殿上 童のおすすめリスト 2016年4月3日6時31分から2020年2月3日11時43分まで ---------------------------- [自由詩]一方向の宇宙/吉岡ペペロ[2016年4月3日6時31分] 桜をみると胸がいたい 桜なんかだいきらいと言いたくなる だから桜に謝りながら 盆栽みたいなかたちをみつめている 一方向にしか膨らまない宇宙なら 星はこんなふうに見えるのだろうか 桜をみると胸がいたい 桜なんかだいきらいと言いたくなる だから桜に謝りながら 盆栽みたいなかたちをみつめている ---------------------------- [自由詩]スリープトーク/あおば[2016年4月4日4時12分]          160404 ピロートークという言葉が流行ったことがあったなと 遠くを見るふりをする きのうはどこにもありませんようと歌った人もいて 朝焼けの中にワインを浸して トーストを美味しく頂く 若者は星空の中にいると唱う人 愛の言葉を、と忘れかけている言葉が 古くさい鎧をまとって ロシナンテに跨がった殿様は サンチョ・パンザをお供につれて 帰郷したのですよと 私は喚く 復刻版が出たから 購入手続きを取ったのだが 未だに電話が無いところを見ると 売れ切れたのかもね 一冊数十万していると 知れないね なにしろヤフオクでは エコーが掛かったように 入札数が増して 知れないね どんどん競り上がる 私は嘘は申しません ただ誇張は致しますと 黒門町の師匠は家事をさせる 此所がつとまれば何処でも勤まると 厳しいことをおっしゃるが 頭の毛が薄くなった頃 台詞をど忘れしたことをきっかけに 知れないね あっさり引退してしまった 朝焼けも無かったから 一気に跳び上がるように お日様は元気に顔を出したのだ 旅に出るには遅刻だぞ 知れない 首都高速が空いているうちに 東京を抜けなければ効率が悪い 世の明ける前にキック一発 エンジンをかけて 知らない 静かに出立するのだ 二発では格好悪いから 絶対に一発だと 青年は荒野を目指すといいながら ベターハーフを後部座席に乗せ さらば恋人よなんて口ずさむ 知らないところに もうじき火が上がる なんの日 嘘八百の誕生日よ オメデトウの歓声に 私たちは結婚式を 早朝に日前式で 執り行った そんなこといって また〜嘘ばっかし カレッジポップスの影響は スパーク三人娘なんて 知らないよ 今初めて聞いたよ こんにちはとおやすみなさいが うなりを生じて居りますので この辺りでのお開きにして 1時間ほど仮眠を取って 早朝出勤します 日曜の晩のお花見は 知らないよ いつもこうしたもの 公衆トイレがすぐ近くにありますから コンビニも近くにありますから 公園も近くありますから 次回の俊読に是非おいでくださいと そんな風には誰も言わないから 私が代わりに言います 知らないよ 会場が同じならばね! 引用=初出「即興ゴルコンダ(仮)」   http://golconda.bbs.fc2.com/   タイトルは、さわ田マヨネさん} ---------------------------- [自由詩]桜かな/yo-yo[2016年4月4日7時24分] きょうの桜は いつかの桜かもしれない きょうの私が いつかの桜をみている いつかの鵯が きょうの桜を啄んでいる きょうの私は いつかの私かもしれない いつかの私が きょうの桜をみていて きょうの鵯が いつかの桜を啄んでいて いつかの桜が きょう散っている さまざまのこと思い出す桜哉 (芭蕉) ---------------------------- [自由詩]ちいさな 三つの声 /るるりら[2016年4月4日16時02分] 【こめる】 ちいさな人が ちいさな声でいった 「あさがおは かさ みたい」 