間村長のおすすめリスト 2018年10月14日23時54分から2020年3月8日9時30分まで ---------------------------- [自由詩]水遊び/1486 106[2018年10月14日23時54分] 雨上がりの街を歩いた 露出の多い服が肌寒く 季節の変わり目に吹く風が 取り残された私の体温を奪う 抱きしめられた温もりも シャワーの後の優しい時間も たった一言で嘘に変わっていく ふやけてしまったアルバムの写真 捨てられないまま次ばかり探して 空っぽの心を埋められないまま 悲しい恋がしたいわけじゃない 思い出に浸りたいわけでもない この人こそはと思えるような たった一人を見つけたいだけ 枯れ果てたと思っていた 涙が頬を伝わり落ちていく 簡単に人を信じてしまうのは 悪い癖だと分かってはいるけど 同じような人を好きになって 同じような終わりを向かえる 終わりを迎える直前の空気が いつからか分かるようになった 勝手に好きになって勝手に傷付いて 最初から最後まで一人ぼっちだ 悲しい恋がしたいわけじゃない 思い出に浸りたいわけでもない この人こそはと思えるような たった一人を見つけたいだけ 簡単に人を裏切れるような 本当の愛を知らない人を 嫌いになれる方法を教えて 簡単に溺れてしまうような 本当の愛を知らない自分を 嫌いになれる方法を教えて 悲しい恋がしたいわけじゃない 思い出に浸りたいわけでもない この人こそはと思えるような たった一人を見つけたいだけ 引き止めないし縋ったりもしない だけど諦められるほど器用でもない いつの日か涙が枯れ果てるまで たった一人を探していくだけ ---------------------------- [自由詩]もうこれ以上は/こたきひろし[2018年10月15日6時19分] もう これ以上先には進めない そんな行き止まりに遭遇してしまう 人生 その途上 その時々に前途を遮った崖や 道の険しさに 挫折する たとえ 崖を跨いだ先にある空にこそ 輝く虹が見えても 綱を懸けて渡るまでの勇気は わかなかった たとえ険しい道の先にこそ 欲しい花が咲いてても 自分の足の弱さと脆さに 断念せざる得なかった もう こそ以上は先には進めない 危険を予想させる道には 幾つも落とし穴が待ち受けているに違いないから それを怖がる 私は意気地無し 気づいたら安全な道ばかりを選んで歩く 私は 意気地無し と 言う賢明な生き方 ---------------------------- [自由詩]聴診器/ミナト 螢[2018年10月15日9時12分] 制服のふたりがイヤフォンを分けて 同じ音楽の風に乗ったまま 片耳を横切るかすれた予鈴 真ん中でぶつかる裏声の歌 美しいものに触れるとみんな お腹がいっぱいになりませんか 鞄の中のアップルパイを 食べていないから本当なのだろう スカートの裾が手を振るような さよならをする前に確かめよう 君のイヤフォンを外しながら 胸に当てた心の音を探して 伝わって来るドキドキの鼓動が 僕の指先に信号を送る 食べ忘れたアップルパイを割る時に 破れる薄い皮の一枚が 僕たちの鼓膜みたいに震えた ---------------------------- [自由詩]いつまでも待つだけ/まみ[2018年10月15日10時42分] バスを待っている 時刻表をじっと見つめながら 赤いバス、青いバス、何本ものバスが通り過ぎて行く もう日が暮れるのに 乗るバスはやって来ない 流れる風景、人影の中 バスを待っている あなたのところに行けるバスを ---------------------------- [自由詩]それをもってしてそれをしない/竜門勇気[2018年10月15日12時25分] カミングホーム、酒瓶の花束もって 今、くたびれた部分を 体のどっかにかかえて ひきずりまわる 長い道のはじめの方にいる 石が冷たい 土が乾いて凍ってる 頬をかすめてる風を にらみつける あー、夜だったんだな 星が見えた 僕のうちに来るときには 持てるだけ酒瓶を抱えてこい 跳ね橋を渡って うさぎが見える 今、余分なものを壊すたびに その無分別な怒りが無為の作ったものだって気づくんだ 一番立派な豆を煮たもの それが腹を満たす 言葉が与えられて 翼や爪や牙や素晴らしい貪欲さも僕のものになる そしてそれをもってして 石が冷たい 土が乾いて粉になる 頬に当たる冷たさは致命傷だ 昼間を交わし損ねたんだ ばったり。