たちばなまことの恋月 ぴのさんおすすめリスト 2010年7月12日19時59分から2012年4月23日19時00分まで ---------------------------- [自由詩]道なひと/恋月 ぴの[2010年7月12日19時59分] ダイエット目的にはじめたジョギングだったはずなのに 夢はホノルルマラソンなんて張り切っている フルマラソンって42.195kmも走るんだよね あの子の精神構造ってどうなっているんだろう 単に楽しんでいるだけじゃ満足できなくて そのうち険しさとか求めるようになる やしの木陰で日がな一日のんびり過ごすって訳にはいかなくて これが道ってことなのかな 剣道とか柔道とかの道であったり 人里離れた山奥にも道はある 道無き道を…てなことばもあったような 「道」 高橋選手の銀メダルも道だった 置き去りにされたヒロインの悲哀と 今日をそして明日を生きざるを得ない人々の思い 総ての道はローマに通じるのだから 足の不自由な女の子がよっぱらいの吐しゃ物に足を取られ 汚物まみれで呆然としてた背中に声もかけられず通り過ぎてしまった あの日あの時がいつまでも忘れられなくて せめてもとつづりはじめた拙さに それゆえの道であるのかと 道端で揺れる向日葵の愚直なまでの眩しさ仰いでみた ---------------------------- [自由詩]本当のかなしみを知るひと/恋月 ぴの[2010年7月26日9時34分] 本当のかなしみを知るひとは かなしみのあり様をあれこれと邪推せず 涙で濡れた手のひらにあたたかな眼差しを重ねてくれる 本当のかなしみを知るひとは ひとの過ちをあれこれと論ったりせず 夜空に散らばった星屑のひとつひとつ共にひろい集めてくれる 本当のかなしみを知るひとは ひとびとのちいさな幸せをあれこれと僻んだりせず まるで我が事のように喜んでくれて 本当のかなしみを知るひとは 「がんばって」 そんな一言では伝えきれないもどかしさに唇は震え 寄せては返す波間に浮かぶ防波堤の突端でひとり ひろい集めた星屑のひとつひとつ願いをこめて八月の宵闇へと流し ひとびとのかなしみそのすべてに罪のないことを知っているが故 本当のかなしみを知るひとは ---------------------------- [自由詩]木漏れ日のひと/恋月 ぴの[2010年10月11日20時26分] 真っ直ぐな道は歩きづらい かと言って迷路みたいでも困るのだけど 適度に曲がりくねっていて ちょうど昔ながらの畦道のように 赤い帽子によだれかけしたお地蔵さんが祀られているとか 時には肥だめみたいのもあって わざと落ちそうな仕草で笑かしてくれる そんな道は懐かしさと片付けられてしまいがちだけど 歩き疲れた心にも優しげで 解けた靴紐直そうとかがんだ先にはどんぐりの実ひとつ かさこそと折り重なる葉陰からこちらの様子を伺っているようで ひょいと跨いだら先を急ぐふりなどしてみた 緩斜面を回り込むとやがて小さな集落に出会う ひと気の無い閑静な家並みとお役所仕事らしい真っ直ぐな道 どんなに雨が降り注いだとしても水溜りなどできる余地も無い ひとの歩むことなど配慮し忘れたような真っ直ぐな道 真っ白なガードレールは眩しすぎて こんにちは って誰に挨拶すれば良いのだろう 最後の六年生が卒業して廃校となった小学校 今でもチャイムが鳴れば子供たちが教室から飛び出してくるようにも思え 閉ざされたままの校門からは秋の日差しが人恋しげに延びていた かつては雑貨店だったのだろうか シャッターを閉ざした看板の手書き文字消え失せて 道路に面した軒先にはお地蔵さんの替わりにコーラの自動販売機 これだけが文明の証だと言わんばかりに鎮座している 白々しい明かりに引寄せられたのか長い夜を物語る吸殻の数 よそ者の安らげる場所など何処にも無いのだと 躊躇いを赦さぬ真っ直ぐな道は当て所ない旅の出立を急かす ---------------------------- [自由詩]まもなくのひと/恋月 ぴの[2011年2月28日19時31分] まもなく幸せになれるでしょう と言われても 不安感の先立つ今日この頃だから それって、ほんとかなと首をひねってしまう フィギュアスケートとかのスポーツ番組みてると まもなくまもなくってかしましい まもなくってどれくらいかな しばらくでもないし すぐでもない いずれそのうちにってこともあったりして そんなんじゃ待ちくたびれちゃう 淡い期待を持たせておきながら 騙されるあなたが悪いのと平気で人を裏切る そんな女たらしな背中に この人でなし!