アザラシと戦うんだのおすすめリスト 2010年3月12日12時42分から2015年6月24日21時05分まで ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]どどどどどど/大村 浩一[2010年3月12日12時42分]  ヒトはなんである種のコトについて、自分で失敗するまで学ばないのであろ うか。他人の失敗は笑うクセに。  大した事ではない。蛇口のことである。  小学校の頃。今は亡き親父が、風呂釜のガス管を、ねじれないように二股の 別の口に付け直した。なのにそれをよく分からない母が大気圧開放のほうのコ ックを開けて点火してしまい、風呂釜のある台所の土間から、トツジョ高さ2 メートルほどの火柱が「どぉ〜〜」と噴き上がるという椿事が起きた。 「ア〜レ〜、これどーなってるのおおお」(原文のまま)  と絶叫する母に、どどどと駆けつけた親父が冷静にコックを閉じて事なきを 得た。  就職2年目の頃。会社の寮の風呂で入浴中に、同じ精機サービス部の後輩が 蛇口の調子がおかしいと、何やらがちゃがちゃやっていた。 「お前サービスマンなんだから、そのくらい直せよ」と私がけしかけたので、 彼がむきになって、なおもがちゃがちゃやっていると、突然ハンドルの部分が はじけ飛び「どどどどどど」とお湯が高さ2メートルほど噴き出した。  どどどと飛んで来た寮の舎監さんと入れ違いに、桶で格闘する後輩を残して コソコソ風呂場を逃げ出した私。後日、当然のように謝らなかった。(笑)  そして先日、8月の末。登戸から中野島への引越しを終えた大村家では、無 理置きした7kg級重洗濯機にホースが繋ぐために、蛇口を付け直そうという事 になった。  まず古い長くて邪魔な蛇口を外そうと、私は玄関前に2つ並んだ水道のフタ の、手前のほうの元栓を我が家のものと思い定め、これを閉じると洗い場の古 い蛇口を外しにかかった。この時なんで、チョット蛇口を開けてみて水が出な いか確かめる、といったキホン的な事を思いつかなかったものか。  もしも水が漏れだしたらすぐ止められるようにと、慎重に緩めていった積り だったのだが、与圧された水の力というものを、私は甘く見ていた。  ポン。どどどどどど。  手応えが無くなったシュンカン水が噴き出し、慌てて蛇口を付け直そうにも 水圧で定まらない。ぷしゃああと溢れる水を浴びながらワタシは叫んだ。 「もとこぉ〜〜、早く来てぇぇ」(原文ママ) 「何やって…、うわぁぁ!」 「早く早く止めて、表の元栓、奥のほうぅ」  危機に陥るほど冷静になる、と普段から豪語する妻もとこさすがにクール、 忽ち表に出ると元栓をピタリ。噴出から15秒ほどで水は止まった。  床に溢れたのがそれほどの水量では無かったため、洗濯したばっかりのバス タオルを全滅させる程度で後始末は幸い済んだのだが、これが2階だったらど うするの床下に漏れたら全部弁償しなきゃなんないのよまたお金かかるでしょ う、とキーキー怒る妻もとこの前で、まるで絵に描いた様な失敗をやらかした 自分がおかしくて、私はクスクス笑いが止まらなかった。呆れた妻から、あな た工場では働かないほうが良いわよ、こういうので酸とか浴びて絶対死んじゃ うわよと脅かされた。もっともだと思った。  2007年10月05日 記  mixi日記から転載  大村 浩一 ---------------------------- [俳句]宇宙天気やっほー/小池房枝[2010年3月13日21時36分] ノヴァジェットプラズマ爆発だらけの宇宙 太陽は実は脈動変光星 百万年前に生まれた光を浴びてる 百億年前に生まれた元素と生きてる 黒点は太陽の笑くぼ多いほどよし リコネクション磁力線の綾の取り直し 有翼の黒き太陽コロナ羽ばたく べべべんべん撥と三味線アルベン波 地球ふわりと浮かべて包んで太陽風 磁気を帯びたガイアの両手に守られている    ---------------------------- [自由詩]【カーネーション】/つむじまがり[2010年3月19日17時11分] 燃え尽きる? この私が? まさか 旅人達は 言うだろう 疲れた と 父親達は 言うだろう 困った と 学生達は 言うだろう  面倒くさい と  私は言わない 私は決して言わない 私は 決して消えない決して諦めない決して困らない決して疲れない決して負けない 決して曲げない決して落ち込まない決して立ち止まらない決して枯れない決して・・・  決して・・・ 泣いてなどいない  私は決して泣かない 燃え尽きる? この私が? まさか ---------------------------- [自由詩]デリケートな惑星/s[2010年4月13日0時46分] 夜遅く 家に帰る 澄んだ夜空 揺れる花々 風を切って 月に話しかける 猫が鳴いてる部屋に着く 鍵を開ける カチャリと響いた 隣の部屋にも 上下の住人にも わかるくらいに静かに響いた 僕の帰宅が響き渡った だけど 誰も居ない もう慣れたよ 真っ暗な部屋のお出迎え 手探りで明かりのスイッチを探すのも つまづかないようにそっと忍び足で歩くのも 目が覚めると 朝日がやけにまぶしいんだ カーテンからのぞく空 色んなものに遮られて ここからじゃ 切り取られたように うまく見えないな ケータイを探す テレビをつけて パソコンを立ち上げて 眠れなかった昨日を後悔しながら 時計とカレンダーを交互に見つめ 今日を探して ただぼんやりとする 溜まっている留守電のボタンを 意を決して押してみた 流れてくる尖った声に 何度も深いため息をついた 電話はかかってこなくていい 今日は休日 僕は 誰にも撃たれない ほんの小さな石ころでさえ 乗り越えられないでいるんだ僕は うずくまって 考え込んで 岩のように動かない 誰も評価しないけれども それはとても大切な仕事だと 自分自身に言い聞かせる   HEY! YOU!   そんなことで悩まなくていい   そんなことで悩まなくていいんだよ   さあ! ラジオから流れてくるいつもの声が 僕を安心させた 何もしていないわけじゃない 僕はそう言い聞かせた そう言い聞かせて 突然 どこまでも歩き出した 深夜の川沿いから 繁華街の果てに至るまで 僕は僕に似て非なる人々に 次から次へと 出会う度に嫌悪した やがて避け始めて いたずらに笑い始めた   HEY! YOU!   そんなことで   おろそかにしていてはいけない   そんなことで   おろそかにしていてはいけないんだよ   さあ! 