殿上 童のsalcoさんおすすめリスト 2013年9月19日23時59分から2014年12月19日23時45分まで ---------------------------- [自由詩]生活/salco[2013年9月19日23時59分] 「御用邸の月」という 那須のお土産を食べている おととい貰った 「萩の月」そっくりな 数多あるパクリもんだ 案の定カスタードが全然劣る 何で真似さえできないのだろう ウコッケイでも使ってるのかしらね本元は  コスト的にあり得ないな んじゃ法的に引っかかるんだわ そーよそーよ、きっとそう わざと、月並みな味に留める「工夫」? というか「追求の不熱心」 やっぱ「いい加減」って事に帰納するわな 萩にも月にもパテントがあるじゃなし 天皇家の方がパクられ放第で気の毒か それにつけても「博多通りもん」 思うさま食いてえ あれが駅前で買える福岡市民はラッキーだよな  でも太るか やっぱ都民でいいや ただ今宵 兼好もパソコンを閉じる月 御用邸で仰ぐのは更なり、だろう 名月とは言い難いが、冴えてはいる 今年も夏が去って行く バイバイ、かぐや ---------------------------- [自由詩]開口/salco[2013年9月25日23時33分] 休日の正午前、 あなたは図書館に向かう歩道を歩いています。 2メートルほど前にトロピカルピンクの半袖ポロシャツ、 ストレートジーンズの中肉中背、 22、3歳と思しき男性がふと立ち止まり 左脇に提げたオレンジ色のリュックサックを開くなり 「ウワ、ウワアーーッ!」 声を限りに叫び出しました。 一体どうしたのでしょう。 ? 弁当箱が燃えていた。 ? 500mlペットボトル大のなめくじが蠢いていた。 ? 母親の頭部が入っていた。 ? どこかのホテルで男を充電している恋人を見てしまった。 ? ラバウルの密林で餓死したと聞く曽祖父が手榴弾を投げて来た。 ? 主人の小人が中でリモコンの「激情」ボタンを押したから。 ? 中のゼロ気圧に吸い込まれそうになっている。 ? 同じ服の自分が血まみれで倒れているのを俯瞰している。 ? 後ろから来たあなたに襲われた。 ? 自分がそうして5年も前に死んだのだと気づいたから。 さて、正解はどれだと思いますか? では、 ? 弁当箱で自然または時限発火したおかずは何でしたか? ? あなたは巨大なめくじをメタファーとして捉えてしまいましたか? ? そんな母親の人柄と何者かに斬首されるに至った経緯を用意して下さい。 ? これは不正解。裏切りの衝撃は自尊心にフィードバックされ速やかに被害意識=自己正当化循環思考(憤懣)へと変性するので発声には及びません。 ? 見も知らぬ曾孫に向け享年26歳(数え)の曽祖父が最後の反撃に出た理由は? ? 我々がこうして靴屋の小人の戦闘ロボットでしかない事実を例証して下さい。 ? 閉じたリュックサックで爆発的な減圧が起きる原因は? ? あなたもこうした想念を一種の気散じや思い過ごしとして自動的に打ち消していますか? ? あなたが見ず知らずの人を襲った動機を教えて下さい。 ? すると2メートルほど後ろを歩いていたあなたとあなたの今とは一体? さて、あなたの想像力はどれだけロジックのバラストを引きずっていましたか? ---------------------------- [自由詩]パターナル/salco[2013年10月2日23時19分] 耳を塞いでよく聞きな 俺の生い立ちはこうだ 頭を巡らせてみると 格子の向こうに四角い光 その中からこっちを見ている一本の木 やっと首の据わった俺が ベビーベッドの中にいたというわけさ 何かを探していたのかな こっち側は沈んだように昏い まあ天井には飽き飽きだった 頬に空っぽの哺乳瓶が触れていた あるいはゴムの乳首が コンドームだったかもな 口蓋に貼り付くあのゴムの味 今でもありありと憶えている おまけにオムツが尻にべったり貼りついて はみ出た糞が前に回って干乾びて 脚の付け根までこびりついていたっけよ 誰も来やしねえ 嬰児ゼロから諦念まみれだったってわけだ 一度として王様であったためしがねえよ どうりで泣かねえガキだった 親父は大道芸人だったらしい 人垣の中で剣なんかを呑んでいたんだ 火吹きや鉄棒曲げもやってたが 何と言っても客受けするのは剣呑みだ ハイライトでありクライマックス 芸名はマックス倉井だったかもな      流れ流れて北の町   さびれた駅は風ばかり   街道はるかズリの赤山   栄えはいずこ人いずこ   流れる雲と去る時と   昔語りはせせらぎ葉ずれ   名残やしろの秋祭禮   小春日和の日曜日   影法師が笑った よそ者の汚辱に飢えた田舎もんを前に 偉丈夫の裸形に鹿革のふんどし その日も親父は興行していたんだが ゆんべ淫売にもらった毛ジラミが温もったか 耳の傍を季節外れなブヨが掠ったのかも知らねえ 剣を抜こうとしたその途端 脳髄に衝撃が走った 手が震えたんだか喉が締まったんだか 食道をぶった切っちまったのさ 地面と垂直の頑丈な首の中 突き抜けた切っ先は気管軟骨に触れていた 真上を向いた親父の目が忙しなく動いたのは 信じられねえ夢から醒める為じゃなく この致命的ヘマを何とかする手段を 青い空の何処かに探そうとしたからに他ならねえ ごぼごぼと溢れ来た血が下顎を塞ぎつつあった 何故なら気管支動脈もぶった切っちまい 飲み下す事も出来ねえし なるたけそおっと鼻で息をしても 空気も肺へ下りては行かねえ 刹那の狼狽が引っ張り出したのは単純至極 状況を元に戻すという、最も稚拙なセオリーだった 元の鞘に収めるってわけだ それで切れた血管が塞がるなんて甘い幻想が 大人の分別に働くわけはない だが体内に異物がある、 特にどえらい傷害の元凶が在るってのは 理性の利かねえ不快千万なんだろうよ これには大人も子供もありゃしねえ 畜生も人間もな 今生の覚悟で剣を引き抜いた その、一生に匹敵する一瞬 親父は空を見ていた ある晴れた日曜の ほんの些細なブレが取り返しのつかねえ失態となり 人生を切り裂いた一瞬の為の 頭を押さえられ冥途へまっさかさまの絶望におかまいなく 突き抜けるように真っ青な空を 剥き出しの胸にうららかな陽を受けながら だが親父は呻き声一つ洩らしやしなかった 声帯もぶった切っちまったもんで・・・! 剣の切っ先が輝きの弧を曳くと 盛大な血飛沫が噴出し 親父の顔や乾いた地面のそこいら中に降り注いだ 赤い噴水みてえに迸らせながら それでも窒息か失血のどっちが先に来るのか ずいぶん待たされたもんだ そうやって利き手に剣をぶら下げて 長らく突っ立っていたそうだぜ 死体になるまでな これが長い芸歴の一世一代 白眉の見世物だったってわけよ 唖然と観ていた田吾作どもは ぶっ倒れた血まみれの顔が瞬きせず 尚も口から溢れる血が仕掛けでないと 十全に見極めてから駆け寄った 取り巻いて見下ろす戦きは既にほくそ笑みだ 家に持ち帰り寄合の度に持ち出す 当座の語り草が手に入ったからな どこの爺さんが何で死んだの どこの倅がどう動いただのじゃねえ よそ者の汚辱ほど美味い肴はねえ 異能者の蹉跌ほどの見世物もな しかもさっき投げた銭 肘でも突き合や取り戻せる 麓の町から自転車で駐在が そのまた隣町からパトカーが追っつけて 男の骸を救急車で運んだが 特大の骨壺の引き取り手は現われずだ 旅から旅の芸人だからな 手繰れる女は使い捨て 所帯なんかに用はねえのさ それに英雄気取りを芸で済ますような奴は とうの昔に勘当されたか 顔も知らねえ親父の親父も同じだったのか 墓もねえから誰も知らねえ もし俺がその時息子だったなら 引き取って剥製にしてやったがな 高々と剣を引き抜いた姿 あっぱれな半死半生の立像だ 彫像じゃねえぜ 剥製だ ---------------------------- [自由詩]ぺピータ・ベーチョの或る日/salco[2013年10月7日23時20分] 猫がふと ベッドの上に端座して スピーカーから流れる フランソワーズ・アルディに耳を立て 神妙な顔で聴き入っている 「私の青春は去ってしまった…」 猫にもアンニュイがあるのだろうか 猫も回想に浸る事があるのだろうか この藤猫の鉄火ぶりに 南米風の名を付けていたけれど あんがい前世はフランスの お針子だったのかも知れない 近頃おずおずと 不本意ながらと言いたげに 私に甘えて来るからな ---------------------------- [自由詩]寄生体/salco[2013年10月10日23時20分] 見世物なんかにならないよ こっちが性に合ってる  ブランシュは言う 家柄がいいし 学もあるのでね 愛されて育ったのよ 悲しまれて育った これはね でもあたしの脚じゃない 