入間しゅかのおすすめリスト 2021年2月18日5時47分から2021年7月9日6時34分まで ---------------------------- [自由詩]積雪/道草次郎[2021年2月18日5時47分] ディズニーランドのなかにディズニーランドがあるようなもの あるいは ディズニーランドの外にもディズニーランドがあるようなもの おはよう、正解のない世界 いつの間に白くなったのだい? つつしまないで、敬具。 ---------------------------- [自由詩]夕景未知/ひだかたけし[2021年2月23日20時31分] 茜の斜光の残像が 余韻響かせ揺れ動き 赤胴色に燃える富士山が 傾く夕陽に落ちいくとき 私は覚えずひざまづき 褪せて青澄む天仰ぐ あゝ秘匿された未知なるものよ おまえは今日もヴェールに覆われ 深い闇へと沈んでいく 幾数億もの死を呑み込み 幾数億もの生を吐き出し この循環する世界を貫く 眩暈するよな高貴さで 深い眠りを守護するため 彼岸の国へと帰っていく 茜の斜光の残像が 余韻響かせ揺れ動き 赤胴色に燃える富士山が 傾く夕陽に落ちいくとき 沸き立ち充ちるこの世の未知 現象する界を抱きしめて 歓喜の涙で濡らしていく ---------------------------- [自由詩]エディブル・フラワー/妻咲邦香[2021年2月24日20時24分] 傷付く事にも慣れたなんて哀し過ぎる 消えてくれない痛みに彩られ 綺麗な心を捨ててまでも追いかけたい夢がある 日曜日は新しいスケッチブック 最初に描いたのは何もない空だった 世界を動かすその正体を突き止めようと 走り出した今日がいつかの過去になる 菩提樹の木陰 スープに浮かべたエディブル・フラワー 宛先はまだ空欄のまま 声に出して呟きたかった 愛しい名前、確かめるように 誰の胸にもあるスプラウト いつか道が開けるように育てる 待ち切れない時間を数えながら もうすぐだよ あなたの正体を突き止めようと 私の正体を突き止めようと 走り出した今日が最初の過去になる 忘れないあの頃 あんなに胸を焦がした 子供のアヒルみたいに夢の中忍び込んで 貪り喰らう花弁 まだ早い春 最初に描いたのは風のない空だった ---------------------------- [自由詩]春の花/田中修子[2021年2月27日5時43分] そうだね、 戦争があったんだ。たしかに。 私の血の中に流れる色のない祖母の声は、 終戦の真っ青な夏空をしている。 春はどうだったろう。そういえば戦争の春のことを 聞いたことがない。春は芽吹いて穏やかだった。 台所で一緒に、フキの皮を剥いて、 薄く醤油のしみた、澄んだ煮物の甘苦い香り。 あの、いつも清潔で皺のなかった、腰から膝までの灰色のエプロンは、 祖母が自分で縫ったんだろうか。 針と糸、布で。 乳白色のこぎん糸もあったから、 細かな十字を縫って 灰色の布を強くしたのかもしれない。後姿はしゃきんとしていて、 いっしょにお風呂にはいると、蓮華シャンプーとリンスを使った後、 きゅっと髪をねじってから、きれいに髪をすすいでいた。 花柄の水色のタイル、ふたりははだかで水音が流れる。 そうだね、小さな戦争がありました、あれから、幾度も幾度もありました。 おおきな戦争のせいで、 あなたは私の母を愛せなくって、母は歪んで、 かわりにあなたが私を愛したから、 あなたが逝ってから、母に妬まれたんです。 苛め抜かれたけれど、いまとなっちゃあ、可哀想で仕方がない。 新聞の灰色の中に、おおきな戦争もありました。 父も母も、笑いながら戦争反対の集会に行っていた。 遠い、遠い国の、血を流す人の、痛みに泣き叫ぶ人の、 あの日のように、硬直して犯される人のこと。 あの子のように、新聞にも載らずに死ぬ人が、たくさんたくさんいたでしょう。 この頃は悪咳流行りの大騒ぎです。 (深い、暗い森。黒髪のラプンツェルが、 塔から降りてひとりでよろめいている。 王子はいないが、いない王子の傷まで引き受け、 彼女の眼は灯かりを失っている。 そう、王子はいないんだ、って、 ひとりきり、生きるっきゃないから、 包帯を巻いて、鬼さんこちら、手の鳴るほうへ--男たちが、 戯れに。 白粉塗って、割れしのぶに結い、梅の簪刺しまして、着物を着ましょ、 いざとなったら簪で、男を刺し殺してしまいましょ) もう余生のようなんです。 あなたにとっての春は、私と過ごした日々でしたか、あなたの春の花でしたか。 それももはや、過去の話、あなたは逝った。 私は目を瞑って、戦争を閉ざしている。大きいのもだ、小さいのもだ。 余生を死ぬまで、生きなけりゃ、ならない、 まだ三十六だ。 ---------------------------- [自由詩]海よ/ひだかたけし[2021年2月28日21時13分] 荒れ狂う海を見た  防波堤は決壊し 穏やかな海に遊んだ  日がな一日泳いでは 甘やかな海を味わった  夕げに貝をほじくり食べ 律動絶えない海を聴いた  夜の浜辺に蟹を追い 太陽を溶かす海に包まれた  夕暮れ黄金の波飛沫浴び あゝ海よ 宇宙の摂理を生きる海よ わたしはおまえが懐かしい ---------------------------- [自由詩]春のうた/梅昆布茶[2021年3月1日6時59分] あるいはがらんどうの街に棲む たまさかさびれた繁華街で遊ぶ 恋の歌は春の猫のように かなしいやさしい歌だろう 愛は重すぎていつも栄養学的に 分析できないものなのでしょうね 失われたものを数えるだけでは生きてはゆけない 生まれた子供を数えるだけでも生きてはゆけない 僕はときおり何かに気づくのだが飲むと忘れてしまうので 詩論の蘊蓄にはぶ厚い単行本があるが読了していないのです よくわからないのですがでも 会話は鳥のさえずりのように 意味よりも反応なのでしょうね 愛は地球を救わないだろうと思うのです それが名辞にすぎないのだとしたならば ---------------------------- [自由詩]インソムニア/道草次郎[2021年3月1日18時47分] 手のひらの丘を 橇に乗ったヒグマが滑って行く なんとなく ユング派にかかりたいと思う 未来の博物館では ヒトの剥製が祀られるだろう 良い詩をたくさん知っている ぼくは不眠症だ ---------------------------- [自由詩]Diver/妻咲邦香[2021年3月3日17時14分] 鏡の前でなら正直になれるよと その子は涙を拭った 真っ直ぐに見れない目が ある筈だった日々を引き寄せて 手離せないでいるその指を ひとつひとつ解しながら 私にだけ教えてくれた気持ちは もう鍵をかけたから 直ぐにでも探さなくちゃね 貴方だけの新しい部屋 長い夜になるよ今夜は 明日になれば何もかもが変わっていくから 言葉にする度に消していくキャンドルが またひとつ 貴方の分子構造を組み換えていく またひとつ またひとつ 小さな衛星の地殻変動 もう一度見たい物語があって 壊れないように、壊さないように 遠回りして帰ろう もう思い出せないのも勇気のせいだって 手を振ったら信じてるから 笑顔はいらない 鏡に飛び込んでその子は世界に会いに行った アクアラングから漏れる泡と連れ立って 帰ろう うんと遠回りして 帰ろう ---------------------------- [自由詩]来る春/ひだかたけし[2021年3月3日19時35分] 緩やかに 空気が流れる 弥生の宵、 懐かしい匂い 鼻腔を巡り 大気圏から降って来る 息吹く命の源を ゆっくり静かに呼吸する  ああ、魂はうっとりと  息吹く命の香に包まれ  何処までも何処までも  広がっていくよな心持ち 季節は巡り 匂い立つ 肉感的な春が来る ---------------------------- [自由詩]老犬/宣井龍人[2021年3月4日21時12分] 手綱に導かれながらよろめく いつの間にか鉛の靴を履いた 老いに削られ痩せ衰えた体 荒々しい息が吐き出される ひとつひとつ生まれる幻影 熟さず霧散する己を舌で追う 間もなく土に帰る水溜まり 歪み破れた犬が音もせず唸る たぶん 短くも長い時間が経っただろう 風が流れ 老犬は 空を見上げる ---------------------------- [自由詩]匂い/黒田康之[2021年3月5日4時11分] 古い家の 庭の奥にある 沈丁花が匂い始めた 古い家の 古い歴史の 春の匂いに 春の陽が 陽だまりが 町中が染まっていく もう誰も生きていなかった 古い時代の春が 足元から広がってゆく ---------------------------- [自由詩]たまゆら/帆場蔵人[2021年3月6日15時04分] 耳から咲いたうつくしい花の声たち 眠っているときだけ、咲く花がある あなたはそれを観る事はないだろう 生きた証し、誰かの 言葉に耳を傾けた証し 母さんの声は咲いているか 愛しいあの娘の声は 知らない人の知らない花も咲いている 家族の親しい声も、忘れさられた声も 等しく咲いて花弁は散り朝の陽に濡れる前に 枯れていく、花弁を一枚口に含めば あなたの事がもっとわかるだろうか 耳を傾けてあなたの声が咲くのをみたい けど誰も自分の耳に咲く花を観る事はない 仰向けで手を組むあなたの耳を見つめて いる、過去と現在を行きつ戻りつ、揺れる声たち ---------------------------- [自由詩]螺旋/ひだかたけし[2021年3月10日19時47分] 音の滴、斑点となって飛び跳ね 郷愁、遠い深みから到来する 胸掴む憧れ、未知から溢れ出し 遡行する魂、源頭の水流を浴びる 振動する大地 、脈打つ心臓   終わることのない命    終わりゆく個体 失われながら 、生まれながら   新た新たな螺旋を描く ---------------------------- [自由詩]笑顔/道草次郎[2021年3月21日8時41分] 雨粒がポタリポタリと落ちるのを ショッピングモールの四階の暗い駐車場で 一緒に見ていた やわらかい君の太ももはあたたかかった じっと雨粒を見つめているその長めの睫毛は ぼくにとてもよく似ている