あおばの未有花さんおすすめリスト 2007年4月18日9時42分から2015年6月3日9時23分まで ---------------------------- [自由詩]うた/未有花[2007年4月18日9時42分] わたしのなかのうたが 青い蝶になって 空の彼方へ飛んで行った 鳴り止まないオルゴール うたのないまま時は過ぎて 今頃おまえは どこを飛んでいるのだろう どこでうたを歌っているの 戻っておいで 戻っておいで わたしのなかに わたしは言葉をなくして 途方に暮れる いつか青い蝶をみかけたら それはきっとわたしのうた 気まぐれに あなたのもとへ飛んで行って やさしいうたを歌うだろう ---------------------------- [自由詩]白昼夢/未有花[2007年5月9日9時23分] 蒼穹はさらに深く 眩い雲はほのかに流れ行く 若木の緑をそよがす風は 初夏の薫りを匂わせながら 見晴るかす彼方へ消えて行く 雲のまにまにのぞく天色(あまいろ)に いつか見た白い炎が燃える あれは神々の聖なる篝火 地上を照らすための白色光(はくじっこう) この長閑(のどか)な午後の日の 燦々と輝く光さながら ーー夢を見た 神々の栄光の日々を・・・ ---------------------------- [自由詩]露草色の空を ー海へー/未有花[2007年5月23日9時18分] 露草色の空を のどかな雲が流れて行く いつか見た雲が白い蝶をかたどって 私の頭の上を 風に吹かれて飛んで行く どこへ行くのと手を振ると 今度は白い子馬となって 東の空へ駆けて行った 新緑の頃の風はいじわるで ひららら 歌いながら通り過ぎていく ひららら ひららら 翠色の声が響く ひららら ひららら 海へ行こうと私を誘う いつしかそれは 郭公の歌声に変わって 森の奥へと静かに消えて行く かすかに光る宝石は蒼いビードロ 近づくごとに透き通る波の音がする あれは秘め事を隠すために 海が歌うひそやかなファンタジー 誰も知らない国へ行こうと歌っている 私も心を海鳥の翼にのせて 海が歌う誰も知らない国へ行ってみる ---------------------------- [自由詩]かいちゃんともしもし/未有花[2007年6月6日9時32分] 「もしもしかいちゃんいますか?」 かいちゃんは今日も おもちゃの受話器を耳に押し当て どこかへ電話をする 「もしもし もしもし」 まだ言葉にならない言葉で 一生懸命お話をする 「かいちゃん誰とお話してるの?」 って聞くと はずかしそうににこって笑う 「もしもし もしもし」 かいちゃんの声が響く 誰とお話してるのか気になるけど 今は邪魔しないでおくね ただ今 かいちゃん電話中 ---------------------------- [自由詩]かいちゃんと秋/未有花[2007年11月20日11時45分] 赤い葉っぱ 黄色い葉っぱ これは茶色 秋はいろんな色の葉っぱがあって とっても楽しいね 枯葉を踏む音だって サクサク ガサガサ いろんな音がしておもしろい 歩くのがおそかったかいちゃん 今は歩くのがとっても楽しいみたい お兄ちゃんのバスを迎えに行く いつもの道 君はママの手を振りほどいて ひとり走って行ってしまう そんなにいそがなくったって バスはまだ来ないのにね 歩き始めた頃はお外がこわくて なかなか自分から歩こうとしなかったけれど 今ではお外大好き お外にはいろんなおもしろいことがあって 君の好奇心をいっぱいいっぱい満たしてくれる ほら もうみつけた! 君の手のひらにはどんぐりの実 そうやってどんどん君は成長していくんだね 帰り道 お兄ちゃんと先を競うように 道をいそぐ君 そんなに走ったら転んじゃうぞ ゆっくりでいいから のんびりでいいから 少しずつ大きくなあれ! ---------------------------- [自由詩]新しい年のために/未有花[2008年1月4日14時47分] 蒼い影を映して続く冬の森には 透き通った何かが隠れている 凛と張りつめた空気の中で 何かが動き始めている それは凍りついた木々の向こうに 広がるはるかな世界 白いやさしい時間(とき)が待っている 誰もがまだ見たことのない 素晴らしい未来 さあ出かけよう扉を開けて 新しい一歩を刻み込もう 真新しい雪の上に 君だけの足跡をつけに行こう 新しい年のために 未来は君だけを待っているから ---------------------------- [自由詩]虹を見ていた/未有花[2008年2月18日13時51分] 虹を見ていた 空に放物線を描く光の帯を 虹を見ていた あの日君と眺めた七色の輝きを 虹を見ていた ただ黙って見ていた 思い出は今も胸に消えない懐かしい橋をかける あの日僕らは雨上がりの森を 虹を目指して駆けて行ったんだ 虹は森の向こうで僕らを呼んでいた 道はぬかるんで靴が汚れてしまったけれど 僕らはぜんぜん気にならなかった ただ空の向こうにかかるあの虹に 一刻も早くたどり着きたくてひたすら走り続けたんだ 森を抜ければ虹にたどり着く あの時の僕らはそれを信じて疑わなかった そしてあの虹に触れることができたなら 夢は叶うとそう信じていたんだ けれども森を抜けても虹にはたどり着けなかった 虹は目の前に広がる草原の空の向こうに ただ夢のように輝いていた 僕らはただ黙ってそれを見ていた 虹を見ていた 空に放物線を描く光の帯を 虹を見ていた 決して手にすることはできない夢の輝きを 虹を見ていた いつしか消えてしまう けれど永遠に忘れることのできない僕らの虹を 今君は遠く離れた街で暮らしている 君にもこの虹が見えるだろうか あの日手にすることができなかった夢を追いかけて 君はこの街から出て行った 僕も夢はまだあきらめていないけれど 今はただ静かにここから見ている 七色の便箋に手紙を書いて君に送ろう まだ夢を忘れていないと 僕らの虹はまだ消えてはいないと 僕の街から君の街へ橋をかけよう 空に輝くあの虹のように いつか僕らの夢が叶うように 虹を見ていた 空に放物線を描く光の帯を 虹を見ていた あの日君と眺めた七色の輝きを 虹を見ていた ただ黙って見ていた 思い出は今も胸に消えない懐かしい橋をかける ---------------------------- [自由詩]シギ/未有花[2008年3月11日12時46分] シギ シギ 森へ行こうよ 春の夜明けに 紅い三日月が出たよ たくさんのアゲハ蝶が 群れをなして舞い踊る あの草原へ行こうよ 森を抜けたらもうそこだ あの貴婦人に会いに行くよ シギの来るのを待っててくれる さびしいあの人に会いに行くよ 紅い三日月が欠けぬ間に 森へ行こう シギ ---------------------------- [自由詩]緑色の雨が降るとき/未有花[2008年6月6日12時02分] 緑色の雨が降るとき どこかで誰かが泣いている そんな気がしてならないのは あの日君と出会ってから やさしい心の奥で 僕は君を求めている このままやるせないままで 雨に打たれるのもいい 涙が止まらないのは誰のせい せつなさにうなだれて 僕は君ばかり思っている 緑色の雨が降るとき 悲しい歌を思い出す ひとりでいると淋しくて 君の面影探していた 頬を伝う涙さえ 恋とは知らないでいた このまま君と会わないで 雨に打たれるのもいい ---------------------------- [自由詩]かえる/未有花[2008年8月5日13時52分] むっとするような草の匂いをかぎながら 僕は雨を待っているんだ こんなふうに湿った空気の朝は 何だか楽しくてしょうがない もういいかい まあだだよ ほら向こうで呼んでる声がする ほらこっちでも もういいかい まあだだよ あちらこちらで響く 雨を待ちわびる声たち もうすぐだよ もうすぐ雨がやって来る ぽつり ぽつり 僕の頭の上に落ちて来る 冷たい雫 嬉しいなあ 楽しいなあ つやつやに濡れた緑色の葉っぱの上で 僕は思いっきりジャンプした ---------------------------- [自由詩]黄昏色の空の果て/未有花[2008年9月16日8時19分] 黄昏色の空の果て ひとりっきりの帰り道 誰を待っていたのだろう 誰を探していたのだろう 電信柱の長い影 淋しいようと風の吹く 黄昏色の空の果て 家路をいそぐ鳥の群れ どこへ行くというのだろう どこへ帰るというのだろう お家は遠いまだ見えぬ 泣くのはだあれと風の吹く 黄昏色の空の果て 心によぎる思い出は 何を求めていたのだろう 何を探していたのだろう 誰も知らない夢の跡 いつかまたねと風の吹く 黄昏色の空の果て ---------------------------- [自由詩]秋/未有花[2008年10月2日13時18分] 静かな木漏れ日の向こうに やさしい香りに包まれた人がたたずむ 朽ちた古城を背景にその人はいた それは昔々の神話のような 何と感傷的な横顔 