くるくるたたんでいる花は かさみたい 雨の日にひらくと かさみたい ちいさな傘から ぬーと わたしのほうに出てきた手のひら あの おさない手は 傘みたい 【ぺこり】 いつからか心の中で  しかられたときは ぺこりと 言ってきた おじぎをしながら 二度としませんといいながら わたしが れんげの花を好きなのは 父さんの つくりかけのブロックの穴に わたしが根の付いた レンゲのつぼみを 植えても すこしも しからないで 花が咲くまで 待ってくれたから ふかぶかと 父さんに おじぎすると とうさんが「ぺこり」と言って がはがは笑った 今年も田んぼの すみっこで さいている花は いまでも あまい蜜の匂いがして  おなかのそこまで その香りを吸い込むと おながが ぺこり おもわず あのときの父さんみたいに わたしは笑う  【ともる】 さあ みなもとを て ら せ うたが そこにあるだろう まぶたを とじて   はくいきは よせるなみ  すういきは かえすなみ みな底を照らせ ゆめのおくの いちばん 尊い場所の こころの みな底にあるのは ちいさな唄 わたしを照らす ちいさな声   ---------------------------- [自由詩]ゆうちゃんのみみうち(花冷えの日)/小原あき[2016年4月4日21時27分] なんでさくらはあめがふってるのにさいてるの そっか、あめとおともだちになりたいんだね ---------------------------- [自由詩]ことば/イナエ[2016年4月5日8時55分] 言の葉 とはよく言ったものだ 青春に芽吹いた言の葉も 人生の秋ともなれば 渋く色づく としても やがて散る 散った言葉は ぼろぼろに朽ちて  形も意味も喪い 芽を出すことなど 一切ない だが ある種の言葉は 亡霊になって 人の間を漂うことがある たとえば クラークさん 「少年よ 大志を抱け」 人は勝手に拾いあげいうだろう 少年だけだ 大志を抱くのは 少女も 青年も 老人も 大志など 大して必要ないのかと  ---------------------------- [自由詩]手と手/凛々椿[2016年4月5日20時45分] 春か冬かと疑う まだぬくもりが指先にかからない 冷たさのはざまの或る一夜に 目覚めの雨は降る 膨張した外気温は子が急に大人になったよう 草花は気づきの艶をほんの少し 枯れ葉のうちから覗かせた どうにかしたいと思ったことは嘘ではありません でも 月は靄の向こうに思いを滲ませている 花など知らぬ そう言い張って ひかりはいずれ空に濡れ 葉のしずくは涙を歌いながら根に沁み 生き生きと伸び 思い思いに吼えるでしょう 春を一足飛びで越えてゆく その声はとても美しいのです 例え発せられなくとも かき消されても 木々青く 花は華やかに すべてはとてもまぶしく愛おしく変わってゆく 君には強すぎるのかな さあ 早くお風呂に入りなさい あしたはまた寒いといいますから 冬じまいの或る一夜は 春の向こうをたぐりよせるただ一度限りの夜 心亡くとも春は来ますから 待ちましょう ほら  こちらにおいで そんなに駄々をこねないの 僕はここにいますから ---------------------------- [自由詩]実験したいのかね/黒髪[2016年4月5日21時04分] 失ったの鏡 割れるのが鏡 表情を変えないスーパーマン とてもステディ 口をゆがめて 咆哮する声 とっても愛情にあふれているじゃないか 目をゆがめて イメージを放り投げる 天の星の全てが襲い掛かる くたばったの夢 きれいな夢 蝶々の飛ぶのに合わせて 空が揺れる ゆーらゆら 飛んでいこうどこまでも 高みを目指さん ベリーステディ 縛り付けられることはいつまでか いつの夢か 失くしたのか 永遠に実験場で 神のいない国 ---------------------------- [自由詩]さくらがい/あおい満月[2016年4月5日22時08分] 生まれては弾いていく、 いくつもの過去たちの脱け殻の 奥には必ず触れなくてはならない 真実がある。 