士狼(銀)のおすすめリスト 2011年5月17日20時03分から2012年6月5日23時32分まで ---------------------------- [短歌]卵みたいな卯月/小池房枝[2011年5月17日20時03分] 始まりのながしそうめんひとすじの流れを開いた歌を覚えてる 水面へとそして空へと浮かび出たばかりのように濡れた満月 ぽっかりと伐りひらかれた森の中ヤブラン静かに工事を待ってる   なつかしい人なつかしい物語キツネの窓の向こうにも春 花びらは散り伏してからも風のたび立ち上がっては走リ廻るよ ストロベリーチーズケーキとバーガンディチェリーのダブルの溶ける速さよ    ユリノキの梢にぽっぽと緑色ともし火のように点っています 昼間見た残され池の雑魚らにも雨ふるらしも良かったねみんな 透明な小鳥は空に木蓮の白き遺骸はやがて大地に 身の内に秘するものなど何もないただ咲くだけさとサクラ全開 バールひとつ月夜の晩に拾ったらどうしてそのまま捨てられようか 梅の実がさやさや風に揺れていた若葉とおんなじ緑色して 実らない花ばかりなのに何故スミレ鮮やかに咲いて何と交わる きれいかと問われれば迷う八重桜たわわだなと言う君と見上げる   泣きたくて恋したわけではないけれど笑いたかったわけでもないよ 雨の日にスミレがたくさん咲いていたどっちも欲しくてずっと待ってた チンダッレ日本の花とは違うだろうけれどもツツジを見るたびに思う 桜走り今日はお休み花びらが路面の澪にダムを作った ヒヤシンス部屋には匂いがきつすぎる分かっていたけど入れたかったの   図書館が我が「祈りの海」読むことのユーフォリアそっと揺りかごを揺らす るすにする。るすとするーはちょとちがう。するとするーはぜんぜん違う   あしたたた明日は足が多そうな気がするスタスタ歩いて行きそう   リターンキー「こくう」が虚空になりました穀雨は虚空に生まれるものか さくら咲き終わって小さな篝り火のような花梗が落ち散らばってる ケムケムにつぼみの先をかじられて尚まるく咲くちびたタンポポ   月は誰かがこっそり其処においたものひとが見上げて目指すようにと   黒点は無く太陽風、磁気圏は共に静穏。ヴォネガット逝く 作家たちの訃報きくたびまだ同じ時代に生きていたのかと思う ちびかけた赤鉛筆を拾ったよ駅のホームで何してたんだろ 山道に怪しい案山子が立っているすっごく怪しい案山子の山道 歩く歩く吹く風の中に一歩ずつ自分の身体を差し入れてゆく   神は死んだ、とのことそうか、生きてたんだね。どんな一生だったんだろうね 醸された昼の桜や菜の花と晩のカレーの匂いがする風 斜面ふと見あげればスミレ好き好きにあちこち向いて咲いていました 植えたはずのない百合すいと立っている今年来るのは誰の百年 高層のあわい砂漠をはろばろと月がゆきます砂に染まって   裏側にからざがあって天蓋にぶらさがってる月だといやかも   月はかつて何したものかとシジフォスがプロメテウスと不思議がってる   ほとんどの星が静かには尽きぬものか新星発見ニュース相次ぐ あんたまだそこにいるのね低気圧ゆっくりというかやたら長寿ね   骨ならば二百余ひとは柔らかな部分はどこまで数え得ただろ 成り成りて成り合はざるも余れるも一処ずつどころじゃなくって 細やかに砕かれた緑まぶされた銀杏にひとさし金色の夕日   月は今宵なにかを覗きに来たらしい土星だよそれは輪っかがあるでしょ ひとひとりの重さを思う新雪のような花びら踏んでゆくとき 問われたら素直に静かに答えよう誰かいますか誰もいません 四月でも雪になるかとふと思うつんと冷たい風が吹いてる 沈み果てる前に春先長くなる日脚に呑まれ消えゆくシリウス ものかげの花に気づいてやぁと言うと近くの猫がニャァと答えた   タイミングはかって花の吹き溜まり蹴り上げてみたが風に乗らない   まじまじと蕊を見てるとウメもモモもサクラもやっぱり薔薇科と思う   風ここでそんなふうにも動いてたの渦巻く花の軌跡目で追う さくらさくら行ったり来たりくるくると向きを変えたり舞い上がったり   鯉の背が水を分けてくそのたびに花びらがすっとよけたり触れたり ぼさぼさとあまり手入れのされてない梅林の底シロバナタンポポ   花信風双六一気に立夏まで咲きあがらんと荒れる雄風 君はもう咲き終わったろチューリップ。 