ヤギのおすすめリスト 2006年3月12日17時07分から2006年4月29日21時03分まで ---------------------------- [未詩・独白]美しい人/渡邉建志[2006年3月12日17時07分] 美しい人  あなたは話します 私は聴きます  美しい人  あなたは歩きます  私は歩きます  あなたは話します  私は聴きます 美しい人   美しい人  私はあなたに郵送しました  あなたは私に返送しました 私は読みます  あなたのあたたかさ  私は、あなたを愛しているのを 知っています  そして  あなたが私を愛していないのを知っています あなた  高くて  上昇して  単独  孤独で  底の私  あなたの光線  あなたはひかり  美しい人     美しい人  あなたの白い皮膚  あなたの無色  あなたの色のない髪  透明で遍在しているあなたは  空気に溶けてく色のない  チョコレー トのようにまろやかに  私の空気の中まで  スケートする  まろやかであってください 神があなたを愛していますように  世界があなたを愛していますように あなたがいる3月の幸福 3月の不幸はあなたから遠くあれ  美しい人  涙でぬれないでください あなたは水  乾かないでください  そして  見えなくならな いでください  そして  できれば  私と共にいてくださいそして 世界と共にいてください  あなた  透明  遍在  空気に無色のチョコレートを溶かす 美しい人     美しい人  アドア-レスト  ディア-レスト  ハロー わたしの部屋で  ハロー  わたしの道で  ハロー わたしのお風呂で  ハロー  わたしの電車で  ハロー わたしのいない  どこかで  散逸して  ハロー  あなた  首を傾げてアンニュイにメロウに  断線  されて neneneneneneneneneneneneneneneneneneneneねえ、 ハロー?      美しい人  昔は女の子に生まれてきたかった  と思っていたけれど  美しい人わたしはあなたを中和するためにいる  わたしが醜いのは そのためだけなのです わたしはそのように生まれてきてよかった  もしわたしが美しければ、美しい人 わたしはあなたの美しさを知らず  見ず  気付かなかったでしょう  鑑賞も賞賛もできなかったでしょう  あるいはあなたの美しさ とわたしの美しさを わたしのなかの他人に評価 させて  嫉妬したり勝ち誇ったりしていたと思います 純粋鑑賞者は醜くなくてはなりません 美しい人  わたしはあなたの前にただ頭を垂れます  美しい人  あなたのいる奇跡  美しい人  そこに  わたしのいる奇跡 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]3月13日 手記。/かのこ[2006年3月13日17時44分] * 三月の寒すぎる日。曇天。 家を飛び出た時には、雪すら降っていた。 今は、部屋の灯りは点けていないから、雲間から漏れてくる光が僅かに部屋を照らすだけ。薄暗い日。 aikoを部屋いっぱいいっぱい届くように大音量でかけるけれど、歌うことはできない。 これからは、雨の心配をちゃんとしようと思った。 てるてる坊主を作って安心するのではなく。 ** 知らない駅を歩くのは不安でいっぱいで、早く約束の人に会いたくなる。 地下は、方向感覚が奪われてしまうから。道順は確かに覚えても、実際に歩いてみないと分からないから。 飛び乗った電車が本当にそれで良かったのか、その人に確実に会えるまで不安は消えない。 *** 地下鉄は古い空調機器みたいな匂いがする。 電車が来るのを待って、これだけ人が集まっているというのにホームは静かで、余計に早く電車が来ることを願ってしまう。 こいつらみんな雇われ人なんだ。そして、私も。 **** 誰かに頼ることをやめてみた。 少し。練習のつもりで。 ***** 雇われ人なんだ。みんな、社会の雇われ人なんだ。 今から自分もその社会にきちんと放り込まれる予定。 利用規約だとか、同意書だとか、そういうもの読んでも概要も詳細も分からない。 ただ日本語を読むということにしか過ぎなくて、そこに責任が生まれる。 