆく黎明のある契機に 天職は星の瞬く時間の孤独の配達人であるのだろうと 生きる手法が違うだけで人はすれ違ってしまうのでしょうか ---------------------------- [自由詩]詩のとき/はるな[2021年10月28日18時12分] 詩のとき 心は旅をする 命からとおくはなれて あるものの全てにこまかくなってよりそう 愛などは 手に負えなくて 途方にくれた 炎はもう あかるすぎて いられなかった はじめて 旅をした 詩のとき 心は 命からはなれて どこまでも とおくへ行った とるに足らない実在のものものの愛おしさを思うとき、 あまりにも近くて 触れられない心臓、 苦しく波打ち、切れるような寒さに、 ふるえたり、立ち尽くす時、 わたしたちには 必要だった 命から どこまでも とおくはなれて 旅をすること、 旅をして、 そして、戻ってくること 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穏やかだった流れを切るように横を向いた君の厳しさ(美しさに) 僕はとても とても困っていた 別にもう好きじゃないとどうしても言えない どうして言えないんだろう 難しい顔で果物を選ぶ そのわりにはすぐに食べないで 傷んでしまってから嫌々食べる あふれるほど覚えている 泣くと筋肉を使うと言って笑った 喧嘩とか、したくないけどするかもねと言ってはふるふる泣いた 許可を得たのは一度だけだった それで充分だった 沢山の時と日があの赤銅色の落ち葉たちのように逝った 思い(取り)出すたび少し傷む 君と同じこめかみが痛むようになっていた 君の声 身体の動かしかた 思案する 泣き 笑う声 切ない間 と名がついた 記憶の部屋にはそれが大切に保存されていた 確かに、いや、 多分 それで充分のはずだった こんなにも時が散りつもりなお 君を救うのは僕でありたいと強く願う いくつもの楔が打ち込まれて錆びているからか いいや 君のための特別な部屋があって そこには君しか 入ることが許されないからだ すぐに人を試すようなことをして すぐに後悔してしょんぼりする 子供みたい 子供はでもこんなふうに 根気のいる細かい作業はできないし 昔に作られたものに嫉妬したりもしない 壊したりも ふいにありがとうと言ったりも ごめんねはあるかな ごめんね 赤いコートで雪の中に立つ君は本当に 孤独でかわいそうできれいで きれいで切なくて 君しか入ることを許されない部屋ばかり 増える ---------------------------- [自由詩]終章/Lucy[2021年11月22日20時01分]     分厚い雨雲の真ん中が綻び 底なしの穴の遥か遠く 水色の空が薄氷越しに透かし見えると 遠い夕焼けが破れ目の縁を なぞるように湿らせる 逝く人の 輪郭を切り取るだけの硝子窓 黄昏が重い緞帳のように降りてきて 地平線をすっかり塞ぐ少し前 カーテンコールのスポットライトが 僅かに残った木の葉の面で ゆっくりと乱反射する それ以外に何が起こるというのだろう 今更間に合わない反省をパレットの上で混ぜ合わせ 思い出を清らかな絵の具で塗り替えようとしたところで 綻びた雲と同じように 季節は境界を見失い 声を失い 逝ってしまった黄昏の裏側に ぼんやり取り残されるのだ ---------------------------- [自由詩]平均値のうた/梅昆布茶[2021年11月24日8時58分] 素晴らしい朝は 岬の鴎たちが啼き交わす言葉までわかる 遠い希望は持たないほうがいい ただ一瞬の充実が幸福論のすべてならば そこに集力してそれが結果になる方がいい それからが始まりだと思う 努力しても不可能はあるが 自分の燃焼を感じていたい 大好きな美文堂書店は閉店するが 読み続ける事を教えてくれたのは此処です 平均値から外れても良いのですただ それがあまり意味ないことを覚えよう もしも自分というものが有ると仮定して この世界の一隅を借り住まいしていても 細胞は日々入れ替わり 毎日瞬間別人になってゆく 37兆個分の責任はとれないので ある意味自由に生きて行こうとおもう 魂だけが僕ならば 身体は余計な荷物だけれどもね ---------------------------- [自由詩]穂渡り/AB(なかほど)[2021年11月24日19時01分] 穂渡りの君が 口笛を吹く 錦糸町にお蚕さんの面影を重ねてみる ほら そんなふうに季節を忘れた町に 探している何かを求めている 探している 穂渡りの君が 嘘をつく 季節は季節はと言いながら 何も変わらない規則正しい日常を 田町から迎える景色を 愛してる、愛しんでいる。慈しんでいる でもなんでもいい 愛でている 穂渡りの君は 季節の上を寝床にして 神田のあちらとこちらで どちらかというと僕はこちらが好きで とか言いながら ああ、 こんな立呑屋で酔えるのは 秋も終わりかなぁ、なんて 穂渡りの僕は なんやかんやと言いながら 昔、裸族禁止と看板があったあたりの フェンスの向こう 流れる呑川に捨てた気持ち それをまた拾い集める年にもなって ああ、あれもこれもだ あれもこれも 君の、僕の、思い出だ こぼれ落ちてくものを 掬いながら 穂渡りの季節が過ぎる    ---------------------------- [自由詩]通報者/本田憲嵩[2021年11月24日23時19分] ちいさな、迷いの、 みえない、 硬い、戸惑いのプラスチックを、 決断の、とがらせた指さきで、 突きやぶって、 それから、送信の、まるで火災報知機のボタンを、 ほんとうに、 押してしまった、かのような、 消防車の、あなたが、じっさいに現場まで、 駆けつけて、来るまでの、 とても永くて、 みじかい時間、 (ぼくは、  ベンチに座りこんで、  まるで、かんがえる人、のような、  まだまだ、  純粋な、通報者でした、) ---------------------------- [自由詩]コーヒーの香り/夏川ゆう[2021年11月26日18時43分] お互いにコーヒーが好き 出逢いはよく行く喫茶店 コーヒーの話題で盛り上がる コーヒーが繋げた恋愛 何処となく身体に染みついている 使う豆によって 味や深みが変わる 切ない気持ちが和らぐ コーヒーの香りが そうさせているのかな コーヒーの話ばかりしている 喫茶店に流れる音楽 居心地の良さを作り出す 長居してしまう コーヒーの香りは飽きない お互いにコーヒーで繋がった ---------------------------- [自由詩]コップ/水宮うみ[2021年11月26日22時02分] 心があるという事それ自体に心動かされる時がある。 あの時抱いた感情を、いつか言葉にできたら良いなと思う。 たとえその言葉が人に伝わらなくても、 僕しかいない場所に言葉がいた。 ---------------------------- (ファイルの終わり)