って罵りながらも お人よしすぎる自分自身が情けなくて まもなく雨はあがるでしょう あったかなのに冷やっこい春の陽射が待ち遠しい 幸せになれるのなら嘘でもよいから信じたくなって 今度ばかりはと騙されついでに身を任す ---------------------------- [自由詩]たいせつなひと/恋月 ぴの[2011年3月14日20時44分] 青空ってさ 手の届きそうもない遠くにあるから 青空と言うのかな * 何ができるのか考えてみる 誰かが とかじゃなくて わたし自身でできることを考えてみる * この手のひらはあまりにもひ弱で 掬い取ろうとしたもののほとんどは溢れ落ちてしまうけど 微かにでも伝わってくるあなたの温もりを いつまでも大切にしたい * 悲しみにくれる涙は隠さず 今日一日を無事過ごせたことに感謝して みんな元気出そうよ わたし 忘れたりなんかしない この日のこと 青空の向こう側へと旅立ってしまったあなたのことを ---------------------------- [自由詩]がんばるもんのひと/恋月 ぴの[2011年3月21日18時29分] 一念発起とがんばってみるのは 容易いけれど がんばり続けることは なぜか難しい * それって三日坊主 だよね 悔いてはみるのだけど いつだって 他のひとの視線が気になって 指先を眺めたり 心うちを見透かされないようにと髪の毛をさわる もっと素直になれれば良いのにね * たとえば、がんばることを止めてみる というか がんばんなくっちゃいけないを捨ててみる 少しは気が楽になって なんで悩んでいたのかと窓の外を見やったりする * がんばるもんから入場して 一目散にゴール目指して駆け抜ける いつだってビリだった がんばらなかった訳じゃないけど 私は駄目な人間なんだからと言い訳していた がんばるもんは紅白に飾られていて 歓声沸きあがる空にはポッカリ白い雲浮いていた ---------------------------- [自由詩]数えるひと/恋月 ぴの[2011年5月23日21時55分] 立ち止まるのもありとは思うものの 夏らしさを感じる風の勢いに身を任せてみる 買い物帰りとかに立ち寄る近くの公園 このあたりは放射線とは多少なりとも無縁でいられるのか 小さな子供たちのにぎやかな歓声 それでも木陰のベンチは寝転がれないようになっていて ある種の仕組みのなかで生かされていることを知る それだからどうこうって訳ではなくて 眩い青空に面と向かい合い 誰にも告白できないようなことを呟きたいだけ 風に吹かれる 夏の風に吹かれて ささやかな自由は幾多の自己犠牲を要するとしても 別段抗うことなく それでいて訳知り顔になることもなく 風に吹かれる 夏の風に吹かれて 遥か遠く運ばれてきた潮の香りに耳をすます わが子を抱いたお母さんたち 砂場の近くの木陰で雑談に興じている 敢えてあのことに触れることはないのだろう 胸元で甘える幼子の息遣いに 目に見えぬ不安に苛まれることよりも この子を守り抜くのだという決意が勝っているようにも見え 風に吹かれる 夏の風に吹かれて そして湧き立つ積乱雲の忙しさに暫し耳をすます ---------------------------- [自由詩]夕暮れのひと/恋月 ぴの[2011年6月6日19時42分] ちびっ子がちびっ子だった頃 男の子は半パンにランニングシャツ 女の子はノースリのワンピとかで原っぱを駆け回っていた いじめっ子、いたことはいたけど みんな等しく貧しんだって思いでお互いを支えあってた気がするし 長袖シャツを着てないと危ないなんて誰も言わなかった ちびっ子がちびっ子だった頃 大人たちは内輪もめ繰り返してはいたものの 8月6日は核兵器廃絶を願う人々にとって忘れてはならない日だったし いつもコールテンの上着羽織ってた先生は 君が代よりも大切なものがあるとわたし達に語ってくれた ちびっ子がちびっ子だった頃 ノースリのワンピたってお母さんが仕立ててくれたあっぱっぱで ストンとした裾をパンツの中に押し込み 日の暮れるまで男の子達とザリガニ釣りに興じていた 糸の先につけたスルメイカで面白いほどにマッカチンが釣れて ブリキのバケツの中は大きなハサミで蠢いていた ちびっ子がちびっ子だった頃 わたしには帰ることのできる小さな家があって 前掛けをしたお母さんがわたしの帰りを待っていた ---------------------------- [自由詩]対岸のひと/恋月 ぴの[2011年9月5日19時13分] 台風がそれて良かったと思うものの 荒れ狂う里川の変わりようを 術もなく見つめる老人の眼差しに寄り添うことは難しい 人様の身の上にふりかかった災禍などと 素知らぬ顔して晴れ上がった台風一過の秋の空 ※ ふとしたことでフェンス越しに階下を眺め 私でも、ここから飛び降りられるのかと悩んでみる 今でも間に合う 今からでもやりなおせる 