かなりやのたもつさんおすすめリスト 2003年12月3日16時16分から2005年7月7日8時42分まで ---------------------------- [自由詩]かげろう/たもつ[2003年12月3日16時16分] ゆらゆら揺らめく かげろうの下にある水に入りたくて 僕は走り出そうとする 遠くに行っちゃだめよ 手を引き寄せられた 夏の日のいつか 日傘を差した母を困らせるなんて したくはなかった ---------------------------- [自由詩]旅/たもつ[2003年12月5日15時42分] 古本屋の女主人は 若くて 美しくて 両の目の間が人より少し離れている 本をめくりながら チラリとその方を見たりすると 何故自分が生きているのか 時々わからなくなる ---------------------------- [自由詩]海/たもつ[2003年12月8日23時28分] 真っ白な画用紙の その真ん中に 僕は しま と書いた 画用紙の海で遭難した船乗りが 泳ぎ疲れないように ある日、画用紙の海で遭難した僕は 後悔することになる 君の名前を書いておけば良かった! ---------------------------- [自由詩]もち/たもつ[2003年12月11日14時57分] もちを食べていたら 中から ラケット二本と シャトルが一つでてきた 正月は羽子板だよね とか言いながら 僕らはいつまでも バトミントンをし続けた あの日 何回まで数えることが できたのだろう ただの退屈だ、と 誰にも 笑われることなく + もちを食べていたら 中から「もちの精」がでてきた 願いごとをいくつか かなえろ と言う 何故さ! つっこむ間もなく 「もちの精」は勝手に願いごとを言う とてもじゃないけどかなえられそうにもないし 期限があるわけでもないらしいので 放っておくことにする 友人に出した年賀状が一通 あて先不明で返送されてきた 元気でやってます 伝えたいのはそれだけだった + もちを食べていたら 自分がもちであることに気づいた さっきまで同じパックに入っていた仲間を ごめんよ、ごめんよ と言いながら涙を流して食べている もちがもちを食べるものだから ぐちゃぐちゃに くっついて ひっついて からみついて どこからどこまでが自分なのかわからなくなる そんな僕を君が食べている ごめんなさい、ごめんなさい って + もちも美味しいと感じるのは元旦くらいで 二日には白いご飯と味噌汁が恋しくなる 箸休めにここで一曲歌うことにする けれど、その歌を耳で聴くことはできないだろう だって 歌はいつも 心で聴くものだから + もちを食べる 中からは ラケットも シャトルも 「もちの精」も 出てくることはない ましてや 僕はもちではないし 君も僕を食べたりはしない そんな当たり前のことを幸せに感じるのは 一年のうちでも正月だけかもしれない と、当たり前に思う それから買っておいたラケットとシャトルで 君とバドミントンをする 数える必要はない 僕らが日々願うことなんて たかが知れてる ---------------------------- [自由詩]モー/たもつ[2003年12月16日7時06分] 胃が四つに分裂しています 健康診断の結果、そう言われた どういうことなのか理解できずにいる私に つまりは反芻するということです 医者はたたみかけるように言う 反芻とはウシがするあの反芻ですか? というより、あなたはウシになるのです ますます頭がこんがらがる 後天性牛化症候群という病気です 日本では年に一人だけ発病します くだけた感じで言うと おめでとうございます! あなたは日本全国一億二千六百万人の中からたった一人選ばれました! ってところでしょうか 人間に食べられてきたウシの呪いという説もありますが 詳しい原因は不明です 日本政府及び日本医師会は混乱を恐れ この病気についての公表は一切していません 心配はいりません 日本政府はあなたをウシとしてきちんと世話するし 家族の方々の生活も一生保障されます 事態が飲み込めてきた そういえば食べたなあ、ウシ ステーキ、焼肉、すき焼き、しゃぶしゃぶ、ハンバーグにビーフシチュー 銀座のフランス料理屋で食べたあの料理は何ていったっけ それにしても何で私なんだろう 人より多くウシを食べたというわけでもないのに 感謝の念が足りなかったのかもしれない ウシに対しても人に対しても やす子(妻) ひとみ(娘) お父さんはウシになるよ いろいろな想いが浮かんでは消える それで… まだまだ聞きたいことはたくさんあったけど すでに モー としか鳴かなかった ---------------------------- [自由詩]発車ベル/たもつ[2003年12月18日8時30分] ほの暗い駅 列車の中で一点を見つめている あなたの眼差しを見送る ”お気をつけて” その一言だけが伝えたかったのだけれど ベルが鳴り止んで動き出したのは 列車ではなく ホームだったのかもしれない ---------------------------- [自由詩]「あいうえお」(「五十一のデッサン」より)/たもつ[2003年12月24日10時14分] (あ) あ っという間もなく それはもう あ ではなかった 語られることのないおとぎ話は ただ さらさら さらさら と音めいていて 僕の両手はいつも 掴まえることが 下手くそだった (い) い は い であるために分離された 二本の線のことである だから い は いつまでも悲しい そう思っていた少女は ある日星になった それからこの世界では い を見て涙するものは いなくなった (う) うっすら ふりつもる それは うそ もしくは うそ っぽいもの あなたからの手紙 う は、いつものように うつくしく わんきょくして (え) 列車から降りると 駅の周りは一面 え の花でいっぱいだった 若い駅員が鉢植えの え の花に水をあげている あれはきっと 春と呼ばれる季節だったに ちがいない 君が僕のてのひらに え と、小さく書いたのも (お) お と目が合って そのクルリンとしたところの穴が お の目だと初めてしった とりあえず お っと 驚いて それから もう 夜だった ---------------------------- [自由詩]テーブルクロス/たもつ[2003年12月26日8時33分] コーヒーをいれました 二杯 一杯はわたしのために そしてもう一杯はあなたのために 並木のイチョウは黄色く色づき 風が吹くと何かの音をさせる季節 けれども窓は閉じられていて 見ることも聞くこともできませんでした 一口含み ああ、幸せだ というあなたの言葉の意味がわからなくて 視線をテーブルに落としました テーブルクロスの絵柄はカエルでした 彼らはオタマジャクシの時期を知りません 描かれたときから すでにカエルだったから どうしてこんなものを買ったんだろう って そんなことばかり考えているわたしに コーヒーのことは言ってほしくなかった ---------------------------- [自由詩]旅立つ/たもつ[2003年12月28日8時18分] 母さん、 ほら、春の風が吹いて そろそろ僕も 行こうかと思います 春の風は早足で駆け抜け いつも、僕は一人残されてしまうから 風のすべてが海の向こうに渡る前に そろそろ行こうかと ねえ、桜の花びらが落ちてきました 書きかけの日記帳に 一枚はさんで ---------------------------- [自由詩]ネクタイ/たもつ[2004年1月2日21時11分] 足のないネクタイは 人の首にぶらさがって移動する それも不便だろう 足をつけてあげると 嬉しそうに部屋をかけまわり始めた 帰ってきたら スキップの仕方を教えてやらねば 今日も足のついてないネクタイをして 出勤する ---------------------------- [自由詩]朝のこない団地/たもつ[2004年1月6日15時03分] 君が積木など買ってくるものだから 僕らは積木遊びをするしかなかった 家をつくって 壊し 城をつくって 壊し 他につくるものなど知らない僕らは やがて一つ一つを並べ 街をつくり始めた このあたりに企業の社宅 この区画が分譲住宅地 スーパー、ホームセンター、病院 街はずれには円柱形の給水塔 車が欲しいというので 近くのコンビニを三軒まわり ミニカーつきのお菓子を見つけて買った 建物に比べると赤いスポーツカーは妙に大きいけど それでも君は満足そうにメインストリートを走らせている 本当はね、車、白かったの 夜が明けるころ 君は生まれ育った団地の話をし始めた 時々、嬉しそうに 時々、涙声で 僕はただ眠たかった 本当はね、車、白かったのよ 遠くで積木を片付ける音が聞こえる 何で積木なんか買ってきたの? たずねたような気がする おそらく答えも聞いた + それからもう二度と 僕らが積木遊びをすることはなかった ---------------------------- [自由詩]ワイパーのある生活/たもつ[2004年1月15日8時39分] ワイパーを身体につけたんだよ ネジでさ、おへその穴に固定してね 勤続十五周年だもの いろいろな人が去っていったもの 自分へのせめてものご褒美だもの 憧れていたんだ、ワイパーのある生活に 