間村長の田中修子さんおすすめリスト 2016年12月14日21時45分から2018年9月13日13時25分まで ---------------------------- [自由詩]心象風景二 きみとわたしと/田中修子[2016年12月14日21時45分] 1. 色のない空をつんざくようにそびえたつ黒い山脈 真っ黒焦げになった数万の人々が フライパンの上ゴウゴウと炒られて悲鳴をあげていて それをしている巨人もまた 焼き爛れて狂って笑いながら 泣いている 数万の人々がわたしで 巨人は母だ 2. 炎を頬に感じながら悲惨の脇をとおりすぎ 黒い山脈を越える 月明りで歩ける浜辺 静謐をたたえる海 さざ波が白く わたしは焦げたからだを引きずって (そう、お化けのように 皮膚がつりさがる腕を前に突き出しながら) ミズガホシイと海に沈む なめらかになるからだ 深く 深くへ 銀の青の魚の影 赤い珊瑚や真珠貝を髪に飾り たわむれる人魚たち きれいな泡になり溶け行くわたし 3. あなたは打ちっぱなしのコンクリートに幾重もの鉄の扉だ わたしを抱きながら中をみたきみがそう囁く きっとそちらが本当で 狂女のように泣き叫んだ 壊してそうして溶かしてと そのときのわたしはカッと目がひらくそうだ 4. いま、ジャングルだ 重いような甘い香りを漂わせながら咲き誇る赤い花々 目を打つように眩しい緑の葉 極彩色の蝶ににぎやかな鳥 喉を潤すに足る川、人を食う魚にはご注意だが しめってしずかなあなぐらのなかで わたしときみは抱き合ってねむっている 一瞬だが最高の安らぎを 5. その眠りの中きみをみた 青いゼリーを星きらめく夜を ひとの生きられぬ砂漠を亡者になり彷徨うきみを あふれだしたけがされないであろう泉をみた 強いようで泣きじゃくる囁きをきいたのだ 6. そうして、また、旅をはじめる きみとわたしと 体が地と虫と空に溶けるまでの 永くありながら瞬きのような旅を ---------------------------- [自由詩]獣と鬼火/田中修子[2016年12月20日0時56分] しなやかな獣のようだきみは 脂肪のわずかなあたたかなからだ むしゃむしゃごはんをたべ わたしをむさぼり 疲れたらひっぱたいても起きずに深くねむり あしたははたらきにゆくのだろう 眠れずにきみの とがった横顔をみつめる やわくひややかなわたしは ゆるくきみにからみつき 体温を奪うかわりに 密やかに灯している すでに人を過ぎた 青い鬼火 ---------------------------- [自由詩]散る/田中修子[2016年12月24日0時12分] お母さんがわたしを おなかに宿したとき ピンクや赤や白の花が 見渡す限り一面に あまぁくあまぁくかおって揺れる 夢をいく晩もくりかえしたよ だから しらべなくとも わたしが女の子だと分かったそうです いま、わたしの垂らす蜜は 赤い鉄のようなかおりがするそうよ 淡い花のようで這い虫なんか 気付かぬうちにむしゃむしゃ喰ろうて ドロドロの養分にしてしまう 這い虫溶かすなんて 詰らなくって わたしの花海原を駆け抜ける しなやかな獣の足もとに パッと散らばり 笑いながら飾りたい 獣に踏みしだかれたわたしはきっと とろんとして 散る 散る そう 散る ---------------------------- [自由詩]心象風景三 アカラシマの祈り/田中修子[2016年12月27日19時59分] 1. いつから 足りていないものばかりを 指折り数えて呪い 2. 消え入りそうな風のわたしは どっしりとした海のあなたに安らいで ゆるり 守られ はじめて 安息し ながいながい淡桃色のまどろみのあいだ 白いさざ波を数えながら 海猫と戯れ いつか微笑むようになり おなかを抱えて笑うようになり いつかパンと正気がはじけ 天に届くように哄笑した 止まらぬ咳のように笑いつづけた 巫女が舞うさまからできた笑うという字は 幸福にすぎたわたしを ものぐるいにした 3. ものぐるいのわたしの舞いは天にとどいて いまわたしはアカラシマ 暴風だ 穏やかな海は荒れ果てた 銀や青の魚は散った 赤の珊瑚はま白な海の骨に ただ海猫だけが一匹 あなたの上にニャーオニャーオ、と舞い わたしは海のあなたをあとにした 泣き叫び 垂れ流しながら 4. アカラシマの首はいま 獣の手に預けられている いつでもひねっておしまいをくれるように 獣の、いっけん滑稽のように細く その実は全てひきしまった筋肉の体に わたしは欲をする さまざまな世界の穢れを旅し そのなかでわたしを選ぶという獣よ アカラシマを愛し続けると誓うきみよ きみも立派なものぐるいさ わたし、いつか、きみ、 5. それでも火の獣のささやきでは アカラシマのわたしの中は いま 春のかわいらしい花が 咲き乱れているという 美しい蝶が夢のように舞っている そのひとひら ひとひらを 綺麗だなぁって  少女のわたしがほほ笑んでいる 足りているものをかぞえれば 天の星よりなお多く アカラシマは ただ 祈る ---------------------------- [自由詩]1945、夏、わたしにつながる歴史/田中修子[2017年1月5日21時02分] わたしはきっと見たことがある 