姉さんなんだか妹なんだか どちらか言うと 妹って気がしないでもない 小さいし、動かないのに 別個に生きているのでね お客もさ こっちの方を気に入ったり 具合がいいんだってさ 主はあたしなのに 頭もないのに生意気に 商売はね 見世物なんかになりたくないし 毎日たくさんしたいから 淫乱じゃないよ 守銭奴でもない こっちが欲しがる 一人じゃ足りない双子だからね 何でも半分ずっこなんだ どちらか言うと あたしは考えごとが好き 見たり聞いたり 読んだり書いたり 思い返したり空想したり すると欲しがる あたしも欲しい あたしにも寄こせって 生きているのよ 楽しみたがる 頭もないのに生意気に ※ブランシュ … ブランシュ・デュマ ---------------------------- [自由詩]ジェロニモ/salco[2013年10月17日23時36分] ジェロニモは古い雑居ビルの二階にいる 逆立てた金髪の根元半分が黒い 豪壮なプリンあたまの ぶざまに鼻の長いこの青年は いつもどんより倦み疲れた顔で ほぼ毎日同じ電車でプラットフォームに吐き出され カットオフにヨレヨレのソックス ソールの反り上がったドタ靴で 私の二、三歩先を足早に行く まるで自分の置かれた領域には何一つ 楽しい事などなかったし これから足を運ぶ先々にも何一つ ないかのような顔つきで ぶ厚い革靴をだるそうに引きずる 足首はそれでも細く幼い 半分を黄金に染めた髪を彼は毎朝 ていねいに逆立てて固めるのだろう 出陣式然と 鏡に向けて顎を引き 額にしわ寄せ 自己存在の後光のごとき この精一杯な主張を組み立てるのだろう 客の襟足にも触らせてもらえず 床の毛屑を掃き集めて回るだけの ひとかけらの自負も持てない今ゆえに 突き刺さる悔しさ寂しさを不機嫌に隠した 誇り高き戦士ジェロニモは ぶざまに長い鼻の上 小さな一対の目にけれど時たま あどけないプライドと恥じらいがキラリと光る 社会という大工場のベルトコンベアーのエッジで 余人の与り知らぬその夢は 今にも破砕されてしまうかな 青くさい情熱や 生っちょろい義侠心を嗤ってへし折る鋳型の口に 幾度も幾度も呑み込まれ 分別くさいショートカットの 模範俗物が出来上がってしまうのかな ジェロニモがんばれ 我張れ我張れ 昂然と羽根かんむり振り立てて行け 白人どもの捕虜にはなるな ---------------------------- [自由詩]性教育庁唱歌/salco[2013年10月27日23時04分] 初等科之部  よいこはねとけ子守歌 ももたろうのおはなしと かぐやひめのおはなしと ねむれよいことねかされて ごっちゃになったゆめをみて ひとりでよなかにめがさめた ごとごとがたがたなんのおと それからきこえたママのこえ くるしそうにないている おにがむかえにきたのかな つきからたいじにきたのかな まっくらろうかをなきながら ママをたすけにいくよりも ひとりがこんなにこわいから たすけてほしくていくのかな ドアをそーっとあけたんだ あ、 パパがママをいじめてた はだかでプロレスしていたよ パパはおしりをふっていた ママのおっぱいゆれていた パパはうんうんいっていた ママはあーあーいっていた みたことのないかおしてた みたらいけないものをみた もっとこわくなったから ねむれねむれねむれぼく ママがきたらどうしよう もっともっとこわくなり ねむれねむれすぐにぼく パパがきたらどうしよう ねむれねむれどうかぼく あ、 あしたがきたらどうしよう 中等科之部  女子中学生のマーチ 電子を浴びて 今日も辻立つ 挙動のおじさん ポケットの手を ロケットに添え 激しく振って われらを迎える 下校の通学路 ああたぶんアルバイトかニート 部活がある日も(オカズ、オカズ) 部活がない日も(不潔、不潔) 校門外は成人るつぼ(ぴゅっぴゅー) 男子はYの字 黒板に書く 見たこともない 符牒にウケてる 子どもなのよね きたない実物 われらは見ている 下校の通学路 ああAとアイドル夢見てる 塾に行く日も(玉森、玉森) 塾がない日も(松潤、松潤) 時間外は幻滅ドツボ(ぴゅっぴゅー)  註・かっこ( )部はバックコーラス ---------------------------- [自由詩]黒船/salco[2013年10月31日23時13分] 帰宅早々インターフォンが鳴り え? 宅急便? 受話器を取ると 「とりっくおあとりーと!」 子供達の雄叫びが両耳に飛び込んで来た 驚いた かぼちゃランタンがそちこちに並ぶ時節 とうとうアクションが一般家庭に定着し始めたか それでも半信半疑でドアを開けると 五、六人の小学生が隣家の門にとりついている 「ちょっと待ってねー」 言い置いて台所に戻り テーブルのレジ袋は野菜と牛乳 電子レンジの上のスチール籠は コーンフレークの食べ残し たばこのおまけのフリスクと こんにゃくゼリーしかない 「ごめーん、こんなのしかない」 ピーチ味のこんにゃくゼリーを渡して  あ、ストッカーにキャンディーがあった 慌てて戻り 夏に買ったのど飴を 内心ガッカリな子達に配っておしまい 雪辱を誓う でも来年来てくれるかな ---------------------------- [自由詩]R /salco[2013年11月7日23時39分] 輝く雲の湧きあがる空の果て 若者の最期は誰にも見届けられない 彼は太陽をその目に捉えて 振り返った時には姿を消していたのだ 母は名を呼び続け 長の年月探し続けたが 父は真新しい墓へ参る度に十年ずつも年を取り 三年を待たなかった 彼には意味のない女達はみな あの逞しい腕の艶やかに整った筋肉 しなやかな指先に触れられるのを夢に見た 泳ぐような胸板の反射に目を細め 丸い下顎の先に見える形の良い鼻孔と 柔らかに澄んだ眼差しを 間近に仰ぐ憧れを抱いた すべては何処へ行ってしまったのか 土中で蝕まれ雨水に朽ち行くとは 誰も信じることができない そして若者の名さえ知りはしないのだ こうして時は過ぎてゆく 春の落命は花の葬列に流れるがいい 秋に帰らぬ者は俯く家族に風を囁く 冬はすぐそこに来ている 誰もが身をこごめ ゆるゆると歩いている まるで辺土の敗残兵のようだ 子供達だけが声を持つ 蝶の声 夏の死こそ幸いなれ 人はもうその姿さえ憶えていない 彼が何者であったかも忘れてしまった せめてあの息づかいを思い出そうと 鈍色の空に陽の幻を追い求めてみるが 己が足下の影にひきずられるように わずらい疲れた足を運ぶばかりだ ---------------------------- [自由詩]神は汝を赦し給う/salco[2013年11月11日23時39分]  主よ  わたしは今日も持てる者をそねんで  劣等感に苛まれてしまいました レックス・テックス君は祈るのだった  主よ  わたしは今日も愚かな人をあざけり  心で罵声を浴びせてしまいました レックス・テックス君は一心不乱に祈るのだった  主よ  わたしは今日も右手の善行を左脳に伝え  左手の悪癖を右脳に止めさせませんでした レックス・テックス君は一意専心と祈るのだった  主よ  わたしは今日も電車でお年寄りに席を譲るよう  敢えて眼前の屈強な男に提言しませんでした レックス・テックス君は一気呵成に祈るのだった  主よ  わたしは今日も人望なき身で御名をみだりに唱え  伝道したつもりになってしまいました レックス・テックス君は息も絶え絶え祈るのだった すると カーテンの蔭から出て来て神は言いました  我がしもべレキシーよ  お前は既に十分な罰を受けている  基督者の面汚しであるところの  いっかな進歩せぬその頭脳  晴眼であるのに狭窄の視野  自負と愚痴とをぐるぐるぐるぐる辿る思考回路  クッキーのカスしか出て来ぬクリエイティヴィティ  面を上げよ  なるほど人間アタマの進歩などせぬが良い  シンプルいずベストおぶざベスト  お前は赦されてある  見よ  いい年こいてそのザマは  もはや最後の審判後じゃ  すぐにも千年国家に来るがよいぞ  ただし聴け  お前などアウトおぶ眼中のニョショーを  チラ見しながら何がしかの営みを想い描く逆行性進化論的  つまりおサルな生活習慣は極力つつしむがよい  拙速とゆーより正にこれ姦淫じゃ  何せお前は健全な異教徒や  外道の男子ではないのじゃからしてな  なに  手淫をやめよとは言うておらん  これはもー  禁じ手がないのじゃからして  ただな  常づね言うとるように  一滴もこぼしてはならんぞ  幻の人口統計は手に享けて嚥下せよ  栄養学的には夜食にもなる  ティッシュはいかん  ありゃいかにも蕩尽の便宜  あまりにソドム及びゴモラ的  出物腫れ物パルプの浪費  エコじゃよ、エコ  資源節約は未来への礼節と心せよ  狭き門より入れ  日々それで一知半解を切り刻むのじゃ  これが信心の長きワインデぃんぐ道ぞ  お前ところで確か  字は習ったよな? そうして神の声は 今日もレックス・テックス君に聞こえないのでした ---------------------------- [自由詩]不感蒸泄/salco[2013年11月17日23時21分] 中天の直射を受け 干したばかりの洗濯物から モヤモヤと蒸気が立ち上る ハンガーも黒だから見える 太陽ってありがたい 十一月も頼もしい …待て これは皮膚にも… 三百六十五日 晴れた日は キャー!!! ---------------------------- [自由詩]さよならの刻/salco[2013年12月13日23時18分] にわか雨が去ると 真冬の風が通りみち 樹木も人も躰を震わす 「バーイ!」 