誰かが忘れていった骨みたいのが カッチッカッチって 勤勉に規則正しく動くだろう 滑稽だよ、素敵だよ でも勘違いしちゃいけない 憧れていたのはワイパーのある生活で ワイパーそのものじゃないんだから たしかにワイパーをつけたところで 雨を防ぐことはできやしない 眼鏡だって雨にさらされるから 景色はすぐに滲んでしまう 交差点 信号が赤から青になって 色とりどりに傘の波が動き出して ぼやけた輪郭はつながって 自分だけ秒単位で遮断される それでも時々、雲ひとつない夜空を見上げていると ワイパーがプロペラみたいにブルンブルン回転し始めて あの星とあの星の間を飛んでいけるんじゃないかって スイッチをいれてみたりするんだよ ---------------------------- [自由詩]小詩集「なんでだろう」/たもつ[2004年1月24日7時40分] ○ところで皆さん! ところで皆さん! 口を開けてください! と、日記に書いた 書いたのは私一人 読むのも私一人 そこから先が続かずに 皆さんが口を開けて待っている ○後悔 友人が「お吸い物」をたのみ 私は「お吸わない物」をたのむ 冗談のつもりだったのに 「お吸わない物」はきちんと出てきた 友人が美味しそうに「お吸い物」を吸っているそばで 私は正しい「お吸わない方」を考えるばかり 後悔先に立たず 後の祭り 風が吹けば桶屋が儲かる 私は桶屋ではない ○こら ガラスびんの中には 小さな国があって 小さな人たちが歩いている のぞき込むと手を振るので 手を振りかえしたら びっくりした顔で 逃げていった ムッ いったい人のことを何だと思ってる ○夏の終わり 満員の通勤電車 誰かがひぐらしの鳴きまねをした カナカナカナ ああ、夏が終わるな、と思った 隣のおじさんが 夏が終わるな、と呟いた ○なんでだろう 一昨日から変なオブジェのようなものが 私につきまとって離れない それは なみなみの あみあみの ごろごろで どこか身体の具合が悪いせいかもしれない、と 病院に行っても医者は ああ、うん、ごにょごにょ、と言うばかりだ 会社では皆、私にオブジェがついている のが当たり前であるかのように あみあみを指で伸ばしたり ごろごろをもてあそんだりする それにしてもなんでだろう お茶をすすりながら 隣にいる小野田さんのオブジェを 指でぷにゅぷにゅしている ---------------------------- [自由詩]レモンの日/たもつ[2004年1月30日10時02分] 今朝、レモンを産んでしまった それは、色も形も匂いもレモンそのものだった もし産んだのが卵だったら対処のしようもあったろうに なんでレモンなんか産んでしまったんだろう レモンに耳をあてると微かに波の音が聞こえてくる どうやら中には海が入っているようだ さて、どうしたものか、ひとしきり悩んで とりあえず本屋に行くことにした 『海の入ったレモンの正しい育て方入門』 とか置いてあるだろうか あと、うき輪 ---------------------------- [自由詩]饒舌な三遊間/たもつ[2004年3月10日14時09分] ふと右を見ると三塁手が君だったので 僕はすっかり安心した うららかな春の日、デーゲームは淡々と続いている スタンド、ベンチ、フィールド いろいろなところからいろいろな声が飛び交っている やあ、久しぶり という一言から 僕らは話を始めた 今まで二人にあったことを ありったけの言葉を使って話した 痛烈な当たりが二人の間を抜けていく フライがポトリと落ちる 攻守が交代になり デーゲームが終わりナイターが始まる それでも定位置を動くことなく話し続けた 幾年かが過ぎ 球場は取り壊され駅ができたころになると ようやく五年くらい前の話にさしかかる 「今、おしゃべりをしている三遊間の前にいるから」 僕らは待ち合わせの目印になった いろいろな人がいろいろな格好で待ち合わせをしている 笑っている、怒っている、泣いている うららかな春の日は淡々とすぎていく 今までのことを話し終えた僕らは これからの話をすることにした ---------------------------- [自由詩]あら、困ったわ/たもつ[2004年3月26日21時48分] あら、困ったわ が口癖の君が困った様子なんて 今まで見たことがない あら、困ったわ なんて言いながらも トントントンッとまな板の上で大根を切ったり ザッピングをし続けた挙句の果てはみのもんたの話術に足をとめたり ダイエットよろしく柔軟体操をしたりするのだ 僕は今、本当に困っていて そのいきさつの全てを話し、 困っているんだよ と言っても