ぼくもその時 初めてそれを見る人のように 雨粒を見ていた やがて遠くの軽ワゴンの後部座席から声がして 君はピクリとする そのピクリに締め付けられる何かを感じ スニーカーをキュッといわせ つむじ風のような気持ちで車の方へ戻る 5mむこうにママがいて とびきりの笑顔とジェスチャーの花束を抱えている それに気付いた君は キャッキャと両脚をバタバタさせながら ぼくの下っ腹を勢いよく蹴る 帰宅してから独り ママが撮ったその時の写真を見た まるで 笑顔の方が顔に貼り付いて来たような 君のとびっきりの笑顔 その横で困り顔の男が少し眩しそうに 両方の目を細めている 写真を見るまでは 区切られた奥の空に 陽のあることは気付かなかった ---------------------------- [自由詩]同窓/鵜飼千代子[2021年3月21日21時20分] 詩集を出したばかりの頃 卒業後初めての同窓会があった みんなそれぞれの世界で活躍していて 「詩集を上梓しました」と宣伝すべき立場と 疎ましく思われる現実とに混乱した 高1で同じクラスで、カナダに留学し、高3の時に1学年下に復学したサントリーの神部くんが、「還暦すぎたらみんな落ち着くよ」とトントンしてくれて、自分がパニクっていた事に気づいた 育った場所は 帰る場所は 立ち寄れる場所は 昔みたいに相手してくれるといいよね 普通に おかえりー、すげーじゃん 新しいのここでも読ませてよ 事務所の縛りがあるなら新刊の紹介してよ ってね 一緒に暮らしていたこと忘れてないよ 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私と眼が合う 私はただ ぷらぷら  ぶらぶら 歩いているだけなのに   君と会えない 死は生ものです。 影があるのは光があたっている証拠ですが 慰めにはなりません。 誕生日 それでいいんですか? 「まあ、いいや」と諦めのように 突き放す。 猫にも詩はある。 地球にはどうだろうか。 裏庭という陽の当たらないほったらかしの私有地がある。 脳のように。 こうやって一週間が終わります。 君と出会う機会はどこにもありません。   さてと 日に日に強くなる陽射しに音はなく  小さな商店街を抜けると 草木はざわめき始める  小さなお地蔵が座っている そのざわめきに動物たちは長い眠りから目覚め始める  誰が誰を追い詰めたのか 人を刺す固い氷は鋭さを失い水滴を蓄え始める   朝吠えた小声で吠えた 朝 吠えた 小声で吠えた 不器用な私に空は大きすぎる   * 時計の針が足元に突き刺さる。危なかった。 どうしても、書いたものより書いている自分が気になるのです。   * しっ! 黙りなさい 夜が明ける  初恋 すぐ隣にいるのに水平線のように届かない その届かないものが今にも飛び出しそうに跳ね回っている 呪いだ!   * おはようございます。 この短い言葉で私は守りに入る。 宇宙は広かった それだけで語れる人類の絶望 朝っぱらから犬が吠えている 金縛りの街は充電中だ   * 遮るものが何もない時 何を見るのでしょう ---------------------------- [自由詩]ニュートンの運動方程式/梅昆布茶[2021年3月30日7時16分] 原稿用紙100枚400字詰めで4万語描かなきゃいけない 100年の生を貰ったとしたらそれを埋めなければならない 嫌だと言ってもたいした選択肢もないので 義務教育ですくすく育ちすぎたのに 生来へそ曲がりなのではみ出してしまったらしい 結婚でもできたならば つまらぬ遺伝子でも残そうか 天体に引力があるように 人間にも引力があるようだ f=なんとか分の揺らぎなのでしょうか 斥力もはたらいてるようで どうもあいつと居ると気が滅入るとか 馬があわないとかいう言葉は嫌いなんです いちばん薄い奴がよくつかっていたから それって独裁的なひとの自己弁護だとおもうのです それよりか 大瀧詠一でも聴いているほうが よっぽど気が効いているって言われそうだ グリコのおまけの文化力 予定調和を破壊しながらも 生きることがおんぼろなアートで反体制で つねにサブカルでローカルでちょっとだけ革新の 秩序と無秩序の境界を巡回してゆこうとおもう スエズ運河でタンカーが座礁しただけで 凍結してしまう世界の灰皿をごみ箱に捨てたならば もう一本の缶チューハイの朝を迎えようかともおもうのです ---------------------------- [自由詩]春霞/TwoRivers[2021年4月4日18時54分] 追い求めた末に手に入れたのは 後悔だけで 似たような形状の夢たちは いびつに微笑んでいる 見知らぬ道の桜吹雪 励ましのつもりでも わたしには冷やかしである 咳払い一つで世界が変わるなら 努力に意味はない 前例のないわたし 意味のない未来 春に霞んだ青空のぼやけた色が 妙に暖かかった ---------------------------- [自由詩]十四歳で死んでいったやつらに/ホロウ・シカエルボク[2021年4月6日22時12分] 