生に縋りつこうとするのでもなく そんな気楽な想いは絶望感に勝っていて 吹き上げてくる風の強さに目を背け そそくさとフェンス際から立ち去ってしまう ※ テレビは増水した里川の様子を映し出している 合間には、いつもながらのコマーシャルと こんな私にもチャンネルを変える選択肢ぐらいは残されていて 一人称の悲しみはどこまでも一人称のままならば 僅かな同情さえ成し得ないもどかしかさと 第三者で居つづけられる安堵の狭間で フェンス越しに見えたもの 植え込みの緑とアスファルトに整列した黄色い駐車区画 放物線を描けばあれにも届くのかと 水際に積み上げた石ころの頂へ問いかけてみる ---------------------------- [自由詩]許されたひと/恋月 ぴの[2011年9月12日19時38分] 人一倍寂しがり屋なはずなのに 気がつくと、いつもひとりぼっちになってしまう これも運命ってやつなのかな ※ みんなはひとつの輪になっている それなのにわたしだけ一歩後ろに下がっていた というか、あれはなんだろうね 肘とかで弾かれたわけでもないのに 気がつけばわたしひとり輪の外へ出ていた 今さら、ひがんでもしかたないから みんなが笑えばわたしも笑う みんなが頷けばわたしも頷いて さあ行こうか なぜだか、わたしひとりだけその場に取り残され みんなは、どこかへ行ってしまう おしゃべり楽しそうだったよ なのでわたしも楽しかったふりをする ※ わたしはボトルに入れた手紙になりたかった 遥か七つの海を旅して やがて好きだったあのひとに拾われる わたしのことなんか忘れてしまっているだろうけど つたない文面から思いの丈の僅かでも彼に伝わるのなら これまでの人生は無ではなくなるし 彼のこころの片隅で生きていくことができる ※ おひとり様って便利なことば 胸元まで冷たい湖水に浸かっているはずなのに 安らぎさえ感じられて お魚にでもなったように掌で許されることの幸せ感じながら 爪先で星屑みたいな砂を蹴る ---------------------------- [自由詩]自虐のひと/恋月 ぴの[2011年9月19日18時30分] か弱いものでも生きてゆける それが人間らしさってこと それなのに時には誰かを押しのけては前に進み出て この一歩が生死を分けるのよね なんて言い訳をする ※ 世の中は悲しみのうえに成り立っていて この瞬間にも誰かが泣いている それでも流した涙ほどに報われることは無く 母を亡くしてはじめて気付くのは 若かりし頃のやさしさとか ふと胸に抱いてくれたぬくもりの安らかさとか そんなものだったりする ※ 悲しみはひとの目を曇らせるのか 出てくることばは嘆きばかり 気分転換と秋のはじめに散策でもすれば 目の前の景色に何故か見覚えがあって それは母の描いた風景画のなかの色合いだった ※ 若すぎる死ではあったけれど 亡くなるべくして亡くなってしまったのは確かなようで 遺品整理と称しながら投げ捨てたもの 母が集めた土鈴の数々 老人会の輪投げに興じる母の笑顔 ---------------------------- [自由詩]友引のひと/恋月 ぴの[2011年9月26日20時28分] 手持ち無沙汰に見上げれば夏のような雲の動きと 山すそは無残に切り開かれ ひとの忌み嫌うものの一切合財を そのはらわたに黙して受け入れているのか それとも受け入れざるを得なかったのか 今日はそんな日であることは疑いようも無い事実だった ※ 壁際の肌触りはキリコを意識しているようで 多面形で構成された正面玄関前に一台のクルマが滑り込む 霊柩車と呼ぶには粗末なワゴン 運転手は後部ドアから棺を引き出した あれもストレッチャーなのだろうか 器用にひとりで棺を乗せると斎場のなかへと運んで行く 誰の棺なのだろう タクシー待ちな私達の他に遺族らしき喪服姿は見当たらず このあたりは森深い丘陵地帯なのか それでいて意図した静けさに支配されているのは隠しようも無く ※ 恥ずかしいぐらい質素だった母の葬儀 よくあることらしく嫌な顔ひとつしない係りのひとに尋ねれば あれは行旅死亡人を荼毘に付しているとのこと 運転手は棺を館内へ運び終えると 駐車場で暫しの時間待ちでもするようだった 打ち合わせの電話でもかかってきたのか 白い半そでシャツの運転手が忙しく書類をめくっていた 配車してくれたタクシーはどうしたのだろう 何処かで道に迷っているのだろうか 生きる目的を見失ったまま 今頃三途の川を彷徨しているに違い無く 行旅死亡人 それは私のことなのかも知れず ※ また一台、粗末な霊柩車が正面玄関へと滑り込む 助手席には位牌を抱いた餓鬼の姿 後部ドアを運転手が開くと ダニが湧き出してきたかのように腐臭漂わせた餓鬼の群れ 