ルナクのおすすめリスト 2009年6月30日1時02分から2015年7月8日23時18分まで ---------------------------- [自由詩]奇妙なコード進行/こめ[2009年6月30日1時02分] 再会と別れが出会う街で すれちがう人は他人ではなかった 魂が抜けたように それでも旗をふり続ける 工事現場の機械人形 それもたまにはいいけれど 縮んだ雪だるまになど 断片的な仲裁しかできることはない 瓦礫のしたから飛び出した 新しい生物に拍手を送る アンケートをとって そのナンバーワンを はいひーるの踵で踏みにじる 何度も羽根がなくても 東京タワーの天辺から飛び出した それは己の力を信じていたかったら グランドの真ん中で転がる 哀愁ただようサッカーボールに 歪みの手足をもれなくプレゼント ガミガミ煩い赤鬼には ヘソの腐ったゴマでも挙げれば ほいほいついてきやがった 明るい方にとんでいる蛾は 炎の誘惑に負けて 灼熱の中に身を投げていた 辛いのはそこに多数決があるから たからばこの中にはいつまでたっても 奇妙なコード進行の曲がながれていた ---------------------------- [自由詩]雨/吉岡孝次[2009年6月30日21時50分] ついに僕らは自分の心をしか探ることが 出来ず 冷たい雑踏をかきわけていた 少しでも前へ進みたくて人をよける僕に きみは 遅れもせず ぴったりとついてくる (そこからは 黒ずみはじめた僕の肩は見えない) もっと道が短ければ と 誰かの声が聞こえた Protestantでもあるきみは 食事を 残さない きみの話はしばしば速すぎて 個々の点になると僕の理解がおぼつかなく なりそうだ だがあからさまに「わからない」といった顔をすると くやしいらしい じっと 僕の目を睨んで それからいきなり戸外へと視線を 走らせてしまう 何もかも突然に始めるわけではない、と 僕は いつ知ることになるのだろうか はっきりしない 雨脚 僕らの やり方のまずさだ 映画館では「ザジ 」を観た きみといる静謐を苦く 閉じ込めていた ---------------------------- [自由詩]一期一会の春先/こしごえ[2009年7月1日8時27分] 雪解け道を歩いて行く 正午を呼ぶのはかなしびか 生めない、老馬の針仕事 今日は、と今日も初めてのあいさつをする 失われた空の色はいまも青く 生み落とされた核の舞台裏 微温む静水の夢 ルフラン ルフランルフラン 風の運ぶ匂 見つめた夕陽 とってもまるく真っ白で しん と光る 雪国の ひらかれる春が散り終われば おもひ出の夏が、来るよ ---------------------------- [自由詩]ONEDAY/こしごえ[2009年7月1日8時29分] それでも、最後には微笑む 日曜日さんさんさ(心の臓はぴりぴりじん 一期一会の花と風 雲はさよなら云っている 白い手をふる 御母上 まだ見ぬひとみに映ってる 空はどんなに青いのか 濡れた視線の涼しさよ 高く高い風のもと これでいいのと手をかざし 幽かに抱くフルーツは どこか 愛すべき ひとつ星を失って 私の、生まれ来る日 ---------------------------- [自由詩]亡命者/こしごえ[2009年7月1日8時30分] 私は現在。 湾刀の先で風を切る一隻の、ゴメ 一隻の ゴメだ これは帰れないみちのりであって 忘れていることなど何もない、道 ここに道があるからあるいて行く あそこにはたどり着けないとしても 引き返すことは出来ない 青果へと歩むのは いつか切られた風の声音 それが 続いていく 空を高く高く ??として 光のとどかないむねの深奥に しきつめた花の化石製石だたみの道で 目を凝らし果ものをむく小刀が反射する 焦点に囚われず 重い水底を見つめよ と聞くゴメの視線はひっそりとはるか遠く おもいでがみちてささやく血を宿している 私は現在。 