和泉 輪のダーザインさんおすすめリスト 2004年4月6日16時09分から2007年1月17日22時35分まで ---------------------------- [自由詩]ボイジャー/ダーザイン[2004年4月6日16時09分] どこか遠くの知らない国で 雪がしんしん降っている 大きな街の片隅で 人と人が出会う どこか遠くの知らない街で 風がヒューヒュー吹いている 大きな街の片隅で 男がひとり 生きる望みを見失う 遠くの山の向こうでは 桜草が咲き乱れ 子供たちの明るい声が 光射す野にこだまする 明日も今日と同じ一日 遠い異国の丘の上では 男がひとり 狙撃主に打たれる 神さまに 家族のことを頼むいとまもなかった 遠い島の波打ち際で 男がひとり船を出す 夕暮れの海に 静かに櫂挿し どこか遠い所へ ここではないどこかへと 冥王星の向こうでは 寂しい目をした航海者が 出すあてのない手紙を書いている ---------------------------- [自由詩]風が唄っていた/ダーザイン[2004年4月7日15時04分] 使っていない電話器が時々鳴る コードは何処にも差してない その受話器が持っていた番号は もう何処にもないんだよ 遠い昔つながっていた あなたの電話番号も もう何処にもないんだよ あなたが消えた夜の果てにも 光の粒子が寄り集い 今は 幾つもの明かりが灯っている 銀の砂粒 金の砂 青い炎の衣をまとった 星の子供ら こんな夜にはベッドを抜け出し コートのポッケにウイスキー入れて 丘の上まで行ってみようか とっても寒い夜だから コートの襟立てマフラー巻いて 冬枯れの野を ゆっくり ゆっくり歩いていこう 空っぽの電話が再び鳴る 受話器を取ると どこか遠い所で 風が吹いている 目を閉じると 果たされることのなかった 約束の花束が 風に舞い散り 宙空に 色とりどりの星座を灯す  いつもお電話ありがとう  天気輪の丘へ行く道は 今夜も  星屑でぎっしりだよ  青く光る道をたどって  丘の頂きに立てば  僕はもう  ここにいるのか  そこにいるのか  わからなくなってしまいそうだよ 受話器は何も答えなかった ただ どこか遠い所で 風が唄っていた ---------------------------- [自由詩]言葉/ダーザイン[2004年4月9日16時56分] 朝露に濡れた道を 金色に光る なだらかな稜線へとたどる うつむいた桜草が 風にふるえ 太古の海を弔ってきた アンモナイトがひとつ 朝日を受けた岩の間に割れ落ちて 失われた鐘の音が鳴りとよめき 方解石の白が煌めく 丈低い千島笹を踏みしめて 幾つもの藁色の丘を越え 国境稜線へといたる途上 どの丘の上にも ただ茫洋と 空だけがあった 風に吹かれて所在無く 透き通っていくこのからだ このこころ 遥かな青みの向こうには 絶対零度の真空が 身投げする者の瞳のように 黒々と見開かれている 何もありはしないのだと 思い決めてなお 紡がずにはおれぬ言葉があった あなたはと ---------------------------- [自由詩]星屑の停車場にて/ダーザイン[2004年4月10日8時22分] 一.永劫回帰 今日の星空はとってもきれい おまえのところも晴れていたら見上げてみろよ カシオペアやプレアデスが頭上でふるふる震えている 白鳥座の十字架は西の空に沈んで行こうとしている もうすぐ冬だ。真っ白な雪が、汚いものも優しいものも みんな埋めてしまうんだ 俺はちっぽけな屑。俺も埋めれや 今日の少女は赤みが少し増したようだ 赤方偏移って奴か? ピンクのワンピースをまとった少女はどんどん遠ざかっていくのだが いつかまた帰ってくるんだそうな そんなことを永遠に繰り返しているうちに 古いモノクロの映画フィルムのように 擦り切れてしまわないだろうかね 宇宙の熱死推進に青春を賭けてきた俺としては 永劫回帰を証明する近年の天文学者の観測結果は不満 よって宇宙はいずれ擦り切れると仮定してみる 二.