祖母の灰色の目をとおしてだけれど B29がつきぬけるように真っ青な 雲一つない空をはしってゆくのを 疎開するため 汽車で広島を出るとこだった ちいさな伯母さんの手をひいて 大きなおなかには母がいた ぎゅうぎゅうに人がつまったすきまのない汽車 息をするのも喘ぐよう B29の轟音がして 汽車は急ブレーキをかけた 撃たれまいと生き抜こうと 人々は蜘蛛の子ちらし 近くの木々へ 野原のかげへ わたしにはもう元気がなかったんや 空っぽの汽車にわたしと叔母とおなかの母 三人きり 息が広い ゆっくり座れる それだけでもうええ ぜいたくや オカッパ頭の伯母を抱きしめ 重い腹をぎゅうっとかかえ 窓から外をながめてた ああ、青をぶちまけたキレエな夏の空を B29がすべりぬけてく あんときなぁ 狙撃、されんかったなぁ なんでやろ 歳月に洗われて 銀色になった祖母の声には にくしみもかなしみもよろこびもない --- 【petit企画の館】/蝶としゃぼん玉(303) http://po-m.com/forum/threadshow.php?did=320890 主題、歴史 ---------------------------- [自由詩]あまい雨/田中修子[2017年1月11日8時10分] となりでこんこんとねむっている君は いま、夢の旅のどこらにいて どんな風景を見ているのだろうか 空を飛んでいるのかな くらい深い海に潜っている? なにしろきみは獣だから 草原を走っているのかもしれないね ねむりはちいさな死というけれど ねむりは旅 たくさんのみずからと出会う旅 ゆきかうひと 金にかがやく雲 夜の空にきらきらひかる星 海にすべるように泳ぐ 銀や金の魚 かけぬける草原に パっとちらばる花でさえ あれは すべて 君自身だ 君がねむるとき ねむれないわたしが横にいるとき 君はとおいとおい旅に出ている わたしをひとりぽっちにして 規則正しい寝息は スタスタと私から遠ざかる足音 わたしをおいていかないでと囁いても眉をしかめる そっと布団から出て泣いた きみの夢の中 わたしの あまい雨が降っている ---------------------------- [自由詩]こむら返り/田中修子[2017年1月13日8時31分] 怖い夢を見て こむら返りして いててってなった ひとりなので足のつま先を 顔のほうへ曲げてくれる人がいない 昨日まで雪の降るまちにいて 彼の仕事の手伝いをしていて たくさん食器を洗い きゅきゅっと鳴ってカラリとかわいて すこしがんばりすぎました 仕事場への道には もうすぐお仕舞いの冬のばら一輪 赤いのの色が抜けかけて うすく黄色い 花びらの杯に ちいさいあられみたいな 雪が溜まっていた 春になったら雪虫は 白いモンシロチョウになって 飛んでゆく 精悍な獣のような若い彼 彼にはきっとこむら返りは まだ起こらない 灰のように白く笑う 私に命を吹き込んだ はたちうえの かんばん屋のことを想う 暖かい漁師のまちの あのひとはきっといま 年よりの猫といっしょに眠ってる きっとこむら返りをおこすこともあるでしょう そうして ひどくさみしい思いをしているんでしょう ---------------------------- [自由詩]ことばあそび九/田中修子[2017年2月1日2時41分] 赤い鳥居にシャラン鈴の音 綺麗に舞う黒髪の巫女さん おしまいに飲んだ御神酒に ほかりあたたまり赤らむ頬 わたしの厄は去ったかしら まっ白な梅の花がひとひら 地に落ちるをぼうっと追う すこしぬるりとする春の風 ---------------------------- [自由詩]帽子のほころびるとき/田中修子[2017年2月8日22時55分] 膨らんできた はくもくれんの 銀にひかる繭のような葉 わたしのはらのなかで 懐かしい男と猫とあのうちは ことばをうけて赤ん坊になり ホトホト うみ落とされてゆく ていねいにガムテープで ひびわれをなおされた 菊のすりガラス その向こうの朝は おぼろに白くて目を打たない 瞼は 眠たく撫でられた わたしの渇きは 男と猫とうち すべて丸のみをしておさまった うわばみのわたしは 帽子のふりをして 風にのってフワリと泣く ひっかかった桜の枝のつぼみは やがての春を妊娠していた オギャアと咲けば すべてがほころびるとき ---------------------------- [自由詩]戦争/田中修子[2017年5月24日21時34分] ある日ふとおかあさんとおとうさんに 問わずにはいられなかった 「戦争ってそんなに悪いことなの?」 「当たり前のことも分からないなんて、そんな教育をした覚えはありません!」 「僕たちが平和のためにどれだけ戦っているか 分からないのか!」 