亡命の途につき 融合する水平線 ---------------------------- [自由詩]雨なんて降らないから/小原あき[2009年7月1日12時32分] この不景気で 「ありがとう」は あまり回ってこないから 大事に大事に抱え込んでいた 街中の 誰もがそうやっていたら いつしか 「ありがとう」は 街から消えてしまった 本当は消えてはいないのだけれど 消えたみたいに 自分以外の「ありがとう」を 見ることがなくなった そうなると より一層人々は 「ありがとう」を抱え込んだ 誰からももらえないのなら 今ある自分の 「ありがとう」だけは 大事に大事に保管しておこう そうすると 自分しか 見えなくなって 誰も信じられなくなって 最近、夫の「ありがとう」を見ていない 母の「ありがとう」も 親友の「ありがとう」も あれだけ好きだったみんなを 信じられないなんて 悲しい、と ただ、 ひたすらに 泣いていたら 涙で 持っていた自分の 「ありがとう」が 全部、溶けてしまった ご飯を食べても キスをしても 道を譲られても 何がありがたいのか わからなくなってしまって ただ、眠る前に 「ありがとう」の雨が降ってくる 夢を見られるように 祈るだけ 自分の「ありがとう」を失くして 誰にもあげられないわたしには 雨なんて降らないから ---------------------------- [自由詩]未完の、ソネット 「隠家(あじと)」/望月 ゆき[2009年7月1日16時49分] わたしの、隙だらけの皮膚を突き抜けて メタセコイアが生えている 臓器はいつしか記憶を失くし 葉脈を血液だけがめぐりつづけいる あまりにむごい手つきで 世界が わたしを愛してやまないので どんな角度からも見つからない場所に 自らをかくまっている 広がっていく、巨大迷路の壁越しに 幼子を呼び戻す声がきこえる 空はしばしば 葉脈を切断し、そこから 夕焼けがうまれる ただいまを言うために、口をひらく するとわたしがいなくなる ---------------------------- [自由詩]鳩砲/佐野権太[2009年7月2日9時50分] 僕たちは行進する 雨と雨と雨の合間を かなしみの残る青空に バシュポン 圧縮した空気は開放され 白い弾丸は 砲の初速を逃れた彼方で 小さな羽を広げる あの 遥か積乱雲と日輪草の 見つめ合う辺りに バシュポン 風を掴んで 誘導弾のように 大きくスライスしてゆく ジャミング 大変だ、鳩が詰まって ぐるぐる鳴いているよ いけない、いけない 点検を怠るな 僕たちは前進する 草と草と草の隙間を 指を切るなよ ああ、いわんこっちゃない 衛生兵、衛生兵 バンドエイドを持ってこい * やあ、ついた 丘の上のトーチカ 見ろよ これが三日間戦争の残骸だ 覗いて見ろよ 貫通した銃弾の穴から 射し込んだ光が 小さな花を育てている 僕たちはいま この軟らかな砲でもって 互いの心臓を愛撫する 咆えろよ、鳩玉 バシュポン できるだけ爽やかな角度で バシュポン ここがいちばん 見晴らしがいいんだ ---------------------------- [自由詩]名前のない川/熊野とろろ[2009年7月2日18時26分] 川にもいろいろあるようで 長江やらガンジスやら一級河川やら ただ今、僕の眼前を流れる川には どうやら名前がないようだ 名前のない川 名前のない橋の下 家庭排水に汚染されたヘドロのような水ではない とはいえ清流のような煌めきだって微塵もない 名前のない川は まるで誰にも気付かれていない存在だ 水面からみえる苔の生えた底をよく見ると 銀行のカードや病院の診察券が沈んでいた 名前のない川に名前を捨てていくなんて 奇妙で仕方ない ---------------------------- [自由詩]永遠を見極める眼球 2009/るるりら[2009年7月5日12時40分]      夏は他の季節よりも、死にちかいと   たれかがおっしゃったのは天の声のようにも想え   または蝉の声のようにも想え   または緑陰をくれる梢の優しさのようにも想え   私は夏を見極めようとしています      広がる夏が   銀色に照り返すヤツデの葉から   私の額から   私の肢体から   植物の葉の裏から   命持つもののすべてから   沸き出でて その蒸散から生まれる雲を    臨終の蝉が乾ききる最後の最後に吐く息を 私は     すべての生き物の蒸散は   まったりと 全く動こうともしない あの雲を形成してゆく   瞼の汗が眼球を浸し   