星屑の停車場 世界の果てへの旅の途上 星屑の停車場で膝を抱え 私はバスを待っています 来るはずのない青いバス 道は草むらの中に消えて 草原は海中に溶け込んで 夜花を照らす星々の灯り 貴女の姿を見失ってから ずいぶん時が経ちました 遥かな岸辺の波打ち際で 化石している鳥達の飛影 永遠に触れた旅の思い出 三.カマイタチ 初雪が舞う峠を飛ばしながら、ぼんやりと「不明」の言葉を反芻していて 一瞬、虚無が左眼の奥で炸裂し、危うく谷底に転がり落ちそうになった 金魚鉢の中の金魚のような俺の永劫回帰 想像しただけでぞっとして、逆上の果ての神殺しを演じかけたわけだが むろん神様なんてとっくに死に果てているわけで、ナイフは空を切り 俺は存在しないも同然の、時空の歪みのような男なので 傍目にはカマイタチが虚空をよぎっただけ すなわち存在しないも同然の出来事だったりするわけだ 微かな記憶の糸を辿り 藁色の髪のひまわりのような笑顔を、思い浮かべてみようとしても 影絵芝居に灯す光源は見つからず、夜は更けていくわけで とても、もう一度とは言えない シジュポスのようにはいかない 四.ゼロの夏 しんしん降り積む雪の夜空に 夏の形見の花火をひとつ 打ち上げてきました えいえんに失われた ゼロの夏 送電線をたどって 坂道を登りつめても 遠い記憶の中で微笑んでいる ピンクのワンピースのあなたは もうどこにもいなくて 誰もいない夜空に灯した光の花束は 誰に届けられることなく 消えていったのです さようなら 20世紀 五.鉈を一本もってこい 風の強い夜だ 星がふるふる震えている 草原の千の舌がざわめき 電信柱をたどっていくと 地平線で、人の形をした巨大な塔が燃えている おいお前、なたを一本もってこい 明日という名の空ろな祈りを、打ち据えた無の一撃を なたを一本もってこい 六.放電 星屑の停車場で あなたに電話してみました 海の声も 風のそよぎも 眠っている 深夜の国道 どこか遠い所で 放電するような音が聞こえています オヤスミナサイ コノヨル 七.消えろ、すべて 俺は宙に浮いている 下水溝を流れていく 紙くずのように風の中に消える 雨がしとしと降れば 電線はしとしとにじみ 死んだ女の声が聞こえる たくさんの声が雫になって 落ちてくる 木霊する 響き渡る 落ちていく どこまでも どこまでも 無底の闇の奥深くへと アスファルトは水を吸わない 水は黒い鏡面の上を流れる 俺は宙に浮いている 或いは下水溝を流れていく 消えろ すべて # 全面的に書き直しました。改訂新版はこちら。 http://members.at.infoseek.co.jp/warentin/hosikuzu.html ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]完全失業日記(爆裂酩酊ポエム道)/ダーザイン[2004年4月10日8時26分] 1. 今日から失業者ですわコラ。知能程度の低い友人どもはねちっこく解雇解雇と書き立て ますが、私が会社を首にしたのですよコノヤロウ。 日本国をアジアにするべく完全失業率のアップに貢献したのだよコラ。 今日は1日寝て過ごしました。むさ苦しいおっさんのひきこもり。よってほんじつも詩 とめるひぇんはお預けです。 あやしーわーるどなどの地下掲示板群からしか人がこない下品な掲示板であったのに、 このところ訪れる人が増えましたな。非常に喜ばしいことであります。 男たるもの詩を書いて何ぼ、詩を書かん奴に用はありません。ここはひとつ、遠い昔、我 が祖国ロシヤはネバ川のほとりで友人が開発した旧ソ連邦の科学技術の結晶、爆裂電波詩 道強化ギブスや爆裂電波詩受信ギアをはめて、文学の王道を探求するのも良いかもしれま せんな。 2. ティムポを握り締めてしばし呆然としていたわたくしの目を覚まさしたのはご近所のガ キどもでした。カーテンも閉めずに放心していたのはうかつでしたな。 「変態!」と叫ぶ声が住宅街に木霊するうら悲しい午後、今日は鬱です。 