有紗のおすすめリスト 2005年9月3日4時31分から2005年12月5日20時50分まで ---------------------------- [自由詩]みのりごと/千波 一也[2005年9月3日4時31分] まなこ に にちりん もろて に こがらし つち の かんむり しろ こだち  かぐわし みつ むし たわわ の やま つき     かぜ の ふところ にじ あやめ てん しゃらら  まどろむ うしお  くも の いと うたげ かがり び まう おうぎ きみ やむ なかれ  あたら みち きみ やむ なかれ み を つくし なぎ は とこよ に はた さらさ なぎ は とこよ に こがね の ほ ---------------------------- [自由詩]*一歩 二歩 散歩*/かおる[2005年9月9日10時46分] 夕立の後にひょっこり現れたお日様が でこぼこの稜線のきわで立ち去り難く 早くおうちにかえらなくちゃ 暗闇が世界を飲み込む前に いいえ、大丈夫と 夜の女王がマントを翻す ゆっくりおうちにお帰り 秋の虫のオーケストラが哀愁のメロディをかなで ほら、寂しくなんかないでしょう リリリっ りりりっと共振する響きに背中を押され 喜びの詩にひっそり蒼い泪が 絶望の縁にちっちゃな花が一輪 想いのカプセルが靄のように びっしりと空気中に漂っている 命の記憶で満々な雨上がりの夜道 ---------------------------- [自由詩]浅き夢見し/クリ[2005年9月10日1時13分] 戯れに 月夜ならばや 人目盗みて 散り逝くまえの 星煙るころ 逢瀬を重ねん 愛も添へ たわむれに つきよならはや ひとめぬすみて ちりゆくまえの ほしけふるころ おうせをかさねん あいもそへ                         Kuri, Kipple : 2005.09.10 「あ〜ん」の46文字を一度ずつ使っています。いわゆるいろは歌です ---------------------------- [自由詩]地下水脈/千波 一也[2005年9月10日14時13分] ごらん あれは 眠りの間際の窓辺たち ごらん あれは 烏賊を釣る船の漁り火 人々の暮らしは在り続けていてくれる 汗をにじませながら 涙をうるませながら 人々の暮らしは在り続けていてくれる 夜景に息づく光の粒には宝石のかがやき やさしい血潮と たしかな血潮の あたたかな気配の その向こうに 光を守る両手がみえる 暮らしは続いているのだ ボロボロの生地になったとしても 磨くことを 休みはしないのだ 彼方からは ゆっくりと汐の香が 波間の 無限を 教えてくれている 山頂からのぞむものは由緒正しき地下水脈 一つ一つの軒先に 一つ一つの道端に 流れをやまぬ水が灯っているのだ 枯渇、などと 軽々しく口に出してはいけないね 「潤いをありがとう」 視界の片隅で ロープウェイが往復を繰り返す この井戸は たくさんの乾きを 癒し続けてゆくのだろう 人々の暮らしの在る限り 人々の暮らしの 在る 限り ---------------------------- [自由詩]秋桜忌/落合朱美[2005年9月10日15時09分] あの子は逝ってしまったのよ 夏の名残の陽射しが注ぐ朝の庭で 何度か苦しそうに喘いで だけどそのうち眠るように 少しづつ少しづつ 呼吸が弱くなって 愛するみんなが見守る中で 頑張ったけど頑張ったけど とうとう力尽きて それは静かな最期だった おとなしくてわがままも言わず 控えめなあの子らしい 静かな静かな最期だった 必死で呼びかけた私たちは 為す術もなくて あの子の桃色の舌が 真っ白に変わり果てるのを ただ見ているしかなかった あの子は逝ってしまったのよ こすもすの花が咲き始めた朝の庭で ---------------------------- [自由詩]フルムーン・フルボディ/恋月 ぴの[2005年9月10日19時24分] 満月とは中秋の名月 ゆらゆら揺れる水面にて 時と戯れる 満月とは君の面影 苦しい時も笑顔を絶やさず 額の汗をそっと拭う 僕は忘れたりしないよ 君の優しさを 君はひたむきに生きてきた そして、これからも 慌ただしい日々の暮らしの中で 小さな幸せを指先で確かめながら 生きてゆくんだよね 時には、ひとりワイングラスと戯れ センチな想いに浸ってみる それも良いかな 