Wasabi のおすすめリスト 2020年7月30日0時11分から2021年10月30日22時15分まで ---------------------------- [自由詩]あの時の人参/moote[2020年7月30日0時11分] あの子の寝顔を観て はあ美しいと思う 部屋には私の匂いがたちこめている さあ今から残った弁当を食べよう あの時の人参を思い出して ---------------------------- [短歌]誰もいない夏/青色銀河団[2020年7月30日14時47分] ラムネ工場で作られたビー玉にあの夏の日が閉じ込められてる 初恋を啄(ついば)む小鳥に啄(ついば)まれたとこがいつまでたっても甘い 遠くまでちいさな泡がのぼるからおそらく空に溺れているのだ 走っても寝転んでも星に濡れないための星のレインコート 青空はさかさまに透けたみずうみで向こうにしたらこちら側が空 ぼんやりと生まれてきたのですべての窓から白い鳩がとんでいった あっち逃げろと散らばった子供らが元いた場所の影の暖かさ これ以上愛しあっても淋しさに傷つくだけさ牙もつ少女よ さみしい色の日曜はひとりでするお留守番、丘に風が吹いてる 濡れ髪のつむぎ裸足でベランダに佇(た)ち青き夜明けを旅をする 屋上ではためいた旗にくるまって着ぐるみ少女はすやすや眠る アンドロメダに消えてゆく月光が透きとおって誰もいない夏 サンダルの少女ツユクサに足濡らし天上の銀河と交信し 少女には聴こえる終わりの約束愛とはいつだってゆらぐもの 永遠に廻り死ぬまで降りれない地球は巨大な観覧車 青春と書かれたシャツ着て土砂降りに傘もささずに歩いてゆくひと 透きとおる宝石の空の七月へ午睡の意識は飛ばされて 永遠にきみはハローと笑いつつ世界はゆっくり未来になって 足音が僕たちを追い越してゆく駅からわかれてゆく未来へ ---------------------------- [自由詩]飼育員/moote[2020年7月30日16時52分] 一人を越えた一人で 異を受け入れる小鳥 見つめあった訳 それは誰にも見えない ---------------------------- [自由詩]わからないことばかりなので/滝本政博[2020年8月1日19時11分] あなたのスカートの中で暮している というのは比喩だが すべてはメタファーである  だが何の? わたしの放った鳩があなたの胸まで飛んでゆき 白い花を咲かせる 理解するのではなく到達する試み  そこにいるのですか あの日 夜になっても探してくれたあなた わたしも探していたのです 雨が何もかもを濡らしてゆく 流されてゆくだけの感情があれば また感情が戻ってくるのであれば あなたの腕のなかでどのような雨も心地よかった 雨の音を聴いていると 血管のなかを幸福の種が巡るようだ あなたが触ってくれる時 どんな顔をしていいのかわからない 明け方までの遠い距離 鐘は鳴らず天使たちは合唱しない 二人の吐息だけがそこにある 抱き合って切れ切れの眠りを眠る あなたとわたしは千にも分断されて 朝が来るのを遠くに引き延ばす 何度も目覚めては抱きしめ合う ---------------------------- [自由詩]青天の霹靂/たいら[2020年8月12日20時01分] 窓の外 人の姿も無く ただ 車の群れと 青い空だけ 同じ国の どこか遠くでは とても強い雨が降っているらしい 他人事 自分以外の全ての出来事 悲しいニュースも 嬉しいニュースも 雨に流されるように 消えていく 遠い昔 夕焼けのさようなら 初恋 思い出を挟んだ手帳 どれこれも他人事 身に起こる出来事 全て 僕は誰? 答えは 遥か遠くの空から 鳴り響く悲鳴のような霹靂。 ---------------------------- [自由詩]Scenery/メープルコート[2020年8月13日4時17分]  新しい風は窓辺を抜けてこの部屋に一枚の若葉を寄こした。  柔らかな音楽に私の心がハミングしている。  