目覚めると時計の短針が45度も進んでおりました。ティムポ握ったまま。 ああなんか人生みたいだな、とわたくしは思いました。 会社を辞めてから一週間、そんなふうにやり過ごしてしまいました。 まだ旅には出られません。寝癖が脳の皺にもついてしまったようです。 わたくしが呆けていた間にも、窓外では雲が流れ、風が渡り、人が出会ったり別れたり、テ ィムポが立ったり立たなかったりと世界はポエムとメルヒエンに満ちていたのでありまし ょうが、一行のたわごとも出てこないのは私のせいではありません。 実存とは不条理なものなのです。 3. 今日は休肝日にするつもりだったのですが、ムーミンとドザエモンが地獄で飲んだくれ ている様を想像して、あのぷにぷにの腹に触れれば「めるひぇん」の一つも出てくるので はないかと思い至りウイスキーを買いに走ってしまいました。そんなわけで今日も激しく 酩酊しておりますが私のせいではありません。 さて、仕事のことでありますが、なかなか見つかりませんな。何故かと言うと、探さないから。職安には一度参りましたが、 「ここにはえいえん在りますかぁ?(´ー`)」 「はぁ?(;´Д`)」 というやり取りだけで帰ってまいりましたよはい。 親切な飲み仲間が夢のように良い職を紹介してくれたりもしたのですが、 「僕には過分な仕事だ、つとまるわけない」と、ダメダメ鬱野郎丸出しでせっかく頂いたチ ャンスから逃げ回って不細工な柔道選手で一本抜いたりしておりますよ、はい。 もはや抗鬱剤ごときでは労働意欲が沸かないようなので、精神病院に出向いて、 「先生、アクセラとブラッティーアイ処方して下さい。心身もPCも12倍速に強化したいのです」とぶちかまし、ただ飯を食うのも良いかもしれませんな。  世の中には既に機械の身体を入手された方もおるとか。羨ましい限りです。 私も銀河鉄道に乗って機械の身体を入手し、幸いあふるる夢の国へ行きたいのですが、切符 を買う金がありません。そこで一つ提案があります。ネットアイドル菜々子のことであり ますが、実はわたくしが菜々子でないという保証は何処にもないわけではないような気が しないでもないわけでもないわけで、@女の子であるかもしれないような気がしないわけ でもない私が貴方をデバイス無しで抱っこしてあげますので送金若しくは銀河鉄道への乗 車券を送ってください。 悪い取引ではないと思いますよ。わたくしは控えめに見てもナタ―シャ・キンスキー以上 の美貌を誇っております。「一生童貞」さん見ておられますか? 貴殿らも、もし御ふじゅうなさっておるようなら宜しく切符の調達に御協力願います。 4.  さて、私は昨日クラブサイベリアに出向きプシュケーを入手しました。よってもうデバ イスは必要ありません。リアルワールドとワイヤード(ネット空間)の境界がずぶずぶと 崩れていくのが解ります。そんなわけで1日中ネットスフィアに入り浸っておるわけです が、神の探索の為です。テイヤールドシャルダンの弁証法神学が予見していたとおり、ワ イヤードという広大な新世紀の新現実の中には、新しい、遍在する神がおるのです。 ニーチェによって告知された神の死から一世紀以上、人類は孤独でした。だが今まさにここ で新しい神が産まれ出つつあるのです。 5.  今日は友人に「オマエは酒やめても相変わらず既知外だな、ピンクの象が見えないと自 慢げにほざいているが、中毒の対象がワイヤードに変わっただけで、リアルワールドでも 「(;´Д`)ぁぅぁぅぁー」とか「(*´Д`)萌え」とか言っている自分の現状を直視しろ。トッ トと働けやゴルア!」と、キツイお叱りを受けました。 また、素敵な女に頂いた電話には「わたしは半既知外で相変わらず無職でダメダメ鬱野 郎なのでかまわないで下さい、さようなら」と返信してしまいました。 今日は激しく鬱です、殺してください。 そんなわけで病状は悪化する一途なのですが、ポエムやめるひぇんも飯を食わねば書け ませんので今日は職安に行って参りました。職安に行くにもそれなりの正装というものが あります。