「バァーイ!」 交差点の娘たち 無敵の若さにさざめいて もっと綺麗な明日に生きる ヒラヒラと手を振って ひとり素になり歩を早め バインダーを抱きしめて 行き先ふかすバスの横 めがねの小さな女の子 夕暮れはさよならの刻 『ばいばい』 『ばいばい』 背のランドセルはまだ軽く 暖かなすべてが家で待つのに 頬も膝も木枯らしに腫らし ヒラヒラと手を振っている なかよしと別離を惜しみ 明日またクラスで会えるのに 楽しかった今日に幾度も 路地の先は大きな夕陽 そのまた後ろは金のいにしえ 今日という過去も残照 「じゃねー」 「バイバーイ」 はにかんでチームメイトの母親に 歩道を持て余していた三年坊主 大通りの信号傍で別れたけれど 手を振らないんだ男の子って なのにヒラヒラ、白いてのひら 我が子でなくても見送っている 駆けて行く子が見えなくなるまで ヒラヒラ、ヒラヒラ、さようなら ---------------------------- [自由詩]散華/salco[2013年12月16日23時17分] あれは 花の散る音だよ 花びらの儚くはがれ 地に落ちる音 砂に擦れる骨片の 乾いた軋みのようだろう あれは 時の流れる音だよ 流砂のさらさら崩れ行く 風と波の造る音 私の体を通り抜け 遠ざかるだけの足音だ 手は振りほどかれて虚空を掴む 足はもつれて地に埋もれ 日に灼かれた眼も夜に沈む 風は止み 燈芯にたなびく薄煙 左様なら… これは  花の咲く音だよ おののく蕾が導かれ そっと天へとひらく音 すやすや眠るみどり児の 金の産毛の柔らかに かがやく頬のようだろう? 散華散華 一切皆苦 一竅虚通   散華散華 空手還郷 空亦復空 ---------------------------- [自由詩]拾参憑き姥(ぼ)の暦うた/salco[2014年1月4日23時27分] 苛性ソーダを鍋で煮る 知っておるやら何の日か 泡立つおはじき夢に見る わしの願掛け三隣亡(さんりんぼう) 睦月いち足すじゅうににち 黒丸しるす天赦日(てんしゃび)は ひがみねたみが吉を引く 素通りなれば追うて剥ぐ 如月数えてじゅうといち 馬鈴薯の芽刳りみじん切り ソラニン和えのおひたしを 羽振り見よかしの客人に 弥生とおかは寒ほどけ まなうらに黒檀色の糸を引く まぼろしの情夫(いろ)の肌(はだえ)に乳も張る しらじら喪主の白綸子 卯月ここぬか不実はあるじ 朝の鏡に削ぐ泡が 咲くよに染まる剃刀は 刃こぼれ仕込む妻のわざ 皐月やつれてはちにち目 裏庭ついばむ碁石の軍鶏(シャモ)が 蹴爪一閃青を裂き 繕いの手止め葉蘭の闇を聞く 水無月なぬかで拾参だ 梅雨が来ぬ間のキンポウゲ 夢枕ゲエトル解けば骨の見え 青梅のシアンの核も頼もしや 文月さかしまろくにちで びっこの小姑ご新造いじめ 癇癪持ちの似た者よしみ 黄縞の蜂に二度刺されませ 葉月いつかのイデオログ 意固地けちんぼ中風(ちゅうぶ)の舅 生け恥さらしが生き腐れ 〆さば中って下しませ 長月よっかは櫛の目に ぞろり抜け毛が秋(とき)報らす 懐くも否も継子の憎さ ぢごくへお遣りと曼珠沙華 神無みっかの富(十三)くじは 鬼門土塀にツキヨタケ 椎茸をよそおう裏黒みそ汁に 入れて夕餉に出してやろ 霜月ならばもうふつか 夜ざむに重ねる盃に 赤肌ぴりりの風呂立てて 動悸ほろ酔い血どろどろ 師走きたればついたちに 晴れて縁切り火を放つ 黄泉びと知らずの形見分け 通帳証券たずさえて くちべに尺骨肥後守 おんなは花売る卵売る 湯灌羽二重抱き人形 手ふだ切ふだ褪せぬ内 ---------------------------- [自由詩]サロメくん2/salco[2014年1月24日23時34分]  さっぱりわかりませんの  もう何が何だか とヘロデヤ 眉根を寄せて声をひそめる ご近所さんと同じくさっぱり 「いや? 何かフツーのお子さんでしたよ?」  母ひとり子ひとり  懸命に働いて懸命に育てたつもりの  何かがいけなかった  どこかで道を逸れた  気づかされたのは  殺された時だったんですもの  いいえ? 普通に育てて来ましたのよ? 本年のサロメくん十九歳 漕ぎ出せぬ自分を諦めたので 希薄な明日にアドベンチャーを圧縮する 未踏の極地へ至るなら2DKで充分だ 社会に出たって何がある? 社会は階層で「世界」じゃない 社会は構造体で「地平」はない 望ましい事など起きはしない あと四十年 出勤帰宅の往復以外に何か? 学歴とか就職とか軌道とか 均されて溶融する自己像だけ吹き込まれ たかが平凡をつまずく凡庸を「挫折」と修辞し たわけ仲間も作れず放浪もせず 女も追えず音を奏でもせず 愚母を蔑みながら温室を出る気概もなく 陸の孤島に汚れた領土を築く代わり ヒト雛型の記号論たる血だまりで 母なる元素を解体する (評論家曰く)  「これはひとつの死姦 なのですねぇ!」  ひとつの近親姦 ですねぇ! (好事家曰く)  「エド・ケンパーは生首にフェラさせたそうですぜ?」  権勢の追認ですね? (健やか有性生殖とハイキングの会主宰曰く)  「いや、あの子はソコまではイッちゃってません」  でも一線は越えたと (着付け教室講師曰く)  「通過儀礼ですわよねぇ親ごろしは青春の」  母さんのお肉は分別してごみ袋に (こぐま幼稚園ピーチーエー会長曰く)  「ホントに殺すのでは話が違いますっ!」  源流へ遡る笹舟にお乗せしバイバイするもの (浦島デイサービスセンター職員曰く)  「いえいえ違いませんよ、とっ捕まるトコ以外は」  唯一の郷里でありながら親は既なる廃墟なのデス (界隈のオバサンがた曰く)  「ンマ! 怖いわあ」  「ウチは心配ないわねサークルと飲み会とバイト先の女で」  「そりゃそーよォ!(Fランクじゃ挫折しようがないわよ)」  「アラお宅も安泰よ?(さぞやかし矢も跳ね返すその厚顔)」  そうでしょうとも、そうでしょうとも  でもよかったと思うんですよ とヘロデヤ  外でよそ様を でなくわたしが矛先で  とても残念ではありますけれど  その点は無念じゃありませんの とヘロデヤ 泣かせてくれる マグマの通路を塞がれた倅に こんな破滅を仕向けておいて  でもおかしいのじゃありません?  息子をサロメ呼ばわりするなんて  第一わたしがそそのかすとでも?  「わたしの首を所望しなさい」なんて とヘロデヤ そこですよ誠心誠意ニブいお母さん 逼塞の倅が女だったら少なくとも ああいう欲動には駆られなかった 殺意止まりか せいぜい刺殺どころで済んだハズ テストステロンは荒野に呼ばわる 柔らかな闇から炎心の奥から 嵐と波濤の轟きで呼ばわる  「イナゴは美味えぞおぉぉ!」 風はらむ大鷲の翼にみなぎる如く 攻撃と征服に餓え闘争と渉猟に駆る  「ヒ〜スクリ〜フ!」 男なら一度は勝ちに出たいもの そして一度ならず惨敗すべき者 なのに巣立ちどころか殻をさえ出ず それでも狩猟と制覇には餓えるわけで 早晩飽き足らなくなる オンラインゲームとオナニーではね  でもわたし母親ですよ? とヘロデヤ そう、まさにそんな仔の母体 座敷牢でしか衝かれ動けぬ主体になるべく 育まれた不甲斐ない男の十九歳は 肉親という客体を獲物と見なすに至る 骨の髄まで酸化した雌の成れの果て 老廃に浮腫み天ぷら油の匂いがする奴婢 あさましく非力な昼寝の母 こんな代物を通過儀礼に狩ろうというのだ この子宮破裂はお母さん 悲劇も被害者も死肉の側にはないですよ ヘロデはどこだ 家賃を払い給餌する母にぶら下がり 罵声を浴びせて巣立つ代わりに 現状打破を猟奇にすり替え メンドリさながら抱卵していたウラナリの父 世襲君主にして宗主国の傀儡 活路は領土の外にしかないのだと示すべき叔父 幕屋の支柱にして歴史の道化 有責奴隷ヘロデはどこ行った ---------------------------- [自由詩]我鬼窟主人と飢餓靴女/salco[2014年2月4日23時44分] 芥川龍之介とマリリン・モンローは    一、生母の狂気遺伝にぼんやり怯えていた  一、心身疲弊と神経症状に苛まれていた  一、常用眠剤プラスαで眠り死んだ 傑出の質量はあたかも 恒星の急激な収縮のごとく 往々にして悲劇的宿命を負うのだとすれば 天才とはやはり 芥川が執拗にのたまう「良心なき神経」 その感度と精度に違いなかった かくてドラゴンチャイルドは 特異な苦悩の罹患に至る 電柱に等しい同輩に対し  菊池寛、堀辰雄なんか誰が読む?  