ピシャリと閉じた 閉じられたドアのこっちで唇をかんだ かわいい絵本を卒業したころ 見せられたもの 原爆で黒焦げになった死体 ケロイド ナパーム弾で焼けた子ども ホルマリン漬けの赤ちゃん 放射線で死んでゆく村 そんなのばかり 目を閉じられない ひとってこんなにきたないことができるのならば 戦争が起きて ひとはぜんぶ 灰になって 狼や鹿や 花や葉っぱや みずくさやお魚や そんなのだけ残ればいいのにな そうしたらきっと きれいだろうな 戦争が起こったなら 焼夷弾が真っ赤におちてきたら 燃え尽きていく家のなかで おかあさんとおとうさんは わたしを抱きしめてくれるかもしれない  いま 少し年をとって  公園で遊んでいるこどもたちが いつか  人を殺したり 殺されたりされるかもしれないことを思うと  それは 戦争は ないほうがいいに決まっているけれど  もしおとなたちが  こどもたちの心の中で起きている  荒れ果てたかなしみに気付かないのなら  たぶん そこからもう 戦争ははじまっています ---------------------------- [自由詩]ばらばら/田中修子[2017年5月27日21時34分] 朝は胸元を掻きあわせる、ひとりぼっちでうす水色の空のしたあるいている、しゃべることのできない胸のうちにぶらさがるのはサナギ、だまって羽化する日をまっている。夕暮れがきた、ほれ、いくつめだろうか、折ってかぞえて殖えすぎた指の数。なまぬるい桃色の、つめたい青色の、みあげる目を切りさくよな、雲のま白はかなしい。吸いこまれては吐きだされて、手放そうとして吹き返した。また、またまたきたよ、黒い夜、ちらばっている星、月をあいまいにする雲。ああ、からだの冷える朝がこわい。深く眠れぬうちに、いくつもの夢があって、男も女もやる、蛇も赤子も墓もやる、生きるも死ぬもぜんぶやる。やがてサナギからでてきた蝶は羽を病んでいてまるで飛べなかった、地にポタリと落ちてすぐに人にふまれ、鳥にくわれ、蟻地獄におちた。飛ぼうとして這いずっていたからさいごまで笑っていた赤い唇のかたち、瞼は二つの繭。 ---------------------------- [自由詩]なつみかんとおとな/田中修子[2017年6月8日2時00分] 庭でとれた夏蜜柑 刃元で厚い皮に線を引く ふくいく 薄皮はぐと 黄王がぎっしり 時間の結晶をたべる からだに飾れなくても どこにでもきれいな宝石がある スーパーの帰り 見上げれば 敷き詰められた天青石の空 バロック真珠の雲たち ちいさいとき 香水も宝石も いらないで シャボン玉吹けば なんだかうれしかったのはなんでかな いま、飾りつけないと なんだか恥ずかしいようにおもうのは なんでかな ---------------------------- [自由詩]曇る鏡/田中修子[2017年6月28日21時03分] 人は反射する鏡なのです だれかをよわいと思うとき わたしがよわいのです だから感じることをやめなければならない わけではない 人はほんとうには 神器そのままではありえないから 永遠に反射しあい 遠ざかるだけではない 肉と魂によって あたたかく 抱きしめあえるでしょう 奥底の鏡であるところが するどく散らばっており ひとつひとつ みががれているほどに 人のよわいと、にくいと、みにくいと あまりにも感じるのは それは、わたしなのかもしれない 奥底のいたい破片を ずっととなりにいてくれて古びたにおいのする ぬいぐるみのように だきしめつづけ ようよう ぬくもりの投射 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なんてばかでいやなものなんだろって こんなにいやなものしかなくって 死んでしまえばどうも それっきりらしい そしたら はじめに首吊りをこころみたのは小学生のころでした 失敗するごとになぜだか 庭の柿の木にだっこしてもらいにいきました 庭の柿の木は だまって抱きしめてくれました するとわたしはそこでいきなり 涙が止まらなくなるのでした 春には躍るようなキミドリ 夏にはいのちそのものみたいなま緑 秋にはしずかに炎色 冬にはまるで死んでいくように痩せ細ってはらはらしました けれど耳当てれば息づいていて かならず春がくるのです にんげん が 甲高い声で叫ぶくせにおしえてくれなかったこと 庭の柿の木 が だまっておしえてくれたこと ぜったいにまた、春はくるのです 夏もくるのです 秋には鮮やかに燃え盛るのです 呼吸さえやめなければ。 ---------------------------- [自由詩]ウォー・ウォー、ピース・ピース/田中修子[2017年10月7日18時56分] 「せんそうはんたい」とさけぶときの あなたの顔を チョット 鏡で 見てみましょうか。 なんだかすこし えげつなく 嬉しそうに 楽しそうです。 わたしには見分けがつきません せんそうをおこす人と せんそうはんたいをさけぶ人の 顔。 ごぞんじですか、ヒトラーはお父さんに 憎まれて憎んでいたのだそうです。 それでお父さん殺しを ユダヤ人でしたのだ、という説があります。 ヒトラーがお父さんに ぎゅうっと抱きしめられていたら あの偉大なかなしみは 起こらなかったのかもしれません。 お母さんこわい、あなたの顔はどこにいったの ちかよらないで、わたしまで吸い込まないで。 (ウォー、ウォー、とわたしは泣き叫んだ) あなたは幸せですか。 