殿上 童の恋月 ぴのさんおすすめリスト 2011年3月28日19時33分から2011年10月17日19時02分まで ---------------------------- [自由詩]傘をさすひと/恋月 ぴの[2011年3月28日19時33分] 雨が降る 黒い雨が降る * 夢の島 誰が名づけたのだろう ぐぐったところで明確な由来などでてきやしないこの島で 静かに眠り続ける一艘の船 東西冷戦の最中 高度成長の軋みを飲み込み続けた 夢が夢だった頃の悲劇 明治通りを渡り陸上競技場の向かい側 緩斜面を引き摺るように下ると 第五福竜丸を納めた展示館が立ち現れる 現実を覆い隠そうとする そんな意図さえ感じられる緑の深さと息苦しいほどの静けさ 「触れてはいけない」 何故にと立ち止まれば誰かが肩を突いて歩みを急かす * ぴかどんの雨だから 傘ささないと頭が禿げるぞ 幼さで囃すことばには悪気など無かった 乗組員23名全員が被爆して ひとりの無線士が水爆実験の犠牲となった あの都知事でなければ はやぶさ丸と名を変え廃船となった一艘の船を保存などしたのだろうか 涙もろいヒューマニズムに付き纏う危うさと それが正しかったと言えるのか それで悲劇の連鎖を断つことができたのか * 雨が降る 黒い雨が降る ---------------------------- [自由詩]咲く花のひと/恋月 ぴの[2011年4月4日19時25分] 君のこと愛しているよ って 叫べるほどに誰かを愛したことあったのかな * おとこの子 男のひとを「きみ」って呼ぶ 私に似合わないのは判っているけど 敢えて、そう呼んでみた そして好きとか 愛しているの度合いを 脚の長い水鳥が干潟でも渡り歩くように いっぱいに拡げた親指と人差し指の間で測ってみせる ふむ、このくらいってことか 自分を愛せなければ 他人を愛することなんかできない そんなことばがあったような なかったような * あきすとぜねこ 彼の名前と私の名前で占う 好きとか 愛しているの度合い 最後のひと文字、恋人の「こ」じゃなくて結婚の「け」だったりもするらしいけど やっぱ恋愛と結婚は別物だよね としたり顔で頷いてしまう私がいたりして * 今年も桜は咲いてくれるのかな 辛いことたくさんあって 涙たくさん流れて それでもしっかと綻んでくれそうな気がする 好きなひととお弁当を拡げ たわいも無いことで笑いあったりして なんか良いよね 大切なことなんだものね 肌寒さも影響してるのか人影まばらな公園の片隅で 乗ってきたチャリに腰掛けたまま 好きでも嫌いでもないはずの 男友だちとの相性を あきすとぜねこ 占いながら口元緩んでる自分自身に気付く ---------------------------- [自由詩]揺れるひと/恋月 ぴの[2011年4月11日19時13分] 水面を見上げると ちいさなおんなの子の顔 こちらの様子が気になってしかたないのか 大きくなったり小さくなったり * わたしだけの世界 酒屋さんの軒先に置かれた古い火鉢 最初は他にも仲間いたけど カラスに狙われたり 狂ったような嵐の晩に火鉢の外へと流されていった 金魚藻とホテイアオイ 火鉢の底には竜宮城のおもちゃらしきもの ひらひらとゆれる尾びれ たしかに自由気ままではあるけれど その日暮らし かりそめの自由ってこともある いつ野良猫に襲われてしまうのかも知れないし 酒屋の店主に火鉢ごと片付けられてしまうかも知れない それでも ここはわたしだけの世界 桜の季節には 舞い散る薄桃色に水面は染まる * もし人間に戻れるとしたなら あのひとに逢ってみたい 今では幸せな結婚生活おくってるらしいけど それでもわたしの好きだったひと 逞しい腕で抱きかかえるように頬ずりしてくれた 情熱的な口づけは甘くて そして永遠の誓いでもあったはずなのに * おんなの子がひとさし指で軽く突くたび 薄桃色の爪の先から波紋は拡がり 金魚藻の茂みに身を隠しながら水面を見上げてみれば 丸く切り取られた青い空 大きく見開いた黒い瞳はゆらゆらゆれる ---------------------------- [自由詩]落ちるひと/恋月 ぴの[2011年4月18日20時15分] わからないから不安になるんだよね 好きなひとの心うちと 明日の空模様 開けてびっくりでは困るけど あてにはならない春の天気予報を頼りに ご機嫌いかがなんて訊ねてみる わたしから好きになってしまった弱みなのか 腕組みなんかして如何にも不機嫌そうな横顔に二度惚れしそうで あれは河豚の競りだったっけ 袋で隠した指の握りぐあいで値がついてゆく