寝静まった夜更けの台所 チリ産の赤ワインと美味しいチーズ そんな君に 秋の虫達は「頑張れ」とエールを送り 確かめあう絆の深さに フルボディの芳醇な赤ワイン 心の底のわだかまりを ゆっくりとアルコールで溶かし 満月の夜は更けていく ---------------------------- [自由詩]月夜のピエロ/服部 剛[2005年9月10日21時40分] やがてテントを夢色に染める オルゴールの音(ね)は消えゆき 客席に響く拍手の渦(うず)におじぎするピエロ 幕が下りるとくるりと背を向け 舞台袖を降りて入った 楽屋の鏡の前に座り 白塗りの化粧を落とす ピエロの頬に滲(にじ)む汗にまじった 一粒の青い涙を誰も知らない 夜になるとテントに集う 日常に退屈を覚えた寂しい客達 七色の大きいボールの上を リズミカルな足どりで歩いては すべって転んでしりもちをつくピエロに 今夜も腹を抱えて大笑い 楽屋で化粧を落とす時 ピエロの耳はすでに 数十分前の客席にどよめいていた笑い声を 遠い夢のテントの中に聞いている 膝(ひざ)の破れかけたジーンズと ほころびたTシャツに着替えて ふらりと立ち寄った月夜の公園 寄り添うように立つ明かりの下 独(ひと)りベンチに腰掛けるピエロ  数時間前客席に肩を並べていた 無数の笑顔の面影を 月の光の降りそそぐ両手の器(うつわ)に浮かべている やがて誰の手にも触れ得ぬピエロの胸の空洞に 秋の静かな風は吹き抜ける 寂しさに震える両手に掴(つか)み得ぬ 幸せを 何処かに 運んでゆくように 月夜の風は吹き抜ける  ---------------------------- [自由詩]少しだけ歩き疲れたら/千波 一也[2005年9月11日15時56分] ベンチに腰を下ろしたら まるで恋人みたいな気分になって 不思議 人の通りの薄い時刻 けれども人がいない訳ではなくて 噴水を挟んだ向こうのベンチには しっかりと 恋人たちが 腰を下ろして いるのだし ついでに言うなら お隣にも しっかりと、ね ぼくたちはキスをするし どこに どんなホクロが あるのか さえも 知っているのだけど なんだろうね 恋人っていう想いをあらためて手にすると くすぐったい心地が するね 言葉にはいのちが宿るという話 あれは そんなに疑わしいものではないかも 知れない 風向きひとつで 噴水の飛沫はこちらへ来るから きみは 少し冷えたと言う ぼくは 少しだけ素直に その手を温めてあげたりした もともと暑がりのぼくだから そんなときは 丁度いいな、って 思うんだ 思うだけで あんまり伝えないのが ぼくの悪いところ なのかも知れないけれど そんなふうに思ったりもするんだ 風向きひとつで 噴水の飛沫は あちら こちら へ でも、 まんざらでもない様子だね きみも 優しい顔をしていることだし もうしばらく ここに 腰を下ろして いようかな ね。 ---------------------------- [自由詩]そのような目で見ないでください/千波 一也[2005年9月11日19時41分] ライオンさんのやる気が ゼロでしたので わたしは舌打ちをしました タイガーさまも同様でした 残念でした 同じくネコ科のクロヒョウくんは 動いていました しかしながら その目は とても虚ろでしたし 檻の中を 行ったり来たりしていただけです わたしは憐れみを感じました 反面、 アザラシたちは機敏でした あなたたちには 寧ろ ダラケていて欲しかったのが 本音です その、 はち切れそうな太鼓腹を ペシペシと 叩いていて欲しかったのです でも、 スイスイと泳ぎまわる御姿に 不覚ながらも 魅入ってしまいました 少しくらい 顔だけ出して浮いて下さっても宜しかったのに ところで、 ヤギとヒツジの 区別がつきません、相変わらず ただ、 両者とも 日陰を占領する気質をお持ちであることは知りました 憩いの時間を こよなく愛しておられるのですね 近づくわたしを見つめた その 細い目が 少し怖かったです エゾシカについては 秋にもなれば 国道沿いにて会えるでしょうから 素通りいたしました 暑さとの闘いもあったのです それでもやはり、 親しき仲にも礼儀あり ですよね 今更ですが お詫び申し上げます 直射日光の冴えわたる 真夏の動物園は 人間に不向きな場所だと思いました なぜなら わたしの願いが叶わないからです 見たいように 