あおばの佐々木妖精さんおすすめリスト 2007年11月5日22時23分から2009年4月28日0時40分まで ---------------------------- [自由詩]雑魚寝/佐々木妖精[2007年11月5日22時23分] マンガを読み その続きを楽しみにしていた 大学の先輩を思う 彼は三年前に病死したが 今もよく頭の中で会う 頭の中で彼も このマンガを読んでいるだろうか 先輩の好きだった人物が闇に堕ちたが 彼はそれを受け止められただろうか パチンコが好きだったおじいちゃんは 原付に乗って孫の頭へ駆け込んだ それから二十二年経ち、 俺は時々おじいちゃんに会うためパチンコを打って だいたいは負ける 二年前に老衰で死んだ愛犬 骨となって綿の袋に包まれ ポケットの中で生きている 夜道をフラフラと 老いぼれた犬の散歩に付き合い 疲れたろうと抱き上げうちへ帰り お守りに水を数滴 飲ませる 気がうねって触れ 叫び出す日々が続いた これまで出会った人 みんながいる時期に戻りたい それが理想 が 先輩が生きていた時期 もうおじいちゃんはいなかった おじいちゃんが生きていた頃 まだ愛犬が生まれていなかった 三人が皆 この世に存在した地点は どこにもなかった どこにもないのに そこへ戻りたい そう喚き 毎日は鬱屈としていた 気付くまでに あの世の存在を信じ込み 死を志し 三年 かかった みんな この頭の断片となって いつでも会える 彼らがしたいと思えることも してあげられる 見てくれも中身もない頭だが ここが理想の場 頭を振るとカラカラ音がするのは 頭が悪いからじゃなく 先輩がマンガを読んで笑っているから 雑踏に侵食されると途方もない安らぎに支配されるのは おじいちゃんがエンジンふかしているから お守りに手を当てると優しくなれるのは 十九年間撫で続けた毛並みに包まれているから さて寝よう 今まで出会った全ての人と 一つの布団で ---------------------------- [自由詩]深夜徘徊/佐々木妖精[2007年11月7日2時59分] 街路樹をまたぎ 車道を歩き 寝転ぶ 浮遊感に満ちた気分がクッションとなり アスファルトは優しい 主張の強いネオンも点滅することをやめ 自動販売機が定期的に息継ぎをしている 大量のジュースの中を、泳ぎ続けているのかもしれない 寝返りを打ち、地面に耳を当てると 数年前、まだこの道が完成する以前に潜り込んだ セミの営みを感じた 舗装された道は人間に優しく それ以外の生き物には冷徹だ それはもしかしたら 人間が冷徹ということかもしれない 大学受験を終えた時 どこかの誰かが落ちたのも気にせず 浮かれていた俺のように 博愛主義者が それ以外の人間を 無言で攻撃するように しかし、それだけが全てでもない そう思いたくて 起き上がり、セブンでボールペンとメモ帳を調達し 街路樹の根元に 「出口・羽化したいセミ専用」 とのメモを、土を掘り埋める いるなら出てこいよ 野生の勘ってやつで ---------------------------- [自由詩]確かにここか/佐々木妖精[2007年11月24日23時27分] 泣き叫べるほど幼くもなかった そんな時 お金を入れずにガチャガチャを回す 空回りしないハンドルは 鉛筆を握れなくなった腕を手元へ戻し 確かにそれが自分のものなのを確認でき 別の世界から右手が戻ってきたと 安堵する 楽しい時 今も昔も決まって世界を積み上げる 空想の中で積み木はロケットになり ティラノサウルスにもなる 算数の時間によく 別の教科を学んでいたのも覚えている 1はイチという音で×はカケルと読む 漢字とはまるで違う絵 掛け算の中で 月の満ち欠けに神秘というものを感じ スイッチで月を丸くしたりブーメランにしたりする仕事があって 大きくなったら