描きかけのキャンバスはひっそりとそこに佇み、  次の一筆を黙って待っている。  熱いコーヒーを片手にテラスへ出ると、林の緑は深く、神秘に揺れている。  見上げると空は青かった。  涼しい風の通り道に鳥たちは歌い、見えない笑顔で溢れている。  どこかではしゃぐ子供達の声が聞こえた。  教会の鐘が鳴る。  どこかの誰かが幸せを祈っている。  心は高揚し、私も祈らずにはいられなかった。  今生まれたばかりの風が私の体を通り抜けた。  新しいこの一瞬を逃さないように手を広げる。  記憶が記憶によって美化されるように。   ---------------------------- [自由詩]手探りで/ふるる[2020年8月13日21時48分] 大きな山だった 立ちはだかったまま青く動かないで 汚れたままの靴と 広くて深い空 その空に追突していった ま白い鳥が 置いていった羽をくるくるもてあそびながら 雲の上や切れ間を流れる風に見とれていた 見えなくても動いてある あそこや ああ あそこにも 叔父のよく動く口 話を聞きながら頷いていたけれど 半分しかわからなかった 墨をするときの静かな気持ちで どんな質問に答えよう どんな答えを編みだそう 予想ができないから 正しくあることはできない ここからここまでの感覚と言えるだろうか 直感を信じる あの大きな山を前に ばらけた木々のざわめき 降ってきた木の実を 両手で受け止めてからすべもなく捨てた 少しだけつらいような出来事 ただ、想像するだけだからなんてことはない その周りを回ることだって 拗ねて首を曲げた その近くに風は吹いて 閉じこもって考えていても仕方がない 外に出ればまたあの山だ 向こうには何があるかって 考えないのか 気が向いたら遊びにおいでと言っていたのに 叔父は消えてしまい レコードのアルバムが沢山遺されて物置の中に カビの匂いとしめった木の匂い すぐにお腹が痛くなる場所 二三枚レコードを抱えて外へ出る 電線のたくさん交差しているあたりで曲がり叔父の足跡はそこまで レコードのビニールカバーは破れて飛んでいった 最後にかけたのはどれだったのか 中身がないものや ジャケットと違うレコードが入っていたり 立派な黒くてつやつやした円盤に 刻んであるのは若き叔父の姿 拗ねたように首を曲げて 下を見ている 猫背の人から漂うのは拒絶 話しかけてもらえる期待と絶望感 会話はあまりしなかった 聞けば何でも答えてくれた 半分しか理解できなかったけれど ガイネンという言葉を初めて知った 質問の仕方がよければ 質問者は答えに近づいている 質問にも色々あってね ふっとそれまでの空気と世界が途切れ 世界も自分も何度でも塗り替えられる そう言った顔は思い出せない 光にのまれていた 闇が覆っていた どちらか 霞んでいる叔父の顔は穏やかに見えた 母の事を姉さんと呼ぶ唯一の人 いつもノートにむつかしい呪文を書き込み おそらく数式だった ねだって手の甲に書いてもらった 肘から手首までの長いもの 小指におさまるもの くすぐったくても我慢した 母に見せると 誰に似たんだか変な子になっちゃって 困ったような声 何も為さずに消えた横顔は真面目 それは消えた足跡 まっすぐで 答えを探る瞳孔 嘘を許さない背中 たまには陽を浴びたらいい あの山を見ると嫌になる いま抱えている問題を思い出す 目の色が不思議で 太陽の下では濃くなる 茶色い猫が歩いてころりと寝転んだ くわえていたのは靴の片方で せっせと飼い主に貢いでいるのだった 片方だけの靴が だから叔父の家の前には並べてあった 彼のいた場所には穴があいて そんな穴がどこにでもある そこに触れると冷たくなったり 暖かくなったりする 乾いた音楽がいい 演奏家もウェットなのは苦手 淡々と奏でられるバッハ ゴルトベルク という響きも教わった たまに頭に手を置いてなでるでもなく少し待つ 手を繋いだことはなかった 嘘の何がいけないのよ 母の怒った声は震えていて