十四歳のある日 ぼくは あらゆるものが きっとこのままなのだ、ということに 気がついた ひとは、ある種の 限られたコミュニテイは このまま もう どこにも 行くことはないのだと そして その 突然の認識は やはり 正しかった 十四歳で 死んでいったやつらは おそらく そんな風に 気が ついてしまったのだ ぼくは 「いやだなぁ、くだらないなぁ」と 思いつつも だらだらと 生きていた それは 書くことが たくさん あったからで 十四歳で 死んでいったやつら おまえたちは利口だったよ ウンザリするような 毎日に 手を付けることなく 無邪気に楽しんだだけで 人生の 幕を引いた 何十年も 何十年も 過ぎて ぼくは 相変わらず いやだなぁ くだらないなぁ と 思いつつ 詩を書いて 暮らしてる そのほかの諸々は わりと どうでもいい だけど 十四歳で死んでいったやつらよ 五十歳は 十四歳よりも ずっと 楽しい それは 確かなことだ ぼくは 十四歳の 壁を 越えたかった だから 歳を 取るだけ取ったのだ 寝床で歯ぎしりをしながら 煙草で 自分の手を焼きながら 十四歳で 死んでいったやつら おまえたちは とっても 利口だったよ ---------------------------- [自由詩]漢検2級を取ったことがある/道草次郎[2021年4月11日10時37分] 昔、17の頃 漢検2級を取ったことがある 余命わずかの父は 送られてきた賞状を 額に入れ壁に飾った ぼくはすこし嫌な気がしたけど 今そのことがふと思い出され 父の心がスっと入ってきた気がして すこし なく いま 履歴書を書いている 父は ぼくの知っている限りで もっとも博識な人で たぶん ぼくに似た精神の持ち主だった ぼくの履歴書は 完璧にごちゃごちゃとしている いっぽう父は高卒以来 出版社一筋の人 休みの日は 休みもせずにりんごとぶどうをやっていた 父は若くして死んだが ぼくが生きる限り 父の成せなかった幾つかのことが ぼくという器をつかうだろう それが 春風のように 世にトポトポと零れることを ぼくは 昔から知っているような気がする ---------------------------- [自由詩]ひと房/道草次郎[2021年4月16日17時16分] スズランスイセンが揺れている こくこくと揺れている つまずいたら 抱きとめる つもりか はる ひと房の 想い ---------------------------- [自由詩]詩の日めくり 二〇一六年十二月一日─三十一日/田中宏輔[2021年7月4日11時23分] 二〇一六年十二月一日 「不安課。」 きょうは、朝から調子が悪くて、右京区役所に行った。 なぜ、調子が悪いのか、わからなかったので、とても不安だった。 入り口に一番近いところにいた職員に、そう言うと 二階の不安課に行ってください、と言われた。 雨の日は、ひざが痛いのだけれど 階段しかなかったので、階段で二階にあがると 最初に目にしたのが、不安課の部屋のプレートだった。 振り返ると、安心課という札が部屋の入り口の上に掲げられていた。 ただ事実の通り、不安の部屋の前が安心の部屋なのか、と思った。 不安課の部屋に入ると、 職員のひとが、ぼくに、こう訊いてきた。 「不安か?」 ぼくは、その職員のひとに、こう答えた。 「はい、不安です。」 職員のひとが、ぼくに、こう訊いてきた。 「不安か?」 ぼくは、その職員のひとに、こう答えた。 「はい、不安です。」 職員のひとが、ぼくに、こう訊いてきた。 「不安か?」 ぼくは、その職員のひとに、こう答えた。 「はい、不安です。」 職員のひとが、ぼくに、こう訊いてきた。 「不安か?」 ぼくは、その職員のひとに、こう答えた。 「はい、不安です。」 職員のひとが、ぼくに、こう訊いてきた。 「不安か?」 ぼくは、その職員のひとに、こう答えた。 「はい、不安です。」 職員のひとが、ぼくに、こう訊いてきた。 「不安か?」 ぼくは、その職員のひとに、こう答えた。 「はい、不安です。」 職員のひとが、ぼくに、こう訊いてきた。 「不安か?」 ぼくは、その職員のひとに、こう答えた。 「はい、不安です。」 繰り返し、何度も同じやり取りをしているうちに とうとうぼくは、朝に食べたものを、ぜんぶ吐いてしまった。 職員のひとが、ぼくの顔も見ずに、右手を上げて 向かいの部屋をまっすぐに指差した。 「あり・おり・はべり・いまそかり。」 「あり・おり・はべり・いまそかり。」 「アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ。」 「アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ。」 「ら・り・る・る・れ・れ。」 「ら・り・る・る・れ・れ。」 「あらず・ありたり・あり・あること・あれども・あれ。」 「あらず・ありたり・あり・あること・あれども・あれ。」 二〇一六年十二月二日 「栞。」  