その仕事に就きたいと 時間は流れることなく断続的に進む 俺はなりたい仕事に就く瞬間を逃した ---------------------------- [自由詩]その優しさ/佐々木妖精[2007年12月19日15時26分] 1年前の物干し竿がボキボキ折れたため 線香立てに刺し バスタオルを半年前の乾麺にかけると 「向いてないですから」 一瞬で職場放棄され シフトに二つ穴が開き 洗濯機が運ぶ仕事を両手両肩に抱え 睫毛に靴下をぶら下げ つま先で素麺をかき集め 床擦れに蝕まれつつ 立ち尽くし日が暮れ 心から崩れ落ち 香になろうと這いずり 何年も抱き続けてくれた両親の腕と 息子よりも小さかった背中だとか 消費期限切れの私をわざわざ訪ね 改ざんしてくれた悪友や この世界につなぎ止めてくれた恋人の 偉大さを知る ---------------------------- [自由詩]変わるくらい/佐々木妖精[2008年1月9日3時02分] 高校で処方されたトローチを ずっと舐め続けている いつか消えるという 先生の言葉を信じて 大学生にさん付けされ 上司にはくん付けされる しかし口の中にはまだ トローチが悠々と 体積を変えずに転がっている 味覚はだいぶやられたが 鼻は通ってきた 四次元の効果だ 紙面がやたらにおう しかし好きなにおいだ 香水の匂いと汗の臭いは同じだ どちらも生活の香りだ 刺激を求めて炭酸を喉へ流す これは初めて飲み込んだ海水を思い出す マウストゥマウス 実父にファーストキスを奪われた 虐待などなかった昔話 穴を息で震わせたり 小刻みに舌で塞ぎ遊ぶと 声をかけてくる人や ぶん殴ってくる人がいて これは鳴るんだと気づき 舌と穴の角度や振動を自室で試す 粉雪が頬に突き刺さる中 丈の短いスカートを見かけ イジメの一環としてはかされているのではないかと トローチの穴を全開にして鳴らす 恋人の耳元で半分穴を塞ぎ 俺は高校くらいまでロリコンだったんだぜって 好きになった同級生の名を吹き込む ネクタイを締めて トローチをしたに隠す そのくせたまにちらつかせて それおはじきやないか そう上から覗き込んでくれる先生を まだ求めていたりする トローチが溶ける気配はなく 噛み砕くべきか考えている ---------------------------- [自由詩]二色/佐々木妖精[2008年3月11日13時01分] 泣いた日 左手が動かなくなった日 ボケットに突っ込んだ手を 先生に注意され からかわれた手と 庇われたことが恥ずかしくて 泣かされた日 泣かされた日 いつも庇ってくれてた友達が触ってきた日 泣かされた日 逆さまつ毛が目に刺さった日 泣いた日 女は敵だって決意した日 泣かされた日 前言を撤回した日 泣いた日 じいさんが物になった日 泣かされた日 ばあさんがものになった日 泣いた日 好きになった日 泣かされた日 逆さまつ毛が刺さった日 泣いた日 実家へ帰る決意を固めた日 さて 目指そう もう迷い方など忘れてしまったが 現代はくくれどくくれど溢れ出す 平成での18年など昭和への長い助走である あの日を目指すのだ 何もかもが輝いていたあの日へ 共に泣き暮れる雨や助手席の人間失格と共に すみやかなアクセルを ただ一切は過ぎていきます 母さん ---------------------------- [自由詩]雨のち/佐々木妖精[2008年3月26日12時16分] 出口に中指を添え Tシャツとジャージ 石鹸に座ってよろめく 壁を蹴ると滲む 気化した感情 昨日の雨は冷たかったが 雨上がりを見逃してしまった 窓を打つ音は 雨後雨と報じる 曇りガラスを開き 宙に文字を刻み水滴を揺らして弾き 目撃者を望むにも こうも降っては紛れてしまう 壁に張り付いた湿気がダラダラ垂れる 目元の蛇口は恐怖を蓄え。 