おうちのなかはきれいですか。 玄関のわきに花や木は植わっていますか。 メダカや金魚を飼ってもかわいいかもしれません。 あなたの子どもは むりやりでなく、楽しそうにしていますか。 わたしにながれる カザルスのチェロを 聴いてください。 (鳥はただ、鳴くのです ピース、ピースと) 春、おばあちゃんが フキを 薄口しょうゆでしゃっきりと煮て きれいすぎてたからものばこに 隠しちゃいたい。 夏、おばあちゃんといっしょに いいにおいのするゴザのうえで お昼寝をします。 寝入ったころにさらりとしたタオルケットをかけてくれるの ないしょで知っています。 秋、いそがしいお父さんが、庭の柿の木の落とした葉っぱをあつめ たき火にして焼き芋を焼いてくれて メラメラととても甘いのです。火の味です。 冬、ときたま雪だけが ふわふわめちゃめちゃ生きていて 寒いだけだし 松の葉をおなかいっぱいに食べて冬眠しちゃいたい。 それでうっかり起きちゃってスナフキンと 冒険しにでかけるんだ。 そんなわたしも、お母さんになりました。 今日、じゅうたんを近くの家具屋さんに 買いに行きました。 薔薇とナナカマドの実で染めたような色をしているよ。 夕暮れの空を見ます。 水色とピンクと灰色が入り混じって ひかっていました。 秋の虫がきれいに鳴いています。 わたしはわたしの顔をなくすことなく あなたが羽ばたいてとんでゆくまで このちいさな巣箱を ふかふかにしていたいな。 ほんとうにたいせつなのは 静かに流れてゆく はるなつあきふゆ あたりまえにあってききおとされる 鳥や虫の鳴く。 ---------------------------- [自由詩]林檎スパンコール/田中修子[2017年11月19日21時39分] うんと はやおきをしてつまみながら朝ごはんをつくるきみのお弁当をつくるおくりだしてなんだか眠くってちょっと横になる。 お昼ごはんはあまりをいいかげんにたべるコーヒーは一杯だけよ わたしのおひるごはん もうちょっと豪勢にしてもよくないかしら。 お洗濯をする掃除機をかけるアイロンもかける このあたりでクタクタッ クタクタッ。 本を読むお話しを書きたいなぁと思う ちょぴっと詩を書くこれでまあとりあえずヨシかなぁ。 夕ご飯をつくろう買い出しに行こう あしたの朝ごはんとお弁当とわたしの豪勢なお昼ご飯のぶんもチクッとあたまをひねるんだ。 (ちゃんとしたパン屋さんでちょっといいパン買っちゃった) おかえりなさい お風呂にするごはんにするわたしにする なんちゃってね。 詩を書いたよ 読んでみるね きょうも元気だったよ。 おやすみなさい。おはよう。うーんねむいなぁ。 さいきんすこし慣れてきて 朝ごはんに林檎を?いたのが出せるようになった。 きたるべき冬をかじるみたいにカシリカシリ においたつ香気は甘酸っぱくてなんだか部屋じゅうに 赤と金色のスパンコールが散らばったみたいにシャリンシャリン。 ---------------------------- [自由詩]半身たち/田中修子[2018年2月25日23時28分] 顔を背けながら 俺はお前を愛している お前も俺を愛している 私は貴女を愛している 貴女も私を愛している 殺しあうように絡み合う双頭の蛇で、狂うように罪の果実の香に犯されているのを人々に嗤いながら見られてはいるのだが この荊の酔いは分かるまい、もうすぐ底に見える果ての先、天への翅は冠で、死は祝福されているだろう ほんとうは この世、追放されたかなしみの顔を伏せあい涙を啜っている滑稽さを 花で飾った頭を、あげてよいのだろうか 君たちは僕たちを見てくれるのか 僕たちは君たちを見ているのだが ※友人の絵描き ひぐすりの絵に。 ---------------------------- [自由詩]真珠の記憶/田中修子[2018年2月25日23時31分] ミルク色の波が打ち寄せる 甘い浜にね 真珠がコロロンコロロンと いっぱい ころがっていてね カリリカリリと 齧って飲み込むと うんと 力いっぱい 泣けると ねむいの みんなこの 微睡む浜にいたの ほんとだよ うちのママは ほんの少し覚えているって この消えそうな 小さな足跡が ママだったって おとなになると 忘れちゃうのよって なんだかすこし かなしそうだから おおきな指をにぎってあげたよ なんだか モキュモキュするんだ へん だなぁ ---------------------------- [自由詩]葉桜の数式/田中修子[2018年4月23日22時58分] やがて宇宙が滅びることは数式に証明されちゃったらしい 終末のラッパはとっくにわたしの中に高らかに吹かれてた 人も言葉もすべては星の爆発の灰燼に帰すのかしら いえ、きっと 書かれた人読まれた人の 記憶も燃えて粒子になりチリチリと散らばって あらたに構成され再現される日がくるのです 新宇宙の入学式 元素記号の美しく強い組み合わせ 目のまえのお酢 や さく酸が CH3COOHならば 花は葉っぱはいったいわたしは 夜ごとの星がおしまいの記憶なら じつはいまここにいるわたしが かなしみにくるしみによろこびにやけついたオバケでないこと