吉岡ペペロのRin.さんおすすめリスト 2007年9月19日20時18分から2010年2月13日0時10分まで ---------------------------- [短歌]カジノ/Rin.[2007年9月19日20時18分] 捨ててきた夏のカードと引き換えに虹よりたしかなセヴンブリッジ 仮面の下で抜いた剣(つるぎ)に嘲笑う君を刺すのもまた運命(さだめ)かと 夢見よう手札はいつも風まかせ無罪革命あきらめが敵 スロットが走馬灯だと言うならば揃った絵柄は海岸5月 賭けるのは口付けだけとポケットのコイン確かめライムを舐める 負けてあげる8(エイト)ボールは炭酸でごまかされてるカナシミでしょう 宇宙船は36のステイション飛び越え還るゼロの赤星 ---------------------------- [短歌]LUNA/Rin.[2007年10月1日21時33分] 髪をすく仕草で届きそうな月青い温度は抱きしめて知る スカイタワー高層ビルに隠された月を映せり「ひとりじゃない」と 宇宙には同じ星などないそんなことは昔に確かめ合った だから月に名前をつける母が私に「あげたかった」という二文字   ルナ 泣いたけど月が明るい今日のためあなた私を放したのかな だとしたらやっとあなたに「ありがとう」言って今宵を記念日にする ---------------------------- [短歌]タトゥー/Rin.[2007年10月18日1時23分] 緋の蝶を君のみぞ知る胸に彫る無血のいたみ翅広げ咲く 手のなかの諸刃はいつしか時じくの命となりて食らうかなしみ 疼くはばたき連れて生きるというならばわれをともない生きてくれぬか ---------------------------- [短歌]響乱花/Rin.[2007年11月4日10時45分] 舌先が絡める熱い銃口の鉄の苦みは血の味に似て 約束の指でいざなうライフリング自我突き破る濡れた弾丸 背徳を縛る鎖の錠を撃つ。ふたつの魂(たま)は逝く果てもなく ---------------------------- [短歌]組曲「白のみちゆき」/Rin.[2007年11月16日16時41分] 「ブリザード」 梢吠え闇の怒りと共鳴し生を償う旅路震わす 零℃切るなみだ氷雨が張り詰めた世界の銀を裂くデリュージョン ブリザード膝つき見上げる万華鏡身を刺す寒もいまは煌めき 瞳を開けて捉える地上の大銀河扉絵にするエピローグの序 「ラスト・モーニング」 君がため踏む跡残し高みさせば白樺冬のかげろひがごと 風冴へて研ぐ雪の花白く燃えかたみを守る心二重に この夜だにとく果てなむと見る空に似るもののなき玉のきざはし ふたたびと暮るることなき世の白は春といふ名を誇るまどろみ ---------------------------- [短歌]モノクローム in the world/Rin.[2007年12月8日22時05分] 白空のヒビは街路樹の冷たい手 聞け言の葉の声をココロで 外套の襟をかすめる単音のグロリア今宵は木枯らしのイヴ ---------------------------- [自由詩]さくら色の手紙/Rin.[2008年2月10日9時49分] 風になり、花になり ずっとそばで――― 今日は街に雪が積もって めったにないことだとニュースでも騒いでいました わたしはそのことが少しばかり怖くて あなたの手を握ったのです やわらかく華奢な手だ、と 初めて気がつきました 思い出したように引き出しの奥から 一枚の便箋を取り出して かすれる、さくら色 その小さな手で綴られた言葉は あなたの呼吸が薄まるほどに力を持って わたしを抱きしめるのです だから さくら色の手紙、あの日 捨ててしまえばよかった 遠く離れた部屋で 風にも花にもなれず、その苦しみを あなたに背負わせながら 明日は晴れるでしょうか 紅茶を入れましょうか 彼はもう目覚めたでしょうかと そなことを考えるあいまに ふと溢れてくる涙 そういえばゆうべあなたが流した涙は あまりにも澄んでいたと父から聞きました あなたの前で泣かないことも ありがとうを言わないことも 許してください さくら色の手紙 返事は書きません 雪はもうやみました ---------------------------- [自由詩]青を、/Rin.[2008年2月18日17時36分] くしゃみをひとつする、と 私たちは地球儀から滑落して空に溺れる あの日グラウンドから送った影は 手をつないだまま鉄塔に引っかかっていて 捨てられたビニールのレインコートのようだった バス停が流れてきても 相変わらず学校だけはちゃんとあって 3組の窓枠に彼女がしがみついていた 私より息継ぎがうまいのだから、いっそ 手を放してしまえば自由になれるのに 待ち合わせの駅前にはもう誰もいない これでやっと、本当にひとりになれるのだろう    * 最後の校歌も青に沈んで そういえば私、どうしてここに 理科棟の洗い場で鏡を見つめていると みるみる髪の毛がささくれて 私が溶けはじめる そうやって体が広がってしまうから どうにも隠れることができない 卒業という単位から    * 名前も知らない青を泳いで 私たちはひとつずつくしゃみをする 繰り返すサヨナラのように ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]カザナギAtoZ/Rin.[2008年2月20日23時24分] A・・・アンパンマンに・・・   アンパンマンのアニメに「肉マン」というキャラがいたら面白いのに・・・とは随分前から思っていた。ここで勝手にどんなキャラか解説したいと思う。もちろん顔は肉まんであり、交換可能である。ただし、アンパンマンたちとは違って、顔をちぎって子どもにあげるときに、恐ろしく痛そうな顔をする、実に人間味のあるキャラである。切り口からは湯気がモワリと立ち上り、肉汁がダッラーーとあふれ出す、泣く子も黙るキャラである。  しかし、顔立ちは食パンマンを越えるニヒルな二枚目。声も実に渋く、8頭身である。  とまあ、実際に使われたらシュールすぎてクレームの対象にもなりかねないが、「R18アンパンマン」で活躍してくれれば応援したいと思う。 B・・・ぶちゃちゃ   「ぶたが道をゆくよ〜 ぶちゃちゃぶちゃちゃ・・・」もしかして同世代であれば、このような歌を子どもの頃聞いたことがある方がいるかもしれない。  「向こうから自動車がくるよ ぶちゃちゃぶちゃちゃ」 そしてサビは  「ぶたは死ぬのがイヤだから 自動車をよけてゆくよ ぶちゃちゃぶちゃちゃ」 で終わる。昔は意味もわからず楽しく歌っていたものだが、よくよく見るととんでもなく面白い歌詞である。子どものお遊戯ソングの歌詞は奥深い。「ぴよぴよちゃん」の歌はご存知だろうか。これは大人が歌うと、使いようによってはpppppである。詳しくは「P」の蘭で。 C・・・チンパンジー   ある友人と電話で話していたときのことである。何だったかとぼけたことを言った彼に対して、私が 「一般人はそんなこと考えへんで。」 といったところ、相手は「一般人」と「チンパンジー」を聞き間違えて 「誰がチンパンやねん!!」 と絡んできた。ちょっとその要素のあるお顔立ちだからたまったもんじゃない。それ以来「チンパンジー」は私のツボとなった。 D・・・でかい   残念ながら胸の話ではない。