今日はこんな日柄だったのだ 弟と私 そんな友引の日に母を弔ったのだ 位牌に戒名など間に合うはずも無く 「故」と「之霊位」の間には母の名前 それで喪主としての務めを果たせたのだろうか ヒグラシでも鳴いていて欲しかった 過ぎ去りし季節にしては眩しさ残る空模様だった ---------------------------- [自由詩]見つめるひと/恋月 ぴの[2011年10月3日19時45分] あきらめてみる たとえばわたしでいることをあきらめてみる すると亡くなった母のこととか ひとりぼっちの寂しさとか なんだかふぅっと身軽になれて お線香のくゆりは相変わらず苦手だけど 摘んできた野菊を遺影に手向け 四十九日はもうすぐで 納骨の手はずとか整えないといけないのだけど あいかわらずの不甲斐なさ そろそろ一本立ちしないとね なんて いきがってはみたものの 足元を整えなおすことさえままならずに ※ あきらめてみる たとえば慕い続けることをあきらめてみる すると好きだったあの人のこととか 手首に残る自傷のあととか なんだかふぅっと身軽になれて あいかわらず通りすがりの男の人に彼の面影追い求めたりする そんなわたし自身も可愛く思えてきた そろそろ新しい恋のはじまりかな でもね 彼以外の男の人とか まだまだ踏ん切りなんてつかないけれど ※ あきらめてみる たとえば生きることをあきらめてみる すると生きる苦しさとか 死に切れないもどかしさとか なんだかふぅっと身軽になれて 悲しくなるたびに死ぬことばかり考えてた わたし自身がばからしく思えてしまう それでも時には 死に切れなかったのは意気地なしだからとか思ってみたりして 旅にでも出てみようかな 見知らぬ土地で 見知らぬ誰かになれるのなら ただただ秋の風に吹かれて あきらめた先にあるもの見つめていたい ---------------------------- [自由詩]旅路のひと/恋月 ぴの[2011年10月10日18時54分] 旅ってなんだろう 帰るところあっての旅なんだろうけど 住んだこと無いはずなのに 慣れ親しんだ気がしてならない場所へと帰ってゆく そんな旅路もあるような気がする ※ 無人駅のホームでひとり 秋の日差しは山間を掠めるように影を伸ばし 手持ち無沙汰のベンチでアキアカネは羽を休める 手にはカバンひとつ 思い出とか詰まっていることもなくて 仮に誰かの詩集の一冊でも入っているのなら 言い訳のひとつでも語れるのかも知れないけど 次の列車はこの駅に止まるのかな 耳を澄ませば澄ますほどに辺りは静けさに支配され 駅のはずれで交差する鉄路は鈍い光を放ちながらも夕闇と沈む ※ 果たしてこの場所だったのだろうか ここでは無かった気もするけど いつかの日に訪れたはずの記憶を頼りに探し出す わたしがわたしであった証 生きてきた痕跡 たとえ泥に塗れていたとしても わたしがわたしであったとするなら、それを否定することは叶わずに 幸せとは時を刻んだ日々のひとつかみ ほろ苦く噛み締める刹那にも訪れることを知る ---------------------------- [自由詩]育てるひと/恋月 ぴの[2011年10月17日19時02分] 育てる 花を育てる 愛しい我が子を抱くように 育てる 花を育てる 我が子の明日を夢見るように ※ よく見かけるひと 花電車の通う線路脇で季節の花を育てるひとの姿 せっせと雑草を刈ったりして 自分の庭でもないのに余計なことをしてるようで なんだかなぁと思ってみたりもしたけど 今の季節、可憐な秋の花々は冷たさ緩んだひとときの風に揺れ 何を思ったのか季節外れの蝶も舞う 車窓からはどんな感じに映っているのかな クルマの渡るには手狭な踏切を ベビーカーを押すお母さんが急ぎ足で渡り 鳴り響く警笛の向こうから 昼間下がりにしては混雑している都電が通る ※ 育てる 何かを育てる 人の生き方で原因と結果は別物だけど 育てることから何かがはじまる そう思わないとやってられないよな こころの奥で誰かがちゃちゃ入れたりするけど 育てる そこからすべてははじまって 明日になれば、きっと花開いてくれる わたしの育てたもの わたしが育てようとしたもの ---------------------------- [自由詩]願うひと/恋月 ぴの[2011年10月24日14時22分] ひとを愛せなくなったと あなたは嘆き はなから愛なんてなかったのにと わたしは呟いた ※ 大切なのは感動なのかな 与えて 与えられて 生まれたての感動はぷるんと目にも鮮やかなのに 目をあわそうとせず 小さな画面のなかに逃げ込んでしまう ほんものってさ まなざしのなかにあるのにね それなのに嘆いてばかりで 吸い過ぎの灰皿はふたりの約束知らずと煙たいよ やめたんじゃなかったの? 