アポロンかエンディミオンを思わせる 木漏れ日は宝石のかけらとなって この黄昏の時を止めた 秋にはひとり淋しげな人が 時を忘れて昔を偲ぶ まどろみながら日の沈むまで ---------------------------- [自由詩]リューヌ 〜月という名前の黒い猫〜/未有花[2008年10月28日12時40分] リューヌ 思い出して私との約束 おまえはどこに行ってしまったの ある日突然いなくなった私の猫 リューヌ 何度もおまえの名を呼ぶけれど 私に答える声はもうないの ただおまえに似た夜がそこにあるだけ ずっとそばにいるって約束したのに どうしていなくなってしまったの そのビロードのような毛皮を もう一度撫でさせて リューヌ リューヌ 月という名前の黒い猫 おまえは今どこにいるの リューヌ 隣の町でおまえを見かけた 魔女とうわさのある家の前で 眠っていたおまえそっくりの猫 リューヌ 魔女の箒に乗って空を往くよ もうふつうの猫には戻れないの もう私のことなど忘れてしまったの あんなにふたり仲良しだったのに どうしていなくなってしまったの またおまえのいない夜が来て 私はひとりぼっちよ リューヌ リューヌ 月のような瞳の黒い猫 おまえは今どこにいるの ---------------------------- [自由詩]日没幻想/未有花[2008年11月19日12時39分] 林の向こうに星が落ちた 遊びつかれたカラスが 西の方へ飛んで行った あたりはワイン色になって 夕闇に沈んだ 遠くで一匹犬が鳴いた 町に人影がなくなった 青白い三日月がひとつ 水銀灯の上に出ていた ---------------------------- [自由詩]迷子/未有花[2009年2月3日8時00分] 世界中にあふれている たくさんの言葉たち きれいな言葉 やさしい言葉 愛にあふれた言葉 どれもみんな素敵だけれど でもちがうのよ 私が探しているのは 胸にかちりとはまる 私だけの言葉 それさえあれば この世界から抜けられるというのに その言葉がみつからなくて 私は今も迷っているの 友達との会話も 続かなくてとぎれがち うれしい言葉 楽しい言葉 心が躍る言葉 どんな言葉も通り過ぎて 迷子になるわ 私が探しているのは どこにいたってわかる 私だけの言葉 それさえあれば 迷わずに何でも言えるというのに その言葉がみつからなくて 私はいつも無口になるの 言葉は不思議ね それひとつだけで世界は変わる みつけたい 私だけの言葉 それがきっと世界を救うの ---------------------------- [自由詩]イマジネーション/未有花[2009年2月17日13時07分] あなたがそばにいるだけで まわりが海に変わる ほんの少しだけ夜のような ほんの少しだけミステリアスな海 このまま小さな魚になって あなたのまわりを漂っていたい あなたは私の梢を揺らす風 どんな言葉にも心が揺れて 私の庭を光と影で彩る 吹き抜ける一陣の風に このまま翻弄されてもかまわない あなたのために私は梢をのばす あなたは真昼の太陽 ガラス張りの温室から あなたをみつめるイマジネーション 私は小さな小さな花になる あなたの温かな光を受けて 精一杯背伸びをしてる私がいる ---------------------------- [自由詩]アネモネ/未有花[2009年3月24日13時38分] 風の中で震えていた瞳 あの日突然奪ったくちびるを 二度と忘れはしない 美しい少女よ 一生分の愛を君に捧げよう 自分勝手な愛で 君を愛し続けることを許して欲しい 例え永遠にこの腕で 抱き締めることが叶わなくても はかない希望と嘆くことはない 僕の罪も 君の苦しみも 風がすべて癒してくれるだろう 春はいつの日にもやって来て 君に喜びを与えてくれるから アネモネ アネモネ 花のように笑っておくれ 真実の愛を君に贈ろう 春が来るたび思い出しておくれ 愛は今もここにあると ---------------------------- [自由詩]夕暮れ 橙 さびしんぼう/未有花[2009年4月22日12時37分] 夕暮れ 橙 さびしんぼう だあれもいない公園で 影踏み かけっこ かくれんぼう 風といっしょに遊ぼうよ いつも泣いてる あの子とふたり 遊びにおいで またおいで ぶらんこ お砂場 すべり台 夕日に染まって待っている 明日も遊ぼって待っている 夕暮れ 橙 さびしんぼう だあれもいない公園で ---------------------------- [自由詩]ガーデン/未有花[2009年5月19日13時04分] 薔薇をあなたに 五月の薔薇をあなたにあげたくて 私はひとり庭をさまよっている ハーブの花畑を通って クレマチスの花園へ キングサリのアーチをくぐったら そこはもう薔薇迷宮 色とりどりの薔薇が咲き乱れる美しいガーデン だけど気をつけて ここは妖精たちの秘密の花園 その声には決して答えてはいけない 言葉を発したならそれだけでもう彼らの虜 二度とここから出ることはかなわない 惑わされないで慎重に進んで行けば やがて白い薔薇の咲く花園へたどり着く 一輪だけ真紅の薔薇の咲く それはそれは美しい花園 ナイチンゲールが命をかけて咲かせた特別な薔薇 血のようなその薔薇は あなたのドレスの胸元を華やかに飾ることだろう この薔薇をあなたに 美しいあの人に贈ろう きっとあなたは私を ダンスのパートナーに選んでくれるに違いない ふとくすくすとしのび笑う声に我に返る どれだけそこに立ちつくしていたのだろう あわてて真紅の薔薇を手折って走り出せば 薔薇の迷路に迷って出られないことに気付く ああこれは彼らの罠なのだ きっと知らないうちに 声に答えてしまったのかもしれない 永遠に続くかのような薔薇迷宮の中で 私は今でも出口を探している ---------------------------- [自由詩]夏の魔法/未有花[2009年7月15日12時43分] 夏休み前の教室で ぼんやり先生の授業を聞いていた 教室の窓の外では アブラゼミがうるさいくらいに鳴いていて 授業に集中できない僕の頭の中を これでもかというほど占領していた ジージー いっこうに止む気配のない蝉の声 いつしか時間が止まったみたいに 僕のまわりは蝉の声で充満していた ジージー ジジッ 突然蝉の声が止んだかと思うと 僕は目眩のような感覚におそわれて その時何だかわかってしまったんだ これは夏の魔法だ アブラゼミがかけた特別な魔法なんだ ふとまわりを見渡すと 何事もなかったかのように授業は続けられていて 気がつけば蝉の声も またうるさいくらい鳴き始めていた それにしても蝉の声が 前と違うように聞こえるのはなぜだろう きっと僕が彼らの秘密を知ったからに違いない アブラゼミがかけた魔法に 僕もかかったかどうかはわからないけれど 今年の夏休みは いつもの年より特別なものになりそうな気がして 自然と笑みがこぼれた ---------------------------- [自由詩]私がふたごだったとき/未有花[2009年9月3日12時57分] 私がふたごだったとき ずっと森で暮らしてた ふたりおそろいの服を着て 毎晩同じベッドで夢を貪りあった ふたり一緒にいること それが当たり前の世界だった 私がふたごだったとき 世界はひとつきりしかなかった 庭にはいつも同じ花が咲き 季節は春と夏しか知らなかった 変わらない風景と代わり映えのしない日常 狭い箱庭の中の世界がすべてだった 私がふたごだったとき 空想することが生きている証だった ふたり裸足で森を駆けめぐり 森のあちこちに物語を埋めて歩いた いつか思い出したときにまた読むために 埋めたところには必ず目印をつけた 私がふたごだったとき こんな幼い夢がいつまでも続くと信じていた 世界は私たちを裏切ることなく 少女のままずっと一緒にいられると思ってた 大人になる日が来るなんて 恋をする日が来るなんて永遠に来ないと信じていた だけど大人になって恋を知ると 私たちはふたごでいられなくなってしまった やがて森は消えてなくなり 季節に四季があることを初めて知った 空想だけで生きていけるわけもなく 少女の幻想はあっけなく壊されてしまった 私がふたごだったとき それはきらめく光にあふれた記憶 愛しくも愚かなやさしい時間 物語の続きだけは森の中に隠されて いつしか母となり新たな命を宿したとき きっとひそやかな夢の息吹を感じることだろう ---------------------------- [自由詩]秋は詩人/未有花[2009年10月14日12時38分] 道を歩いていたら 言葉が落ちていたので 拾いながら歩く 拾った言葉を並べてみたら 詩のようなものができたので 額縁に入れて飾っておく 紅葉が一枚 はらりと落ちて そこからまた言葉が生まれて行く 秋は詩人 たくさんの言葉が生み落とされて 落ち葉のように そこらじゅう言葉で埋め尽くされて行く 世界はたくさんの詩であふれている 夕焼け空を眺めながら ススキ野原で風に吹かれながら また言葉でも拾いに行こうか ---------------------------- [自由詩]森へ 〜私が狼になった日〜/未有花[2009年11月10日12時53分] 走って 走って 狼に追いつかれないように 走って 走って 森の奥へ奥へと 走って 走って 走って! 