北大路京介のおすすめリスト 2016年8月31日19時31分から2018年6月10日16時45分まで ---------------------------- [自由詩]白紙の季節/ゴースト(無月野青馬)[2016年8月31日19時31分] 何を求めていたのか 何を探していたのか 見えない 自分自身も見えない 詩に何かを求めたことが 間違いだったんじゃないか そういう風にも考えた 詩を好きだったから 見えなくなったんじゃないか そういう風にも考えた それに そもそも はじめから 本当は 何も求めていなかったし 何も探していなかったんじゃないか そういう風にも考えた 「風」は どこから来て どこへ行くのか 見えない そして ここは 途中 広いような狭いような 白いような黒いような そういう 途中 もしくは 白紙 そういうことは分かる 途中 で 考えることは山のよう そうして 考えていると 白紙 も だんだんと また 色付いていく 白紙の季節だった それは必要なものだった   自分自身を探す途中だった ---------------------------- [自由詩]天然/Lucy[2016年9月1日12時16分] 自販機で水を買う 百円の小ぶりのペットボトル 冷房の効いた車輌を待ちながら 冷たい水を飲む 汗が額から頬へ伝い 顎で雫となって 滴る あたたかい風が吹き抜ける ホームの日陰で 私は息を吹き返す ペットボトルに 「天然水」と書いてある ラベルには高山の写真 深い谷川を流れ下る澄んだ水 上流に湧き出る泉 あるいは雪解け水を連想させる (浄水場で大量の塩素に浄化された 使用済みの水ではなく・・) 天然からもう遥かに離れた暮らしの中で 「天然」という言葉が放つ 特別の光 天然ボケの私も 光れるだろうか 冷たい水が 一瞬正気に戻してくれたら 天然の言葉が 私の頭上に 夕立のように降るかしら ---------------------------- [自由詩]フィカス・ウンベラータ/高林 光[2016年9月5日11時03分] 土曜日の午後 少しけだるい空気の中で 僕の前に座る女と その後ろの大きな観葉樹 いつも小さな女の話し声が 今日はより小さく感じて 僕にはいくつかの言葉を聞き取ることができない それなりに長い間生きていると 知らないほうがいいことだってあると気づく 聞き取ることができなかった女の言葉に それほど執着しなくなったのは そのためかもしれない そんな都合のいいことを考えていると、ふと 女の後ろに立つ観葉樹のハート型をした大きな葉が 聞き耳を立ててこちらを向いているような気がして 僕が聞き逃した女の言葉たちが 観葉樹の大きな葉に吸い込まれていく もしかしたら 言葉にならなかった想いまでも すくい取ってしまうのかもしれない 決して積み上がることのない 不安定なよろこびとかなしみといらだち 身じろぎひとつしない観葉樹をただ黙って眺めていると 知らないほうがいいと思っていたことの中に本当は 僕が一番知りたかった言葉も 知らなければいけなかった想いもあったのではないかと 急に不安になりはじめた けれど もう 女の言葉たちはそこにはなくて 観葉樹の大きな葉だけがこちらを向いている ---------------------------- [自由詩]星詠み/あおば[2016年9月8日9時29分]           160904 えらくたんと釣れましたなぁー 太公望のお友達の屋根裏から お魚釣りの道具が出てきたよ といっても何十年も前の奴 平塚の浜辺でをイシモチを釣ったなぁ きらきら輝く水面をボラも跳ねていた だけど彼らは決して釣れないのさ 大物になると刺身にして捌くのだと 長靴で丸太を蹴るふりをしてから 金になるから シラスウナギをしゃくいに行くのだ 眼を異様に光らせた屈強の男達が 口出し無用と眼も眩むカンテラで 水面を照らす なにも知らないシラスは明るい方へと やってくる 一網打尽にすくい取る それが君の鰻丼の起源だ 知っていて欲しい 絶滅危惧種となった今 平塚の河に彼らが遡上することはあるのか それともないのか それが問題だ 星はなんでも知っているかは分からない 初出「即興ゴルコンダ(仮)」 http://golconda.bbs.fc2.com/ タイトルは、蜩さん ---------------------------- [自由詩]night moves /あおば[2016年9月10日14時28分]            160910 此所はどこの坂道じゃ 追分からヨドバシに向かうと 夜行バスの群れのエンジン音 残暑の夜を余計に暑くするよと 惰眠を貪る乗客達を僻目に ヨドバシカメラにフィルムを買いにゆく 今度安い店が出来たよと 友だちに教わってから何十年 丸い緑の電車道を突っ切って行くと うれしいカメラの店があるよと 歌詞を口ずさんだのも懐かしい 今でもお店はずらりと並び 一寸異様な風景に 青い眼の観光客は スマホ掲げて記念撮影している フィルムも売ってますが みんななにを買いにゆくのだろうか 僕は16年ぶりでブローニーフィルムを買う 5本入りで4900円、随分高いね 40枚で約5000円 樋口一葉さんが飛んで行く 現像代やらを考えたら 写真一枚200円かかるねと 口ずさみながら暮れゆく雑踏の中を よちよち歩むのです どこから来てどこに流されるかは分かりません 感光した光のつぶつぶがゼラチン膜の中に銀を そっと黒化させるのは知っていますが それから先は知りません シャッターを夜空に向けること2分間 星々が同心円を描き出す頃にやっと撮り終えた 終電車を気にしちゃ好い写真は撮れませんぞと ホームレスの老人が嬉しそうに語りかけるので コンビニおにぎりを分け合って食べる 今頃バスは小仏峠を抜け甲州を疾走しているだろう 乗客達は眠れているだろうか 運転士は眠らないで欲しいと願うが 彼も流れ星と渾名された若い頃があった 日は東に西に バスも東に西に 北口に向かった僕は とうとう終電車に乗り遅れ 薄暗い夜空を一晩中眺めながら 時々シャツターを切り お金の無駄遣いをしている さらばさらば一葉も逃すまいぞと 夜の秋風が耳元で囁くけど 野分の手下ではあるまいにと 誰も気にしないのも確かだ 日が差さない夜は余り風は吹かないんだよと 山仕事もしていたホームレスの老人は一口追加した なにを、決まってるじゃん、焼酎とウィスキーさ 初出「即興ゴルコンダ(仮)」 http://golconda.bbs.fc2.com/ タイトルは、さわ田マヨネさん ---------------------------- [自由詩]魂ノ行方/ひだかたけし[2016年9月11日19時39分] 失う 出会い 築いては 失い続けて 底を貫く本質 掴み取れたのか 沈んでしまうのか 進む船の舵取り主は 己が意志、病に抗う意志 沈んでしまうのなら仕方ない 精一杯やるんだ、もう一度精一杯 アカ 、 アオ 、 ムラサキ 声     故郷   響き      魂ノ 高い高い秋の天空に舞い上がれ! 高い高い秋の天空に舞い散れ! 躍り歌い交わる肉の血味わい尽くせ! この噴き上がる聖なる血潮を ---------------------------- [自由詩]荷と足/ひだかたけし[2016年9月17日12時22分] 聖なる頂きへ独り人は 己だけの荷を背負い 前のめりに一歩一歩、 あらゆる痛苦を受け容れ 寄り添う天使の気配に微笑み 螺旋階段を只ひたすら昇って行く 荷は鞭 、足は杖 天使は独り人を知悉し 死の迷路を導かれ行く、 力は独り人から溢れ出し。 ---------------------------- [自由詩]おもいで/梅昆布茶[2016年9月19日11時18分] おもいでのまちをとおりすぎて おもいでのまちにかえる おもいではとうにうせてあきのそらがひろがる なんだかかなしくてくちぶえをふいてみる おもいでのいちばではなにをうっているのだろう はつこいとかははのせなかあるいはだいすきだったかおのないにんぎょう おもいでのがいろにぼくはいなくて よそよそしいたにんのおもいでだけがとおりすぎてゆく おもいではうせてきみもいまはいない ぼくのこころはあのころにすみついたまま おもいではしょうじょのかおをして すたすたあるきさってゆくが ちょっとふりかえって にっこりわらってくれたありがとう ---------------------------- [自由詩]言 霊/ひだかたけし[2016年9月20日20時44分] 意識 溶け拡大していく 限りなく宇宙の楽音に共鳴し 混交する闇光 すべて受け入れ 委ねるのだ 保ち 鋼の強靱 しなやかな弓の強度に震え 私欲思考ヲ停止シ 死に思に詩の言葉の飛躍に! 