ここで終わるよ 星がまた見えた 覚えてる星座が全部見えた 僕の家を訪ねる時は 酒瓶を花束のように抱いて来い いつ来ても良いさ ドアを開けることができずに伸びてる僕に それを渡してくれ 長い道は行ってるときには どうでもよく思えるもんさ 帰らなきゃいけないなんて思わねーもんさ 僕はここでやめる 行きもしなきゃ帰りもしねーもんさ ドアを開けられずに伸びてる僕に それを渡したあとは 君は君で何本か空けて そんで次に行けばいい そんな仲だろ? なにか要領を得ないことを話したら わりーね その前に話したことだけ覚えててくれ 次は冷たい水を口いっぱいに含んでこいよ んなこと言うかもな もちろん両手いっぱいに酒瓶もってな 長い道のはじめには こんな気持にもなるさ そう言ってきえちまえ そんなもん焚き火の煙で 自殺するようなもんだぜ そう言ってきえちまえ しゃがみこんで僕の手とか 顔とかを覗き込んで 面倒事はごめんだなとか こんなもんかとか そう言ってきえちまえ 鱗粉でいっぱいの翼 柔らかな牙、あたたかい爪 どこにもはばたかずきえていく 僕を覗き込んで満足したら きえてくれ きえろ! ---------------------------- [自由詩]石畳の道/st[2018年10月15日12時26分] 秋色に染まった街の 坂の上の教会へと つづく道は きみが教えてくれた 思い出の道 枯葉が舞い落ちて 石畳の道を飾り きみは枯葉をひろって とってもきれいね でもすぐに色あせるのよ といっていた 色あせる という言葉が 気になって きみの横顔を じっとみていた あのとき きみはもう 変わっていたのだろうか いま枯葉を手にしても 吹き抜ける風のなかに きみの香りはしない いつもきみが開けてくれた 教会の扉を開き ステンドグラスから差し込む やさしい光のなか ひとりで手を合わせ きみの幸せを願いながら 秋の日は暮れてゆく ---------------------------- [自由詩]夜の質量/ゴデル[2018年10月15日18時38分] 夜には確かに 黒い雪のような 質量がある この部屋にも だんだん だんだんと 降り積もってくる 足元から 僕の座っている ソファを すっぽりと包み込み 上へ上へと ただでさえ ぼんやりとした このいとなみを もう一つ あやふやにする だけど 眠くないもの達は 夜ではないと 天井に向かって 手足をバタバタ どこか 家に帰ろうとする どこか 仕事に行こうとする バスに乗って 自分で歩いて 暗いことも 静かなことも 世界から 必要とされていないことも 無かったことにして 挙げる 奇声を挙げる We are! 眠たい僕は うっとりと 仕事を投げて 後は野となれ 頭の先まで 痺れていたい のに 邪魔をするものに 悪態をつく 黙れ 黙れ 眠れ 死ね 狂人 We are! 眠たいものと 眠くないものが 手をつないで往くのは トイレではない 地獄だ ---------------------------- [自由詩]遠い集会/石瀬琳々[2018年10月17日5時33分] 遠い声を聞いた 海の底のようなはるかな声だ 耳に残る 今はおぼろげな記憶のようだと 貝殻の奥にある秘密の旋律のようだと 遠い道を歩いて抱いてしまった憧れに逢いに行く 人々が集って来る 草を踏みしだき あるいは土の上を嬉々として踏み固め どこからともなく湧く水の泡にも似た胡乱だ どこまでも辿り着かない夢だ けれど もう少しで指先が触れるだろうという渇望が 前へ前へと突き動かしている わたしたちはみな同じ夢を見ている 遠い手触り それとも遠いまなざし ただそれを知りたいというささやかな欲望だけで ---------------------------- [自由詩]道草/ひだかたけし[2018年10月18日14時56分] 雲の切れ間から 青が光って覗いている 俺はくたびれ脱力して 道端に腰掛けている わけの分からない宣伝カーが ゆっくりと通り過ぎて行く ひんやりと動かない空気 傾きかけた太陽 何も変わらない風景のなか 俺は重い腰を上げる 風景の一部になろうとして うっかり声を立てないように 静かに 静かに ---------------------------- [自由詩]月の舟/秋葉竹[2018年10月19日22時23分] なのに