身長である。今でこそ平気でヒールをはくが、下手をすると180cm近くになってしまう。昔は「180cm以上の人」というのが恋人の条件だったが、贅沢は言ってられないことに最近ようやく気がついた。それでも実は一家で一番背が低い。カザナギ家は笑ってしまうほど巨大一族なのである。 E・・・絵心ゼロ   中学のとき、美術の筆記試験が学年でトップだったにも関わらず、成績が「2」だった。ひどい話である。幼稚園のころ、川を描くため画用紙の下3センチくらいを水色のクレヨンで塗り、その後にカニを乗せるための岩をライトグレーで描いたとたん、先生に「どうして空が下にあるの!」と怒られた上、画用紙を反転させられてしまった。本当にひどい話である。 F・・・古着屋   4年間働いていたことがある。若者向けの店舗のほかに、年に数回、なにわマダムを相手に百貨店出店も行っていた、が、これがスゴイのである。なにがスゴイかって、すべてがスゴイのである。直径80cmの麦わら帽子だとか、ビッグバードもビックリの黄色のファーコ−トだとか、まあ置いているものもすごいのだが、買ってくれるマダムもスゴイ。そこで発見した殺し文句は「上品」。たとえ全身ケモノ柄でも「お上品でお似合いです。」これでキマる。恐ろしい世界である。もしかしたら現在のカザナギファッションは「ぶっとんでる」とよく言われるが、こんなワールドから端を発したのかもしれない。 G・・・グリーンピース   グリーンピースに何の恨みもないし、嫌いでもない。しかし、天津飯やチャーハン、オムライスなどに入っているとどうにも許しがたい。なぜなら、彩りかなんだかしらないが、一気に料理が安物に見えるからである。某大学の学食では、カレーの大盛りの印が、上に一粒載ったグリーンピースなのだが、大体の学生は、レジに行くまで食べるか沈めるかしてしまう。存在感のないヤツである。私の目にはヤツは「ガチャピンのイボ」にしか見えない。  このような話を友人にしたら、逆に私のつけている緑のビーズのネックレスが「ガチャピンのイボにしか見えない」といわれてしまった。子どもならここで私のあだ名は「イボ」になってしまうところだ。子どものネーミングセンスは良いが残酷である。この話は「J」に続く。 H・・・ハイテンション   ありがたいかな「水で酔える」人種である。しらふのほうがテンションが高い。酒は苦手だ。体がだるくなるばかりで、ちっとも心地よくない。が、一度だけ酔って笑い出したきり止まらなくなったことがある。もう、駅周辺の看板を見ただけでおかしいのである。伊藤塾の伊藤さんやらUSJのキャラのしっぽの毛先やらに突っ込みながら、完全に靴屋と間違ってドラッグストアに入った私は、 「靴が売ってない!品揃えが悪い!」 と笑いながら怒っていたそうだ。どうも迷惑なヤツである。 I・・・犬の尻   最近気になって仕方がないものが「犬の尻」である。特にしっぽがくるんくるんの元気一杯のシバとか。もう、痛そうでいたそうでムズムズしてくる。全開で前を散歩されたりした日には、こっちが尻を押さえて逃げたくなる。本当に勘弁してほしい。 J・・・じゃこ   子どもというのは残酷なもので、ものすごいセンスのあだ名をつけてくれる。じゃこは小学6年のころの私のあだ名で、社会の教科書を音読させられたときに、「稚魚の養殖」を「じゃこの養殖」と読んでしまったばっかりに付与されたあだ名である。良く見たらじゃこって・・・・あんなヤツ・・・。とても切ない。  しかし子どものネーミングセンスは見習いたいものだ。誰がつけたのか、とある学校の理科教師のあだ名は「オクメハーデル」であった。なんのことはない「おそ松くん」のイヤミさんをロシア系にしたような顔の特徴を捉えただけである。 K・・・きよし   「私の知り合いの○○ちゃんに似てる」と言われても返事に困るんだよねという話は、以前どこかで書いたかもしれない。が、「氷川きよしに似てるよね。」と言われても返事に困る。もう、うなずくしかないのである。最近はカラオケで本人映像が見られたりするが、「ずんどこ節」のPVでひょろりとたなびいているきよしさんは、もはや他人とは思えない。  大体「誰に似ているか、という話になってこれを言うと、必ず笑われる。納得する前に絶対笑われる。気になる方は是非関西オフに・・・ L・・・ラブリング   いわずと知れたカルティエの名作である。以前友人が、クリスマスにもらったという同ブランドの指輪をはめていて、一気に火がついた。カルティエが、ほしい。とりあえず老若男女問わず、手当たり次第に交渉してみたが、当然願いは聞き入れられず、仕方なく自分で買うことに決めた。どうせならシンプルであわせやすく、飽きないものを・・・ということでラブリングを選んで一人で試着をし、貯金をはたいてて買ったわけだが、買ってから気がついてしまった。これは・・・つけられない。ただでさえ「もてないキャラ」でエッセイが書けそうなほど有名な私である。こんなものをつけていたら見栄か勘違い女ではないか。  というわけでかなしいからラブリングはお蔵入りとなってしまった。質に行く日も近いかもしれない。 M・・・むにゅ   チンパンジーの友人のはなしの続きである。彼は就職活動で某大手企業の面接を受けたそうだ。大きな会社というものは、やはり最初はグループ面接が行われる場合が多い。そこは5人でグループ面接だったらしい。彼は真ん中だったので気を抜いていたようだが、そうは問屋がおろさない。 「あなたの好きな音はなんですか?」 という思いがけない質問が、なんと一番に当たってしまい、とっさに 「は、はい!むにゅっ、デス!!」 と起立して答えてしまったそうだ。  もちろん見事合格し、最終面接で無念の敗退となったのだが、その会社というのが大手下着メーカーだったということはココだけの話にしておこう。 N・・・「ぬ」   「M」にも関連するのだが、就活では思いもよらない質問をされることがある。「自分を食べ物に例えたらなんだ?」とか、「色に例えたら何だ?」とか・・・・・。そんな中で「自分を平仮名に例えたら何だろう。」という質問を想定して友人と話をしていた。私のイメージは「す」らしい。まあスッキリさっぱりシャッキリなイメージなので嬉しかったのだが、これ、「ぬ」「も」「の」などはいかがなものであろう。ナンバープレートでも、たとえカッコイイ外車で、「・・・7」のようなナンバーであったとしても、平仮名が「ぬ」では笑ってしまう。文字のイメージというものの実に興味深いものである。 O・・・おモチ   母の高校時代の同級生Yさんは面食いで有名であった。ある日、母と二人で生徒会関連の仕事で某男子校に行ったYさんは、そこで二人の男子高生と出会ったそうな。1人は精悍なスポーツマンタイプ、もう1人は色の白いもさっとした感じの男子だった。後日、そのうちの1人からYさんに誘いの電話があった。彼女は母に 「Aくんから誘われたけど、Aくんがあのおモチみたいなほうだったらどうしよう・・・」 と不安げに言っていたらしい。が、よかったことにAくんはスポーツマンのほうだった。  その「オモチ」が現在の我が父であることを、彼女は知らない。 P・・・ぴよぴよちゃん事件   「B」の蘭で少し触れたが、これもお遊戯ソングである。高校時代、アルバイトで幼児のキャンブリーダーをしていたのだが、そういうキャンプや水泳教室の体操の時などによく歌われる。