なだめてあげたいほどだった ごめんとつぶやいたのは誰だったのか 誰もいなかったのか そびえ立つ大きな固まりが空を持ち上げて 山は大きな人だった 夕焼けは毎回燃え夜へと消え 叔父はあの向こうへ 多くの疑問を残し 黒い雲を沸かせ 雷を呼び 先の大雨で山肌はただれ 河は壊れた 呆然と見つめる横顔の中で そんな時はうつむいてしまえばいいのだと知っていた いないのに必要なときは蘇る 風や雲とともに 切れるほど青い空にすっと雲がかかり 嫌な思い出もあんな色に塗れたらいいなと叔父は形のよい唇でつぶやいた 淡々とした叔父にも嫌な思い出がかぶさっていたのかと 今驚いている イチ、と猫を呼ぶ声は低く 姉さん、と呼ぶ声は少し高く なんとなく過ごしているうちに年を取り 恋も愛もなく通りすぎ 今は老いた母と二人暮らし 昨日介護退職をし とても深くて青いような困難が立ちふさがり 叔父ならどう答えるか うつむくのか 淡々と書き付けるのか すりきれた記憶から 手探りで思い出している 母は毎日誰もいない玄関に向かって おかえり と言う ---------------------------- [自由詩]木はおどる/木屋 亞万[2020年8月13日22時20分] 木はおどる きみたちは知らない 木の舞うすがたを 木はおどる 風に揺れるなんてもんじゃない 種から芽生えたそのときに 体をブンブンゆするのさ 枝が広がり 葉をのばし おどりはどんどん からみあい もつれあう 流れ星のように まわりを過ぎゆく 生きものたちには 目もくれず 木はただおどる 木はおどる 木には木の 時のながれがあるらしい 知っているものは はじめから 教わる前から 知っている 木はおどる 知らないだろう 木はおどる 知っているんだ ほんとうは きみも木も 他から見れば おどるおどるおどる ---------------------------- [自由詩]サンダル/ガト[2020年8月18日5時14分] 夏の終わり 暑さだけ残して 太陽が少しずつ 遠くなる 街の中で 暑い暑いと言いながら 人のいなくなった海の面影が 頭の中でしまわれる 毎年同じ 何か忘れ物をしたように 砂浜を描き 季節に置いて行かれる  ---------------------------- [自由詩]街灯/ガト[2020年8月18日5時17分] だめなひと いとしい すまなそうにうつむいて 小さく笑う もういいから だめでいいから わかってるから そんなに小さくなるな 泣きたくなる  ---------------------------- [自由詩]マイペース/桂[2020年8月18日14時34分] 前を見れば誰かの背中 後方からは抜き去ろうとする者の足音 周りを意識し過ぎれば 自ずからデスレースを走ることになるだろう 胸の中ににぶら下がった心臓は おまえだけのストップウォッチ 脈打ち 残りの鼓動が制限時間終了を告げるまでに おまえの足はお前を一体どこへと運ぶのだろう 外野の声に惑わされるな 自己啓発本や常識だってその類 忘れるな 大事な問いの答えはおまえの中にある もっともらしい言葉で俺を変えようとする者を俺は最も疑う 自分で考えず 他人の話ばかり鵜呑みにしてたら 他人の道を走るらざるえない 振り返って後悔した時には 完全に自分を見失って 地平線の真ん中で途方に暮れる 馬鹿みたいな話だが そういう奴は意外と多い だから耳を傾けるべきはお前の心臓の音 信じるべきものは確かに歩を進めるお前の足音   ---------------------------- [自由詩]サン=テグジュペリ/TAT[2020年9月12日21時36分] 薔薇の花が言葉を喋り、彼女の喚く下らない自分本位な痴話話をいなしながら、俺はヘルメットのバックルに紐を通す。俺は郵便配達の飛行機乗りだ。俺は砂漠を飛ぶ。俺は砂漠の広大な原野に、砂漠の民たちが読む、一日分のLINEメールをドサリと落とす。俺は飛行機乗りだ。俺は星の王子様だ。 ---------------------------- [自由詩]接近禁止/よしおかさくら[2020年9月19日6時43分] スープストックの安心を 幾つも並べ立てて 漸く応答する 眉の太い 少年漫画の強さで聞いてくる奴がいて まだまだ一生無視するつもりでいる 誇りを二度と傷付けられはしない 夕陽が真っ赤になって溶けていく 優しい人の事だけを思う メランコリックは今夜 星になって 遠く キラキラしていて 近づくな ---------------------------- [自由詩]白い畑/道草次郎[2020年10月1日13時54分] じゆうだなあ 白いなあ なんでも書いていいんだなあ むつかしいことも おふざけも 純愛や青春や絶望も 宇宙人だって なんでもここに書けるんだなあ ポンコツなのでも 傑作でも みーんなこの白い畑に 育つ野菜なんだ 今これを読んでくれてる誰かさん いま何をしてますか そちらのお天気はどうですか いつもこうやって 糸電話の片っぽにそっと耳を当ててくれて どうもありがとう あなたがいてくれるから たぶん ぼくは生きられます あ、お邪魔でしたら いずれまたどこかで 色々なことがほぐれていくのを ぼくは願っています じゆうな白い畑はきっとその為のもの そんな気がしてならないのです ---------------------------- [自由詩]去りゆく大人への備忘録/短角牛[2020年10月3日23時23分] そんなに無理に大人にならなくていいと 言われた子供は  少し戸惑った後に むすっとしていた 背伸びして見てた景色は 都合の良い子供 知っていたのか 幸か不幸か 僕は 今のあなたを歩けばいいと 厚着していたのを脱ぎ捨てていくのは 身軽になる怖さ 寒さへの忌避感 弱さ故の慎重 随行者への憧れ 少し痛かった 背中の温かみに気付いた 私はずっと 励まされていた ---------------------------- [自由詩]シグナル/七[2020年10月12日0時43分] 終わったテレビが砂嵐になっても 続いている物語 今日ごはんを噛みました 敗北者の味がしました 必要なのは それでいいと言ってくれるひと それとも それでは駄目だと言ってくれるひと おしまいにすることが なぜできないのか 今夜もGoogleは答えない Siriは肝心なことをまだ言わない 降りそそぐシグナル たどり着くあてのない幾億のつぶやき 砂嵐のテレビモニターは配線をはなれて まよなかを渡って行く 画面に 無いはずのものが映っている どこへ向かうのか 知らない   ---------------------------- [自由詩]事前準備/花形新次[2020年11月1日20時54分] どこで聴いたかも 分からない 名前も知らない歌が 繰り返し 頭の中に響く 「あの頃は良かったね あの頃は良かったね」 女の声が唄う でも実際はそうじゃない 私の都合のいいように 歌詞は変えられている 「あの頃は良かったね あの頃は良かったね」 良かった頃なんてあったっけ? 思い出そうとしても 思い出せない 「あの頃は良かったね あの頃は良かったね」 嘘ばかり もううんざりだ 良いことなんかない あるのは 悪いことか そんなに悪くないこと 良いことなんか ひとつもない これまでもこれからも よし、うんこしてこよう ---------------------------- [自由詩]夕飯/花形新次[2020年11月3日19時21分] 表面を撫でるだけの言葉では 伝わらないと思うから 激しい言葉使いも 厭わなかったが もういい加減枯れるべきだと いう気がして どうせ伝わらないなら 何も言わない方を選ぶことにする 「この小松菜の味噌汁、美味いな」 もうそれだけでいいんじゃないか と思う ---------------------------- [自由詩]杖/猫道[2020年11月4日8時18分] 一寸先は闇というのは幸いで 闇とわかっているのなら 