反感から 共鳴寛容へと! 論理を一気に越え延びる声 光は爆裂しひたすら無音の意味、 開示スル瞬間の永遠を掴み取り。 ---------------------------- [自由詩]彷徨いの淵/高林 光[2016年11月5日18時28分] 昼間なのに少し薄暗い北向きのカフェ 観葉植物の傘の下で 大きな背もたれのひじ掛けがついた椅子に深く腰掛け 背中の後ろ、ガラス窓から差し込む少しの陽射し 店内には静かにジャズ まったく僕は この椅子がもたらしてくれる平穏を 窓から差し込む薄明かりを 静かなジャズがかすかに揺する心持を テーブルの横に置かれた大きな観葉植物の 薄黄緑色の葉の裏を見ただけで 楽しめなくなってノートを広げている これまでにこういう時間が 僕に何かをもたらしてくれたことがあったろうか 傍目からはとても静かでゆっくりと流れている時間の中で ゆらゆらと揺れる心持をもてあまして いつも僕は生きてきたような気がする 傍らには開かれたノート 胸ポケットには二本のペン ノートに書き留められた言葉が その時々の偽りない気持ちだったとしても いま、見返してみて その時と同じ気持ちになれるわけではない 意味のあることとないことの境界はいつも曖昧で 自分本位の不確かな根拠に押されるようにして僕は その淵を行ったり来たりしている 言葉が言葉以上の意味を持たないとすれば、きっと その境界はもっと解りやすくなるはずで ノートの言葉も、女との他愛もないおしゃべりも そしてこのカフェも 僕のものではなくなってしまう 「生きている糧」という言葉をなにげないやり取りで使うと女は そんな大げさな、と小さく笑い出した 確かに女との関係に米の量が入り込む余地はない すぐにお腹が空くくせに 決まって食べ物を残す女 ふたり この淵を彷徨うようにして歩く 言葉だけを費やして流れていく時間を ささやかな幸せに昇華させながら ---------------------------- [自由詩]ラブレターは夜に書く/愛心[2016年11月16日23時43分] 貴方はもう眠っているんだろう。 そのかんばせに疲労と充足感をたたえて 閉じた瞼に縁取られるのは かさついた睫毛か湿った青紫の隈か その両方か。 声を聞きたい。と 一人、ぽつりと呟いて 無機質に光る液晶を消した。 蝋燭の火の色をした灯りの下で 便箋の上に 下手な字を書き連ねていく。 読み返すつもりもなく。 刻むように綴るのは 燃えるような愛の言葉ばかり。 あの人に見せることはない。 見せられる筈がない。 便箋の可愛らしい柄に相反するように 不恰好に並んだ、わたしの言葉は、想いは 熱く、近づくだけでも恐れをなす 触れてしまえば火傷で済むものか。 その身を、心を、嘗めるように覆い 灰にしても、なお、堪らず 止められない。 溜め込めば息が出来ず 吐き出せば傷つけて どうしようもなく。 知られたくない。 誰にも見せない。 このまま、隠しておくから、だから。 「       」 飲み込んだその言葉は 星のように燃えていて その小さく瞬く熱を 隠すように涙で消した。 ---------------------------- [自由詩]> 嘘つきの魔法使い/あおば[2016年11月17日17時06分] >          161116 > > 素敵な大人とは > 嘘をつくのが巧くて > 嘘だとは気が付かせない > 詐欺師の笑顔に惚れた > 悪魔の子どもは詐欺師の弟子となり > ファシズムを勉強する > 特攻も特高も自爆も絨毯爆撃 > 空爆、核爆、自縛されたように > 念仏修行もする > コーランをそらんじ > 聖書も > 源氏物語も暗記しているから > 騙されないように気をつけてください > 彼も今は水も滴る好青年の姿で > 颯爽と涼しげに歩いている 初出「即興ゴルコンダ(仮)」 http://golconda.bbs.fc2.com/    タイトルは、ma-yaさん ---------------------------- [自由詩]forever dreaming/アラガイs[2016年12月5日19時28分] 「なんでこんな体に産んだん」 またゆうてもた あかんなうち 「どうせこんな体に産むんやったら、産まんかったらよかったのに」 またゆうてもた あかんなうち うちがゆうたび母ちゃんは泣いている うちがゆうたび母ちゃんは涙をこぼす……… 引用元 「ごめんな母ちゃん」 …生木 敬子。 