ええか、ええか って、おとことおんなの真剣勝負 好きになったら負けなんだ ええか、ええか 相変わらず湯気のような白い煙もくもくしてるし ええか、ええか 確かに自販機ってあり過ぎるんだけど 建前論だけでは物事は進まないとしても 相変わらずごにょごにょ暗がりで蠢いているし 止まったままのエスカレーターはどうにも歩きにくくて ステップに躓いたわたしを支えてくれる優しさに ええか、ええか はなから勝負に負けている ---------------------------- [自由詩]滑るひと/恋月 ぴの[2011年4月25日20時54分] 懐かしい向かい合わせの座席 小旅行ってことばの似つかわしい車内の雰囲気 (偶然だったのかな、向かいの席に座った男のひととの軽い会釈) それでも嵌め込み式のガラス窓では吹き込む風に往生することもなく 車窓から望む田園風景は他人行儀に流れて行く (どちらまでとか当たり障りのない挨拶を交わし) いまどきの節電なのか車内へ差し込む日差しに踊る通過駅 モノクロームのホームには人の姿もまばらで はてさて、これからどうなるだろう 取るものも取りあえずとか 火急の用件と言い得る程の出来事ではあるのだけど あたふたとするばかりなのは我ながら呆れ果てるばかりで (スーツの襟章、どこかで見かけた会社のマークに似てる) 他に席が空いていない訳ではなかったし トイレのふりでもして車両を移ることもできたのだけど 何故かわたしは旅なれた風情に相槌を打っている 何かしら命じられたならば自ら積極的に応じていたかも知れず (お嬢さんが近く嫁入りするとかにまで話は及び) 北へ向かうこの快速列車はほぼ定刻通り目的駅に到着するのだろう (日常を繰り返すとはこのような様に相違なくて) 取り留めのない、それでいて息苦しさを覚える彼との会話に窮し 寝たふりをはじめた膝頭に伝わるのは 減速する車両の重みとあり得ない程のふしだらな想い ---------------------------- [自由詩]託すひと/恋月 ぴの[2011年5月2日19時40分] 〈好き〉ってなんだろうね * わたしってさ 誰かを〈好き〉なったことってあるのかな 〈好き〉ってね 愛しているとは違うし 意外と精神的なものだったりして Like以上、Love未満 だからどうってこともないのだけど * アムラーかあ 彼女たち、今ごろどうしているのかな テレビのなかの安室奈美恵 過去のひと的な扱いされそうに思えるけど どうしてどうして素人目にも歌と踊り格段にうまくなってるし 腕に刻んだお子さんの名前を隠そうともせず むしろ誇らしげなのが彼女らしくもあり アムラーってきっと今でもいるんだ 歳月とともに自らの容姿は変わってしまったとしても 彼女の生き方に共感できて こころはいつも彼女と一緒ってことなんだろうな * 昨日は好きだったけど 今日は好きくない それって〈好き〉とは違う気がしてきた 誰かにわたしのことを好きになって欲しい それも〈好き〉とは違うような 添い続けること 遠く離れていたとしてもひたすらに想いを重ね続けること そんな気がするけどね * 今年も暑くなるのかな ---------------------------- [自由詩]かおるひと/恋月 ぴの[2011年5月9日20時37分] 最近入店した笑顔の素敵な男のひと 洗い方は丁寧なんだけど 細長い指先からほのかにただようタバコのにおい 最初は気のせいかと思ったんだけど どうやらそうでもないようで せっかくのシャンプーリンスが台無しになってしまった 休憩時間にでも吸っていたのかな わたしも吸ってれば気にならないのだろうけど * はじめて身体を許したひと わたしに背を向け指先のにおい嗅いだような 生理近かったんだけどね 嫌われたらどうしようかと断りきれなくて 甘い口づけを交わし 身体を重ねあって 溢れ出る感情を確かめ合ったのは事実なんだけど 男のひとって誰でもにおい嗅ぐのかな なんかトラウマになっちゃうよ * 不思議と汚くないんだよね 久しぶりに会った古くからの友だち 赤ちゃんをあやしながら笑顔で答えてくれた うっかりすると紙おむつの脇からあふれ出てたりしてさ パパと大騒ぎしちゃうんだけどね まなざしは見飽きることの無い愛娘の表情に釘付けで 結婚なんかしないし、子供だって生まないんだ あの日あの夜に女ふたりで誓い合ったはずなのに すっかり母親らしくなっていて 愛おしげな指先からは甘いミルクの香りがした ---------------------------- [自由詩]深紫のひと/恋月 