その横たわる真実の瞼の裏側の、 顔を見つめなくてはならない。 目を閉じた瞼の裏に映った顔は、 私ではない知らない別の誰かの顔で、 微笑みに似た色の瞳を向けてくる。 その彼女は何かをくわえていた。 青ざめた小さく細長い何かを。 よくみるとそれは指だった。 それも私がよく知っている小指で。 左手に痛みを感じて、 目を覚ますと、 左手の小指に、 何かに噛まれた赤い痕があった。 あの瞼の裏の少女。 私はすぐさま古い引き出しから、 小学校の頃の卒業アルバムを開いた。 そこには、あの少女がいた。 仲良しだったYちゃん。 でも彼女は、 卒業してすぐに、 交通事故で亡くなった。 何故、彼女が夢に出てきて、 しかも私の左手小指を噛んだのか。 Yちゃんはいつも、 私の左手の小指を羨ましがっていた。 (Fちゃんの小指、サクラガイみたい) そういって、 私の小指にピンクのマニュキアを 塗ってくれた。 Yちゃんが噛みついたということは、 死んでもなお、繋がっていたいという 魂のサインだったのではと、 私は感じている。 後日、私はYちゃんの眠る墓を訪ねた。 墓石に水をやり、手を合わせて Yちゃんと対話した。 そのあとに見上げた空は、 桜色をしていた。 その向こうに私はかすかに、 七色の虹を見たのだ。 ---------------------------- [自由詩]桜/ガト[2016年4月6日4時34分] 今年も春が来て 桜を見る この桜は いつか誰かと見た桜 私たち人の世を越えて 木はここにあり続ける 子供はやがて大人に 大人がやがて老人になっても いつもこの美しい花びらに かつてそれぞれが過ごした 時代の面影を見る そして 吹雪のように散っては 命とは何かを教えてくれる  ---------------------------- [自由詩]姫たちのお茶会 上/るるりら[2016年4月6日16時41分] ハイバックの助手席じゃあ 帽子のツバが すこしむずかしい すこし雨滴のあとの残る車窓から見える景色は 映写機のように枠のある動画 だけれども携帯の電池なんて いらないよ 幸運にも にわかに咲いた桜さくら さささと 風に舞うのを  仰向けで空を見ているレンギョウも 菜の花も  谷合いの町のいたるところで咲く しばらく 首をかしげたりすると腹痛になっちゃいそ まるで押入れにとじこもる子どものように 腰をかがめていたのだけれど ついに到着 霧の夜でリンスした髪を 自由にすることにした 車を降りたら 傘のようにふくらむスカーチョは たふたふ 小ぢんまりとした変身願望が ゆれる 人里離れたレストランのオーナーが 開けようとしているのは 暗号をとじこめたゼンマイの壺  大切に匙で掬っているのは  蕨と龍とがおしゃべりしてるようなペーズリーが 丁寧に煮られて透明をまとった勾玉たちになったから テーブルの下で傷つき ぶっきらぼうに寝そべるタイプライターが記憶しているのは 時間と空間の錬金術 そのうち庭の生簀の水槽にはねる錦鯉が空を泳ぐころには 薔薇も咲くだろう  この陽気じゃあながいながい風の楽器に誘われて 白鯨だって遊びに来るかもしれないね だけれど今は ラズベリー  ベリー血のさわぐストロベリー ケーキといっしょに 最後に運ばれてきた花のお茶は、飴を溶かしたような薫りだよ 魔法のような味 だけど ここのご主人は魔法使いなんかじゃないんだなあ 隣のテーブルの脚をごらんよ  錆びたケーキの型を接着剤で留めて高さ調節してある 近所にこんな店があったなんて素敵ねなぁんて ふたりでおしゃべりしていたら 