楽になりたい 雹でも降るのだろうか 人はなぎ倒され 宿り木は貫かれ 人影はかき消され 降ればいい 不信 賭けに出たコックから 一度は破れた手が 晴れを運んできた ---------------------------- [自由詩]T字路/佐々木妖精[2008年3月27日12時14分] 人んちの猫を 眺めるのはいいな 溜息で吹き飛ぶ薄給だというのに ある日袋がずっしり重くて 慌ただしくぶちまけて 猫がキョトンと転がったら がっかりしてもいいな 孤独という状態を さみしいと 説明することができないので モサカワコーデの愛され猫 エアギターよろしく やつの腹 心ゆくまで 日陰なき裸体かき鳴らしても 見通しの立っていた死を 赤ちゃんとだけ友達になりたい 赤ちゃんとだけ遊びたい 赤ちゃんを抱きしめたい 赤ちゃんとだけ話をしたい 赤ちゃんとだけ酒を酌み交わしたい 遊ばれてもいいから 赤ちゃんと付き合いたい 人の赤ちゃんとは禁欲的に 猫の赤ちゃんとはプラトニックに 腹違いのきみと仲良くなって みんな忘れ去ればいい きみは逆算すれば晩年だ 逆三角形動物だ 早い鼓動と高熱は短命な小動物の証 きみは四つん這いで枯れ葉を揺らす 情も理念もない四足動物 きっときみには魂がない きみにそんな概念はない きみは人間じゃない 猫のように人間じゃない 俺は なんだった ---------------------------- [自由詩]空中/佐々木妖精[2008年8月13日9時03分] 動物園でしか見たことのない獣の前で 動物園でしか見たことのない夢を見ていた あれがニンゲンのコドモだと 舌うちされたのを覚えている そうあれは 舌のある獣だった 消費した肩で かつて鶏卵をかき回したことがある 羽化する前の獣を 口に運んだことがある 動物園でしか見たことのない人と 指のない産毛に突っつかれ 見ろニンゲンのオトナとか あれはそこそこロクデナシと 格子のない檻の中 体育座りで身を縛る 好きだった 報われない願いが 整頓された茂みが蠢き ドードーが顔を出さないか 待ち構えるのが 舌を出す獣の気配に 走らせた両腕が空を切る 抵抗を切り裂き 鋭角に去りゆく鳥よ お前の翼のように 膝が思うまま動くのを感じる ぶら下がる檻の中で見た夢 屋根を探る両脚 振り向くとニンゲンの大人は 鏡の中にいて 人の惑星ダイジェストを 小刻みに震わせる ---------------------------- [自由詩]三連目/佐々木妖精[2008年8月15日0時04分] カレンダーに埋まった部屋を捨て ベランダの柵に腰掛け 昨日から漏れてくる声と対話する ずいぶん意見の合うやつだ 好きな食い物が一緒だし 口癖もどうせだし 財布の中身もよく似てる 大抵俺の方が少ないのは気になるが 従順な脚が風に飛ばされ 空のはずのペットボトルに引っかかる ムジナが中で息を殺している 黒眼しかないつぶらなうつろ 拾う手は空を切り 黒いアクエリアスは転がって 8階から身を投げる 逃げ場を失い 人臭さが身につくのを恐れたのだろうか 獣の考えることは分からない それとも やつも俺と同じなのだろうか○にたい だらしのない生き方 砂時計のように時を告げる通帳この手を放して 空にもたれかかったら 家族や彼女の中 飛びこめるだろうか 早世したずるいやつらを なじりにいけるだろうか あるいは草木に吸収され 全ての生命が滅びるまで 残り続けるのだろうかこの獣は始末に負えない 何せ死ぬことにすら 希望を見出してしまうのだから指先を柵と同化させる 死にたい 優れた詩のように 誰もが認めるような 矛盾なき飛躍を終連で放ち 正面から満足して ---------------------------- [自由詩]迎え火/佐々木妖精[2008年8月21日8時48分] 電気コンロを見つめ 一夜限りの放火魔が 燃えるものを片手に ライターをふらつかせる 背丈より高くはためく炎 身投げするクスサン 手繰り寄せられそうな 上気した青年の手つきと 恐る恐る駆け回る子供の光沢 苦笑いを浮かべる老人の声 大きくなったらなと 引き継いだ任務を 遠方でひとり もくもくと想像する あの日に帰りたいとか 血迷わないよう のろしなど上げ この世のものに無事を知らせ あの世のものを引き止め 共に眠るために戻ってどうなる? 