流れてくるラジオの ボリュームが急に上がった 牢獄のような部屋で 閉塞した空気を肺から心臓まで めいっぱいに吸って 脳みそから何から ああ 半端なくやられてしまった もう何も信じない 考えないよ だけど感覚は鋭さを増して 飛び込んでくるのは 見るも無残な景色ばかりだ まぶしすぎる光 響き渡る物音 僕は僕自身を突き刺し始めた   HEY! YOU!   そんなことで   思いつめないでくれ   そんなことで   思いつめないでほしいんだよ!   さあ! 愛すべきものは  ああ もうそんなこと 考えなくてもいい  僕はただもう 言葉にならない 見えない不安に押し潰されて 誰にも知られずに このまま消えていけばいい 積み上げた映像が瓦礫のように崩れ落ちても 頭が割れるほど音楽があふれ出しても ああ もう そんなに 力いっぱいにしがみついて 眠れない夜を すごしたくない 安定剤のように浸りきっていた まるでちゃちな ゲーム世界さ 吐いて捨てるほどに積み上げたのに 一瞬で消えていくただのデータファイル 音を立てて崩れていくのは 早くて ラジオが最大限に叫ぶ   HEY! YOU!   君が思っているほど   世界はかしこまって迎えてはくれない   いいかい   君が思っているほど   世界はそんなに   立派な出迎えはしてくれないんだ   だから ねえ   そんなことで思いつめないで   そんなことで思いつめないでよ   そんなことで思い悩まないで   そんなことで思い悩まないでよ   さあ!   世界なんて気ままなものさ!   こんなことは大した問題じゃない   君はただ    さらっと流れてきたものを   さらっと流し返してやればいいだけさ   微笑みを忘れないでいれば     愛なんてどこにでもあるものさ   いつだって   感謝と謝罪は忘れずに   そうだよ   いつも通りの君でいいのさ   だから ねえ   そんなことで   思いつめないでよ   そんなことで   思いつめないでよ      ラジオを消し カーテンを引いて 僕は ゆっくりと窓を開けた 空気を吸う  長くさわやかに いつまでもいつまでも 深い呼吸をし続けた 鳥が飛んだ 空が輝いた 抜けるように鮮やかな青が 降ってくる 僕は部屋を飛び出して行った 抜けるように 青い袋を捕まえて ツタヤに延長料金を払いに行った ---------------------------- [自由詩]モホロビチッチ・シンドローム/たりぽん(大理 奔)[2010年4月23日1時17分] 静かに蒸発するためには まず、皮膚を脱ぐことが必要らしい 触れることが楽しいのは まだ溶け込むことを知らないから お互いの、もっと内側に近いところで それでもふれあっているだけの 傍にあるきれいなものを 皮膚の外にあるからという理由で 無関心に居られたのかというと それはどうもちがうようだ 命を包みかくすこの皮膚の内側を 星を見るようには確かめられず 内と、外の、境界だけに 無限の興味を注ぐから 触れることが楽しいのは 誰かの境界どうしが 暖めあうからか 静かに蒸発したいということや そんなことを忘れてしまう どうやら、二人は境界でできているようだ それがからだの曲線を描いている 限界と可能性の境目で まだ溶け込むことを知らないのは お互いの、もっと内側に近いところで それでもふれあっているだけの ---------------------------- [自由詩]RPG/s[2010年5月8日1時22分] おお 勇者よ 旅立ちの前にそなたには教えおかねばならぬ おお 勇者よ これから行く手を阻む様々な困難に出くわしたら 私の言葉を思い出すといい まず 初めに 勇者よ そもそも 魔王 魔王がいるのです 世界を征服しようとする魔王が えっと そう 人間じゃなくて いや悪魔だか怪物だかしらないけれど 妖怪? いやちがうちがう そういうのじゃないの で それを倒しに行くの そう アナタが アナタですよー! いや だーいじょうぶですって だって勇者だから 大丈夫 伝説の武器とか防具とか 色々と装備できるから いや 知らないよ どこにあるかなんて ここにはないよ だって伝説だもん いやいやいやいや だから だから うん 聞いて お願い聞いて それをあなたが探すのよ うん そう  いや だから  あ うーん いや まあ確かに伝説だけどさ あるって 絶対あるって  だって聞いたもん  ひいひいひいひいおじいさんくらいから 伝わってる伝説だから大丈夫だって うん あるあるあるある いや ガセとか言っちゃだめでしょ  伝説! 伝説だから あちこち回ってれば見つかるって そうそう 山奥のさ  なんか誰も行ったことない村とかさ 絶壁に囲まれた城とかさ  大体 地図見てさ 怪しいところ 行けばあるって 大体持ってるって  あいつら隠してるんだって いいの持ってるから それ うん かっぱらってきて 適当に使ってよ いや だいじょーぶでしょー  世界が大変なんだから みんな どーぞどーぞ って 差し出してくれるって だって 世界の危機よ?  勇者ですって言えば 大体は  おおっ! ではどうぞ!  てなもんよ 大体はいけるよ うん 船? いや あげないよ? うんごめんね  いや あの  ははは 最初からは無理でしょー  だーめだよお いや  ちょっと待ってちょっと待って ダメダメ 帰っちゃダメだから! 話が違うって あっ  いやまあ そうだけど いやちょっと待って ちょっと待って 帰らないで 帰らないで うん そうね まあそうなんだけどね 船はダメなの 船はダメなのよ  なんでって言われてもさあ しょうがないのよ 船はダメなのよ そう 歩きなの ウォーキング  最初は足から鍛えなきゃさあ いきなりは無理でしょ だーかーらー 歩いて足腰鍛えるのよ レベル1でしょ? 無理でしょ?  重そうな剣とか振り回せないでショ? ほら 振り回してみてよ ネ? 無理ジャン  だって こんな すっごいひ弱そうな あっ!  いやまあ 王様  もう ぶっちゃけ言っちゃうけど 正直 ちょっと無理かなー と思ってましたヨ? だってまだ子供でしょ? 何歳? えっ? うん ほらー 全然子供じゃーん だって 見てよ そこのほら  屈強なおっさんたちばっかりでしょ お城の兵士さんは ネ?  あのおじさんたち  束になっても叶わないんだよ? 魔王は 魔王 うん それくらい強いの うん まあ そりゃさあ 王様だって 実際見たことないけどさ  多分ね だって魔王だもん  そりゃ強いでしょ  だから もう ぶっちゃけ かわいそうだなーって でもほら 勇者だから それはね しょうがないから うん 王様も  どうしようもないなーって  勇者だもん だって しょうがないじゃん  うん そうだよ なんか 色んな人が言ってたよ? 