NHKハート展 * 枕を天使に捧げ きみは永遠のねむりにつく 命はかけがえのないもの かけがえのないものから産まれてきたんだよ 一粒の涙が星になり ふたつの指が星にかさなる 落葉をひろう幻のなかで 子守唄がきこえた 映画「エレファントマン」より ---------------------------- [自由詩]そっと君から信じてもらう光景に/りゅうのあくび[2017年1月25日22時39分] ほんとうの自分のことを わかってもらうことは 誰かをそっとこころのなかで 信じるということでした あの日を  僕らが生きていること すでに静かな風が通りすぎるように 深い森林と広い草原が夕暮れと横たわる うなずきながら橙色に焼ける 永い地平線の違いを ふたりでそっと眺めることでした だから 例えば夜明け前に 深い森林のなかで そっと佇んでいたとしても 真夜中の広い草原のなかで ふとほんとうの星空を探していたとしても あの日を  僕らが生きていること きっと小さな恋のあいだに うっとりした夜空のなかにいる ずいぶんと静かに風はささやいて 僕らはこころのなかで 焚き火を灯すことができる ほんとうの自分のことを そっと君から信じてもらう光景に ---------------------------- [自由詩]あのニュース/竜門勇気[2017年6月13日14時22分] 二日前に会った誰かと あのニュースを話題にする 滑りやすい床を歩く時 使わないギターでも背負ってれば 無敵不老不死 叶わない夢は夜見る 甘い水を汲みに行く 昼間はずっと叶った夢を見てる 解けない結び目が幾つか 道端に転がってる 全てが気になるなら 全てに挨拶しろよ 無愛想な能面はある日 二日前に会った誰かと あのニュースを話題に上げて 良識の背比べ 滑りやすい道を歩く時 誰しもそうするように 両手で空気をつかむ なんか忘れてる気がする バラけた紐がもっと バラけた紐がもっと 事態をややこしくしてる 無愛想な能面は感じ 動物にかえってった ---------------------------- [自由詩]フラグメンツ/連音/AB(なかほど)[2017年10月15日12時08分] 6月23日   このからだのなかに   ながれているものが   うそ   にならないように   てをあわせます また、6月23日   ことしも   まだなんとかひととして   いきてます   あなたのとなえも   こころからであれと   てをあわせました ゆうなんぎい   いつまでも   僕の気持ちは   あの人の心の隙間に   繋がりたがって   ゆうなんぎいのいとの   そよとばかりに ミンナ草 イッター アンマー マーカイガー (あなたのお母さんはどこいった) ベーベー ヌ クサ カイガー   (やぎさんの草を刈りに)   また   祖母のしわがれた声がかすめてきて   今度は僕が採りに行こうと決めたのに   あのミンナ草のある場所さえも    もう探せない サバニ   やがて   波の音が聞こえ出すかもしれないので   確かめるほどでもない   と言い聞かせ   足を速めた   波の音は おーい って   波の音が おーい って   小舟の陰では カサカサ って はんだやー   よいしょ   と立ち上がり   押し入れから炬燵を引っ張り出す   頬っぺの紅く染まった君の顔が浮かぶたび   鼻をかんでばかりもいられないので れのん   つながっている   君の心と身体は   つながっている   海と月   のように   つながっている   月と細胞   のように   つながっている ほうげんふだ   そこにやすらぎがあるので   という理由で   前に進むことを停めた友へ   この頃そんな君の落ち着いた顔を見ると   ちょっとだけ痛い   先生もやっぱり痛かったのかな うるま   ゆうべのなまえ   にもどっても   もうそこには   ぼくんちない   んだから   あしたへ   あしたへあゆんで   うるま   うるま   はじまりのくにへ    ---------------------------- [自由詩]冬のアマゾン/ツノル[2017年10月29日0時05分] 沼のような底だったと思う 金貨を無くしそれでも …這い上がらねばと試行錯誤から、身包みを捨てた 沼地が枯れた。 