リーダーが  「ぴよぴよちゃん♪」 と子どもたちに歌いかける。すると子どもたちは   「何ですか」 と返事を歌い、続いてリーダーが  「こんなことこんなことできますか」 と歌いながら屈伸やらストレッチやら、けっこう難しいポーズなどを取ってみせ、子どもたちが真似るというものである。  が、これはオトナになっても応用可能なのではないだろうか。どうなんだろうという話をリーダー会議の合間にちらっとしたことがキッカケで、ちょっといい感じのオシャレメガネくんにドン引きされ、ふられてしまったのが「ぴよぴよちゃん事件」である。 Q・・・クエスチョン   人間は疑問を持って生きることが大切である。そこで私の疑問を以下に記しておく、ので、ご存知の方は是非教えていただきたい。 ・イカの成分 ・ラーメンと中華そば、モモンガとむささびの違い ・渋滞の先頭 ・キリンは寝違えるのか ・サル・チンパンジー・ゴリラ・オラウータンを賢い順にならべると、どういう順番になるのか  できれば「ポイントありのコメント」でいただければ幸いである。   R・・・凛   高校時代、国語の授業で短歌を詠んだときに初めてつけた「雅号」である。源氏名ではない。響きと、まっすぐ前を見据える視線を持ったカッコイイ女性のイメージでつけたのだが、名前の効果はまったくなく、こんなヤツである。 S・・・仕事   これも今は昔、マクドナルドで働いていたことがある。ここまで読んでくださった方には、どのような仕事振りであったかはお分かりかと思う 「お飲み物は?」と聞こうとして「お名前は?」と聞いてしまったり、レジに指をつめて「ギャオス」というのは日常チャメシゴトであった。  こんなのだから店長に、 「お願いだから黙って笑顔で立っていてくれ」 と涙ながらに言われたことも納得がいく。 T・・・てべんちょ   「頭のてべんちょにゴミついてんで〜」 という言い回しを当たり前のように使ってきた。「てべんちょ」は関西弁だと信じきっていたのである。が、なんとこれはカザナギ語であったということが最近判明した。「てべんちょ」とはてっぺんと先っちょの複合語だと思われる。誰に聞いても「意味が分からない」といわれる。  どこかでこの言葉をきいたことがある方はぜひ私信をお願いしたい。 U・・・U字型プラスチック   男女兼用の洋式トイレで、便座を上げっ放しで出てくるメンズは、トイレットペーパーを申し訳程度に10cmばかり残して、交換しないヤツくらいに許せない。   きっとそういう女性は多いだろう。以前男性の友人と少し雰囲気のあるカフェで恋愛相談を受けていたときに、彼のあとにトイレにはいったらバッチリ便座が上がっていた。そこで私はそっと注意をしたところ、彼にはそれが通じなかったらしい。理由を聞いてきた。  そこで私は、うっかり座りでもしたらハマるだろうがとコッソリいったのだが、それでも彼は納得せず、「便座」「便座」と、そのカフェで連呼した。そこで私は思いっきり足を踏んで、  「ここでその単語を口にするな」 といったところ、彼は「便座」に「U字型ないしはO字型プラスチック」と別称を与え、以降私の前では便座をそのように呼ぶようになった。  恋愛相談の結果はまだ聞いていない。 V・・・ヴィヴィアン   古着屋時代、わたしは「でかい」ヴィヴィっ子であった。最近では某マンガのキャラが愛用しているというので再び人気に火がついたため、当時のものを残しておけばよかったと後悔している。  ところで、私は物をよく捨てる。別れた恋人からのプレゼントは、女性は大掃除のときなどにあっさり捨てるというが、男性はけっこう長い間押入れの奥に保管していることが多いと聞く。私も女性らしくあっさりと色んなものを捨ててしまう。一番驚いたのが。3時間前まで使っていたヘッドホンを、どうやらゴミと間違えて捨ててしまったことである。物は大切にしなければいけない。 W・・・W神社にて   神社の絵馬は面白い。いけないいけないと思いつつも、つい読み込んでしまう。数年前W神社に友人たちと初詣に行った時、「リエがまともになりますように」という切実な絵馬を発見してしまい、色んなシチュエーションを想像して、しばらくどうにもならなかった。全国のリエさん、ごめんなさい。 X・・・エッキシュ   高校時代の数学の先生(歌丸さん似)はかなり人のよいおじいさんで、必ずXのことを「エッキシュ」と呼んだ。この先生もオトボケな感じで好きだったのだが、生物の先生もなかなかの人物であった。理科の時間にカメラで手元のカマキリを、前のスクリーンに映し出して、それを見ながらカマキリの造りについて学習するという授業があったのだが、一番前でストーブの横の席だった私は、ぐっすり昼食後の睡眠をとっていた。すると教室中が爆笑の渦になり、私ははたと目が覚めた。慌てて話題についていこうと周りに「何?なに??」と聞いたところ、スクリーンにはカマキリではなく、私の寝顔がアップで映されていたのだそうだ。初めてのスクリーンデビューは寝顔であった。 Y・・・雪やこんこん   弁慶の泣き所のことを最近まで「権兵衛の打ち所」だと思っていた話は有名である。私は勘違いの天才である。歌の歌詞もしょっちゅう間違えて記憶している。  「雪やこんこん」も激しく間違えていたことに、これまた最近気がついた。  ♪雪やこんこん あられやこんこん   降っても降ってもまだ降りやまぬ   犬は喜び庭駆け回り   猫は餅食って丸くなる♪  しかもこれを、某詩人Iさんはじめ、多くの人に、あたかも本当のように教えてしまった。冬になり、この歌を流しながら灯油を売りに来る車を見るたびに、季節感と罪悪感を感じるのである。    Z・・・ズボラ   箸の長さが違っても食事はできる・・・○   落としたものは3秒以内なら拾って食べられる・・・○   誤変換が多い・・・◎   「開けたら閉める」ができない・・・○   鳴らしてもらわないと自分の携帯のありかがわからない・・・◎ 便利なようで不便なのであるが、こればかりはどうしようもない。これが風渚 凛なのである。 ---------------------------- [短歌]寒椿/Rin.[2008年3月4日2時45分] 風立ちぬ寒き手紙は寒椿花ぞ散るちる紅(くれなゐ)は君 せせらぎの凍てつく青に紅を差し夕闇となる寒椿かな 寒椿君のかわりに影連れて影が消えれば指先は夜明け 夢とてもただ寒椿あざやかに脈打ち咲ける冬熱帯夜 淡き春来ぬかこぬかと旅みぞれいづこか椿の仰げる空は ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]「タシャノキモチ」/Rin.[2008年3月6日23時33分] 著者より  相手の立場に立ってものごとを考える。ということは、よりよい人間関係を形成する上で非常に大切なことである。しかし、こういうことは日ごろから意識しておかないとできないものであって、時として取り返しのつかない事態に発展することもある。日常的に他者の気持ちを想像するトレーニング」を積んでおくことは、何かしらのプラスの側面があると思われる。  そこでトレーニングの例として、以下に様々なシチュエーションでの「他者の気持ち」想像の例を示そうと思う。興味を持っていただけたなら是非これを参考に、自分なりのトレーニングを行ってほしい。