勇者ダー! って 生まれた時に  だから盛大にお祝いしたの 知らないって言われても 王様覚えてるもん  色々お祝いの品も贈ったよ? 覚えてる? 覚えてない?  いや 贈ったもん 贈った 贈ったって  あのでっかい柱時計 家にあるでしょ あれ  そう あれ王様から 邪魔とか言わない 王様贈ったから あとは そう 庭におっきい木あったでしょ そうそう あれ あれも王様贈ったから  邪魔とか言わない  うん 陰になって家が暗いとかそういうこと 凹むから言わない  あれ王様 じきじきに植えに行ったから 庭が狭くなったとか お母さんも言ってた? でも王様贈ったから うん 品物でも贈ったけど現金も  そりゃねー 王様も現金とかちょっと いやらしいかなーとか思いましたけど でもほら 子供が生まれると 何かと入用じゃない? 現金が嬉しいかなと思って そう? あ やっぱり  それが一番嬉しかった? まあそれならいいんだけどさ だからあれだよ 色々話が散らかったけど 勇者なんだって うん だからさ 勇者だって  さっきから言ってるジャン 勇者なんだってば  お城の占い師さんも言ってたよ この子は勇者ジャーって!  そう あのおばあさん  いくつだか知らないよ! 王様が小さいときから ずっーとおばあさんなんだから! 相当生きてるよ  ある意味彼女が勇者だと思うんだけど それはいいからさ ね? さっき涙ぐんでたでしょ? こんなに大きくなってって  さっき手握ってたでしょ 頭なでてたでしょ 勇者が生まれたときに 抱いてもらってたんだよ? 写真あるでしょ? あのおばあさんよ まあ 王様も生まれたとき 抱いてもらったらしいけどさ 写真見るたび思うけど 今と全く変わらないって そんなことどうでもいいのよ  ね? どうすんの?  このまま帰っちゃうの?  いいの? がっかりしちゃうよ?  あのおばあさん 泣いちゃうよ? うん いや  関係ねえしとか言わないでしょ 勇者は お年よりは大事でしょ? いや 関係ねえとか言わないで うん 大事にしよ ね? お年よりは大事にしよ ほら あのさっきから思ってたんだけど 敬語使お? うん 一応 王様の前だから 一応 国治めてるからさ みんなの手前ね その辺ちょっと空気読んで いや だって 伝説なんだから しょうがないって 伝説の勇者なんだもん 魔王あらわれしとき  勇者もまた姿をあらわさん って 誰かが予言しちゃったんだもん 知らね とか言われてもさ 昔からそうだから ネ? ホラ 勇者が行ったほうがいいと思う人ー? ほら 勇者以外全員手上げてる  ネ? ハイ決まり ハイ決まりー ハーイ! これから勇者にはー 魔王を倒す旅にぃー  ちょっ 帰らないで帰らないでって 帰らないでって言ってるでしょー ちょっとー! 誰かちょっと そこ ほら! もう押さえて  押さえつけといて! いいって! 王様 許可する ああ もう 許可するって 大丈夫 ああ もう ほら連れてきて 連れて来て連れて来て あー もう  最初からこうすればよかったんだってば ほんとに フゥー ちょっ やり方汚ねえ とか言わないで  王様なんだからさー 敬語使ってー  さっきから何回も言ってるでしょー! もー ま それはさておき これから 勇者にぃー 伝説の武器防具を探す旅にぃー 行ってもらいたいと思いマァースゥッ!  イェーイ! ヒャーッフゥー! イェェェェェイッ! ちょっ きもいとか ぼそっと言わない 聞こえたよ? 聞こえたって 絶対言った 絶対言ったよ ねぇっ 言ったよね? 兵士長? 聞こえてない? ああそう まあ いいのよ うん まあ そうそう 最初はこんな感じでいいのよ 旅行気分 旅行気分 最初から 魔王倒すぞー! てね そこまで気合入れすぎるのもね 後でだれちゃうこともあるしね 徐々に 徐々に  まだレベル1だからね あっごめん 気に障った? ごめんごめん うん じゃ もう言わない もう言わない でもほら  こんなこと言うのもアレですけどー まだレベル1だからぁー  兵士さんたちにもー 押さえつけられて動けないでしょー オーケーオーケー  わかったから わかったわかった もう 行かないとか言わないで  そういうの言いっこなしね オーケー 王様も言わない言わない 今のは 王様のミスね  フゥー こわいこわい えっ? あっ馬とか? いやまあ ほら 交通手段は自分で調達して いや だからそれも そのうち手に入るから 王様だからなんとかしろ とか  いわなーい 勇者はそゆこといわなーい  えーっとどこまで話したっけな そう  伝説の武器と防具を集めてだね そう 伝説の武器防具よ えっ いや ま そりゃー うん うん  うん うん そうね 何かしらの兵器を開発してね大勢の軍隊で うん うん うん うん ああ なるほど 他国と同盟を組んで戦略的に攻めたほうがね うん うん うん たしかに 丸腰同然の少年をひとりで行かせるよりは ああ うん そ そうだね うん 遥かに常識的だよね ちょっ ちょっとまって ちょっとまって うん わかったから  うん そうね うん たしかに うん いえてる  わかったよ 良いと思う 王様 それ すっごい名案だと思うよ でもね わかって ああ もう  なんだかなー あっ そうそう ひとりじゃなくてもいいの そう 仲間! 仲間を集めていけばいいのよ! うんそうね 大体 4人くらいがベストかな いや 少ないだろって  突っ込まない 王様には突っ込まないで  まあ確かにそうなんだけどさ  少ないかもね でもさ こう考えて 世界最強のメンバーそろえればさ  大勢で行くよりは 何かしら良かったりすることもあるんじゃない?  ホラ 映画でもあるでしょ?  見たことない? そういうの? いや 王様も詳しくは知らないけどさ えっ メンバー? いや 王様でも  そこまでのセッティングはちょっと 城の中にもいないしさ ねえ? ちょっと このなかで魔王たおせるひとー? 誰かいるー? いたら手をー 誰もあげないじゃん  って うつむかないでよ ちょっとー  別にいいって みんなはいいからさ いや ダメダメダメ  ダメだって  ナニヨ じゃ俺もいいじゃんって  ダメでしょ 勇者なんだから  エー メンバーって言われてもなあ そんな強い人は無理よー  心当たりないしさあ  大体 王様知り合い自体少ないし いや だからさ じゃあ 無理じゃん とか言わないでって えっ あっ ちょっと待って なに大臣? えっ あっそう! そうなの? あー なに えっあそこ? ああ!  