あら、それは困ったわね というだけで 結婚式の引出物にもらった小鉢に盛られたピーナッツを ポリポリポリポリッ なんて食べている 僕は余計に困ってしまって 一人で海に行って困ることにしたのだけど でも、本当に君は困っていたようで 気が付くと隣に座り 海を見ながら困ったわと呟いている そうだね、二人で困っていても仕方ないから 何か美味しいものを食べに帰ろう なんて言うと あら困ったわ、何を作ろうかしら と言い出しそうなので 美味しいカレーが食べたいな と君の手を取る ああ、いいんだよジャガイモが無くても 遠回りをして買って帰ろう ---------------------------- [自由詩]童話(詩)/たもつ[2004年7月28日13時39分] 読みかけの詩集を逆さまにすると 文字の列たちは 不ぞろいのビルディングになりました そして 下のほうにあった余白は 広い空に しばらくその様子に見とれていましたが 何かが足りない気がしたので 4Bの鉛筆で大きな三日月を描きました 窓に明かりが灯り始め 人々の話し声や装置の動く音が溢れ出す その間にもどこかでまた言葉が生まれ 詩と呼ばれます 明かりのない窓の向こう 誰かが小さく咳をします ---------------------------- [自由詩]どこかに/たもつ[2004年8月4日8時59分] このままどこかに行ってしまおうか 帰りの車中でそんなことを言っていた二人は どこにも行けないことは知っていたけれど その言葉だけで十分満足だった 今、僕らは三人になって車も一回り大きくなった このままどこかに行ってしまおうか 冗談めかして言ったその言葉に どこにも行けないことを知っている君と まだ何も知らない娘が 同じ顔で笑っている ---------------------------- [自由詩]梅干/たもつ[2005年3月9日12時44分] 妻と二人で梅干を漬ける 台風が近づいている 空はまだ晴れているけれど 窓から入る風は生暖かく蒸し暑い 梅の実の良い匂いがする 水洗いした梅の実をタオルで一つ一つ拭き ヘタを楊枝でほじくるのが僕の役目だ 妻が塩梅を見ながら漬けていく うっかり額の汗を素手でぬぐってしまい 手を洗いに行く 塩分を控えめにしたために カビを生やして駄目にした年もあった 窓の外を見ると 日の当たる花壇では植物たちが光合成をしている 小さな虫が蜜を吸いにやってくる その間にも僕らは 何故か生きることに多忙なのだ ---------------------------- [自由詩]人さらい/たもつ[2005年3月30日22時21分] 人さらいは人をさらったことがない これからもさらう予定がない けれど人さらいは人さらい それは何の比喩でもなく 人さらいが人さらいであるということだ 何故人さらいは人さらいなのか 生まれたときには既に人さらいだった人さらいは 生まれながらにして真正の人さらい 誰が名付けたのか その名に何が期待されているのか 人さらいは知らない けれど人をさらったことがない人さらいは これからも人をさらわない 人さらいが歯をみがく 人さらいがスキャットで歌う 人さらいが西の空を見る それらはすべて人さらいという名前に何の関係もない行為である が主語はいつでも人さらいであるところの人さらい によって行われている ああ、人さらいの濁流が押し寄せてくる 人さらいは人さらいに溺れ 人さらいは人さらいの遠くを知る それでも気を取り直し 人さらい、春の街を走る 人さらい、転ぶ ---------------------------- [自由詩]4月4日の朝/たもつ[2005年4月2日17時59分] 日めくりカレンダーをめくって 紙飛行機にする 1年間で365機の飛行機が この部屋を飛ぶ 赤い3の字を模様にしたのが 白いテーブルに不時着する 他に行くところもなく 行くところがあるわたしは カバンをひとつもって ---------------------------- [自由詩]自転車にひょっとこ/たもつ[2005年5月12日8時39分] 自転車にひょっとこ 荷台ボロボロ 俺、激しくペダル 自転車にひょっとこ 走れ 俺号 うおーっ、うおーっと雄叫び おまえの背中が春に似ていて、俺 自転車にひょっとこ 泣けるねえ、泣けるよ 口笛は吸っても音が出ます、と シソーノーローのひょっとこ つまるところ俺のフットは ペダルの上 自転車にひょっとこ 湿布貼っとこ 自転車にひょっとこ 愛は突然かもしれねえが 突然は愛なんかじゃない って本当?