ここにお座り、五月の風だよ ---------------------------- [自由詩]虹を願う/千波 一也[2011年5月20日0時01分] もう、 なにものにも 負けませんように、 進んでいけますように、 雨あがりの空に 虹をみつけたら、わたし いつの間にか呟いてた 誰に 言わされるでもなく わたし、呟いてた 子どもの頃はひたすらに 虹を描いてた ななつ、 なないろ、と 合い言葉を身につけて わたし、虹を描いてた 虹をみつけたら、 しあわせになれる、だなんて そんな決まりは どこにもない だからこそ、 そのふところのいい加減さに とても無防備に 満たされるのだ、と おもう ようやく抱いた 祈りとともに わたしは、 虹に ---------------------------- [自由詩]長靴のホコリと/砂木[2011年5月20日23時03分] 錆びた釘 カンの切れ端 木屑をめくれば虫 雪で潰れた物置小屋の腐らない破片をさらう 小さなスペースに散らばっている小石 両手で包み バケツに集める  土台と共に 捨てられる礎 土色に汚れた軍手をゴシゴシと洗い 太陽の陽射に干す 汚した手 かざして 空き地に立つ空に  風と行く    ---------------------------- [自由詩]魚眼プール/魚屋スイソ[2011年5月24日19時36分]  扇風機の駆動音と、蝉の声に紛れて、水の音がしている。彼はブリキのコップの中で魚眼を飼っていた。寝返りをうって、バタイユの文庫を相手に呪詛のような言葉を呟いている。彼女は何もきこえないふりをしながら、脱ぎ捨てられた制服と、イアフォンを耳につっこんで背を向けた彼の裸を傍目に、理科の教科書をめくっていた。乾燥した精液で貼りついたページを剥がす度に、少し嗜虐的な、プールサイドに寝そべった校舎の影が夏に焼かれているイメージが、爪を立てて、皮膚の裏側をなぞる。彼女はプールの授業がきらいだった。カルキのにおいと、クラスメイトの濡れた肌と、何よりそれらと一緒に同じ水へ潜るという行為に、言いようのない嫌悪感をいだいていた。口の中が乾いている。振り返って、彼に声をかけようかとしたが、しなびた舌が思うように動かず、再び視線を教科書へ戻すことになる。赤と青で塗りわけられた心臓のイラスト、電圧計と電流計のマーク、正しい順番に並べられた細胞分裂の写真、駄菓子屋で売られているみたいなBTB溶液の色、周期表、分子モデルの模型、アンドロメダ銀河、レーウェンフック、受精卵。彼女には唇から剥がした皮膚を咀嚼する癖があった。噛み締めた時に分泌される唾液の味と、細胞の死臭とが喉の奥で混ざり合い、全身を廻って、あらゆる粘膜に付着する。双子葉類の茎の断面、銅と硫黄の化合、位置エネルギーと運動エネルギーのグラフ、ムラサキツユクサの染色体、凸レンズ、プロミネンス、オキシドールと二酸化マンガン。ベッドのスプリングが軋んだ。彼がこっちを見ている。額の汗で濡れた前髪の奥から、4Bとか6Bの鉛筆で塗りつぶしたような、光のない目が覗いている。喉が渇いた、と伝えると、彼はうつ伏せになってベッドの下に手を伸ばし、コンドームの口を解いて彼女へ投げた。セキツイ動物のなかま、と見出しのあるページの、魚の写真がこぼれた精液でまみれる。急にまた、扇風機や蝉や水の音が、うるさく、粘っこく彼女の裸へまとわりつき始めた。彼女は理科の教科書と、窓際に置いてあったコップを掴んで、浴室へと走った。彼は再生の止まったイアフォンを引っこ抜いて、開いた状態で伏せられていた文庫本を拾い、立ち上がる。蛇口を閉めたときの、小動物の悲鳴に近い音がきこえる。彼女は床の青いタイルへ膝を突き、理科の教科書を浴槽へ沈めていた。シャワーヘッドで水をかき混ぜると、波打つ教科書のページから卵白のような精液がひろがって、毒にやられて死ぬ間際の、ダンスに似た伸縮を見せるようになる。コップの中身を放流する。無数の魚眼が旋転しながら、精液に絡みつかれて沈んでいく。嗚咽する彼女の後ろで、扇風機の駆動音と、蝉の声に紛れて、文庫本が床へ落ちた音がした。 ---------------------------- [自由詩]ひと/たもつ[2011年5月26日17時33分]     皮膚を持つ、 匿名の  + ひりひりした痛みを 登記するものとして  +++ ひつじが忠実に 時計を分類している 広くて静かな 都会の一室、そして ひまわりは鳴く 砦が陥落した後に  +++ ひとはもう 飛ばなくていいの?  + ひとりで 年を取っていくの?  +++ 筆跡が幼いまま 冬眠する子ども 昼間のざわめく梢の下で トロンボーンを担いだ  非番の楽団員が 答辞を読み上げている  +++ 飛行機雲、明日は とってきて  + 一口だけ トーストをかじっているから    +++ ひとは 特別なの?それとも  + ひとが 特別なの?  +++ 人気のない背中が 通り雨に濡れている  + ひき潮の匂いを トランクにつめる、音       ---------------------------- [自由詩]言葉の散歩(あるいは、詩の作り方)/草野春心[2011年5月26日17時59分]   晴れた日は外に出て   あなたの言葉に   二本の足を貸してあげよう   ヘッドフォンは   はずしちゃいなよ   晴れた日は   言葉の散歩に行こう   なだらかな坂道を   あなたの言葉が   はずむように転がってくよ   賑やかな商店街で   次第に仲間も増えてくね   しんとした公園で   ひと息入れても悪くない   考えちゃいけないよ   考えちゃいけない   考えてしまったら   あなたの言葉は   息苦しさに死んでしまう   ただ晴れた日の   空気だけ浴びてこう   坂道を下ると言葉は   そろそろと家路に就く   振り向けばたくさんの   仲間たちを連れて   部屋に帰ると   あなたは   そっと彼らを寝かしつける   こうしてようやく一篇の詩と   あなたの孤独ができあがり   懲りず   また、新しく   言葉たちが産まれてく ---------------------------- [自由詩]まいでぃあ・しっぽ/umineko[2011年6月3日7時51分] 要するに しっぽ なんだと思う ブロック塀を 渡る猫が しっぽ ぴん、と アンテナ立てて バランスをとる そろりそろり それでいて 悠然として しっぽ うっかり落ちないように 凛として 歩けますように 私は 詩を書いている 私は 時々嘘をつく 詩は 私にとっての しっぽであって なくてもいいもの なんかじゃない しっぽ ぴん、と アンテナ立てて 人ごみの街 雨空が 泣き出す前の神楽坂 しっぽ あなたもつかめない ふわりと逃げる ここまでおいで 私 ぴん、と アンテナ立てて 誰にもわたさない 生きる きょうも ひとりぼっちで         ---------------------------- [自由詩]不滅/真山義一郎[2011年6月4日16時24分] 貧しい公園の貧しいベンチで 貧しい僕らが座っていて コーヒーをひと缶 分け合って飲んで だけど、愛だけはあるから 寂しくはないよ お金が入ったら 二人で公営の団地に住もう そこには光が射すよ そして、僕らは 幸福に暮らそう 一緒にお風呂に入ったりして 僕はずっと鬱状態に見えるかもしれない 楽しくないの? って君は聞く だけど、こんなに幸せな日は 初めてだよ 子どもたちが走り回っていて 砂埃が舞って だけど、君は透き通っていくね コーヒーを僕に渡して 悲しそうに笑って ありがとう、 って小さく呟かないで 貧しい公園の 貧しいベンチにには 僕一人が座っていて 君のことばかり思い出して 葉に光が射していて コーヒーの缶が転がっていって だけど、愛だけはあるから 寂しくはないよ ---------------------------- [短歌]さよなら私の一部/水瀬游[2011年6月4日23時19分] 黒髪よ ボンドとペンキに漬けられて邪魔になったら切り捨てられる 割れた爪どこに落ちたかその欠片 掃き捨てられる私だったもの ---------------------------- [自由詩]/rabbitfighter[2011年6月8日12時43分] 僕が語ることのできる中で、もっとも美しい物語を君にあげよう 月が灯ると、夜が始まるよ それから、 朝の始まりは、夢の終わり 朝と夜の間、 明るくて、暖かくて、 年老いた銀杏の大木は、光を食む 銀河で燃えている星の数を僕は知らないけど 君の体では、60億の細胞が燃えている これは、最も美しい物語 深さについて、君が思うとき 君の中の迷宮が脈動する 深い色 深い音 深い闇 君の中に、迷宮がある 言葉よりも前に生まれた物語 君が生まれるよりも前に生まれた物語 僕が語ることのできる中で、最も美しい物語 君はまだ眠りの中で、街も静けさに満ちている それは美しい一日の始まりの予感 とめどなく咲き続ける蓮の花 中心に向かって広がる水の波紋 吐き出された煙草の煙が街灯を浴びて青白く染まる 眠りの中で、君が巡り合う悲しい人たち 君は月明かりに虹を見る それは、最も美しい物語 君が眠っている間に紡がれる絹の紋様 ガラス壜に詰め込まれた言葉の欠片 片目だけ眠る子供たちの見る夢 夜と朝の間 光が闇に触れ、梳り、抱きしめる 君の中で眠っている物語 目が覚めると、朝の光に溶けてしまうから 君が眠っている間、僕が語ろう 最も美しい物語を 夜と朝の間の すべての物語の故郷の 君の中の迷宮 闇が光をを抱きしめる それは一幅の曼荼羅 喜びと悲しみ 憎しみと愛 相反する全ての感情をその中に閉じ込めた 朝が来るたびに夜が明けるたびに新しく生まれ変わる物語 闇が光を抱きしめる 光が闇を抱きしめる 僕が語ることのできる中でもっとも美しい物語を君にあげよう ---------------------------- [自由詩]憧れ/未有花[2011年7月8日8時32分] 青い波間に漂う コバルト・ブルーのきらめき 画用紙に彩られた海は今でも 烈日を待ち焦がれている * 雨の日は部屋の中でひとりきり 孤独を思う存分楽しもう 外国の歌手が歌う レコードに耳を傾けながら * 朝顔の模様の浴衣を着て 今宵君と花火見物 硝子の風鈴リンと揺れて レトロにときめく夕暮れ * 茜色の空の向こうに こだまする君の声 がんばってみるよもう少し レールの先に明日を夢見て * 愛を失うことを恐れない こんな気持ち初めてです がりりとあなたが齧(かじ)った 