いろいろなところに住所と氏名と年齢、電話番号、アドレスその他もろもろを書いたら、この頃どこからかメールマガジンばかり届いて、受信簿にはいつも数件溜まってるようになった。 無性に肩が凝る、この頃。 ****** ずっと口を結んでいたみたいだ。目が覚めた気がしないんだ。 やっぱり私は書くことしか能がないんじゃないかと思った。いや、それも月並みだ。 嘘も吐かなきゃいけないから、現実は冷や汗ばかりかく。 ---------------------------- [自由詩]なんとなく猫/松本 涼[2006年3月14日0時19分] 最近《なんとなく猫》がよくウチに来る なんとなく猫は一匹ではなくて その日によって違う 茶色もいれば黒も白もいるし 大きいのもいればまだ子猫なのもいる なんとなく猫は何となくウチに来ては 膝にちょこんと座ったり 夕飯のおかずをつまみ食いしたり ヒトの布団に潜り込んだり 一緒にお笑い番組を見たり 一通り部屋の中をウロウロしたりして 何となく帰っていく どうしてなんとなく猫たちがウチに やって来るのかは僕には分からない たぶん何となくなんだろう だから僕はあまり戸惑わない だって何となくなんてものはいつまでも 何となく続かないものなんだから だけどもしもそれが 何となくじゃなくっても 僕はあまり気にしない その時僕は 《なんとなくじゃない猫》たちと 何となくじゃない場所で 一緒にお笑い番組を見たり 夕飯のおかずを 考えたりしているのだろうから ---------------------------- [自由詩]未完の夜/岡部淳太郎[2006年3月14日22時04分] 書けなかった詩の断片が ちぎれた草になって 風に舞っている いのちは永すぎる未完 死してなお 始まりにさえたどりつけない 未完 私の夜はいつもと同じ旋律を 内側の街路にまきちらしながら 穏やかな騒霊となって 鎮まっている 風が舞っている 私の草がちぎれて 昏いままで踊っているのだ 誰にも知られることなく いのちは永すぎる未完 その始まりさえない鼓動の中で 詩は書かれながら 書き終えられながら なおも未完 書けなかった詩も 書き上げられた詩も すべての詩が ちぎれた草になって 風に舞っている 窓の内部で 熱い煙は次から次へと灰に姿を変え 終ることのない 始まることを知らない いのちの響きを 無為のうちに過ごしている 女の項のようななめらかな曲線も 老いた岩のような頑なな角度も すべてが根を失った草となって 喪の諦めに似た静けさの中で 風に舞っている 夜はちぎれて そのわずかな断片を 私の手の中に握らせる この街路のどこかにあるはずの 鳥のねぐらを求めて 未完の眠りの真意を探るように 栄えある名詞を食み また殺め 葉脈のかすかな綻びでさえも 気に留めながら 風が舞っている 到達することの叶わぬ いのちの始まりを 目蓋の裏に収めようと その未完の性質とともに 吹き過ぎている 歌うように また すすり泣くように (二〇〇六年三月) ---------------------------- [自由詩]たとえないばなし/小池房枝[2006年3月15日0時31分] 花はそのままで美しい 草木もそのままで美しい 根も葉も茎も枝も美しい 葉が還る土も美しい あれらは光の受け手である ケイソウはそのままで美しい 渦鞭毛藻類もそのままで美しい サジッタもカイアシ類も美しい クラゲもクジラも美しい 真昼真っ青な相模湾 赤潮が帯をひいている あれらも光の受け手である ---------------------------- [自由詩]夢/佐藤伊織[2006年3月15日1時29分] ただ奇妙に笑う君の夢をみた 君の小さな手を握る夢だ ---------------------------- [短歌]空のない地図帳/バカ男[2006年3月15日19時10分] たくさんの資料に埋もれて君に愛を告げた分室という部屋 僕の住む街を指でなぞれば指紋が乾く空のない地図帳 こけしを削って食事に入れ続けた、母は父に何の復讐 ひとことで言えばあなたは反抗期と発情期をはきちがえてる タツノオトシゴに生まれかわりたいと言っていた君、聞いていた僕 生きている人がみな僕に似てた日、僕は誰にも似ていなかった 「家族」という言葉が淋しくて妻と息子に布団をかけた夜 ---------------------------- [自由詩]小さな/ふく[2006年3月15日21時03分] 空を 空を支える手があまりにも小さいのです 届いているように感じているのに 距離はこんなにも風を吹かすのです 急にバームクーヘンが食べたくなりました 空はもう星色 支えられない手は夜に帰る予定です 距離をはかった風が朝を吹きにいきました ---------------------------- [自由詩]達磨さんが転んだ/吉岡孝次[2006年3月15日21時32分] 人が減って 電車は軽くなる 「達磨さんが転んだ」 象の鼻をのばしたような 雪原の竜巻 「達磨さんが転んだ」 西の惨事を 引用しないで済ませてごらん 「達磨さんが転んだ」 母子連れなんてどこにだっているし どこにもいない 「達磨さんが転んだ」 十三回唱えれば 安楽死できるという伝説を今作る 「達磨さんが転んだ」 行く末にも来し方にもなじまない咳 続報を読みとばす冬 「達磨さんが転んだ」 達磨さんが転んだ きっと遙かな史実 達磨さんが転んだ わずかに目を瞑る遊戯 ---------------------------- [自由詩]こいし/よーかん[2006年3月17日5時07分] こいしける  そらたかく  おちていく  みどりいろ  はがしげる  はるのいろ  なのはなは  たまごやき  そらたかく  こいしける  ひこうきと  くものうえ  おちていく まっしろな  かぜのなか  なのはなと  たまごやき  まごまごと  きみをみる  こいしける  きみをみる ---------------------------- [自由詩]白い都市/英水[2006年3月18日9時59分] ソコは。溢れている ただ、天蓋はない 一斉に眠ることもあれば 一斉に目覚めることがあるという それだけのことだ 街に耳を当てカツテは聞いた雑踏の鼓動 力強かった でも、偏在していたソレは 今、自失とし訪問を待ち続けている 彼女は。螺旋階段を駆け下り 駅へと向かう細い路地 へ そこは、室外機が寄生する雑巣(ザッソウ) ホタリ ホタリ 首に鋭い冷気を感じ 這わせる指 傷ついたプラスチックホースから 落ちる透明な血 (イタクナイ?) 羽音が、間断なく低い響きを立て続ける ホタリタ(ブブブブブ) リタホタリ(ブブブブブ) タリタホ(ブブブブブ) 反芻している細い路地では、 自由落下が時を支配する ああああああ、あ 喘ぎに似た声を置き去りにして、彼女は人の溢れる商店街へ 彼は。Hof, Platz, Strasse, Passage そこでは、あらゆる都市の器官が打ち捨てられた玩具のように雑存し、 2月の果てですべてが凍り付いている  彼はそこへ、 壁に耳を押し付ける再生行為へと向かう (癒着して、離れないかもしれない) 逆回しのスローモーションで、押し当てる耳 響く壁が、 響いている壁が、  あるいは、うめいている石が あるいは、回帰している三半規管の中へ、 オゾオゾと、這いつくばりまわる繊毛上を つまりは、うめいている石が この壁を叩き割って、うめきを、一斉に 一斉に、ぶちまけろ、街へ アロマプラプテ  ああ、(トルコ人の売る)石榴に似たうめき(喘ぎ) 彼と彼女は。桜の木下で、腐乱したかった彼女 は、やがて空から墜落した彼の腕の中へ 堕ちる 膠着した雪が、振り分ける指先の痺れ とは。 火を付けてくれないかしら?指先に火を 髪にからみついて離れない、幾千本の肌熱や、 フタリが抱き合ったベットの、ただ、皺だけが増加してゆく  ダム  喉を吸ってくれないか?喉元の石を 海へ回帰する雨の音だけが増加してゆく  ダム   明るいビルの底  フタリ フタリ 彼のその冬のアトリエで 白い都市が産声をあげる ---------------------------- [自由詩]あなたは、まだ/たもつ[2006年3月19日22時07分] あなた、むかし、ひとがいました ひとは足で歩いてました あなた、でもそれは、あなたではない 足の、裏の、歩くの、速さの、 それらすべては、あなたではない あなたはまだひとではないから そらを飛ぶことは放棄された うみを泳ぐことは放棄された 放棄することは放棄された でも、あなた、ひとであることを放棄してはいけない