ひょっとこ? おまえ本物じゃねえだろ 自転車にひょっとこ 時には歯切れの悪さも必要です 確かに必要で 自転車にひょっとこ した 自転車にひょっとこ 何だかウキウキしてきたぞー 目は血走ってるけどねー (鏡で見たらねー) 自転車にひょっと こ で、話の続きですが 俺、泣いてる、激しく夏の炎天下 右手にこん棒を持たずに 左手にパンタグラフを持たずに 気がつくと いつも何も無いじゃあないか 気がつくと 口がニュウって突き出してるじゃないか うおーっ、うおーっという雄叫びも 軽やかに俺の発語でした 自転車にひょっとこ あるものはある ないものはない そんなつまらないことを確認するために 俺たちは生まれてきたのでしょうか ねえ、Myひょっとこちゃん ---------------------------- [自由詩]素振りなら負けない/たもつ[2005年5月24日10時48分] 部屋の中で素振りをしていると 外は激しい雨が降っていて どこかとても遠いところから 僕の知らない動物の鳴き声が聞こえる シマウマはたてがみも縞模様なのだと テレビ番組でやっていたが たてがみをもたない そいつはもっと他の動物 僕の素振りは続き 雨はさらに激しさを増し 床上まで浸水し始めても 動物は相変わらず鳴き止まない もしかしたらそれは鳴き声ではなく 泣き声なのかもしれない とすると僕から滴り落ちる汗のいくつかは 涙なのかもしれない なんて そんなセンチメンタリズムは とっくに捨ててしまった 水位は既に胸のあたりまで達し 動物の溺れていく音がする それでも僕は一人 君も あなたも おまえも いない部屋で 素振りを続ける 素振りなら負けない ---------------------------- [自由詩]言い訳/たもつ[2005年5月27日8時32分] どうせなら この世にいるすべてのライオンが 友達だったら良かったのに あいにく僕には一頭の友達もいない だから食べられても仕方ないんだ そんな言い訳ばかりが得意になっていく ライオンのことなどすっかり忘れられた どこかのビルの中で ---------------------------- [自由詩]金魚鉢/たもつ[2005年6月1日8時38分] 金魚もいないのに 君は金魚鉢を買ってきて それから金魚の餌と 水道水の塩素を中和する 透き通った小さな薬品も 買ってきて それでも結局金魚鉢の中を 金魚が泳ぐことはなかったのは 多分僕が割ってしまったから ---------------------------- [自由詩]さよなら/たもつ[2005年6月17日23時58分] さよならの「さ」は さよならの「さ」 さよならの「よ」は さよならの「よ」 さよならの「な」は さよならの「な」 さよならの「ら」は らっぱの「ら」 突撃らっぱを聞いたまま 祖父は遠い南の島から 帰って来ない ---------------------------- [自由詩]嘘/たもつ[2005年6月19日8時32分] 家具屋に行った 広いフロアを丹念に見て歩いたが 家具はどれも高くて 困ってしまった 結局小さな置時計をひとつだけ 買って帰ることにした また時計を買ってきたの? 呆れ顔でそう言う妻に いやこれは景品なのだ、と 今日は嘘をついた ---------------------------- [自由詩]青空/たもつ[2005年6月21日22時41分] 友達と仲直りをした娘は 昼食を食べ終え さっさと青空の下に飛び出していった 子供同士っていいね うん 娘たちは今ごろ どのあたりを走っているのだろう 昨夜の小さなほころびも繕えない 大人同士二人を こんな部屋に残して ---------------------------- [自由詩]時計/たもつ[2005年7月4日23時22分] 時を刻むより他に 自分にはすべきことがあるんじゃないか 時計は思った けれど何をしようにも 手も足も出るわけがない ただ柱にぶらさがって そこはそれ時計の悲しい性なのだろう 正確に一日三秒遅れる 時計はなんとか身をよじり (分子レベルの奇跡!) ねじを一本落とすことに成功した さてそれから何をしようとしていたのか 時計はいつものように 時間のことしか考えられなくなっていた ---------------------------- [自由詩]七人の男(傘を育てる男)/たもつ[2005年7月7日8時42分] 男は冷蔵庫の中で傘を飼育している 夜の方が良く育つときいたので 朝になるとわくわくしながら傘に定規をあてるのだが 傘の長さが変わっていることはなく その度にがっかりする けれど男は知らない 日々定規が成長していることを ---------------------------- (ファイルの終わり)