あそこそうなんだ! へえー! ああー  あっ 勇者 大丈夫 うん 仲間 見つかります ええ あなたの仲間 見つかりますよ! なんかね あの ほら この城でてまっすぐ行って 突き当たり曲がって そう あそこ  あそこに酒場あるじゃん? そうそう あそこ あそこがねなんか それ系の人が集まるお店らしいんだって! だからさ  そこで誰かいい人を探せばいいんじゃない? うん ああ そうね  あそこ18歳未満禁止ね 一応 未成年にはお酒勧めちゃダメって うん 王様 そういうのちゃんとしてるの 取り締まり厳しくやってるからさ  えっ あっ 未成年? 勇者 未成年だって 大臣 ダメじゃん  どーすんのよ えっ だって ダメでしょー 勇者未成年だもん えっ こっそり行けば大丈夫って? いや だって もう聞いちゃったもん  未成年て みんなの前で聞いちゃったもん  っていうかどうせ後からバレルじゃない みんな勇者って知ってるもん 行ってもすぐに門前払いじゃん どーすんの  えっ あっ 特例? 特例つくんの?  いいの? 国民大丈夫?  あっ お酒飲まなければオーケー? 今回だけ? うん 今回だけにして そうね お店側には言っておいて こういうのきちんとしたいから  そうね 今回だけ特別で  勇者だけお酒ナシで でもほら そんなの店入っちゃったら わかんないじゃん ねえ勇者 お酒飲まない?  えっ 飲まないよね  えっ 飲まないよね いや  飲まないでしょ  飲まないでしょ  飲まないでしょ 飲まないて言っといて  今 王様の前にいるの うん よし うん  わかったね わかった 兵士さんたち  もう 首思いっきり縦に振っといてね 飲まないね うん よし わかった じゃあさ 今回だけ  あの酒場に特例で入れることになったから あの酒場行ったら 大丈夫  うん 仲間見つかるから!  もう今日から行けるようにしとくから 大丈夫 王様だから それくらいはさせて  王様にはそれくらいしかできないから うん まかして オーケーオーケー 成立ね おし じゃ大臣 お店の人に先に言っといて あとそれっぽい人を呼んでおくように えっ いや 行って誰も居なかったら 意味ないじゃん それくらいわかってよ うん ハイ すぐ 今すぐ行って ハイ  ダッシュ  ハイ ダッシュダッシュ というわけで 長くなったけどいいかな エー コホン  じゃ 立ち上がって うん 君たちももういいよ 離して あ やっぱ 捕まえといて 逃げるから うん そう ガッチリ  ガッチリ捕まえといて よし じゃあいくよ? 勇者の行く手に 光あれ! 勇者のHPとMPが全快した ---------------------------- [自由詩]たいやきりんご/小池房枝[2010年6月9日17時48分] ばいばーい ばいばーい ばいばーい ばいばーい 重なり続ける子供たちの声 君たち ほんとにばいばいする気があるのか ものすごく元気いっぱいで まだまだ元気いっぱいで そんなに元気で元気あふれかえってるのに 家になんか帰っちゃって大丈夫なのか ばいばーい ばいばーい あおりんごっ たいやきっ あおりんごっ たいやきっ なんだかよくわからないけど 君たちはわかってるのか それとも君たち楽しいだけか ばいばーい ばいばーい 母親らしい大人たちの ちょっとソプラノな声も一、二度だけ重なる きちんと明るい 澄んだ声が ---------------------------- [自由詩]ワカメスープ/s[2010年7月2日0時23分] 朝練後の先輩は 太陽さえも離さない 水道で 顔を洗う時など もちろん 私のほうなど 見ちゃいない 先輩 先輩 水しぶきがとても 冷たいですね ほら この夏は いつもより 日差しが強すぎて 困るんだ 先輩 先輩 二大会連続で 直前にヘルニアになってしまった先輩 ドリンクバーで はしゃぐ先輩 氷の前に ドリンクを入れて 後輩に指摘される先輩 明日の試合で もうお別れですね  今度 お前が作った  ワカメスープ  一度でいいから  飲ませてくれよな 一限目が始まる前に ケータイでレシピ 調べておきます 得意?  そんなこと言いましたっけ? 明日のドリンク 先輩のだけ ワカメスープ 入れときますね ---------------------------- [自由詩]自由詩がもし不自由詩だったら/小池房枝[2010年7月14日17時07分] その現代詩、セルダムイリーガル なんてちょっと格好いいじゃん 自由詩に もし決まりとか約束事とかがあるなら 張り切ってぎりぎりを狙うよ NGワードがあるなら別の言葉をさがす 使われてしかるべき言葉があるなら さりげなくとんでもない文脈で使ってみせよう うまくかいくぐって遊ぶつもりが ひっかかって盛大にぶっ倒れても 今この国ではそれで命までとられはしない 自分のまいた種で自分が痛い目にあったところで 何の不足があるものか 本当に本当に自由に書いてしまったら それは自分語だ 本当に本当に誰かに何か伝えたいなら アスキーアートであれ 嗅覚言語であれ その誰かとの暗号か共通ワードを使わなければならない 相手をけむにまきたい時だって 理解不能を強いるためには 理解のための約束事を駆使しなくてはならないし たとえば俳句だったり短歌だったりしたら とりあえず今の日本語ではそれを自由詩とは呼ばないんだよって そんな習慣も その逆も それを不自由と思うかどうか それも自由のうちだ 伝える伝えない伝わらないにしたって そんなのどうでもいいって思うことも 書きたければ書きたいうちは書いてみるしかない 自由詩がもし 不自由詩だったとしても ---------------------------- [川柳]山梨一泊旅行のお土産/ペポパンプ[2010年8月17日16時29分] 仙娥滝(センガタキ) 自然クーラー 癒されて                   (昇仙峡にて)   仙娥滝 ダイナミックな 人生を                   (昇仙峡にて)      間近見る 金箔花火 迫力の                    (鵜飼橋にて) ---------------------------- [短歌]括られた九月/小池房枝[2010年9月9日20時20分] ラストノート彼女の香りと音楽とルーズリーフの最後の一枚 引き出しの記憶の奥に「ユトリロの白」とだけ画家の絵も知らないのに 猫よ猫、抱き上げた目の奥行きよ、あんた脳みそあるんかい?ニャー カニの名はスベスベマンジュウ何故それを?清原なつのアンタ何者? 