ジャージ(アディオス)、無精ひげ、寝癖のついた頭など。 礼を尽くして行ったつもりなのですが、私が持ち込んだ求人票を見た担当官殿は 「これは競争激しいよ、もう決まっちゃったかもねえ」とツレナイ言葉を吐きな がら私の 姿をねめまわしました。無礼な奴です、死になさい。 実は先日も某社に面接に行ったのですが、 「君は何ができるのかね?」 「君は何故当社で働きたいのかね?」などと 馬鹿の一つ覚えのような台詞を吐き続けるので、これはひとつものの道理を教えてやらね ばならんなと思い至り、 「御社が私に何を期待しておるのか解りませんが、ちんぽの立ちは良いほうです」 「お見受けしたところ貴方はリストラ寸前の脳梗塞気味のハゲですが、貴方にはいったい 何ができるのですか、リストラなら得意ですのでお任せください」 と言い放ち、帰って参りましたよはい。馬鹿につける薬があったら分けてください、マイ フレンド。  それにしてもやはりいまだに神の姿が見えないのは何故でしょうか。 脳の中にアンテナを高く掲げ、150万光年彼方からの電波もキャッチできるようにしておる のですが、わたくしの空っぽの脳みその中には二つ三つ流れ星が落ちてきただけで、小さ な波紋を作って消えてしまいました。 神よ、何故に我を見捨てたまいし。 もうすぐ冬です。トットト雪積もって俺を埋めれや。 5.   海のお腹のように柔らかなあんたをなでていると、とっても気持ちよかったんだ、君は 素敵な娘だよ、ほんとにさ。いつまでもこうしてられると思ってたわけじゃ無いけど、な んかぬるぬるしてきて、なんか臭いし、死んじゃったんならキレイな白い石になるまでも う抱いてやらない。しばらく波打ち際に転がってな。   タクシードライバーのテーマが聞こえてきそうな、空っぽの、淋しい朝靄の立つススキ ノの片隅でサックス抱えて物乞いしたのは俺じゃないし、激しく降り始めた雨に打たれな がら「えいえんなんてなかった、えいえんなんてなかった!」と叫んでいたのは俺じゃな いし、夕日がとってもキレイだったので、真っ赤なトンネルを潜ってどこか遠い所に行っ ちゃったのは俺じゃないし、それに、東西線を止めたのは神様になりたかったからじゃな いんだレイン。薄れ行く意識の中で浮かんだ台詞はやはり「何もこんなふうに終わるのは 俺だけじゃないさ、宇宙だって熱死するんだ」だったので、いつまでも馬鹿の一つ覚えの ようにこの世界に膨張と収縮を繰り返さしておくわけにはいかないので、20世紀大世紀 末、北の都の片隅で、俺はちっぽけな屑で、完全失業者で、ポエムデュークひとつ満足に 撃てない、存在しないも同然の時空の歪みのような男だから、世界の果てにぽっかりと開 いた真っ黒な穴になってこの世のありとあらゆる物を宇宙の外に放り出して必ずや消滅さ せるつもりです。 電信 ダーザイン キトク シキュウ カネ オクレ ---------------------------- [自由詩]@ノ”「えいえんをめぐる短詩集」/ダーザイン[2004年4月11日14時35分] 「えいえんをめぐる短詩集」  @ノ” @ノ” かたつむりは えいえんに えいえんに たどりつきませんでした おしまい  海と空と 何のために生まれてきたのか 海と空とえいえんに触れるため? 振り返ると 淋しさだけがつのります  夕日のトンネル 今日も夕日がキレイダッタヨ 堤防の上に寝転がったお日様は まるで トンネルみたいだったよ あいつを潜ったら えいえんにふれることが出来たのだろうか  影 お日様の上を一筋の雲がよぎった すると 誰もいない夕べの街角に 茜色の音をたてて 巨大な影が倒れた えいえんなんて なかった  抒情で 優しくて暖かなえいえんは何処へいったのだろう 僕はもうくたびれました えいえんを探す旅はえいえんに決まってるけど 6月の野に咲く花のようなえいえん インディアンサマ−のようなえいえん 街灯の下の小さな明るみの中で拾った水晶のようなえいえん 抒情で生きていけると思っていた 