「森の奥へは決して行っちゃいけないよ  おまえのような若い娘は狼の大好物だからね  行ったら食べられてしまうよ」 「それならどうしておばあさんは  こんな森の中にひとりで住んでいるの」 「狼は年寄りなんか食べないのさ  だから私は平気なんだよ」 森には怖い狼がいるから 行ってはいけないとおばあさんは言う 狼なんて私知らない 狼って何? ううん 本当は知ってる これは私だけの秘密よ みんなが寝静まった真夜中 お母さんとお父さんは狼になる 荒い息遣いと獣のような唸り声 誰も知らない私だけの秘密 大人になったら夜はみんな狼になるのかしら 私は狼になんかなりたくないわ だから大人になんてならなくてもいい 私はいつまでも少女のままでかまわないもの そんなときお母さんにおつかいを頼まれたの 森に住んでるおばあさんの家まで荷物を届けに行くのよ お母さんは言う 「寄り道をしてはいけませんよ  知らない人に話しかけられてもついて行っちゃダメよ」 そんなのとっくにわかっているわ 私はもう子供じゃないんだから ただお花があんまりきれいだったから おばあさんに摘んで行ってあげようと思っただけ 私がお花を摘んでいると ハンサムな狩人さんに声をかけられたの 彼のお話はとても楽しくて 私も彼について行きたかったけれど おばあさんの家に行かなきゃね 名残惜しいけど 彼と別れておばあさんの家へ急いだの そしたらおばあさんはいなくて なぜかハンサムな狩人さんがそこにいたの 「おばあさんはどこへ行ったの」 「おばあさんなんて最初からいなかったんだよ」 「それならなぜあなたはここにいるの」 「僕は君をずっと待っていたんだよ」 彼はそう言うと私を抱き寄せて やさしくキスをしてくれたの ハンサムな彼にみつめられると 私はもうとろけてしまいそう それから私たちは狼みたいに愛し合ったの 「これは罠なのかしら」 「いいや 違うよ  僕たちはみな狼の血族なのさ  愛し合うときにだけ本当の姿に戻れるんだよ」 森の奥へ狼が駆けて行く 私たちはどこへ行くのかしら それはきっと誰にもわからないことなのね 走って 走って 狼に追いつかれないように 走って 走って 森の奥へどこまでも 走って 走って 走って! ---------------------------- [自由詩]彼岸花/未有花[2011年10月3日9時42分] 友達と遊んで別れてひとりきり 空はとっぷりと日が暮れて すっかり遅くなった帰り道 お家に帰りたくないよう きっとお継母(かあ)さんに叱られる きっとお継母(かあ)さんは怒ってる 重たい足取り引き摺って うつむいて歩く畦の道 彼岸花が燃えてるように ずっとお家の方まで続いてた 燃えろ 燃えろ 全部燃えてしまえばいいんだ 空を真っ赤に焦がして 炎のような彼岸花 少女は彼岸花を手折ると 急ぎ足で道を進む これでお家に火をつけよう そうすればきっと お継母(かあ)さんに叱られなくて済む お継母(かあ)さんに怒られなくて済む 彼岸花 炎のような彼岸花 燃えて 燃えて 全部燃やしてしまっておくれ 炎が消えてしまわないように 彼岸花をしっかり握って 少女は道を急ぐ 少女の進む道は きっと地獄へと続く道 道に咲いているのは地獄花 彼岸に誘(いざな)う 赤い炎 空を焦がして ---------------------------- [自由詩]光/未有花[2012年6月4日8時44分] 光はあふれる 白亜の建物(ビルディング)の上に 海鳥の白い翼に 青くうねる海原に 光はあふれる 光は波打つ どこまでも続く青い穂波に 涼やかに流れる川面に 青い空と風の中に 光は波打つ 光はうつろう アスファルトの影模様に 縁側で寝そべる猫の背に さやさやとそよぐ樹の葉に 光はうつろう ---------------------------- [自由詩]ざわめく/未有花[2013年5月2日9時36分] 鮮やかな緑の波を揺るがして 強い風が吹き抜けて行く その風にあおられるように 忘れていた何かが目覚めようとしている