見たいのに わたしが見たものは全て わたしだったような気がするのです わたしを そのような目で見ないでください 直射日光の冴えわたる 真夏の動物園には 匂いが溢れています わたしを そのような目で見ないでください と 獣の匂いが溢れています ---------------------------- [自由詩]火の鳥/千波 一也[2005年9月12日2時49分] 幾千幾万の人波は終わりを告げない すれ違う一つ一つの顔を 忘れる代わりに 白の背中が 鮮烈に映える 本当は 黒であり 青であり  赤であるかも知れないが 白で良い すべて白で良い わたしは 背中を確かに覚える 燃え尽きた色だね、と 正面の活火山は笑うだろうか いま、火薬という名の運命が夏の夜空を駈けのぼる 四方を囲む山々は その足音を跳ね返し 散りゆく音を一つに束ねて 轟音を織り 地へ注ぐ そして歓喜は呼応する 密閉された盛夏の地上で 拍手と 舞と 万歳と 宵闇の底で活火山は ちらり と 横顔を見せた 一つも動かず 然れど黙らず 不意にわたしは 巨大な棺のなかに在ることを自覚した いま、火種は放られたのだ あまたの刹那は 何処へと還るのだろう 輪廻は優しき永劫かも知れない あまたの刹那は 何処へと還るのだろう 幾千幾万の人波は終わりを告げない 潤んだ瞳を 次から次へ 空へと向けて 遠く遙かへ 駈けのぼってゆく 翼をもたない その 白の背中 で ---------------------------- [自由詩]「 うんうんごっこ。 」/PULL.[2005年9月12日6時26分] うんちくんたちは、 考える。 やわやわうんちは、 柔軟に。 かたかたうんちは、 堅実に。 からからうんちは、 狡猾に。 ふみふみうんちは、 卑屈に。 うんうんこっこ。 うんうんこっこ。 脳うんち。 とぐろって、 うずまいて、 うんちくんたち、 うんと考えた。 にんげんって、 なんなんだろう?。 どうして、 なかよくできないの?。 うんうんこっこ。 うんうんこっこ。 いくら考えても、 うーんこ考えても、 うんちくんたちには、 わかりません。 だから、 あしたもう一度、 考えることにしました。 あしたのうんちは、 生まれたて。 きっと、 ほかほか考える。 うんちくんたちは、 諦めない。 うんちくんたちは、 流されない。 うんうんこっこ。 うんうんこっこ。 うんうんごっこは、 はじまったばかりです。 ---------------------------- [自由詩]骨/石川和広[2005年9月12日19時04分] 戦争ということばは ことばでしかないような そんなおじいちゃんの傷跡は 僕が 大学をでるころ 白と灰のまじった骨になって それをみたぼくは その前に においがきたのだ 骨が炎で焼かれたにおい あのとき火葬場の裏山をみた もんたーじゅな風景 黒くしゃべらない僕たち 昨日選挙だった 誰もえらべない 議会制民主主義のこわさは 大学で学んだまま 本当だったんだな 静かだったおじいちゃんと 死ぬ前 夜の電車で 向かい合って おじいちゃんは 自分にいい聞かすように 言った 云うことはいわななと 云うこといえてるか? という前に なんか喉がひっかかってしようがない ---------------------------- [自由詩]やさしい雨/千波 一也[2005年9月13日0時11分] 肩が うっすらと重みを帯びて 雨だ と 気がつきました 小雨と呼ぶのも気が引けるほど 遠慮がちな雫が うっすらと もちろん 冷たくはなくて 寒くもなくて そのかわり少しだけ 寂しくなりました 車のライトには たくさんの 夏の虫が 雨に濡れていました 二度と羽ばたいてはゆかぬ姿で ただ 静かに 濡れていました 思い返せば見事に続いていた、晴天 熟した果実の 重さに似て 前髪の先から ポツリ、と 結露 どこかで たしかな文字が ゆっくりと滲んでゆく気配 きっと とても近いところで とても 近い ところ で 車内の窓が曇ってゆくので 外の景色は少し 遠くなりました そう まるで 記憶のかたちのような 拭っても 拭っても 窓は曇ってゆくけれど 呼吸は 止められません 雨は相変わらず囁き続けていました うっすらと うっすら と ---------------------------- [自由詩]振り返るとき/tonpekep[2005年9月13日18時41分] 風が吹いておりました 風が吹いている日に飲む野菜ジュースは哲学の香りがするのです そんな日は詩を書きたくはないのです 空があまりに無知なので わたしの青春としての位置づけは もう随分と前に光の中に埋葬されましたけど 残像はときどきぼんやり道を歩いていたりするのです そんなときわたしははっとして声をかけたりするのです 「きみはいつの青春ですか」 「いえ、わたしは随分と古い青春です」 「それではわたしはきみを失ってもいいわけですね」 「いえ、滅相もありません!