成果の報告や、実例などが投稿されると嬉しく思う。                          2008年3月 風渚 凛 例1・百貨店の案内係・A子さんのキモチ  はいはい、質問がある人は一列に並んでよね。そんなあっちこっちから言われても分からないわよ、聖徳太子じゃあるまいし・・・。  は?直径80cmの麦わら??そんなものどこに被っていくのよ。あるわけないでしょう。全く、百貨店は何でもあるというのは大間違いよ。  次は?阿闍梨餅??ああ、お土産ね。地下にあるから地図見てよね。あ、何よ、聞くだけ聞いて帰るわけ?!やれやれ・・・   例2・苗字の読み方が難しい、中学生・B田くんのキモチ  ホント、新学期がタノシミで仕方ないんだよな。先生のやつ、絶対オレの苗字読めないぜ?ほら、やっぱり。オレ、B田だっつーの。小学生の頃から絶対一発で読まれたことがないんだよな。これ、密かな自慢。ああ、他に自慢することないのかよ、オレ・・・。  おいおい、担任よ、2回連続で間違うのは反則!でも実は訂正するのが快感なんだよなあ・・・。 例3・客に「ハンバーグ、まだ?」と言われたウエイトレス・C恵さんのキモチ  そりゃ一応は謝るけどさ、私に言われてもねえ・・・。厨房の話だし。そんなにおなか空いてんならもっと手間のかからないものにすりゃあいいのに。ってかそれより、子どもちゃんと見張ってなよ。ソースこぼされたら後が大変なんだから。今日私、クローズだよ?   例4・電車の中で隣に座ったカップルが、明らかに行き先を間違えた電車に乗っているということを会話から察したC郎さんのキモチ  ああ・・・言ってあげた方が親切なんかなあ・・・。これ、三宮停まらへんで。でもこの人ら、ほんまは三宮行かへんかもしれんしなあ。下手に口出したら、「何聞き耳立ててんねん!」って絡まれでもしたらたまらんし。最近の世の中はコワイからな。よっしゃ、聞かんかったことにして寝よっと。・・・・ああ、でも気になって寝られへん。どうしてくれんの。はよ気いつかんかいな。 例5・満員のエレベーターでしかめつらをしているギャル・E美さんのキモチ  あっつ〜。ほんま満員のエレベーターってキッツイわ。9F行くだけでメイクずるずるになるし〜。これ、万が一途中で停まって見いな、どないする気って感じやわ。この空間の酸素をこんだけの人数で分け合うんやろ?ありえへんわ〜。  しかもさ〜、前の生き生きしたおばちゃん二人組!ジム通うか迷ってる話する前にさ、2Fくらいなら階段で行ってって感じやわ。ああ、しんど・・・。 例6・サバのフライと間違えられたアジのフライのキモチ  ちょっと待ちいな。オレは「アジ」!!サバちゃうで、ほんま。まあおんなじサカナやけどな、「アジ」!!覚えといてな。人間は個性重視とか言うわりにはコレやろ。頼りにならんわ〜。「アジ」やで、「アジ」!!ほら、またサバって言うたやろ〜・・・。 例7・LLサイズのおばさんに試着されているLサイズの花柄パンツのキモチ  ちょっと待ってよ、あたくしあなたにはそぐわなくてよ。ほら、よくご覧になって。明らかにあなたの腿のほうが太くってよ。あたくし最近はやりのストレッチだけど、限界ってものがありましてよ。あたくしの自慢の花柄が・・・あいたたた、トンボみたいになってるじゃありませんの。ちょっと!あ、いたい、痛くってよ〜!!! 例8・F二家の前のPコちゃん人形のキモチ    もう、いいかげんに頭揺らすのやめて!!変にハイになっちゃうじゃない。それよりなによりあたし、実は子ども苦手なのよ。あ〜、そんなアイスクリームついたネバネバの手で髪の毛触らないで!  あ、今前を通ったお兄さん、超好み!!あなたならいいわよ。って、無視?!  あ〜、子ども去ったと思ったら酔っ払いが来た!!ああ、もう終わりだ・・・。 例9・G通りにあるマンホールのふたの溝のキモチ  へへ、今日は誰を引っ掛けたろかな。昨日の姉ちゃんのピンヒール、ばっちりいただいたで。ありゃよかった。お、またピンヒールの姉ちゃんがきた!よっしゃ、いっとこ。・・・おい、引き抜きよったで。どえらい脚力やなあ。  あ、ミニスカ、ミニスカ。いやあ、ゴチソウサマでした。もうちょっと踏んでくれてもええんやで〜。しかし長年ここにおるけど、ワシ幸せや思うで。 例10・K天満宮の石の牛のキモチ  なんでみんなワシの頭なでまわすねん。あんまりやると禿げるっつーねん。おいおい、そっちは尻やで。どこでもええっちゅう問題ちゃうで。そんなとこ禿げたらシャレならんわ。  しかし・・・ワシ、ウシなんやけどええんかなあ。弁天さんと張るくらいの人気者になってもーたがな。おいおい、賽銭食わせんといてくれ。なんぼなんでも無理やがな。 例11・同じくK天満宮の絵馬のキモチ  黙ってたらみんな、好き放題書きよるわ。ちょっとは遠慮したらええのに。こらこら、太いマジックで書いても一緒やで。自分だけ目立とうってkう根性がいかん。ちっとも努力せんと、書いたら受かると思てるやろ。世の中そんなに甘ないで。  あ、おいおい、おみくじ結ばんといてな。雨に濡れて張り付いたら気色悪いからな。おみくじはあっちやで。あ、もう、3つも願い事書かんといてや。肩凝ってまうわ。おわ、兄ちゃん修正ペンかいな。絵馬にそんなもん聞いたことあらへんで。あんた、コレ履歴書やったらおしまいやで。 例12・今みなさまに読んでいただいているこの散文のキモチ  散文カテも読んでな。詩とか短歌もええけどさ、散文にもオモロイのはけっこうあるで。あ、一回でも笑ったらポイントいれてな。  ちょっとそこのお姉さん!そう、あなたです。6回も笑ってるくせにコメントだけにしよと思ってるやろ。たのむわ〜。たまにはええやろー。  ってかなあ、カザナギよ、うちを散文カテに入れてええんかいな。どっちかっていうとネタ帳ちゃうか?ここはもう少し偏差値の高い作品が集まるとこやと思うけど。まあ、投稿ボタン押すなって言うてんのに聞かへんから放っといたけど・・・うちみたいなん入れたらどうなるか知らんで、ほんま。 ---------------------------- [短歌]逆走 〜reverse〜/Rin.[2008年3月13日10時42分] 左手を絡める鎖で身を飾る誇りを嘲え白い太陽 乱気流放つ引き金緩いまま「後追い禁止」の標識を刺す 置き去りの景色を胸に滲ませたセンターラインはためらいの色 逆風にサイドミラーは砕けても「reverse」明日生まれ変われる 酔いどれの路面に星を散らすためスピンをかける灼熱の夜 ---------------------------- [短歌]【短歌祭参加作品】 ラスト・フェリー/Rin.[2008年3月18日16時51分] 「第一話・名もない色」と書いてみた。二年と五日前の扉絵 漁火というたましいに導かれ浴衣のうさぎ逃がすわだつみ 王冠を貝に譲ったソーダ水だまりこんでた午後がいとしい 消えかけた出会いは水着のあとの白僕らはコートに何を隠した 東京へ 雨に沈んだ港から警笛、きみのため息に似て 境界線リセットひとつで引けるほど地球はアオイ だから手を振る 砂漠だと夜の浜辺を歌う人泣き顔もいいらしくなくても ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]ただ捨てられるだけの日記/Rin.[2008年5月27日2時16分]  祖母は絵に描いたような大阪人でした。