死体が多くて餌には困らないと獣たちはいう 喚起に飲み干される時間ならば停止せよ やがてくる冬を羊歯の葉が生い茂り 物乞いに鳴く鳥は夜のため息か 薄暗い森を彷徨う瞳 黄金に輝く不死鳥の羽根が、 足もとの影を照らし出すこともない 46億の雨が降る 洗浄は緑の大地を浸し 重い足枷は生き物を繋ぐ 朝も昼も夜も空腹に怯え 恍惚と季節を狼狽えながら暮らすのだ。 ---------------------------- [自由詩]日々のエチュード/梅昆布茶[2017年11月7日20時42分] とりあえずのチキンは食べられてしまって ぎゃばんのseasoningが恋しいクリスマスも近いし ぼくのなかの騒がしい自由は休憩しているのだろう 忘れさられる歌を今日もうたっているし 古いギターは古い弦が張りっぱなしで それでも明日をのぞきこんでみる 魔法のランプは1000年前に買収された会社といっしょに 処分されてしまったし だから夜の幹線道路をtune-upして走るスクーターが 僕なのかもしれないけどね とどかない手紙に切手を貼って くぐもった声でも歌うさ いつだってステージなんて 用意されてはいないんだから 彼女はいつまでも届かない洋服を待っている 僕は素知らぬ顏でたばこをふかす どっちが悪いのかはよくわからないのだけれど もうちょっと優しい時間をもてたらいいとおもっているんだ ---------------------------- [自由詩]そしてまた大人になる。/愛心[2017年11月12日14時18分] 二十代も半ばになって、初めて詩というものを書いてから十年は優に経ってしまった。 あの頃のような瑞々しさを、私はきっとどこかに置いていってしまった。 駄菓子屋のラムネのガラス玉を、宝石箱に仕舞い込んだあの頃。 雑誌の隅のおまじないに、心ときめかせたあの頃。 友達とお揃いのキーホルダー。 好きな人の写真と生徒手帳。 お気に入りのシャーペンと、物語を書き散らした薄いノート。 私が「ガラクタ」と、一蹴できてしまいそうなものばかり。 そんなものばかり、大切にしていた。 もぎたての果実の心。 甘酸っぱく、まだまだ青く、固くて、怖いもの知らずだった少女は、 薄く色づき、柔らかい傷口から蜜を滴らせ、とろりと甘くなり、女になった。 少女にはなれず、淑女とも言えない。 ただの女になってしまった。 あの頃の不器用で、不細工で、下手くそな瑞々しさを私は何処に置いてきたのだろう。 あの頃より少しだけ、器用に、綺麗に、上手になった私は 少女の心に流れていた水脈を、いつの間にか塞き止めてしまったのだろうか。 ひたひたと、ひたひたと、 溢れようとする水音を、キスに隠して。 ---------------------------- [自由詩]ゆうやみ/はるな[2017年11月13日11時50分] からだをさかむけて ゆうやみを聞く このさきにそらが あるとして、 だれも届かないとしたら 空はだれのために くれている すきだった ものの名前を おぼえている順に忘れていく とける和音のゆめみごち この先にそらが あるとして ---------------------------- [自由詩]あなたの心、買い取ります。