栞って、恋人の写真を使ってるひともいると思うけれど、ぼくは総体としての恋人の姿が好きってわけじゃないから、恋人の目だとか唇だとか耳だとか部分部分を栞にしている。 二〇一六年十二月三日 「年上の人間。」 若い頃は、年上の人間が、大キライだった。 齢をとっているということは、醜いと思っていた。 でも、齢をとっていても美しいひとを見ることができるようになった。 というか、だれを見ても、ものすごく精密につくられた「もの」 まさしく造物主につくられた「もの」という感じがして ホームレスのひとがバス停のベンチの上に横になっている姿を見ても 美的感動を覚えるようになった。 朔太郎が老婆が美しいだったか だんだん美しくなると書いてたかな。 むかしは、グロテスクな、ブラック・ジョークだと思ってた。 二〇一六年十二月四日 「おでん。」  きょうは、大谷良太くんちで、おでんとお酒をいただきました。ありがとうね。おいしかったよ。ごちそうさまでした。 二〇一六年十二月五日 「与謝野晶子訳・源氏物語で気に入った言葉 ベスト。」 「長いあいだ同じものであったものは悲しい目を見ます。」 この目を、状況ととるのがふつうだけれど ぼくは、ひとの目としてとっても深い味わいがあると思う。 つまり「悲しい眼球」としてね。 二〇一六年十二月六日 「平凡な一日。」  まえに付き合ってた子が部屋に遊びにきてくれた。コーヒーのんで、タバコ吸って、チューブを見てた。平凡な一日。でも、大切な一日だった。 二〇一六年十二月七日 「睡眠時間が伸びた。」 いま日知庵から帰った。学校が終わって、毎日、よく寝てる。 二〇一六年十二月八日 「モッキンバード。」  ウォルター・テヴィスの『モッキンバード』を読み終わって、ジョージ・R・R・マーティン&リサ・タトルの『翼人の掟』を読みはじめた。SFが子どもの読むものだと、ふつうの大人は思っているようだが、そうではないということを教えてくれそうな気がする。読む速度が遅くなっているけど、がんばろ。 二〇一六年十二月九日 「ゴッホは燃える手紙。」 ゴッホは燃える手紙。 二〇一六年十二月十日 「漂流。」 骨となって 教室に漂流すると 生徒たちもみな 骨格標本が腰かけるようにして 骨となって 漂着していた 巨大な蟹が教卓を這い登ってきて 口をかくかくした。 目を見開いてそれを見てたら 巨大な鮫が教室に泳いで入ってきて 口をあけた するとそこには 吉田くんの首が入っていて 目が合った 二〇一六年十二月十一日 「想像してみた。」 長靴を吐いたレモン。 二〇一六年十二月十二日 「ジキルとハイジ。」 不思議のメルモちゃんのように クスリを飲んだら ジキルがハイジになるってのは、どうよ! (不思議の国のハイジだったかしら?  あ、不思議の国のメルモちゃんだったかしら?) 大きな大きな小さい地球の イギリスにあるアルプスのパン工場でのお話よ。 ジャムジャムおじさんが作り変えてくれます。 首から上だけ〜。 首から下はイギリス紳士で 首から上は 田舎者の 山娘 ちひろちゃん似の アルプスの ぶっさいくな 少女なのよ。 プフッ。 なによ。 それ。 そのほっぺただけ、赤いのは? 病気かしら。 あたし。 こまったわ。 うんとこ、とっと どっこいしょ。 流動的に変化します。 さあ、首をとって つぎの首。 力を抜いて 流動的に変化します。 さあ、首をとって つぎの首。 力を抜いて 首のドミノ倒しよ。 いや 首を抜いて 力のダルマ落としよ。 受けは、もうひとつなのね。 プフッ。 ジミーちゃん曰く 「それは、ボキャブラリーの垂れ流しなだけや。」 ひとはコンポーズされなければならないものだと思います。 だって。 まあね。 ミューズって言われているんですもの。 薬用石鹸。 ミューウーズゥ〜。 きょうの、恋人からのメールでちゅ。 「昨日の京都は暑かったみたいですね。 今は長野県にいます。 こっちは昼でも肌寒くなってきました。 天気は良くて夕焼けがすごく綺麗でした。 これから段々と寒くなるみたいで 田中さんも風邪などひかないように気を付けて お仕事頑張って下さいね。」 でも、ほんまもんの詩はな。 コンポーズしなくてもよいものなんや。 宇宙に、はじめからあるものなんやから。 そう、マハーバーラタに書いてあるわ。 あ、背中のにきび つぶしてしもた。 詩人はみな 剽窃詩人なんや。 ド厚かましい。 厚かましいのは あつすけさんちゃう? と 言われました。 笑。 逆でも、かわいいわあ。 首から下がハイジで 首から上がジキルなの。 ひゃ〜、笑。 ちょーかわいい。 恋人にもはやく相対。 プフッ。 はやく相対。 じゃなくて はやく会いたい。 ぶへ〜 だども あじだば いっばい 詩人だぢどあえるど。 ヤリダざんどもあえるど。 アラギぐんどもあえるど。 みなどぐんどもあえるど。 もーごぢゃんどもあえるど どらごぢゃんどもあえるど。 ばぎばらざんどもあえるど。 ぐひゃひゃ。 おやすみ。 プッスーン。 シボシボシボ〜。 