だれか証明できるのかしら ああ 危うい指 机の指紋、言葉つらねたノートよ パラッ ラッタッター あざやかにインターネットごしにあなたの 疑似科学的な記憶細胞に 欠片として散らばるわたしは ああ 入学式にはたいてい散ってしまっているの 桜の花びら ---------------------------- [自由詩]滲む記憶/田中修子[2018年5月8日2時59分] ねぇ、おとうさん なんで 戦争反対をするの / 次世代のこどもたちが徴兵されるからだ / なんで そんなふうに思うの / 新聞を、読んだからだ、たくさんの人にあって活動していたからだ / なんで 活動することになったの / おかあさんを好きになったからだよ / なんで おかあさんをすきになったの すごく輝いていたからだ / なんで 輝いているおかあさんをすきになったの / 主婦のおふくろより社会貢献していたからだ / なんで おとうさんのおかあさんを否定するの / おふくろとおやじは戦争反対をしなかったからだ / なんで そのことが気にかかるの / 学校の先生に教わったんだ日本がそんなにひどいことをしたと、夢にも思わなかった おふくろとおやじに言ったよ なぜ反対しなかったのかと そうしたら 「な、〇〇ちゃん、戦前は気づかなく、戦中はそんなこと思えなかったと」 ぼくは恥じた / (わたしが父になぜわたしが苦しかったのを気づけなかった と 問い詰めたとき 父は 「な、修子ちゃん、ぼくが働かず貧乏なほうがよかったか!」、と一喝するよに言ったのを わたしの耳はおぼえている そう 父の父 が「な、〇〇ちゃん」と父に一喝したことは わたしの血に記録されている そしてわたしは反論できなかったし 父もきっと) / なんで 戦中でも お金に不自由させず しっかり育ててくれたという おとうさんのおとうさんとおかあさんを そんなふうに恥に思うの?  おとうさんは 黙る そうしてあかるく つぎの奥さん候補のことを語りだす (否認の感情が とても つよい) しっかり育ててくれたと父は 思い込もうとしている けれど父は それ以上記憶を戻れない  否認をした 壊れてしまうから いちどもおかあさんにもおとうさんにも叱られたことがなかった お手伝いさんや親せきや父の姉が 彼の面倒をみたが かんしゃくを起こしては道でひっくりかえって泣くような子どもで 心配はされていて 父の父は 彼に成功へのレールを引いた なんなら奥さんまで 用意されていた わたしが分析家なら 白い部屋でかれを長椅子に置き リラックスさせて 目をかろくつむらせて 容赦のなく なぜそんなふうに思われますか と耳になめらかな声で続ける お父さんは今日もわたしにお寿司を御馳走してくれながらコスタリカのことを語り わたしは舌になめらかなアイスクリームをすくって舐めてのどに滑り落とす あさって、わたしはカウンセラーにつぶやく 「わたしは だれにも 愛されていませんでした 愛ということを知らない人々の塊のような子です わたしは」 じぶんのこころをじぶんで なんで なんで なんで 切り刻み切り刻み 分析しても 分析しても 涙が出るだけ 滲む涙で 詩を書こう わたしは おとうさんを 壊してしまいたい 愛してほしいから おとうさんの母像を父像をコテンパンに破壊して ゼロからつくりあげて…… でも壊れてしまうのね わたしは 愛している 愛しているということに ようやくすこし 手がとどきそうよ 愛しているということは お母さんはお父さんと性行為をしてわたしを 産んだけれど わたしは 本質的には 愛されていなかったということを受け入れるということ なんで 愛されていなかったの それは 父の母がね 父の父がね 母の母がね 母の父がね…… (すべての記憶は折りたたまれながら 地層の脳にある 宇宙の、神の、人類の、生誕 アカシックレコードと呼ばれるものは ひとりの脳にあるでしょう しかし たいていは 人として壊れてしまうから 思い出さないふりをしようか) それはわたしの わたしに連なる生の すべての否定 愛は 死だ ---------------------------- [自由詩]こおり/朝の空/鏡/田中修子[2018年5月20日1時34分] 考えてみたらあたりまえだけど 詩をかくひとにも なにかしら毒のようなものをまとう ひとがいた 目立ちたいひと 偉くなりたいひと 人を貶めたいひと なんだか スンと さみしいきぶん 澄んだ 冷たい こおりになって ?