遠い夏のあの日、死んでいった無数の眼球も   私も  あの雲と同じ色をしている    私は その一部始終を見ようとしています           緑と私と蝉と大気が   一体となってゆく   夏とは こういうことだったのかと   私は またも忘れていたのです   なんという わすれんぼう   また その一部始終を見詰めよう   夏は他の季節よりも、死にちかい   それこそが正しかったのです   だからこそ私は わざと忘れたのです        夏は死なのです   怖がってもよいのだよと   夏がそう呟くのを待っていたのでありました   いまだ ほら 夏を怖がってよいのだよ    夏が呟くのを 天の啓示を待つ殉教徒のように   待っていたのでありました   ああ   私は怖い   見極めることが ---------------------------- [自由詩]サヨナラのテーゼ/南波 瑠以[2009年9月16日0時30分] ■秋 すべての色を飲み込んで ただ透明である、秋 ■チャイム 夕陽が窓ガラスに映ったとき 風がいつも置き去りにするもの ■図書館 古びた新築の匂いがする ■デジャヴ 誰かが間違って押した 巻き戻しのボタン ■冬 春にぬくもりを渡して 一瞬だけ銀色の、冬 ■体育倉庫 高い跳び箱ほど 空洞は大きい ■グラウンド 四ツ葉のクローバーは けっこうあると思う ■3組 後ろの窓ガラスには 昨日つけた5ミリほどの傷がある ■保健室 校内でいちばん 白の似合わない世界 ■春 くしゃみをすると形が変わる 万華鏡のような木漏れ日がある ■青 朝と自分の 反応式によって生成する色 ■空 それはまるで 紫陽花の花言葉 ■屋上 駆け抜けてしまえないのが いつだってもどかしい場所 ■夏 壊れたヘッドフォンから 潮騒が聴こえるとき ■サヨナラ また会えると信じられるときだけ 目を開けて言う、サヨナラ ---------------------------- [自由詩]空を呼ぶ/南波 瑠以[2009年10月14日23時34分] 遠浅の日々はいつの間にか息継ぎの仕方を忘れさせる。 駅まで、の最後の交差点に立つと 呼吸が止まるほどに夕焼けの匂いがした。   * 「雲は、本当は流れていないのです。」 無邪気な指先で夢を壊してゆくあのひとは、たった一本の紐で宇宙の形を知ろうとする。 けれどもあのひとの作る理科のレジュメには必ず誤植があって、 見知らぬ土地でローソンを見つけたときのような気分になれる。 空、と口にしてごらん ゆるゆると青がほどけてゆくから でも空は わたしをのみこむことはしない。   * さようならで雨がやんで ありがとうで夜が明ける、そんな 世界にいて静脈の いろはここまで澄んでしまった。 空、と口にしてみると 夕焼けの匂いがした ---------------------------- [自由詩]標/Rin.[2010年2月10日23時44分] 私しか「アトリエ」と呼ばない場所で あのひとは輪郭のまま西を向いている むせ返るような夕陽の匂いのなか パレットで乾いた水彩は、それきり 藍が好きだったと思う 雨が好きだったと思う それから、二月の しがみつくような冬が好きだったように思う 会いたいと口にするのは、きっと ゆるゆると水彩をほどくくらいたやすいから カーテンを閉めて、ずっと 影をなくしたサンスペリアの真似をしていた 窓の下で煙草を点ける音がする あのひとのこぼしていった言葉を 標に燃やしていくように 火を映さない薄暮に 今日も 家路を急ぐ足音が響いている ---------------------------- [自由詩]やわらかな良心/鵜飼千代子[2010年6月30日19時53分]            あなたのやさしさ ちゃんと通じてる            秘蜜はね スゴイから 秘蜜なんだ            だから 秘蜜は 隠れるんだ            秘蜜はね 知りたいでしょう            知っちゃうとね 覚えなきゃ良かった            って思うんだ            秘蜜はね 暴くと 航海するんだ            晒すとね 胸痛むから せいに            