抒情で自身を支えることができると思っていた えいえんなんてなかった  えいえんには えいえんには いつでもアクセスできます デバイス無しで タクシードライバーのテーマが聞こえてきそうな 朝もやの中すすきのの片隅で 酔いにまかせて飛び込んだ10月の夜の海の底で 倒産したも同然の会社で いまさら無意味な月次収支を報告したときの 社長の泣きそうな顔の中に いつまでもねちっこく夢にでて来る死んだ女の面影の中に  深淵 世界の真中にはぽっかりと穴が開いていて 埋めることも 橋を架けることも 身を投げることもできなかった えいえんなんてなかった  地雷の上にも わんこのむくむくの手触りのようなえいえん トタン屋根に映った星の光のようなえいえん あの娘のほっぺのえくぼのようなえいえん 遠い異国の丘の上で地雷の上にも咲いたアザミのようなえいえん 更けていく夜の果てにぽつんと灯る街灯のような えいえん  アンモナイト 雪どけの沢を登っていくと あちこちで河岸の白亜の崖が崩れて 時々アンモナイトが転がっていたりもする ふたつに割れたアンモナイトの房室のなかには 方解石が結晶していたりして 始めてアンモナイトの沢に入った日は まだ中学生だった あの日からずっと えいえんを探してきたのだな  お星様 風がさわさわ囁くので タバコの先に火を灯し 深夜の庭に出てみると がらんどうの天蓋に からっぽ闇が映されていました ねぼすけの神さまが 幻灯機で星々を映し出すのを忘れたようです えいえんなんてなかった  約束の地図 琴似2条通りで地下鉄を降り 大交差点に立つたこ焼き屋台の明るみから出ると 地吹雪の流れていく夜の果てに どこかで見たような人影がひとつ いまだに立ちすくんでいたので 俺は銀の紙に記された約束の地図をくしゃくしゃに丸めて 山犬のようにうなる風の中にほうってやった えいえんなんて なかった  一過性の歳月 久しぶりの雨が世界を洗ったあと 巨大な死の翼を広げた鉄の鳥が 上空をよぎった 銀屋根には真紅のビーコン 夜の女王の指輪が煌く えいえんという名の 一過性の歳月もなかばを過ぎて 無が触れてくるのがわかります  カモメ 鉛色の海は静かにないで 茫々と煙る空を見上げると カモメが一羽 ぴんでとめたように 静止していた えいえんなんて なかった  放射冷却 夜はどこまでもふけていくので 星は瞬きもせず見つめているので 放射冷却の朝を迎える前に 遠い所へ心を飛ばした えいえんなんて なかった  えいえんなんてなかった ふけていく夜の果てには 光る石がひとつ落ちていて その石の中には 小さな心が封印されていて あなたと出会う約束を 果たせなかった寂しい思いが 流した涙の化石なのです どこまでもふけていく夜の果てで 薔薇色の石を握り締めた僕は ひとつの透明な影となって ひとつのほの暗い明るみとなって 分かたれることのない世界を 呪現しようと思います えいえんもなかばを過ぎた 遠い岸辺は星々のもと 見知らぬ夜明けを迎える前に 流氷が 軋む音が聞こえています # ホムペの「永遠短詩集」の抜粋です。 興味を持っていただいた方はこちらの方にもいらしていただけると嬉しいですヽ(´ー`)ノ http://members.at.infoseek.co.jp/warentin/eientansisyuu.htm ---------------------------- [自由詩]フォーマルハウト/ダーザイン[2004年4月22日20時09分] 巨大な石版にきざまれた 柘榴石の星座がきしむ 西の方に5分ほど かちりと音を立てて静止していた時が進む 一億光年の夜が流れ 廃棄物処理場に水たまりのような鏡 割れた月が赤々と燃えている 鉛色の護岸に覆われた河のほうから 霧の匂いが漂いはじめた窓を閉じる 眠れぬ夜が茫々と白象の肌をなで チェルノブイリの空には 放射性降灰が静かに降りつむ かつて河岸段丘があったころには 誰もいない野原がどこまでもつづいており 深夜の魚群が吐く泡が 