廃村でも燃やし 麦飯にありつくのか?切符を抱く少年に語りかける まあ スイカでも食おう まるまるいっこひとりじめ ここは二十四時間 スイカが買える土地 生まれ育ったものと 失ったもので作り上げた街 ---------------------------- [自由詩]ジャンキー/佐々木妖精[2008年9月19日5時03分] 乳母車からはみ出した者へ 薬を与え続ける 金で夢が買えるのだと 無防備な口から漏れる声を 塞ぐ優しさなど知らずに 俺は夢を買ったのだ たまに二枚以上入ってる ラーメンばあなら見抜ける厚さ たがラーメンばあは妥協の形 山盛りのビックリマンチョコ 鷲掴んで舞う子供 レアシールの二、三枚 急勾配でぶちまけようと もう泣かない次元で買い込んだ 俺は夢を買う人間 夢を叶えた大人 期待値追ってぶん回し 夢に埋もれて車輪を回し 高みからダブリをばら撒く 拾うがいい金なし子 拾うがいい夢を捨てた大人 チョコもばら撒く進駐軍 俺はカミカゼバンザイアタック 君はカミカゼサヨナラアタック 我々は往復する片道の燃料で ヘドロから土くれへとんぼ返る どうせ死ぬのだと呟く人 なぜ死んだと嘆く人 横転した乳母車を置き去りに 車輪だけが移動する ボックス買いすればよかったと ハズレくじばら撒き嘆くなら 自由へと踏み外せばいいのに 恐る恐る覗いた1階は やかましく私有地につき 誰の子を蹂躙するか 分かったものではないと 迷いの中へ引き返し 乳母車を押す老婆を眺め 追い風を吹く ---------------------------- [自由詩]こういうそこ/佐々木妖精[2009年4月28日0時40分] 森を眺めるようにビルをたどる 窓から窓へ目を移し 切り貼られた深さと切り抜かれた感触を行き来する 昨日この先で見つけた あの場所は今日も見えるのだろうか 高さを計るように 首を真上へもたげることで ビルは深く消えゆき 見たいものしか見えなくなる 眼の中へ飛び込むものは空しかなく はみ出すものは鳥しかない 大量の鳥 鳥の合間に翼があり 翼の隙間に羽根があり 羽根の上に空がある 空の隙間にあるあの場所は 僕には果てしなく遠く思えて かつて人々はこぞって高みを目指し 理想を手に 野望を胸に秘め 希望を塗り固め 競い合い夢を積み上げた ソレンはウサギの目を赤く染め 人民はいまだ餅の配給を待ち長蛇の列 あの頃は大変だったよね けどいい時代だったなんて UFOは天使の着ぐるみを脱ぎ捨て ワレワレハウチュウジンデスと声を揃える 金属的な皮膚から一様に輪っかがはみ出し浮遊している 手を差し込み空間を探っても 針金のようなものはない ここはどこですかと踵を浮かせ ツルツル頭(?)を起伏に沿い撫で呟く どこということはないのですが、どこというひとはいるんですねと微笑む まるで宇宙人ワレワレモ宇宙人そう声を揃え スターリンヨシフスターリン あ、レニングラード 三日月状の縁はニヤニヤと生臭く クレーターのおうとつが指を噛む いつまでこうしていれば見えますか 僕は感触しか知りません 望遠レンズも青空がこんなふうに塞ぎ込みます そう深さの足りない目張りです 夜空になったら見えますか 惑星衛星恒星 どれもこれも眩しくて ここが月だという確証が持てないんです ---------------------------- (ファイルの終わり)