ぴの[2011年5月16日19時21分] お疲れさま♪ 優しく声をかけたいのだけど つい嫌味な言葉なんかを付け加えてしまう どうしてなのかな 額に汗かいて努力したのはあなただし わたしは洗い物とかしながら眺めていただけ たとえば食堂の椅子とか作っていて 脚の長さ揃わないからとノコギリできこきこしてたら あれま、椅子のつもりが座椅子になってしまったよ そんな失敗だとしても可愛いもので あなたにしては上出来だよって褒めてあげたいのに ぷいぷいとケチをつけたりしてさ これも好きって気持ちのあらわれなのかも知れないけど 真剣なあなたの横顔をいつまでも眺めていたい で、タオルとか差し出しながら お疲れさま♪ よく頑張ったよねって言ってあげたいな 「頑張れ!」っじゃなくて 「頑張ったよね」 いつのまにか仲直りできたようで おそろの座椅子からふたりして脚を投げ出してみたりすれば お隣さんの庭先までわたしたちの彩りで 紫陽花の深い色合いに カタツムリになりたかったあの頃とかを思い出す ---------------------------- [自由詩]数えるひと/恋月 ぴの[2011年5月23日21時55分] 立ち止まるのもありとは思うものの 夏らしさを感じる風の勢いに身を任せてみる 買い物帰りとかに立ち寄る近くの公園 このあたりは放射線とは多少なりとも無縁でいられるのか 小さな子供たちのにぎやかな歓声 それでも木陰のベンチは寝転がれないようになっていて ある種の仕組みのなかで生かされていることを知る それだからどうこうって訳ではなくて 眩い青空に面と向かい合い 誰にも告白できないようなことを呟きたいだけ 風に吹かれる 夏の風に吹かれて ささやかな自由は幾多の自己犠牲を要するとしても 別段抗うことなく それでいて訳知り顔になることもなく 風に吹かれる 夏の風に吹かれて 遥か遠く運ばれてきた潮の香りに耳をすます わが子を抱いたお母さんたち 砂場の近くの木陰で雑談に興じている 敢えてあのことに触れることはないのだろう 胸元で甘える幼子の息遣いに 目に見えぬ不安に苛まれることよりも この子を守り抜くのだという決意が勝っているようにも見え 風に吹かれる 夏の風に吹かれて そして湧き立つ積乱雲の忙しさに暫し耳をすます ---------------------------- [自由詩]隠すひと/恋月 ぴの[2011年5月30日19時18分] 姿見に映すわたしの姿 ぷくっと気になる「部位」がある * 肩甲骨を意識して 立ち姿に気をつけてみた たとえばモデルさんみたいに片足を気持ち後ろにずらす それなのに元カレに似たひととすれ違ったりして 深いため息でもついたとしたら 元の木阿弥、胸を張って生きるって難しい * 今年の新作水着 へえっ、こんなにもおしゃれなんだあ すかさず手にとってはみても やはりあの「部位」が気になって陳列棚へ戻してしまう 目ざとい店員さんがお似合いですよとまくし立てるので 慌てふためき逃げ出すように店を出た ショウウインドウを掠めるわたしの姿 現実を直視しないのが幸せのこつだったりして * 単なる「部位」に違いないのだけど これこそ。わたしの総て どうぞと席を譲られても困ってしまうし 無理なダイエットはリバウンドが怖い おんなものの傘があくまでも華奢なように ひとりで生きられない女でありたいものだけど 誰も気付いてはくれないみたいで * 見てくれだけが大切なんだよね いざとなればパッド入りの勝負ブラがあるし 半ばだまされて買った補正下着だってある 物事の本質なんて誰ひとり求めてはいないのだから 姿見に映すわたしの姿 ここぞとばかり大胆不敵な見得を切る ---------------------------- [自由詩]夕暮れのひと/恋月 ぴの[2011年6月6日19時42分] ちびっ子がちびっ子だった頃 男の子は半パンにランニングシャツ 女の子はノースリのワンピとかで原っぱを駆け回っていた いじめっ子、いたことはいたけど みんな等しく貧しんだって思いでお互いを支えあってた気がするし 長袖シャツを着てないと危ないなんて誰も言わなかった ちびっ子がちびっ子だった頃 大人たちは内輪もめ繰り返してはいたものの 8月6日は核兵器廃絶を願う人々にとって忘れてはならない日だったし いつもコールテンの上着羽織ってた先生は 君が代よりも大切なものがあるとわたし達に語ってくれた ちびっ子がちびっ子だった頃 ノースリのワンピたってお母さんが仕立ててくれたあっぱっぱで ストンとした裾をパンツの中に押し込み 日の暮れるまで男の子達とザリガニ釣りに興じていた 