触るなと誰も私に触るなと私が私に深いところで タンデムで「アーユー良かとっ」「良かっ」発進 「あんたば好いとぉ」「聞こえないよ〜」   美しさを持たぬ言語があるだろうか。カタコトであれヒトコトであれ 秋に飼う小さな二匹のカニの名にシロカニペそしてコンカニペなどと   押入れの布団の上で猫さまは牢名主さま一枚おくれな   涼しさは替えたばかりの蛍光灯 詩人の留守にひとり見る月   子供たちドングリそんなに集めてさ一年分もどうするつもりさ   ムルムルは佃煮よりも動いてる彼らとぴよんこぴよんこしたいな リービッヒの最小律は君にとって外部ではなく君自身だろ ただびとの一生に見る二回分はもはや見たりとカエルの畦道 通りゃんせお通りよここは遠い日の思い出どんぐりぴしぱし降る道 髪の毛が触手だったらいいのにな百円ショップ薔薇の髪飾り 夏を終えたわわに実った果樹たちを狩りとれ西の善き魔女たちよ 夜と名づけられたなら夜になれるかな胸にひとを抱いて深く静まる 体中どこにあててもぴったりとフィットするひとの手のひらの不思議   やわらかなやさしい触手をうたいたい。自分をふくめて誰宛でもなく   「軍隊」は「国民」を決して守らない「国体」あるいは「命令」を守る 国民こそ陸海空の自衛官や警官さんを守らなければ 「あっけない」に見えちゃってました 「あっいけない」 いずれにしてもとりかえせない 前髪を1ミリ切りすぎちゃったのとあえかな若妻家出決行 ぐっすりと寝てたら夢に起こされた朝帰り猫が外で待ってた 駐車場ノラ猫ニャニャニャと小走りで何をしてるの? でっかいカマキリ! ---------------------------- [自由詩]【静かな鼻歌】/つむじまがり[2011年6月30日16時26分] あんたの こころは わからない わたしの こころは わかるまい あんたの こころも わからんし わたしの こころも わかるまい 聞こえるか 聞こえないか その絶妙な音量が心地よい 悲しくもなく 嬉しくもなく 切なくもなく 淡々と  そんな歌があってもいいじゃないか 誰かに聞かせたいわけでもなく 誰かに聞かれて困るでもなし イントロも アウトロも サビさえもなく 何度も何度も繰り返す そんな歌があってもいいじゃないか 会いたいよ 愛してる 離さない 信じてる  泣きあかし 切なくて 気が付けば 横にいる ことは無い そんな歌があってもいいじゃないか あんたの こころは わからない わたしの こころは わかるまい あんたの こころも わからんし わたしの こころも わかるまい ---------------------------- [自由詩]てすてす/ペポパンプ[2011年9月23日22時44分] テステステス ユーフラテス 私の苦しみを 君は知らない 周りの人が 助けてくれる 正気と狂気を さ迷い歩く 自分が悪くないと 答えが出る。 全ては良い方向に向かっている 何も心配する事はない。 ---------------------------- [伝統定型各種]琉歌二首/小池房枝[2011年11月7日16時29分] ユルカ クラヤミカ カタイタヤ アマタ ニンジンヌ ヒチャイ チユヌ ヒチャイ 夜か暗闇か 語りたい数多 人間の光 千代の光 アリヤ ニヌファブシ ナチカサン ヒチャイ ワンガ カラハーイ チュラサ ヒチャイ あれは北極星 懐かしい光 我が羅針盤 美しい光 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]トワイライトエクスプレス/小池房枝[2011年12月29日0時34分]  小さな文章が書きたいので書いてみる。  以前、部屋から線路が見えるアパートに住んでいた。普通の各停や急行や貨物、それらに加え、トワイライトエクスプレスが走っていた。大阪から日本海側を北海道まで行く夜行寝台。いつも見ているうちにいつか乗ってみようと思うようになり、実行した。  寝台車には消灯時間というものがある。それを過ぎてからも、デッキから窓の外の夜など眺めていた。寝台車には車掌さんという人もいる。車掌は通りかかって開口一番、「ああ、びっくりした。」  ジーンズのベルト通し部分の、大きな安物フェイクファーの真っ白なしっぽ型キーホルダーが真っ先に目に入ったらしい。「切符見ますか?葉っぱだったりして。」「いえいえ。」そんなやりとりの後、彼はまた次の車両へと渡っていったが、出会いの最初のその瞬間、どうびっくりされたのかを考えたことを覚えている。  終点より先には青春十八切符を用意しての旅だった。  小さな文章一回目、おしまい。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]ざりがには冬眠中です。/小池房枝[2012年1月15日0時09分]  ちいさな文章をずっと書きたかったので書いてみる試み二回目。前回リクエスト&コメントをいただきましたざりがには冬眠中です。トワイライトエクスプレスには豪華コンパートメントのほか慎ましやかなB寝台もありました。さて。  年がかわったのでもう一昨年の春、病気で全身麻酔の手術をしました。あれこれとコンセプトを説明するからインフォームドコンセプト、と思ってましたらインフォームドコンセントでした。手術の意味、意義、必要性、術前、術後、術中何をどうするのか、麻酔のリスク、主治医から様々説明されたり質問したり答えたり答えてもらったりそんな流れの中で、特にあらたまることもなくただただ坦々と相手が聞いてきたこと。  「××さんは、神様に輸血が駄目って言われてませんね?」 一瞬、頭が止まってしまいました。普段からそう動いている頭ではないのですが、  「・・・私まだ神様に会ったことないんですけど。」 一緒にいた家族から「宗教上の問題って意味だよ。」というフォローがなければ、しばらく医者と見つめ合ってしまう処だったでしょう。輸血を前提とする手術ではなかったのですが、何百人、何千人と患者さんを診ていくうちにはいろいろな人がいるのだそうです。あるはずのないところに血管が通っていたとか。  「かみさまそこにおらりましか」http://www.amazon.co.jp/dp/4840134294 気に入りのライトノベルの一つ、「あそびにいくヨ!」の14巻を思い出してしまう出来事でした。 ---------------------------- [自由詩]【かわいいコックさん】/つむじまがり[2012年6月6日10時53分] 棒が一本あったとさ 葉っぱかな 葉っぱじゃないよ カエルだよ カエルじゃないよ ミカエルだよ ミカエルじゃないよ カエサルだよ カエサルじゃないよ アウグストゥスだよ アウグストゥスは ローマだよ ローマじゃないよ プーマだよ プーマじゃないよ ナイキだよ ナイキじゃないよ ナマイキだよ ナマイキ なのは 好きだから どうして素直に なれないの 話がどんどん逸れていく 6月6日に雨ザアザア降ってきて 太陽の中に黒い点 金星ひとつ くださいな あっという間に かわいいコックさん ---------------------------- [自由詩]ポケットの中に/小池房枝[2012年8月2日19時57分] 患者相談室の看護師さんは 物品を受け取らない 公立病院だからね 規則上も実際もそれは厳しく守られている けれどあまりにもいつも何でもないことを どうしようもないことを よしなしごともありごとも 何もかも聞いてもらってるので 今日はお礼に貝殻を二つ持って出た ポケットの中にぽいっと入れておいて 帰り際 右手か左手か 握りしめた中身 ちっちゃな巻貝か白い二枚貝 選んでもらおうと思って でもそれさえも 最初は受け付けてくれなくて 金品でなく 品物という程のものでもなく のど飴以下のものですから と言ったにもかかわらず その中は空気じゃないんですよね?と どちらとも言ってくれなかったので それじゃぁ 私が勝手に忘れて行ったことにしましょうかと 両手を開いて貝を見せると 尚も困った表情 でも案外意外だったらしく 笑顔 受け取ってくれたかどうかは秘密 南の海の話をした まったくもって 患者相談室の看護師さんは大変だ 南の海の話まで聞かされる さておき相談室帰り 敷地内のアサガオに水をやってると ベンチで泣いてる人がいた 小さなペットボトルに 何度も何度も水を汲んでは往復してると ぽろぽろぽろぽろと ハンカチ片手に ずいぶんと涙を流してた ひとはひとをかまうし かばうものだよね時には それにその時 わたしのポケットには貝殻があったので 小さな貝を渡して そのひとの片手にぽとんと置いて ご自身ですか?ご家族ですか?と 私は私が患者です、と おせっかいだったかなと思ったら 泣き崩れられた 手を握りしめられて うん、うん、わかるよ、わかります などとは言えない話がある とてもじゃないけどそんなこと言えない だけどこちらも同じこと 互いに互いの話をして やっぱり私は最後には南の海の話 ちいさな貝殻 転院先の枕元に置いてお守りにしますだなんて そのへんにポイしちゃって下さってもと答えた 土の栄養の足しになりますから それはそれでまた何かの巡りの一つですからと ほんとうは貝殻は 貝が生きていたことの証 貝の形見 でも、きれいでしょう? いつもポケットには 何かをいれて持っておこうかと思った 冬ならのど飴 夏なら小さな白い貝殻 何もなくても 何か ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]久しぶりに短い文章。/小池房枝[2012年8月29日3時42分] 久しぶりに短い文章を書きたくなったので書いてみる。短い文章を書いてみると何だかいつも久しぶりだ。嘘だけど。 先日、乗換駅のホームでセミを拾った。まだ生きていた。木のない駅で、人に踏まれるよりは草地に放してやろうと思ったが手の甲から離れない。仕方がないので一緒に急行に乗った。気味悪く思い迷惑がる人もいるかと思ったが、誰も一瞥さえ寄越さなかった。空席を探して一息つくと、やがてセミも、もぞもぞし始めた。タガメではないし血を吸われることもあるまいよとたかをくくってあやしていたら、アイタタタ。口吻を突き刺して来た。血迷うな。私に樹液はない。 やがて終点。改札を通ろうとするとスイカは残高不足。この状態のまま片手でチャージは出来ず、駅員のいる出口で不足料金を払って出たが、駅員も私の手の甲のもぞもぞについてはノーコメント。セミなんか可でも不可でもなく、きっともっと具体的にあれこれやらかす客が毎日絶えないに違いないのだろう。 駅前ロータリーはケヤキの広場だ。タクシー乗り場近くの木の一本に今度こそ手からはがして止まらせようとすると、風の匂いがわかったのか、じじじっと飛び立ち飛行距離約1m未満。その木の幹のすぐ裏側、目の高さにとまった。逃げたおおせたつもりなのか、口吻突き刺して来たり飛んだりその程度の余力はあったくせに、何故こいつは乗換駅にいたのだろうか。急行に乗りたかったのか。 乗り込んだタクシーの運ちゃんに初めて声をかけられた。さっきのセミは良かったね。それでなくても寿命短いんだろうから。セミとひとときをともに過ごして、初めてセミについて話しかけて来たひとだった。 ---------------------------- [自由詩]夜ドライブ/小池房枝[2012年8月30日2時30分] 元々無口だった相方が 緘黙症を始めたので 普段は週末にしか行かない川までドライブ 口は利かないが運転はしてくれるので 平日の深更に夜ドライブ 昼間の言葉の行き場がなくて 叫ぶ場所とて街にはなくて ガラス瓶を叩き割りたい気分 缶の炭酸を火であぶりたい気分 川べりに行って 何を叫ぼう 何と叫ぼうと思いきや ゴイサギに先に叫ばれてしまった グェッ あとはもう ゴイサギごめんねー ウシガエルごめんねー コチだかシギだかわかんないけどごめんねー 大声で叫びながら どぼんべぼんと石を投げ込み続けた 投げた小石が島になるまで続けたかったが 手の届く範囲で手頃なのがなくなってきて 探る手も掘る手も疲れてきて それでも 遠くを終電車が通れば でんしゃー 飛行機が飛べば ひこーきー 対岸のウシガエルは平気で鳴き続け うーしーがーえーるー ぼしゃらーん それでも相方は緘黙症を止めない それでも月夜にただつきあって そこにだけはいてくれる 星が動くのがわかる時間ほどいてくれる いてくれることしかしない 川の音 月明かり 虫の声 おんなじ どぼーん 引き起こしてもらって また運転してもらって部屋へ帰った やっぱりずっと 何も話さなかった ---------------------------- [自由詩]副班長集合/吉岡孝次[2012年10月17日20時55分] 「ひそひそ」 「ひそひそ」 「ぷっ」 「いやいや そんな」 ---------------------------- [自由詩]ともだち/吉岡孝次[2012年10月22日20時44分] いいのに ほんと そんなに きをつかわないで ほんとよ うん もうだいじょうぶ ありがとう おいしいわ このおちゃ でもどうしてかしら こうして もうふにくるまっていると ゆきのなかにうもれていたじぶんがまるでたにんのようにおもえてくる ねえ おかしいのよ くすりをのんで