檸檬をひとつ私にください * 鮮やかに鍵盤を滑る白い指先 鼓動は幾度も高鳴って 楽譜をめくるたびに続いて行く 連弾という言葉に憧れている ---------------------------- [自由詩]午後の化石/たま[2011年7月26日16時07分] 八月 隙間のない日差しが街を埋めつくして息をとめた地上 の生きものたちは白い化石になるだろうか 昼下がりの昆虫のように日差しを避けて地下に逃れた 人びとの背にうっすら あの日の地核の影が宿っていたとしても その足をとめて大理石の柱と語りあう人はいない アンモナイトの正中断面に浮き出た隔壁を、ひとつ、 ひとつ指でなぞる  足元には四射サンゴの群体だろうか 白い小花が群れて咲き乱れるようにうつくしい しんと冷たい大理石は、わたしの指先の記憶のなかの 愛しい体温を少しずつ奪う  どこにいるの?   Hからメイルが入る  東銀座の地下だよ。どうしたの  パソコンこわれた 壊れたのはディスクではなくてモニタだった 17インチの中古品を買う  わっ、まっぶしいい!   Hの幼い笑顔が液晶のようにかがやいた そういえばHの部屋のパソコンが開いているところを 見たことがなかった   ディスクトップには裸のファイルがびっしり、無秩序 に散らばっていた  あのさぁ、フォルダを作って整理したほうがいいよ  あたしフォルダって知らないしめんどくさいのいや  なんだろなぁ? 日記かな・・  開いてもいい?  だめっ!  あっ、ケチだなぁ  モニタ買ってあげたのに  そっかぁ、じゃあ、ひとつだけね 伏せたトランプをめくるようにカーソルをあてると ウィンドウズワード2002が開いた    それはHが書いた詩だった   人 間  ひとはね  ひみつが多いいきものだから  間がいるの  間がなかったら息がつまって死んじゃう  でもね  手をのばしたらとなりのひととつながるの  とおくはなれた街までつながるの  小鳥や仔馬とだってつながるよ  まほうの手をもってるの ふたりは互いの素性をほとんど知らなかった ひみつにしとこ ・・ それがHの口癖だった  ねぇ、だいて ・・。 Hのまほうの手がのびてわたしの首にからみつく エアコンを切って身ぐるみ脱いでふたりの体温の差を たしかめあって、冷たい方が下になる めずらしく今日は、Hが上だった なめらかな起伏を押しつぶすようにわたしに身体を預 けて、Hはすべての隙間を塞ごうとする そうして、地殻のマグマをもとめてふかく深く、どこ までも攻めぎ合うふたりのプレート やがて、あふれでるものに閉じこめられてふたりは、 午後の化石になる  なぜ詩を書くの?  わかんない  ときどき、不安だったりするからかなぁ  ずっと、そばにいようか  んー、 一瞬、Hはうつむいて手のひらに視線をおとした  でも、あたしすき間がないと生きていけないから  このままがいい  ぼくは、きみとくっついたまま化石になりたいなぁ  化石・・? やだぁ、そんなのぉ!  あたしはね、パワーストーンになりたいの そうか きみはわたしのパワーストーンだったね ありがとう 隙間のないこの街に、今夜も星は降らなかったけど どこか遠くで蝉が鳴いていた ---------------------------- [自由詩]夜景・死に水/ピッピ[2011年8月4日22時53分] 「どこにいる?」 誰のしわざだろう   (どこにいる?) 有限のたましい 絶対音感の人の指先が たくさんのたましいの呻りで にごってゆく そのとわの中で その   とわの中で いきつく先を それはメビウスじゃなくて クラインっていうんだよ、 と、 空を指しながら もともと、形があったもの そしてかなしく うたうもの ぱちん、と。 くるって、くるって、 飛び立っていくね、 くぐもて、くぐもって。 失敗、したかな…?   風が強いもんね。 大切なものをつめこめたかな、 「手は、つなげないよ?」 長いクラクション、 スピード違反の自転、 歯車の外れた人生、 この世のあちこちに 落としてきてしまった、 ねじや部品のそれぞれを、 一つ一つ拾い集めて、 誰のきおくにも、 残らないように、 すこしずつ、 すこしずつ、 透明になっていく。 夜空。 ストーリーで空が埋まる。 彼らに救いはない。 無人のトロリーバス。 吐瀉物のにおい。 絶望するのに充分な、 わずかな希望。 ---------------------------- [自由詩]線香花火/nonya[2011年8月6日10時14分] 逃げ場をなくした熱気が 重く澱んでいる夜の底で 線香花火に火をつけると 涼やかな光の飛沫が 覚めやらぬ地面にほとばしる しつこく素肌に絡みつく 湿り気を含んだ風の端に 弾き出された光の雫を ぼんやり眺めているうちに 意識は過去へとさかのぼる   消え惑う仄白い煙と   後ろめたい火薬のにおい   汗ばんだ細いうなじに   頼りなげにはりつく後れ髪   華やかな光に揺らぐ   君の横顔からは微笑みさえ消え失せて   青白く縁取られた   ふたりの影は闇の重さに耐え兼ねて   漂う終わりの予感は   告げるべき言葉を飲み込ませて   線香花火を眺めるだけのふたり   どちらかがついた溜息   火玉が   落ち      た 湧き上がる子供達の声 此処に連れ戻された僕は 慌てて下手な笑顔を作りながら 小さな手に花火を渡す 照れ隠しに見上げる 星も疎らな夜空 電線にひっかかったままの 少しだけ欠けた月 君はたぶん 思い出すこともないのだろう ふたりの最後の夏を ---------------------------- [自由詩]隣に立つ異世界の住人へ / 夏はやっぱり不思議話/beebee[2011年8月6日23時09分] ホームに止まった電車の窓越しに見える 同じく所在なく立つ隣人を想う 二本の平行した線路上に交わる事なく 二人は未来永劫交差することは無いだろう / たぶん 2011年6月27日午前7時45分37秒 / 現在 地球、アジア、日本、東京、中央区、人形町の 東京メトロ日本橋人形町駅の二番線と一番線に 二列並んで停まっている電車に二人並んで 車窓越しに立っている / 状況 上り電車と下り電車は今同時期に日本橋人形町駅のホームに入って来たのだ それは北緯 35度41分8.383秒, 東経 139度46分56.827秒にあるのだが / 本当 そして笑ってしまうが6月27日は僕の誕生日なのだが / それも本当 GoogleEarthのように一気に俯瞰すると 日本橋人形町、中央区、東京、日本、アジア、地球、太陽系 / 行き過ぎ ^^); 時間的にも空間的にもこんなにも接近し 隣り合う電車に乗り合わしている奇跡を想う / 思わない ? そう考えるととても他人とは思えない二人 / オイオイ 今二人ここにいる不思議を想う / 本当 でも彼女は私を過去から知らず 現在も知らず未来永劫知る事もない / たぶん 昨日も知らないし明日も知らない もちろん明後日も知らない これからも交わらない平行線上に生きている / 確信 彼女にぶら下がる係累が遠く進行方向に続く線路に点々と立って並んでいるのが見える / 気がする 僕にぶら下がる係累が点々と僕に続く線路に並んでいるのが見える  二つの違う流れは何処かの先で交わるのだろうか / 全然 だから隣り合う異世界はひっそりとあって 確かに僕たちは隣り合って生きている / 不思議 僕たちはこんなに接近した時間的空間的状況にありながら 全く違う次元に生きているのだ 例えば彼女をC子さんとしよう 彼女はこれから恋しいB君に会いに行く でもB君は偶然にもこちら側の地下鉄に乗ってしまい 二人はすれ違って行く運命にある / 違うでしょ 今僕がホームを飛び渡って行き 向の電車に乗り込んだらどうしよう 果たして運命は交差するのか? 二人にぶら下がる係累の流れが交差し絡み合って繋がるのか? / まさか ヂィリリリりと発車のベルが鳴る 突然彼女がこちらを向いて手を振った エーって顔をすると突然扉を出て階段を駆け上がる / まさか 来るのか こっちへ来るのか? 大急ぎで階段を駆け下りてくる彼女が見えた / まさか でもプッシュウという音を立ててこちらの電車の扉が閉まる あれ あれあれ 三文映画の場面のように扉を隔ててふたりの状況か? / まさか 彼女は友人の女性グループと手を合わせ挨拶をしていた それは2番線のホーム上のことであるが電車は発車するのだ お久しぶりなんだろう / と思う 実は最初から視野に見えていた / 期待した? だから隣り合う異世界はひっそりとあって 確かに僕たちは隣り合って生きている 僕たちはこんなに接近した時間的空間的状況にありながら 全く違う次元に生きているのだ / 本当に不思議 『狸囃子 / 夏休みの想い出』… 本当にあった不思議な話。 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=163014 ---------------------------- [自由詩]洛陽は落陽の果てにあって/石川敬大[2011年8月7日11時29分]  日本海にしずむ  落陽は  おおきくて美しい  と、ラジオでだれかが言った       *  かつて  五島灘にしずむ  落陽を   ―― オレンジ色のおおきな      落陽だった  しずむ  しずんでゆく  落陽  を  むちゅうで  シャッターを押しつづけていたことがある  むちゅうとは  われをわすれること  われをわすれて対象に没入すること  なんというしあわせな時間だったのだろう  われを、わすれ、られて       *  身体を  いまよりさらに傾ける  ちょうど馬をぜんりょくで駆るときみたいに  クルマをはしらせる  日常がすこしだけかわる  クルマは  ぼくの意識体である   ―― そうやって      ぼくは      生きてきたのだとおもう       *  傾いて  傾けて  ぜんりょくで  羽根が  ひらくしゅんかんが、ぼくにも  くるのだろうか  あのテントウムシみたいに ---------------------------- [自由詩]ヤドリギのひと/恋月 ぴの[2011年8月8日18時34分] 何かの工場でも移転したのか 住宅街の真ん中にあられた大きな空き地 その空き地を取り囲むようにはためく斎場反対の白抜き文字 いつまで運動は繰りひろげられていくのだろう はちまちをした町会の面々 遅かれ早かれ斎場が必要となる歳になっているはずで よそ者だから許せないってこともある ※ Tomodachiであったとしても 用が済めば早々にお引き取り願いたい 感謝をこめた挨拶はやっかい払いってこともある 家族ができて 生活環境が変わってくれば 次第次第と都合の悪いこと煩わしさはひとしおで もっともお金が総てってこともありそうな ※ ときには実の母でさえ鬱陶しくて どらえもんのポケット ひとの本音かも知れない ※ わたしの思いを知ってか知らずか いっこうに責任を取ろうとしないあなた どこまでが本当なのか どこからが嘘なのか 悔しさに達するでもなく萎えたペニスをきつく掴む ※ その空き地の近くには親水公園がある 釣りもできるようになっていて 近くのお年寄りだろうか日がな釣糸を垂れている 白鳥の脚に仕掛けが絡まないだろうかとか そんな心配など飲み込むかのように黒い雲湧き立ち パラパラと大粒の雨降りだした ---------------------------- [自由詩]夏と海と雪駄/真山義一郎[2011年8月8日21時21分] 夏 あぢ なんか、快晴ではない 曇っていて 空気がじめっていて あぢ あぢい 君と別れるとさ 俺はもう 切なくて 切なくて なんか、夏祭りらしいんだけども 俺、見学も参加もしない ただ、 波止場の 海の ぎりっぎりのところに腰かけて 海 じゃなくて 自分の履いてる 雪駄眺めてる ああ 男はいつも 女の子に教えられてばっか 俺の駄目さ加減が 君のせいで 浮き彫りになっちまう おっぱい? おしり? ああ、そりゃいいよ いいもんだよ 白くてさ すべすべしててさ だけど だからこそ やりきれないんだよね 海が 岸壁にゆるく ちゃぽん ちゃぽん ---------------------------- [自由詩]履歴 ー野良猫3・5ー/……とある蛙[2011年8月9日11時43分] 前の街で 俺は淫売宿のいかがわしい玄関口で 夕立に打たれて濡れながら歪んだ 恐ろしいほどの雷は 地上の何物かを鷲掴みにしようと 空から腕を突っ込むが 本当に一握りの無辜の生命を食い物にしただけで 暗くて分厚い雲の間を 後悔しながら唸っている 夕暮れの飛礫は 稲穂をすべての基準とする この国のかつての住人には 有り難みのある贈与でしかない。 水はすべてを作り平らげる。 水は全てを恵み奪い去る。 俺は泣きながら、黄金の夢を見たが、 一向に夢を飲み干せずにいて 夏は朝四時から体中の汗で もがきながら目覚め、 刺すような朝陽を窓から投げ入れる 夏の朝陽を呪いながら、 安宿の金も支払わずに 何時請求が来るかとビクビクしながら、 朝食の干涸らびたパン一切れを囓り 白湯でさえない匂いのするスープを啜る。 外では漁を終えた漁師たちが 水揚げ作業を威勢良く行っているが、 相変わらず俺は声をかけられずにいる ちゃっかりあの猫は 漁師の一人に尻尾の根元を擦り寄せ 鰯を数匹せしめている。 俺は自分の食い扶持すら自分で稼がず 自尊心だけで、居住まいを正すこともなく ペテン師のように負債を増やしている ひっそりと、 漁師たちの笑顔の何と豪華なことか 陰惨な俺の心の裏側を見たら 彼らはきっと唾を吐きかけるだろう。 俺はそんな光景を見ながらでも まだ理屈をこねて誰も振り向きもしない 美 とやらの講釈をしながら 豪華な食事にありつこうとする。   この街に必要なのは寄生虫ではなく   確かな博打うちの存在だけだ 酒を飲もう 杯を上げよう 乾杯しよう おお、この偉大な日常に 不必要なペテン師の描く美か 北から迫る不気味な水の塊の晒される前に 少しの間、離れておくれ黒猫よ。 ペテン師の詭弁で詩が書けるものなら 俺は天空の留置施設で 何の弁護もなく 何日でも勾留されよう 違法であろうと違憲であろうと この地上に生きるに必要な術すべは一切持っていない俺は 何日でも勾留されよう そして、地上において持てる全ての詭弁で 詩を一篇書き上げるのだ。 ---------------------------- [自由詩]まだ愛する者の声/徘徊メガネ[2011年8月9日16時27分] 一層の静寂 見詰め合いの中 答えを出すのは何時も君 本当の終わりを呼ぶ声は まだ愛する者の声   ---------------------------- [自由詩]夜を着る/たちばなまこと[2011年8月9日21時15分] 背中が痛いよ 見上げればお月様 おなかが重いよ だから 筋肉を伸ばしたり縮めたりするよ 今夜も 夜を着て 招けば水が湧きいずる 鏡に立木や鷲をうつしながら わずかに震える芯を見る 私はこうしてしなやかさを求め 何になればよいのだろう かどわかされるこころ 腰のまわりがしみるような気配 床に背骨のアーチ 天を透かし空を見て 星が降るのを待つ 空想の肢体をなぞる 刹那先を握られたまま 冷房の風が背中を走る うなじの汗を甲でぬぐって 波に耐えて 発するみじかい溜め息 招いた水がにじんで やがてさらさらと流れる 夢中でいくつも 筋肉を伸ばしたり縮めたりして 肌に張り付いたチェーン ペンダントトップが後ろへまわる はだかに夜を着て しかばねを真似ながら今夜も 綺麗になりたいと 三度、鳴く ---------------------------- [自由詩]雨/佐々木青[2011年8月17日22時01分] ふりそそぐ ふりそそぐ あなたはわたしを呼ぶ ふりそそぐ ふりそそぐ あなたがわたしを呼ぶ そのとぎれまに 雨は 夜ふけに おとずれた ねむりをもとめるわたしの耳に 雨は そっとふれて ふりそそぐ 雨は たえまなく リズムをきざみ おんがくをかなでる しずかに わたしをつつむ 真夜中は うるさい 世界中がねむっていても わたしは 目覚めてるから とっても うるさい でも 雨がやってきた 雨はすべて 雨はわたしをつつんでくれる しずかなおんがく しずかな夜 あなたはわたしを呼ぶ ふっと おんがくがやむ そのとぎれまに わたしはねむりに近づいていく ふりそそぐ ふりそそぐ それでも雨は そのとぎれまに ふりそそぐ わたしのねむりをたすけるように そうして わたしは しずんでいく ふかい夜のなかに ふりそそぐ 雨のさなかに こうふくな笑顔をうかべて 夜をねむる ふりそそぐ ふりそそぐ あなたはわたしを呼ぶ ふりそそぐ ふりそそぐ あなたがわたしを呼ぶ そのとぎれまに ---------------------------- [自由詩]つたの洋館/はるな[2011年8月17日23時28分] ティッシュペーパーに百円ショップのサインペンで絵を書いていたよね。いちばん毒々しい色合いになるからって。僕は意味がわからなかったけど、なんとなくかなしい感じにえがかれるティッシュペーパー嫌いじゃなかった。好きだった。 目を閉じてうしろむきに歩いたりさ。ちょっとずつ過去に進むとか言いながら。地球が逆立ちして粟立っていた。僕は意味がわからなかったけど、でもちょっと後ろめたいみたいなぞくっとする心地なら感じてた。 そのときにはそうだってわからなかったけど、でも確かにそこにそれはあったんだ。 「つたの洋館」を覚えている? このまえたまたま通りかかったら、それはそのままそこにあったよ。暑苦しそうなつたを全身にからませたまま。駐車場になったり、でっかいマンションが立ち並んだりはしていなかった。せみの抜け殻をふたつ見つけた。 でもその先のあんぱんの店はシャッターが下りていた。その先にあんぱんの店、があるってことを、通りかかるまですっかり忘れていたんだけど。そもそもなんでそこを僕たちは「あんぱんの店」と呼ぶようになったんだろう?とりあえず、君ってこしあんが嫌いだった。つぶあんなら大好物のくせに。僕は意味がわからなかったけど、なるべくこしあんを避けて生きていたような気がする。 そのときにはそうだってわからなかったけど・・・・・・・ 今ならいくつかわかる気もするんだ。 でも今になってからわかったからといってそれが理解するってことじゃないってことも、今なら。 とつぜん思い出すんだ。 僕は、だって、きのう恋人と赤福を食べたし。 でもとつぜん思い出すんだ。 忘れるのには、あんなに時間がかかったのに。 そのときにはわからなかったけど、僕たちはそこに二人でいたんだ。指輪を交換したりとか、訪ねた土地の数とか、そういうものじゃなくって、いっそ、二人で過ごした時間の長さだって関係なくって、ただ僕たちはそこにいたんだ。それだけがこんなに意味のあることなんて、そのときにはわからなかったけど。 この世界に忘れ物はなかったの? 僕は、もう届けてあげられないけど。 靴が好きだったろ?足は右足と左足、それだけしかないのに部屋がひとつ埋まるくらい靴ばかり持っていてさ。はだしでどこへでも行けるくさにさ。 髪は伸びた?長い髪にあこがれるって言いながら、いつも、すぐ、自分で切ってしまうから、寒々しいほど短い髪で。 それからぬるいシャワーも好きだったね。水みたいにぬるいシャワー。湯船に浸かるのはきらいなのに、贅沢なくらい勢いよく蛇口をひねって、何分でもシャワーに打たれていた。 僕にはわからなかったけど、でも、知っているつもりだったんだ。何を?何かを。 そのときにはそうだってわからなかったけど、君も、あのときに君のすべてを知っているわけじゃなかったんだ。 それが、そんなに、大切なことだって、わかるわけなかったんだ。 