糸の先につけたスルメイカで面白いほどにマッカチンが釣れて ブリキのバケツの中は大きなハサミで蠢いていた ちびっ子がちびっ子だった頃 わたしには帰ることのできる小さな家があって 前掛けをしたお母さんがわたしの帰りを待っていた 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未来への扉が垣間見えたような気がして したたる汗の交わる戸惑いと きつく握り返してくる力強さに心躍らせた ふたりに言葉なんていらなくて 忙しい息の甘酸っぱさだけが頼りだった この坂道は君とともに上った坂道 あの頃とさして景色に移ろいはないはずなのに 気がつけば坂の上はすぐそこで あまりのあっけなさに漏れる苦笑を隠しようもなく ふたりして何を悩んでいたのか 今にして思えば、あれでも駆け落ちだったのか 永遠に辿り着けないのではと仰ぎ見た苦悩 せめてあなただけでもと死を賭してくれた悲しみ 総ては無に帰してしまったのだろうか これが分別ある大人になったということなのだろうか この坂道は君とともに上った坂道 幾度振り向いても君の姿を認めることはできず わたしひとり坂の上に取り残されて よく太った野良がわたしを見つめているような気がした どこかしらでちりりんと風鈴が揺れて 梅雨明けの空はゆっくりと茜色に染まりだす ---------------------------- [自由詩]第二ボタンのひと/恋月 ぴの[2011年7月4日19時12分] べつだん躊躇ったりすることもなく 無造作に引きちぎった胸元のボタンを手渡してくれた 「ありがとう」 「礼なんていらないよ こうするものらしいしさ」 恥じらいをみせれくれれば可愛いのに でも、それは君らしくもあり ひとまわりは確実に離れてる女のあしらい方と考えているのか 母親でもないし お姉さんでもないしね そのくせ、わたしの前を歩かないところが甘えんぼさんの所以だった 合格した東京の大学へ進学するとのことで わたしにそれを止める確かな理由なんてあるわけもなく 懐かしい文通だったのかな いずれ疎遠になっていくことは覚悟してたけど 夏休みに帰ってくると約束してたのに帰ってはこなかった 東京の暮らしは刺激に満ちているだろうしね わたしなりには覚悟きめてはいたけど あれから何年経ったのだろう 名前は一緒かなとは思ったものの 同級生が教えてくれた まさに余計なお世話ってやつなんだよね いまでも君のことだとは信じられない 東京へ出て行って 半年もしないうちにわたしのことを忘れてしまった男の子が 滞在していたホテルのドアノブで そんなんでも自らの命を絶てるなんてね テニス部の部長さんじゃなかったっけ 引き出しに見つけた第二ボタン 口に含むと後追いの青錆び臭さが舌を刺す ---------------------------- [自由詩]饗宴のひと/恋月 ぴの[2011年7月11日19時04分] 出棺を待つ君は安らかな表情で 首筋にあるべき索状痕は目立たぬよう化粧を施され 凄惨な最期を遂げたようには見えなかった 呼びかければ目を覚ますのではとか 冗談が過ぎたかな 頭を掻きながら棺から起き出してくる気もしたけど かつて愛した男の死を認めたくない ただ、それだけのことなのかも知れなくて ※ たぶん君がそうしたように寝室の扉へ上体を預け 揃えた足を前に放り出してみる 頭上には鈍い輝きを放つ金属製の塊 確かに人生の終りを告げるベルの類に見えなくもない わたしでも手を伸ばせば指先は生死の岐路に触れることができるのだから 運動神経が良くてタッパのある君ならば その刹那、何らかの素早い動作で此方側に残ることができただろうに 両手のひらをドアノブの鈍い輝きに捧げてみる 同じホテルの同じ階の部屋 君が自らの命を絶った部屋に泊まることは叶わなかったけど それは古代太陽神を具現しているようで 生贄となるべき一頭の山羊 自らの行く末に気付いてはいても手綱を引かれれば従わざるを得ず それがわたし達の在り様に思えた ※ 空のバスタブに左手首を浸ける もちろん剃刀とかで手首を切ってしまったわけではないし わたしも生贄の山羊なのは確かなことだけど 自らの命を差し出すに暫しの猶予は疑いようもなくて 永遠と回り続ける換気扇のうなる音は 腐肉にたかる無数の銀蠅の羽音にも似ていた ※ 告別式で出逢った喪服の若い女性 あくまでも凜として 参列者の誰もが思わずたじろいでしまうような気迫を感じさせ 喪主を演じきる そのためだけに彼女は生きながらえようとしているのか 襟足から覗く透き通るほどに白いうなじは 