み砕かれたい / 詩人と名づけられたとたん わたしはなにもかも 分からなくなってしまう それらしきものに変化するのは むかしからとても得意だった そうでなければ生きられなかった いい子になる 優等生になる 職場でいちばん頑張っている人になる なりきったとたん つかれてしまう そしてわたしは 言葉の浜に うちあげられた 私はただの生きている人 ひとりぼっちなひと 風が鳴る 空が青い 朝の空がにがてなのは なにも隠せなくてこわい / ことばが好き すべてを反射して 醜いわたしも 戸惑うわたしも ごまかせない 本日 ことばは 鏡 わたしはだれ 冷ややかに じっとみいる わたしの顔を映す 自分を偽るなと わたしがわたしをはたいた ---------------------------- [自由詩]永遠の雨/田中修子[2018年6月21日0時31分] いつくしみを ぼくに いつくしむこころを ひとの知の火がなげこまれた 焼け野が原にも ひとの予期よりうんとはやく みどりが咲いたことを  アインシュタインはおどけながら呻いている  かれのうつくしい数式のゆくすえを あなたがたの視線はいつも ぼくらをすり抜け よその とおくの つぎの  ちいさなヒトラーが泣いている  打擲されてうずくまっているあわれな子 ここにいる ここにいるのだよ ぼくは そうして きみは 母の父の わらうクラスメイトらの まるで 業火のような そしてこのようなひ ぼくのことばもまた  あのひとびともまた かつて  愛情を泣き叫び希う  子らであったことを  ぼくに あのひとらに  おもいださせておくれ 雨よ、ふれ 六月の雨、紫陽花の葉の、緑けむる 淡い水の器がしずかに みたされてゆく あふれだす色の洪水で ぼくの 母の父の クラスメイトの 科学者の独裁者の兵士の 胸に焼け残っている 優しいものだけ にぶくかがやく砂金のように とりだしておくれ  絵本を破ることのできるちからづよい  手をくるめば  ぼくは  いまここで、永遠に  だきしめられた きみもまた永遠を かならず 与えたひとであったのだ ---------------------------- [自由詩]父さんをすてた日/田中修子[2018年7月7日23時46分] ふんふんふんふん どうしたってさ いろいろあるよね びっくりさ 父さんに捨てられた ぼくが 父さんを捨てたひ ね、笑うかい イデアを宝石と呼ぶ人(注:瀧村鴉樹『胎児キキの冒険』)がいてぼくは すっかり感心してしまった ぼくのうつくしいイデアたち 言葉の浜辺でひろいあつめ お気に入りのブレスレットにした 満月の夜には光にさらして それぞれに浮かぶ文字 暴食 色欲 強欲 憤怒 怠惰 傲慢 嫉妬 ……色とりどりの   底にひそむやさしいもの…… 抱きしめよう だって泣いているじゃないか 笑うかい 永劫回帰 天にもゆかず つぎの生にもゆかず いまのこのぼくの人生が 永遠につづくとして 縋らぬように もう少し待ってください 革命の見果てぬ夢をみて子を捨て 妻も 友も さきに逝き 老いた体にふときづいて おそろしがっているぼくの父さん! あなたをゆるす日を ぼくがあなたの太母になるというのか (だから母さんはぼくを殺したのだけれど) それでもやがて その青い鳥の羽ばたく音は きっとおとずれるだろう ……母さんの死骸にありったけ   そそいだ   ぼくのひかる血を目印にして…… ---------------------------- [自由詩]クローズド/田中修子[2018年7月15日16時19分] わたしがおばあちゃんになるまで あるだろうとなんとなく思ってた レストランが 「閉店いたしました 長年のご利用をありがとうございました」 さようならのプレートが 汗ばむ夏の風にゆれてた 鼻のまわりの汗 うー 小学生のとき おとうさんと あたらしいお店さがしをしていて みっけたのだった テーブルの上にいつも ほんとうのお花が飾られていて お水はほんのりレモンの味がした お客さんの声がざわざわして 子どもがさわいでも音楽と混ざり合って 耳に楽しくて 緑に花柄のテーブルクロスはたぶん ずうっと洗われてつかわれていて 少しずつ色褪せていく様子が とてもやさしいのだった ということに いま気づいたのだった わたしは おとうさん や おにいちゃん 死んでしまったおかあさんとおばさん に電話をして あのお店がなくなったことを ともに悲しみたいのだけれど あれからほんとにいろんなことがあって ありすぎて 戸惑った まんま ---------------------------- [自由詩]きらめく深づめの記憶/田中修子[2018年7月22日19時43分] 文字の海に溺れる すべて かつての 少年少女 酔い醒まし 夜を仰げ 幾百の まなざしは 三日月を交わし 空たかく白色にまぐわい しいか宿る卵から 乱反射する 燦燦の 万葉の 衣ずれの音が また うまれだされることを けっして叶わぬ ときめきよ 宿れ うしなわれたひとにこそ 孕め つやめく黒の夜を あおげば 勾玉のよう きらめく 深づめの三日月 ---------------------------- [自由詩]ちいさなちいさなことばたち/田中修子[2018年8月11日23時19分] 「錯乱」 しをかくひとは 胸や、胴体に肢体、に まっくらな、まっくらな あなが、ありまして のぞきこむのが すきなのです のぞくとき、 のぞきかえされていて、 くらいあなからうまれますよ 母や父や人魚のなみだや 星のうく夜を さんらん します あなた 「花よ咲け鳥よ飛べ」 体を引きちぎりたい にくしみも うらみも かなしみも 生きておればこそ 死んじまったあの子らの 想い出を 背負ってゆけるのも 生きておればこそ 