あいたい あいたい あいたい あいたい あ いたい あ いたい あいた い あいた い あい たい あい たい あ いた い あ いた い あ い た い あ い た い いた いあ いた いあ いい たあ いい たあ いいあ た いいあ た たいあい たいあい たいあい たいあい たあいい たあいい たあいい たあいい あたいい あたいい いいたあ いいたあ いいたあ いいたあ 二〇一六年十二月十三日 「めくれまくる人々への追伸。」 カーペットの端が、ゆっくりとめくれていくように 唇がめくれ、まぶたがめくれ、爪がめくれて指が血まみれになっていく すべてのものがめくれあがって わたしは一枚のレシートになる。 階級闘争。 契約おにぎり。 拉致餃子。 すべてのものが流れ去ったあとにも、残るものがある。 紫色の小さな花びらが4枚 ひとつひとつの細い緑色の茎の先にくっついている たくさん が ひとつ ひとつ ひとつ が たくさん の 田んぼの刈り株の跡 カラスが土の上にこぼれた光をついばんでいる 地面はでこぼことゆれ コンクリートの陸橋の支柱がゆっくりと地面からめくれあがる この余白に触れよ。 先生は余白を採集している。 「そして、機体はいつの日も重さに逆らい飛ぶのである。」 太郎ちゃんの耽美文藝誌「薔薇窗」18号の編集後記にあった言葉よ。 自分の重さに逆らって飛ぶのね。 ぼくは、いつもいつも、自分の重さに逆らって飛んできたような気がするの。 木が、機が、記が、気が、するの。 それで、こうして 一回性という意味を、わたしはあなたに何度も語っているのではないのだろうか? いいね。 詩人は余白を採集している。 めくれあがったコンクリートの支柱が静止する。 わたしは雲の上から降りてくる。 カラスが土の上にこぼれた光をついばんでいる 道徳は、わたしたちを経験する。 わたしの心臓は夜を温める。 夜は生々しい道徳となってわたしたちを経験する。 その少年の名前はふたり たぶん螺旋を描きながら空中を浮遊するケツの穴だ。 あなたの目撃には信憑性がないと幕内力士がインタヴューに答える。 めくれあがったコンクリートの陸橋がしずかに地面に足を下ろす。 帰り道 わたしは脚を引きずりながら考えていた 机の上にあった わたしの記憶にない一枚のレシート めくれそうになるぐらいに、すり足で 賢いひとが、カーペットの隅を踏みつけながら、ぼくのほうに近づいくる。 ジリジリジリと韻を踏みながら そこは切符が渡されたところだと言って 賢いひとが、カーペットの隅を踏みつけ踏みつけ ぼくのほうに近づいてくる。 (ここで、メモを手渡す。) 賢いひとが、長い手を昆虫の翅のように伸ばす。 その風で、ぼくの皮膚がめくれる。 ぼくの皮膚がめくれて 過去のぼくの世界が現われる。 ぼくは賢いひとの代わりのひとになって 昆虫の翅のような手を やわらかい、まるまるとした幼いぼくの頬に伸ばす。 幼いぼくの頬は引き裂かれて 冷たい土の上に 血まみれになって 横たわる。 ぼくは渡されたレシートの上に ボールペンで数字を書いている。 思いつくつくままに 思いつくつくままに 数字が並べられる。 幼いぼくの頬でできたレシートが 釘のようなボールペンの先に引き裂かれる。 血まみれの頬をした幼いぼくは 賢いひとの代わりのぼくといっしょに レシートの隅を数字で埋めていく。 レシートは血に染まってびちゃびちゃだ。 カーペットの隅がめくれる。 ゆっくりと、めくれてくる。 スツール。 金属探知機。 だれかいる。 耳をすますと聞こえる。 だれの声だろう。 いつも聞こえる声だ。 カーペットの隅がめくれる。 ゆっくりと、めくれてくる。 幼いぼくは手で顔を覆って 目をつむる。 賢いひとの代わりのぼくは その手を顔から引き剥がそうとする。 おにいちゃん 百円でいいから、ちょうだい。 二〇一六年十二月十四日 「ほんとにね。」 ささいな事柄を書きつける時間が 一日には必要だ。 二〇一六年十二月十五日 「バロウズ。」 バロウズのインタヴュー 面白い ぼくが考えてきたことと同じことをたくさん書いてて そのうちの一つ テレパシー バロウズはテレパシーって言う ぼくはずっと 同化能力と言ってきた 國文學での論考や、詩論でね で つぎのぼくの詩集 The Wasteless Land.?「舞姫」の主人公の詩人は テレパス うううん バロウズ ことしじゅうに、全部、読みたい。 二〇一六年十二月十六日 「みんな、死ぬのだと、だれが言った?」 時間を逆さに考えること。 事柄を逆さに書くこと。 理由があって結果があるのではない。 結果しかないのだ。 理由など、この世のどこにもない。 みんな、死ぬのだと、だれが言った? 二〇一六年十二月十七日 「ルーズリーフに書かない若干のメモ。」 どの作品か忘れたけど、スティーヴン・バクスターの作品に 「知的生物にとっての目標とは、情報の獲得と蓄積以外にないだろう」 とある。 またバクスターの本には 詩人はどう詠ったか──「知覚の扉が洗い清められたら、すべてが ありのまま見えるようになる、すなわち無限に」 という言葉を書いていたのだが、これってブレイク? 数行ごとに そこで電話を切る。 という言葉を入れる。 