よの嘉村奈緒さんおすすめリスト 2004年6月28日1時50分から2009年5月30日22時35分まで ---------------------------- [未詩・独白]立春/嘉村奈緒[2004年6月28日1時50分] あなたは、 簡素な手順でわたしの胸倉を開き 匂い立つ土足 こればっかりは慣れないものです その度に鮮やかに毟られる あなたと遭難したい 篭って 香しき動揺が眼に見える位置で わたしの胸倉なんて いくら盗まれてもかまわないのだから 春が来ないね、なんて 言わないでください けれど 剥き出しのわたしにあなたは興味をなくす あなたが去ると わたしは悲しい 来たときよりも簡素な手順で あなたはわたしの胸倉を閉じる そうして閉じられてしまったわたしは もう春になるほか 位置がなくて ---------------------------- [自由詩]シナ子/嘉村奈緒[2004年10月8日19時33分] 1. シナ子 今、列車に乗っている 田舎に帰る トンネルに入るとヒューィって音がこだまするの それは列車の車輪の音 昔よく吹いていた草笛にも 車掌さんが切符を切る音にも似てる 列車がトンネルを抜けると 田舎はもうなかったの 口をとがらせて鳴らそうとしたのだけど 思うようにいかない 何てことないよ 僕らは草笛の吹き方を忘れたの ヒューィ ヒューィ ューィ 手の中の切符は、サリサリというの 2. 地に突き刺して。ご覧、シナ子が降るよ シナ子の腹に映える六面の千種 スカートの下のシナ子 くゆるシナ子もくゆるシナ子も、トマトを含んで哀しんでたよ みずたまシナ子、まぶたの裏の南でわずかな集落が 湿る日に、縞シナ子の声で瑠璃をよんだ あなたの蓄積されたシナ子は、憧れる曲線を描きます 部屋の隅の 烏合の菌糸に巻かれてシナ子病 シナ子なシナ子で、シナ子してしまうシナ子 穏やかな 3. ねえ、シナ子 世界は美しいと人は言うのだけれど 僕はよくわからないし シナ子とニッキを舐めている方がいい 平日の人気のない公園で ぼんやりとしながら舐めるニッキは格別なんだ 季節ごとに咲く花も覚えた 楽しく辿り着ける道順も 本当は 草ぞりもできればきっと世界は美しくなる シナ子 行こう シナ子の分のニッキも用意して きっと気にいる だからシナ子、 シナ子 4. シナ子、 どこ? 5. 町内地図を広げて 順繰りに数字をふっていった シナ子の好きな場所は僕の好きな場所 ニッキを持っていかなくちゃ 近くの路地にはよく猫が寝てる 猫のヒゲの先が光ってる シナ子、そんなところにいたんだね 頭上で雲が光ってる 子どもがおはじきで遊んでる 風がぐるりと取り囲む 汽笛の音がする (ヒューィ) 水をまくホースの先を潰すこと 町で一番大きい時計のからくりを知ること シナ子 シナ子はいろいろなところにいるんだね シナ子のシナ子 週末田舎に帰るんだ 手の中でサリサリとするシナ子 ヒューィと鳴るシナ子 シナ子 シナ子、 列車の窓にうつるシナ子は 口をとがらせて草笛を思い出そうとしてる 穏やかな日和に ニッキを持って出かけよう あの公園で 草笛を聞かせてあげる そうしてぼんやりとしながら舐めるニッキは 格別だろうから きっと、世界は美しいんだ ---------------------------- [自由詩]黎明/嘉村奈緒[2009年5月30日22時35分]   何かにすがりたいし 君に逢いに行きたい これ以上ないくらい丸まって眠って 透き通ったものと いい匂いのするものと 温かいものを少しずつくっつけたりして 昏鐘が呪文のように聞こえるから きっとうまくいく 夜だって出し抜けるよ 例えば輝かしい純情に打ちぬかれたり 女の子が柔らかすぎて困ることなどないのだから 安心して日を過ごす ときどき祈ったりもする 圧倒的なハッピーエンドや 真っ直ぐに進むことは たまにじゃなくて いつだって怖い ぐるりと呑みこまれないように 指を折って光を数える 夜に眠る 浮ついたままでいると 輪郭がぼやけてしまう 光だって怖いよ でも嬌声にぶち当たれば笑えるし 小さな彼が綺麗に回転すればきゃあって思えるし そういう他愛無い何かに すがってもいいと思う 白い靴を履いて 君に逢いに行ったっていいんだ やれることや 大事なものは多くはないけれど うまくいくよ それはもうすぐだから 瞬きみたいに 君が目を閉じて 開けて そうすれば 嘘みたいに夜は遠いって 君に言うから   ---------------------------- (ファイルの終わり)