商売が大好きで、勝気で、たまに口が悪くて、酒屋でしたからものすごく酒には強くて、花は大ぶりの派手なものが好きで、ついでにヒョウ柄も大好きで・・・そんな人でした。  有名なエピソードがあります。父がまだ幼かった頃、夫婦喧嘩の末に祖父が祖母に「酒粕汁」をかけたそうです。その行為に腹を立てた祖母は、祖父が謝るまで何日も、粕汁をかぶったまま、風呂に入らなかったとか。本当に、そんな人でした。ですから私の常識では想像すらできない、かなりはちゃめちゃな行動や、(親戚の葬儀で読経が挙げられている中、「生」と書いたビールの宣伝のうちわで始終扇いでいたとか)はちゃめちゃな祖母なりの格言などもあったりして、母とよく唖然と顔を見合わせたものです。「順番は、抜かしても抜かれるな」的な発言は当たり前で、知らぬ間に私の常識と化してしまったようす。おかげさなで社会には適応できないものの、たくましく育ちました。  祖母は私をものすごく可愛がってくれました。祖母は何にでもランクをつけてひいきしました。絵本のように、トラ猫を筆頭に11匹、猫を飼っていましたが、人懐っこいトラが一番のお気に入りのようで、うなぎ屋でだす用のうなぎの頭を2皿買って来ては、1皿をトラ猫大将に、もう1皿を「その他大勢」にやっていたのを覚えています。おかげさまでトラは、まるまるとふくよかに育ちました。猫でこのようですから、孫もまたこのようでした。奇しくも私を含め、11人の孫がおりまして、なぜかよくわかりませんが、物心ついたときから祖母は、私を一番可愛がってくれました。ことあるごとに 「りんちゃん、りんちゃん」 と、 「今日は百貨店に行こうか。」 「今日は宝塚を観に行こうか。」 そんな感じでした。中でも祖母は買い物が好きで、百貨店はもちろん問屋などにもよく連れて行ってもらったものです。各階の椅子にずっと笑顔で腰をおろして、私が見せるもの見せるもの、 「ええな、似合うで。ほら、迷うくらいなら買うたらええ。」 と、望むものは全て買い与えてくれました。母は、「我慢のできない子に育つ。」と懸念していましたが、祖母の理論では、「こうしないと人の持ち物などを妬む子どもに育って、物盗りなどをするかもしれない。」ということでした。どちらが正しかったのかは未だに分かりません、。が、私はひとたび欲しいと思ったら我慢ができませんし、人様のものを、拾うことはあっても盗んだことはありません。  祖母は私に、お金で買えるものは何でもくれました。ですが祖母が自分のものを買っている姿はほとんど見たことがありませんでした。たまに寄る小さなアクセサリー店で、安いビーズやプラスチックのネックレスを、何度か買っていたくらいでしょうか。どれも大振りで、いかにもイミテーションな光方をした石たちでしたが、祖母は 「これがええんや。」 と大切そうに引き出しにしまっていました。ですから私は、せっせと祖母のためにビーズでアクセサリーを作ったり、金や銀の色紙で飾りを作ったりして贈っていました。いかにきらびやかに、派手に製作するかで、祖母の喜び方が違う気がして、なんでもかんでもにスパンコールをくっつけたりして頑張っていたように思います。  しかし、祖母が一番喜んでくれたのは私の文字による作品でした。祖母と遊んだことを書いたものや、祖父の遺影について思うことなど、学校ではなまるをもらったり、コンクールで賞をもらったりする度に、その作品を、実印やら土地の権利書やらの入った引き出しに同居させてくれていました。そして毎日向かいの魚屋のおばさんに自慢するものですから、おばさんはタコだけは仕入れなくてもよくて、きっと大助かりだったと思います。  そう、私は昔から文章を書くことが好きでした。言葉で何かを表現できたとき、いいたいことにぴったりと合う表現が見つかったとき、私はたまらなく気持ちよくなります。私と付き合う男性には大変申し訳ないのですが、ナニよりも快感なのです。ゆえに短歌は私の性に合っていたようで、たくさん詠みはじめたのこそは最近ですが、高校の時から教科書や手帳のすみに、よく走り書きしていました。私の標語かなにかが入選し、京都の大通りを飾ったときの写真なども、祖母はずっと眺めていてくれたようです。  そんな祖母も2月に他界し、この日曜が百か日にあたるというので、祖母の家に参りました。随分と久しぶりでした。祖母は2年前骨折をしまして、 「誰も見舞いに来ない。」 やら 「病院になんか入れよってからに・・・。」 やら、散々毒を吐いて暴れたあげく、叔母の家に引き取られましたから、私もそのとき以来祖母に会ったのは数えるほどしかありません。もちろん家に行っても祖母はいませんし、叔母の家はどうにも行きづらかったのです。なんだかいい時にだけ行って、色々もらって、こうなったらちっとも会いにこないと、叔母や従姉妹はきっと私をよくは思っていなかったでしょう。地理的な事情もありますが、そういう複雑な人間関係もあって、あの2年はやはり後ろめたいものがあります。  祖母は先にも書いたような性格でしたから、店をしているときは長男の嫁に、引き取られてからは叔母に、散々毒を吐いていたそうです。祖父が死んでから20年あまり、日記を毎日つけていたそうですが、 「私がされたことは全部あの日記に書いてあるから、私が死んだら読んでくれな。」 と、母に言ったようです。祖母はなぜか私の母にだけはきついことを言いませんでした。きっと京都人というので遠慮していたのでしょう。  そういう日記の存在は私たちも含めてみな知っていました。しかし、書いてあることが原因で、兄弟やその配偶者との間にもめごとが起こるのを懸念して、百か日のときに処分しようとか、なんだかそんな話になっていたようです。読経のあと、80冊近いノートが袋詰めされ、廊下の隅にやられました。袋の口はあいていて、「NO・75」と書かれたオレンジの表紙が除いていした。私はそれが気になって仕方なかったのですが、周りの目もありましたし、どうしても触れることができませんでした。ところが、「祖母は自分を一番可愛がってくれました。」と、私と同じように感じていたという弟が、ふと親戚に背を向けてそのノートを手に取ると、黙って書かれた文字を追って行ったのです。私と母、父もその姿にはっとして、同じようにノートを手に取ると、黙って目を落としました。その瞬間、私は「腑に落ちた」感覚を覚えたのです。ノートの中身は、なんと歌集でした。  日々のさりげない風景から感じたこと、「アザラシのタマちゃんを捕まえてはならない」などとニュースから感じたこと、そしてあふれんばかりの「ありがとう」に埋め尽くされた日々の日記の末尾に添えられている一首。祖母が短歌を詠んでいたなんて、その場にいた誰も知りませんでした。私はずっと、自分が短歌やそういう文章表現が好きなのは誰に似たのかと実はずいぶん昔から気になっていたのです。ああ、ここだったんだ、とそう思った瞬間、涙があふれて止まりませんでした。親や親戚は私が日記の内容に何かを思い出して泣き出したのだと思ったことでしょう。でも、違ったのです。祖母がなぜ私の文章をあんなにも大事にしてくれたのかも、祖母が亡くなる少し前から短歌を使った活動が急激に増えたこと、祖母の亡くなった日に、私の短歌のブログがひとつの成功をおさめたこと・・・後付のようでもありますが、全てのことがすっと、つながったようなきがしました。