川上へゆらぎわたる風をやわらかく包んでいた 一本の送電線が天の楽譜をつまびくと 小さな街灯の明るみのなかで ときには懐かしい唄を奏でてくれた 影絵芝居の都市が窓の外に点灯している 風ににじむ送電線が空を分かち 星々への階は闇の中を斜めに突き上げる 水晶の寝台には微かに潮解の兆しがあり 不安を覚えた私は起き上がる テレビのスイッチを入れる ブラウン管の青がふるえ 原子炉の炉心を妖しく照らすチェレンコフ光 青い電子の井戸の底から女の顔が浮かび上がる 水面がゆらぎ藁色の髪毛が広がる 私は女の頭を抱え髪をなでる 女の赤い口がかすかに開き 笑う 私の手をはねのけてゆるりとまわると 彼女は尾びれで水面を打ち 潜っていった # フォーマルハウトは魚座の一等星で、  周囲に明るい星が無い為「南の孤独な魚」などと呼ばれています。 ↓チェレンコフ光はこれです 画像http://atomsun2.atom.musashi-tech.ac.jp/pic1.htm 説明http://www.ne.jp/asahi/ogi/home/back/095.html かってにリンク(^^;ワラ ---------------------------- [自由詩]蛍石/ダーザイン[2004年4月26日19時37分] ああ今日も夜がふけていくよ 風がびょうびょう吹いて トタン屋根に映る雲がごうごう流れて 乗りそこなった月の船は地平線の向こうです 星のない空は なんだかとっても寂しくって 電信柱を伝わって 風に吹かれてふうらふうら 街外れの麦畑まで歩いたら も少し歩いたら あなたに会えるような気がしたのです ぶつぶつ呟く街灯の下で 光る石を拾った晩のお話です ---------------------------- [自由詩]光る野/ダーザイン[2004年4月28日14時30分] その日の雨が 今でも時々僕の肩を濡らす 廃園の木下闇に 置き忘れられたブリキのバケツ 松葉を伝い落ちる雫が 想いおこさせる もうひとつの心臓 眠れぬ夜毎 消え残る雫がほのかに光り 再び落下していく 夜の底へと 今でも時々 僕はあなたに語りかけています 僕はどうにかやっていきます 心配はいらないよと 小糠雨の降る森の小路は 稜線へ至るにはいまだ遥かに遠く 薄暗い唐松林の奥深くへと 鬱蒼と茂る下草に足を濡らしながら なおも途切れがちにたどられていく 何処から来たのだったか 何処へ行くつもりだったのか 頭上で漆の葉が赤く染まる すると 唐突に視界が開け 僕は小さな草原に立っていた 雲の割れ間から 一筋の日の光が差し込み 日に映える野 ススキの穂が風にそよぐ 透けるような藁色の明るみの中で 遅咲きのコスモスが一輪 風にふるえていた ---------------------------- [自由詩]蛍/ダーザイン[2004年11月2日15時23分] 海岸草原のみどり はまなすの赤 萌たつ草の焔の中に 風露草のうすもも色 原生花園をぬけると 落ちていくように 空がりょううでを広げて 濃紺の海がひろがっている 道東の海は冷たくて 泳ぐ人は誰もいない でも今日は暖かなひざし 透明なひかりがせかいを照らし やさしい風がふいている 波打ち際には丸くて平らな石 灰色に濡れた線が 海と砂浜の間を地平線までうねっている 靴を脱ぎ捨てた彼女が 波打ち際で 水とたわむれる 打ち寄せては返る 巨大な鉛色のかたまりも 彼女の足もとにくると やさしい静かな泡になる カモメ カモメ ときどき凧のように静止して ぼくらも時間をとめたように 肩をならべて座りこむ 海の轟きと ひかりが ぼくらをみたす 波打ち際に転がる大きな流木を指さして 彼女がたずねる  あれどこからくるのかしら  さあどこからくるのだろう 彼女のひざに顔をうずめる やわらかくて あたたかくて 目を閉じると 海の轟きと 彼女のぬくもりの中に ぼくは ぼくはすみやかに消える  ねえ鯨こないかなあ  さあどうかしら  ねえ海近づいてきているみたいよ 潮が満ちて 灰色の線が 