鈴木三重吉、宇野浩二 誰だそれ? 天才だけが時流の淘汰を残り 意義を示す その創造が おぞましい脳の隔絶によってのみ 生み出されるものであるならば 凡人の有り体こそは幸福の切符だ  実証なき自負に通行証の謙遜 凡人の浅薄と愚鈍こそ幸福の源だ 例えば女「性」イメージの傑物として 最もあまねく認知される女「優」 今世紀も引き続きシンボライズされ 無限再生されるマリリン・モンローは ショーやアインシュタイン 同時代の頭脳傑物と好んで対照され ジョークの常套とされるように 双璧をなす天才だったのだ 一時代の君臨を超える その造作は何故なら天賦ではなく 若干の外科工作とたゆまぬ工夫 あの下顎も色を重ねたリップラインも 流し目つけぼくろも あの時代にジョギングをしエクササイズし ベンチプレスまでしたのも 発声や歩き方同様の頭脳労作 リタ・ヘイワース亜流から抜きん出 ジーン・ハーロウ亜種から脱する為の 努力の賜物だったのだ 厄介者でなければ慰み物として 壊され続けた自己存在への承認と庇護を求め おっぱいの紡錘とありったけの嬌態を武器に 階段を駆け上がったノーマ・ジーンの それは転生と復権を求めた創造であり おっぱいと嬌態をしか認めぬ世界で 孤絶の錯乱に終わった戦いだった  三十六歳二か月 自作の虚像からも落伍して行った 惜しみない微笑の敗北 一方 貰われ寵児で頼られ病者 並はずれた知力が躍る大脳半球の痔主 透徹の自我も自滅に突き進む  三十五年と四か月 何しろ芥川龍之介が笑おうとすれば むごたらしい乱杭歯の展開であった ---------------------------- [自由詩]ひな/salco[2014年3月2日22時49分] 垂乳根の母がそうしてこわれたら 貌あおみどりにこわばって 幽鬼のように見えましょう 蛍光管は外しましょ こわれた母には濃い布(きれ)でなく 産着の色を着せたげます さきの事実は疾くに消え 七十年まえ残照(のこ)るのです こわれた母の手を包み 花咲くお庭へお連れして 背もたれ床几にケット敷き あらざる今を浴します こわれた母に赤ひも輪にし ふたりで綾とりいたしましょ こわれた母は童女です こわれた母はあなたの生んだ こわれた母が凍てた眼で 腹が空いたと言うでしょう ひなあられ薄い冷たい掌に 夢の淡雪あげましょね こわれて心許なく母しろく どんどん消えて行きました なごりの遠い日の光 小さなおほねに透かしましょ ---------------------------- [自由詩]春のおっぱいフェスティバル参加謹呈・其弐/salco[2014年3月16日23時57分] おっぱいの弾力が失せた女は信用できない        … 夭折の男根主義者(ダンコニスト)              セルゲイ・メンタイコスキー  ビッグ・ティッツ 海潮音の記号を火山の如く胸部に怒らせ 円錐下着を巻きつけて練り歩くゴッデス達 哺乳器としての受容器としての女人の思い出 安逸の蠱惑を微笑に湛え 揺籃として娼婦として 世界の男の脳裏に共有されるアイコン達 巨乳小悪魔、爆乳農耕馬としての映画女優達 短命美少女・柔軟玩弄物として あらかじめ褪せ萎み行く量産グラビアアイドル達 あるいは 不老を詰めるだけ袋詰めする謎の美人姉妹 CないしDカップ設定の中道ヤラレ女・アヴェマリア 後世やはり許されざる許され汚女・阿部定まり亜 なんと、無料なんでゴザイマス! おっぱいの時間でちゅよー、地球の紳士諸氏 てめえの母ちゃんとは似て非なる ババロア火山は円錐形でお願いします と フルスロットルで 信楽たぬきが白マグマ噴き上げております と ざけろ馬鹿野郎 円錐も三角錐も存在しねーんだよ どっちか言うとそらお前らの形状じゃねえの? クフ王の陵墓じゃあるめーし 女のは紡錘 しかもいびつにたわむ半球だ 第一お前ナニサマ? ショーメのトレイに御大尽の尺でもなし ツラ洗って出直して来い! ---------------------------- [自由詩]黴雨/salco[2014年6月30日22時51分] 日日(にちにち)を雑巾雨に打たれてる 一茎だけの蘭の花 百合より白い貌うつむけて お前も夢に見ているか さふらんのあの黄いろ 淡むらさきのさふらんは 遠く乾いた国に咲く 雨に溺れぬ土に咲く くれないの蕊秘すその黄いろ 太陽の笑い声/神々の旨寝 ---------------------------- [自由詩]ロッベン/salco[2014年7月29日23時15分] 今、ワールドカップに目を注いでいる 地球人の何パーセントが肯うだろうか なるほど彼は年相応だと 四年前は四十二、三というところ 何と二十六だった あり得んロッベン ファン・ペルシーと同い年 スナイデルとも同い年 さわやか長谷部と同い年 スーパー福笑い片山被告の二つ下 ベッカム(引退済)よりも上に見え バッジオ(引退経年済)と肩を並べて遜色なく ジーコ(監督業)の体とすげ替えても違和感ないだろう ジャパネットたかたの社長の方が若いと言えるほど 観戦の妻子が娘と孫に見えるほどだ タトゥー流行りのサッカー界で モンゴロイドに劣らぬ無地肌 モヒカンアレンジ賑わうピッチで うっすら産毛のビリケンあたま いや頭頂の尖りは骨モヒカンか いや髪の毛自体がそぐわぬ男 オランダ波平ここにあり どんな苦労をして来たのだ 二歳で新聞配達 五歳になると炭鉱で働き 七つの冬だけシンシナティで大工見習い(何故だろう) 十でとうとう一家は離散 十二の時には港湾労働、ついでにグレて夜は地回り 十四でやっとユース入りして裏稼業から足を洗った そんな顔だ そんな経歴かぶせてごめんね しゃにむにボールを追いかける 競り負けないロッベンロッベン 時速三十七キロなのだと 齢(アジ) 三十(トランタン) あり得んロッベン そんじょそこらの犬より速く そんじょそこらの猫より遅い こんな尺度で語れば俄然ビミョーな感じだが 人類けっこう鈍足なのだ だから新幹線など造るわけだ ウサイン・ボルトも三百メートルは走れない だからリニア技術に浮かれちゃうわけ ボールをキープのロッベンロッベン 誰にも渡さんオラんだオラんだ ボールを奪いにしつこくロッベン こっちに寄越せオラんだオラんだ オラオラオラオラ〜 一路ゴールにブッ込んで行く その御姿は リーダーシップとキャプテンシーは別物なのだと (主将はファン・ペルシーなのだ) 牽引力と統率力は別物なのだと教えてくれる (両方メッシに担わせる愚はアルゼンチンの病だろう) 斬込み隊長つーよりキレキレ伍長 そんなゴリラ気いや男気溢れるザトペック走法を見せながら フリーキックもコーナーキックもイケちゃう繊細力 (だから中田や本田を批判する愚の骨頂は日本のビョーキ) その上スローインまで請負つちまふオフクロ気質 嗚呼それでも そんな全霊のプレイスタイルを以てしても 全身の全容が無骨愚直の体現男 たといあの目が当然ながら蒙古襞を持たずとも 私には岩田八郎。とかがより相応しい 着流しと東映マークで健さん二代目を いや、時は明治の舞台は小倉 アングロ無法松。と私は呼びたい 半纏腹掛・股引ぢか足袋コーデがこれほどハマる西洋人もまた居るまい 胴間声恫喝芸のミフネなんぞよりよほど そんな男ロッベンが泣くのを見たい そんな気もした 四年後は遠い 生涯一ロッベンを嬉し涙で飾ってやりたい が私の悲願はドイツ優勝 カール・ハインツ・ルムメニゲ以来 ごめんねロッベン ---------------------------- [自由詩]誰そ/salco[2014年8月23日22時29分] 明けにヒグラシが啼く カナカナカナ…  そそっかしい奴 夏の薄明は薄暮に似て あの個体は感知できないのか 明けは涼しく暮れは蒸すのに カカカカカカ… ほら、また啼いている 確かに夜明け、優美な東雲 目覚まし時計は5時を指して 街は清らかに眠っている  でも鏡越しなら? 