わたしは随分と楽しかったりするのですよ!」 声をかけると振り返る雲の群 青春には順序があって それは正しい配列に並んでいるのです 遠くで光ったりするそれは青春だったりするのです 何処かにゆっくりとした時間の落とし穴 ときどきそこに落ちたりする それが青春 叫びたくなる青春だったりするのは間違いではありません ---------------------------- [自由詩]夜空の幻灯機/たりぽん(大理 奔)[2005年9月13日22時43分] 微かな水滴が 雨の存在を地上に示す 磁力線に沿わず自由な思想で 舞い落ちる雨粒は 落下する意思そのもの 季節の移りを告げてまわる風が 鈍色の雲を次の季節に追いやり 残り火がわずかな時間 雷を深紅に焦がして今日が死ぬ 夜が明日にむかって 星時計をまわし 夏を惜しむ名残の雲が もう少しもう少しと それを真っ黒く覆い隠すので 僕は、幼い頃に盗んで 隠してあった 星の幻灯機を 高原の聖火台に運び上げ 未練がましい雨雲たちの天井に かりそめの星座を投影して 季節の水時計を 運行する 自転と別の軸の自由な思想で 回転する銀河群は 時を移す意思そのもの 季節の移りを告げてまわる 星座がたくさんの想いを映し 雲のスクリーンの切れ目 遠い暗黒から 流星が微かに頬の水滴を照らす ---------------------------- [自由詩]銀河鉄道/千波 一也[2005年9月14日6時31分] 各駅停車の鉄道がはたらいている ひとの数だけ 想いの数だけ 星空のなかで 各駅停車の鉄道がはたらいている 天文学には詳しくない僕たちだけれど きれいだね しあわせだね このままでいたいね 語りは 一言でいいのだと思う 流れ星がひとつ、いった あれは 命の燃え尽きる光 そのさまを見届ける者は果たして幾つ在るのだろう 或いは 誰にも気付かれることなく ただ 確実に 満天の星空はカタリ、とまわる 涼しく夜風が吹いたなら それは 鉄道列車が走り出す合図 無限の時の端っこを 今ここに しっかりと繋ぎとめて つぎの光を 追いに 発つ その汽笛 往こう 透明な乗車券は 手のひらの温度に溶けやすくて 心もとないかも知れないけれど たやすくは見えないことが 僕たちの美しいさだめ 時刻表のなかには 蕾が溢れている 咲き誇る色合いは見えなくても 予感が香る 語りはまだまだ往ける ほら、微笑んで 満天の星空はカタリ、とまわる 瞬きをしよう ゆっくり カタリ と ---------------------------- [自由詩]九月のサンダル/千波 一也[2005年9月15日4時23分] 日常にくたびれた玄関先で 茶色のサンダルが ころり 九月の夜気がひんやりするのは 夏の温度を知っている証拠 おまえには随分と 汗を染み込ませてしまったね サンダルの茶色が 少し、濃い タバコが切れてしまったから ちょっとそこまで行くのだけど おまえも行くかい 濃いめの茶色は 無言の返事 出番はまだか、と サンダル ころり 靴下よ、さらばだ 土足厳禁の我が愛車 おまえは靴置きケースに移される 運転座席の足元が定位置 うん、 とっても落ち着く距離感だ 夏との別れも 夏との出会いも わかりやすい方法で 簡単に叶うものなのだね いざ、タバコを求めて発進 こころに優しい煙のにおいを いのいちばんに 嗅がせてあげよう 窓を開け放って ぷかり、とひとつ 星空のした 気持ちがいいもんだ ぷかり ぷかり ---------------------------- [自由詩]連環/千波 一也[2005年9月20日18時26分] 虹を渡すのは、雨の純真であるように 雨を放すのは、空の配慮であるように 空を廻すのは、星の熱情であるように やさしき担いごとは満ちています あなたを求めるわたしがいて わたしを迎えるあなたがいて