死にたいのも 生きておればこそ いつか 叫びつづけ流しつづけた 悲鳴は涙は 火が虫が 地に返してくれるから いつか 花の咲くように 鳥の飛ぶように --- 「ふりかえる」 じょうぶな みひとつで どこどこまでも そらをつきぬけて ひとのあいだをただよい うみのはてさきまで いきてゆけていた くるしみの ひびが ただひたすらに なつかしい --- 「麦茶」 五月の 雨の翌朝に 冷蔵庫で冷えたキュウリを かじると 歯が シミシミした おなかが クルクルした 麦茶の湯気 --- 「ねどこに花は散って」 終わってしまえば いい生き方だったと 老兵の 死ぬように 毎夜眠る 今日友とした ふしぎな語らいを 思い出す 一輪の花の 散るように --- 「少年兵」 おかあさん 愛して おとうさん 見て と叫んだ ところから、首が、千切れたよ ろれつはまわらない ふりつもる雨みたいな サラリとしたてざわりの 言葉でくるみたい おやすみと囁きたい 母父を失った だきしめる あんしん、あんしん だきしめられている 愛してる とても なによりも だれよりも --- 「端午の節句」 ニラが ニラニラ笑ってる やだな 今日はニラ風呂か ニラが ニラニラ笑ってる ちがうよ きょうは 菖蒲風呂 ツンツン ジャブジャブ 菖蒲風呂 ごがつ いつか --- 「うた」 ツツジ らっぱっぱ らっぱっぱーのら コウモリ ぱたぱた虫をたべ 汗ばむ青い五月の夕暮れだ おふろのにおい 石鹸の 赤ちゃんあくびで 猫わらう --- 「海」 かわいそな かあさん あなたのこと 愛してた だれよりも 海の中から だれよりも --- 「テンテン」 きょうもこれまた いちどかぎりだ いちどかぎりだからこそ つらねてゆきたい がっかりもわるかない のほほんもなかなかよい ギラギラではなく キラキラしたい 点点でだいぶ かわるものである ふしぎなものだ --- 「深呼吸」 うまれたことや まだいきていることの おかしいわたしだ なにができるか できないのか なにをしたいか したくないのか ときどきふっと たちどまる でもどうせまた あゆみだす --- 「ひかる心臓」 私の心臓の中に 持ってる宝物 なーんだ あなたの心臓の中に 持ってる宝物 なーんだ こうかんこは できないけど かなしい、さみしい、ひとびとは ひびくよに互いの心音 きくことできるんだな --- 「氷のトンネル」 両親や教師のあつい語らいに当てられ わたしは冷えてしまった わたしにはひとり穿ちつづけた 透きとおった氷山のトンネルがある 氷山を、海を、浜を 庭を、一輪の花を 恥じらいながら もくもくと探検していた おとなたちもいるときく あなたのみた すばらしいひとりの風景を わたしは聞きたい --- 「皿洗い」 涙をぬぐうように お皿を洗った 傷をふさぐように やわらかい布でお皿をふいた お皿は ほのかにあたたかくて キュッキュと鳴った --- 「浮かぶ骨」 青い赤い金のピンクの 息飲むような夕暮れに いまだ怯え泣く 木に逃げ遅れた友が家族が 獣の歯に 食われたのをみたのだ 猿をとらえ食いちぎり 共に家族に分けあたえ やせおとろえ 飢えて倒れたのだ 最後の吐息の記憶よ 夕暮れ わたしの血肉 夜に薄っすら浮かぶ白い月 わたしの骨 --- 「空と月」 空はこんなに青かったっけ 月はこんなに白かったっけ いい夕暮れ まいにちまいにち一回こっきり --- 「フトンのきもち」 お布団が明るいおひさまあびて 香ばしくよろこんでいる だから夜フカフカの お布団もぐると わたしもキャイキャイ 喜んじゃう 気のせいだろか 気のせいかもな 黙ってぬくたい風に揺れる お布団はえらいな --- 「たんぽぽ」 おてんとさまの花 ハラランラン 錆びたフェンスだって フワワンワン 今日も笑ってるかい ムーッフッフゥ --- 「どこか遠く」 ひとりひとり くるしみをかかえていて なのにどうしようもなく わかりあえなくて そんなものかかえながら まわっている地球さん 空と風 鳥と花 どこか遠くでとどろいている海 どこか遠くで輝いている月と星 --- 「二子玉川」 家へ帰る人や仕事へ行く人の 金色の電車が夜に走るかわべりに はんぶんこの月が出ていて 星もチラチラ 金星かしら くらやみに黄色の菜の花揺れてます 夜の明かりはきれいだな わたしもユラユラ揺れてます ここですこうし光ってます --- 「ねんねのにおい」 かあさんのお膝で まぁるくなって ねんねしながら お花見できたらすてきだな 桜が散ってさみしけりゃ さらさら髪を撫ぜられて まぶたウトウト花びら落ちる ねんねのにおいは桜もち --- 「ぶらんこさん」 ぶらんこさん 今日は桜が満開だ 桜飛び越えて 月へと飛ばしとくれ 握るてのひら赤錆のにおい ぶらんこさん --- 「夜桜ラムネ」 好きな人どうしても欲しくってさ ラムネ瓶叩き割って ビー玉だしてしゃぶってた もう蓋開いて取れるんだって したら欲しくなくなっちゃって 薄青甘い味 記憶の舌 記憶だけ溶けない えいえんに瓶の中 --- 「お船とお花」 壊れて空き地に捨てられた 錆びだらけの ちいさな漁船によりそって 