AB(なかほど)のおすすめリスト 2020年1月27日19時25分から2020年3月20日10時08分まで ---------------------------- [自由詩]Der Traum/墨晶[2020年1月27日19時25分] 今の今迄一緒に居たような気がするが もう面影が思い出せない 誰だったのか そんな風にして何と無く かなしいようなやさしいような 記憶にならなかった経験の ふわふわした印象だけが其処に霧散していく ---------------------------- [自由詩]夏のコラージュ1/たもつ[2020年1月27日20時49分]     墜落した紙飛行機が海に沈む 無人の自転車が男を追い越していく、と 男は置いてきた遺書の誤字に気づき 慌てて家族の待つ家へと帰る 妻は夜更けまで サマーセーターを編んでいることだろう 愛の類はすべて語り尽くされたはずなのに 誰かの夏の中でまだ息づいている     ---------------------------- [自由詩]花の錬金術/丘白月[2020年1月28日21時59分] あなたが触れたものすべて 花になっていく 花粉が涙にとけていく 人生は花壇を繰り返し つくっているようなもの ---------------------------- [自由詩]昭和二十年、或る夏の夕餉/服部 剛[2020年1月28日23時52分] 目の前の 馬鈴薯と玉葱の炒めものは たった一枚の皿であれ 時と所により どれほどの幸いを、もたらすだろう ---------------------------- [自由詩]トウモロコシの覚悟/ブルース瀬戸内[2020年1月31日8時46分] トウモロコシに憧れたので トウモロコシになりました さらりとそう語れたのなら カッコいいかもしれません でもそういうわけではなく トウモロコシに生まれ育ち トウモロコシになりました 簡単に半生を語ってますが それなりに苦労はしました まずはトウモロコシとして 認めてもらえないわけです 植物学上のモロコシ程度で 認めてもらえないわけです 精神的なモロコシがないと 認めてもらえないわけです 存在も脅かされるほどです おまえは半モロコシ前だと 父モロコシや兄モロコシに 指導という名の説教を浴び 泣きモロコシにもなります そんなヒゲは百年早いとか えげつなく言われるんです 植物学上伸びてくるんです どうしたって伸び伸びです でも僕は早くなりたかった 立派な一人前のモロコシに 一早くなりたかったんです 涙で滲んだ銀河を見上げて ぎゅっと隠しヒゲを握って すぐにモロコすんだからな 明日にもモロコしてやるぞ そう固く誓ったものでした あれから7年が経ちました 僕は遂に立派なモロコシに 成長することができました 隆々たる粒々をたずさえて ゴールデンな輝きをまとい 自信に裏打ちされたヒゲを たっぷりとしっかりと蓄え モロコシ畑に君臨できると 自負だってしているんです 弟子モロコシには抜かれて 孫弟子モロコシに養われて ダメモロコシみたいですが モロコシの極意は会得して 忘れたらまた会得し直して 現状は忘れているとこです それでも輝きはゴールデン 蓄えたヒゲはデンジャラス 父モロコシに言われました そのヒゲを待っていたのさ 兄モロコシに言われました モロコすにもほどがあるぞ 血こそ繋がっていませんが 粒と粒とで繋がっています 今はモロコシ畑の夕焼けを 風に吹かれて歩いています 銀河もじきに見えてきます お祭りの仕事を頼まれるも まずは断ったわけなんです このゴールデンは屋台では 持て余してしまうからです 包み隠さず言ってしまえば 食べられたくないからです じゃ僕が祭りに行きますね 孫弟子モロコシが言うので そんなことをされたならば 誰が僕を養うのかと思って いやいやそれなら僕が行く いやいや師匠が出るなんて いやいやそこは僕が行くよ いやいや師匠は怖がりだし いや別に何も怖くないから 何も怖くない自分が怖いよ じゃあ師匠がどうぞどうぞ モロコシ畑の夕焼けと風が 粒に沁みます心に沁みます じゃあ師匠がどうぞどうぞ 孫弟子の言葉を反芻します 祭囃子が聞こえてきました やっぱ次の祭にしようかな ---------------------------- [自由詩]祖父/たもつ[2020年1月31日18時39分] 祖父の名前をふと思い出して 口にしてみると 聞こえてくる祖父の名前がある 祖父は他界する間際まで 新鮮な毛布にくるまれ 駆けつけた親戚たちは その周りで酒や水を飲んだ 酒も水も飲めない子どもたちは 祖父、祖父、と言いながら 乾いた口のまま眠ったりした 毛布のなかで祖父はウナギが食べたいと言い ウナギは祖父に食べられたいと言い どうしてウナギが祖父の好物を知っているのか もしかしたら側で聞いていたあれが ウナギだったのかもしれない 祖父が息を引き取ると 親戚たちは、また今度、と言って 一人また一人と玄関から出て行った その中には今頃 誰かの祖父をしている人もいたはずだった 祖父が他界して何年経つか 指を折って数えてみるけれど どうしたら祖父の名前になるのか またあやふやになっていく     ---------------------------- [自由詩]てくてく/クーヘン[2020年2月1日13時20分] てくてく歩くのに疲れたら、くてくて歩けばいいさ。 