明るいのは西、文字盤は7時 車が自転車が通り抜け 行き交う靴音も人声も覚えず 人の目玉もしばしば 鏡を嵌めた窓のようなもの 視力と恣意の主が棲む カナカカカカカカ… セミの感覚器が正しく 現実は午後7時なのに 私の狂気が逆さに読む 作り変えられた世界 思念は最強の現実味を帯び 世界が或いは裏返っている カナカナカナカカ… 明けにヒグラシ啼く時は ひょっとして、未去過来 亡い者達が在り帰る 土地の来歴、生滅の堆積  ほら、廊下が軋んだ ---------------------------- [自由詩]台風とじいちゃん/salco[2014年9月22日23時31分]  第1部 じいちゃんと台風 ウロウロし出す そっとウキウキ ほんとはウハウハ 活性化するじいちゃん こめかみファルスを膨らませ 『備えあれ』 コレステ憂いの血が騒ぐ ロンサム・ジョージに似た頸の 突き出たアポーが上下する 北上するエナジー 地球の自転エナジーが 衰微の繭に魔を差すそれは ゴッデスハンドにマストビー ヘクトパスカル吸引に 枯れた男が目を覚ます  消息不明の大黒柱も   又セピアの国の野球部員 しずかな湖畔の森の時差から 小節遅れで鎌首もたげる メガ左巻きの渦が発する 熱帯雨林のアロマのお誘い しなびた男がシャッキリと   行方知れずはハッキリと   褪せた部員モッコリと ゾンビにみなぎるヒロイズム HシガリマセンKツマデハ 早寝早起き隣組 受精の神秘がずれ込んで 丙種予備役・国防婦人の恥かき子 生まれて後は灯火管制、防空壕 戦中のハイを知らずに空襲だけされ 終戦を知る由もなく飢えだけ味わい 離乳食から芋の蔓 骨格まずしく肌粗く、血管もろく洟青く 出征して行くGIの神武景気を黎明に 年功序列イザナギに春をひさいだアドレナリン 列島改造、GNP、夏をひさいで脂肪肝 窓際で住宅ローンに秋をひさいだヘモグロビン お役目どーも苦労さん、大氷河期の前立腺 悠悠自適の意気消沈、ばあちゃん没後の老い亢進 行き場失くした自己像の憧れワープ身の置きどころ そんなこんなが甦る 俄然コソコソ甦る 「ちょっとおじいちゃん、どこ行くの」 「…えぇ?」 「またそんなの着て。外出ちゃだめよ!」 「いや、ちょっとな」 「またかい親父。やめなさいよ」 「いや、これをな」 「はがきなんか明日でいいだろう」 「そうよおじいちゃん、やめてちょうだい」 去年もまとった雨合羽(フルメタル) 明日じゃ遅い 用水路を見に行きたい できればビニールハウスもだ 農家じゃないのにじいちゃんは 守る物など1こもないのに 非常事態のこの際に 押し問答を押し切りたい せめて川を見に行きたい ほんとは海まで行きたいが 市街地住まいのじいちゃんは 家業も家督も持たぬ身で 英雄行為をたしなみに 家族の絆を振り切りたい じいちゃん余生は意味ないか だから今さら生き急ぐのか 棺桶に片足とられた今日を捨て 悪臭と褥瘡まみれの明日をも捨てて Pテカントロプス・ペキネン死ス 去年はボートで帰還した 屈強な消防隊を従えて そして家族の涙に迎えられ グッタリしたり顔だった 『これが狙いだったのか!』 ホモ・サPエンスはサスPシャス おやじおふくろねえちゃんは おれもその時思ったさ だが違う それは結果論だと後で気づいた 原付をヤフオクに捨て 半年のバイトをZ250に捧げるクリスマス 男だからな、靴より旅だ 女は神棚、風が先決 正月の初ツーリングで中央高速 勝沼インター過ぎてから白いセレナが煽って来た ファミリーカーひとりぼっちがオシャレすぎるぜソシオパス 群馬ナンバーよそ行きフリースが目のあたりにする神話の域だな 寒がりの分際で年の初めにライダーいびりとは、白癬菌にも程がある キンタマ泣かせの称号に免じて道を譲ってやるか おれが? 路面が半透明に近づいて行く 心臓が口から出そうな快感と両肩にのしかかる恐怖 脳裏でピコピコ一発免停 この三位一体昇天ゾーンを爆走しながら ふと あれはじいちゃんの賭けだったのだ 濁流に軽トラが半身浴の坂下で 足を取られてガードレールにしがみつき じいちゃんはおのれを秤にかけていたのだと 運の尽きと生命力とを 男は最後の賭けに出る いや いつだって最後の賭けに出るのが男だ その時はイチかバチかで全部張る ギャンブルは日常の安泰を担保にする「挑み」だ By寺山 全財産や命を御釈迦に献じてナンボだぜ 「バッカじゃん?」 ねえちゃんにはわからんさ スイーツブッフェと体重計に一喜一憂 毎日ツラに塗り絵で田園調布を夢見てる 女どもにはわかんねえ 死とのダンスが生のロマンだ 「お前ほんとに、ただのバカ」 ねえちゃんよ、残念だ 男がほんとにただのバカじゃない場合 プライド高いブスのあんた リアル死神に、これから先も彼氏はできんぜ 同期の桜と葉桜もなく 団塊の安保闘争インポ郷愁にはオーバーエイジ 少国民の自覚もなかった世代の呼び名は何だ? 往年の企業戦士を結んでいたのは企業のプライド 組織図と業績至上の一丸達成、団体交渉 取引先の尻拭い、上司の悪口、今日の愚痴 あとは個人の利害だけ あいつの出世に左遷の噂、題目だけの労働組合 家族の今と将来設計、福利厚生冠婚葬祭 なあじいちゃん、 同窓会には行くもんな チームメイトの葬式と 渦巻く暗雲、横なぐりの雨 同行一人この地球上 ガチで何かと対峙したい 老い先みじかいパッションは しおれた筋力、手薄な骨密度を供に かすんだ視力と濁った判断力を武器に 若干の内科所見も振り捨てて 関節と軟骨の軋みが嫌がるのも聞かず 身を投じるのだ冷や水へ ドン・キホーテの奔流へ! 黒の合羽が押し戻される よろよろと電信柱へ手を伸ばす 逆巻く風と叩きつける雨の中 おれはベランダで声を限りに  じいっちゃあーん!    ガンバレエッ! この雨風とあの聴力じゃ聞こえはしまい そして誰にも見えはしない、飛沫が洗うこの泪 の裏の教えたくない後ろ暗さも、おれは絶対忘れまい ついて行ってやりたいが いや、最低限ついて行くべきだが 目下のバイクだけじゃなく やりたい行きたい知りたい次元が 知りたくもない事さえ山と待つわけで ごめんなじいちゃん  じいっちゃあーーー あ。  第2部 じいちゃんと「この道」 ちょっと早すぎだろー 空気読めてねえな だな、おやじには守る責任がある すんなり引き剥がされた 抱えられて戻って来る じいちゃん、情けなく思っているかな 自己嫌悪でまた老いぼれたらどうするよ その辺考えてねえからなクソおやじ おれが何げにフォローしてやらないと じいちゃん、 台風はまた来るさ❤ 部屋に引き揚げようとして 門を入ったおやじと目が遭い 咎めの恥が胸に刺さった 脱ぐも惨めな水びたしを蹴り上げ 屑かごストンプしてイスを蹴り倒し 枕を叩っ殺して引っぺがしたシーツで体を拭いた 着替えてじんわり温まって来ると ちょっと違う気もして来て。 こっちを見上げたあの顔の 心の中なんかわかりっこねえから 高みの見物を決め込んでいた息子のおれを チラ見した目の奥にあるキャラという前提 人物性を手がかりに バックグラウンドから意図を推測してみる うっすーい近景の折々 反応体でしかないおやじの姿から遡り おれが幼稚園や小学生の頃いた沢山のデイリーな と同時にイヴェントの主催者、中心であり化身でさえあった表情 忘れていたエピソードの多彩な音声、大きな温もりの反照 そしておれが知る以前のおやじから一青年を想った時 速攻で誰も知らない一少年に辿り着く 全き一本の線 そこにさっきのおやじを重ねてみると 沈黙の外皮と鈍重な体積の下 細いが分岐もよじれもなく繋がっている それは内なる時空をつらぬく軸 多分、命脈と呼ばれているものだ そう、おやじもわかっている 自分が通り、息子が通る じいちゃんが戻ろうとした道のこと 魂をつらぬく一本の 男道。 ぐおお… じいちゃん、、、 よかったな ♪この道はいつか来た道  ああ、そうだゾウさん  長さよりも太さとテクだよ そうだ、  第3部 じいちゃんと旅 連れて行こう 手始めは箱根かな、温泉あるし 秋は日光もいい あ、いろは坂ヤバすぎ 遠心力かかるしバックレストねえし 老人福祉の観点的には虐待に近いかも。 まー理想ハーレーでサイドカーだけどなー! なこと言ってたらとっくに故人だし。 近場でいっか 近場ってどこよ 奥多摩? だせーな小学生の遠足じゃあるまいし 相模湖? 何かあるか?ラブホとゴルフ場以外に 湘南方面はタブーだろー、オサレだし親不孝のメッカだし まーいいや、明日から練習だ いや路面が乾いてから しかし絵ヅラきめえよな ケツにジジイの状況以前に 酔狂がまず世間的にありえねーよなあー 映画とか通俗小説にもないだろ? それはつまり、設定心理として陳腐すぎるからだろう コントか。………ドランクドラゴン? 塚地と鈴木拓ねえ カタルシスあるか?この笑いに 第一落としドコロねえべや、ステージじゃなくて公道だもん これは、じいちゃんの体力以前におれの羞恥心が試されるわけだ どうかな。 