やさしき担いごとは満ちています 映るすべてをこころに留めるべく 瞳はまあるく備わっているのです こころを持つすべてのものに 瞳はまあるく備わっているのです ---------------------------- [自由詩]未熟/千波 一也[2005年9月22日7時11分] わたしは みにくい獣だ  鋭利な刃物を知っている  (わたしの爪はいつも)  鋭利な言葉を知っている  (やわらかな皮膚だけを)  鋭利な視線を知っている  (傷つける) みようとするのか しないのか 違いは たったそれだけのこと わたしは みにくい獣だ  慣れたつもりの定規は掌に食い込んで  (やわらかな皮膚はいつも)  直線はみごとに白紙のうえに刻まれる  (やわらかな皮膚はいつも)  インクはこともなげに染み渡ってゆく わたしは 生きてゆかねばならない  ヒグマがサケを狩るように  (わたしの爪はいつも)  オジロワシがウサギを見つけるように  (やわらかな皮膚だけを)  クモがモンシロチョウを待つように  (傷つける)  わたしの皮膚もまた やわらかい    爪は在るのだ  どこか遠くか   あるいは とても近くか  爪は在るのだ わたしは 生きてゆかねばならない  殺す だとか 奪う だとか 犠牲 だとか  そのような言葉と関わらずに済む方法を  誰か教えてはくれないだろうか  耳を澄ます  手を地につけて這うことをせず  風に  自由と名を付けて  空には 希望と名を付けて  その  名を記した  その  手を  耳にあてて   じっと澄ます みようとするのか しないのか 違いは たったそれだけのこと わたしは みにくい獣だ  生きてゆかねばならない  (殺さねばならない のか)  生きてゆかねばならない  (奪わねばならない のか)  生きてゆかねばならない  (わたしは 犠牲になど             なりたくはない) 此処に立つ、ということは 多くを食してきた証 わたしの流した汗と涙には 幾つの いのちが あっただろう わたしの零した血潮には 幾つの いのりが あっただろう  誰か わたしの名を教えてはくれないだろうか  わたしが内包するものは  あまりにも多い  あまりにも みにくい  みにくい   のだ 月はいい  (この爪には触れない高さだ) 海はいい  (この爪には触れない深さだ) 真の獣はいい  (生きている)  (生きている)  (この爪では立ち向かえない)  (挑めない)  (生きて いる) 眼を閉じてみても  (脈動は続いてゆく) 耳を塞いでみても  (脈動は伝わってゆく) 口を噤んでみても  (脈動は次から次へと)    (わたしは 生きてゆかねばならない) いや、わたしは 生きてゆくのだ いのちであるから いのりであるから 半端なものは要らない すべてを賭するに値するすべてを求めて わたしは 生きてゆくのだ わたしは みにくい獣だ  (生きる糧を探している いつも)  (生きる術を求めている いつも) わたしは みにくい獣だ  (異臭をはなつ身だ)  (異形をさらす身だ) そして おそろしく 飢えている  (花にも蜜にも)  (光にも温度にも)  (やさしさならば尚のこと) わたしは みにくい獣だ 誰か歩み寄ってくれるだろうか たとえ ひとしく 獣であったとしても いや、 おそらくは ひとしく 獣であるだろうけれど 誰か歩み寄ってくれるだろうか わたしの望む、その 正面から ---------------------------- [自由詩]和らいだ風に宛てて/千波 一也[2005年9月26日21時13分] あの日 は もっと 懸命過ぎていた ような だから とっても よく覚えているわ 風を 気のせいかしら いつの間 に 気のせいかしら 和らいだここち ね どちらも好き よ あの日も 今も はざまにたゆたうのが 風なんだもの 私なんかのちから では 私を 選べるはずもないのよ ごきげんよう おわかりくださるかしら ごきげんよう また 立ち寄るわ ---------------------------- [自由詩]氷が笑えば水は俯く/千波 一也[2005年9月29日7時49分] 窓越しのアルデバラン 暖炉が背中でうたうなら ベテルギウスは指輪にかわる ポタージュの香り満ちる星座紀行は 甘くも、はかない やがて旅人は アンドロメダへの郷愁にかられてゆくだろう 