たゆたうように月は光りつづけ あきもせず夜空を見上げる あなたの横顔が冷たい 聴こえるはずのない 化鳥の鳴きごえがした なにかを奪い去る甲高い意志 その悲しみを秘した胸の重さが その鳥の巣には耐えられず 自重で穴を開けてしまった どこか剽げた化鳥の絶望の悲鳴 鳥は 飛んでゆく 夜は寒いから 悲しみが凍りつき 私の部屋へは 氷像が落ちる まるい月は真円ではなく ただ綺麗に輝きたいひとつの嘘が 無数の真実を優しくだますだろう この部屋の窓から 晩秋の風が髪の毛を揺らしにやってくる 行くべき道が 祝わわれている嘘を やさしくおしえてくれている だから 間違わない ちゃんと 覚えている 後悔は あの公園の滑り台の 上に置き 風にまかせて いつか滑らす 呼ぶは 舟 私を月まで連れて行ってくれる 紙でおられた 光の 黄泉の ---------------------------- [自由詩]Ktの死/春日線香[2018年10月20日1時54分] 死ぬ時は死ぬ時の 風が吹くのではないですか 内側の草むらが騒ぎ いくつかの虫が飛び上がるのでしょうか あれは何? 毛布? 黒い毛布を吊るしてカーテンにしてください 瞼の上から光が眩しすぎる 眩しいところで息をするのは難しい 頬に花が降りかかって たしかに水気が感じられます 部屋を片付けてください スリッパを履いているので足は寒くない 時にはお酒を飲んでもいいでしょう 煙草も少し あとは心を静かに過ごしていれば それでいいのだと思います 陶のコップを割らないように気をつけて 赤い色の絵を取り替えてください 目が眩しい 本の買い過ぎや レコードの置き場所に気をつけること 犬が何枚も割ってしまって…… 冷蔵庫にケーキとソース 好きな花の匂いがします でももういい 手の中で転がす何かが欲しい 冷たい空気 羽毛のような…… この草を払ってください あれは何? 毛布? ---------------------------- [自由詩]天国のようなバラ園/夏川ゆう[2018年10月20日5時18分] お気に入りの場所バラ園 何十種類もあり 魅力的な香りに酔いしれる 広いバラ園は長くこの場所にある カフェなどもありちょっとした観光地 若者たちよりも 初老の夫婦をよく見かける バラの香りが若々しさをくれる 自然と笑顔が増えて優しくなる ピンクがかった花弁が愛を思わせる 天国のようなバラ園と呼ばれている 一日中いても飽きない 癒されるばかりで 身体は楽になる 広いバラ園を時間をかけて見て回る 大好きなバラに囲まれて幸せ ---------------------------- [自由詩]あさやけ/久野本 暁[2018年10月20日5時30分] 青白む空に星が燃やされていく ささやかな虫の声と なめらかな雲の影が葬列を成して 焚きつける東の空は間違いなく翠の色をしているのに 遥かの路上を引き裂くタイヤが全てを置き去っていく 心で灰になる金星だけは どうか消えないでと願う それでもよく知っていた あの瞬きには二度と出会えないことを ---------------------------- [自由詩]この目に見えないものは/こたきひろし[2018年10月20日6時43分] この目に見えないもの たとえて言うなら この世界の片隅 何処だよそれ 漠然とし過ぎだろ 地球は文字通り球形なんだから この世界の端とか 真ん中とか 有るとしても どこを指すのか 素人に解る訳がないだろ この目に見えないもの 数えたらきりがないだろう 人間の心なんてその最たるもの 実体を見たくても見えないんだから 見えてしまったらそれはそれで大変だろう 嘘が全く役に立たなくなるんだから 嘘をつけなくなったら みんな困るだろう きっと世界はパニックになるに違いない 核ミサイルより 破壊力あるだろうな 生きずらくなるし 生きていけなくなるだろう この目に見えないものは 見えないままにしておくのが望ましい もし科学が 人間の心をモニターに投影するまで進歩してしまったら それは愚かとしか言えないって ---------------------------- [自由詩]独り言76集       /ホカチャン[2018年10月20日8時11分] ○「仮面人間」 「おとなしく真面目」という 仮面をつけておれば 親や先生は安心する ○「人の本質」 人の本質は 