したくなるんだ              そうするとね 一番弱いところに            向かっていくんだよぐんぐんぐん            ぐんぐんぐんぐんぐんぐんってね             みんな自分を守るために 必死だ            ケモノ だね                   そうしてね            追い込んで行くんだ ぎりぎりと            言ってみれば 順番待ちだ            ヒトはね それを 知っているから            関わらない 深入りしない 聞き出さない            傷つけ たくも られたくも ないから            秘蜜はね 開くのではなく 包むほうが            気持ちがいいんだ あたたかでしょう            そうしてね 包装紙 探してくるより            誰かに 包まれたほうが 暖かい                 たとえね             やわらかな良心が 逆立ちしちゃって             とげとげが皮膚に当たっていたとしても            北風からは守られたんだよ            あなたが 守ってくれた            凍りつかないように あなたが            包んでくれていたんだよ            やわらかな良心 ありがとう            大丈夫 ちゃあんと 伝わってるから         1997.10.27.   YIB01036 Tamami Moegi.          初出    NIFTY SERVE    FPOEM ---------------------------- [自由詩]ねむれたか あさまで/たりぽん(大理 奔)[2010年7月1日23時17分] ベットソファ 枕元のくずかごに ティッシュを捨ててしまったので 熱射病気味のわたしは ひと晩中、このかおりの 林をさまよう夢の中でした 不器用に明るい下草を踏みしめると やわらかく沈み込む 五本の指が露に湿って はじめて、午前五時四十三分のそらの あの明るさだと気付くのです コンビニのおにぎり棚は 捨ててしまった本棚のように空っぽで 満たすものは冷たく凍りつき 電気仕掛けのあしたが 今日と変換されます 靴底を張り替えた それでも履き慣れた靴で バス停に立つと 誰かの吸い殻を つま先で蹴飛ばすのです そろそろ不機嫌に 迎えに来るのでしょう ---------------------------- [自由詩]告白/かんな[2010年7月3日14時28分] どれほどの痛みの上に 咲いてしまうのだろう あふれるほどきれいに 屈託なくわらう、あなたに恋をした 語彙をふりはらい あなたに愛を告げる どんな勇敢な姿になれただろう わたしはことばを あなたは花びらを同時にうしない この流れる季節は ひとつの部屋へと集束してゆく ---------------------------- [自由詩]手のひらの中の午後/ベンジャミン[2010年7月3日23時02分] 陽だまりの光をあつめて 手のひらですくうようにしたら 伝わってくる温もりが 静かにあふれていた あなたはいつも そんな仕草を当たり前のように 僕に見せてくれる 見えないものを見えるようにして 僕に教えてくれる 僕はいつも あなたから教わってばかり このあいだは流れるように揺れる髪で 自由な風とたわむれることを つま先でステップを刻んで 足もとにいる小さな命を 僕に教えてくれた あなたには そんなつもりはないのかもしれない けれど 今もそう あなたの手のひらにとどまる 小さな時間の中で 普段は知ることの出来ない午後を 僕は眩しく感じている ---------------------------- [自由詩]トーキョー/望月 ゆき[2010年7月4日0時28分] 頂点はさらに、高さを増す。塔の上に塔を 重ね、そのようにして時代はいつも、賑や かに葬られていく。足元には、無数のメタ セコイアが植えられ、手をのばして、空を 仰いでいる。道は、休むことなくつくられ た。わたしたちが迷わないために。 積み木をくずす所作で、戦争がはじまる。 