/愛心[2017年11月21日23時46分] 心臓が軋む音がする そろそろ「換え時」か 僕は店の扉を叩いた 狭く埃っぽい店内 目の前には小さなショーケース レジスター 天秤 キャンディーポット 店主は古ぼけたテディベア ここは心を売る店 テディベアは今流行りのAI 首のリボンから流れる 音声案内を聞き流して 僕はキャンディーポットから 飴玉を1つ取り出し呑み込んだ ああ 甘い ああ 苦い 飴玉はガラス玉 冷たさは 鋭く砕け 喉を内側から抉る 痛い 急いでハンカチを取り出して ぽろりと溢れた涙を受け止める 僕の心はなんて脆い ハンカチの上で光るのは 薄いガラスのハート 1センチ程度のハート 僕の弱いハート ぽろぽろとぽろぽろと 止まらない涙 これだけあれば十分か 秤にのせて 釣り合えば 傷を知らない 鉄のハートを手に入れる 傷つくものか もう二度と 鈍色のハートを 口に含めば さらりと溶けて 体に馴染む 心臓は規則的に 涙腺には蓋をして 僕は強い心を手に入れた 静かな心持ちで 僕は店を出ていく 「ゴ購入 有難ウ御座イマシタ マタノゴ利用ヲ オ待チシテオリマス」 ピ ピピ ピ ピー ピー ピー ピッピー 「ゴ主人様 オ客様ノオ帰リデス」 「鑑定ヲ オ願イ致シマス」 了解です。 スリープモードに移行してください。 「承知シマシタ すりいぷもおどニ 移行シマス」 キュウウウゥゥン プツン あのお客は上客ですね。 相変わらず純度の高いハートです。 もともとね、ガラスのハートっていうのはとても希少なんです。 近年、優しい人、真面目な人、純粋な人ほど 生きにくくなっている世の中です。 人々は 自分の身を守る為に自然と、ハートの素材を頑丈な物に変えてしまう。 そんな中 ガラスのハート、しかも透明度が高く、歪みも殆どないハートなんて、細工師やコレクターが札束積み上げて交渉にやってくることでしょう。 彼のガラスのハートは、彼の誠心そのものです。 光に透かしてご覧なさい。 沢山のことに傷つきながらも、一生懸命に生き抜いてるハートの美しさは。 細かで丁寧なカットが光を反射して。 下手なダイヤモンドなんかより、ずっと美しい。 これはね、弱い心なんかじゃない。 美しい心と言うのですよ。 ---------------------------- [自由詩]ある夜の恋人たち。/愛心[2017年12月4日22時59分] 夜、貴方が明るい空を見上げて 「月が綺麗ですね」なんて言うから 「わたし、死んでもいいわ」と 有名な文句で返すの。 そしたら、貴方ったら 「お前がいない生活は有り得ない」 なんて、本気な顔して言うから 「あたしを離さないでね」と 触れていた指先を、強く絡めて。 唇を擦り合わせたわ。 ---------------------------- [俳句]焔俳句 4 千代の春 十句/鵜飼千代子[2018年1月8日22時05分] 命日に入院 成功祈願 墓参り 開頭術 縫合ホチキスって わたし文集? もう出来ないね 畑返還 支度に出掛け 十歳(ととせ)越え 冬バラ萩を 掘りあげて 故郷の庭 移植するのさ 生命よ続け シルバーカー 愛車 ベンツと 日向ぼこ 寮暮らし 嫡男帰宅 年の家 続いてよ 爺婆子孫(じじばばこまご) 晦日蕎麦(みそかそば) 千代の春 倅眺めて 美酒一献 明けの春 一点買いです 中学生 ---------------------------- [短歌]わたしに、しあわせ、ありがとう/さがらみずは[2018年2月13日1時01分]   ゆずちゃんが「こばやし おかあさん」と わたしよぶ         三歳・娘に 幸せ教わる         ---------------------------- [自由詩]キ萌え死タマエ/ツノル[2018年2月19日4時53分] 始動しなければならない 朝の音楽は嫌いだ 迷い込んだ倉庫にはモーターの大きな音 無表情な事務員の女 ブルドーザーの運転手はガラクタを運び出し、入れ 足は行くテを塞がれた 気づかないふりをして 轢き殺そうとしている ノかも知れない 壊れた手鏡ノ 錆びた顔の中心にハ 十字の縫い針 カマイタチ シタマエ 僕はドアの無い車を背負って逃げた みんな冷たい奴 青春を叩きつけたんだ 立ち去れ イヤなやつら ヨイヒラメキやって来い 鎌足 錬金術師だね おめでとう 祝福される人々 気づけばよかった 超難攻不落な順列と いつ死ぬのかな、ボクは ---------------------------- [自由詩]慥かなこと/アザラシ[2018年3月22日11時31分] それは無条件にすり込まれた 教室の歪みに着席しても 開いた教科書の羅列が 惑うことなく正確だったように 正しいか錯誤か 二択だったセカイ 篩いにすらかけられず それは無条件にすり抜けた すんなりあっさり それは僕に溶け込んだ 僕という人間の一部 20年もそのままに それは僕のアタリマエだった どうして疑わなかったんだ それを? 