祖母は私に、お金では買えないものまで与えてくれたのでした。決してうまくはありませんが、言葉で作品を作り出すことができる、その幸せを。  日記は20年、祖母が骨折して入院する手前まで続いていました。最後のノートの表紙には、「ただ捨てられるだけの日記」と題されており、だんだんと自分が日記を書けなくなってきて悲しいと綴られて終わっていました。そして、私に欲しいものを欲しいだけ買ってくれていたあの頃から、店がくるしくて金がなく、支払うところに支払いができてほっとした、ともありました。祖母は、そんな人だったのです。  その日記に見える祖母の顔は、私のイメージしていた「絵に描いたような大阪人」とは全く違う人でした。まるで祖母の影のような。いや、もしかしたらあの毒気の強かった、勝気で派手好きの方が影だったのかもしれません。でもそんなこと、私にはどちらでも構わないことなのです。 ---------------------------- [短歌]「トーキョーアクアリウム」/Rin.[2008年6月10日0時45分] 身動きを許してください水底は26時のネオンさえ青 息継ぎを忘れた彼女が電池式だったと知った火曜のメトロ 遺失物届けの欄に書くべきはリセットキーか押す指なのか 「きれいだね」ガラスの向こうで繰り返す声が絶えれば崩れ去る街 ---------------------------- [短歌]君のかげふみ/Rin.[2008年7月19日21時39分] 「リトマス紙がなにでどうなるか」のように忘れてしまいたい夏がある まだ明日を信じていたからサヨナラを 告げた渚にゆらぐ太陽 ケンケンで駆けた砂浜しゃらと鳴る 乾いた粒子、ただ熱かった サンシャイン色だけ溶けたジンライム背伸びで届く「オトナって何?」 貝色のボードのピックで引っかいた 歌詞もベースもない波の曲 わけもなく水平線をなぞる手をほどいた、君を迷わせるため ---------------------------- [短歌]夏の鋭角/Rin.[2008年8月26日18時48分] ■ミッドナイト・シャワー■   ミッドナイト   月のナイフで切る指に怖いほど、まだ滴るカシス   甘い、赤   舐めて   瞳に翻る   純情、孤独、叫ぶキラメキ   切れ切れの夢は涙も許さない傷なき闇に響くクラクション   深夜2時   撃て、撃て硝子のリアリズム   破片(カケラ)の雨、君はまどろみを刺す   失くすものだらけの手のひらで壊す、君を   脈拍さがす   ガラクタの中 ■影(シャドウ)■   太陽の裏切りだけがない世界に産まれた日から離れぬ影(シャドウ)   蜜一滴 咽て語れぬバスタブに溶かして君の影にまたなる   僕はきみ、君は誰とかいう人と背中あわせる鋭角の夏 ■〜Call squall〜■   2秒前の実存さえもかき消してsquall濡れた身体だけ在る   手のひらで雨滴は叫びを露呈する。流れないのは昨日の視線   白昼夢、醒めて終われる世界なら二人笑って壊したろうか   Thunder君の翼のなかった肩越しに見ていた空虚と孤独な銀河   銃声音それでも奪えぬのはソウル銀にサヨナラ砕け散っても   楽園で何を祈っていたなんて思い出せない手のひらの雨   「抱キシメテ」をソーダの瓶に詰め込んでcrash!!そんなお前のままで   散る銀に触れたら醒める世界なら壊しただろう手のひらに 雨   愛なんてたやすい言葉が欲しいなら涙でなくてsquallを呼べ                            ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]青を、青を、「青を泳ぐ。」/Rin.[2008年10月22日0時09分]  「キレイだよ、誰よりも。」  鞍馬口駅のトイレでそっとつぶやく。髪を直して、グロスを塗って。そうして見つめる鏡越しの自分に向かって言っているものだから、他人が聞いたら「アホちゃうか。」みたいなものである。もっとも言っている本人も歯が浮くどころか全部飛んでいきそうで気持ち悪い。それでも。自分の言葉をここで確かめると、緊張とともに懐かしさが込み上げてきて心地よい。2005年12月30日。中学校の同窓会の日であった。      *  あのころは自分にそう言い聞かせなければ生きていられなかった。誰よりも、いや、少なくとも、彼女たちよりはキレイだと。  中学3年生。始業式の朝まで、私は間違いなく確信していた。普通にこの駅を通って、普通に友達と校門をくぐって、普通に授業をうけて、やっぱり数学は苦手で、普通に寄り道をして、買い食いもして、そしてまた普通の明日が訪れることを。  駅の改札を出て、「田中歯科医院 出口2番より徒歩1分」の広告を背にして立つ。だいたいこういう広告に「徒歩1分」と書いてあっても、本当に1分でたどり着けるためしはない。その日の朝も、相変わらず他愛のないことを考えていたように思う。私はいつも、ここで反対方向から来る電車に乗ってくる幼馴染のミカを待った。あるいはミカがここで私を待っていた。これが「普通の朝」だった。  しかしその日、ミカと駅で出会うことはなかった。当時はまだ、「国民一人当たり平均1携帯電話」のような時代でもなかったので、私は待つより他はなかった。次の電車が来て、人がどわっと吐き出されてくる。だがそこにも、ミカを見つけることはできなかった。これ以上待つと、私が遅刻をしてしまう。今日は風邪でもひいたかな。地下道を抜ける。まだまだ空は夏服だ。私は一人で学校に急いだ。  上履きの薄い底に響く緑の廊下の冷たさに、いかにも「新学期の朝」を感じながら、3組の扉を開く。新学期、一番困るのは「座席の位置を忘れてしまっていること」だ。つい先月までいたはずなのに・・・毎度のことなので自分でもおかしくなってしまう。  きっと、ここ。 私が向かった窓側の、前から2番目の席。そこに、ミカがいた。ミカが。びっくりして、首を前に突き出したハトのようになっている(だろう)私の右側を、ミカは何も言わずに通過した。そこに漂う異様な空気に、本当はそのときに気付くべきだったのかも知れない。  教室じゅうに目配せが飛ぶ。仲良しグループの、フーコからミカ、ミカからナナ、ナナからエリコ・・・まるでバレーボールの練習をする、あの円陣の真ん中にいるようだ。パスが、こない。そんな感じ。ふとそこに、女子独特のいやな匂いがした。始業のチャイムが鳴った。私が何か変わったのだろうか。髪は切ったけれど、そのくらいしか思いつかない。少しの違和感をごまかすように、ま新しいノートに名前を入れた。  昼休みになった。先月までそうしていたように、弁当を下げてなんとなくミカたちのいる「いつもの場所」に行った。昼食は先月までそうだったように、机を動かして、なんとなく始まった。しかしそこに、私が入れるスペースはなかったのだ。ここまできてやっと、私は朝ミカがいなかった理由、視線のパス、自分の置かれている状況がわかった。3年3組。―――変化したのは、私じゃない―――  その日から私は青に溺れはじめた。たとえようのない青黒い水が、最初は上履きを濡らす程度に、次の日は足首まで、そして膝。日ごとにかさを増してくる。一週間もした時には、青はすっかり背丈を越えて、もう3組という水槽の中では呼吸すらままならなくなっていた。      *  あのころは息継ぎに必死で、言葉なんぞを使おうとするなら、ただむせ返るだけだったから、そんな自分を表現しようなどとはとても思えなかった。思えたとしても、もう体中が青に絡めとられていて、できるはずもなかった      *  同窓会の会場は理科室だ。3組の担任が理科の教師だったから、それだけの理由である。なんでも卒業式の日に埋めたタイムカプセルを開けるのが、今日のメインイベントだとか。そのようなものを埋めた事実は覚えているが、埋めたものなんてすっかり忘れていた。前日にメールで話していたミカが、CDを埋めただの未来の自分への手紙には何を書いただのとはしゃいでいたが、私ときたらいっこうに思い出せない。昔からの自慢で、記憶力だけはバツグンにいい。それなのにいくら頭をひねっても無理なのである。これが衰えると、何も自慢することがなくなってしまうではないか。  午前中に用があった私は、ミカとは現地で落ち合うことにしていた、しかし思ったよりも早く駅に着いたので、少しくらいはちゃんとしたナリで行くか、と、トイレで鏡を見た。緊張していた。ミカ以外、3組の面々とは卒業以来会っていない。 《 朝は笑って家を出る。「どうせ一人で食べるんだから、お弁当なんていらないよ。」そんなこと、母に言えるわけがない。駅に着く頃には笑顔の作り方を忘れている。きっと、怖い顔。こんな顔じゃ、学校なんて行けない。そう思うたびに私はこのトイレの鏡を見た。 大丈夫、キレイだよ、誰よりも。堂々と、しなよ。 必ずそうつぶやいて、私はグロスをつけた。こうすると、少しマトモな顔になる気がした。》  理科室に着いた。先生は当時より少しだけデコが拡張して、顔も雰囲気も丸くなって見えた、私が頭を下げると、なんだか「安心した」みたいな笑みを返してくれたから、少しくすっと肩をすくめる。 《 「私、毎日手帳で卒業までに日数を数えているんです。」  3年生の1月になって、ようやく私は学校で口を開いた。溺れても溺れても、生命力だけはあったようで、理科室の窓枠にやっとの思いでしがみついたのだ。助けてほしかった。ただ、その一心で。  「みんな、卒業が寂しくて、あと何日かを数えています。でも私は嬉しいんです。楽しみなんです。もうここに来なくてよくなるから。でも、それって、イヤ・・・。悲しすぎる・・・。」 言うなり嗚咽がとまらなくなって、先生にすごく悪いことをしたと思う。先生はただ黙って、泣かせてくれた。和私だって、私だって・・・そんな思いが次から次へと水滴になって流れるばかりであった。》    いよいよタイムカプセルの蓋が開けられるときだ。昔のように先生が、一人ずつの名前を呼んでくれて、私たちは物体Xを恐る恐る受け取った。透明の袋の中には、通知簿・子どものころの写真などが入っていた。蝉の死骸なんかを入れていた人もいて、なんだか価値ある剥製のように思えた。それに比べるとなんと平凡なものを入れたことか。これでは思い出せなくて当然である。当時話したことすらなかった男子生徒と、 「蝉だ〜!」 「キャア〜!!」 そんな言葉を交わして、私は時の力を思い知った。袋のなかには全員共通の封筒が入っていた。 「開けてみろ、覚えているか?」 先生が机に腰掛けてにやにやしている。みんなで一斉に開けると、あちこちから歓声があがった。写真だった。それぞれが、それぞれの思い出の場所で先生に映してもらった写真。添えられた便箋には、それぞれの、そこでの思い出が綴られていた。サッカーゴールの前で撮った人、「将来ここに立ちます!」と書いた黒板を背に映っている人・・・みんな思い思いに見せ合いをしている。私は、空けた瞬間愕然とした。背景は雪一色。どこで撮ったのかさえわからない。そして、便箋は白紙だった。 「ねえ、どんな思い出?」 フーコが何の気なしに覗き込んできた。 「あ・・・」 私は答えられなかった。それをちらっと見たミカが言った。 「雪が、あまりにきれいだったんだよね。」 私のほか、唯一彼女だけが、白の理由を察したのだ。  私は笑ってうなずいた。 「そう、その白さは白紙で表現するしかなかったんだよ。」  違う。全部違う。未来の自分に思い出して欲しいものなんて、ここにはない。そんな小さな主張だった。どちらのしても、忘れられないことには変わりはないのに。でも、ミカの一言で救われた気がした。引き潮のように青が、遠のいていくのを感じた。今なら、書ける。青に溺れていた日々を。あのときはただ苦しくて、それだけだった、青。まるで表現されるべき時を待っていたように、今度は手の中の白紙を染めてゆく―――      *    そのときから私はあの青を歌おうとしてきた。作品として形にするために、一番大切なものは「表現したいこと」である。しかしそれは、そうそう身近に転がっているものでもなくて、忘れたころにいきなり「オレを表現してくれ!」と出てきたりもする。これだ!と思った題材を、逃さずキャッチできれば、作品の半分は決まったといっても過言ではなかろう。「あの青を」。私はなんとしても書きたかった。タイムカプセルから出てきた写真のような、そんな作品を。誰のためでもなく、青に溺れて、それでも泳ぎきった自分のために。   「出席簿のマス目は斜線で黒くなる卒業までの手帳のように」   先生の顔が浮かぶ。クラスメイトには「怖い」とか「口が悪い」とか、色々言われていたようだけれど、あのとき先生に話せたから、私は青に溺れなかった。  「一応3組。だから切り分けられたコマ文集なかば白紙の主張」   思い出したいようなことなんて何もなかった。でも、だから私がいる。      「本好きの名札は存在証明書。休み時間を生き抜くための」    どんなことがあっても、学校だけは休まなかった。皆勤賞が欲しかったから、ではない。休むことは、負けることだと思っていたのだ。狭い机だけが浮島だ。私は平然とした顔を装って、そこでじっと本を読み続けた。いや、字面を眺めていた。内容などはどうでもよかった。朝、適当に持ってきた本が「銭型平次捕物帖」だったりして、教室で密かにびっくりしたこともある。彼女たちに陰で観察されているようで、そういうときはコッソリカバーを裏向けて文字を追った。  卒業文集のクラス紹介欄。文集委員なるものが、クラスのメンバー紹介を書くのだが、私だけを飛ばすわけにもいかなかったのだろう。私の名前の下には「文学少女」とだけ書かれていた。それが幼馴染のミカの字だっただけにショックが大きかった。文学少女。たった4文字で片付けられたページ。  「理科室に夢実験で放火する友情ごっこをあぶる瞬間」  私がいま、このガスバーナーで教室に火を放ったら、彼女たちはどうなるのだろう。炎につつまれて、それでも互いをかばい、助けある。そんな壊れない友情を彼女たちが持っているというのなら、私はこの「立場を甘んじて受け入れよう。あり得はしないだろう。もちろんバーナーを倒す勇気などはなかったけれど。     「マスカラを拭き取る指でごめんねのメールにまでもメイクする人」   卒業式の日に、ミカが手紙をくれた。かわいい色のサインペンで書かれた反省文と、花やハートのシールに、なんだかすごく「ミカだな。」と感じた。もちろんココロには響かなかったし、すぐに捨てた。でも、この手紙依頼、私はミカがいっそう好きになった。  「保健室の南の窓からだけ見える三時間目の海が好きです」 年末くらいから、お弁当を保健の先生と食べるようになった。