あなたはまだひとではないから   いちご、取って、いちご、そう    野菜室の、下の棚に、あるの     取って、いちご   ねえ、お母さん    わたしもう、ひとを産める体になったのよ     先生が言ってたのよ   そうなの、取って、いちご    野菜室の下の棚の、     あなた、また逝くためにひとが産まれるのね あなた、むかし、ひとがいました 手のやすらぎ セーターの赤色 コンクリートの塩味 すべて、それらが、あなたではない あなたはまだひとではないの 取って、そう、野菜室の、あなた、あなた あなたをもう一度 産んであげたいと思いました ---------------------------- [自由詩]ザラメ/ふるる[2006年3月20日11時05分] ザラメ ザラメ その名を呼べば     甘い夜風が               う         ょ       び       と吹く 夜のお祭り 始まって 裸電球                      ぽ と燈る ザラメ ザラメ あまい綿菓子 割られた箸が    つ と刺さる ザラメ ザラメ 今夜は雨だ しろい綿菓子 しぼんで飴色 ザラメ ザラメ その名を呼べば      隣町にも 甘い風                           う                        ょ                     び ---------------------------- [自由詩]人は/すぬかんながぐつ。 [2006年3月25日2時10分] 鶏の ように 飛べない 。鶏冠 を もたない 。神のようで ない 。雉のように長い しっぽを もたない 。鴨のように 美しい 羽根を もたない 雀のように 美しく 羽根を ひろげない。猿のように 鬼ごっこを しない 。鰐のように クロコダイルを もたない 。鯨の ように 潮を 噴かない 。鯖のように 泳がない 鰯 の ように 美しい  およぎを みせない 。この 國は だれさまの もの この 海は 誰さまの もの この 星は だれさまのもの この うたは だれさまの もの この 俺は 誰様の もの この 愛は なに様の もの この うたは わたしへの 挽歌 。 ---------------------------- [自由詩]少年予定/霜天[2006年3月29日1時41分] その日も、少年(予定)は、間違えた言葉をそのままに口にする 変換の仕方も削除の方法も、最後には気付けないことばかりなので いつまでも、「あ」と「い」が上手く発音できない それでもいいか、なんて思っている夜 君が伝えることも、君に伝わることも 世界から流されて、嫌でも耳にする情報よりは ほんの少しのことだろうから あだ名はいつから消えてしまったのだろう 君は世界の全てが斜めになる角度を知っていて 机の上に頬杖をつく、斜めの顔は未知の置物のようだ あだ名は、いつから消えてしまったのだろう それでも、少年(予定)は呼びかけて 帰ってくる道筋を期待している 石段に染み渡る声や、声 少し冷たいな、といつか呟いたことを誰も知らない 空の帰属が 結局、分からなかった 誰かと誰かの間で静かに戦争が始まり 結局、別れてしまった 同じこと、なのかもしれない 見覚えのある顔のようで どこにでもある花のような 区切れない香りを いつまで分け続けなければならないだろう 菜の花が今年も咲いた 僕らの好きな花だ きっと君も同じだろう 同じ顔の世界の中で それから 一日を終わらせると 明日を組み立てなければならなくて 君はひとつ、ため息を漏らす 少年、は躓かないこと 躊躇わない指先や、振り向かない足跡 確定されない景色は、どうしても思い浮かばない 全ての答えを急かされては 立ち止まるための足場もない 雨の日のバス停の、狭い屋根の下には 抱けないくらいの戸惑いが 詰められている いつまでも予定でありたかった 今ここに抱いているものよりも 抱けなかった言葉の行方を 少年予定 名前のない頃に ---------------------------- [自由詩]ソオダ光/ふるる[2006年3月29日9時01分]  雲ひとつない    ここはグラスの底         では次に、炭酸水をきちんと測って         フラスコにいれましょう。