知らん顔で吸っている 親指と人差し指に挟んでいるもの 気晴らしにもならないのは判っているはずだから ※ ふれてみようよ おたがいのこころに こんなにもあったかだなんて 今更ながらに驚いてみたりしてさ それが愛ってことなのかも知れないよ 見つめる瞳の輝きに気づいて ふたり尊敬し合っていることに気づいて つかの間だってかまいやしない ふれあうことの優しさに これが最後の最後だからと身を任す ---------------------------- [自由詩]交わすひと/恋月 ぴの[2011年10月31日13時27分] 夢とか希望って軽々しく口にしてはいけないよね これでも恋わずらいなんだろうか 鬱陶しさに心は暗く沈んでしまっているけど なんだか身体は心模様とはうらはらに 不思議と元気みなぎっている あの坂の上までなんて嫌だな 軽やかな足取りはわたしの意志など知らん顔 病は気からだったよね 大きくカーブするその先は平坦なはずだったのに まだまだ先は長いとだらだら坂は尾根伝い 知らぬが仏 なんか違う気もするけど 昨日までのわたしを引き摺ることなく 今日は今日 明日は明日の夢とか希望がある 晴れあがった秋空はそっけなさが持ち前で そんな優しさに何故かほっとするわたし自身に気付く ※ 神さまとか永遠って軽々しく口にしてはいけないよね それって、それぞれの心うちにあるものだし 誰かに押し付けようとしたって 心の扉は固く閉ざされてしまうだけ ノックは無用 ひとの心うちにはお地蔵さまというか ご先祖さまの眼差しにいだかれているのだから やっぱ大切にしないとね ご都合主義でもかまないから 気が向いたときにでも感謝したりして ※ 落ち葉みたく降りつもった言の葉 かさこそ何やら囁いて どこかに置き忘れたはずのまごころは 胸元のポケットにこっそり隠れてた あれれ、こんなにも恥ずかしがり屋さんだったのかな 秋って素敵なんだから ないしょはないしょ 誰かに話しちゃ、叶うものまで叶わない ---------------------------- [自由詩]寡黙のひと/恋月 ぴの[2011年11月7日16時07分] 思い出の数には限りがあって 両の手のひらからこぼれた思い出は ひとひらの色あい 鮮やかに晩秋の野山を彩っては やがて力尽き 道端の ふきだまり 静かな眠りに何を夢見る ※ ひと恋しい 何ゆえにと問われても 触れ合う肌の安らぎと組し抱かれて 額に滴る汗は狂おしく 愛する男に犯さる悦びに酔いしれたひと夜が 忘れられないのか 満たされたくて 滲みでる欲情の兆し メス豚と尻を叩かれた肌の震えはよみがえり 歯がゆさにひと恋しさと 鏡へ映す この肌のほてりは鎮められずに ※ 忘れえぬもの それゆえにこころの奥襞で疼き 愛は 肉欲は 気づけば漆黒に沈むやせ細った潅木の枝先に 百舌が串差した早贄の長い 長い触角は冷たい北の風に震える ---------------------------- [自由詩]秋空のひと/恋月 ぴの[2011年11月14日12時45分] どこかで誰かが泣いていた 悲しくて それとも恋しくて ※ 悲しさに理由なんていらないけど 流した涙はしょっぱくて それでいて仄かな甘さなんて感じてしまう なぜって 切羽詰っていないから ※ 秋の空は青く 確かめたわけじゃないけど わたしの体のなかを流れる血の色は紅葉みたくに赤いらしい 損得勘定以外の何かで あなたとわたし つながっているはずと思いこみたくて 時には投げつけられた言葉に 傷ついて 涙なんか流して それでも沈黙を取り繕うと発した言葉は つまんないドラマの台詞みたいで ひとときの悲しさに酔いしれていたかっただけの自分に気付く ※ 風が泣いている もうそんな季節になってしまったと 前髪をかきあげ 襟足寒さ感じるかなとか 長い髪切るって決めたとたんに迷いだす ---------------------------- [自由詩]旬なひと/恋月 ぴの[2011年11月28日15時33分] ひろげたお店を片付ける そしてトイレで用を足したなら必ず水を流す 便器の底を覗けば 生きてきた私自身の素性が判る ※ 早や店じまいの季節になったものだと ひろげすぎた店先を見やる 大風呂敷とは違うし 片付けられない女とも違う 喘ぐような呼吸を繰り返す度に 私自身の痕跡はただただ拡がるばかりで 今さっき、ひねったばかりの排泄物が 家族写真のまんなかでぎこちない顔して笑ってた ※ かぶっていた猫を脱ぐ お化粧ぐらいしておけばよかったのにと 言い訳めいた独り言 何かをすれば何かを忘れ 何かを忘れれば何かを思いだす 今日一日やり過ごせるのならそれはそれで幸せなんだと 収拾のつかなくなった人生を見てみぬふり