ききめがあらわれるまえにやまにはいろうとすると ほら いそぐでしょう あせかいて からだがほかほかしてくるの そのうちだんだんねむくなってきて ばさってたおれると ゆきがつめたくてきもちいいの ああ いいきもちだった あんなにさっぱりしたきぶんになれたの ここしばらく   ぜんぜんなかったから うれしかったわ だって かなしいじゃない ゆきやまでおんながひとり  なやみをひきずったまましんでゆくなんて しぬときぐらいは きれいにしにたい なにもかもわすれて すこしでもきれいなものにつつまれて あれ おかしいなあ おかしいよ ほんと ちょっといい ごめん ごめんね あはっ もうだいじょうぶ こんどこそほんとうにだいじょうぶ まかせてちょ なんてね あははははは だいじょうぶ もうなかない あしたは はやくでようね ---------------------------- [自由詩]クリスマスプレゼント/吉岡孝次[2012年12月8日9時20分] 「ほーら 極右政権だよ」 「パパ・・・」 ---------------------------- [自由詩]ソフィア市の輪郭/ブルース瀬戸内[2013年3月17日15時42分] ソフィア市の輪郭を宇宙に見立て 誰かを愛することで華やいだ心と 誰かに愛されることで弾む身体を 楕円の惑星にみたいに包んでみて それをソフィア市と呼んでみると ソフィア市は不条理さには沈黙し 総面積は増えたのか気にしている。 そんなことより大事なことを言う。 なにゆえ花粉はかように舞うのか。 この際なので申し上げておきたい。 僕は1ミリもめしべなどではない。 なにを服に付きまくっているのか。 僕は1ナノもめしべなどではない。 僕にヨーグルトを食べさせたいか。 花粉予防として食べさせたいのか。 はたまたヨーグルト業界の陰謀か。 ブルガリアの賢き国家戦略なのか。 クール・ブルガリアの一環なのか。 ソフィア市の輪郭で宇宙をなぞり 誰かを愛していたことを忘れても 誰かに愛されたことを思い出して 自分は確かに存在しているのだと 求められていたのだと自覚できる。 そうでしか自覚ができないほどに 心身が弱っていることだってある。 ソフィア市のくっきりした輪郭に 人生やら世界やら何もかも委ねて 酔っても許される輪郭酔いの日が 長い人生に1日くらいあっていい。 輪郭しか視界に入ってこないほど 打ちひしがれる日だってあるのだ。 そんなことより大事なことを言う。 ヨーグルトを最近美味しく感じる。 花粉予防として食べ始めてからだ。 それが原因なのか分からないけど 近頃発想がやけにブルガリアンだ。 こうしている今もブルガリたいし ブルガっている自分を想像すると 興奮してブルガリキナーゼが出て 分かりやすく言うならもう大変だ。 君と次に会う約束をしたいために 僕はなぜかソフィア市を持ち出し 一切本題に入ってはいないけども それはつまりヨーグルトのせいだ。 君の輪郭だけに酔ってしまうには まだまだ早いというかしたくない。 それがブルガリアンの誠意であり そんなことより花粉よ収まり給え。 ---------------------------- [自由詩]パンダは関係なしに笹食うし/ブルース瀬戸内[2013年7月11日23時20分] 少し曲がってしまった空間の 端から端を銀河と呼んでみて 言葉を彩る意味でも掲げれば 誰の一人も傷つくことないし 明日はいたって明日だろうし パンダは関係なしに笹食うし   他人の色に染められてしまい 途方に暮れる姿も他人のよう 自分のパレットすら不自由で 合成しにくい色ばかり使って 描きたくない絵を描くなんて キャンパスに失礼なことだし パンダは関係なしに笹食うし   あなたの未来をいかがわしい 技術を駆使するだけの占いで 切り拓いて、拓いては撤退し 振る舞わされては巻き込まれ にもかかわらず目が輝いても それで良しと言い切れないし パンダは関係なしに笹食うし 理論上は問題なんてなくても 実際上は問題が積み上がって 感情は生き物で時に化け物で 人が積み上げた英知を脅かし したり顔でぐにゃんと曲げて 空間も一緒に曲げてしまって それを銀河と呼ぶんだろうし パンダは関係なしに笹食うし パンダは関係なしに笹食うし 関係なしに食わない時あるし そこは自由だし問題はないし 白黒のフォルムで颯爽として 威風堂々と生きてるわけだし 関係なしに胸をぶいんと張り 己の人生引き受けてるわけで そんな様を立派と呼ばないで 何を立派と呼べばいいのやら そう言ってる間も関係なしに パンダはしゃりりと笹食って これさっきのより美味しいと 隣のパンダと喜び合う始末で どなたかこいつに勝てますか ---------------------------- [自由詩]グラタンと呼ばれて/ブルース瀬戸内[2013年12月9日19時01分] 星が眠る頃僕たちは起きる。 グラタン朝よ。起きなさい。 そんな母の声で目が覚めた グラタンとは私の名である。 あのグラタンかとの質問に 真っ正面から答えてみたい。 そうだあのグラタンである。 熱々ホクホクでおなじみの 洋食の雄、グラタンである。 どうしてこうなったのかは 問い詰めないでもらいたい。 母や父は何も気にしないし 友人知人はいつもどおりだ。 なぜなら皆グラタンだから というわけでは決してない。 私以外はグラタンではない。 正直なことを話してみるが 私以外が本当は何者なのか 私には見当がつかないのだ。 逆にいえばこういうことだ。 私がグラタンであることを 誰も知らないのではないか。 母は知っているはずだけど。 だんだん不安になってくる。 私は本当にグラタンなのか。 母が勝手にそう呼ぶだけで 私はその呼び名に安住して 自分を知る努力をしないで 謎を謎のままにしてないか。 本当の私は何タンだろうか。 グラタンと思い込みすぎて 有無を言わさずグラタンに なってしまうのはごめんだ。 だが何タンなのか探しすぎ 何タンにもなれぬ可能性も ないわけでもないのである。 私はある日母に問い質した。 私は本当にグラタンなのか、 実は違うタンではないのか、 驚かないから教えてほしい。 母は重い口を開いて言った。 あなたは勘違いしているわ。 あなたはグラタンではない。 あなたの名前はグラなのよ。 私は愕然として言葉がない。 母は躊躇もなく話を続ける。 グラだからグラたんなのよ。 子供にこんなこと言うのは とても気が引けるんだけど アホね。父さんにそっくり。 グラだからグラたんなのだ。 グラちゃん的なグラたんだ。 父は居間で大笑いしていた。 父さんにそっくり、てお前 と母にツッコミを入れるも その後は貝のように沈黙し 今にも泣き出しそうだった。 