さあさあ         おしゃべりはなしですよ。笑うのも         なしですよ。そしたら窓を開けて光         を入れるのです。きらきらと光った         らそれを観察してノオトに書いて下         さい。それは海のようでしょうか。                          他の教科は全部だめ                          理科だけはAだった ---------------------------- [自由詩]記憶の物語/アンテ[2006年4月1日22時15分]                            (喪失の物語) 毎日の記憶が体積して 棚や机の引き出しや流しの下など 部屋じゅうに溢れて暮らしにくくなったので 彼女は思い立って 整理して不要なものを処分することにした 記憶を洗いざらい床にぶちまけて 朝から晩まで黙々と仕分けを進めるうち 共通の出来事や場所ごとに記憶の山がいくつもできあがり 仕分けに夢中のあまりぶつかった拍子に 山のひとつを崩してしまった 痛いなあ気をつけてよ と声がして 崩れた記憶はいつの間にか少年に変わっていて 激しく彼女に食ってかかり 彼女が途方に暮れていると 少年は部屋のドアを蹴破って出ていってしまった 気を取りなおして整理をつづけ 記憶の山が更にいくつも出来あがったが 注意しているつもりが時々うっかり山を崩してしまって そのたび記憶は老人や幼児などに姿を変えて みな彼女に悪態をついて外へ出ていった そうこうするうち 記憶はすっかり減って 後にはうまく分類できない断片ばかりが残った それらをかき集めて山を崩してみると 気味の悪い動物になって 床を這って彼女にすり寄った こんなものでも自分の記憶だと思うと哀れで 部屋で飼うことにしたところ 動物は毎日の新しい記憶をすべて食いあさり 成長して彼女そっくりになった さすがに怖くなって 偽物の動物を追い出そうとすると 偽物は彼女を強く抱きしめ 二人の身体はぴったり密着して離れなくなった 身動きができないまま時間がたつうち 自分が本物か偽物か判らなくなって 気持ちがぐらぐらと揺れ動き 気がつくと二人はその場に倒れていた 一人がやれやれとため息をついて 部屋を出ていったので もう一人が慌てて窓に駆け寄ると うつむいて通りを行き交う人々のなかを 彼女だけが胸を張って歩き回り 記憶の少女や老人や友達を見つけだしては 頭に拳を叩きつけた すると彼らはもとの記憶の欠片にもどり 風にあおられて跡形もなくなった 記憶から産まれた人たちがすっかり姿を消したあとには 彼女もどこにも見あたらず 風がひとしきり吹き抜けると 通りはもとの静けさを取りもどした もう一人の彼女は窓を閉ざして 部屋を見渡した そこは自分の身体の一部のようにも 見知らぬ他人の居場所のようにも思えた 彼女は大きく深呼吸をして 拳を握りしめて 自分の頭のてっぺんを強く叩いた ---------------------------- [自由詩]春のオブジェ/塔野夏子[2006年4月3日22時54分] 淡いピンクのチューリップがいけられた 硝子の花瓶のそばに 罅の入った銀色の金属製の心臓が 取り外されて置いてあった 彼はその代わりに 肋骨の中に脈動変光星をひとつ 納めようとしていた 昨夜ひと晩中かかって おあつらえ向きのものを探してきたのだと云う それがすんだら次に 春という季節の不確かさの界面から 薄い皮膜をうまく掬い取って それを肋骨に被せるのだと云う そうすることで脈動変光星の光が ほど良く外へ透けるだろうと云う そんな話をしているうちに ひとつの窓ではルビーのゼリーの夕陽が沈み もうひとつの窓ではレモネードの結晶の月が昇ったのだ ---------------------------- [短歌]つき/すぬかんながぐつ。 [2006年4月4日3時09分] 旅に終わりはくるのかとみあぐるそらに   つき かたぶきぬ 古の唄のまねなどするわれに   今宵の よぞら やさしく あけぬ 旋律とは 音であるのか りずむであるのか   太古の森に やさしく ささやく オトノその 向こうの なにか   抱きしめて われのモトニ 誘わんとす この国の むこうにあるもの 何なのか   吾の うでで いま いだかんとす 魂の そのサキニ 在るもの    捕まえて やさしく 我は にんぎょの 泡に 音楽とは 結局は そのようなものなのか   言葉の森も いつかは 海に  太古より 囁く 海と 風なれど    今 この星は なにを 思わん    平成 十八年 四月 四日 京都 ---------------------------- [短歌]ながしそうめんリフレイン (視覚短歌)/ふるる[2006年4月5日0時00分] な  ん   だっ     て          てる      なんだっ   まがっ  た                に          てこう       のむまっすぐになれまっすぐ                                        け                                  い                              で                          とん 飛んできた手紙読んだら捨てましょう紙飛行機よさあ                     んてあ               丘な   るわ            しまう       けがな        ら壊れて             いそっと                 触った                     触って                       の 中    続け   遠    に い    て  永      と      いる  君    とは じこ   れて    と僕       めら    ---------------------------- [自由詩]牛柄の猫の話/エラ[2006年4月12日3時12分] 牛柄の猫の話を知っている? 牛になりたいと、毎日祈っていた猫は、 神様から、牛の姿だけをプレゼントされたんだって。 その猫のおじいさんは牛だったから、 彼はクゥオーターなんだ。 いいえ、その猫は、もともと白い猫と黒い猫だったのよ。 そうじゃない、灰色の猫だよ。 ---------------------------- [未詩・独白]寝ます。/アザラシと戦うんだ[2006年4月13日19時38分] 君を好きでしょうがないので、寝ます。 寝ることにします。 君の好きな歌を口ずさんで学校通ってるなんて、 言ったとこでしょうがないので、寝ます。 寝ることにします。 歌ってるだけで元気になってるなんて、 知られてしまったら赤面なので、寝ます。 寝ることにします。 ---------------------------- [自由詩]不透明な春/A道化[2006年4月15日2時21分] ぽっ、と生き物の匂い 振り向いたけれど ここはもう教室ではなく ただ頬に、そして体に、雨でした 生き物ではなく 春で融けただけの ああ かつて 純だった まばゆく、そして 確かに純だった 教室の水槽のメダカの 危うげに発光する尊い腹部 触れようとする指をつるり逃れて 指をずきずきさせた 生き物の 純 振り向けば 雨でした ただ頬に、そして体に 春なのに、生き物ではなく ああ、生き物ではなく 春で融けただけの 2006.4.13. ---------------------------- [自由詩]無声映画/こしごえ[2006年4月15日7時26分] 夢のつづきを上映なさる、 あめ色に半透明な 翅のスクリーンに 隙もなく並べられた円卓が。 潤む瞳、 凸レンズ式の 灰皿におとした視線に煙り 鉛の筆跡で笑えず。 夕べは、霧の森で舞踏会 散々(ちりぢり)な炭酸水型 紅娘が 天の河へ飛びこみ。 冷めた時空で、 浮沈する空中庭園から空色に伸びた支柱に絡む 鈍重が花を放る。 えぁさぞ肺魚だろう ひびり叫ぶ大地に眠り 雨季に泳ぐ呼吸の幽霊。 