西日 茜のたちばなまことさんおすすめリスト 2008年6月17日19時13分から2008年9月14日19時10分まで ---------------------------- [自由詩]みかん(未完)/たちばなまこと[2008年6月17日19時13分] もう ラヴソングも描けないのさ 日の入りが終わった天空の マゼンタがきれいでね 良い絵が描けた後の 水入れみたいでね そんなことを伝える人も居ないのさ 眼球の奥でつくられる とろんとした水は 落ちないまま底に浸みてしまうんだけど 遠くで見ているの? きみの天使は人のことばを 少し口に出来るようになってね 伝えたいことがたくさんあるんだけど 上手く言えなくてね 今日も 眠るのが怖くて泣いていたよ バズタブから抱き上げて涙ごと タオルでくるんだら はだかのまま眠ったんだよ はだかのまま 私の体に戻るようにして ---------------------------- [自由詩]タイダイのおじさん/たちばなまこと[2008年7月12日13時03分] 熱い帯にタイダイの笑い声が響く 電気工事のおじさん 駐輪場のおじさん 建設現場のおじさん 交通整備のおじさん ペンキ塗りのおじさん たくさんのおじさん 設備工事の父さんも あんな風にタイダイに 笑っているのかな 今頃北はさらさらの夏の風に 揺れている頃だろう 坊や こんにちは おじさんにも君ぐらいの孫がいてね 遠くの街で暮らしているんだ 今頃は歩きも達者になっただろうな 最後に顔を見たのは冬だったかな 冷房の無い現場で首にタオルを巻いて アスファルトの照り返しに顔をしかめる 開け放ったワンボックスの後ろで 愛妻弁当を食べて AMラジオをバックに昼寝をする けだるい夏の午後 坊や 親孝行するんだぞ 坊やのかあさんは 強いけれど弱いんだ 女ってのはな 強くて弱いんだ 男ってのは弱くて強いけれど すぐに泣いちゃあいけないよ これから辛いこともたくさん待っているだろうけれど その笑顔を忘れず 強く生きるんだ 顔をしわくちゃにして日焼けした手を振る 太陽をまっすぐに受け止める厚い胸 街角にいつもほかほかに発熱している タイダイのおじさんが好きだ ---------------------------- [自由詩]おかえり/たちばなまこと[2008年9月9日0時19分] 心臓が集まるとファンタジーになる 初秋に夏をふり返る日 スパイスをスプーンいっぱいほおばるような 日常のすてきな刺激のような 心臓がより添うときを 見たような日 旅から戻ったベクトルたちが それぞれの誰かに語りかけている 私ならあの人に 心臓がどこかに 忙しさに遠のく 手が届くのに遠く 飛ばされていたような そんなここち 皆が還ってきたようなの また ファンタジーが廻りはじめて 光のまぶたのネットの向こう 友だちたちが ほてる手をくれたようなそんな ここち けれどもね 左を向くと背中が見えるの ダイヤモンドは欠けてしまうと流星に なってしまうのかな アスファルトで手を振る 伊達めがねの人に泣きついたりした けれども けれどもね まだ 日の長い午後5時 空の青に 東の空の青に まっさらな入道雲を見上げ 駅の前 商店街 女の言葉をきいた 「東京の空が、壊れちゃったんじゃないかしらと、思うの」 また 思うのは心臓のことで 声をかければ来てくれる人がいるの 遠くにも 思い出してくれる人がいるの この まだ 得体の知れぬ大きな家の 私が家長じゃなくっても 短い両の腕を拡げて待っている おかえり おかえり おかえりと ---------------------------- [自由詩]映画館を出て、海に泳ぐ。/たちばなまこと[2008年9月14日19時10分] 海の中にいた ここは地球なのだが 靴を脱いでいるから 地に足が着かず やわらかい席の おしりの感触が消えそうで 前の席の 男の子 女の子 野鳥のさえずりに似ている 夏は タンパク質で膜をつくり 夏は 膜の中で見つめた しめった風が過ぎていった しめった深緑が しめった象が しめったヒトが しめった肌が 過ぎていった 上澄みをすくう子ども 夢の中 黒い瞳 何度も吸いこまれて 何度も 吸いこまれては 立ち位置を 忘れた ここは地球なのだが 地球ではない砂を 足は 噛んでいた やわらかそうな女の子が 魚の表面張力の上を 走る 海の中から空気の中へ 息をしている私も 海の中 カシスのグミから甘ずっぱい血をもらうと 真っ暗な知らないヒトで満ちた 海にも 生きていることを 思い出せていて 恋や唄が止めば あの人のように男の子を抱きしめる ヒトに ポップな色彩のキャンディーパックから もう一つカシスを選ぶ ---------------------------- (ファイルの終わり)