無邪気に、そのありふれた朝を、穿つ。庭 では、熟れすぎたトマトが朱く弾け、読ま れることのない朝刊を汚す。子どもたちは その時も、背中のランドセルをカタカタと 鳴らしながら、走っていただろうか。まっ すぐ、目の前にのびる道を。 公園のベンチに座って、赤く尖った先端を 眺めていた。長い鬼ごっこの、まだ途中。 笛を鳴らして歩く、豆腐売りの、失くした 左腕は、深い土の底で今も、リヤカーを引 いている。そういえば短距離走が得意だっ たっけ、と思い出して、すこし笑う。立ち 上がるけれど、纏足をほどこした足は、う まく歩くことができない。 あらゆるものは、この場所に偏在している。 灯り、富、思想、二酸化炭素、罪。低い周 波数で、ラヂオの電波が、底辺を這う時、 空で、テレヴィジョンの電波は、進路を忘 れる。道があるばっかりに、わたしたちは しばし、迷う。目印を限りなく淘汰してい くと、時代からわたしたちが消える。 *『詩と思想』7月号掲載。 ---------------------------- [自由詩]内憂外患/鵜飼千代子[2010年7月11日17時59分]               わたしたち たぶん               ふたりとも               相手のひくつさを感じるところに               身を置くことが               嫌なんだと 思う               そこは                わたしたちを育てる               大地ではなくて                    傷つけまいとする               優しさが               こころのくびを               しめつける                              だれも                蓋をしてしまわないで               遥碧にむかい               まっすぐ                まっすぐ                伸びてゆく      1997.05.02. YIB01036 Tamami Moegi.      初出 NIFTY SERVE FCVERSE  改稿 1997.12.19. 2010.7.11 ---------------------------- [自由詩]名の無い死/こしごえ[2010年7月15日14時27分] そら おそろしい しずけさ ふくらむ むねに 雷霆ひびき冴えかえる 雲 たれこめて いずれふって来る 私の上に 見つめあえる 傘は 無用であります そういったものは それっきりで はらりはらりと 濡れるままで いい そのうち しめったにおいの 地下への階段の すべやかにつやつやとした 石に足音をのこし みずからを葬送する 青い空が こいしい とうめく たどりつくことの出来なかった それでも(ひかれ あっているの 歩むしかない 時にはふりかえり ゆびさすほうを ここにおいて ---------------------------- [自由詩]潮と月と人間と/瑠王[2010年7月16日16時05分] 私がとても遠いのだと思っていた人は すぐ目の前にありました なぜならその人は海だったのです 必要とあれば向こうから そうでなければひいていきます 私がどんなに駿足でも どれだけ望みを握りしめても かのお月様の気分次第で その人は地平線の彼方に消え 忘れた頃に少し沁みる痛みをもって 私の足を濡らします ---------------------------- [自由詩]現象:或る七月の夜/塔野夏子[2010年7月19日21時11分] 頂点を仄青く明滅させる三角形が 部屋の片隅に居る 銀のお手玉をしながら 華奢なアルルカンが宙を歩いて過ぎる 星のいくつかが 音符に変わり また戻る 硝子瓶がひとりでに傾き グレイの猫がこぼれ出る 結晶化した記号たちが 暗い川の橋の上に整列する 窓から窓が生まれ その窓からまた窓が生まれ…… 青緑の液状の眠りが ベッドを音もなく波打たせている ---------------------------- [自由詩]「飛べない鳥が鳴くように」/ベンジャミン[2010年7月22日0時58分] 