執念の 或いは情念の 血臭さに溢れていた ---------------------------- [自由詩]確信のひと/恋月 ぴの[2011年7月18日18時59分] いたずらな風にでも煽られたのか 薄桃色の世界が一瞬目の前にひろがった   ※ 男のひとは女性の下着に恋するものらしい くしゃっとした 小さな布切れなのにね でもそれは男のひとが求めてやまぬ快楽への入り口 お尻のほうからつるり桃の皮でも剥くように そっと腰を浮かせてあげるのはお約束で 差し出された果実には 例えようの無い甘酸っぱさと 捕らわれてしまっては二度と逃れえぬ巧妙な罠が仕組まれている ※ でもなんだろうね 見るだけなら罠にはかからないものさとばかりに 入り口の前で立ち止まってさ あれこれと小さな布切れを品定め あれはピンクだ いやレースの白だったと評論家気取りは喧しい 見せる方も悪いって誰かが言ってたような 女性の私からみてもどうなんだろうって感じの短さは おいでおいでを繰り返してもいるようで ※ いたずらな風に煽られたのか 薄桃色の世界が一瞬目の前にひろがって そして何ごともなかったかのように 食虫植物の秘肉は閉じる ---------------------------- [自由詩]リア充のひと/恋月 ぴの[2011年7月25日18時57分] 犬猫とは違うことぐらい 判っているよ ※ でもね 薄汚れた服でサンダル引き摺ってた女の子 大切にしてもらっているのかな パートのお母さんと いつも家でタバコ吸っている男のひとがいる 夕ご飯作ってもらえなくて お風呂に入れてもらえないから髪の毛は汗でひっついてて 女の子のこと邪魔だと思っているなら こんなわたしでも里親になりたい ※ 恵まれた暮らしなんかしてないよ 決して日当たりの良いとはいえない小さな部屋で ひとと話したのはいつだったか 会社が休みだと話し相手は誰もいない いらっしゃいませ ありがとうございます 挨拶だけは上手になったけど ※ わたしの帰りを女の子が待っている 新しくはないけど洗いたてな木綿のドレス 髪の毛はさらさらで 開け放した窓からの風に輝いて お母さん、おかえりなさい 駆け寄る笑顔がわたしを待っている ※ いつかはきっと気付く わたしとは 性格も顔立ちも異なる赤の他人がわたしの部屋にいて 当たり前のように わたしのファンデーションを使っている そんなもんだと思う それでもわたしは欲しているらしい ※ 野良のために買い込んだキャットフード わたしでも食べられないかと缶詰のラベルに見入る ---------------------------- [自由詩]箱のなかのひと/恋月 ぴの[2011年8月1日19時13分] その箱のなかには夢が溢れていた 幌馬車に乗っていたり 早馬にまたがり二挺拳銃は火を噴いて またあるときは電話ボックスから秘密基地へと飛び込めば 誰もが海の向こうの豊かさに憧れた ※ 箱のなかで身を粉にして働いた 白い鳩の大群が国立競技場の空に舞い 幾度も揚がる日の丸に涙して 国を誇りに思うとはこのことなんだと頷いた ※ 箱のなかのインディアンはいつも悪者だった 日本兵も悪者で情け容赦ない火炎放射の餌食となって 悪者なら何人殺したとしてもそれが正義だった ※ エノラ・ゲイは箱のなかを飛んでいた ゼロ戦の遥か上空 ここまでおいでと翼で煽り 悪者なら何万人死んだとしてもそれが正義だった ※ ダンボール箱に開けた小窓から 君は反っ歯な顔を出す あれはいつの頃だったか カラオケなんて便利なものはなかったけど 未来ってことばに人々は夢を託し ※ 「臨時ニュースを申し上げます」 おしゃもじ片手に君は真顔でニュースを読み上げ 慌てて空を見上げれば あれはUFO? 銀色の機体から放たれた爆弾がモノクロームの空に鳴く ---------------------------- [自由詩]ヤドリギのひと/恋月 ぴの[2011年8月8日18時34分] 何かの工場でも移転したのか 住宅街の真ん中にあられた大きな空き地 その空き地を取り囲むようにはためく斎場反対の白抜き文字 いつまで運動は繰りひろげられていくのだろう はちまちをした町会の面々 遅かれ早かれ斎場が必要となる歳になっているはずで よそ者だから許せないってこともある ※ Tomodachiであったとしても 用が済めば早々にお引き取り願いたい 感謝をこめた挨拶はやっかい払いってこともある 家族ができて 生活環境が変わってくれば 次第次第と都合の悪いこと煩わしさはひとしおで もっともお金が総てってこともありそうな ※ ときには実の母でさえ鬱陶しくて どらえもんのポケット ひとの本音かも知れない ※ わたしの思いを知ってか知らずか いっこうに責任を取ろうとしないあなた どこまでが本当なのか どこからが嘘なのか 悔しさに達するでもなく萎えたペニスをきつく掴む ※ その空き地の近くには親水公園がある 釣りもできるようになっていて 近くのお年寄りだろうか日がな釣糸を垂れている 白鳥の脚に仕掛けが絡まないだろうかとか そんな心配など飲み込むかのように黒い雲湧き立ち パラパラと大粒の雨降りだした ---------------------------- [自由詩]甘噛みのひと/恋月 ぴの[2011年8月15日18時10分] その橋の欄干から身を乗り出せば 清らかな流れの中ほどに石ころだらけの中洲 別段、川の流れに抗う姿勢をみせるでもなく 上流に夕立でもあればあっさりと荒くなった流れに呑まれ ちょうど今ごろの季節なら週末ともなると バーベキューの歓声が辺りを支配し 総ては川の流れが清めてくれるものと決め付けている ※ 生きるとはなんだろう あえてそんな問いに悩まずとも ひとは生きる 生きてしまえるもの 川の流れをよく見やれば ウミウの襲来などものともせずにひらを打つハヤの群れ ひとかたまりと川面に揺れる ※ むやみやたらと子が欲しくなる 生を繋ごうとする本能の恐ろしさよ 抜いてはならぬとばかり、おとこの腰に絡めた己の執念深さ それほどまでして産んだ我が子の行く末など 恐ろしくもあり そして哀しくもあり ※ アキアカネの飛翔でも見かけられるなら 多少なりとも救われるものを 日差しの酷薄さは密やかな願いさえも無に帰してしまうようで 誰が打ち捨てたのか、ひしゃげた日傘は熱風に舞う ---------------------------- [自由詩]祝祭のひと/恋月 ぴの[2011年8月22日19時08分] あっ    風の軋む音がします ※ 母となれなかった女の子供が母となる 子を宿せば母になれる そんな容易いものではなくて 幼子の抱く古びた操り人形のように いつのまに欠けてしまった夫婦茶碗に唇を添え 口ずさむ子守唄は儚くも哀しい 金魚すくい セルロイドの風車 きつねのお面はコンと鳴き わたしの頬にひっついた女のあたたかくも艶やかな唇 ※ 父親は誰なのか あのひとだよと教えられてきたはずなのに 夕焼けこやけで橋の下 長くのびた影法師にまぎれ どこか遠くへ行ってしまいたかった このまま、わたしが消えていなくなったとしても 誰も悲しんでくれなくて 女の唇は紅よりも紅く濡れそぼり ※ 金だらいのなかで泳ぐ金魚 鼻筋に塗った水白粉 豆絞りで飾った髪にかんざし一輪 わけもなく嬉しくて山車の後ろを付きまとい 切れた鼻緒にべそかけば お嬢ちゃんの家まで送ってあげるからと 見知らぬおじさんがわたしの肩を優しく抱いて 鎮守の森の暗がりは 幼い心を弄ぶ ※ あっ    風の軋む音がします ---------------------------- [自由詩]異心のひと/恋月 ぴの[2011年8月29日19時34分] どれほど歳を重ねたにしても 夏の終りは感傷的で どこかしらか和太鼓を叩く音が聞こえてくる リズムを刻んでいるようであり 生の在り様を現そうとでもしているのか 小刻みに あえて無表情に ※ 大人になってからの宿題 誰から急かされることもなく 手をつけなかったとしても咎められたりはしないので 夏をやり過ごす毎に重荷となったそれを 精霊流しと拝む そんな一時しのぎを繰り返しながら いっぱしの大人になってしまう ※ 浴衣には扇子より団扇が良く似合う 年に何度も袖通さないからと どこぞのセールとかで仕入れた記憶あるけれど ぱたぱたと扇ぎながらのそぞろ歩き 和太鼓を叩く音は相変わらずで 力強く そして官能的でもあり ※ 幾つになっても「明日また」って言葉が大好きで こんな私の葬式にお坊さん来てくれるのだろうかと悩めば 参列者の来ないお通夜の席に年老いた母ひとり めっきり不自由となった足腰を嘆くも 先立ってしまった娘の不憫さには口を閉ざす ※ いつかの日にも聞こえてきたような 和太鼓を叩く音 小刻みに 闇へと流れた我が子の鼓動 ---------------------------- [自由詩]対岸のひと/恋月 ぴの[2011年9月5日19時13分] 台風がそれて良かったと思うものの 荒れ狂う里川の変わりようを 術もなく見つめる老人の眼差しに寄り添うことは難しい 人様の身の上にふりかかった災禍などと 素知らぬ顔して晴れ上がった台風一過の秋の空 ※ ふとしたことでフェンス越しに階下を眺め 私でも、ここから飛び降りられるのかと悩んでみる 今でも間に合う 今からでもやりなおせる 生に縋りつこうとするのでもなく そんな気楽な想いは絶望感に勝っていて 吹き上げてくる風の強さに目を背け そそくさとフェンス際から立ち去ってしまう ※ テレビは増水した里川の様子を映し出している 合間には、いつもながらのコマーシャルと こんな私にもチャンネルを変える選択肢ぐらいは残されていて 一人称の悲しみはどこまでも一人称のままならば 僅かな同情さえ成し得ないもどかしかさと 第三者で居つづけられる安堵の狭間で フェンス越しに見えたもの 植え込みの緑とアスファルトに整列した黄色い駐車区画 放物線を描けばあれにも届くのかと 水際に積み上げた石ころの頂へ問いかけてみる ---------------------------- [自由詩]許されたひと/恋月 ぴの[2011年9月12日19時38分] 人一倍寂しがり屋なはずなのに 気がつくと、いつもひとりぼっちになってしまう これも運命ってやつなのかな ※ みんなはひとつの輪になっている それなのにわたしだけ一歩後ろに下がっていた というか、あれはなんだろうね 肘とかで弾かれたわけでもないのに 気がつけばわたしひとり輪の外へ出ていた 今さら、ひがんでもしかたないから みんなが笑えばわたしも笑う みんなが頷けばわたしも頷いて さあ行こうか なぜだか、わたしひとりだけその場に取り残され みんなは、どこかへ行ってしまう おしゃべり楽しそうだったよ なのでわたしも楽しかったふりをする ※ わたしはボトルに入れた手紙になりたかった 遥か七つの海を旅して やがて好きだったあのひとに拾われる わたしのことなんか忘れてしまっているだろうけど つたない文面から思いの丈の僅かでも彼に伝わるのなら これまでの人生は無ではなくなるし 彼のこころの片隅で生きていくことができる ※ おひとり様って便利なことば 胸元まで冷たい湖水に浸かっているはずなのに 安らぎさえ感じられて お魚にでもなったように掌で許されることの幸せ感じながら 爪先で星屑みたいな砂を蹴る ---------------------------- [自由詩]自虐のひと/恋月 ぴの[2011年9月19日18時30分] か弱いものでも生きてゆける それが人間らしさってこと それなのに時には誰かを押しのけては前に進み出て この一歩が生死を分けるのよね なんて言い訳をする ※ 世の中は悲しみのうえに成り立っていて この瞬間にも誰かが泣いている それでも流した涙ほどに報われることは無く 母を亡くしてはじめて気付くのは 若かりし頃のやさしさとか ふと胸に抱いてくれたぬくもりの安らかさとか そんなものだったりする ※ 悲しみはひとの目を曇らせるのか 出てくることばは嘆きばかり 気分転換と秋のはじめに散策でもすれば 目の前の景色に何故か見覚えがあって それは母の描いた風景画のなかの色合いだった ※ 若すぎる死ではあったけれど 亡くなるべくして亡くなってしまったのは確かなようで 遺品整理と称しながら投げ捨てたもの 母が集めた土鈴の数々 老人会の輪投げに興じる母の笑顔 ---------------------------- [自由詩]友引のひと/恋月 ぴの[2011年9月26日20時28分] 手持ち無沙汰に見上げれば夏のような雲の動きと 山すそは無残に切り開かれ ひとの忌み嫌うものの一切合財を そのはらわたに黙して受け入れているのか それとも受け入れざるを得なかったのか 今日はそんな日であることは疑いようも無い事実だった ※ 壁際の肌触りはキリコを意識しているようで 多面形で構成された正面玄関前に一台のクルマが滑り込む 霊柩車と呼ぶには粗末なワゴン 運転手は後部ドアから棺を引き出した あれもストレッチャーなのだろうか 器用にひとりで棺を乗せると斎場のなかへと運んで行く 誰の棺なのだろう タクシー待ちな私達の他に遺族らしき喪服姿は見当たらず このあたりは森深い丘陵地帯なのか それでいて意図した静けさに支配されているのは隠しようも無く ※ 恥ずかしいぐらい質素だった母の葬儀 よくあることらしく嫌な顔ひとつしない係りのひとに尋ねれば あれは行旅死亡人を荼毘に付しているとのこと 運転手は棺を館内へ運び終えると 駐車場で暫しの時間待ちでもするようだった 打ち合わせの電話でもかかってきたのか 白い半そでシャツの運転手が忙しく書類をめくっていた 配車してくれたタクシーはどうしたのだろう 何処かで道に迷っているのだろうか 