明かりを持っていける ところが待っているのは 真昼のコンビニの如く 一切の暗がりを許さない 明るい世界かもしれず カバンに何を持っていけばよいのかは ファイナンシャルプランナーか 占い師か 気分に任せるしかない 転ばぬ先の杖を沢山抱えて動けなくなる人 皆が叩きすぎて石橋は崩れ落ちた 何が正解かわからないけど 身体に染みつく○がもらいたい私が コースアウトを許さない がんになるかもしれないから 回復魔法を覚えておく必要がある 就職活動中はメールのアカウント名に 気をつけましょう SNSを特定されるかもしれない 電車が止まるかもしれない から早めに家を出る 車内広告は歌う 毒の沼に備えて毒消し草を 呪われないように聖水を 脱毛しないと結婚しないと 英語を話せなければ 私は本屋大賞ではない 株価ではない 利益率ではない 全額返金制度ではない ダニエル・ブレイクでもない 勇者でもない ただ明日晴れたらいいなと思う 傘を持って来なかった人には 誰もが冷たい 麻生太郎がニートに言う 「今まで何してたんだ?」 回復魔法も覚えず 脱毛もせず 聖水も毒消し草も持たず 結婚もせず 車にも乗らず 酒も飲まず 熊除けの鈴も持たず 一体何をしてたんだ? おまけに 開運の壺も 高級羽毛布団も 奇跡のまくらも 買ってないじゃないか 竹内力が私に言う 「法律いうんは弱いもんの味方やない 知っとるもんの味方するんじゃ」 それ パソコンも同じですよね そもそも取説がないmacに 何度も正拳突きを喰らわす だけの財布の余裕はない そもそも財布を買い替える金がない 金がない奴は俺んとこ来い 俺もないけど心配するな そのうちなんとかなるだろう という宗教を立ち上げる 三食ラーメンを食べ プラスチックを燃やし 吸いたくもないタバコを吸う そのうちなんとかなるだろう しかし時既に遅し そういう奴らはもういたわ ハチ公前に沢山 「コロナは風邪」ってプラカード持って 思考は現実化する はたぶん本当だろう その昔 高円寺の女帝 すまきゅーさんが言った AVに描かれているシチュエーションの ほとんどは現実に起きている 思考は現実化する はたぶん本当だろう それなのに明るい未来を想像できないのは 何故か どうして不安なのか どうして自信がないのか 素晴らしいと言われたいのか 台本通り進まねー人生という 障害物競走の途中で コースアウトして商店街のコロッケ買って帰宅 もう二度とコースには戻らない そんな自分を夢想する そもそもコースって何か テクノの、ハウスの、チップチューンの、 ダブステップの、 パンクの、ハードコアの、メタルコアの、 スカの、レゲエの、ヒップホップの、 短歌の、俳句の、現代詩の、 歌舞伎の、2.5次元の、現代口語演劇の、 コースって何か? そんなものは無いのではないか 無いのにあることになっているならば それは幽霊だ 目に見えない 恋も嫉妬も信頼もウィルスも放射性物質も あると言われなければ知りもしなかった 山奥に棲まう鬼のような ビッグフットのような 足跡だけ残して消えていく 自分達が創り出した 幽霊 が実は一番怖い 朝目が覚めた時 間違いなく どこかで殺人鬼も目を覚ましている だから家から出ないというあなたへ 空が落ちてくると毎日怯えて暮らす 中国の昔話に出てくる私へ わかる わかるよ それは杞憂だから外に出てみろとは 言わない でも俺は出かけるよ 明かりも杖も持たずに いや この歌を頼りない明かりにして 歌を杖にして いってきます ---------------------------- [自由詩]歩く/風の化身[2020年11月5日20時52分] つまらないから涙を流している 草笛を吹いては故郷を思う 通い慣れた道を歩いては いにしえを回顧する すでに 涙も夢も涸れはて 夜道の先に小さく光るのは 絶望なのか希望なのか 予見する力も有るはずもなく じっとしていると 縮こまっていると 虚しさが震え出す だから 私は歩く ひたすら歩く 