し  っとして目をつむり 紅娘=てんとうむし ---------------------------- [未詩・独白]言わないけど/蒼木りん[2006年4月15日23時04分] 色褪せて見えるのは それは 移ろうものだから 言葉にしなければ 無いもの 消えていくものだもの 言葉にしたら 何れは 虚しいものに変わるもの 想いは泡の玉みたいに たくさん膨らんで 色褪せて消滅する よかった 留まることなくて 明日だけ夢みていられる もしかして 迂闊に私が死んでも お葬式なんかやらないでください それよりも 暫くは想ってください 泡の玉たくさん膨らまして 言わないけど 風と一緒に空に舞い上がって 雨になって落ちて 土にもぐりこんで また空に昇るよ 見えなくても わたしも全ても この世界に漂っているから ---------------------------- [未詩・独白]春の帝国/青色銀河団[2006年4月16日2時18分] ただいま「春」の収蔵作品展 開催中   http://po-m.com/forum/grpframe.php?gid=359 [春の帝国] 恐ろしく美しい花が 恐ろしく気持ちいい風に揺れる 恐ろしく青い空には 恐ろしく白い雲 ああ 恐ろしく鮮やかな 春の帝国だ [ぼくらは真赤です] いくつもの山を越えてきた いくつもの海を越えてきた ぼくらはいつだって真赤です [星からの手紙] 何十億光年離れていても 伝えたいことは 星の数ほどあるのです [朝] 砂の色に ほんのり 明ける世界は たださやぐばかりで 桜色のゆめは あとかたもなく 消えて [あおぞらのかなしみ] あんなにも泣きましたので あんなにもそらは青いのです ---------------------------- [自由詩]関さん/たもつ[2006年4月16日19時31分] まだ小学校に入る前だと思う うちによく関さんが来た 今度の日曜日、関さんが来るそうだ 父が言うと あら、じゃあ美味しいもの用意しなくちゃ それが母の決り文句だった 僕は関さんが何処の誰だか知らなかった ただ、日曜日の夕方に ふらっとやって来ては ご馳走を食べて お酒を飲んで 両親と何か話をして ふらっと帰って行くのだ それがいつの日からか ぷっつりと関さんはうちに来なくなった ねえ、関さん今度いつ来るの? 一度、夕食の支度をしている母に聞いたことがある うん、そのうちね そう言うと母は目も合わさずに大根を切りつづけた いまだに僕は関さんが何処の誰だか知らない 「関さん」ではなくて 「籍さん」かも「席さん」かも「石さん」かもしれない 本名かあだ名か 姓か名かもわからない 時々実家に帰るけれど 一度も関さんのことが話題になったことは無い もちろん僕も 聞きはしない ---------------------------- [自由詩]ただひとつの言葉/長谷伸太[2006年4月18日22時20分] 綺麗ね、とならんで毎日歩いた これが、あの子の世界 キレーネがゆれて キレーネがキレーネの蜜を吸い キレーネに囲まれた キレーネを歩き キレーネを眺めると キレーネがのぼり キレーネが瞬きはじめ キレーネの下にそっとすわって キレーネを待つ キレーネがすべてだった 母さんが一番最初に教えてくれたこと 手をつないで歩く帰り道 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]人種差別を揺るがすもの。無邪気な情熱。/虹村 凌[2006年4月21日13時36分] またもどうでもいいことを勝手に書きたいと思う。 以前から、人種差別する人間で知られている俺だが、 「また今回もかよ」って程度で読んでくれて良い。 最近、語学学校に来た韓国人がいるのだが、なかなか良い奴だ。 17歳で、高校は一ヶ月しか行ってなくて、 日本で言う大検みたいなのを取得したそうだ。 親が海外に行かせるらしく、本人も乗り気で、いろいろと世界を見て回ってるらしい。 何でも日本が大好きで、日本人とよくつるむ。 積極的に日本人に混ざろうとする。 でね、自由奔放で、無邪気で可愛いんだよね。男だけど。 ヒロトに似てるし(誰にも同意されないがな。 俺は韓国人が嫌いだ、と今でも思うし、今でも言える。 ヒロト似の韓国人(以下ヒロト)いわく、 親日的な韓国人と反日的な韓国人の割合は半々程度の割合だそうだ。 そんな事を、本当に無邪気に言うのだ。 確かに一部の韓国人の所為にして、俺は韓国を、韓国人を嫌っている。 だが、この無邪気な情熱を前にすると、俺は戸惑うのだ。 彼がモノを知らない訳じゃあるまい。 自分が無い訳じゃあるまい。 本当に日本が好きなのだろう。 