雪原は手招きをするだろう 吐く息の白さは 束の間だけ美しい 水のいのちが凍れるさまだ、と 浅はかさを知るのは数分の後 ダイアモンドダストの煌めきは天使の誘い 有無を言わさず連れ去ろうとする 天使の誘い 砂時計をこころに留めておかなければ 水のいのちは 砕け散る それはそれは鮮やかに 砕け散る 毛糸の暖かさに包まれながら冷めてゆく夢を 一角獣座は 鋭く見つめることだろう 氷が笑えば水は俯く 手の温もりは 誰にも届かず消えてゆく 氷が笑えば水は俯く 北極星はいつも 旅人のために明るいのだが ---------------------------- [自由詩]恋の捨て方/恋月 ぴの[2005年10月4日6時28分] 君は寝た振りが得意 わかっていてもウッカリ騙され 今朝もゴミ捨ては僕の役目 君は大人だから 分をわきまえているよね 僕はと言えば歳はくっても 燃える恋と燃えない恋の分別さえ 未だに出来なくて 君に窘められてしまう お金は一向に貯まらないけど 恋は夜毎に溜まる ゴミ袋一杯の恋 あの娘の何気ない仕草に 通りすがりの見知らぬ女に 勿論、君の手料理にも恋するよ 胸一杯の恋 どうして人は恋をするのだろう 心に溜まりすぎた恋は鬱陶しくて 息苦しいからポイ捨てしよう でも取って置きの大切な恋は 君の知らない 君の気付かない 秘密の場所に隠したよ スーツ姿で両手に提げる 燃える恋と燃えない恋 ゴミ捨ては僕の役目 ---------------------------- [自由詩]砂嵐/千波 一也[2005年10月5日20時39分] 夥(おびただ)しく降り注ぐのは 湿り気のある眼球たち あまりにも優しい成分なので それらは 容易(たやす)く踏み潰せてしまうのだが 悲鳴に私は恐怖する オアシスはすぐ其処だ 通り過ぎて来ただけの街並みに似て その向こうには蜃気楼 潤いを求める私にとって 意味をなさない 蜃気楼 眼球がいま、肩で砕けた 耳を塞ぎ忘れた私は 断末魔を聞いてしまった 何度目に なるだろう 眼球の孕んでいた水分が肩に広がり始めている 太陽に見つかってはならない 乾くのだ 熱いのだ 潤いが奪われてゆくのだ 急がなくてはならない 私は走る 眼球たちの注ぎのなかをひた走る オアシスはすぐ其処だ けれど 私を迎えたものは 空から降り注ぐものたちの集落 水たまり、のようなもの 私は此処では潤えない 辺りに転がる亡骸(なきがら)も 他人事ではなくなってきた 注ぎをやまぬ優しい成分たちに 何かを言いかけて ジャリッと 私は 舌を噛んでしまった ---------------------------- [自由詩]改札口にて/千波 一也[2005年10月6日0時45分] 改札口にて お待ち申し上げております 行き先を 詮索したりはいたしません どうぞ ご安心を あなたがここを 通過してゆく事実のみ 確かめさせて頂きたいのです お顔を 覗き込んだりいたしません わかりますとも 靴音と  きれいな指と 揺れる髪 それだけで わかりますとも お顔は拝見いたしません この町が晴れ渡る日にはいつも わたしは此処におります 行き先は 存じ上げておりません 行き先の天候もまた 存じ上げておりません わたしはただの通過点でございます あなたも よくよく知っておいでのように 改札口にて お待ち申し上げております この町が晴れ渡る日にはいつも ---------------------------- [自由詩]わたしは 鏡のなか/千波 一也[2005年10月7日6時14分] わたしは 鏡のなかで待っている あなたを待っている あなたは なにも知らずに 平気で 素顔を のぞかせる わたしは みとれて 口ずさむ 月明かり が 素敵 朝陽のふところ も 広さがあって 良いかも知れない わたしは 鏡のなかで待っている やさしく うた に とらわれの 日々 ---------------------------- [自由詩]霜月/千波 一也[2005年11月15日3時10分] 星々の明るさが際立ちます 夜気がひんやりと 澄み渡るらしく 星々の明るさが際立ちます されど 星々はつねに燃えているのであって なんの労苦もなく輝くものなど 在りはしないのであって 寒さに震える季節なればこそ 灯りが目につくようになった そういうからくりでは ございませんか そら、 月を取り巻く薄雲が 煙に見えたりしませんか 