発声練習ですと 飛べない鳥が鳴いている それがまるで哀れにきこえるのは わたしの中に在る冷酷さです もしかしたら本当に 飛べない鳥は哀れに鳴いて 飛べないことを嘆いていても わたしはきっとその声を ああ きれいだねと 心の中で響かせなければ 飛べないことを嘆くために 自分が居るみたいで それがどうにも淋しいのです だって鳥は 飛ぶために生きているのではないし だってわたしは 嘆くために生きているのでもない ---------------------------- [自由詩]うつつと夢の間を縫うバスに乗って/石川敬大[2010年7月22日17時21分]  眠らないバスにのった  眠れないぼくは  あの野性化した雲といっしょに  あかるい夏の海辺をどこへむかっていたのだろう  写真でみただけの  マリアナ諸島の鮮やかなブルー/グリーンの繁茂に  錆ついて穴が開いた戦闘帽  朽ちるためだけにある折れた翼と操縦席  疲れはてて浅瀬に横倒しになった小艦艇に出入りする色鮮やかな熱帯魚  慰霊のためのマリア像  どれもが  ひとの属性である悲哀/悲惨  戦闘の消耗性/無意味を象徴している      *  トンネルをぬけて  ひときわ濃い潮のにおいを浴びた上着をぬいで  漁村に舫う船を横目に  いくつかの岬を丹念にまわったぼくらが  どこをどう通ってバス停までたどりついたのかたしかな記憶はない  時間には  時系列だけがあって  整合性は存在しないから  渡ってきた吊橋はたぶん霧のなかで壊れている  したたかに酩酊した  ゆうべの祭りの賑わいは  花火大会のまぼろしのように現実味がない  坂道に  さしかかる  九月の風のゆく手  路線バスの時刻表が現実からきえかかっているので  来るのか来ないのか  おぼつかなくて  うつつが夢のようで  ものみな死に絶えた夏の岬で  ぼくらは  やってくるはずのないバスを待っていた ---------------------------- [自由詩]静かの海/月乃助[2010年7月24日5時21分] 静かの海 ここはどこまでも静寂な 砂がさらさらと、 乾いた想いを落としていく 初めて出会った日を思い出しては ナトリウムの大気に 耳をすませる 小さな部屋で聞いた パステルの紙を走る音 あの頃 未来という言葉が恐くて 満たされていることが、つらかった この降るほどの星たちの どれもが願いを背負いながら 生きている それを一つ、二つと数えては、 36万キロの中空がどうして こんなにも近くに感じるのは、 テラの残照に目を細めては、見つめる そこにあるのは、水色に染まる まっすぐに向かってくる想いのせいかもしれない 正直に伝えたくて 明日がいつものようにやってくるのを 忘れていた 誓っても 言葉など足りないと 私たちはどちらも、46億年もの昔に生まれたはず その奇跡を信じて良いのなら 二人でいてもひとつだと、約束を交わした 時の海辺に佇み たった一人を忘れられずにいる いつか 誕生日さえ 忘れ去る日がくるまで、 その時がやってくるまで 今宵 瞳に映る地球の色が、 それがためにか ここからは、 あまりにも青く、澄み 美しい ---------------------------- [自由詩]バッタ/曲がり屋レオン[2010年8月8日17時13分] 気合もろとも 弾ける 空に バッタとは よく名付けてくれたものだ 宙に跳ぶ瞬間を 実に巧く音に写しているではないか 気合もろとも 爆ぜる 空に この細い脚だから 気合なしに 跳ぶことなど叶わないのだ できることなら 目の前から消えるように見える 跳躍をしたい 時空を超えるような 余計なものは 全て除き 跳ぶ そのために じっと機会を探る 草むらでじっと待っている ---------------------------- [自由詩]夏に濡れている/Rin.