だから絶望することはなかったのに。 導かれるように、物事は、大事になっていくのに。 でもそれだって、いまになってやっと、僕はわかったんだ。 そのときにはまさかそれがそれだなんて、予想だにしなかったんだから。 ---------------------------- [自由詩]月に咲く花/橘あまね[2011年8月18日0時34分] 秋の予感がする夜に 金色の蛾は 星をなぞってとぶ さみしげにゆれる 夏草の穂に沿って 古い時間がとむらわれる 月に咲く花 ただ一輪の歌 真空を呼吸して たましいたちを導く 終わりゆく夜に なぞられる記憶と 新しい予感とを 重ねて ---------------------------- [自由詩]秋/花キリン[2011年8月18日6時23分]      ナイフとフォークで 白い雲を少し切り刻むと 青い空がするりと落ちてきた 傍らに小奇麗な色で衣替えした 収穫の時間を置くと 秋の形が出来上がった 味覚を一つずつ競うように 採りたての果物の香りが並べられ 長いストローは景色の外へと伸びていく 熟れたものの多くは 土に帰る準備を急いでいるから ふと寂しいと感じたりする 横たわるスペースに 読書などを持ち込んで ページの数枚を思考の壁に貼り付けて 集落を置いてみたりする 寂しいと感じる理由の先には 季節の遷移があるのかも知れない まもなく色づくものは どんな味を隠し持っているのか 風などが吹いてきて ひんやりと孤独を演じ始める 秋の形とは変容の中で 少しずつ研ぎ澄まされていくものなのだろう ---------------------------- [自由詩]夏空・夏服・夏休み/うずら豆[2011年8月18日15時20分] 陽射しが肌を焦がしていく 軽い痛みと浮き上がる眩暈 焼け付いた肌に 沢山の汗が寄り添う 湧き上がる入道雲 蝉の声を打ち消す夕立 それでも明日には また仲良く鳴くのだろう 自転車で駆け抜ける 熱帯夜の街は眠らずに 包み込まれた身体は 涙の存在すら忘れさせる 月は水蒸気で煙り 道を見失った僕を 更なる迷宮に誘う それが快楽かのように 明日もやって来る夏空 どこか優しくて 孤独いっぱいの僕でさえ ふと君が傍にいる気がした ---------------------------- [自由詩]アンハッピー/榊 慧[2012年1月28日20時22分] それは それは それは それは それは 「それは。」 ヘスピリジン 誘導体 「C.」 単身 町はつぶれ てく。 町 とは 人が住んでいる所で それがつぶれ てくという のは人が 「町」 いなくなったら町じゃあない。 町がつぶれて食う 人 を 食う 水を飲む 人を食う 菜を植え 花は無い 実 実 実。 「安心。」 「話」 「は」 「ない」 滲みる水を持っている 「痛い」水を 持っている 落ちました。 曲がった腰を はがして 歩いて 井戸 を 井戸を探す。 町 は不滅 井戸はない。 ---------------------------- [自由詩]K氏の戦場にて/石川敬大[2012年2月5日12時31分]   猛々しい   雲の峰々をぬってながれるその川に見覚えがあった   なぜか   その子に見覚えがあった   林の奥の僻地の村へは行ったことないのに   そのおさない者の笑顔に   逢ったはずないのに   白い三角錐のヒマヤラがみえる   林のなかで   かのじょを誘って   これから   ぼくら   ジキジキするんだ    ――そう、楽しそうに   ひとなつっこい若者は   二度と会うことのない笑顔でK氏に言ったのだ        *   まだ地雷がのこる   ところどころぬかるんだ道の   犬と遊ぶ   子どもたちにまじって   若者の妹である女の子には腕がなかった   腕のない指先で   みらいの   なにかを   つかもうとしていた笑顔で   猛々しい村で   K氏には   そのことだけははっきりわかった ---------------------------- [自由詩]風の棺/そらの珊瑚[2012年2月6日9時41分] 私が こうして 文字を綴るのは この 鉛筆の芯がなくなるまでのこと あれ もう芯がないや、と 気づいてしまうその時を 想像すると やはり切なくなくなるけれど きっとその朝は 晴れている 雲ひとつなく すばらしく 青く、青く 晴れていることだろうと思います 書ききれなかった 物語は 風の棺に入れるので 世界の涯にでも とばしてください ---------------------------- [自由詩]停留所/小川 葉[2012年6月5日23時32分] バスが来たと思ったら ゴミ収集車だった 待っていたゴミを ひとつ残らず乗せていく 収集されずに残されたわたし ふたたびバスを待ってると 停車せずに走り去っていく ゴミ収集車が来たと思ったら バスだったのに ---------------------------- (ファイルの終わり)