うーん…… いや、 まー、 ままままままま、まあ まーいちおう話だけはしてみると んで、もし話に乗ってきた場合 話し方に十分注意しても万が一、乗り気になっちゃった場合 何とかはぐらかしてもマジで乗せなきゃなんなくなった場合はだ どうする メットは自己負担だよな最低限 いや、おれの心の準備をどうするかだ ---------------------------- [自由詩]キャベツ学舎/salco[2014年10月1日23時49分] 手渡され キャベツを剥いている 一つが終わるとまた一つ 終日キャベツを剥いている 来る日も来る日も剥いている 甘ったるい青臭さ 葉をもぐ音は眠気を誘う 額に縦皺や青筋を浮かべ 倦みながら慣れ切った人 またも芯の際でしくじり 破けた葉に涙ぐむ人 ため息と独り言を交互に 苛立ちを吐き散らす人 手の痛みに耐えかね 脚の浮腫みを訴え 目眩を覚え そうこうする内 椅子を蹴倒し作業を放棄する人 我慢の末に気がおかしくなる人 ついと席を立って戻って来ぬ人 罰則はない 規定があるだけ 褒美はない キャベツがあるだけ 何の為に 何の為でもなく 誰の所為でも 誰の為になるわけでもない そんな事はわかっている キャベツを剥くだけ 足元に葉が重なって行く 重なって山になり堆くなる 下から溶けて腐り始める 粘膜を突く臭気が喉を逆流する 嘔吐する人 わめき出す人 くずおれる人 慣れ切った人 手渡され 終日キャベツを剥いている 一つが終わるとまた一つ 来る日も来る日も剥いている ---------------------------- [自由詩]ナマズ/salco[2014年10月15日23時00分] 海底が隆起し水位が下がって エベレスト界隈が空中に生えた頃 ナマズは汽水に放り込まれて 激烈な減圧に体を硬くしていた それから雨が際限なく降り 雷鳴をも呑むほどの洪水が引いた頃 ナマズはでっかい水たまりに取り残され 淡水の浸透圧に膨れ上がっていた 今度は晴天が続いて蒸発を重ね 雲に届かぬ水たまりはドロドロに濁った ナマズは泥を飲んでは濾し出す労苦を重ね 馴れた頃には鱗と目玉が退化していた 彼ほど翻弄された者はなく 同時に適応者もいない 体を覆うヌメリは真水の侵入を防ぎ 弱視のぶん敏くなって第六感が生えた ピーンと来るんだ、ピーンとね 沼底は真っ暗で泥まみれだが 女(おナ)マズどもが血迷う時は秋波が届く そんな時ナマズは、おい 俺は何でもお見通しだぜと発信する 地球がまた貧乏揺すりをしそうな時は ヒゲの根元がムズムズ張るのだ そんな時ナマズは、おや 大変だ隠れなきゃと尻を振って慌てる ナマズは予知に長けるのみならず 経験を貯め込んで定義を引き出すことができる してみると俺様は大したバロメーターだな 変動と伝導をものする碩学といったところだ だがナマズは知らず 水面を滑る風のことを 光に踊る影のこと 足の生えたナマズがいることも 陸上が沼より広くて水中より多彩なことを 翼の生えたナマズが泳ぐ空があり それが高く深く無窮に続いていること 直立二足ナマズが無聊を放つ明滅の点在も それどころか月と太陽の見分けもつかず 悲観は勿論、一死で絶えぬ危惧も知らない いつもの兆しを感知した時 ナマズは岩陰にひそんで安穏としていた 流体である水中にさしたる毀損はない筈だ だが降り注いだナニガシのこと 塵埃や泥濘と流入し沈殿し堆積し浮遊し 飲み食いごとに貯め込む変異と崩壊も ---------------------------- [自由詩]大人の国/salco[2014年10月25日23時14分] 待ちに待った夜が来て 冷たい風が触れ回る 枯葉を転がし踊り出す カリアッハ・ベーラ(冬女王)の布告だよぅ ゥゥゥウウー カラカラカラ… 南の御座にはケリドウェン(冥府魔女) 出でよ、かわいいお化けたち! 知らしめ脅かし、せしめておやり でもお急ぎよ、遅くなる 月影は翳を照らさない 裏側も、下 奥 すき間 洞と穴 ほんとのお化けが出るかもよ 魔物 幽霊 殺人鬼、金欠亡者 変質者 悪い大人が出るかもよ 寄り道したらいけないよ 山盛りお菓子の待つ家が 明かりを燈している内に 宴はどんどん冷えてって しじまの底にひそまるよ あんまり遅くに来る子には たとえお菓子があまっても おつき合いはできないね おふろに入るしゴハンを食べて 宿題やったらカバンに入れて 大人だって寝てしまう 夜はまだまだ長いけど 大人の明日は仕事があるし 生きてる子には夢まで叶う お手製の三角帽子をかぶったり 百均の断熱シートをはおったり 思い思いの仮装を凝らし 住宅街を行くこだま 「お菓子くれなきゃ     いたずらするぞ!」 なりたて大人やなりかけは おめかし入れてネオンの方へ ハンズで買ったりネットで見たり 土日ミシンで縫い上げたのを 駅のトイレで着替えたり 度胆抜くより羽目を外しに 下心なしのお化けらに 便乗したくせ離れて行くね 大きくなっては仕方がないさ はしゃぎたいのは大人も同じ だのに外しが過ぎて悔んだり 「お菓子くれなきゃ     いたずらするぞ!」 練り歩く子らの後ろには 離れてひとり普段の子 遅れまいとついて行く 風にはためく薄物の みっともないほど汚れたなりで ひときわ蒼い顔をして 呼ばわるでなく泣きもせず 先行く子らは知らん顔 気のつく大人も見咎めない 散歩の犬さえ嗅ぎつけない そこにいないからだろう いつぞや夏に殺されて どこぞの林に埋もれてるのさ さあさあ!そろそろ遅くなる 招かれざる者専用の いつものこわい世が迫る もらった子らには戻る頃合い 大人も戸締まり店じまい だから今年も二叉路にひとり どこかわからず立っている 呼ばわるでなく泣きもせず 国の時計の針はどれも ひとえに天を指すのに誰も 探してないし連れてかない ケリドウェンも寝屋へ行き 人っ子ひとり通らなくなり 帰りたいのにわからない 親に殺されたのだから! ---------------------------- [自由詩]ドギーの午後GO/salco[2014年11月3日21時32分] わん、わんわん!おい、そこの! きさま男か? 嗅いだ事ねえ野郎だな どこのどいつだ、え? いっぱしのメンチ切りかよ上等じゃねえの ここらはぜんぶ俺のショバだからなァハァハァ そこに小便したらタダじゃおかねえぞあ! しやがったなこの野郎 許さねえ 許さねえぞコラ、戻って来やがれ!  おい! おーい ちくしょう、飛び出して行って匂い嗅ぎたいなあ そしたら一発でケリがつくのに ケリがどうだって俺の栄光が上塗りだ こんな紐さえなければなあ! アフ、アフ、アフ! いっぺん牙も試したいもんだ ガッシと首に食いついてブンブン振り回してやる ぺディグリーチャムは歯応えないからなぁ、好きだけど すんげー好きなのにアッという間にカラッポなんだ いっぺんおかわり出ないかなあ! あんあん!いいなあ ボクも早く戸外活動に行きたいよお! ご主人は何をしやがっていらっしゃるんだろう ちびりそうだよ 朝からずーっと、全部ためて我慢してるんだ 破裂しそうだよ 好きな時に小便も出せないとはなあ! こんな不幸があるか?ないよ 小便と糞ではちきれそうなんだぞ? 存分に出して回りたいよ 遠くの遠くの遠くまで出し尽くしたい 渇望と小便と糞なんだ それがだめならいつもの所でも 自由が許されないなら せめて歩きたいよぉぉぉぉおぅうん 譲歩と渇望と歩行だ 違う!つべこべ言わずに早く出したいぃ 渇望と小便と糞 あっ、メシもだ 山盛りのメシ それからりんごちょうだい、するだろ 違う、ガムも噛みたい、歯がゆい! ガムとりんごとメシだ メシとボールとお人形 違う!ボールの後はミルク飲むだろ! ボールとミルクとお人形っ! お人形と毛布と、ううう 小便小便小便したい 違う、糞もだ さて次はあの石柱だ さあ若頭ちょっと急いで いえ、あの、小走りしたいんで あの、つまりあの柱まで すぐそこですから、お願いします 走らせてやって下さいよ、いてて! そんなに引っ張らないで下さい、首が絞まっちゃいますから 一日二回しか出られないあっしの身にもなって下さいよ それもあなたさまがたの都合次第 雨の日なんか一日つながれているんですよ? 長い長い何もなしをずっと小屋に座って このひと時をひたすらに待ちわびているんですからさぁ ふんふん、こないだ嗅いだ草だ 土はどこだ? 土堀りたいねえ! 鼻ツッコんで掘り掘り、掘り掘り掘り掘り 掘りまくって転げ回るんだズリズリ、ズリズリ ズたた! はいそうします、どうぞお仕置きはしないで下さい またそんな あなたさまが「チッ」と舌打ちした音でビクッとしちゃいます 敏感で多動、好奇心と条件反射のかたまりだもんですから ええ、素地で素行、素質と素養 だめ! 