ルナクのtonpekepさんおすすめリスト 2005年8月4日20時48分から2006年8月25日21時58分まで ---------------------------- [自由詩]うた/tonpekep[2005年8月4日20時48分] ぼくらはあまりにも醜いから 醜いから誰かに会うことが恐くて となりの惑星にさえまだ行く勇気がない そんな醜いぼくらのせめてもの救いは この星にうたがあるってことだ どこを捜しても どこを切ってみても またどこを見つめても うたがあふれているってことだ 否もしかしたらこの星は うたが積み重なってできたのかもしれない 楽しいうた かなしいうた 愛のうた 別れのうた 出会いのうた 秘密のうた 呪いのうた 願いごとのうた そうして何億年も積み重なって この星はできたんだろう きっと 風の透き間から また雲の膨らみから 或いは大地の地熱から うたが聞こえてくるとき ぼくらはこのうたの星の 歴史が好きだったりする ぼくらはたくさんのうたの中で 生きたり 死んだりする それはぼくらが醜いってことを ちょっとだけ忘れられる ---------------------------- [自由詩]整理整頓/tonpekep[2005年8月31日20時04分] むかしがありました むかしはいつまでも待っておりました 風は砂時計のように 失ったものをひっくり返し また失いはじめるのでした たった一本の 傾いた光の下で 自分を整理整頓したりするのでした ただ自分を片づけていくうちに いつの間にか見失ってしまうのでした 秋の夕くれ 本を読むしかすることがなく 一冊読みきってしまうと 記憶に 隠れていたわたしを見つけたりするのです 幸せだったりするのです 塗りつけられた時間の空に 暮らしが浮かんでいたりする ドアを開き入ったり出たりする それが幸せだったりするのです ---------------------------- [自由詩]ひとつの秋に/tonpekep[2005年9月4日21時19分] 何もない処に秋がやってくるとき ひっそりとして わたしは言葉の行方を知らない わたしはわたしを有りの侭にしている 夕くれに空はふりだし 空はそこらじゅうで実り始める 声を掬ったりすれば わたしは誰にもみつからないよう光の透き間に入り込む 何気ない言葉を洗濯すると 美しい響きになる それは陽に染み込んでいくようにして 秋の化石になったり 明日の辺に埋まっていたりする 遠いものたちのこどく 気づいているものたちのこどく 語り尽くせないこどく 呼吸を 美しく散在できる場所はどの辺りか 言葉を 遠のいてゆく音色にのせる わたしはそれを悲しがったりしない ---------------------------- [自由詩]線/tonpekep[2005年9月6日11時19分] そうして朝には ぼくはいつもどうりに 仕事にいく やがて間違いも少しづつ 馴染んできて 気づかないくらいうっすらとなる ありがとうという透きまから 空がみえるとき 眩しかったりする遠い風 悲しいものを線に埋める 少しだけ静寂で (ぼくはくじけたりしない) 風の中には恐竜が棲んでいる ティラノザウルスの足跡が 高い秋の雲に見える ---------------------------- [自由詩]引力/tonpekep[2005年9月8日20時03分] 鳥が飛んでいる/秋の日に 鳥は何故に空を飛ぶのだろう/ わたしは呪縛のように生まれ/ そして大地から/ 脱することができない/ 飛行するものは全てきっと/ 優しい何かで作られているに違いない/ そういう解説書を/ どこかの図書館で/ 見つけようと思っている/ わたしは全ての道を/ 正確にさまよえる術を知っている/ いつか空から誰か来るとき/ わたしは語ろうと思う/ それは美しい呪縛であると/ ---------------------------- [自由詩]胃袋の秋/tonpekep[2005年9月16日20時08分] 炊飯する ごはんはきっと海苔で巻かれたい 秋刀魚焼いてみる 秋はその辺りでちりじり色つきはじめる お米は海を知らない 秋刀魚は畝を知らない けれどもぼくは知っている そこでぼくは海について畝について お米と秋刀魚にそれぞれ話しかけたんだ ただ 季節の重なり続けたかれらの身の 美味しいことは話さなかった やがて静かに それぞれの 身に醤油をたらす 胃袋は切なく啼いたかと思うと 秋の訪れをまちかねていた ---------------------------- [自由詩]秋の日/tonpekep[2005年9月21日21時04分] あなたを 美しいと 思った 秋の日 秋の日 あなたは ものごとを わたしの肉に 染み込ますように わたしを 叱るのでした わたしは 朝露を 飲むように あなたを 識る 遠くに 近くに あなたを 思った そこに わたしの 確かさがあるのでした 静かな光の 焼け焦げた香りが あなたと 陽の間で たちこめている ---------------------------- [自由詩]約束/tonpekep[2005年9月27日20時03分] あなたの方で風が吹いている わたしはわたしで知らないことばかり捜している 秋がそこらじゅうで溶けはじめるとき 空き瓶には夕くれが満たされるとき 幾つもの詩を繋げるようにして わたしはあなたを見失ったりしない ただすべてを忘れてしまったりする ふるえるほどのかなしさが実は愛であったりする ひとつの道が秋によこたわる わたしは頑なで その道のほかを知らない 美しい彼方の約束がある わたしは空に考え事を浮かべながら 透き通る人々の横を通り過ぎる ---------------------------- [自由詩]omoidetosite/tonpekep[2005年10月5日23時35分] アースジェットが 秋のはじめになってもまだ半分くらい残っている しゅーと夏を吐き出してみる 秋はそんなところから始まる ぼくは割り算を高い空に置く 割り切れないことは繰り上げるのか 繰り下げるのか ぼくはこの世紀をバカにしているわけじゃない 紙芝居のような履歴があって 後ろの方で声が聞こえるけれど どんどん静かになるんです やがて何も聞こえなくなり紙だけ捲られてゆく ぼくはひとりでやって来た ぼくのひとりがあちこち落っこちている ぼくはひとりを指折り数える 指折り数えたその後で ぼくは自分を殴りつけるんだ 思い出として ---------------------------- [自由詩]本を読んだ後に入り込んだ一瞬/tonpekep[2005年10月21日21時39分] 化石を拾う 改札口は静かで 足跡ばかりが通り過ぎていく ぼくはそこで案山子になっている へのへのもへじ 通り過ぎてく人に 顔は何気にそう書かれてしまったけれど 何か無限のようなかなしみを やり過ごしている ちょっと斜めに傾いている それくらいが丁度良いみたいに 案山子の影はぼくを支えている からからと地球儀は回っている からからと地球儀は回り続け 何もないところに 山や海や川を零してゆく そうして泣き虫たちが そこに国境の線を引いてゆく 丸い形になって 固まってゆくぼくの希望 ころころとシーソーの上で 上がったり下がったりしている ぼくは何を書いているのだろう 誰かを愛していなければ そして愛されなければ 人はすぐ死んじゃうってことを 伝えたいのだけれど 鍾乳洞のような電車がやって来て 窓から一斉に白い鳩が羽ばたいたりするけど それは手品だということを ちゃんと理解しているから みんなにこにこと拍手喝采している ---------------------------- [自由詩]風邪流行ってます/tonpekep[2005年10月25日17時47分] ぞくぞくするものだから 風邪をひいたように思ったのだけれど なんだ 背中に離婚届が貼り付いていたのか ついでだから その上から婚姻届も貼ってしまおう 少し温かくなるかもしれない それでも何だか優れないので 体温計を郵便ポストの受け口に差し込んでいると 角などどこにもない一本道の 角を曲がって 郵便局のおじさんがやって来た なぜか黄色いヘルメットを被っていて なぜかそこに世界安全という文字が書かれてあって なぜかでっぷりしたお腹の下の方では ライダーベルトの風車がくるくると廻っていた 「ショッカーはきみの悪いこころの中に潜んでいるぞ!」 そう言ってぼくに 遅すぎる年賀状を届けてくれました あけまして/おめでとう/今年もよろしく/酉 誰からだろう そう思って裏返してみると 鈴木智と書かれてあった 鈴木智って誰だろう 日本で一番多い名字の鈴木さんに ぼくはたった一人も知り合いがいなかった チーンと鼻をかむ ティッシュペーパーの中は 花びらでいっぱいだった 何だか無性に涙がこぼれた ---------------------------- [自由詩]鳥瞰図/tonpekep[2006年1月21日19時27分] 空が飛んでいる 空が飛んでいるので全ての羽が浮上する 見つめることはいつだって透きとおる 見下ろせば ものの在りかはかなしい 重力の堆積が歴史で出来ているなら ぼくらの言葉は足跡のように点々として あちこちの道につづいている 未来も過去も今もぼくらの足跡は重なりつづけている かなしいことをかなしいと言える動物が好きです それは微塵子のようなプランクトンでも好きです かなしい動きをしている動力が好きです いっそのこと大気圏さえ越えたらいいと思います 見下ろしてしまえば空も重力も足跡もなくなり 青い丸だけ見下ろせばいい ---------------------------- [自由詩]イカサマから視覚的に繋げる孤独/tonpekep[2006年3月12日16時42分] ぼくはときにイカサマを愛し 嘘をつくことに夢中になる やがてスルメみたいに 熱が冷めると かなしいものを反らせている 反らせる部分でぼくは 誰かと繋がっていたくなる ぱちぱちと吸盤が破れたその先で とおくを見つめていると人生が 瑞々しく感じられる いやそうじゃないのかもしれない 人生を見つめているととおくが 美しいものとして無言であるのかもしれない はるか はるか 見つめるためにぼくは生まれてきたんだ この章できみが死んでしまうのなら ぼくは次の章で花を添えよう ふゆの坂道 ふゆの足跡 ふゆのため息 ふゆのかげ それらはついに ひかりそのものになって ぼくを照らす 風力の 凍っているそのすき間に 珪石のように 留まっている詩が ある ぼくはたくさんのひとつづつの中に 無精卵のような孤独を 保有している ---------------------------- [自由詩]事情/tonpekep[2006年8月25日21時58分] そらには意地がある 意地があるので果てしない ぼくは意地を見上げている 骨を精一杯反らせて そらには意地の他にもいろいろある 事情は言えないけれど 複雑な家庭に育ったのだ 青くなるのはそのためか いつまでもカレンダーを 捲りつづけている子供がいる 夢中になって捲りつづけているうちに いつの間にか子供はいなくなっている カレンダーの傍には盛り土がある 随分昔の盛り土である もしかしたら事情なんて どこにもなかったのかもしれない ---------------------------- (ファイルの終わり)