菜の花が笑ってた ムラサキハナナも揺れていた 向こうに海の音もした たくさんたくさん働いて いまはきっと虫や猫の寝床だろう いつか壊れてしまうなら あんながいいな --- 「花曇り」 薄曇りの日は きぶんがなんだか ドヨドヨ ドヨヨン ドヨヨン ドン ムームー の 御機嫌ななめ やんなっちゃう あらあらあら桜の蕾が パラパラ パララン パララン ラン ムニャムニャ ウフフ もうちょいで ヒラヒラ ヒララン ヒララン ラン 爛漫 爛漫 --- 「くりがに」 じぶんで 死んでしまうのは なかなか なんぎなことである いやしかし うまれないほうが よっぽどきらくで あったような などどモニャモニャ思いながら 生きているくりがにを 味噌汁にしていたら なんだかたいへん 申し訳なくなり せめておいしく いただいたのだ うーん おいしかったぁ そんな毎日である --- 「菜の花の味」 ひとはひと ひとり その透きとおるような さみしさを かろやかにさばけるようになったのは いつからか 菜の花がうまくなったからもう春だ --- 「椿のかけら」 好きよ好きよ 生きるって好きよ 地面に落っこっちゃっても なかなかやめらんないんだもん 生きるって罪だわ あたしからのチュウ --- 「鳥」 おいちゃんはもう歳だから こんな日は いちにちじゅう 鳥をみているだろう なにを考えているのかと すると なにも考えてないんだな 鳥は 人が想像しているほどには おいちゃんが人でいるのも あと少しだ 枝垂れ桜 ---------------------------- [自由詩]火ぶくれのハクチョウ/田中修子[2018年8月19日13時26分] わたしを壊してとお願いすると あなたはもうとっくに壊れている、と耳を噛むのね ひもじくてひざこぞうのカサブタを 食べた記憶をくちづけたら 眉をしかめて吐き出さないで わたしそのものを おばちゃんと編んだイラクサをおぼえている わたしたちほんとうは きっと尊いものなんだから はやくチョッキを着て ハクチョウに変身してここから逃げ出そうね いっしょうけんめい、火ぶくれになった手 わたしはハクチョウになる前に 悪いお母さんに飢え死にさせられ はらぺこりんの幽鬼になっちゃった おばあちゃんはひかる湖のうえ、飛び立てたわ 白いお骨はただのあしあと わたしがふれたものは すべて青白く燃え上がって食べられないの おなかへった とかなしむふりをすると あなたはただ全身を火ぶくれにおかされて 完治しないあわれな子どもだ と わたしを目覚めさせようとする男たちが 気色わるく胸元をまさぐる 泣き笑いしながら カサブタを食むように 舌をのみこんでいった -- ※日本現代詩人会 投稿作品 ---------------------------- [自由詩]赤真珠/田中修子[2018年8月25日13時43分] 北の 夏の終いの翡翠の海に 金の夕映え ありまして 黒い夜 黒い波が どこからか押しよせてくるのです どこからか ひえてゆく 色とりどりの浜辺でね  赤いカーディガン羽織ったともだちが  へたっぴダンス そのこは いつだって なんだって ぶたれないよう しにものぐるいで歯を食いしばり みんなの憧れの王様のように チェシャ猫みたいに ミャアミャア笑っているのにね しっぽはふくれて いるんです くすぐったそに わらいながら  ひとりぼっちの少年みたい  わたしは子らをあやしながら 黒いっしょくの波音に 橙いろのらんたん灯り(まぼろし)  このごろできたともだちが  てんで ばらばら 好きかって  ひとりは恋を  ひとりはうたを 遠くの家の窓明かり なみおと耳にのしかかり  父さんの亡霊が涙ぐんでやってきて  わたしは さけび 橙いろのらんたん消えて(まぼろしが) くらい浜辺にひとりぼっち 腕の子らも きえ  波はたぶん翡翠の色ね  おしよせておしよせて 赤い人魚 なんですよ  にんげんでは ありませんよ   波間にほどけて消えていこ すべてはうたかた    赤い真珠が 一粒 ころん     翡翠に金に 赤真珠…… ---------------------------- [自由詩]きれいなそらの かげ/田中修子[2018年9月13日13時25分] わたしのみていた きれいなそらを だれもがみていたわけではない と おしえてくれた ひと がいる お金もなく居場所もなくからだ しかなく ゆびさきはかじかんでいて いつもうまれてしまったことだけを 鳥が群れて空をゆく 羽のね 母も父も兄も いるのになく 家族がすきとおって いる トンボらは眩しいように 赤く風に揺れる 翅のね 秋が終わってしまったら ぬくいとこを さがさなくっちゃあ あったかいコートが マフラーが てぶくろが ほしいな からだをうろうか かってくれるひとは ありますか どこへいけば ありますか (知りたくもなかったことを) わたしのみていた きれいなそらが やねのしたに 子といる いまも 淡くまぶたに やきついて 薄みずいろの かげになっている ---------------------------- (ファイルの終わり)