悲しみを踏んづけて歩く 寂しさを放り投げて歩く 歩く事だけが唯一の安らぎだ ---------------------------- [自由詩]ひさしぶりに/ナンモナイデス[2020年11月5日21時13分] ひさしぶりに ぶたまんたべました 白い皮に 黄色いねりからしぬりました ふと小さいころが 再現されたようです 一口するほどに ほどほどに 時が過ぎていって くれればいいのに 幸せは小さくていい そう肩越しに 聞こえました ---------------------------- [自由詩]川辺/はるな[2020年11月6日1時29分] 穂のゆれる 夕方まえ ゆれてるね といい、 すわったまま 夜をむかえる つめたい月をちぎっては たべ、 いくつかの 物語で暖をとり ちらばった行間をたばねて 舟を編んだ どこまでもいこう とおもう、 どこまでもいこうとおもう そうして ここにいられる ---------------------------- [自由詩]November Gold/TAT[2020年11月7日0時57分] 11月が特に美しいのは ススキだ ススキが 稲穂のように 黄金のように 風に頭を垂れていて それが特に美しく 趣がある 殊に朝陽や夕陽に透かされて ススキがさらさらと泣いている その様がいい ---------------------------- [自由詩]でもない夫婦/イオン[2020年11月7日13時58分] とんでもない 好きでもない 嫌いでもない 一緒にいたい わけでもない もう別れたい わけでもない なんでもない が積み重なり どうでもない ことで争って 一人でもない 二人でもない でもない夫婦 ---------------------------- [自由詩]君はどうだい/ジム・プリマス[2020年11月7日17時04分] タバコに火をつけて ふと思う 傍らに君がいれば どんなにいいだろうと イザベラは日本には来ない 仕事が素晴らしいそうだ そのことを 精神の片一方で喜びながら 精神の片一方でどこか寂しいと感じている まあ馬鹿々々しく、とっちらかった部屋は 少しずつ片づけて整えておこう 何時か君が訪ねて来た時に 泊まれるように インスタント・コーヒーを ミルクで割って飲む 大切に食べていたベーコンは今日無くなった 最後にトーストした食パンに マヨネーズと最後の三切れを挟んで食べた おいしかった 大して面白くない 動画のドラマを見ながら 時間が過ぎるのを待っている 注文した自転車が着くのを キリキリとただ待っている 電子マネーを使おうと 携帯をポケットから 出す度に電波が届かなくなる まるで呪いのようだ いつしかこんな色んな苛立ちも 生活を綾どる一部になっている 僕はこんな毎日だ 君はどうだい ---------------------------- [自由詩]桜三月/花形新次[2020年11月26日19時34分] 今どき人の飲食代に 自腹を切るなんて 見上げたものだと思う なんか貧乏臭い 労働組合政党が 文句言ってるようだが こういう奴らは 人呼んでおいて お茶だけ出して カンパを募ったり平気ですんだよ ゲバ棒気質が抜けないからさ 冷静に見ると 人間のスケール的には 全然劣るわけよ ねえ、あんた そう思わない? ---------------------------- [自由詩]団欒/道草次郎[2020年12月19日23時01分] だいぶ昔の話 家族みんなが待ちに待った鍋の時間だった なんとなく付けたテレビの報道番組で ボスニア紛争下での性的暴動に関する特集がたまたまやっていた インタビューに答える女性のただならぬ眼差しに引き込まれ 気付くといつの間にか チャンネルを変える機会を逸してしまった それまでの陽気な雰囲気はどこへやら どことなくみんなぎこちなくなり 鍋をよそうオタマがカチカチ当たる音と 皿をテーブルに置く時の音だけが聞える 誰もチャンネルを変えられない 誰もチャンネルを変えようとはしない 変えてしまっては いけないような気がして 鍋は美味しい でもなんだか美味しさ半減ですこし損したな って そんなことずっと思いながら いつ終わるかな いつ終わるかなと ずっと思いながら黙々とみんな鍋を食べている そんな夜もあったな と 生きてるとそんな夜もあるよなあ と ときどき思い出したりして ---------------------------- [自由詩]スナフキンよ/浮蜘蛛[2020年12月20日12時35分] スナフキンよ。 