ひろげたお店を片付けよ! いつまでもぐずる私自身に号令をかけたなら 拍子木を打ち鳴らしての店じまい ---------------------------- [自由詩]師走のひと/恋月 ぴの[2011年12月5日17時17分] 嫌なものはイヤ! そんな思いと折り合う でも、おとなの分別とかじゃない ひとが生きるって 爪先から血が滲むほど世間ってやつにしがみついて それで何とかまっとうできる 違うかな ※ だからって、いきがるわけじゃないけど ※ 正直だけじゃ生きてはいけない なので ひとごとみたいに自分を生きる なんか虚しくて わたしだっていっぱしのヒロインになりたかった みんなに認められて みんなにうらやましがられてさ みんなってのがキモなんだ ※ 時代は常に移り変わって あっというまに時代遅れになってしまう だけど いつの間にやら、くるっと地球を一周してくれるから こんなわたしだって時代の寵児に なれるかな ねぇってば、わたしだってなれるよね ※ スマホならもっているよ あのアイフォンじゃないけど 電車のなかで ちょっとどや顔してね ネイルした指先でラヴなデコメとか彼氏に送ってみたりする 今朝も遅刻じゃないよ 昨日だって遅刻していないけど なんか年末って忙しくて お化粧の乗りだってこんな具合に今ひとつ ※ メリークリマス! って みんなの素敵な人生にとっておきのラヴしてあげる ---------------------------- [自由詩]気付かされたひと/恋月 ぴの[2011年12月12日16時55分] わたしだって一生懸命走っているのに なんか自分だけ後ろへひっぱられてる感覚に囚われてしまって 一緒に走ろうねって誓った友達の背中が だんだんと小さく小さくなってゆく ※ はじめはダイエット目的だった いつまで続くかなと思いつつも買い揃えたランニングシューズ あえてピンク色にしたのは初心者のつつましさ 近所の公園とかで走るまねしてると けっこう様になってる気がした 会社の友達に誘われたランニングのイベントで イケメンすぎるコーチに筋が良いなんて褒められたりすれば まさに豚もおだてりゃ木に登るなんて 絵に描いたようなお気楽さは 色違いのランスカとか お給料の半分近くも買いまくってた ※ 夢であって欲しいけど これが現実ってことなんだよね ガンバ! 振り向けばコーチが笑顔で励ましてくれたけど 作り笑顔を返すのが精一杯の体たらく 心拍数どのくらいなんだろう ふだんなら見もしない心拍計をみやれば信じられない数値だったりして あがらなくなった腿は痛くなるし まっすぐ走るのさえ苦痛になってきたよ 走るのやめちゃおうかな でもなんか、ここで止めるのはもったいない気もするけど あと少し! ってどのくらいなの? 自分で自分に問いかけてみたりしてると あれれ、もう少し走れそうな 弱音吐く気持ちを励ましてくれるかのように 疲れきってた手足が勝手に動き出す ---------------------------- [自由詩]春を待つひと/恋月 ぴの[2011年12月19日19時09分] 誰もが幸せであることを望み それに見合うだけの不幸せを我が身に背負う 故に生きることは辛く 苦しい ※ ふと目覚めれば凜として未明の寒さ厳しく 曖昧では済まされないこと知りつつも 北風に弧を描く白い首 羽を繕う渡り鳥へ思いを託す ※ 明日は訪れる 等しく誰のもとへも 不確かな手触りのままで それでも伝わってくるのは 生きる限り日々歩まざるを得ないこと いつまでも岸辺に佇むことは許され得ないこと 吐く息は白い 物憂げな溜息か 生きる故の喘ぎなのか 渡り鳥は鳴いた 曇天の 岸辺に張った薄氷の ※ 春になれば その思いで一心と 頭上に振りかざした鍬を振るう まるい背中は力強くも 「今しばらくは生きながらえていたい」 敢えてそんな言葉を口ずさむ ---------------------------- [自由詩]通りすがりのひと/恋月 ぴの[2011年12月26日14時22分] そういうことだったんだ と 気付くことがある ものごとは複雑に絡み合っていて 原因があって結果がある そしてその結果が今度は原因となって 新たな出来事を誘発する 「無間地獄」 と までは言い切れないにしても ※ いつもなら横浜の実家に戻り 大晦日は紅白を眺めながら母のとめどない愚痴に付き合い 台所でお雑煮を作る音に目覚めれば 歯を磨きつつ新聞受けに押し込まれた分厚い新聞の束と格闘し お重に賑やかなお節料理をつまんでみる どこぞのお節なんだからと母のウンチクに空返事 それでも、ところ狭しと並ぶお正月らしさ ふたりテーブルに向かい合い あけましておめでとうございますと手を合わせれば