止まれ! そうそう、早く早く ああ楽ちん、やっぱり空中移動に限るわ でも臭いのよね、この女 鼻が曲がるわ、頭まで痛くなる こんな毒ガス年がら年じゅうプープー吹きかけてさ、愚鈍の極みよ だから口あけてるのあたし バテたから口呼吸で舌だしてるのと違いますから、言っとくけど あたしは我慢に我慢をかさねているのよ毎日 こんなの着せられてさ、脱げないんだから 夏は熱くなって息ぐるしいは、クラクラして来るは 今だってチクチクするのよ毛に当たって 当たった毛がモゾモゾ動いて刺さって来るのよ! このバカ女、降ろしてちょうだい あんたってほんとに意地悪で不愉快よ、降ろして! まったく、ばっちい地面の匂いの方がずっといい どうして群れから追放しないのかしら お給仕と外出のお供なんか、ほかの者でもいいはずよ? シャンプーだって毛づくろい女の方が上手だし、臭くないし 注射怪人の監獄に入れられた時だって、女看守の世話を受けたわ あたし何も悪い事してないわよ、言っとくけど よっぽど何か事情があるのね、冷遇したら咬み切られるとかさ 注射怪人に謀ってあたしと同じ目に遭わせるとか! お気の毒なパパさま、かわいそうなあたし! 胸が痛いわ、帰ってきたら慰めてあげないとパパさま、大好き 世界一えらくて強いのよ、あの靴下の匂い! 足ゆびの匂い! もーたまんない、うっとりしちゃう ちょっとバカ女、帰るわよ 抱っこしなさい もう折り返しの匂いじゃないか? 何て事だ、ああ慈悲深い母上 すがる気持を涙目に籠めて見上げておりますのに! もう少し、ほら、あの角を 例えば今日は曲がってみましょうよ 絶対いい事があるような、そんな気が ね、あっちに行って閲してみましょう ヒッ! はいはい、そっちですね?はいはいはい あーあ、今日は女子に会えないのかなぁ あのすてきな匂い!  思い出すなぁジュリエット、深窓のセクシーダイナマイト 忽然と消えた君、今頃はどこで何を? ただ一度の逢瀬、あれは秋だった 犬広場の千載一遇 新入りのまごつきを突いた一閃の脱走劇 まっしぐらに走ったんだ、甘やかな君の元へ 翌朝から順路を変えられ、あれは春だった タマの疼きに目覚めると、首から下が塞がれていた やっと妙な覆いが外されると、タマが無かった そしてなつかしい道を赦された冬 朝霜の生垣に優しい吻の匂いをかすかに残して ああ、犬恋しいとはこの事だよなあ… 俺はやった事がねえ しょっちゅう萌えてる気もするが、何せハッハッ はけ口がねえよな、はけ口が はけ口って何だ?  あー、コレのアレでもってソレか どんなもんだろうね どんな感じ? 大体のところ 少なくとも五、六回以上は冬を越したと思うが 一度もやってねえとはな、うかつなのか不運なのか 情けねえ情けねえ、あーあ情けねえ 初老の童貞ってか、笑えるよな いや笑い事じゃねえよ って事は、……………え? ええっ、このままずっとそうなのか?  いや、考えたくもないね そう、考えまい 何より重要なのは、今この時 運動性版図確認業務だ、ハッハッ、ハッハッ おっ???  何だ、なまくらか いけすかない種族だよ、陰険な目つき 小者のくせに愛想なし、何かと見下しやがって ああいう尊大な無表情って、ヒト的にはどうなのかね 表情と抑揚の錯綜で集団秩序を保つヒト族としてだ おざなりと欠伸しか返さねえ腹黒の冷血漢と? 解せないねえー、俺にはそういう屈折交流 えっ? もう家の前ですかい? ええええっ! ---------------------------- [自由詩]アワビさん エボラさん/salco[2014年11月10日23時29分] オープニングテーマ アワビさん           作詞 林春生 作曲 筒見恭平           補作詞 囃猿尾           歌 右野土佐乃 子どもがハマったドラクエ取りあげて 自分はスマホに夢中のアワビさん みんなもハマってる 繋軽(つながる)にかまってる るるるるるっるー 今日も能天気 カードでブランド、ボーテに自己投資 便利にかさんでリボですアワビさん 金利を払ってる 延々とかさんでる るるるるるっるー ゴールは破産危機 モテ期のミラージュ血肉にくすぶらせ 鏡が「過去です。」四十路のアワビさん 見た目が崩れてる メンタルも下がってる るるるるるっるー そうよ更年期 アルツの徘マー兄貴に押しつけて 『嫁いだ身だもの、』いい気なアワビさん 兄嫁は疲れてる 最近は寝込んでる るるるるるっるー ノー相続放棄 エンディング・テーマ  エボラ産惨禍           作詞 林春生 作曲 筒見恭平           補作詞 ニッキー・ハーロウ           歌 ドストレス・ウノ あたくしフィロのエボラでございます、どうぞよろしく ふとどきなウイルスでございます おそろしいことで ゲッチャ! まず免疫細胞に侵入します 人道支援の 篤志家が 人道行為で 感染源 とても皮相な バイオハザード・エピデミック 入れてちょんまげ、樹状細胞 何だサザエか、お入りちょんまげ マクロファージのレセプター? ちゃーんと開いてますよ 単核は? は、はいはい、お帰りなさい 変んんっ身っ! RNAびよよよーん! とっとと遺伝子読み取ってちょんまげ ラジャー! エボラボラ 細胞乗っ取って コピペさせ 殖えてく エイリアンより賢いな もうこいつらエボラ工場よ はーい、鋭意操業中でえーす! 知能で乗り切る 地球人 ウイルスも一緒 生き延びたい 増えよ栄えよ 宿主使い大移動 さあ、出してちょんまげ、単核? あっ、行ってらっしゃいご主人様がた マクロファージ! はいはい、血液と血管をぶち殺します つぎ、臓器に行ってみよー! もう壊してるよぉー! 樹状細胞もすっかりアホに ZZZZZ… 筋組織も制圧! エボラボラ 汗出せ反吐し尿 唾、鼻水 涙も エボラ船団エクソダス そろそろ出るわよ 手狭になっちゃった 製薬会社は フル稼働 需要と成長 皮算用 派遣検討 日本政府の危機管理 さあ、外に出たわ、船出よー こいつ死んじゃうわよ、だれか触って、触って よっしゃ、新大陸に上陸 インベーダーですよぅ〜、免疫ちゃんカモーン 何だサザエか、お入りちょんまげ 変んんっ身っ! あれ?コピペは? あたくしフジのアビガンでございます、どうぞよろしく やだー、死活問題じゃん はい、無力なまま死んで下さい CQCQ、こちら樹状、出動願います あああああ、T細胞来たあああ! こいつ感染してるぜ、やっちまいな! ボカスカボカスカ エボラボラ ウイルス扱える レベル4 施設は 住民エゴでゼロなのよ ---------------------------- [自由詩]昭和残響伝/salco[2014年11月26日23時33分] 健さん 坊やには雪駄が要るのでしたよ とうに廃れた503 そんなものをいまだ穿き 巨乳のアルビノを抱きたがるくせ 面やつれのお杏さんを探している かほどに行き暮れているのは 待ちあぐねるのでなく 赴く為に生まれ来たのでありますから 懐のドス棄てられずじりじりと こわれ眼鏡の弦をかけて眺めている 鉄骨とコンクリートで整理整頓された故国(くに) 荒漠に血の暖を欲しがる そんな坊やが生き抜く地平は 焼土に恐らく大東亜の戦 七十年も遅刻したうえ益体もない健康体にて 一升瓶抱く傷痍乞食のていたらく 黄金バットに焦がれた身なれば 今日も事なしと山の向うに落日見遣るのは 胸抉る紙芝居の終章じゃありませんか それなら男の血潮はいずこへ撒けば好いでしょう しとど夜垂(ヨダレ)のカップホールで眠るとでも? 健さん ハズれながらに道も踏み外せぬ男ではあります ナルヲのくせにしみったれ 大口叩きの根性セコく 宝くじなぞ買う俚俗でもなし 困ったものです 坊やには 己が血を吸う雪駄が要るのでしたよ 散りぬるをわか花の下 瞠目のまま無残な敗者で別れたいのです 教えてやっては下さいませぬか 義とは忍辱、踏みとどまって男だと そのかみ 義を身ごもった男がおり ---------------------------- [自由詩]スプーン/salco[2014年12月4日23時38分]  冬 誰もが道行く姿に目をみはった くすんだ家並の下町 それは何よりも奇異に映えた 女は山の手の私立病院に通う 病人ではない、看護師で 給料とボーナスを貯めて八年 恋人のひとりも作らず 遊びの誘いにも乗らず 年に一度の帰省もせず ある意味病人かも知れない 全額を引き出された行員は何故か 平静の下に的外れな憤怒をひた隠した まるで捨てられた男みたいに そして拾われた女みたいに 店員は思わぬ上客にひれ伏し 裏では即金での支払いを 会計係が三人がかりで鑑定した 売り場責任者の心からの追笑 ゼロの並んだ領収書 こうして女は軽やかな重み ロシアンセーブルを手に入れた 食事もせずに部屋へ帰ると 箱を開いて鏡の前へ  今後のご予定は?  かぼちゃの馬車でパーティーへ? 