渡 ひろこの佐々木妖精さんおすすめリスト 2007年12月26日10時57分から2008年7月14日22時30分まで ---------------------------- [自由詩]解放されたからだ/佐々木妖精[2007年12月26日10時57分] ハンガーが足りないため シャツとセーターを7枚着込む 窮屈な身体をもたれ自室の戸を開け 間取りを読み 鏡だけの部屋で鏡が なぜ 縦にあと3センチ長くないのかを 考える 天井が3センチ低いからだ 見上げた先で身をかがめ 覗き込む彼と目が合う インターフォンが幾重も折り合って鳴る こだまする 一歩も動けないのは 彼がどんな対応をするのか監視してて 動けない からだ 出口を見つけるため ピストルを打ったら反動でぶっ飛んでしまい 服だった塵と ぶち破ったガラスが大気となり ビー玉の雨が舞う 銃口はどこへ向いていたのか月で考える ここは月だ ここは月だからだ 紫陽花のような地球外知的生命体(ウサギ)が二房 奪還した星条旗の上で 毛皮の宇宙服を着込み 実りの秋を待っていた 真空切り餅を クレーターを掘って耳で包装し あなたに差し上げますと 鼻をヒクヒクさせ 3メートルジャンプする 首と手を横に振って深々とお辞儀をし 新たなクレーターを創り 丁重にお断りする 声が出せない からだ 残った彼らを 解放するため 2発の弾丸を込め 地球に銃口を向けると 胸に穴が開き 思考が空間にばら撒かれ 銃に代弁してもらうのを 辞めることができた ---------------------------- [自由詩]変わるくらい/佐々木妖精[2008年1月9日3時02分] 高校で処方されたトローチを ずっと舐め続けている いつか消えるという 先生の言葉を信じて 大学生にさん付けされ 上司にはくん付けされる しかし口の中にはまだ トローチが悠々と 体積を変えずに転がっている 味覚はだいぶやられたが 鼻は通ってきた 四次元の効果だ 紙面がやたらにおう しかし好きなにおいだ 香水の匂いと汗の臭いは同じだ どちらも生活の香りだ 刺激を求めて炭酸を喉へ流す これは初めて飲み込んだ海水を思い出す マウストゥマウス 実父にファーストキスを奪われた 虐待などなかった昔話 穴を息で震わせたり 小刻みに舌で塞ぎ遊ぶと 声をかけてくる人や ぶん殴ってくる人がいて これは鳴るんだと気づき 舌と穴の角度や振動を自室で試す 粉雪が頬に突き刺さる中 丈の短いスカートを見かけ イジメの一環としてはかされているのではないかと トローチの穴を全開にして鳴らす 恋人の耳元で半分穴を塞ぎ 俺は高校くらいまでロリコンだったんだぜって 好きになった同級生の名を吹き込む ネクタイを締めて トローチをしたに隠す そのくせたまにちらつかせて それおはじきやないか そう上から覗き込んでくれる先生を まだ求めていたりする トローチが溶ける気配はなく 噛み砕くべきか考えている ---------------------------- [自由詩]二色/佐々木妖精[2008年3月11日13時01分] 泣いた日 左手が動かなくなった日 ボケットに突っ込んだ手を 先生に注意され からかわれた手と 庇われたことが恥ずかしくて 泣かされた日 泣かされた日 いつも庇ってくれてた友達が触ってきた日 泣かされた日 逆さまつ毛が目に刺さった日 泣いた日 女は敵だって決意した日 泣かされた日 前言を撤回した日 泣いた日 じいさんが物になった日 泣かされた日 ばあさんがものになった日 泣いた日 好きになった日 泣かされた日 逆さまつ毛が刺さった日 泣いた日 実家へ帰る決意を固めた日 さて 目指そう もう迷い方など忘れてしまったが 現代はくくれどくくれど溢れ出す 平成での18年など昭和への長い助走である あの日を目指すのだ 何もかもが輝いていたあの日へ 共に泣き暮れる雨や助手席の人間失格と共に すみやかなアクセルを ただ一切は過ぎていきます 母さん ---------------------------- [自由詩]T字路/佐々木妖精[2008年3月27日12時14分] 人んちの猫を 眺めるのはいいな 溜息で吹き飛ぶ薄給だというのに ある日袋がずっしり重くて 慌ただしくぶちまけて 猫がキョトンと転がったら がっかりしてもいいな 孤独という状態を さみしいと 説明することができないので モサカワコーデの愛され猫 エアギターよろしく やつの腹 心ゆくまで 日陰なき裸体かき鳴らしても 見通しの立っていた死を 赤ちゃんとだけ友達になりたい 赤ちゃんとだけ遊びたい 赤ちゃんを抱きしめたい 赤ちゃんとだけ話をしたい 赤ちゃんとだけ酒を酌み交わしたい 遊ばれてもいいから 赤ちゃんと付き合いたい 人の赤ちゃんとは禁欲的に 猫の赤ちゃんとはプラトニックに 腹違いのきみと仲良くなって みんな忘れ去ればいい きみは逆算すれば晩年だ 逆三角形動物だ 早い鼓動と高熱は短命な小動物の証 きみは四つん這いで枯れ葉を揺らす 情も理念もない四足動物 きっときみには魂がない きみにそんな概念はない きみは人間じゃない 猫のように人間じゃない 俺は なんだった ---------------------------- [自由詩]気の迷い/佐々木妖精[2008年7月14日22時30分] 遠くそびえ立つビル群 人間が高さを競うように 草木は深さを競い合い 私の横たわるこの下で 取っ組み合いの陣取り合戦を繰り広げている 負けるのも勝つのも好きではないと 酒のない酔いに飲まれ 差し伸べた手は空振りして リードだけを引きずり 黒い犬は走り去る 星のない夜なら 風が芝生を吹き抜けていったとしか思わなかっただろう 彼はどこへ行くのか 進路にもつながる地面に横たわり 目的性を麻痺させ ぼんやり 裸眼でいる にじんだ星が一つ、もう一つと手をつないでいく 近眼と乱視が手を結んだ私のために 彼等は手を取り合い 夜が明けるころには 太陽になっている 何億光年と離れた場所から 駆けつけるヘッドライト とっくの昔に死んでいるというのに 瞬いて手を振る 死者の光 手を伸ばし 彼らの厚意を受け取る 悪酔いでもしてしまったのか ふと思う メガネもコンタクトもやめて ただぼんやりと優しげな世界で 躓き続けるのも悪くない と 酒もなくワケに酔いつぶれ 高みを目指す人や 深みを探るものの邪魔になるぐらいなら 自ら手を放そうなんて 星が形作る太陽を思うと そんなことを想う ---------------------------- (ファイルの終わり)