いつもながらの正月を迎えることができた ※ 年金の手続きにと取り寄せた除籍の住民票 父の名前 そして母の名前にも取り消し線が記されていた あの家には誰もいなくなったんだ そのときは、そんな感慨しか浮かばなかったのだけど 帰るところの無くなった正月を迎えようとして 改めて思うのは ひとが生きることの意味 ひとが亡くなることの意味 みぞれ雪の波打ち際で 寄せては返す波間に揺れる母の面影 ※ お寺さんからいただいた立派な母の戒名 ありがたくも我が身の至らなさを思い知らされ こんなお正月もあるのかと 間に合わせの粗末な仏壇に向かって手を合わす ---------------------------- [自由詩]It's a beautiful day(変わらないひと)/恋月 ぴの[2012年1月2日16時45分] 気合入れて目覚めても 去年となんら変わることの無い朝だった それでも いつもの年とは変えよう 変えてみよう 初春は一途な決意が大切なんだと自らを奮い立たせ 買いだめしておいた菓子パンとか齧りつつ ひとりぼっちな元日の朝を迎えた ※ それでも考え方を変えてみた 変わらないからいいんじゃない とか だって、朝目覚めて誰か横に寝てたら困ってしまう たいがいがお金にだらしない男で ずうずうしくも寝正月を決め込まれ ふとんのなかから手を伸ばすと わたしの弱いところへしきりと舌を這わせてきた ぬくいふとんのなかが あり地獄と一緒だったなんて気付いてしまうは切なく哀しい ※ クリスマスから年末にかけて やたらと幸せそうな家族をみかけたよ おんなの子はやっぱ可愛いね さらさら揺れるきれいな髪は愛情のしるし 幼さと甘え上手は おんなの生き抜く手立てと心得たのか おしゃまな身振りで パパの大きな手のひらを弄ぶ ※ 初夢はいつか見た正夢の続きだった ほんわかとかじゃなくて なにげに怖い系な夢だったけど 恋愛がらみの夢じゃなかったのは不幸中の幸い 勘違いな目覚ましの音に目覚めると いつもの部屋で いつものふとんのなか パジャマの下を脱がされていたなんてありえなくて ちょっと残念 ちょっとほっとしながらも 寝相悪さに乱れたふとんを整えれば 去年までと何ら変わらぬ、大根芝居の幕が開く ---------------------------- [自由詩]Spotted water(豊穣のひと)/恋月 ぴの[2012年1月16日18時59分] わたしは愛したい あなたの優しさ わたしは愛したい あなたの眼差し わたしは愛したい あなたの存在 猫である 愛である   ※ ファミレスの窓側席で神事を語る 日替わりランチのコロッケを口いっぱいに頬ばったまま 三杯目のミルクティーへと手を伸ばす 最近、あっちの方はどうなの? あっち 彼岸での厳粛な神事 霊験あらたかな神を敬い みずからを生贄として差し出せば 四人がけのテーブル一杯に拡げた贅沢三昧は 専業主婦の慎ましさ どこかで猫が鳴いているよな それこそが愛の真実と鳴いているよな   ※ わたしは愛したい あなたの歯並び わたしは愛したい あなたの耳たぶ わたしは愛したい あなたの襟足 猫である 愛である ※ 愛するふたりは手を繋ぐ 愛の在り様を確かめたくて それぞれの本意を確かめたくて 固く繋ぎあいながらも ふと離してしまいたくなる誘惑にかられつつ 胸元に秘めた氷の刃 抜くか 抜かぬか 迷い箸は心の迷い どこかで猫が鳴いているよな それこそが愛の真実と鳴いているよな ※ わたしは愛したい あなたの鎖骨 わたしは愛したい あなたの尾?骨 わたしは愛したい あなたの恥骨 猫である 愛である ※ 何故に人は未来を我が子に託すのだろう あなたの語る夢の端々は 切望してやまぬ男児の歩みが総てなら やんごとなき夜毎の神事と 獣のかたちで繋がる夫婦(めおと)の乾き どこかで猫が鳴いているよな それこそが愛の真実と鳴いているよな 猫である 愛である ---------------------------- [自由詩]優しいひと/恋月 ぴの[2012年1月30日19時09分] 今ごろ何しているのかな きっと趣味のデジイチを首から提げて お気に入りの被写体を求め 谷根千あたりを自転車で走り回っているのかも そんな感じに好きなひとを想ってみる なんか幸せなひととき 想いは決してわたしを裏切ったりしないし ただいま あなたの笑顔が待ち遠しい 今ごろ何を考えているのかな きっとわたしのことだよね 通りすがりの店先でみかけたピンク色のセーター わたしに似合うかどうか思案顔 そんな感じに好きなひとの心うちを推し量ってみる やっぱ幸せなひととき でもちょっと不安になってみたりする 今日は考えてくれてるとしても 明日もわたしのこと考えてくれるのかな