波打ち際の泡が ぼくらのほうに近づいてきていた 彼女が集めた色とりどりの小石が 星座のように灯ると夜になった 風が冷たくなって 彼女は胸の前で掌をにぎりしめ ふるえている ちいさないのちのおもさで ふるえている 彼女の肩を抱いて その掌の中に ぼくの手も握りしめられて ぼくらはじっとふるえていた 星座がぎらぎらと輝いて 聖像画のようにぼくらを照らしだした 海の轟きの向こうに あべまりあ きしきしと星のきしむ音が聞こえる  ねえ蛍とんでいるわ ふりかえると 原生花園に 何万もの蛍の群れが ひかりの標のように点灯しており 海風にのって いっせいに空へと舞上がった 天上の星々と 蛍の群れと ひかりの雲の中にくるまれて 握りしめていたぼくらの手を 彼女がそっと開く すると ぼくらの掌の中からも 無数の蛍が 金色のひかりを放って 舞い出てきた ひかりを浴びて 彼女の顔も 黄金色に映える  ねえ蛍とんでいるわ ---------------------------- [自由詩]地雷原/ダーザイン[2004年11月4日18時10分] 風の強い午後だった 僕は屋上の金網にもたれて 空っぽの青い世界を眺めていた 広大な草原を思わせる 羊雲 羊雲 心の翼をそっと広げ 空の青みに溶け込んでいった光の子供ら 遠い異国の丘の上では 子らが地雷に石を投げる 暗黒舞踏舞う崩壊者の 無の七色の 激しく燃える言葉のかけら 拾い集めて 草 草 切れ切れに 野を分けていく炎 丘から丘へ どこまでも土埃の立つ白い道を行けば 荒れ野の果てには水晶の森 踏み後をたどり どこまでも深く分け入ると 道の途切れる所 禁止空間の表示 道ばたには 真紅の柘榴石が灯っている 億年の歳月を経ても 路傍に光る 存在しない子供たちの 空を流れていく子供たちの まなこに煌く スターバトマーテル   風の強い夕べだった 僕は屋上の金網にもたれて 空っぽの街を眺めた 地平線には 原子炉を思わせる巨大な穴が口を開け 世界は激しく炎上している 赤光の中 子供たちの長い影が屋上に焼き付いて 世の終わりのロンドを舞う天使は 逆光をにない 黄金色に輝いている ---------------------------- [自由詩]探索者/ダーザイン[2004年11月5日16時00分] 冷たい壁の手触りを確かめながら 第十三使徒 死都 ネクロポリス 暗い地下道をたどって行くと 薄汚れた鏡に 見知らぬ男の姿が映し出された 肩をすくめた黒マントの中に 密かに呼び出される空白者の顔 そのようにして 想いおこされたモノクロームの風光の中で 煙草の先に火を灯せば 一瞬浮かび上がる鮮烈な赤 百五十億光年彼方の雪野原には 遠ざかっていく者の影すらもなく 波打ち際で痴呆のように微笑んでいた 美しい娘の面影を求めれば ぺれすとろいか 三頭立ての馬車が 音も無くおまえの上を通過する 青ざめた馬が 神に祈りつつ神殺しを成し遂げた夜 黒馬が 再び 世界を開きにやってくる 限りなく 光の速度に沿い 膨張していく新世界へと メガストラクチャーを超えて 星々の階段 さようなら 懐かしい街 さようなら 愛しい女 ゴルバチョフの額には 失われた故郷の影が 美しい記念碑 原爆射爆場を舞う蝶のように 焼き付けられて ボルガのほとりには どこまでも鉄塔を連ねていく 丘また丘 風がびょうびょう吹いて 送電線が鞭のように世界を孕む 遠く地平の果てには 微かに海の匂いが漂って 一羽のカモメが舞い上がり 虹の橋を潜っていった 無の七色の光輪をまとい 鳥の飛影よ 再び 世界を接合せよ 鳥の飛影よ 再び 世界を接合せよ 神はいる そこに ここに どこかに ---------------------------- [自由詩]路傍で/ダーザイン[2007年1月17日22時32分] 白い海触崖の上 見渡す限りさえぎるもののない 広大な草原の真中にいて 両手を広げ はたはたと 羽ばたく鳥のまねをしてみたり 帆のように風をはらみ さらに白い空の彼方へと 消え入りたいとでも思ったのか 