何に苦しんでいるか 何を楽しんでいるかに 現れる ○「絶対の言葉」 「どんなことがあっても 人を殺してはならない」 「どんなことがあっても 自分を殺してはならない」 ○「違反」 人は 二者択一を迫られた時に 違反する ○「女性へ」 きれいになりたければ 恋をしなさい 内側からきれいになります 化粧よりも恋です ○「地域の活性化」 地域の活性化は 補助金よりも 自由な議論にかかっている ○「学ぶ意欲」 希望は学ぶ意欲にかかっている ○「教えたがり」 酔っぱらいは テレビの受け売りを 自分の考えのように話す ○「思い込み」 思い込みがあると 見ても見えない ○「判断力」 現代は情報垂れ流し状態で 何が正しくて 何が正しくないのか 判断に迷う場合が少なくない そんな時は 古典を読めばいい 何百何千年と時代をこえ地域をこえて 生き残ってきた古典を読めばいい ---------------------------- [自由詩]実家にて/服部 剛[2018年10月20日8時32分] 久々の実家に泊まり ふと手をみれば 爪はのび 父と母はよたよた、歩く ---------------------------- [自由詩]偶然/ミナト 螢[2018年10月20日9時26分] 線路の隣で揺れるコスモスが うなだれた首を守りきれずに 飛ばされていく自分のように シャツのアイロンを忘れたくらいで 家に戻るのが面倒になって 朝は行列に並ぶことなく 好きな映画を観て時を許した 都会で踏み外す一歩は多分 蟻みたいに群がる巣の組織が 穴を埋めながら明日を創る 僕が迎えている朝はきっと 昨日の続きにポイントを付けても 明日に変わることなどないのだ 花に重ねた自分の運命を マフラーで結び抱きしめてやる 苦しいほど強く妬んだ世界に どんな言葉なら届くだろうか 枕のカバーに撒いた香水で 僕の夢を混ぜて揮発する夜の 神秘を探しに瞳を閉じた ---------------------------- [自由詩]日刊写メラマン/イオン[2018年10月20日11時28分] 毎日をスマホで撮影する それをSNSに掲載するから ボクは日刊写メラマン だけど、SNSに掲載すると あとで、その日の出来事や写真を 思い出せなくなるんだよね カッコよく言うと 記録を外部記憶装置に退避させて 脳の細胞を今だけにフルに使って リアルを充実させているんだ SNSの充実が真実へとすり替わる それが日刊写メラマンの快感だね ---------------------------- [自由詩]あっちの別れかたがのぞみよ/立見春香[2018年10月20日11時37分] つまらないんだよ なにを言うつもり? 言い訳しないのね つまらないんだよ 悪魔が作ったみたいな ラビリンスに迷い込んで 心の外側から削り取られてゆき 私にはなにも残らないんだよ きっと つまらないんだよ 悪魔の冷たさの真似、がそれ? つまらないんだよ つまらないんだよ まるで私を可哀想とおもっている ダメなオトコみたいなふり? たまらないんだよ あなた、 なんだか懸命にやってくれてて たまらないんだよ 嫌わなくっちゃ、いけないのに もう、お別れなのに 未練残しちゃ、いけないのに もう、逢えないのに たまらないんだよ あなた、 もっと、ひどい、ふりかたしてよ! ちゃんと、まだ好きかも、って、 目をそらして いってよ 軽くバレる 下手くそだけど私のため、みたいな どう、怒っていいのか、 どう、笑っていいのか、 どう、泣いていいのか、 わからないみたいな ふつうの別れのときみたいな オレがすべて悪いんだ、って、 ごめん、だけどな、って、 ペラペラ、心のカケラもこもっていない 言い訳くらい、しなよ! つまらないんだよ 悪魔じゃないんだから 悪魔になれないんだから 悪魔の泣き真似などするな。 