こっそり早弁をしていた。昼休みになると、他の生徒が保健室に来るかもしれない。私はその時間はカーテンに隠れて童話を読んだ。「みにくいアヒルの子」。いつか私も、白鳥になる。一瞬でもそう考えられるこの場所が大好きだった。   「制服のリボンの両端わざと引く。さよなら誰よりキレイなワタシ」   誰よりキレイなワタシ。思い出の場所は鞍馬口駅のトイレだったのかもしれない。先生をそこまで連れて行って、写真を撮ってほしかった。いや、ミカやフーコのように、そんなことを冗談っぽく言える私だったら、また違った日々がそこにあっただろうか。 「砂時計の檻ただ待つことの怖さよ膝の下から満ちくる青を」  青、青・・・。「たしかに溺れていた」あのころを、思い出すたびまた飲み込まれそうで、何度も書くことをやめたくなった。書くことどころか、 「人間やめたいよお・・・。」 なんて突発的に言い出したりして、随分周りに「ドン引き」されたものだ。それほどまでに、時を経て「表現してくれ!」と現れたものを描くことは、身を切るような作業だった。  これまで私は「短歌は感覚で書ける。」と思っていた。適当に言葉をつなげたら、それなりの短歌になると。現にそうやって歌ってきた。しかし、作品のために自分の内面と真っ向からむき合ったとき、そこから流れてくるものがあまりに多すぎて、感覚だけでは31文字におさまらないことに、いまさらのように気付かされた。以前「えいやあ!」のノリで30首でも50首でもドンと来い!だったはずが、、まとまった形の作品に仕上げるのに1年半もかかったのだから大笑いである。  完成した30首の連作は、ふと募集を目にした「短歌研究新人賞」に応募してみた。これまでとは違う書き方になった30首。ある意味では「処女作」ともいうべきかもしれない。こういうものへの初めての応募にしては、思いがけない結果が出た。もちろん賞はとっていない。でもこの連作に関して言えば、すごく満足のいく結果であったと言える。だが、これほどまでの思いをしなければ、伝わる作品にならないのかとも実感した。できることならもう二度とやりたくない(笑)  連作のタイトルは「青を泳ぐ。」だ。「青に溺れる。」のほうが当時の私には合うのであろうが、溺れても泳ごうともがくことが生き抜くことだ。「青を泳ぐ。」この作品をもって私は、本当にあの日々から、卒業する――― 「さよならはシンメトリーな水彩画せいいっぱいの卒業をする」 2008・10・22 風渚 凛 ※掲載した短歌は「第51回短歌研究新人賞」に応募した、既発表・自作のものです。応募名とハンドルネームは異なります。  ---------------------------- [短歌]さよならのためのリダイアル/Rin.[2009年2月8日0時40分] アンダンテ追いかけて追いかけていても君が見えない陽射しの中で 抱きしめる速度ですれ違う風はセルリアン、君の瞳に映る 炭酸の雨///下弦の月をマドラーで浸しても味なんてないまま 出窓から見下ろしている雨の街ぼくは足音だけ聴こえない ドーナツの穴の向こうも霧雨が そんな世界のような錯覚 取り外し可能だったのですか、君の翼は 駅のゴミ箱のなか 約束の2時間前のブログ見てつないでいた手が冷えきってゆく 寂しいと寂しいと口パクをして自転車をこぐあのこの髪は 君と花の名前を吐息でかたどって歩いた道の記憶の瓦礫 いちばんのやさしさはまだ知らないでいられたから君を忘れられない ---------------------------- [自由詩]paLadox/Rin.[2009年2月11日1時07分] 夕月は君が 先に見つけた でも 明日雪が降ることは きっと教えてあげない    * 君のいちばんのねがいを たぶん私は知っている でも 君のいちばんのやさしさは まだ知らなくていい        * 悪いことでもするみたいに 君のブログをさかのぼってみる でも 泣きたくなるほど会いたいだけで 埋まらない、出会うまでの日々は    * 言葉にしないと ちゃんと伝わらない でも かんたんに言葉にしては いけない気がする、思い    * 愛してほしいわけでも 支えてほしいわけでもない ただ いてほしいだけ 世界って、なんだろうね    - 自由でいたい 自由でいてほしい でも いまはこの 手のつなぎ方をする ---------------------------- [自由詩]24号線/快晴アオゾラ/Rin.[2009年6月19日22時03分] アスファルトの照り返しは穏やかではない 24号線沿いのひび割れた歩道を蹴って いつまでも変わらない信号を見上げる 太陽がもうひとつ増えた気がした 雨と晴れの境目を見つけた少年時代の君を たしかこのあたりで見かけた記憶がある そのとき私は、どうしてだろう プラネタリウムに行きたかった 手のひらは感情線で二分されている 生まれた日には横断歩道があったのかもしれない いつまでも赤く光り続ける信号は 夜には星座の心臓になる 梅雨入り前の青空はせわしなくて 向こう岸のガストの大きなガラスにもサヨナラと言う 君にとって忘れられない空は ほんとうはこんな色ではなかったこと、 知った日に 咲いたばかりの紫陽花を手折った 君はたやすく泣かないから 私は、雨がやむように言葉を失くしてゆく そうしてまた かえれない夏が来るのだろう ---------------------------- [自由詩]標/Rin.[2010年2月10日23時44分] 私しか「アトリエ」と呼ばない場所で あのひとは輪郭のまま西を向いている むせ返るような夕陽の匂いのなか パレットで乾いた水彩は、それきり 藍が好きだったと思う 雨が好きだったと思う それから、二月の しがみつくような冬が好きだったように思う 会いたいと口にするのは、きっと ゆるゆると水彩をほどくくらいたやすいから カーテンを閉めて、ずっと 影をなくしたサンスペリアの真似をしていた 窓の下で煙草を点ける音がする あのひとのこぼしていった言葉を 標に燃やしていくように 火を映さない薄暮に 今日も 家路を急ぐ足音が響いている ---------------------------- [短歌]下手なキス、して。/Rin.[2010年2月13日0時10分] 横断歩道の黒白正しく踏み分けていくように押す部屋番号「206」 無機質なふりして並ぶ玄関のドアは夜まで熱が抜けない ココナツの洒落た香りが悔しくて窓に3ミリ隙間を作る 青いジャージが転んで泣いている床はバリアフリーがウリの設計 蜂蜜を君の翼に塗りつけてパリリと揚げたいのは愛ですか secondはイヤなの だから何度でも呼び捨てにして。下手なキスして。 空っぽのティッシュケースを追いやって今日はベッドでどっちが眠る? 恋人ごっこは終わりにしようテーブルでアップルティーが冷めていくから 金色の髪も涙も墜つていいくシーツの色はエデン・ホワイト くしゅくしゅになったピンクの靴下が見つかるまで、ねえ、「アイシテル」って ゆるゆると乾いた苦さを流すときまたひとつ咲く梔子の花 柔らかなひとだと思う 明け方の雨の国道自転車がゆく ジャムの蓋忘れたままでする二度寝ゆらゆらしたいのは君のせい トイレットペーパー三角形に折る会いたくなれば電話ください ---------------------------- (ファイルの終わり)