道中に見つけた酒場で、ぐでんぐでんになっちまおうぜ。 ---------------------------- [自由詩]明日香村の妖精/丘白月[2020年2月10日21時36分] バラの妖精に恋した 赤鬼の女の子 刺を角にして ほらバラになったよ 妖精のような笑顔 今も残る鬼の俎に腰掛けて 思い出すのは 今はいない友達のこと 鬼の俎でお昼寝すれば タンポポの綿毛が 雪のように降ってくる 妖精は雪うさぎになって 跳んで飛んで 天香久山に棲んでいた 鬼たちのお墓参りに行く 赤いバラの花束を持って ---------------------------- [自由詩]もしも/umineko[2020年2月11日9時18分] もしも今が縄文時代で そろそろ 肉の備蓄が切れる頃なら 僕はこの冬空の下 ウサギ狩りに出かけるだろう 男女平等が正義というなら 男たちは子宝を守れ 女たちは木槍を握れ 生きるのが精一杯な 時代には時代のルールがある ブラック企業をせせら笑う あなたならどうするのか 能力の限界 時間の限界 肉体 社会にも でもピリオドは自分では打てない 神もしくは他人である 次の曲がり角までを 懸命に走り切ること それがマラソンをの極意であると 誰も教えてくれなかった もしも今が縄文時代で 夕暮れだからわらぶきに帰ろう 星が届くほど近くにあるけど あした ここで生きていくんだ               ---------------------------- [自由詩]っ子/クーヘン[2020年2月13日12時36分] 末っ子で、鍵っ子で、角っ子で、隅っ子の僕です。 これだけヒントをあげたんだから、早く迎えに来てね。 ---------------------------- [自由詩]ひっ算/クーヘン[2020年2月14日12時41分] ひっ算を宙に書き、あの子は何やら計算中。 恋の公式を利用して、成就の確率を計算中。 ---------------------------- [自由詩]おすそわけ/クーヘン[2020年2月17日21時11分] 配られたカードの中にハートが2枚ありました。 ちょっと今から、君におすそわけに行きますです。 ---------------------------- [自由詩]サビ/クーヘン[2020年2月19日21時32分] 身から出たサビにAメロとBメロをつけた。 とても醜い歌だけど、とても僕らしい歌です。 ---------------------------- [自由詩]濡れタオル屋/たもつ[2020年2月21日19時38分]     水に濡れたまま 雨にうたれている 妻が傘の下からタオルをくれる いくら拭いても 濡れタオルだけが増えていく 妻は可愛い人 こんな時でも傘には入れてくれない 濡れタオル屋でもやろうかな と言うと それじゃあ私はタオル渡し係 と答えるから尚更可愛い いつまでたっても 雨にうたれるのは下手糞なのに 濡れタオルを作るのは 上手になっていく それでも可愛い妻は傘に入れてくれない 柄しかない傘に入れても 僕が傷つくだけだと知っているから また一枚 妻が濡れタオルを差し出す 水に濡れながら涙をこらえている妻は ほんのりと色気もある     ---------------------------- [自由詩]紙/たもつ[2020年2月25日23時29分]     苦い紙を足していく 食べ砕く 本当は駄目だって みんながそういう話をしている みんなは不特定多数 一様に挨拶をしていく 風に揺れて紙を足していく 誰も食べないし 砕かないし 僕は朝から紙以外のものは 食べ砕かないし 苦い カーブが甘く入りましたね、と 解説の◯◯さん ◯◯さんは不特定多数 挨拶など、丁寧にする 路地裏だって緩やかに歩く カーブは甘くもなるのに 紙はねえ、ならないんですよ、 と解説する◯◯さん そして足していく 食べ砕く僕の身体は 徐々に薄くなって 眠りに落ちていく 紙のまま、ずっと     ---------------------------- [自由詩]図星/クーヘン[2020年2月29日13時05分] 見上げた冬の夜空に図星が一つ輝いている。 あの星だけが、僕の小さな悪事を見抜いている。 ---------------------------- [自由詩]西陽/たもつ[2020年2月29日18時20分]     薄色の電車 駅に着くたびに 肋骨を触って 遊んだ 指先に水滴が集まって 見ていると きれいだった お父さんが、いい、 と言ったから 遊び続けた 手やその先が 優しい人だった お父さんを押すと 車窓からの西陽に 少し動いて 戻ってくる 電車に似た薄色の駅 お父さんは 一人降りた 捨てられた、とか 忘れられた、とか ではなく 置いていってくれた そう思う 何もかもが あの頃は すべてだった     ---------------------------- [短歌]この猫め、あたしを孤独と思うなよ/秋葉竹[2020年3月5日1時59分] 過ぎてゆく疾風が眼を切った冬、春を信じてただ走る君 見られるのが嫌だなんて言わないで正しい片恋なんて知らない あの雪で転んで笑われやけくそで手渡したチョコでも想いは通じた 今といふ時代をあそぶ蝶であれ艶なき日々など《をんな》の名折れ どす黒く染まった心を簡単に笑顔で君が晴らせば星空 この猫めあたしを孤独と思うなよはらはらはらとボタン雪降る 目のまえのガラスが吐息でくもるから迷いつづけるあの名を書こうか ほろよいでねむってるふりしてるからほっぺにかるくならいいよちゅって 大きめのじゃがいもみたいな父の背を追う路地裏ではカレーの匂い ---------------------------- [自由詩]窓のカギ/間村長[2020年3月8日13時34分] 窓のカギが開けられると 蜂が入って来た 村一番の美人である グドルーンは 普段はスライディングタックルを 決めて男を倒してから アド(広告)ばかり出していたのだが 今日は違った 蜂が入って来たのだ 朝に肉を食べる母が 眩しくて今日の雨を 忘れて居たグドルーンは 蜂が入って来た原因を作った 窓のカギを欲しいと思った ---------------------------- [自由詩]甘いバターと春、或いは/みい[2020年3月10日2時20分] 今日もひとりでいたわたしが死んでゆく 春になろうとしていることを目で捉え そして触ろうとしたあなたの髪を さらり、簡単すぎるほど軽くすり抜ける ねえ、どうしてこんなにたったわたしのひとつの命が こんなにも重たくてつらく鮮やかなのですか あなたの指はいつも絡まったピアノを解くような 優しい温度をしていて 苦しみとか 痛みとか なんでもなかったかのように笑うの もう、よして キスだとか抱擁の リズムがあるものは全部壊してしまいたい 絶対に必要なのに要らないと思ったの コップの中の指輪はきっと サイダーに溺れて言葉も出ない 泡が ただのぼるだけの呼吸は つまる 月に浮かぶ少しのたましい 絶対に必要なのに要らないと思ったの わたしの不規則な幸せに あまりにも似合わない あなたの笑った顔 あまりにも 綺麗で つくられた、苦しみで良かった ずっとそれで絡めた手と手の隙間を埋めて そしてキスして わたしはその苦しみを食べて ずっとずっと死んだノクターンを求めてる 「死んだ、なんて語弊があるよ」 あなたは確かにそう言った その優しい声はわたしの焼いたパンケーキを ひょいと食べて そこにはわたしが望んでいた 窓の光が、溶けたバターと消えていった ただそれが いちばん春に近かった ---------------------------- [自由詩]引き出し/たもつ[2020年3月10日17時27分] 午後が落ちている 歩くのに疲れて 坂道を歩く 人だと思う エンジンの音 やまない雨の音 降り積もる 昔みたいに 曜日のない暦 夏の数日 確かに生きた 覚えたての呼吸で 何も残らない すべてが愛しすぎて 朝の手 夜を触る 音のない言葉 共有の嘘 引き出しを開けてごらん 虹が入っている ---------------------------- [自由詩]生活/たもつ[2020年3月20日10時08分]     とり急ぎ、という言葉を初めて聞いたとき 鳥も急ぐのだと思った 正確に言うと へえ、鳥も急ぐんだ、と思った それはユウコの初めての言葉だった 今思えばあの頃 鳥は皆、急いでいたような気もする まだ急いでいるものなのだろうか ユウコは青白い顔色で 都会が良く似合った 生きる音がしていた 指は幾度となく紙をなぞり 影は指と紙との境目をつくり 指を辿れば そこにはいつもユウコがいたのだった ここは立地が良い、悪い、というのが好きで とりあえず、という珍妙な言葉を 生まれて初めて聞いたのもユウコからだった 鳥は会えないのか、和えないのか そこのところはわからなかったけれど ユウコの言葉の中で鳥は鳥として生きた ユウコにはユウコの十年があった ユウコとの十年があった たとえ息を吐くだけでも それは生活でよかった   ---------------------------- (ファイルの終わり)