大航海時代の船の中みたいに わたしたち同じように ゆれた ら  オーナーの てのひらから 空き缶が捨てられた 色あせた常盤色の缶詰には古いカードを思わせる絵柄があり 1694年と刻印されていて そこに描かれている姉妹もまた わたしたちと おなじように ゆれていた ********つづく********** * 《姫たちのお茶会  2016年四月企画の幻想詩30への投稿作品    【人間関係】/姉妹【舞台】/時間が交錯します》 ---------------------------- [自由詩]はかないで/ただのみきや[2016年4月6日20時42分] 蛇はひと口咬んで あとは丸呑み 四の五の言わず呑み込んで ゆっくりと消化する 蜘蛛は牙でひと刺し 注射して中身を溶かす あとはハンモックで横になり ゆっくりストロー 蛆は胃液を吐く 死肉を蕩かし粥にして 頭を皿に沈める成長したくて まあ食べること食べること 人はしっかり噛んで よく咀嚼しなければならない 固いものだって噛めば噛むほど 味がわかってくると言うもの 牛にはかなわない 反芻し再び噛みしめより深く納め その乳は他人だって養えるし 死んでも残せる糧がある こっちは儘ならず 養ってくれた糧ほども 美味くて滋養のあるものなんて 振舞おうにも残そうにも 翼を切られたオウムが誰かの 滋味のある声色を真似ている お喋りは的もなく散らされて 鳥は壊れたラジオになった ぴーぴーがーがー もとの声音はどこへやら             《はかないで:2016年4月6日》 ---------------------------- [自由詩]落花/藤原絵理子[2016年4月7日0時47分] 風にはぐれた椿一輪 川の流れを漂う 冬の終わりに 寄る辺なく揺られて 春咲く花は霞を湧かせて 華やかに あたしは きみの笑顔を思い出せなくなった 寒さに耐えて 守っていたものは ぬるむ水の霞に 薄らいで消えた 張りつめていた不安は はぐらかされて わかったような顔の 仮面の下に 心の底に 黒い炎を隠して 満開の花に微笑みかける 妬みと嫌悪を ひととき誤魔化して 季節はうつろいゆく 誰も皆 落ちた椿のことなど忘れ去る 気がつくと 自分より不幸な人ばかり探している ---------------------------- [自由詩]御神木/かの[2016年4月7日2時21分] わたしのうちの近くには、神社があって、そこの御神木は銀杏の木で、だでわたしんちがあるとこは銀杏木っていう地名になっとって、そいで、公園よりも近くて、その御神木の他にも木とかはえとって、でこぼこして、スリリングな広場なの。だで、弟がよくあそぼあそぼってうるさい時は、お兄ちゃんと弟と、鬼ごっこしたりだるまさんが転んだしたりそこの御神木で木登りして遊んどったの。その木はなんでか知らんけど、空洞があって、そこに体を入れて、登るの。て、いっとるけど、わたしは怖がりだで、登ったことないんやけど。お兄ちゃんと弟は、登るの。でも、それって、御神木やん?しかもその木、仙人が杖さしたら急に大きな銀杏の木になりましたっていうお話もあるの、すごくない?そういう木なの。だで、お兄ちゃんも弟も、もしかして、御神木に飲み込まれて、神様と入れ替わっとるかもしれんな、と思うの。二人とも、もしかして神様になっとるのかもしれんなって思うの。二人には言わんけどね。わたしも、木登りできたら、よかったのになあ。よかったのかなあ?わからんけど、ほんとにそうなら、さみしいなあって思うわけ。だで、二人とも、遊んでくれんくなっちゃったのかなあと思うでさあ。 ---------------------------- [自由詩]なんとなく春だから/yo-yo[2016年4月7日7時30分] 花だから咲いたらすぐに散ります 誰かが言いました わたしは薄いうすい一枚の紙です 折り鶴が言いました わしは古いふるい一本の木だよ 仏像が言いました ぼくは孤独でまぬけな人間なんだ 木偶(でく)の坊が言いました なんとなく春だから あたしの恋文は空をさまよう 風の便りが言いました ---------------------------- [自由詩]わたし/ガト[2016年4月8日0時09分] 夜が好きで 夜に生きてる 人が寝静まった空間が なんともいえず落ち着く ダメな人間だとよく言われるけど ダメでいいと思うようになった ---------------------------- [自由詩]一日中雨の日にバイクが過ぎる/あおば[2016年4月8日0時41分]           160408 65年前のアメリカ製ラジオが らじるらじるの代わりに 春に小雨が降る/なんて歌ッテイルよ 小生意気だね RCAの5級スーパーは110ボルトから 100ボルトに電圧を落とされなかなか 音が出ないんだけど 空冷エンジンのバイクが暖まるよりは早く 音が安定するんだよと 古くさいキャブレター付きのオールドマシンの キックを踏む青年たちが、小雨の降る中を 意気揚々と走り回る 行くところがないから 街道を行ったり来たりして 知らない人が見たら この町には古いバイクがたくさん走っていると 勘違いしそう だけど 雷が落ちたら 即死かな バイクに乗るのは勇気がいるね いや、心掛けだよ クワバラクワバラ その心掛けなら大丈夫 君の頭には落ちないよ 風が吹いたって バイクは平気 台風の中をサーフィンを楽しむように 吹き荒れる風を楽しむのもいいね 春の嵐の中を高速道をぶっ飛ばす 突風に煽られても車よりは楽なんだよ 経験のない君に話しても無駄だけど 春風の中を小雨の中を突風の中を 古いマシンは古いラジオに負けないように 大きな音を立てて行ったり来たり そろそろ誰かがクレームをつけに 現れるかもしれないが 白バイ警官はバイク好きだから あんまり気にしないかもね だけどエアコン付きの パトカーには気をつけましょう 迷惑行為と賭博行為とは違います オリンピックに出られなくなった君たちは ラジオのニュースでも叱られている 65年前のアメリカ製ラジオに負けるな 一茶ここにありなんてカタツムリが声かけた まだ早すぎるのにのこのこと散歩する君たちが 勘違いしながら、時代はどんどん先に進むのさ 初出「即興ゴルコンダ(仮)」   http://golconda.bbs.fc2.com/   タイトルは、ぎわらさん ---------------------------- [自由詩]姫たちのお茶会 中/るるりら[2016年4月8日10時08分] 【無口】 山高帽の男の顔は見えないが どこにでもある石を缶詰のように 開けようとしている 男にだけにわかる匂いを閉じ込めたのは 誰なのか 日記帳の文字の旧字体が 机の上からこぼれ落ちそう 立派そうなことが書かれているかのようにも見えるが実は 埒もないことしか書かれてないのだ 愛を憎むための方法と 白鯨の食べ方 人里離れた別荘で鯉などを相手に暮らしていたが なぜか今では同じ場所がレストランに改装されている 先日 珍しく どうも姉妹らしい客がきた そういえば 一つ山を越えたあたりは開発が進み 開けた町が広がっているという 男は思い出して居た 男にもふたりの娘がいたことを 男は知らなかった 缶の密封に鉛が使用されていたことを 男は知らなかった 食せば死にいたることもあることを ********つづく********** 《姫たちのお茶会 上下  あわせて2016年四月企画の幻想詩30への投稿作品    【人間関係】/姉妹【舞台】/時間が交錯します》 ---------------------------- [自由詩]予感/ヒヤシンス[2016年4月9日5時14分]  オルゴールが穏やかに流れる  喫茶店の窓から外を眺めると  桜がさらさらと散っている。  