[2012年8月25日1時59分] 夏、それは 裏とおもてのある季節 裏道はどこへも 繋がってはいない 向日葵、それは 追いかけていた肩甲骨の高さで咲いて 自転車で踏んでしまった蝉の音で枯れた 波、それは 壊れたラジオからこぼれて 体内に戻ってゆく ほたる、それは 無言の挽歌 たましいではなく 絵日記、それは 手紙のようなもの 本当の日記なら 鍵をかけておくのだから せかい、それは わたしがいてもいなくても あおいのだとおもう ひとり、海をみている ふうりん、それは この夏を点景にする 朝顔の鉢、すだれの影、打ち水の虹石塀の角 遠雷、そらの 海鳴りという 短い雨を連れて行く頃 ゆうやけ、それは警鐘 どちらかが先に帰ること だけは確かである あつさ、それは 次々にわたしを汚して やがて雨になる ありがとう、それで 許される気がしていた これで最後と思わないまま 夏はゆくのだろう ---------------------------- [自由詩]閂は開かれる/るるりら[2015年2月14日13時10分] 【閂は開かれる】 閉ざされた記憶の門のかんぬきが 思いがけない方法で開かれることを 私は知った たとえば 少女の髪にあったリボンが ほどかれた瞬間に急に大人び 何かを失ったかのような遠い目をしたとしたら その先にあるのは 青い空ではなく 未来の自分への便りだ こころを射抜いた事柄は たとえ桜貝のように小さくとも 閂で閉じられた記憶世界では しずかに息をしている すべてに光が注がれ同時に影が揺らいでいる 大人になり すっくと立つという単純なことこそを手に入れるために 捨てたつもりだったさまざまな雑多な事柄も 生命力のある記憶だけは やがて 大人になったつもりの わたしの内側の殻を破って 出てくる少女のような わ た し オリエントエクスプレス わたしは昔、この超一流の急行列車に 一瞬だけ乗ったことがある 鉄道オタクの友人が 「有名な列車だよ 一瞬だけなら 切符なしでも きっと乗せてもらえるよ」 というので 乗った ほんとうに わずかな時間だったけれど 鮮やかに翻る記憶 私が 過去をうしなったことなど無いのだ どんな ちいさな事柄であっても 生命力のある記憶なら こんなふうに わたしの中に質感をそのままに私の内側から 光を発しつづけるのだろう ************************* (メビウスリング2月勉強会 「アール・デコ」課題詩:新川和江 『記事にならない事件』 提出作品) ---------------------------- [自由詩]液晶に、雨/Rin K[2015年6月18日22時59分] 傘をさす手を奪われるほど 僕は何かを持ちすぎてはいない 縦書きの雨 カーテンの雨 通話中を知らせる音の雨 改行の雨 鉄柵の雨 液晶に、雨 こんなにも雨にまみれた世界で 傘をささずに、ひとり 忘れ去られた電話ボックスのように立ち尽くしている間に 現在と過去との距離は 過去と大過去との距離を もうはるかに超えてしまった ひとりひとつ てのひらに収まる窓を持っている 二十三時を過ぎたバス停には それらの窓にとつとつと灯がともる 液晶に雨 手の甲に雨 鼓膜にも雨 君の名で、雨 傘をさす手を奪われるから 僕はなにかを、君に この窓から飛ばそうとはしていない けれど ほのひかる雨 ゆびさきで雨 尾を引いて雨 夏だけの、雨 こんなにも雨にまみれた世界で 傘をさす手を奪われている ---------------------------- [自由詩]せかいじゅうガアメ/Rin K[2015年7月8日23時18分] 「世界中が雨だね」って きみが言うから 手相占いみたいに てのひらを差し出して 白いサンダルを気にして ひとつの傘でふたりで濡れながら 「世界中が雨だね」って きみが言うから 世界中が雨なんて そんなわけないだろって でも「世界中が雨だね」って 目を開けて言うから ああ 僕たちの見ている世界は せかいじゅうがあめ せかいじゅうがあめ せかいじゅうガアメ せかいじゅう、せかいじゅう キャンディーみたいな声でさ シャボン玉吹く速度でさ もう一度言ってみてよ せかいじゅう せかいじゅう  それは青くて それは透けてて それはドラゴンで そしてきっと かなしい なんで争うんだろうね なんで壊れるんだろうね なんて、きれいなんだろうね 「世界中が雨だね」って きみが言うから ひとつの傘のなかで きみが言うから やさしいよ かなしいよ あったかいよ 世界が、せかいじゅうが ---------------------------- (ファイルの終わり)