あなたと出会ったのはこんな緑の季節でした お互いに愛し合いながら傷つけあった二人 そんな二人がうまくいくはずもなく結局恋は実らなかった 今ではもう忘れてしまったあなたへの想い でもこんなふうに風の強い日は心がざわめいて あの時の想いが溢れて来てしまいそうで 怖いのです ざわめく ざわめく ーーあの日恋は終わったはずなのに ざわめく ざわめく ーー心の奥で悲鳴をあげている想いに気づく すべてをなぎ倒して 風は緑の中を駆け抜けて行く その風にあおられるように 忘れていた何かが目覚めようとしている どうしようもない想いに翻弄されながら 私はひとり風に吹かれていた ---------------------------- [自由詩]ため息/未有花[2013年7月3日9時10分] 黄昏の街を駆けて行く影法師 眩暈にも似た既視感に いつまでも立ち竦んでいた きっと夜はまだ遠い * 退屈な雨の午後 迷宮のような街を眺めていた 陰鬱な気持ちを弄ぶように 霧雨がすべてを隠して行く * 戯れに言葉を紡いで めちゃくちゃに文章を綴る いい加減気付いたらどうだ 厳しい現実というものに * ためらいがちに弾く メンデルスゾーンの夜曲(夢) 祈るようにいつも思っていた 君の笑顔に夢で逢えたらと * 例えばこれが夢で 目覚めればすべてが元に戻っていたらと 一抹の希望を胸に朝を迎えても 記憶が戻ることは決してない * 誕生日を迎えるたびいつも 迷惑な朝日にとまどう いくつもの時を数えながら 今日という日にため息 ---------------------------- [自由詩]セイレーンの歌/未有花[2014年7月3日9時43分] 風が変わったら彼に伝えて セイレーンの歌を聴かせてあげるわ 一度聴いただけで夢中になるのよ 海が青く輝いたならそれが合図 やさしくしないであの頃の私は 恋に夢中になりすぎて何も見えなかったの あなたが別の人を愛しても そばにいられるだけでよかったの このまま海の泡となって すべてを忘れることができたなら 今さら海へ帰ることさえかなわない この身を呪わずにすんだのに 風が変わったら彼に伝えて セイレーンの歌を聴かせてあげるわ 今でもあなたが忘れられないの あなただけを胸を焦がして待っていると 冷たくしないであの頃のように もう一度抱いて欲しい今はすべて忘れて あなたが愛したのは私だと 信じさせてよその腕の中で このまま時が止まればいい 誰にもあなたを渡しはしないわ 今は私の瞳だけみつめていて 二人きりの愛に溺れて行くの 風が変わったら彼に伝えて セイレーンの歌を聴かせてあげるわ 一度聴いただけで夢中になるのよ 海が青く輝いたらそれが合図 ---------------------------- [自由詩]黄昏よ/未有花[2014年9月3日9時34分] さよなら さよなら 季節は足早に過ぎ去って行く あの頃の思い出も見上げた空の色も 今では遙か黄昏の彼方に 黄昏よ いつの日もおまえはそばにいてくれたね どんな時もその光に包まれれば 深い悲しみさえ解けて行くような気がした ひとときの癒しに救われてまた 明日へ向かって歩き続けることもできた だけど今こんなに ひとりぼっちを感じるのはなぜだろう いつでも淋しさを抱えて生きて来たけれど 足もとがおぼつかなくて まるで砂の上を歩いているよう 黄昏よ このどうしようもない悲しみを癒しておくれ 涙が止まらなくて オレンジ色の空がだんだん滲んで行く 泣きたいだけ泣けばいいさ きっと悲しみも涙と共に流れて行くだろう さよなら さよなら 季節は新しい風をつれて来るよ 気が付けば秋の気配に包まれて 思いは遙か黄昏の彼方に 振り返らずに歩いて行こう 黄昏よ 今日も見守っておくれ 明日へまた一歩を踏み出そうとしている私を ---------------------------- [短歌]悲しみの季節/未有花[2015年6月3日9時23分] くちびるから悲しみのエコーもう二度とさよならなんて言いたくないのに 金色の雨になって会いに来て閉じ込められた私はダナエ ひとしずく君の涙がこぼれたら小瓶に入れて取って置きたい 聴こえるか心の奥の潮騒が寄せては返すこの悲しみが 思い切り泣いたらきっと海になる部屋いっぱいの涙の雨で さようなら今でも耳に残ってる別れの言葉嘘だといいのに また廻る悲しみの季節に涙して空も泣いてる土砂降りの午後 ---------------------------- (ファイルの終わり)