生きる目的を見失ったまま 今頃三途の川を彷徨しているに違い無く 行旅死亡人 それは私のことなのかも知れず ※ また一台、粗末な霊柩車が正面玄関へと滑り込む 助手席には位牌を抱いた餓鬼の姿 後部ドアを運転手が開くと ダニが湧き出してきたかのように腐臭漂わせた餓鬼の群れ 今日はこんな日柄だったのだ 弟と私 そんな友引の日に母を弔ったのだ 位牌に戒名など間に合うはずも無く 「故」と「之霊位」の間には母の名前 それで喪主としての務めを果たせたのだろうか ヒグラシでも鳴いていて欲しかった 過ぎ去りし季節にしては眩しさ残る空模様だった ---------------------------- [自由詩]見つめるひと/恋月 ぴの[2011年10月3日19時45分] あきらめてみる たとえばわたしでいることをあきらめてみる すると亡くなった母のこととか ひとりぼっちの寂しさとか なんだかふぅっと身軽になれて お線香のくゆりは相変わらず苦手だけど 摘んできた野菊を遺影に手向け 四十九日はもうすぐで 納骨の手はずとか整えないといけないのだけど あいかわらずの不甲斐なさ そろそろ一本立ちしないとね なんて いきがってはみたものの 足元を整えなおすことさえままならずに ※ あきらめてみる たとえば慕い続けることをあきらめてみる すると好きだったあの人のこととか 手首に残る自傷のあととか なんだかふぅっと身軽になれて あいかわらず通りすがりの男の人に彼の面影追い求めたりする そんなわたし自身も可愛く思えてきた そろそろ新しい恋のはじまりかな でもね 彼以外の男の人とか まだまだ踏ん切りなんてつかないけれど ※ あきらめてみる たとえば生きることをあきらめてみる すると生きる苦しさとか 死に切れないもどかしさとか なんだかふぅっと身軽になれて 悲しくなるたびに死ぬことばかり考えてた わたし自身がばからしく思えてしまう それでも時には 死に切れなかったのは意気地なしだからとか思ってみたりして 旅にでも出てみようかな 見知らぬ土地で 見知らぬ誰かになれるのなら ただただ秋の風に吹かれて あきらめた先にあるもの見つめていたい ---------------------------- [自由詩]旅路のひと/恋月 ぴの[2011年10月10日18時54分] 旅ってなんだろう 帰るところあっての旅なんだろうけど 住んだこと無いはずなのに 慣れ親しんだ気がしてならない場所へと帰ってゆく そんな旅路もあるような気がする ※ 無人駅のホームでひとり 秋の日差しは山間を掠めるように影を伸ばし 手持ち無沙汰のベンチでアキアカネは羽を休める 手にはカバンひとつ 思い出とか詰まっていることもなくて 仮に誰かの詩集の一冊でも入っているのなら 言い訳のひとつでも語れるのかも知れないけど 次の列車はこの駅に止まるのかな 耳を澄ませば澄ますほどに辺りは静けさに支配され 駅のはずれで交差する鉄路は鈍い光を放ちながらも夕闇と沈む ※ 果たしてこの場所だったのだろうか ここでは無かった気もするけど いつかの日に訪れたはずの記憶を頼りに探し出す わたしがわたしであった証 生きてきた痕跡 たとえ泥に塗れていたとしても わたしがわたしであったとするなら、それを否定することは叶わずに 幸せとは時を刻んだ日々のひとつかみ ほろ苦く噛み締める刹那にも訪れることを知る ---------------------------- [自由詩]育てるひと/恋月 ぴの[2011年10月17日19時02分] 育てる 花を育てる 愛しい我が子を抱くように 育てる 花を育てる 我が子の明日を夢見るように ※ よく見かけるひと 花電車の通う線路脇で季節の花を育てるひとの姿 せっせと雑草を刈ったりして 自分の庭でもないのに余計なことをしてるようで なんだかなぁと思ってみたりもしたけど 今の季節、可憐な秋の花々は冷たさ緩んだひとときの風に揺れ 何を思ったのか季節外れの蝶も舞う 車窓からはどんな感じに映っているのかな クルマの渡るには手狭な踏切を ベビーカーを押すお母さんが急ぎ足で渡り 鳴り響く警笛の向こうから 昼間下がりにしては混雑している都電が通る ※ 育てる 何かを育てる 人の生き方で原因と結果は別物だけど 育てることから何かがはじまる そう思わないとやってられないよな こころの奥で誰かがちゃちゃ入れたりするけど 育てる そこからすべてははじまって 明日になれば、きっと花開いてくれる わたしの育てたもの わたしが育てようとしたもの ---------------------------- (ファイルの終わり)