つまらないんだよ ---------------------------- [自由詩]ガラス越し/ひだかたけし[2018年10月20日13時07分] 巨大スクリーン天空の 奥へ奥へ流れていく 鰯雲を背景に 右へ左へと 歩き去る 人人人 確かに属していた あの世とこの世の境界の フルサトを捨てて何処までも ---------------------------- [自由詩]詩のうた/犬絵[2018年10月20日18時17分] 切りとる 世界を 見せて おくれよ 写真じゃ ダメさ 詩じゃなきゃ 見えない 心という 見えないもの おもいという 不自由なもの 楽しげな 笑いなら 楽しげに 見えるもの 消さないで あなたの詩 夜空のさいはて ながれる しらべを みみもとで ささやく声を しんじたよ (冷たい (氷に (触れては (いけない うたを うたう 人 美しい 声で うたう 人 死にたい 人でも 泣かせる 声で うたう のか わからずに うたう のか わからない 頂で 暮らしとか 考えて 出会いとか 別れとか いろいろと 考えて 夜を行く 眼を見たら 涙など にじまない ただ震え 見渡すと さまざまな 生活の 汚れとか ホコリとか そこにあり そこになく 探すため 店を出て 探すため ただ歩く 疲れの にじんだ 夜景の 海にすむ とどまらない 正直者の さあ 声を 聞こうか ---------------------------- [自由詩]アラーム/腰国改修[2018年10月20日18時40分] アラームばかりが鳴る世の中だ ポットや洗濯機のあなた キッチンタイマーや高級車のあなた 人間全体休め! 何億年に一度世界全人口が夢を見る 悲劇であるが喜劇というらしい 今夜は肌寒く風が吹いている ---------------------------- [自由詩]未詩・秋のはじまりに/橘あまね[2018年10月20日23時09分] 石ころになりたかったんです 道のはしっこで 誰の目にもとまらないように ときどき蹴飛ばされても 誰のことも恨まないような ちいさな石ころになりたかったんです たいせつな物は思い出の中には何もなくて いつも何かが妬ましくて 焦がれる感情を押し殺して 何も感じないふり 考えてないそぶり ちいさな陽だまりがあったんです 十月のささやかな午後みたいな もうすぐ死ぬ虫たちが集まって まどろみの途中で そのまま終われたら いいね なんて さみしくないよ なんて ずっと夢の中です 生まれてからずっと 覚めない夢の中です 熱病にうなされるように ちいさな細胞たちが集まり 大きくなりたかったのに 未遂のままがいいんです 何を為すこともなく ただ道端のちいさな石ころとして いつか誰にも蹴飛ばされなくなって 静かな風景の一部として うずもれていけたらいいんです ---------------------------- [自由詩]どうすればよいのかが、わからない/秋葉竹[2018年10月21日0時05分] もうあざやかさにそめあげられた青空が 海に落とされ 凍りつく落下速度の門を 美しく破る波の牙 切り立つ崖の上に立って私の 半生を眼下の海に沈めたい 秋も終わり 歌う虫もいず あなたもいなくなった地上を 見下ろす魂は 雲の上から 青空をたゆたい 亡霊の儚さで 消えかけている 消えかけている愛を 取り戻そうとして 取り戻せずに 雲の上からただ地上を 見下ろしている 従順な犬の子のような あからさまな可愛い子ではなく 小賢しくも好きになってもらうための あさましい擬態もみせたりも したわ あなたが いないとこの想いではなくこの体が 静かな息をしながら 死んでゆくのをしっているから 箱舟が地球の救いとなるなんて くだらない嘘を 嘘だと言いあげて 箱舟を奪い取って あなたを探しにゆくわ 「僕には、応えられない」 というあなたが放った この眼の裏に氷の痛みを与える言葉 あなたへの恋慕が 止まらない心をへし折った 真っ黒な凶器は 私をほんとうに変えてしまった ほんとうの言葉って、なに? ほんとうの心って、なに? さみしげなあなたの目のような いちど海に落とされた あざやかな青空の下 あなたは知らない私の半生を 切り立つ崖の上に立った私の半生を 眼下の海に沈めたい どうすればよい 心の安寧のためじゃなく この 自由な心のために 争うことさえ 拒まない情熱の魂を あなたに渡すことができるのかと 疑い 悩んでしまったときに 私があなたを好きでいつづけるためには どうすればよいと、いうのだろう ---------------------------- [自由詩]美空の下に美空の果てに/こたきひろし[2018年10月21日6時47分] JR線の駅が近い。線路の上にかかる橋の上から通過していく電車の音を聞きながら歩いていた。 もしかしたら余命幾ばくもないかもしれない私の命。 人間の寿命なんて人それぞれに違いがあるけれど一世紀をながらえる人は奇跡だろう。 