道のしるべは 今いずこ あなたのおもむく理由をお尋ねします 道のしるべは 今いずこ あなたの帰り急ぐ理由をお尋ねします 夜通し鳴いていた虫のかげは  消え果てて 道のほとりには霜の白 或いは 灰の白さかも知れません 誰がたやすく それを 否められるでしょう 霜の白 灰の白 夜道に見上げる星々の明るさに 口を開けば 吐息も 白く 間もなく花が咲くでしょう その身を熱へと かえしゆく 真白き花が 咲くでしょう ---------------------------- [自由詩]天高く/千波 一也[2005年11月16日21時25分] 雲ひとつなく秋晴れの空 父の運転で越えていた峠も いまならば 自分の運転で越えられる アクセルの踏み加減でスピードを調節 ブレーキなんか踏まない でも 思いの外カーブは厳しいから 苦笑いで ブレーキを踏む 雲ひとつない秋晴れの空は 限りが無さそうで どこを見つめていれば良いのか 不安になってしまう いつか空に手が届く そう信じていた日々 伸ばした腕の指先は 雲に触れる そう信じていた日々 タバコの煙を逃がすために開けていた 窓の隙間から 冷たい風が入り始めたのは 午後三時 十月の夕刻は始まりが早い 西日の眩しさに 顔をしかめながら握るハンドルは 西行き まだまだ旅の途中 太陽の光を街灯が受け継ぐ頃に 天高く 星々は光を放つだろう 雲ひとつない秋晴れに 天高く 星々は命を燃やすだろう ---------------------------- [自由詩]壁画/千波 一也[2005年11月22日18時20分] 頬を追い越してゆく風と 手招きをするような まばゆい光 目指すべき方角は一つだと信じて疑わず 出口へと向かって 足を運んでいたつもりだった 不思議だね 振り返ることは敗北ではないのに 不思議だね 約束事のようにいつも 背中では 沈黙が守られていた 穏やかな温度でいつも 沈黙が守られていた 遙か前方でまばゆい光は そこに向かう視線を容易にすり抜けて 歩みの後方で やわらかに溶けてゆく そう、 優しく広く後方で 溢れている光の在ることを 誰もが容易に忘れてしまうのだ どこへと向かって 足を運んでいたのだったか 振り返る道の両脇にそびえる壁には 無造作に 絵図が浮かび上がる 胸に溢れる懐かしさは 記憶のなかに透けてゆく約束の 一つ一つに名前をつけて 少しずつその肩に 味方を増やしてゆくのだ はじまりはいつも 浮遊をしたがるから 意味を忘れるその前に 記しておこう 足を休ませながら 優しい名前を ---------------------------- [自由詩]冷たい雪の降る夜に/千波 一也[2005年11月25日17時43分] 冷たい雪の降る夜に わたしのからだは凍えてゆくから わたしのからだは 小さくなる わたしはわたしを抱き締める 冷たい雪の降る夜に わたしのことを わたしのほかに 包んでくれた誰かのことが懐かしい あたたかさには 種類など無いのかもしれない それほどまでに わたしは小さく わたしはよわく 仕方のない命であるのかもしれない 冷たい雪の降る夜に 凍りつくわけでもなく 果てゆくわけでもなく わたしのなかに 確かに宿るあたたかさを わたしは 見つける わたしをここに 成り立たせている かけがえのない守りを そっと 知る ---------------------------- [自由詩]ゴールド・ラッシュ/千波 一也[2005年12月5日20時50分] 僕のからだの内燃機関は なにを動力にして ここまで 走らせ続けてきたのだろう 西日はいつも眩しいね 僕の手が掘り出したいものの 手がかりを きっと 西日は知っている 得たものは数知れないけれど 失ったものこそ数知れない 僕は本当に 指折り数えられないんだ そんなときでさえ 僕のからだの内燃機関は 休むことをしない 汗が 汗だけが 感触を確かに 伝い落ちてゆくんだ 空をゆく生きものの名は 鳥だと聞いた 海をゆく生きものの名は 魚だと聞いた それならば 僕の名は どこに生きているのだろう そして 誰がそのことを語ってくれるのだろう 僕の疑問はどこまで許されて 僕の疑問はどこまで解決されてゆくの か ただ確かなことは 西日の眩しいことであって そんな日々を 僕は幾つも知っているということ それだけだ ---------------------------- (ファイルの終わり)