父さんにそっくりなことが 私は嫌ではないよと言うと 父は泣いてからすぐ笑った。 母はグラタンを作り始めて 失敗したので寿司をとって 星が起きる頃に僕は眠った。 ---------------------------- [自由詩]カレーライスは悲しんでいる/ブルース瀬戸内[2014年3月12日23時18分] カレーライスは悲しんでいる。 君はそのことを知っているか。 玉葱のせいなんかじゃないし 自分が辛すぎるからでもない。 ラッキョに嫌われたわけでも ラッシーに悟られたわけでも スパイス疲れなわけでもない。 自分がカレーライスなことに 幸せなカレーライスなことに ついぞ気がついたからなのだ。 自分が何者か判明してしまい 自分を取り巻く環境を知って 幸福なことも明らかとなって もはや身動きができないのだ。 カレーライスは悲しんでいる。 君はそのことを知っているか。 自分を知るのは素敵なことで 自分を知るのは悲しいことだ。 無限ではなくて有限な自分に 少しがっかりしてしまうのだ。 分類されてしまう自分の姿を どうも受け入れられないのだ。 カレーライスは悲しんでいる。 君はそのことを知っているか。 人の物差しと自分の物差しを ごっちゃにしてしまうことで 何を相対化したらいいのやら 何を絶対化したらいいのやら 前後不覚になるなんてことを なんとか避けたいものである。 テキストの裏側にある言葉が 力を持つ前に自分を確立せよ。 テキストの表側にある言葉に 自分を縛りつけてはならない。 カレーライスよ、君は深淵だ。 深淵なうえに世界一おいしい。 世界を知らない私が断言する。 カレーライスは世界一である。 カレーライスは悲しんでから カレーライスはかなり喜んだ。 カレーライスはカレーライス 君はそのことを知っているか。 ---------------------------- [自由詩]レンコンよ、進め!/ブルース瀬戸内[2015年2月25日19時55分] 全世界のレンコンよ。 この声が聞こえるか。 私はレンコン協会の 誉れ高き会長である。 皆、歴史を思い出せ。 受難が続いてきたが ついにその時がきた。 立ち上がる時がきた。 過去に目をつむろう。 その穴の数の多寡で 優劣など決まらない。 穴の形のデザインで 優劣など決まらない。 出汁のしみ具合では 優劣など決まらない。 そんな争いは無用だ。 レンコンの優劣とは 畢竟、照りなのだよ。 照ってなんぼなのだ。 何が食欲を刺激する? 照りに決まっている。 何が人心を震わせる? 照りに決まっている。 何を信頼したらいい? 照りに決まっている。 最も欲しい物は何か? 照りに決まっている。 皆に言いたい。照れ! 最後に言わせてくれ。 その穴の先に見える、 未来をとらえるのだ。 そして前を向き進め。 転がるしかできぬが そうして進むのだよ。 我々が存在するのは そうやって転がった、 祖先のレンコン達が 命をつないだからだ。 魂をつないだからだ。 今日を照らしたのだ。 さあ立ち上がる時だ。 穴を見ろ、穴を見ろ。 そこから覗く未来に 進めというか転がれ! ---------------------------- [自由詩]ほんとのはなし/Seia[2015年3月23日0時38分] 朝おきたら すべて なかったことになってますようにって いのりながら ねむるんです なかったことになんか なったことないんですけど 書き置きにしては長いメモ 一度くしゃくしゃにして また広げたあと テーブルのうえに置かれていて これ わたしが書いたの 指差し確認 おーけーおーけー 二度目のくしゃくしゃ ポケットに入れて 鍵をしめる 梅の花が綺麗で もう 半分散っちゃってるんだけど 隣にあるベンチは すこし 汚れていて あんまり座りたくないんだけど しょうがないか ポケットに手を入れたら さっき買ったカフェオレがぬるくなってる これは架空の話なんだけど わたし この星の生き物じゃないんです って 梅の木に話しかける 傍から見たら、あ、 あんまりみないでください すーっと すべりこむように 足元へ影 光は喉元へ 太陽の動きが早くて 液晶みづらくなってる これじゃ あなたのツイート 追えないじゃないですか いえ、こっちのはなしです 雲が多いのか 少ないのか 仕方がないからかえろうか くらくてこわい 部屋へかえろうか 画面がみやすい 部屋へ でもちょっとそのまえに 写メだけ撮っておこうか 写メってもう言わないっけ 言うっけ どっちだっけ 写メのメってメールのメ だよね だっけか メールしなくても写メってパシャ パシャ そういえば これは架空の話なんだけど わたし この街の人間じゃないんです って 梅の木にまた話しかける 傍から見たら、あ、 こ、 これはほんとのはなしです だから きいてください ほんとのはなしに うそをひとふりしたら おいしくなるから ほんとだよ ほんとだってば ---------------------------- [自由詩]ドラゴンフルーツは考える/ブルース瀬戸内[2015年6月24日21時05分] 私はドラゴンフルーツと呼ばれて なんとかこの世に生きてはいるが 私の生涯とはなんなのだろうかと はたと考えることだって実はある。 もちろん私はまだまだ生きるから 真の意味は分からないのだろうが 昔の事に思いを馳せることもある。 様々なフルーツと出会ってきたが 今になって冷静に考えてみるなら どれも貴重な出会いなのは確かだ。 グアバには厳しく指導をされたが 温州みかんは陰で支えてくれたし マンゴスチンは悩みを聞いてくれ スターフルーツは共に頑張ろうと 自暴自棄になった私を慰めてくれ 西洋なしはコンパに誘ってくれた。 すべてが上手くいってはいないが すべてに失敗したわけでもないし 運命に翻弄されたことはあったが 運命を翻弄してやったこともある。 私はドラゴンフルーツなんだぞと 高らかに誇る自信はないけれども ドラゴンフルーツを見下す奴らを 私は何があっても許すことはない。 自衛せぬ者は人を守れないだろう。 そういって強がってみたところで 時の流れの速さに大きく嘆いたり 巻き戻せないものを巻き戻そうと みっともないほど若いフリをして しょうもないほど賢いフリをして 何かになろうと画策したりもする。 でも私はドラゴンフルーツだった。 これから先もドラゴンフルーツだ。 只今だってドラゴン丸出しなのだ。 こんなことをまた考えてみたいし まだまだ生きようとは思っている。 たまには皆にお礼も言ってみたい。 ---------------------------- (ファイルの終わり)