足元を見下ろせば 断崖の下に小さく打ち寄せる波頭 海はほの暗い光に満ち それは 命の影を秘めているかのように光り 岬の伝承によると 海にのまれ 帰らぬ人となった若者を慕う 少女が流した涙のレース飾り 銀色に光る風力発電機の塔が 誰もいない海岸丘陵に幾本も連なり 可聴域の外で微かにざわめく 重奏する声 アナタハ ソコニイマスカ 岬へ向かう歩道に沿って咲きほころぶ 黄金色のきんぽうげは 光の子らの笑い声 薄桃色の風露草は 夏服の少女が風の中で歌うアリア 花から花へゆらぐ 蝶の飛跡は時をたわめ 野に影もないところばかり めぐる旅が続いた日々がありました 今時分は多分 もう夏の終わりの花 蝦夷かわらなでしこが 桜色の線香花火のように 咲き乱れているでしょう 孤独なバイク乗りの メットのシールドには いつもかすかに 幻の対者が映っており その消え入りそうな姿が 海岸草原の中をどこまでもうねり延びる 一本道の傍らに 陽炎のように見え隠れしているのです だから時折 旅人は路肩に停車する たどってきた道と 眼前に延び広がる無辺際の丘また丘 ただ淡い空の青があり 少し暗い海があり 青と青が触れ合うところ 帆を張る影も無く 一人路傍の人となり 煙草をくゆらせていたりするのには そんな訳があったりするのです 風が草原を渡っていく 低く高く 流れて行くものの透明な存在 バイク乗りの髪毛も 草原と共にそよいでいるでしょう 降り注ぐ光の中で いつの日にか再び 身をかがめる者のうなじに光る 透け色のうぶげを 青い風が梳いて行きますように 寂しい旅の途上にて ---------------------------- [自由詩]旅の終わりに/ダーザイン[2007年1月17日22時35分] 夜が更けていきますね 送電線を伝わって ふらりふらりと麦畑を行けば ほら 電線が囁いている 星屑をまとった天使たちが 口笛を吹きながら散歩しているんだ 軍用ブルドーザーに破壊されたガザ市街 廃墟の剥き出しの鉄骨と塵埃の向こうに 銀の海が音もなく寄せる星野原 誰もいない星明りの廃園で 狙撃手の眼を盗みながら ハッカ煙草を一本くゆらせている間にも 夜は 明日の方へと転がっていった この夜が明けたなら多分 この夜が明けたならきっと ゆるゆると優しい光の降る金色の草原で 僕らは笑っているのだろうか 季節は巡り 夜風がめっきり冷たくなりました 白鳥座のバス停は 巨大な十字架のように直立し 旅の季節も終わりのようです かつて小さな街灯の明るみの中で 「かんたんなことよ スイッチを切るだけ 私はコンピュータだから 寂しくないよ」と 語った少女がおりました 地球から遠く離れて  星空に取り残された 僕の恋人  セロファンの幻灯をそっと灯すと ピンクのワンピースの少女が現れるのです 東の果ての遠い国から打ち上げられた 小惑星探査衛星のコンピュータのお話 そんなふうに 終える旅もあっていい 灰色の巨大な分離壁へ至る荒れ野に 傾いた満月の影が射す ダイナマイトを腹にくくりつけた少年が 麻の上着をぼろぼろにしながら 鉄条網を潜り抜け ほの暗い水晶の森の 微かな明るみの中を進む ひとつの青い影となって 兵士の立つ関門所の横を 青い猫がこっそりとすり抜ける 彼の恋人は アメリカが支給したアパッチヘリのミサイルで 真っ赤な石榴のようにはじけたのだ 少年よ 君は生きて 彼女がここにいたことを 憶えていてあげなければいけない 雲の割れ間から 幾筋もの冷たい光が野辺に射す 桜草の花束が 草原のうねりの向こうに 松明のように灯っている パレスチナの分離壁の中でも 両手をかざす子供達の 炎上する影は長くのびて ピンクのワンピースの少女の姿が 縄跳びの輪をくぐる子らの中に 見えたような気がして 地平に開いた赤い月のトンネルは もう会うことのできない 恋人の胸に灯る柘榴石のブローチ この夜が 明けることがあるのなら 夜よ 更けていけよ ---------------------------- (ファイルの終わり)