僕の耳に届いた言葉を 辞書を 教科書を 愛を 憎しみを 無関心を 自分を 朝 目が覚めるということを 何もかもを。 ---------------------------- [俳句]焔俳句 5 永年勤続 十句/鵜飼千代子[2018年3月27日22時14分] 永年勤続 祝い旅行に 花疲れ ハムスター わたしのツレだよ 麗らかに インコちゃん ハムスターとも 春来たる 息子がね 結婚しようかって 春の風 そうなんだ 見れたらいいね あれやこれ 朧月 終わっていたら 無い今生かす 伝えたよ 何十年とか 今もそう 水温む 頬も緩んで 春爛漫 あるのはね たったそれだけ 菫草 風光る また会えたなら 縁側で ---------------------------- [自由詩]Specter/暁い夕日[2018年3月28日23時23分] 気づいたら宙に浮いていた 気づいたかい? 僕はお空に浮かぶようにふわりふわりと 原色を忘れそうだよ 僕がはてた地上の事故現場とか、見えるよ、見えるよ 美しいボーダー波数の単音だけが続いて 耳の中をぐるりぐるりリフレインしているよ 気づいたら宙に浮いていた 気づいたかい? 僕の事見えないのかい? 何処にも行けそうな気がしないよ ただふわりふわり浮いているんだ ただの事故死なんだ  平凡でいられるだろう? 君に触れれそうにもない だって、気づいたら宙に浮いていた 気づいたかい? 黒く塗られた漫画みたいだ  君は平凡でいられるだろう? いつか、君の目の前でおどけてみせたい そして、平凡だとつぶやく君の顔を眺めていたい どうして、君は事故現場で泣き崩れているんだい? 漫画みたいだと思いなよ  君は平凡でいられるだろう? 美しいボーダー波数の単音だけが続いて 気づいたら宙に浮いていた 気づいてくれたかい? いつか、君の目の前でおどけてみせたい そして、平凡だとつぶやく君の顔を眺めていたい まさか死ぬなんて 何で事故現場で泣いているのさ? 美しい単音の波数が響いている 交響曲かなぁ? 大丈夫だよ 君をひとりにしたりしないから もう悲しまなくていいんだよ 目の前に颯爽と現れて 平凡だねって君は呟くさ 大丈夫だよ ほら、 もうすぐ憑依するね ---------------------------- [自由詩]冬の朝の詩/高林 光[2018年4月3日9時14分] 踏みしめる雪の靴音は 清らかに固められた冷気のこすれるような強情さで 色の薄い太陽と 水を透かしたような蒼の空 登校する子供達の歩道の 一本道が少しずつ踏みしめられて 坂下まで続く 時に無邪気に脇にそれたかと思うと 不意に戻ったり きまりのない想いが続いて しばれきった冬の寒ささえ喜ぶ子等なら この朝とひとつになれるのかもしれない 清らかなものの吐く息が 淡い朝陽の熱をも奪い さめた幻になる 冬の寒い朝に意味などなくて そこにあるのは ぼんやりとした色の薄い太陽と 曖昧に水を透かしたような蒼い空 清らかで強情な雪は靴音から 子供達が踏みしめた歩道は 彼らの思いのまま そして その意味のなさに戸惑う 僕がいるだけ ---------------------------- [自由詩]しあわせを呼ぶハミング/秋葉竹[2018年6月10日16時45分] 紙ヒコーキを飛ばす 君といっしょに。 すべるように飛べ、青空へ向かって。 梅雨のなかやすみに近くの河原で、 君の部屋でていねいに折った ピンクの紙ヒコーキを飛ばす。 飛ばすことに飽きてくると、 黄昏がだまりこんでしまって、 僕の願いは、灰色の雲のなかへ迷い込む。 たいせつな場所へ いつでも行けるわけではないのですね? 教わったけれどね、 理由なんて、嘘だよね? いまはこうして君と手をつないでいられるだけで、 いいから、 君がハミングする夏の歌がそっと、 僕にやさしい眠りをあたえてくれるなら、 そのとき、 僕と君は今日飛ばしたヒコーキに乗って しあわせなあの頃に戻っていける自由を、 ふたりがかりで、 分かちあえるのかもしれない、ね。 ---------------------------- (ファイルの終わり)