春が終わろうとしている。  桜の薄いピンク色の花びらが  ひとつまたひとつと僕のいる  窓枠の外に落ちてゆく。  道端に春が広がる。  空には薄い雲が流れている。  オルゴールの優しい音色のように。  色の深さに広がりを感じる。  僕は何か大切なものを失ったような気持ちになる。  決して暗い感傷ではなくて、前向きな感情だ。  新しくやってくる季節の色が僕には見える。 ---------------------------- [自由詩]簡単料理/夏川ゆう[2016年4月9日5時24分] 料理の雑誌に載っている 誰にでもすぐ出来る簡単料理 時間もあまりかからない 時間をかけて出来た料理のように 見た目も味も変わらない 簡単に出来ることだけを考えて 楽しい美味しい料理を 考える料理研究家 雑誌を見ているとアイデアが浮かぶ 料理の幅が広がり 楽しみも増える 毎日献立を考えるのが好き 大切な人の喜ぶ顔を思い浮かべる アレンジしながら もっと美味しくなるように 日々考える ---------------------------- [自由詩]人生の選択/ヒヤシンス[2016年4月9日5時43分]  すべての家の窓は閉められている。  通りには誰ひとりいない。  路地裏は灰色の匂いがする。  この世に僕一人しかいないような感覚。  家並みを抜けると開けた田園地帯になる。  僕は緑のチェルシーを頬張る。  田園はそのまま森につながってゆく。  森が僕を待っているのだ。  ルノワールの栞が挟んである本を取り出し開いてみる。  そのページは白紙だったので文字を書き込んでみた。  本日異常なし、幻ひとつ。  森はいつでも僕に優しい。  夢幻の包容力はとても緑で爽やかな匂いがする。  小さな決断を繰り返しながら僕は今日も生きている。 ---------------------------- [自由詩]モノドラマ/もっぷ[2016年4月9日5時48分] 憧れてはいけないと思うし 聞く尊さゆえに忍んでる 私は私でいても良いのだなどと 思い切ることが難しくてもそれでも 夜空にオリオン座がかならずみえてそれが 不思議ではなかったそんな頃 畏れはなかった 本当にそう言い切れると 確かめて けれど訪れないうさぎを待つような いまの、切り株だけを守っているような 足許をあなたはゆるしますか 待っていた あなたと会っているこの夕べに 私がゆるされたいのは あなたを捨てることなのだろうか ---------------------------- [自由詩]発条式発泡詩 <1>/nonya[2016年4月9日10時23分] 「思春期」 疎ましく膨らんで 悩ましく弾けて 狂おしく奔って 暑苦しく押し黙って 思春期なのか 四月は変拍子 狼狽える前髪で 躊躇う指先で 彷徨う吐息で 蹌踉めく鼓動で 乗り切れたなら 光と風の五月 「誕生日」 ハッピーバースデー 滑らかな自動走行で 三途の川の河川敷に また1マイル近づく ハンドルは肘掛と化し アクセルは踏み方を忘れ あんなに抗っていたブレーキには もはや足も届かない それでも ケーキを頬張る頃には ほのかに嬉しくなる ハッピーバースデー 「土曜日の春」 敷き詰められた コットンの空から 歓声を上げながら 雀が零れ落ちてくる 切り揃えられた 赤目垣の結界を すり抜けて来るのは 程好い温度の鼻唄 旋回するヘリコプターの 執拗なつぶやきを 左耳で聞き流しながら 滲んだ市街図の端で 私はゆったりと錆びていく ---------------------------- [自由詩]干からびたあたまの中で/ふるる[2016年4月9日17時54分] 干からびたあたまの中で声 が、き、こえ、る、 