かつて、君の姿を見た時。 僕は君へ、羨望の情のみが沸き、 君の姿を、いつも・・・追っていた。 スナフキンよ。 いま、君の姿を見る時。 僕は、個人主義とは何かをぼんやりと考え、 その概念や原則、公理や定めを、思う。 スナフキンよ。 かつて、君の主張を知った時。 あまりの驚きと、新鮮さと、 潔さとに打ちのめされ。 ただただ君を、知りたかった。 スナフキンよ。 いま、君の主張を聞いた時。 僕は、君の言い分が、どんな生い立ちや 環境から生まれたのか。 その由来を、知りたくなる。 スナフキンよ。 かつて、君の名言を聞いた時。 その言葉に膝まづき、 その言葉に敗北し、 その言葉に、酔った。 スナフキンよ。 いま、君の名言を聞いた時。 その言葉の真因を問い、 その言葉と現実の間にある壁を、思う。 スナフキンよ。 ・・・僕は、変わってしまった。 スナフキンよ。 ・・・僕は、面白味のない人間になってしまった。 スナフキンよ。 ・・・僕は、面白いと感じない人間になってしまった。 スナフキンよ。 ・・・僕は、理屈ばかりの男になってしまった。 スナフキンよ。 ・・・僕は、何もかも、変わってしまった。 スナフキンよ。 若い頃の自分と、今の自分と。 ・・・どっちが正しいのか、わからなくなってしまった。 スナフキンよ。 君は、本当は、僕と同じように歳を、重ねていて。 そして 君も、本当は、僕と同じように、個人主義に対する 毀誉褒貶(きよほうへん)を、重ねているのでは、・・・ないのか? スナフキンよ。 教えてくれ。 スナフキンよ。 ・・・是非、教えてくれ。 スナフキンよ。 ---------------------------- [自由詩]古谷実の命を祝おう/TAT[2020年12月30日20時15分] 赤塚不二夫のコンプレックスとか 高井研一郎の画風とか ファルス コント 喜劇 がきデカ 山上たつひこ 鴨川つばめ マカロニほうれん荘 なんでトシちゃんは あんなにカッコいいんだろう なんできんどーちゃんの唇はあんなに 心の琴線を揺さぶるんだろう? 長尾謙一郎の豹 吉田戦車のカブトムシ なんでギャグマンガは なんでギャグマンガ家は そこまで痛まないと なんないんだろう? なんで死ぬまで 追い込まれなきゃ なんないんだろう? そんなのは間違ってる それは 風間やんわりの死に様に学べば分かる事だ 関東連合や援助交際の時代 あの頃 最も鋭い時代のナイフは ヤンマガの 食べれません だった けれども ギャグ漫画家が いつもいつも 悲しく苦しみながら イマジネーションの自己発電に 押し潰されて 神経を磨り減らして 無為に死んでゆくと思うな 俺たちには古谷実がいる 古谷実は死んでいない 古谷実の命を祝おう 生き延びた古谷実を みんなで讃えよう あと本年も皆様お疲れっした。 皆様、サンクスでした。 来年も全員ハッピーでおねしゃす。 ---------------------------- [短歌]ひかりのノート/青色銀河団[2021年10月30日22時15分] 誰よりも 遠くへ飛べる気がしてた ぶらんこ漕げば空に近い頃 かなしさと やさしさはどこか 似ています 悲しいひとは優しいひとです 自転車の ペダルを踏んだ僕達は 風を纏(まと)った 冒険者だった ほら風だ、 風は予感だ、 涙より、 だんぜん風だ、 風はらららだ、 な ---------------------------- (ファイルの終わり)