生き物として、ヒトとして死を何よりも怖れてはいる。だけど一世紀を生き長らえる幸運の種を持って私は生まれて来てはいないだろう。そんな奇跡にあやかりたくはない。 JR線の駅に向かっ歩いていた。線路の上にかかる橋を渡りきると真っ直ぐには行かずに左に折れた。その先に駅があるからだ。 早朝の空気が街に立ち込めていた。空はいちめん青一色に染まり、何だか心が切り裂かれてしまうそうな美しさだった。 何だか即座に生きているのをやめたくなるような美しさだった。 平凡な日常が粉粉に砕けてしまう寸前のような痛みが胸を捉えてきた。 その日私はJR線の電車に乗って県外のとある街に行かなくてはならなかった。 定年を境にそれまでの職を失った私は、ずっと張りつめていた糸がぷつりと切れてしまったようだった。もう何もする気概をなくしてしまうと、無業のままに一年近くを過ごした。 しかし、僅かな退職金と失業保険を食い潰してしまいそうになってきて現実に 目覚めない訳にはいかなかった。それはまさに米びつの米がなくなっていく焦りだった。その焦りに追い立てられて何とか再就職の口を手繰り寄せた。そしてふたたび働く虫になる決心をした その為に一日限りの研修を受けるため、私はJR線の電車に乗る必要に迫られたのだ。 生き物としてヒトとして、そして家族を支える父親として 避けられない逃げられない土壇場に追い詰められたような心情だった。 一年近くのブランクが重くのしかかってきた。 早朝の雲ひとつない空は美しい。だけどどうせならパラパラと雨が降ってくれた方が救われるような気持ちかがしてならなかった。 ---------------------------- [自由詩]名前/立見春香[2018年10月21日7時33分] ふねのかたちをした 古い水族館で ため息が水槽を 曇らせるのを みたわ 長い魚、丸い魚、群れる魚、ぼっちの魚、 人が知ってる ありとあらゆる 地球の魚が 目を丸くして 泳いでいたわ 黒いあなたはいなかった いつまでもいつまでも 泳ぎつづける魚たち 溺れるわたし 空気をちょうだい ふねのかたちをした 古い水族館で ため息が止まらず 曇ったガラスを キュ、って指で こすってみた 名前なんて 書かなかったわ ---------------------------- [自由詩]唇/犬絵[2018年10月21日19時46分] 水を 飲み干す と きれいに 戻れるの 過去は 穢されて きれいは きえはてて 水を 飲み干す と 涙も 流れるの 過去の ゆるせない じぶんも ゆるせるの 水を 飲み干す と あしたに すがれるの いまの 闇のよの しがらみ 無くなるの 水面に 夕焼け 水鳥が 蛙を 喰った 稲光り 真夏の 涙が かわいた 一糸 水を 飲み干す と 世界が はじまるの あした 敵となる 友さえ ゆるせるの 静けさが 心臓 突き刺す 夏 その夜 命が震えて 泣きじゃくる から 泣きじゃくる から 唇 震えて 止まらない まま ---------------------------- [自由詩]サイネリアの妖精/丘白月[2020年3月7日22時33分] 誰もいない小学校の裏で ポタポタと屋根の雪が溶けて落ちる 誰も見ていない小さな花壇で 小さな二色の花びらが朝日を浴びる 新学期の声が遠くから聞こえてくる 雪を踏む足音が近づく まだ出来たばかりの 新しい1月 神様が止めたといえば 今日は来ない 妖精は神様の希望に応える 月から聴いた言葉を 花壇に一晩で並べる 子どもたちに おはようと言う 聞こえないかもしれない でもきっと心の底に ゆらゆらと降っている 笑顔を作りながら ---------------------------- [自由詩]三角定規/ミナト 螢[2020年3月8日9時30分] 点と点を結ぶための線が 輪郭をはみ出していくような 新しい星を描いた夜は 手裏剣よりも遠くへ飛びたい 金平糖みたいな甘い星が 好きと嫌いとどうでも良いという わがままなエゴリズムを作って 夜空に雫を垂らしていった 尖ったものほど遠くに置いて 自分の腹を括らないつもり 残ったものほど近くに置いて おにぎりを食べさせてあげる ランドセルを忘れても良いから 三角定規を背負っていたら いつかは翼になると信じている ---------------------------- (ファイルの終わり)