どよう 丑の日 今日 からは 湯呑 電話 抹茶 あじ 反則技 かけて ごらん なさい よせよ だっと走る 脱兎のごとく うらめしい三階 ことほぎの四階 耳の中見せてごらんなさい お水入れてあげます あたまうるおいます お茶も注いで ぽん ぽんぽぽん お花咲く このままでは 桜に裂かれてしまうでしょうね この ナイスな 関係 にげ 逃げなければ にげにげ もつれた足取りで ひかりとかげとひかりとかげと転んで ででん わたしならあなたの寄りかかりを許したのにですのに 駆け抜けるつづら折り そのおりおりに 後々のうたうた続けてどうぞ、               さあ 干からびたあたまの中で 眩しいと一言でもつぶやけば、もう何も見えない ---------------------------- [自由詩]門/服部 剛[2016年4月9日20時08分] 門の前はひっそりとして 呆けた顔で、立ち尽くす 襤褸着(ぼろぎ)の男 雨の滴は、腕を濡らし 門柱に ぺちゃり と 白い糞はこびり、落ち (この世を覆う、雨空に  数羽の烏は弧を描き  声は乾いて、木霊(こだま)する) 雨はざあざあ降り頻り 何処からか、ぬるい風は 人肉の腐臭を鼻腔に、運び 男の呆けた目の先に 頼りない一筋の 水墨画の道は 霞の掛かる幕の向こうへ (光の門は…あらわれるのか) いつしか門柱に凭れ、坐っていた 襤褸着の男は 開いた蜘蛛の掌で濡れた地べたを、押して 片膝をゆっくり立てた   ---------------------------- [自由詩]書くか・ソレデモ/ただのみきや[2016年4月10日0時51分] 失う口形を魔の辺りに視て尚も孕むかシ トワに問う意味に倦み編みあぐね拗ねる ウタの蒼さ麻袋に包み墓に供え貫かれた 裸の螺の水仙うねりのネを張り伸ばし蝕 される音韻のシズク触覚でハジク悼むこ とも忘れ折れた指で叩く黒鍵で埋もれた 大地吹きすさぶ因果律と道徳律の間にサ カサに堕ちる娘手足萌え出でる朝に食い 破るチのみぞれフルフル国のあたまシッ ポはらわた空砲の轟きに臆することなく 原色インコする手弱女の柔肌のヌとネと 膨らむ乳房に七人の愚者が宣託を告げる と舌先のコインの上でカインが目を覚ま した時間のズレとザレに脈を失くし冷た い千代紙の花吹雪となり眼差しとなりな がらコドクの光は弾道を駆け続けてシを 予感させるプリズムへ向かい時間の動き 続ける断面をアンモナイトに刻みながら 七人の女神がアレキサンダーの足を噛み 千切った東京の高い塔からヘブライ語で 叫ぶ中国人が釜茹でにされる愛国心と愛 国心が麻雀卓を囲んでババ抜きをしてい る憎しみのニンニク料理が地中海を往く 船の上でエチオピア人をかつての鎖で繋 ごうとしたテロリストの薬指のジルコニ アからダイヤよりも澄んだ涙が落ちる日 ゆっくりと蝗の群れが月からやってくる 病院のにおいが何処からか怒りを鎮めて ラクビ―ボールが刺さったままの男が泣 いた父と母を恋しがり怒号が壁を崩して 鯨を喰う権利が追い詰められたヌーの群 れのように少女の小さな泉に飛び込んで 痛む蛾よりも金色の眼をしてもう大人だ と笑う教会の洗礼式が行われた海岸には 過去が過去のまま生身で流れ着く半島の ゴミが流れ着くように裏切り者が処罰さ れる蠢く夜の獣のにおいに巻かれ蛍が無 数に落ちる兵士たちは紙のように燃え神 になれなかった穴はどの時代どの国でも 開き続け主義も宗教も敵も味方もなく蛍 はみな震えながら明滅し加速するドミノ は光速を越えるガンジスの子が矢を枕に 眠ると神話が残り人はシに記された神々 はなく風が太陽が稲妻が漂う意識を巡り 照らし埃っぽい言葉の屍が渇きだけを灯 して往く昨日珊瑚礁の島々で良く熟れた 芋が無数に往く手を阻んだ飢えたまま時 代を花びらのように脱ぎ捨ててナビゲー