ひとって想うほどに他人のことに関心ないって言うし それと釣った魚に…なんて言葉も思い出した わたしの発した「わたし達」ってことばに あなたは頷いてくれるけど 本音はどうしたって見えてこない 信じるから 信じてもらえるのだとしても 愛しているよって、ことばの重さは量りがたいし ついつい余計な詮索してしまう 自信持てないんだよね わたしのこころに あなたのこころに わけもなく焦るばかりで すがる思いで差し出した手のひらに ひとしずくの光るもの もしかして天使の涙だったりして お〜いって声に振り返れば きこきこと自転車こいでるあなたの笑顔 ---------------------------- [自由詩]悩むひと(仮題?)/恋月 ぴの[2012年2月6日18時56分] 左手はご不浄らしいけど わたしって左利き どうしよう(笑 歯を磨くのも お箸を持つのも 字を書くのも左なんですけど 小学校のお習字の時間 せんせいから右手で書くよう指導されても いつのまにか左手で掻いてたよ 否、書いてたよ ※ 幸せを知らなければ 不幸も知らない 満腹を知らなければ 空腹も知らない かな? 誰かがうんと幸せだから 誰かがうんと食べてしまうから 不幸なひとがいて おなか空いてるひとがいる のかな? ※ とんでもない忘れ物をして とんでもない時間をかけて取りに戻った 仮定として 1.忘れたことに気付かないふりをする 2.そもそも忘れものなんかしてない 3.忘れたのではなく誰かに盗まれた などなど考えてはみたものの 結局は電車を何度も乗り継いで取りに戻った 後悔先に立たずと思いながら この際だから、キセルでもしちゃおうかと子供みたいなこと考えながら ※ それは 有史以前から置き忘れた場所に安置されていたかのごとく寛いでいて 取りに戻ってくるのは当然とばかりに手招きした 網棚にお骨を置き忘れる あれはたぶん意図的なものだと思う めんどっちいから 納めるべきお墓なんか無いから その程度?の安易な理由なんだろうけど 赤子をコンビニのトイレに産み捨てるがごとく わたしは、とんでもない物をとんでもない場所に置き忘れてしまって あれ、猫まっしぐら? ※ 缶コーヒーのCM見るたびに涙流してしまう(汗 ありがちなストーリーなんだけど ついついと 涙なんかほろほろ流している わたし自身のおばかさ加減に情けなくなったりして わたしも防波堤の端まで突っ走って 一生懸命大漁旗とか振って そうだ!日の丸も振らないと 君が代とか流れたら席から立たないと やっぱ大阪なんかに住みたかないやと思ってみたりして あれ、猫まっしぐら? ---------------------------- [自由詩]奈落のひと/恋月 ぴの[2012年2月20日18時55分] 顔見知りの男が死んだ いつも何かにイラついていて 斜に構える自らの姿に酔いしれていた そんな一人の男が死んだ ※ よくある話しだけど おんなが二人いた 別れた奥さんと 男の最期を看取った内縁のひと 別れた奥さんの脇には小学校低学年の兄弟 幼い長男が喪主だった ※ 埋めようとしても埋められなかった 甘ったれのごうつくばりで 欲しいものを手に入れずにはいられなかった 優しい言葉と執拗な暴力で おんなの一人や二人は意のままに動かせたとしても 自らの人生まで意のままとすることは叶わず 果てに投げ出した負け犬の命 遺書らしき手紙に記された男の想い ※ むりやり引き伸ばした遺影 ゆがんだ口元は許してやるよと微笑んでいるのか 死人にくちなし 内縁のひとは日陰者を演じきろうと 受付の片隅で息を潜め 男との同居で失ったものを少しでも取り返す魂胆なのか 自殺者の葬儀などに訪れるはずも無い会葬者を待つ ---------------------------- [自由詩]うつろぎのひと/恋月 ぴの[2012年4月23日19時00分] 君にとっての世界 それはこの部屋のなかがすべて 出かけてくるよ 君は寂しげに小首をかしげ ドアをあける気配に まだかなまだかなと待ちきれない様子で玄関を覗き込む ※ 外の世界も見せてあげたいと思う 君はどう考えているのかな キャットタワーのてっぺんからでもお見通しさ そう言いだけに窓の外を眺め ふと背伸びをしたと思ったらテーブルの下にもぐりこむ ※ 醜いものにも美しさみぃつけた そして君は、ゆったりと丸くなって夢のなか 笑顔でいること 平穏に暮らせること とっても大切なはずなのに誰もが捨て去ろうとしているよね ※ お腹へったのかな にゃあと鳴いて私を見上げる 前世じゃ君はきっと船乗りだったんだと思う そしてかりかり可愛い音を立て あてどない船出前のひと仕事お皿いっぱい平らげた ---------------------------- (ファイルの終わり)