わたしは、なにかを感じる。 わたしは、なにかを感じない。 わたしは、なにかを知っている。 わたしは、なにかを知らない。 わたしは、なにかを恐れる。 わたしは、なにかを恐れない。 わたしは、なにかを見る。 わたしは、なにかを見ない。 わたしは、なにかを聞く。 わたしは、なにかを聞かない。 わたしは、なにかに触れる。 わたしは、なにかに触れない。 MILK カナン 約束の地 乳と蜜の流れる土地よ わたしの青春時代 ぼくはきみの記憶を削除する ぼくはぼくの記憶を変更し はじめて会った彼のことを新規に記憶する ところが、きみの記憶はコピーが残っていたので ジミーちゃんに指摘されて、きみのそのコピーの記憶が 間違った記憶だったことを指摘されたので まったく違う人物の記憶にしていた、きみの正しい記憶と差し替える。 急勾配、訪問、真鋳、房飾り、パスポート、爪楊枝、ギプス、踏み段、スツール 生物検査、検疫処置、沼沢地、白子、金属探知機 二〇一六年十二月十八日 「「知覚の扉」というのは、ブレイクの言葉かな。」 自然は窓や扉を持たない わたしたちは自然のなかにいても 自然が語る声に耳を傾けない わたしたちは自然を前にしても 自然に目を向けない わたしたちは自然そのものに接していても 自然に触れていることに気がつかない 芸術作品は 自然とわたしたちの間に窓や扉を設ける それを開けさせ 自然の語る声に耳を傾けさせ 自然が見せてくれる姿かたちに目を向けさせ 自然そのものに触れていることに気づかせてくれる 真の芸術は 新しい自然の声を、新しい自然の姿を、新しい自然の感触を わたしたちに聞かせてくれる わたしたちに見せてくれる わたしたちに触れさせてくれる 新しい知覚の扉 新しい感覚の扉 新しい知識の扉 新しい経験の扉 これまで書いてきた「自然」という言葉を「体験」という言葉に置き換えてもよい。 「知覚の扉」というのは、ブレイクの言葉かな。 二〇一六年十二月十九日 「かさぶた王子。」 どやろか、このタイトルで、なんか書けへんかな。 きょうはもう寝るかな。 そういえば、「もう寝る。」って 言い放って寝る恋人がいたなあ。 「もう寝る。」って言って くるって、むこう向いて寝るやつ。 ふうん。 なつかしいけど、なんか、さびしいなあ。 おわり。 二〇一六年十二月二十日 「TUMBLING DICE。」 この曲をはじめて耳にしたのは 中学一年のときで 女の子の部屋でだった。 いや、違う。 ぼくんちにあった。 女の子もストーンズが好きだった。 ぼくと同じ苗字の女の子だった。 大学生のときに リンダ・ロンシュタッドも この曲を歌っていて 耳が覚えてる。 中学のときに ぼくの友だちはみんな不良だったから ぼくんちにあつまって 夜中にベランダに出て みんなでぺちゃくちゃおしゃべりしてた。 そんなこと 思い出した。 日曜日にがんばったせいか、肩が痛い。 腰ではなく、きょうは肩にシップして仕事。 46だから、四十肩なのか五十肩なのか 四捨五入すると五十肩。 二〇一六年十二月二十一日 「私が知りたいのは、」 ちなみに トウェインの言葉でいちばん好きなのは 深く傷つくためには 敵と友人の協力が必要だ ──ひとりがあなたの悪口を言い、 もうひとりがそれを伝えにくる。 コクトーは そんな友だちを まっさきに切る と書いていたけれど、笑。 トウェインの言葉ですが つぎのようなものもあります。 ひねりが2回ありますね、笑。 私は人種的偏見も、階級的偏見も、宗教的偏見も持っていません。 私が知りたいのは相手が人間であるかということだけです。 それがわかれば十分なのです。 それ以上悪くなりようがないのですから。 二〇一六年十二月二十二日 「吐き気がした。」 キッスを6時間ばかりしていたら 吐き気がした 胸の奥から喉元まで 吐き気がいっきょに駆け上がってきた 彼の唇も6時間もキッスしてたら なんだか 唇には脂分もなくなって しわしわで うすい皮みたいにしなびて びっくりしちゃった キッスって 長い時間すると 唇の感触がちがってくるんだね キッスはヘタなほうが好き ぎこちないキッスが好き ヘタクソなほうがかわいい 舌先も チロチロと出すって感じのほうがいい さがしてあげる きみが好きになるもの さがしてあげる きみが信じたいもの なおレッド 傷つけることができる いくらでも ときどき捨てるから厭きないんだね みんな ジジイになれば わかるのにね 時間と場所と出来事がすべてなんだってことが すなおに言えばいいのに なおレッド 略式恋ばっか で、もうジジイなんだから はやく死ねばいいのに もうね ふうん それに 人生なんて 紙に書かれた物語にしか過ぎないのにね イエイ! 二〇一六年十二月二十三日 「まことに、しかり。」 (…)世界の広いことは個人を安心させないことになる、類がないと思っていても、それ以上な価値の備わったものが他にあることにもなるのであろうなどと思って、(…) (紫式部『源氏物語』紅梅、与謝野晶子訳) 「世界の広いことは個人を安心させないことになる」 まことに、しかりと首肯される言葉である。 