その無邪気さの前に、俺はどうする事も出来ないのだ。 一部の韓国人の所為で、俺が韓国や韓国人を嫌うように、 一部の日本人の所為で、奴らは日本や日本人を嫌うのだろう。 永遠に和解などしないだろう。 白人は黒人をコケにしつづけ、黒人は黄色を馬鹿にするんだろう。 黄色は白人に憧れつづけ、黒人に憧れ続けるのだろう。 それでも、無邪気な情熱を前にすると、何かが変わる気がするのだ。 俺が何かを出来るかといわれれば、そうじゃないのだ。 ただ、自分の中で何かが変わるのである。 相変わらず俺は韓国人が嫌いだ。韓国が嫌いだ。 言い聞かせるように、そう、まるで自分に思い込ませるように、 俺はそう言い続ける。思い続ける。 恐怖。 俺は未だにショーンを見ていないが、あいつが変わらずに帰ってきたら、 俺は韓国を、韓国人を、信じても良い気がするんだ。 ヒロトが兵役に行っても、変わっていなかったら、 俺は韓国を、韓国人を、好きになっても良い気がするんだ。 でももし変わってしまったら、俺は一生信じられないし、好きになれないだろう。 それが恐怖なんだ。 ヒーロー。 イチローはヒーローだ。でも野茂がいなけりゃイチローだって…。 ヒーロー。 ヒーロー。 それでもイチローは韓国じゃ嫌われもんになっちまった。 たかだかWBCの為に、アジアの誇りから、敵になっちまった。 俺だってイチローと変わらないだろう。口を慎むべきだろう。 でも言える事がある。 変われそうな気がするんだ。 ショーンとヒロトに、全てを任せるんじゃなくって、 それと取っ掛かりに、信じてみたい気がするんだ。 ファック。 間に合うだろうか。遅くないだろうか。 不安で仕方ない。 俺は人種差別をする人間だ。 クソくらえ、だぜ。 畜生。 クソくらえだぜ。 世界平和なんて、みんなで仲良く手をつなげる日なんて、ありゃしねぇんだ。 それでも、信じていい気がするんだ。 無邪気な情熱の前に、俺は揺れているのだよ。 笑うがいい。 あれだけコケにしたのに、揺れているのだよ。 あれだけ馬鹿にしたのに、揺れているのだよ。 無様だろう。これが結果なのだよ。 畜生。 ---------------------------- [自由詩]まな板本番ショー/ゼッケン[2006年4月29日21時03分] 東京ドームのまんなかで腰をふったよ、わたし 観客5万4千人 全世界同時ナマ中継 相手は神さまだったから わたしもすごく真剣だった わたしは処女でもなんでもなかったから 前に寝た男たちは全員、ショーの前座ではりつけ処刑 はじめての相手だったわたしを3万円で買ったおじさん くたびれたスーツ姿で縛られて泣いていた 長い槍で脇腹を刺されるとき、わたしと同い年ぐらいの娘が おとうさーん! なんて叫んで全世界がうるっときて わたしももらい泣き インテリ気取ってた中学のときの社会の先生は日本刀で首をはねられた 革命バンザイ! 奥手だったわたし、初恋は遅くてなんと高校になってから 同じクラスの男子 おまえのためなら、おれ死ねると思う 言ってくれて、わたし、胸がきゅんとなった 犬のえさにされた 家庭教師の大学生も同じこと言ってたけど、サークルに彼女がいること知ってたよ 彼女が電話かけてきたもの 彼が携帯に保存してたわたしとのセックスの写真を見たって 最近、様子のおかしい彼の携帯電話をこっそりチェック 別れて、だって わたし、つきあってませんと答えた そのとき、彼女は泣いたけど、いまではすっかり仲良し 彼が白人と黒人の筋肉奴隷に交互に金属バットで頭殴られ始めると  彼女は見ていられないと顔を伏せたから、わたし、彼女の肩を抱いてあげた もう顔も覚えてない人たちが大勢火あぶりにされて わたし、身体の芯が熱くなった 神さま、わたし、準備万端になったよ 東京ドームのまんなかで、馬乗りになって激しくファックするわたしのあそこが泡立つのを お父さんもお母さんも弟も見てた 戦争指導者も自己啓発セミナーの主催者も地元政治家の後援会会長も 売人も警官も不満だらけのサラリーマンも美容師もテレビキャスターも見てた だから、生まれるあなたよ、全世界の人があなたのいのちが光を放った瞬間を見たことを知って あなたは惑星最高の人間になることをわたしは知っているの ---------------------------- (ファイルの終わり)