トする偶像の端末がぶれ始め春が来る膿 んで肥大したイチモツを晒して顔を隠す 終わりなき被害者クラブの聖杯を舐める くらいなら傷だらけの爪先で蹴り上げる 閉ざされた瞼の裏に広がるれんげ畑で蜂 が蝶がぎりぎりの生を火の玉の夏を飛行 している娘は武装する何も持たずただ刃 を己に向けて爪が剥がれ指先が千切れる ほど掻き鳴らすスチール弦からチに塗れ シは跳ね跋扈し暗躍するなにひとつ意味 を繋ぐな崩れ堕ち粉々になれ艶に仇なす 夜目に喰わさずシよらしくシよシよとし なり知と痴と恥まみれの声シが泣く奈良 ぬらりとノロいゐろのならいに羽化せい 詩化せい蜂の子ヌけヌけかぶら炊け青キ ナコ煉獄きんぴら地獄で餅撒け化けるが 花の斑に淫らに魔法の模倣で啓蒙される オデコ撫子剃毛しちゃう黒子が昇る夕闇 迫るkissmeplease均衡揺らしてシタール がスラブとアラブを踊らせる瞑想と埋葬 エビルと呼び合いカンフーとロックンロ ールで靴を失くしながら宇宙ステーショ ンを見上げては間と未と無と目をも潰し 颯爽と嘯いて切腹したって乗った張った 切符はいらないきっとカッとしてあなた 子と場を失くし耄碌で無しの白痴の糜爛 に火炎瓶の宴タンゴの文語をバンドネオ ンでシなど知らぬがhotcake三時のあな たは暫時のうわごと上書き強いてあがい たりもがいたりシタイ魔の辺りに視たシ 人に朽ちなシとは違和ない口が裂けても         《書くか・ソレデモ:2016年4月10日》 ---------------------------- [自由詩]nayuta/草野春心[2016年4月10日10時42分]   ぬるい肩ら、   いまは抱(いだ)きあう   あたたかな那由多に   細雪(ささめゆき)、   うす燈り   耳のなかの馬にのり   ぬるい肩、はなれていく   あたたかな那由多に   「わたしたち」の   聞えない町 ---------------------------- [自由詩]青い商店街/印あかり[2016年4月10日16時56分] 果物屋は空調がきいている バナナの薫り 痛んだ苺のにおい 小さな路面電車 通りすぎる車窓のひとつに あなたの暗い顔 今、どう暮らしているの スーツを着ていたわ 仕事かしら 別にどうでもいいんだけど 冷たい空気をふぅと吸い込む ああ 空へ吸われるような 青い商店街 オレンジをひとつ買って 茹だる人波に飛びこむ ---------------------------- [自由詩]明日の海には/瑞海[2016年4月10日22時16分] 明日の海には 溶けてしまう 希望や光は 海溝に沈み込んで もう帰らない 君がこのコミュニティの中で 過ごしてきた時間は もう戻らないし 違うコミュニティの中で 同じように過ごせば 淘汰されてゆくのだ 変われない を 変えなければいけない という試練 君は知らない土地で 死んだりするような 奴ではないだろうね 明日の海には 境目なく 私たちを蝕んでいる 闇が溶けている しかしながら 今感じられるということの 愛おしさを 海は帯びている 明日の海には 君はいない ---------------------------- [自由詩]朧の水/塔野夏子[2020年2月3日11時43分] 朧(おぼろ)の水が昏い季節を流れている 私は無邪気な罪の眠っている 揺籃をそっと揺すっている 無邪気な罪は 眠りながら微笑んでいる おそらくは 甘やかな赦しの夢でもみているのだろう 朧の水は昏い季節をただ流れ 何処へ行くのか? 昏い季節が薄れる処 その向こうにひらける黎明の銀の界へとか? わからない……ただ気づくと 無邪気な罪の眠る揺籃は ちいさな舟に変わっていて 私はそれを 朧の水の流れに そっと乗せて手を放す ---------------------------- (ファイルの終わり)