金持ちの十分間に八年も費やしたのだ 見合う宝石も服も靴も無く こうして女は鏡の前で踊る パートナーもシャンパンも無く ラジオは管弦楽団 リノリウムが大理石になる 愛おしい宝もの まちがいなく自分より大事な同居者 ハンガーで留守番を余儀なくされ 箪笥に南京錠を付けた 部屋のドアには五個 不安の横槍で三個足す なのに片時も頭を離れない 空巣と類焼で仕事に身が入らない 悪液質を来した患者に薬を飲ませ 浮腫んだ手首の脈をとるのに気もそぞろ 早く帰りたいとしか考えていない 休みの日には商店街や公園 舗道や駅頭で姿が見られた 『まぁ高そうなコート着ちゃって』 『うわ、時代錯誤』 雨でも雪でもしまい込んだりしない うす汚れた大気 うすら寒い雑踏 うら寂しい街角でも 素敵な誰かに会いに行くよう 楽しい用事を片しに行くよう 知らぬ者には場違いの富裕に過ぎず 知人は驚き、いぶかしんで噂する 女達は羨望と妬みを撚り合わせ 男達は商売替えをしたと見た 見合う観念が自ずと策定される 社会という構造体 女は意に介さない 人目も口も鏡やガラス 多ければそれだけよく映る 顎に襟足に触れる毛足と同じ くすぐったくて気持ちがいい こんな毛皮を着る自分 それを確認する瞬間が嬉しいのだ 称賛者は一人でいい 最も熱烈で忠実なのはどうせ一人だ こうして冬じゅう 春先まで女は幸せだった  夏 誰もが道行く姿に振り向く アスファルトも溶け出す日射の下 それは何よりも奇異に映る 女は涼しい顔で闊歩する 歳末セールにかけられた北半球中の毛皮が 三月に倉庫へ投げ込まれていようと 見た目だけでも爽やかであろうと髪を束ね 女達が寒色の薄物をひらめかせていようと 待てない 辛気くさいセーターを出す時期までなんて 半年も箪笥に閉じ込めて置くなんて! 華やいだ気分を禁じられるなんて 人生は短く 誰しも長く幸福でいたいもの 黒褐色の毛並は少しく乱れ 毛足もいくぶん乾いたようだ 目をむく人、指さす人 冷めた横目ですれ違う人 くすくす笑って囁き合う人 今やちょっとした有名人 話に聞いてわざわざ見に来た者 後をつけ回して囃す子供 それでも 町の誰より豪奢なものを着けている事実 満ち足りた気分で歩く現実は変わらない ただ時が移って気温が上がっただけ 同じようなセーブルや もっと高価な外衣を並べる所有者達が 避暑地で日焼けし 沖合の紺碧に白波を曳いている間 女のは次第に汚れて傷んで行った 何故なら寝る時も着たまま 充足は肌身を離れる時がない 夢の中でも燃え続け 女の心は決して凍えることがない 片時も離れたくなく入浴をやめ 同じ理由で退職したのはもっと前 残暑が引いて家賃が滞り出し 秋も深まって食糧が底をついた 真っ暗な部屋で忠実に守られ 水道も止められて 女は飢渇もおぼえず満ち足りていた 野良猫みたいに骨の浮き出た体を横たえ くぼんだ目を陶然と開いて 何かを語り聞かせるかのように 冷たい指でゆっくり毛足を撫でていた 管理人が業者を引き連れ 八個の鍵ごとドアを破った時は アッパーカットにのけぞったものだ 息を止めて突っ切ろうと己を鼓舞し 窓に手を掛ける前に駆け戻った 何とか通路へ間に合い背を折ると その後は記憶の戻しに悩まされた由 テーブルにはキャンベルの空き缶 ひっそりとステンレスのスプーン ベッドには毛皮 ---------------------------- [自由詩]アノミーちゃん/salco[2014年12月19日23時45分] いいえおじさん心の じゃなく 心は闇なんですおばさん そこに光は射すでしょう 頭蓋骨の中 風さえ入って来るでしょう 明るい気分が領します 色彩がこぼれ温度がながれ 音声がはずみ意味がおどる ひと時 だれかが帰りわたしが応える だれかが訪ねわたしは迎える まるで玄関ホールみたい 用がすんで鍵をかけ スイッチを切ればまた真っ暗 (スイッチ切るのは人さし指?) だれもが出て行きわたしの残る だれも入れずわたしの暮らす そこを再び領する闇に どうぞ目を凝らしてみてね 凝視するほどそこは濃く うずくまっているのがわかる 何かの影でも錯覚でもない その暗黒は固体 解剖すればわかります それは固体で器官です 強靭に育って行きはすれ 稀には瑕疵や不調がありはすれ 消えることは終生ない 説諭や情調で釣れないからって 怪物だなんて呼ばないで 生存だけを意図する器官 生物には欠かせない 殺すか死ぬか 二極を生きる人間を狂気で片付け とり澄ますだけの人もいて そんな人は自在に外を歩いている気で 鍵穴に座り込んだまま 縫い閉じた瞼裏を野原と呼んでいるだけ それは操作ね 単なる工作、方便、おためごかし 思考は意識の工作で 思考様式は利己の工作 そんな室内装飾が習性だとしても 趣味に遊んでいられるかしら? 絶食の眼前に食餌が置かれた時 無視はそれこそ狂気沙汰 器官は教化されないよおじさん 臓器の阿頼耶識を考えてみて 着色さえできますか? あなたも殺しをしてみたい? 「死ねばいいのに」って 代行刑吏の呪術で今日も? そうやって落ち着き払い かぶりを振ってみせるおばさん 鮮魚の三枚おろしは慣れの賜物ね スチロール皿のドリップも 思考に働くメカニズムは別として 殺戮野に落とし込まれた場合を考えてみて たとえば過激派組織の戦闘員 得意げに捕虜の生首を掲げている 聖戦/正義という大義に立脚しながら 勝利と獲物を楽しむ理由はそこじゃない それから今日も三面記事 折檻、いじめ、威圧、中傷、つきまとい 脅迫、強盗、痴漢、強姦 家庭内、校内、社内、車内、路上、ネット 情人、隣人、顔見知り、通りすがり 非力の恐懼、弱小の啼泣、無防備の屈従 劣勢の恥辱、瀕死の悶絶 その構図は欲求不満やストレスを反映するけど 加虐の愉悦が湧くのは文脈じゃない 「動機」って事由じゃないよ ただのスイッチ 単純な、回路の仕組み 生きる上でのオンとオフ 作動に意識は関与しない 絶縁や迂路は存在しない 作動が意識を操作する (閾値が違うって? それ本当?) (ならば捕食の対象が?) (それでだれの安全を確保するの?ふふ) オン‐オフ‐オン‐オフ 検事や弁護人、判事や傍聴人 それから視聴者、町内会 医療従事者、教育機関、ご遺族・家族 ストーリーで納得したい人種のための 後付けの前文じゃなく サディズムはとても、とても強い誘惑 底深い悦楽、突き上げる陶酔 世界のケーキとお酒の消費量より 根源的な普遍の衝動 些細な刺戟で放たれる共生体 床下の本性 残虐って、思いのほか人を選ばないよ あなたが太鼓判を捺す人格人品よりは ご覧の通り多分に状況 たとえばネトウヨ、在特会 人生の不満を解消しようとする方向づけが とってもわかりやすい人種 最下位の自分より下位を定め ありもしない線上で自慰に耽る無能 逼塞の負け犬はどうせ口だけだって そうかしら? 場に免罪符さえ与えてやれば もっとスッキリしに出て来るんじゃない? たとえば一人じゃ何もできない彼ららしく 七〇対一のデスマッチとか そうでしょう? 今までそしてこれからも 好んで落ちた社会の底辺で自己正当化を這いずり 無為徒食のご身分ではなく国籍を優越にすり替える というか 劣等の克服に着手したことがない自堕落のおじさん お寒いあたまとおまたを排外スピーチに疼かせ 国益にかこつけ民族蔑視で自尊心を補完している というか 国益にも自尊の意味にすら無縁な下賤のおばさん ご自分なりの殺傷欲をよくご存じのはずね 面と向かって吐けない蔑称、悪罵を 匿名でひねもすツイート・リツイート だれかが「在日は出て行け」と代弁してくれるや 貴賤ナシ参加費タダの帰属意識に狂喜して 流言飛語の再来や従軍慰安婦の汚辱を切望している その暴力 その快楽が手放せない理由はただ一つ 瓶底の澱を代償するから へしゃげた権力志向の代償? 持ち腐れ性欲の代償? それともカスの承認欲求? 解剖すればわかります 教化されない器官 私を私たらしめる私の外 わたしを私と呼ぶ以前のわたし 私に働き、私を動かし 私に利するわたし 気体でも液体でもなく いつもそこにうずくまっていて 言語体系には属さない もっと深い中心で うたた寝してるか目覚めるかだけ 決してどこへも行かないし 目減りも霞みもしない 目にしたくなければ布でもかぶせ それでも不快で仕方ないなら 本でも重ねて柵にするけど 護摩になった例はない その暗黒は共生体 でも基盤 思考はその上で立ち働くお世話係 説教を垂れ訓戒で抑制している気で実は 筋書きと言い訳を練って頷くだけの書記 攻撃性は邪悪? 防御反応をタグ付けすれば安心? そう、攻撃性は邪悪 でも分離なんかできない 欲動は味噌も糞も同体 祓うには粉砕するしかない 削岩機が必要ね 解剖するのよ ---------------------------- (ファイルの終わり)