二〇一六年十二月二十四日 「息。」 息の根。 息の茎。 息の葉。 息の幹。 息の草。 息の花。 息の木。 息の林。 息の森。 息の道。 息の川。 息の海。 息の空。 息の大地。 息の魚。 息の獣。 息の虫。 息の鳥。 息の城。 息の壁。 息の指。 息の手。 息の足。 息の肩。 息の胸。 息の形。 息の姿。 息の影。 息の蔭。 二〇一六年十二月二十五日 「ひさしぶりのすき焼き。」  きょうは森澤くんと、キムラですき焼きを食べた。そのあとタナカ珈琲で、BLTサンドとパフェを食べて、日知庵に行った。食べ過ぎ飲み過ぎの一日だった。 二〇一六年十二月二十六日 「田村隆一にひとこと。」 言葉がなければ ぼくたちの人生は たくさんの出来事に出合わなかったと思う。 言葉をおぼえる必要はあまり感じないけど ヌクレオチドとかアミラーゼとか、どうでもいい 言葉があったから、生き生きしていられるような気がする。 もしかしたら 生き生きとした人生が 言葉をつくったのかもね。 二〇一六年十二月二十七日 「これから、マクドナルドに。フード・ストラップ、あつめてるの。」 きのう、シンちゃんに 「おまえ、いくつじゃ〜!」 と言われましたが コレクションするのに 年齢なんて関係ないと思うわ。 「それにしても  幼稚園児のような口調はやめろ!」 と言われ はて そだったのかしら? と もう一度 「あつめてるの。」 と言って 自分の声を分析すると たしかに。 好きなものあつめるって 子どもになるんだよね〜。 なにが、あたるかな。 二〇一六年十二月二十八日 「原文。」 シェイクスピア鑑賞について。 もう十年以上もまえのことだけど アメリカ人の先生と話をしていて ちょっとひっかかったことがある。 「シェイクスピアをほんとうに知ろうと思ったら  原文で読まなきゃいけませんよ。」 はあ? という感じだった。 部分的に原文を参照したりしていたけれど 全文を原著で読んでなかったぼくだけれど すぐれた翻訳があって、それで楽しんでいるのに ほっといてくれという思いがした。 あなた、聖書は何語で読んだの? って感じだった。 まあ、そのひとだったら、アラム語やギリシア語で読んでそうだったけど。 もちろん、原文を読んだほうがいいに決まってるけれど 語学が得意ではない身にとって まずは翻訳だわな。 そういう意味で、原文主義者ではないぼくだけれど できるかぎり原文を参照できる用意はしておかなくてはならないとは思っている。 二〇一六年十二月二十九日 「死。」  ジョージ・マイケルは53歳で死んで、キャリー・フィッシャーは60歳で死んで、ええって感じ。あと2週間足らずで、56歳になるぼくだって、いつ死ぬかわかんないけど。 二〇一六年十二月三十日 「死。」 ことしは偉大なアーティストたちが亡くなった年だったのだな。 http://www.rollingstone.com/culture/lists/in-memoriam-2016-artists-entertainers-athletes-who-died-w457321/david-bowie-w457326… 二〇一六年十二月三十一日 「芸能人。」  そいえば、きのう芸能人を電車で見たのだけれど、口元に指一本をくっつけて合図してきたから、見ちゃダメなんだと思って、駅に着くまで違う方向を見ていた。 ---------------------------- [自由詩]インターネットサーフィン/こたきひろし[2021年7月8日12時46分] 最初は真面目にインターネットサーフィン始めたのにさ いつの間にかアダルトサイトに夢中になっている 男とオンナのアレするところ動画で見たくなって ひとりよがりの世界で果てる 一人前の男だったら誰だって有るだろう 健康男子のバロメーター 他人がアレするところはなんだかとても卑猥に思えるんだよな だけど自分がアレする姿は卑猥でもなんでもなくなるんだ アレって何かふしぎ でもでもでもでもでもでも アレって 人間が体で感じる事ができて 正当化されている快樂 最初は真面目にインターネットサーフィン始めたのにさ 気がついたら いつの間にかアダルトサイトにたどり着いてしまうんだ ---------------------------- [自由詩]温度過去形/水宮うみ[2021年7月9日6時34分] 過去形の歩き方で温い無音の影になって朝を待っている。 きみが手を振ったら発光するみたいに約束を喉に沈めた春、表に出さない感情を分かり合わない、脆く引き摺るわたしの曇った声を憶えている。 この世界の全てを好きにならない利き手は問いの途中で、きみの怒りがわたしを勘違いすることなく時計の裏で燃えているのなら、この脳裏が冷たくても良いと思った。 青空のつまらなさを内部に話しても、会話にはしてくれない遠く淡い眼差しの誰かだった、きみは、きみをいつまでも言葉にしない夜の手すりに星が伝わってきた水温と一緒に笑っていて、そのことが懐かしい。 ---------------------------- (ファイルの終わり)